○
委員外議員(
前之園喜一郎君) 只今御審議にな
つておりまする
破壊活動防止法案は、今国会で審議しておりまする
法案中最も重大な、重要な
法案であると思うのであります。従
つて衆議院の
法務委員会においても、又当
法務委員会におかれても非常に愼重に連日御審議にな
つておるわけであります。只今先輩の
一松先生が非常に時間をはしよ
つて質問を打ち切
つて、私に
質問の時間をお與え下さ
つて実に感謝に堪えないわけであります。私は一年ほど
法務委員をや
つた経験があるのでありまして、この
委員会とは満更あかの他人であるわけではないわけであります。実は御承知のように民主クラブは
法務委員を出しておりません。そういうことで民主クラブの総意として、前に私は
法務委員をや
つたこともあるから、お前が出て行
つて委員外発言を許してもら
つたらどうだ、こういうことでクラブの総意として私がここへ参
つたようなわけであります。併しながらこれから私が申上げますることは、これはクラブには諮
つておりません。私個人の
意見でありまするが、併しながらクラブの大勢を支配する
意見であるように私は
考えておるのであります。
意見の開陳と申しましたが、実は相当時間
質問を許すというお許しを昨日頂きましたわけでありまするけれども、昨日申上げましたように、すでにこの権威ある
法務委員会において、而も
一松大先輩、伊藤先生、岡部先生その他極めて有力なる專門家のかたがたが縦横に論議を盡されたあとで、私は
法案によ
つて多少の研究をした或いは又会議録等を読んで幾分の知識を持
つておりまするが、すでに本
委員会におかれても大詰に近づいておる今日、私が時間をさいて頂いて
質問をいたしますることは、むしろ蛇足に終ることになるのではないか、こういうような
考えから二、三の
意見を開陳いたしまして、そうして若し時間等の御都合がありまするならば、これに対して
法務総裁から御答弁と申しまするか、御
意見を承わることができれば非常に仕合せと思う次第でございます。私がお尋ね申上げることは三項目か四項目の極く総括的な点だけでございまして、
法案の具体的な問題については触れないつもりであります。これはすでに審議を盡されておる。会議録等或いは新聞等を見ますると誠に名人芸であるという気持がするのであります。お尋ねがあり
お答えがあるも或いは虞があり実がございますが、非常に徹底した質疑応答を重ねられておるのであります。
質問でなく
意見の開陳、但しこれに対して御
意見があれば
法務総裁の御
意見をお聞かせを願いたい、こういうわけであります。
先ず第一に、私はこの
法案の立法体系について納得しがたいものがあるのであります。
政府はこれまで両院の
法務委員会においてこの
法律案の中には暴力主義的
破壊活動を行な
つた団体に対する必要な規制措置という行政的條文と若干の現行
刑罰法規の補整との
二つが含まれておるのだという
説明を繰返してなされておるのでありまするが、これに対しては衆議院
法務委員会におきましても又当
委員会においても有力なる
質問が展開されておるのであります。特に私は感じましたことは、衆議院の
法務委員会において石川
委員の反対
意見に対して、私は傾聽に値する点が非常に多か
つたということを感じたのであります。申すまでもなく
法律は簡明でなければいけない。簡明にしてわかりやすく、努めて複雑混淆を避けることを念願しなければならないと思うと共に、又私は先ほど
一松先生からも多少触れられましたが、いわゆる三権分立の大原則を確守して行かなければならないということを強く
考えておるものであります。この
法案がその
解釈の点においても又運用の上においても幾多の不可解と疑問を投げかけておるということは、
一つの屋根の下に行政と司法とを同居せしめておる。規制措置という行政
行為と
刑罰法規とが相倚り相助け合
つて行くがごとき極めて複雑なる形態に見えるということが
一つの大きなる原因ではなかろうかと
考えておる次第であります。
政府は本
法案に盛られている
刑罰を、若干の現行
刑罰法規の補整に過ぎないということを
言つておられる。極めて軽々に取扱
つておられるように
考えるのでありますが、これはしばしば両
法務委員会において論議せられておりまするように、実質的には現行
刑法の改正であり、殊に
教唆扇動というものを独立犯とするという画期的な立法措置であるということを私は
考えるのであります。單に補整というような、最小限度の補整というようなものではなかろうということを私は強く
考えておるのであります。
次に私は
憲法に明確であるところの行政と司法とは、飽くまでもこれを独立せしめるという根本原則を堅持するという建前から申しましても、
法律を簡易平明ならしむる上から
言つても、これを分けまして、共に必要であるならば
二つの
法律として立案せらるべきであ
つたということを強く主張するものであります。單なる便宜主義によ
つてかかる雑居
