○
国務大臣(池田勇人君)
昭和二十七
年度予算の提出に当りまして、
政府の
財政金融政策に関し、率直に
所信を申述べたいと存じます。
平和條約の
発効に伴い、
我が国が六年
有余に亘る占領下の状態を脱して再び独立国となる日の近いことを思うとき、心からなる喜びを感ずるのであります。併しながら、それは同時に、
我が国が
経済的にもみずからの力と責任とにおいて生きて行かねばならぬことはもとより、
国際的な義務を履行し、更に積極的に
国際社会に貢献すべき使命を担うことを意味するのであります。我々はこの際、
我が国経済の過去を顧みると共に、その現状とみずからの弱点とを十分に認識し、光輝ある将来に向
つて一層の
努力を続けるため、覚悟を新たにいたしたいと思うのであります。
昭和二十年八月、
敗戰の日を迎えた頃の、あの惨澹たる我々の生活は未だに記憶に新たなるところでありまするが、それはそのまま当時の
我が国経済の姿であ
つたのであります。荒廃した国土、破壊され消耗した
生産施設、而も海外から何百万という引揚の人口を加えて、我々の
経済は徒らに混乱を増すのみでありました。
物価と賃金の悪循環が始まり、
財政も金融もその秩序を失い、
経済はまさに崩壊の寸前にあ
つたのであります。その後、我が
国民諸君のたゆまぬ
努力は、
米国の
援助を得て、よくこの危機を切り抜けたのでありまするが、
昭和二十四年二月、国民絶対多数の支持を受けて、我が自由党内閣が時局の收拾に臨みました当時におきまして、(「その通り」と呼ぶ者あり、
拍手)
鉱工業生産水準は未だ戰前の七割にも達せず、
食糧事情もなお十分でなく、いわゆる悪性インフレーシヨンは依然高進を続け、
財政も赤字、企業も赤字、家計も又赤字という状態は、更に通貨の増発、
物価と賃金の
上昇をもたらして、
経済全体の姿を異常に歪んだものとしていたのであります。(「選挙
演説と違うぞ」と呼ぶ者あり)このときに当り、我が自由党内閣の実行いたしました政策は、先ず
財政の総合的
均衡を図
つて悪性インフレーシヨンの原因を排除し、これによ
つて安定した通貨の上に、本来の
価格機能を通じまして、
経済の正常化、能率化をもたらし、
我が国経済を
国際経済に参加せしめつつ、その
自立発展を図るという構想によ
つたのであります。その政策の具体的内容につきましては、ここに繰返して申述べる必要はないと思うのでありまするが、今その成果を一瞥いたしますならば、
鉱工業生産は
昭和二十四年二月に比べまして、現在二倍
程度に
増大いたしました。
輸出は
昭和二十三
年度三億四千万ドルに対し、二十六
年度はいわゆる
特需等を含めまして十七億ドル、約五倍の顕君な伸長を示しているのであります。(「
物価は」と呼ぶ者あり)
物価と賃金の悪循環は断ち切られました。
価格及び流通の分野において広汎に行われておりました闇
経済はおおむね正常化されたのであります。(
拍手)これと共に通貨に対する信用も
回復を見たのであります。(「その通り」「
物価は騰貴した」と呼ぶ者あり)
国家財政は、その
規模、即ち
国民所得に対する割合におきまして、二十三
年度の二一・三%が二十六年には一七%
程度に縮小いたしました。租税
負担も又同じく二〇・六%から一五%
程度に減少いたしたのであります。(「二十六
年度から逆転したぞ」と呼ぶ者あり)企業におきまする自己
資本の
蓄積は、資産再評価等の
措置とも相待
つて不十分ながらも
促進せられ、貯蓄性預貯金及び証券投資も
増加し、
資本蓄積の面におきましても或る
程度の正常化が見られたのであります。
国民生活も、例えばエンゲル係数即ち家計費のうち
食糧費の占める割合は、六四%
程度から最近は五四%
程度まで改善せられ、統計の上でも
回復の跡が見られるのでありまするが、消費の内容及び質の
向上を
考慮に入れまするならば、計数に現われた以上の充実を見たものと
考えるのであります。(「その通りではない」と呼ぶ者あり)私はこの
機会において
政府の政策に
協力を惜しまれなかつた
国民諸君に心からなる感謝を捧げたいのであります。(「国民は怒
つているよ」と呼ぶ者あり)その間、安定政策の実行が或る部面にと
つては
相当苦痛であつたことも否定いたしません。併しそれは
国民経済全体の
