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説明員(鈴木忠一君) 裁判所の本来の使命は当事者の権利義務を制限をしたり、裁判自体によ
つて制限をしたり、権利を与えたり、権利を奪つたりするものではなくして、本来の裁判の使命というものは、権利の存否或いは行為の適否というようなものを判断するのが本来の裁判所の裁判の使命であります。勿論裁判所が現在行な
つておるものの中には、或る場合に当事者の権利を制限をしたり、禁止を命じたりすることもございます。例えばその最も著るしい例は、仮処分の場合に当事者に一定の作為を命じ、或いは不作為を命ずるというようなこと、これは結局当事者の権利を直接制限し、行為を制限したりする結果になりますけれ
ども、これはむしろ裁判所としては例外なことでございます。むしろ裁判所の本来の使命は、権利、義務の存否、何が
法律に適合しておるか、しておらないかということの宣言が本来の使命であります。そういう点から言
つて、この破
壞活動防止法案で予定しておるところの処分というようなものも裁判所でやればより公平ではないかと恐らく言われるのでありましようけれ
ども、その実質は、先ほ
ども申しました
通り、むしろ裁判所によ
つて行政行為を行うのだということになる点、それからそういう
法律の
目的としておるところの、そういう処分を裁判の形ですることが果して迅速に行われるか、而も裁判ですることが更に的確に行われるか、その的確と迅速という点のところを
考えると、むしろやはり行政処分の形でやつたほうがいいのじやないか。立法者は恐らく
考えたのでありましようし、それを特に頭から否定するわけにも、やはり理論上参らないのじやないかとも、こう思うわけであります。
従つてこれも行政
事件訴訟特例法によ
つて、結局においては裁判所の問題とな
つて、裁判所が裁判をすることになるだろうと思います。その場合に
只今のような資料の点から言いますと、行政庁のなしたるところの処分、その他の証拠
関係が、むしろ裁判所に対して有力に働きかけるのではないかというようなことを予想されて、その点についての
意見も求められておるわけですけれ
ども、理想といたしましては、裁判所における訴訟の場合には、できる限り当事者を平等の地位に置いて、その攻撃防禦の手段、
機会等もできるだけ平等に置くのが建前であるわけであります。そういう点から言いますと、場合によ
つて、この行政
事件の場合には、当事者の平等の地位ということは、若干通常の
事件に比して事実上害されるかもわかりません。これは併し、私は一方において国家の
権力を以て
一つの処分をする場合でありますから、国家的なやはり
権力と言いますか、国家的な正確さというものの裏付けがなければならないわけなのでありますから、通常の民事訴訟に比べて攻撃防禦の点において若干対等の地位が失われるのではないかという虞れは、恐らくこれは実際家としては肯定せざるを得ないと思いますけれ
ども、そこはやはり今言いましたような点からして、事物の性質上若干仕方がないのじやないか。その仕方がないとい
つて、然らば裁判所がそれにそのまま聴従をするかと言いますと、これはさつきも御指摘になりましたように、やはり裁判官が事実を認定するに当
つては自由な心証によりましようし、そうして本来行政特例法によ
つて行政官庁の処分も
原則として裁判所に持出して争えるのだという精神を裁判官が忘れないで訴訟の指揮をすれば、形式上、形の上で、被告たる行政官庁の持
つておる優位な面が、実際上は必らずしも優位に働かなくて済むのではないか。これはまあ
一つは裁判官の実際の訴訟指揮に際しての心がけにもよりましようし、本来、従来の旧憲法時代に例挙主義をと
つて、行政官庁の処分というものは
原則として争えなかつたのだという
原則を私人の行為と同様に争わせる建前、精神を、裁判官が強く認識しておれば、その間の均衡がとれるのじやないか、こういうように
考えておるわけです。それからもう
一つは、行政
事件訴訟特例法の十条の二項についての疑問もございましたが、これは裁判所が、裁判所の立場から申上げれば、
只今も申上げましたように、行政
事件をも全部
原則として裁判所の管轄に置いて、裁判所の裁判を、判断を受けさせるという建前にした以上は、その必要がある場合には、裁判所が自由に処分の執行をも停止をする。そうして、それに対して総理大臣などは
異議を述べ得ない。こういうようにして頂くのが、裁判所の立場からしては望ましいことであるのは言うまでもないのであります。
従つて、これは
只今も御指摘になりましたように、この立法の際の特殊な事情等の影響もあ
つて、総理大臣の
異議というような、かなり変則的な条項を入れられたのでありますけれ
ども、これが望ましいか、望ましくないかという点に対しては、勿論裁判所としては望ましくないわけであります。併しこれは立法上かようにな
つておりますから、好ましくないにせよ、裁判所のほうとしては仕方ないものとしてや
つておるわけでございますが、正直なところを言えば、好ましくない立法であるわけであります。で、ただこれが、この破防法が仮に
実施されるときに、一体どの
程度まで総理大臣の
異議というものを活用するか、これは必らずしも私
どもまだ十分な予想を持
つておりませんけれ
ども、恐らく
実施されるとなれば、十条は全面的に活用されるわけでありますから、裁判所もときに停止をいたしましようし、総理大臣もそれに対して
異議を申立てるということになることは、理論上想像ができることと存じます。