○羽仁五郎君 それから簡單にさつきの一松
委員からの御質問に対する
政府の答弁に対して今一応納得しがたいので伺
つておきたいのですが、これは關次長並びに刑政長官同じような御意見で言
つておられますが、流血の惨事は見たくない、これは誰でも見たくないです。併しながら扇動が行われて流血の惨事が起るまでの間に、法よりほかに何にも拠るべきものがないというお
考えかどうか、それを伺
つておきたい。この行
政府の役人のお
考えだと、
法律がなか
つたら手放しだ、それで扇動が行われれば、放
つておけばそのまま流血の惨事が起てしまうというようなお
考えじやないか。それともその間には他のいろいろな別に役人にお伺いしないでも民間においてさまざまに処置できることがあるのじやないか、この点が第一。そういうことをどうお認めになるか。それは
法律のみで防げるのだというふうに思
つておるか、それとも
法律よりも遙かにもつと有効な方法がほかにあるということにお気付きにな
つていないのかどうか。これは非常に重要な点で、それであるために扇動ということを一松さんがあれほど言われても、これを除けば差支えがあるかのごとき御答弁だ。併しながら扇動が行われれば反対の扇動も行われるのです。あなたがた
調査官その他の
政府の
官吏が取締るよりも遥かに有効な宣伝が行われる。
一つの新聞の論説に対しては、他の新聞の論説というものも行われる。
従つて扇動も行われて、そうして流血の惨事を見るまで放
つておくわけにはいかないという御答弁ではまだ不足だということが、
一つ例を挙げておわかりだろうと思います。この点について、この扇動が行われて流血の惨事に至るまで放
つておくことはできないという御答弁は、余り正直な、オネストな答弁でないです。だれが放
つて置くと言いますか。その間に、その場で、その志もそれを阻止するでしようし、いろいろな方法があるでしようから、その点はお
考えにな
つて下さい。
それからもう
一つ刑政長官のほうですが、さつき刑法
改正の草案などについてお話があ
つたのですが、最近の犯罪が暴力行為が多く、集団的な行為であるということはおつしやる
通りです。ここでこういう点はお
考えにならないかどうか。最近は一言で言えば、原子爆弾
時代というふうな言い方の
意味において大衆の
時代なんです。
従つて大衆的な方法がさまざまに発達しているのです。だから破壞活動のほうも発達していますが、それを防止する大衆的ないろいろな活動も発達しているのです。ですから大衆の行う破壞活動というものを大衆以前の
時代の
考え方でお
考えになりますと、これはただ一層危険なものにだけ見え、重く罰し、厳格にこれを取締るということしかお
考えにならないのじやないかと思います。併し現在は大衆的なさまざまな方法が発達しております。これはさつき片岡さんの御質問がなかなかつぼに……、
政府のほうでおわかりにならないのは、——片岡さんは最近の労働運動をや
つておられて、いろいろな方法があることをお
考えにな
つておる。
ところが
政府のほうではこれは無理です。事実そういう大衆活動をなさ
つた御経験が少いから……。だから大衆による破壞活動というものが最近の非常な危険である、
政府のごときは絶えず危険中の危険と言
つておるのだから。併しそれがために、危険中の危険である近代的な犯罪というものを、近代的に大衆的に防ぐ方法があるのだというような点もお
考えにな
つて、それで
先ほどの御答弁にな
つているのか、或いはそういう点についてはなお考慮せられる余地があるというふうにお
考えなのか。
それから最後にあなたのおつしや
つておる、繰返して宣伝をやることによ
つてそれで麻痛した状態に入
つてそこで宣伝が扇動に移
つて行く場合についてのお話がありました。これも…、今申上げた二点ですね……、その繰返し行われる宣伝に対しては、他の宣伝もこれはあり得るのであります。それから麻痺した状態に入
つて行くというようなことなんですが、これは大変危険の御答弁じやないかと思う。といいますのは、それがあるからこそ、各大学総長のや学長や又新聞
関係者が危険を感ずるのです。新聞
関係者、新聞記者の諸君は宣伝だ、或いは扇動だと言
つてもいいというようにまでおつしや
つておるのは、決して誤解とばかりお
考えにならないで、教育というものは或る
意味において、繰返すことによ
つて麻痺させて、それで
基本的人権という
考え方が立派に頭に入
つて来て、活動にもな
つて来るんです。ですからそれは有害な場合と、そうして有効な場合とすれすれの