合理化、安定化のために、誠に止むを得なかつたところであります。
国民諸君が大乗的見地からよくその苦しみに耐え、積極的にこれを克服せられましたことに対し、衷心より敬意を表する次第であります。
以上申述べましたごとく、
我が国経済は著るしい
回復を示し、特に
朝鮮動乱後において飛躍的な
発展を見ているのであります。併しながら、このような
回復は
米国の対
日援助に負うところが大きく、又
朝鮮動乱後の
世界的な軍備拡張に伴う
国際経済の好況と
我が国の地理的條件に基くいわゆる
特需の
増大とによるところが多いのであります。将来、
国際経済の如何なる変動にも自力を以てよく対処し得るや否やという見地から
検討いたしますときは、遺憾ながら
我が国経済はなお幾多の弱点を有し、その
基礎は必ずしも強固であるとは申しがたいのであります。(「大蔵大臣兼安本長官」と呼ぶ者あり)
御承知のごとく
我が国は戰争の結果、その領域は本土のみとなり、
生産設備等に重大な損害を受け、又在外財産は殆んどその全部を喪失し、海外における
経済活動の足場も失
つたのであります。一方、人口は現在すでに八千四百万人以上に達し、年々百三十万人内外の自然
増加を示している状態であります。このように
我が国経済は狭隘な
基盤の上に多数の人口を養わねばならないという基本的に困難な條件に立
つているのであります。而も
我が国経済はあらゆる面で
蓄積の
不足という重大な弱点を持
つております。山林の濫伐、河川、道路の損傷、鉄道、通信、港湾施設等の修理
不足、地力の低下、その他国土資源の荒廃は未だ甚だしいのであります。企業の面におきましても、
資本の
不足が未だ著るしく、特に自己
資本の
不足は、金融機関のオーバー・ローンや、事業会社のオーバー・ボロウイング等の現象を招来し、
経済情勢の変動に対する企業の彈力性を乏しくしているのでありまして、これがため、常にインフレ的傾向を激化する可能性を包蔵する半面、又常にデフレ的現象を深刻化する危險をも伴うという、いわゆる
経済の底の浅さに苦しまなければならない状態であります。(「池田
財政だからだ」と呼ぶ者あり)又個人生活の面におきましても、住宅はなお
不足し、日常生活は文化的なものにはなお程遠く、貯蓄の
不足は常に生活を不安定なものとしているのであります。このような
蓄積の
不足とも関連いたしまして、
我が国は
産業構造におきましても弱点を有するのであります。
産業の
基礎たる
動力及び輸送力、殊に
電力、船舶等が
不足する半面、一部には過剰
設備があり、又
設備近代化の立ち遅れ、償却の
不足等が未だ十分に是正されていない
実情であるのであります。(「金を出してくれないからさ」と呼ぶ者あり)
貿易におきましても、全体的に
我が国経済の海外依存度が高いのみならず、ドル圏から多く
輸入し、ポンド圏に多く
輸出するという
貿易構造は、
ポンド貨に兌換性が乏しいことと相待
つて、いわゆる
ドル不足、ポンド過剰の問題を起しているのであります。又現在の
国際情勢の下においては、遠隔の地から必要原料を
輸入するという不利を克服しなければなりません。又、
我が国の人口問題とも関連いたしまして、農山漁村、中小企業等、比較的
経済力の薄弱な部門に多くの人口が依存している
関係上、
経済不安が直ちに社会不安に繋がる傾向が強いのであります。
このような各部面における弱点は、
物価の動きにもこれを見ることができるのであります。
朝鮮動乱勃発後において、
我が国の
物価が
相当の
上昇を示しまとたのは、一般
輸出及び
特需の好調に基因するものであり、
我が国の
物価は海外
物価の動向に大きく左右されるのであります。又
我が国産業における
合理化の不徹底な部門においては、
国内価格が
国際価格を上廻るものもあり、特に最近における一般的なコストの
上昇傾向は、
我が国物価の
国際物価に対する割高を来たす虞れなしとしない
状況であります。(「
合理化資金を出しなさい」と呼ぶ者あり)
このように
我が国経済には、今後補強を必要とする部面が多々あるのでありまして、これまでの
経済の
回復のみを見て楽観することは許されません。(「安本長官聞いておるか」と呼ぶ者あり、笑声)殊に独立国として
国際経済に参加するに際しましては、種々の苛烈な條件が予想されます。