法案を作成すべきではなかろうかと
考えるのであります。
政府はたとえ反対党の
意見であ
つても、正しき議論に対しては襟を正してこれを聞き、これに従うの雅量を持つべきではなかろうかと私は
考えるのであります。私はこの
法案の審議が、すでに先ほど申しまするように、当
委員会においても大詰に近付いておるということに鑑みまして、これを直ちにこの国会において適当に是正せられることは望むものではありませんが、
政府は十分に研究されて適当の機会に法の体系その他について考慮せられるように私は切に要望いたしておきたいと
考えるものであります。
なお附加えて申上げておきまするが、この
法案にはなくてもがなと思われるものが大分附加えられておるように
考えられるのであります。こういう條文はなくてもいいのじやないかと思われるようなものが大分あるようであります。例えば第二條であるとか或いは第二十四條の第二項のようなものがそれであります。
政府は第二條は注意
規定であると
言つておるようでありまするが、私どもはかくのごとき條文は全く無用であると
考えております。これは例えて申しますると、口紅は唇に塗るものである、鼻の頭を染めてはいけませんよというようなものである。(笑声)そういうことを法文の中に、そういうような
意味にとられることを法文の中に入れる必要は全然ないと私は
考えるのであります。衆議院
法務委員会の会議録を見ますると、猪俣という
委員であると思いまするが、こういうことを
言つておる。この只今審議いたしております
破壊活動防止法案なるものは、実に不体裁である、乱雑極まるものでありますと
言つて、発言の冒頭にこういうように表現をしておるのであります。或いはこれは少し苛酷であるかも知れませんが、まさしく私は
政府にと
つては頂門の一針に値するものではなかろうかと
考えるのであります。私はむしろ第二條などを入れるよりも、先ほど先輩の
一松先生からも縷々御開陳がありましたが、むしろこういうような非常にむずかしい、ともすれば誤りやすいような
法律の執行に当るもの或いは地方警察官、検察事務官、こういうようなものを戒める
意味において、若し人権蹂躙とか、或いは
法律の執行に行管過ぎがあ
つた場合には、適当に懲戒をする、或いは
刑罰を科するというような條文を入れることがむしろいいのではないか、そうあるべきではないかというふうに
考えておるのであります。
第二に私が申上げておきたいことは、この
法案を御提出にな
つた政府が、今日どの
程度の時局
認識をお持ちであるかということであります。
政府はしばしばこの
説明において、現下時局の緊迫が本
法案、立案のスタートにな
つたと言われておる。又
教唆、
扇動を独立犯とすることにおいて公共の安全を確保することができる。
扇動或いは
教唆こういうものを独立犯とすれば、公共の安全を確保することができると、実に安易な
説明をしておられるように思うのであります。又この名称を見てみますると、この
法案を
破壊活動防止法案と
言つてそうして
説明等を総合して見ましても、
政府はこの一片の
法律制定によ
つて直ちに
破壊活動を
防止できるかのごとき
認識の上にお立ちのように見受けられるのでありまするが、果して
政府が
考えておられるような効果がこの
法律によ
つて期待できるか、私は大なる疑問を持つものであります。大変失礼と存じますが、
政府の時局
認識というものは非常に甘い、甘過ぎて
お話にならないような気持ちが私はいたすのであります。
破壊活動は單なる
騒擾ではない、殺人でもない、放火でもないのであります。そのいいか悪いかということ、これは別といたしまするが、燃え上るところの民族意識を基盤とするところの革命の一
手段であるのであります。革命の
一つの
手段である。單なる
犯罪ではないのであります。それでありまするから、そう中心分子、或いは
扇動するものであるとか、中心になるものは全然法を無視してかかる。
法律があろうがなかろうが、そういうことは殆んど念頭におかないでかかるという現状であります。ときには生命の危險さえも顧みないというような場合が往々にして起り得るのであると私は
考えるのであります。実例を申上げるまでもございませんが、かの五月一日の
騒擾事件にいたしましても、彼らは現行
刑法の中に
騒擾罪というものがあることをちやんと知
つている。知りながらこういうことをや
つている。
法律を無視して、そうして
自分の信念と申しますか、や
つておるのであります。知
つていてこれを無視する、これを無視して敢行するところに私は革命
手段たる
破壊活動があるのだと、こういうふうに
考えておるわけであります。而も今日の時局というものは、国際的にも、国内的にも時々刻々に緊迫の度を加えつつある。例えば朝鮮の問題のごとき、申上げるまでもなく、御承知の
通り休戰会談もできない。もう一年近くなるができないのであります。その間に共産軍のほうは兵力を増し、備えを固めておる。こちらとしては非常に厄介であり、向うとしては有利な立場をと