ところで行われるものであ
つて、昔の箱入娘の教育のように、いいことばかり教えているという教育は、もはや進んだ方法としては有効でない。ですからああいうふうな御
説明をなさいますと、繰返して麻痺した状態に入るというものをも取締るというお
考えだと、これは教育にかなり
関係して来る。それは取締りによ
つてではない、教育によ
つて或いは右に行き、或いは左のほうへ是正されてしまうということもお
考えにな
つて、その点十分、私は明日から改めて御質問しますからお答え願いたいと思う。
それから次に、ちよつと失礼のようなんですけれども、最近非常に問題にな
つているカミユという人の異邦人という小説があります。これは破防法と直接
関係はないけれども、併し私ども近代の青年の心理というふうなものを理解される
意味において、刑政長官は
一つ読んでおいて頂きたい。というのは、今の片岡さんに対する吉河君なり闘君の答弁を伺
つておると、私はふと異邦人を思い出し、そうしてこの犯罪というものの教唆、扇動というものは随分遠くから始
つて来る。母親が死んだ、恋人に会
つた、海岸に行
つた、陽にやけたというような
ところからその犯罪に対する
関係が起
つて来る。カミユのこの小説はそういう
意味でフアシズムに対して実に痛烈な響きを含んでいる。如何にフアシズムが人間というものを全く孤独にしてしまうかということを現わしておる。これはさつきの御答弁を伺
つておると、全く私はここで異邦人のような気がして来る。ですからそういうような近代の心理というものについてもう少しお
考え願いたい。
最後にこれも常に私自身が伺いたいと思
つているのですが、アジテーシヨン、宣伝、或いは扇動というものが、いわゆるこの独裁政治なり専制政治なりに対する唯一の手段である場合があるんです。
従つてこの扇動なり宣伝なりをできるだけ取締
つて行こうというお
考えは、いつの間にか本法の言う民主主義を守るんではなくて、専制主義を守るための
法律にな
つてしまう虞れがある。ですからその点をよくお
考えにな
つて、殊に闘さんなどは何とかしてあらゆる有害な扇動を取締れるようにしておこうというお
考えで先から先と
考えておるのではつきりしたお答えができない。一松さんが言われたように一般の人が聞いても殆んどわからない。いわんや地方の
調査官などは、ああいうようにこの議会で答弁した
つて、頭がぐらぐらにな
つてくるようなお
考えでは、吉河さんが幾ら
調査官を集めて周知徹底すると言
つても無理だろうと思う。だからその限界をはつきり頭の中で立てて我々に答弁して頂きたい。で殊にその限界というのは、一種の扇動なり教唆なりというものが独裁者に対して脅威を
考える行為である場合があるのです。内乱を起すという
意味ではないんです。独裁者が内乱を起すと言
つておる連中があるというので反省をするのです。そこでそういうことがなければ政治上の動きというものは動かない場合があるんです。あなたがたはそういう点において逆に繰返し繰返しして麻毎されてしま
つたところがあるのではないかと思う。世論はこれほど反対しているのに少しも反省しない、むしろ逆にますます自分の
立場を固執して、堂々たる専門的な反対論を誤解だと言
つているのは、逆のほうに麻ましてしま
つているのではないかというふうに思うのです。だから内乱を主張するというのは、必ずしも内乱を決行するのが
目的ではなく、内乱を行うぞということを以て専制的な、独裁者に対しては反省を促す、そういう一種の正当なる政治的な恐喝という
言葉が当るか当らないか、或いは誤解を招くかも知れませんが、そういう場合もあり得るのじやないか、これについて……。
それから最後に内乱というものがやすやすと起るように闘さんなり、吉河さんなり
考えていられるようです。扇動なんかやれば忽ち流血になる、それだから扇動をぴしやりと抑えよう。
ところが内乱というものは私も起したことはないけれども、あなたがたも起したことはないでしようが、(笑声)なかなか起るものではないのですよ、ですからいつの間にか内乱が起
つたら大変だというのが、
公務員の
執行妨害をやられるのも大変だというようにおつしや
つてしまう。だから一松さんのさつき言われたことに対する
政府の今日の答弁というものは、いずれも私は脇から伺
つてお
つて私納得できないのです。今度は私のほうの問題も伺いますので、そのときには今日のような答弁でない御答弁を用意しておいて頂きたいと思います。
〔理事
宮城タマヨ君退席、
委員長着席〕