賠償の提供、旧債務の安拂、国内
治安の
確保等の責任が加わるのみならず、
国際経済の
基調が今後如何に変動いたしましても、他国の
援助によらずみずからの力を以てこれを乗り切らなければならないのであります。いわんや、
米国その他友好
諸国との
経済協力、東南アジアの
開発等を通じて広く
国際社会の安定と
福祉とに貢献せんと念願する我々は、誠に任重くして道遠しの感を抱くのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)
現下の
情勢において、
国際経済の正確な見通しを立てることは、何びとにと
つても困難であろうと存じます。併しながら来
年度におきましても、
世界的軍備拡張の大勢よりいたしまして、
国際経済はおおむね強含みを続ける半面、
世界各国のインフレ抑制の政策によ
つて、全体としては堅実な歩みを続けるであろう。と見るのが妥当であり、
朝鮮動乱勃発後
我が国経済が経験した急激な景気の
上昇を再び期待するような甘い
考えを持つことは危險であると
考えます。従
つて、将来の
我が国経済の使命から申しましても、又当面の見通しから申しましても、真劍に
経済を
合理化し、健全化し、みずからの力を更に強くする
努力を拂わなければならないと存ずるのであります。
経済の
向上を図る上において、みずから努めずして成り、みずから働かずして実現する手品のごとき
方策はありません。(「その通り」と呼ぶ者あり)私はこの際、
国民諸君がインフレーシヨンを是認し、インフレーシヨン調歌の政策が如何に口に甘く、体に害のあるもりであることを十分に
理解せられることが最も大切であると思うのであります。
敗戰に続くこの六年余の経験は、我々にと
つて決して無意義ではありません。
国際的には協調の精神を知り、政治的には民主主義の理念を学び、
経済的には結局において健全な
運営方針によることが如何に大切であるかを体得したのであります。今後の
国民経済の
運営もこの方向に沿
つて行われなければならぬと信ずるのであります。今後の
経済運営における課題は、
国民生活の
向上を終局の目的としつつ、次の三つの要素を如何に按配するかにあると思います。(「第一は再軍備だろう」と呼ぶ者あり)
第一は、
国際的
関係から生ずる問題であります。即ち、如何に
賠償、対外債務の支拂、安全保障及び
治安確保等に必要な支拂に対処するか、又
国際收支の
拡大と
均衡とを如何に実現するかということであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)その二は、
経済の充実
発展のための要求であります。即ち国内投資をどの
程度の速度と
規模において実現するかということであります。その第三は、民生の安定という見地からの要請であります。(「その通り」と呼ぶ者あり)即ち国民の当面の生活をどの
程度の歩調と内容において
向上させるかということであります。この三者は互いに競合する半面、又互いに因となり果となる
関係にあるものでありまして、
国民経済全体として最大の効果を挙げ得るよう、この三者の順序と振合いを
調整することが政治の役割であります。(「再軍備費はどうする」と呼ぶ者あり)又
財政金融政策の任務は、
国民経済の正常にして能率的な機能をでき得る限り生かしつつ、必要な限度においてこれに
調整を加えて行くところにあると
考えるのであります。来たるべき
昭和二十七
年度こそは、
我が国の
経済がよく
国際経済の中に伍して存立を
維持し、着実に
拡大発展を実現し得るか否かの岐路に立つ年であります。この意味において、
経済の
運営は一層健実に、更に真剣に行うことが緊要であると存じます。(「そんなきまり切つたことを言うな」と呼ぶ者あり)
以下
昭和二十七
年度予算について説明いたします。今回の
予算編成に当
つては、以上申述べましたような
経済運営の基本的な
考え方に立脚いたしたのでありまして、先ず
財政の
規模を
国民経済力の限度にとどめることが絶対に必要であると
考えたのであります。(
拍手)即ち、
平和條約に基き、又
平和回復後の独立国家としての責務に鑑み、当然に
負担しなければならない諸経費のみならず、各部面における