つておる。而も背後におけるところの南鮮においては、李承晩と議会との間が一歩誤まれば非常に憂慮すべき問題が突発しかけておる。南鮮の問題のごときは、或いは見ようによ
つては、これが暴動化することになるのではないか
といつて、
国民一般が非常に憂慮しておるという実情であるのであります。私は昨日或る政治評論家といろいろ話したのでありますが、この人なども非常に心配しておる。朝鮮の問題、南鮮が崩れて行く、そうして三十八度線を
維持することができない。朝鮮が共産軍に統一されるということになると、これは
日本と共産軍は直面しなければならない。実に由々しき状態に置かれていると
言つている。又この人の話によると、来たるべきアメリカの大統領選挙に立候補するという某氏、名前は特に申しませんが、こういう人は朝鮮から兵を引揚げるということを主張している。選挙の結果誰が大統領になるかわかりませんが、大統領の、その人によ
つては或いは
日本に対するところのアメリカの政策、アジヤに対するところの政策というものも変
つて来るかも知れない。私は今日こういうような実情に置かれているということを
考えるのであります。非常に憂慮すべき状態に置かれておるように
考えておるのでありますが、私は遺憾ながらこういうような時局において、この
法律に多くを期待することはできない。
政府の
考えられるような、この
法律が無事に通過して、そうして
扇動だとか、或いは
教唆とかいうものが独立犯になれば、すぐ安全の確保ができる、公共の安全の確保ができるというような甘い
考え方はできないのではないかと、こういうふうに
思つております。極端に言えば、せいぜいこの
法律はないよりもいい。なきにまさるものであるが、大きな効果を私たちは期待することはできない。極端に申しますと、或いはこれはお耳ざわりになるかも知れないが、この
法律は犯人を製造する
法律のようなものにな
つて参るのではないか。或いはこの
法律があれば捕えるのに非常にいい。そういうような結果になるのではないかということまで
考えておるのであります。私はこの上その点について申しませんが、
一つ法務総裁の忌憚なき御
意見、そうして今日のこの重大なる時局に対してこれだけの
法律、非常に甘い
考え方をしておられるように見受けるのであるが、所期の
目的をお達しになることができるかどうかということを、
意見を開陳いたしまして、若しできるならばお教えを願いたいと、かように
考えるのであります。
それから第三番目は、私は
法案は独立
日本の向うべき進路と逆なユースをと
つておると、こういうふうに
考えるのであります。
日本の軍国主義、帝国主義、こういうようなものは敗戰によ
つて影をひそめた。その代りに新らしく生まれたものが米軍の育成によるところの民主主義であります。
日本は民主主義国家としてこれから生成発展しなければならないのでありまするが、この
法案は只今申上げまするような時局に即応し、誠に止むを得ないものではありましようが、併しながら全く民主主義と逆行する強権の発動を内容とする
法案であると私は
考えるのであります。かくのごとき
法案が手を変え品を変えて次々に提案されるということになりまするならば、それ自体が実に憂うべき問題を招来する虞れがあるのではないかと私は
考える。強権発動によるところの政治が如何なる結果をもたらすかということは御承知のことく、古今東西幾多の実例が残
つておるところであります。この点については、私は特に
一つの項目を設けて
政府に十分な考慮を促し、そうして本当に
日本が民主主義の軌道に乗
つて国民全体が民主主義の
国民とな
つて、こういうような強権発動の或いは要件となるような
法律の制定をできるだけなくする。現在あるものはこれを潰して行くという方向に政治を向けて頂く、こうでなければならんと
考えるのでありまするが、この点についても御
意見を承わりたいのであります。
第四に、この
法案は問題点が非常に多いので、先ほどいろいろと私はこの席で
一松先生の御
意見等も聞いておりますが、非常に多い。私はこの
法案に対する
説明書も参考書も余り持
つておりません。又公聽会等も聞いておりませんが、この
法案をずつと読んで行くと殆んど逐條的に問題がある。非常に逐條的に問題があるようであります。最初に私が申上げましたいわゆる
法律というものが簡易平明であ
つて、
国民によくわかるような
法律でなければならないとするならば、この
法律は実に私は
法律技術として優れたものではないということを申上げなければならんと思うのであります。特にその運用についてはいろいろな点が危惧されておるのであります。一々私はここには申上げません。すでに論議を盡しておられるのでありますから一々申上げませんが、最も大なる点
一つだけを私は申上げたい。これは又論議の中心であり又重点であ
つたように
考えるので、それは
教唆、