財政支出への要望は極めて多額に上
つておりまするが、国民の
負担能力を
考慮いたしまして、極力
財政規模の圧縮に努め、一般会計の
予算総額を八千五百二十七億円余にとどめたのであります。(「大分圧縮しましたね」と呼ぶ者あり)これは五兆三百億円
程度と
見込まれる
国民所得に対し一七%弱に当り、
昭和二十六
年度における割合と同
程度であります。その結果、税制につきましても、
原則として従来と
つて参りました
措置を引続きそのまま踏襲することといたし、
国民負担の軽減
適正化を更に一歩進めることができたのであります。
政府といたしましては、今後とも増税に訴えるがごときことは極力これを避ける
所存であります。
次に、
財政收支
均衡の
方針は従来通りこれを堅持し、一般会計はもとより、各特別会計及び
政府関係機関を通じて総合的に收支の
均衡を図
つております。言うまでもなく、
財政は、金融面の
施策と相待
つて国民経済の健全な
運営を
確保し、その
合理化と
発展とを図るべきものでありますから、
予算執行に当
つては、総合的な
資金需給の
情勢等を勘案し、
実情に即応した
措置を講ずる
考えであります。
次に経費の配分に関しましては、平和の
回復に伴い、
我が国は、
日米安全保障條約の精神に基き、進んで相互安全保障の責任を果し、且つ、国内
治安力を
確保増強する必要があるのでありますが、
賠償、外債の支拂等の諸経費をも合せ、これら経費が
国民経済に過度の圧迫とならないよう能う限りの配意をいたしました。その結果、いわゆる内政費につきましても前
年度以上の金額を
確保し得ることとなり
つたのであります。これらは挙げてこれを
経済力の
増強と民生の安定とに振り向け、その効率的活用と
重点的配分に努めたのであります。
次に
予算の内容のうち特に重要なものにつきまして概略説明いたします。
先ず第一に
平和回復に伴う
措置といたしましては、防衛支出金六百五十億円、警察予備隊費五百四十億円、海上保安庁経費のうち警備救難に関するもの約七十億円、安全保障諸費五百六十億円、
連合国財産補償費百億円、
平和回復善後処理費百十億円、総計約二千三十億円を計上いたしました。(「詳細を承わりたい」と呼ぶ者あり)防衛支出金は
日米安全保障條約に基いて駐留する米軍に関して我がほうにおいて支出を予想される経費であります。(「大変な扶養家族じやないか」と呼ぶ者あり)自衛権を行使する有効な手段を持たない
我が国といたしましては、防衛のための暫定
措置として米軍の駐留を希望したのでありまして、これに関する経費の一部を
負担することは当然の
措置であります。(「何が当然か」「どこできめて来たんだ」と呼ぶ者あり)その内容は近く
行政協定の締結等によ
つて具体的に定められることとなりまするが、米軍の装備、米軍の
食糧、被服及び給與等は
米国側において
負担し、その他の経費については両国において分担することが予想されますので、我がほうの
負担は
米国側のそれに比して僅少であると
考えます。(
拍手)
警察予備隊及び海上保安庁につきましては、その内容を充実し、機能を
強化するため、所要の
措置を講ずることといたしました。即ち、警察予備隊におきましては、現在の人員七万五千名を更に三万五千名、海上保安庁におきましては、八千名を更に六千名増員すると共に、装備、施設等の
拡充を図ることといたしました。安全保障諸費は、
治安の
確保を期するため、警察予備隊及び海上保安庁に計上いたしました経費のほか、例えば営舎の建築、通信、道路、港湾等、諸施設の
整備、巡視船等における装備の
強化、監視施設の充実等について特段の
措置を講ずると共に、
治安に関する機構の
確立、学校その他教育訓練機関の設置等をも
考えておるのであります。今後における諸
情勢の推移により、内容が更に
具体化するのを待
つて、これらの経費の配分を適切に行いたいと思うのであります。
連合国財産補償費は、
平和條約に基き
連合国財産に関する補償のために要する経費でありまして、(「
賠償だよ、それは」と呼ぶ者あり)
連合国財産補償法の規定に従
つて計上いたしたものであります。
平和回復善後処理費は、
連合国に対する
賠償、対
日援助費の返済、外貨債の償還、その他対外債務の支拂及び占領によ
つて損害を蒙むつた本邦人に対する補償等を予定いたしております。計上いたしました金額が比較的僅少でありますのは、対外的な経費の支拂につきましては、
交渉等の
関係上、
年度の当初からの支出を必要としないと認められるごと、及び
昭和二十六
年度補正
予算に計上されました
平和回復善後処理費が来
年度に繰越して使用できることを
見込んだためであります。
第二に、
経済力の
増強のための
措置といたしましては、先ず
食糧増産対策に
重点を置いております。今後人口
増加による
需要量の
増大に対応するためにも、又
国際收支の観点からいたしましても、
食糧自給度の
向上を図ることが肝要であります。これがため、来
年度予算においては、本
年度に比し約百億円を増額して四百三億円を計上し、土地改良事業及び開墾干拓事業の
推進、農業共済保險事業の改善充実等を図ることといたしました。
次に国土資源の
維持開発であります。来
年度における公共事業費は、その最
重点を、災害の復旧及び治山
治水事業に置き、
昭和二十六
年度以前に蒙むりました全災害の約三割を来
年度中に復旧する予定であります。又河川事業につきましては、
電源開発を兼ねた総合
開発事業としてこれを
推進する
計画であります。又
経済基礎の充実を図るため、特別会計を含めまして千百八十三億円に上る
産業投資を予定いたしております。
第三に、
政府は民生の安定及び文教の
振興のため、積極的な
施策を講ずることといたしました。(「給食はどうした」と呼ぶ者あり)即ち、先ず生活困窮者の保護、健康保險その他の社会保險、結核対策及び失業対策につきまして、五百二十七億円を計上し、本
年度に比して六十七億円を増額いたしております。なお、住宅事業の急速な改善に資するため、住宅金融公庫に対し百五十億円の投融資を予定いたしておるのであります。(「一般会計を減らしておるじやないか」と呼ぶ者あり)
次に、戰死者遺家族及び戰争による傷病者(「それだ、問題は」と呼ぶ者あり、その他
発言する者多し)に対する援護
措置につきましては、遺家族年金その他として二百三十一億円を計上いたしますほか、交付公債約八百八十億円を以て遺家族一時金に充てることといたしました。
政府は、
国民諸君と共に、戰死者に対し改めて敬弔と感謝の意を表し、(「何を言
つている」と呼ぶ者あり、
拍手)遺家族及び傷病者のかたがたに深い同情の念を抱くものでありまして、今後とも能う限りの援護
措置を講ずる
所存であります。(
拍手)併し
財政の現状に鑑み、(「橋本やめたじやないか」と呼ぶ者あり)又将来に亘る
国民負担を
考慮いたしまして、只今のところ、この
程度にとどめざるを得なか
つたのであります。(「再軍備のためだ」と呼ぶ者あり)
文教の
振興につきましては、六三制校舎の急速な
整備を行うため所要の経費を計上いたしますと共に、学術
振興、職業教育のための
施策の充実について、特段の配意を加えることといたしました。
次に地方
財政につきましては、平衡交付金を千二百五十億円に増額すると共に、別途、
資金運用部
資金による地方債引受の枠を六百五十億円に拡張いたしました。最近、地方
財政は逐年膨脹の一途を辿り、
財政困難の声が高い
実情であります。このような地方
財政の
状況に対しましては、
政府並びに地方公共団体共に根本的な
検討を加え、
行政事務の刷新、歳入の
確保、経費の節減及び効果的な使用等について特段の工夫
努力が肝要であると存じます。(「責任転嫁しても駄目だ」と呼ぶ者あり)
次に歳入の主たるものといたしましては、租税及び印紙收入を六千三百八十一億円、專売公社益金を千二百五億円と
見込んでおります。
昭和二十六
年度の租税收入は、昨年十二月末の実績におきまして、
予算額の七二%以上に達し、
年度を通じて
予算額を
確保し得る
見込が十分であります。来
年度の
経済状況につきましては、諸種の観測もあり、租税收入の見積りが過大ではないかという議論をも聞くのでありますが、今後、
生産、
物価共に堅実な歩みを続け、
国民所得も順調に
増加するものと
考えられますので、六千三百八十一億円の租税及び印紙收入を確実に
見込むことができるのであります。従いまして、租税收入
不足の結果増税に訴えるがごときことは絶対に起らないと確信いたしております。(
拍手)税制
改正につきましては、先般所得税の軽減を中心といたしまして租税
負担の合理的
調整の
措置を講じ、平
年度約千億円に達する減税を
実施したのでありまするが、来
年度におきましても従来の据置を
維持するほか、更に所得税及び相続税の
負担の軽減
合理化を図り、又課税の簡素化及び
資本の
蓄積に資するため、税制
改正を行いたい
考えであります。即ち、所得税につきましては、生命保險料控除の限度の引上げ、譲渡所得課税の軽減、簡素化等を行い、相続税につきましては税率の引下げ、
基礎控除及び生命保險金控除の引上げ、退職金控除の新設等の
改正を予定いたしております。又法人税につきましては、徴收猶予の場合の利子税の引下げ等、その
合理化を図ることといたしております。なお、砂糖消費税につきましては、その
負担の現状及び統制の廃止を
考慮いたしまして、増徴を図ることといたしました。(「増税か」と呼ぶ者あり)
次に、金融に関する
施策について申述べます。先ず
財政による
産業資金の
確保の問題であります。本来
産業資金は民間
資本の自発的
蓄積に待つのが望ましいのでありますが、現状においては未だ不十分でありますので、本
年度におきましても、市中金融機関による
供給が困難と思われまする長期
産業資金、中小企業
資金及び農林漁業
資金等について、
財政資金によりこれを積極的に
確保する
方針をとることといたしました。(「
自由経済の放棄」と呼ぶ者あり)即ち、一般会計、
資金運用部
資金及び見返
資金を合せまして、総額千百八十三億円に達する
財政資金の活用を図
つております。なお、このほか
資金運用部
資金につきましては、今後の
状況により金融債の引受等による
産業資金の
供給について更に
努力と工夫をいたす
所存でございます。
次に
資本蓄積の
増強であります。
政府は昨年来特に
資本蓄積の
増強に意を用い、これがため積極的に諸
施策を講じて参
つたのでありまして、その成果は見るべきものがあります。即ち昨年中における金融機関の一般預金の
増加額は六千億円を超え、前年の
増加額の一・七倍余に達し、投資信託は総額百三十三億円という好成積を收め、株式の拂込金額又約七百五十億円に達する
状況であります。このような趨勢にもかかわらず、
資本の
蓄積は
生産の復興に比較いたしまして著るしく立ち遅れているのでありまして、
政府は引続き
資本蓄積のための諸
施策を更に強力に
推進いたす
所存であります。即ち税制において
資本優遇の
措置を講じまするほか、企業の社内留保の
確保については今後とも十分配意して参りたいと
考えております。又、近く郵便貯金の利子及び預入限度の引上、国民貯蓄組合の非課税限度の引上及び無記名定期預金の
実施等の
措置を講ずるのほか、特に
電源開発資金等に充てるため、新たに貯蓄債券を発行する
計画であります。
資本蓄積の
不足を短期間に一挙に解決することはなかなか困難はありますが、
政府は
国民諸君と共に着実に
資本蓄積を
推進して参りたいと存じます。
次に金融機関の経営等に関する問題であります。金融機関の経営
方針につきましては、特に経営の健全化と
資金の効率的な活用について要望いたしたいのであります。これがため
資金の吸收
蓄積に一段と
努力されることは申すに及ばず、
資金の運用に当りましても、かねて
政府の要望いたしております不要不急
資金の貸出の抑制について積極的に
協力せられることを期待いたします。今後の
情勢によりましては、信用
調整の
措置は一層その必要性を加えるものと予想されるのでありまするが、
政府といたしましては、できるだけ金融機関の自主的
措置に待つ
所存であります。
自立後の
経済運営に当
つて金融機関の任務は誠に重大であります。この際、各金融機関はよくその公共的使命を自覚し、その役割を遺憾なく果されることを切望してやみません。
なお、金融機構につきましては、
政府は逐次その
整備を図
つて参
つたのでありまするが、今後とも
事態に即応して金融体制の
整備確立を進めたいと思
つております。
最後に
国際金融の問題について申述べます。終戰当時
我が国は外貨
資金を全く持たなか
つたのでありますが、
国民諸君の
努力により、
貿易も漸次伸長を見まして、外貨も充実して参りました。昨年
米国の対
日援助が打切られました後も、
国際收支上の著るしい困難を来たすこともなく、今日
我が国の外貨
保有高は約九億ドルに達して、昨年三月末に比し約四億ドルの
増加を示し、
米国の
援助額を控除いたしましても、なお約二億七千万ドルの
増加と相成
つております。(
拍手、「円
資金は
不足するぞ」と呼ぶ者あり)併しながら、このような表面上の好転にもかかわらず、なお幾多の問題を包蔵していることは否定できません。これまでの
国際收支の好況も、実は
朝鮮動乱に伴う
特需の影響による一時的な部面が少くなく、又今後はこれまでのような外国の
援助を期持するわけに参らないことはもとより、新たに各種の対外債務の支拂の問題を控えております。従
つて堅実な
国際收支上の
自立がすでに
達成せられたものと
考えることは尚早であります。我々は正常なる
輸出の
増進に対し今後一段と
努力することが必要であります。
更に
我が国の
国際收支の現況については、これを通貨別に
検討して、ポンド手持高の異常な
増加に注目する必要があります。これを漫然放置するときは、外貨收支の面から
貿易が行詰る慮れがあるのであります。これが打開のため、基本的な方向として極力通貨別にも
均衡のとれた
貿易の拡張に努むべきでありまして、特に
ポンド地域又はオープン勘定地域からの
輸入促進に先ず主眼を置くべきであります。御承知の通り外貨
予算面におきまして、本
年度第四・四半期にはこれらの地域からの
輸入を
増加するごとといたし、その運用面におきましても、自動承認制の
拡大を図り、
輸入保証金の割合を引下げる等の
措置を講じたのでありますが、国内金融の面におきましても、
日本銀行の融資斡旋等の活用を期待しておるのであります。
次に外貨
資金と国内
資金との
調整の問題であります。外貨
資金の
蓄積に努めなければならないことは勿論でありますが、これに見合
つて放出せられまする国内
資金がインフレーシヨンの要因となる危險があるのであります。
政府はいわゆるインベントリー・フアイナンスによ
つてこの間の
調整を図
つているのでありまするが、本来は外貨
資金の
増加に見合う国内
資金は民間において
蓄積されることが望ましいのであります。現在為替銀行は、為替業務の取扱につき、その
資金の大部分を
財政資金及び
日本銀行からの融資に依存しておるのでありまするが、
政府は為替銀行がその自主性を
回復し、その創意と工夫によ
つて、正常な為替取引を円滑に進め得るように育成して参りたいと
考えております。なお、
国際通貨基金及び
国際復興
開発銀行への参加も近く実現を見るものと期待されますが、今後とも
我が国は
現行為替レートを堅持し、
外資導入その他
国際的な
資金の交流の円滑化に努め、
国際金融の本道を進んで参りたいと
考えるのであります。
以上
昭和二十七
年度予算に関連いたしまして、
政府の
財政金融政策の大綱について申述べた次第であります。(「軍国主義の復活
予算だ」と呼ぶ者あり)繰返して申しますが、今や我々は、
国際社会において再び栄誉ある
地位を
確立するための出発点に立
つておるのであります。この際、
政府も、地方公共団体も、企業も、家庭も、おのおの独立国としての自覚に欠くるごとなきやを謙虚に反省すべきときであると存ずるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)この意味におきまして、私はここにあえて
国民諸君に訴えたいのであります。企業は濫費を愼み、
資本の
蓄積に努めると共に、
合理化を進めて、
国際経済の変動によく堪え得る実力を涵養し、個人生活は、享楽に堕するごとなく、健全な家庭生活を楽しみ、苦しい中にも節約と貯蓄に努め、将来と子孫のために備えて頂きたいのであります。(
拍手)又、公務員
諸君は、
予算の執行に当り常に適正を旨とするは勿論、更に進んで積極的にその能率的な使用を図るための工夫と
努力とをお願いいたしたいのであります。私は、
日本国民の勤勉と叡智とは、必ずやよく
我が国経済の弱点を克服して、みずから恃むところある
経済を
確立し、
世界各国民の尊敬と友情とをかち得ることを
諸君と共に確信するものであります。(
拍手)