扇動というものを独立犯としたことであります。これを独立犯としていいか悪いかということは非常に論議せられておるのでありまするが、この点が論議の中心であり、又
国民が非常に心配をいたしておりまするところであります。ややもすれば踏み外しく人権蹂躙になるのではないか。或いは昔の特高の復活のような形になるのではないかということが心配せられておるのであります。この
教唆、
扇動の
解釈については、両院
法務委員会において長い間それぞれ
法律の大家において論議せられておるのでありまするが、実際の運用については私は
決定的な結論を出しておるのかどうかということを知らないのであります。ただ理論的にはこれは
説明付けることはできましよう、
判例もある、その他いろいろありますから理論づけることはできるのであります。併し実際の事例を掲げて検討する段になりまするとなかなかむずかしい。私どもはなかなかこの
解釈に困るのではないか、いろいろな千差万別の異なる事例を取上げて、これはどうだ、あれはどうだ、煎じつめて
考えると非常にむずかしい、
解釈は非常に困難な
法案であると私は
考えるのであります。世論ごうごうとして
扇動の独立犯に反対をいたしており、これが
法律本来の生命であるところの簡易平明、或いは誰にでもわかるようなものでなく、むしろ玄人さえわかりにくい
法律であるということが、私は非難の中心の的ではないか。玄人さえ、大家でさえ、どうもいろいろと疑問があるようであります。会議録などを見てみますと、実に中には少しどうかと思うような
質問もあるほどにこれは参
つておる、
解釈に苦しんでおる。こういうような不安、これを
巡査であるかとか、或いは検察事務官であるとか、その他非常に
法律知識の低い、又常識の点においても遥かにこの
委員などより劣るというような人が運用するのですから、これは心配せざるを得ないのです。私はこの点を
国民が非常に心配をしている。
法務総裁の責任はこの点において非常に私は重大だと思う。過ちなく運用せしむるだけの御自信を
法務総裁はお持ちであるのか。
法務総裁は私どもの先輩であり、非常に尊敬をいたしておるおかたであります。
法務総裁は確信があられるとは思うのでありますが、多数のこれらの運用に従事する者が過ちなくこの
法律をこなせるかどうかということについては、私は非常に心配をするのであります。衆議院の
法務委員会において鍛冶君でありましたか、何か
扇動ということを規則でも作
つて、
扇動というものはこれこれだ、或いはこういうものがはまるのだというようなことを作
つたらどうかというような御議論までも出ておるようであります。私はこの
法案についてはこの点だけを申上げますが、この
法案が本
委員会を通過するかしないか、或いは又参議院の本会議でどうなるかわかりませんが、どうかこの
法案が仮に通過したとするならば、愼重の上にも愼重を期せられて、そうして今日
国民の多数が心配をしておりますることが、本当に取越し苦労であ
つたという安心感を持つことができるように、最善の努力をお願い申上げたい。この点について
総裁から御
意見を承わりたいのであります。その他
法律的に
考えるといろいろありますが、私は細かいことは申しません。すでに論議は盡されて終結に近付いておるのでございますから、
委員外の私がとやかく申上げることは遠慮すべきであると
考えます。
最後にこれは当
委員会の審議の御参考にもなろうかと思いまするが、私はこの
法案に対する民主クラブの大勢の
考え方、取扱い方というものについて一言述べておきたいと
考えます。この
法案は先ほど来私研究の結果のいろいろな難点或いは盲点を
考えまして縷々申上げましたのであります。できればこういう
法律はないほうがいい、民主主義の国家にこういう
法律を作らなければならないということは実に
国民として嘆かわしいことである、非常に
法律としてもまずい
法律である。併しながら私の
意見の中にありましたように、国際情勢においても国内的な
関係においても、非常に重大なる段階に近付きつつあるような気持がするのであります。いろいろな難点もありまするが、できればこの法は多少の修正を加えても、この
法案の本質を害わない
程度の多少の修正を加えてもこの
法案を成立せしめることがいいのではないか、こういうふうに民主クラブにおきましては、私も又クラブ員の大勢も
考えておる次第であります。いずれも当
委員会において修正
意見等もありましよう、或いは修正案等もできましようが、そういうときは一応
一つ私どものほうにも御連絡を賜わりたい。私のほうでも折角いろいろと研究してこれをこのまま無疵に通すか、或いは多少修正を加えるかということの検討をいたしておるわけであります。
法務委員が出ておりませんので、非常にこの
委員会の空気もわかりませんが、然るべく御連絡を賜わりたいと
考える次第であります。
大変どうも取り止めのないことを申上げましたが、できまするならば、
法務総裁から、ごく
簡單に要点に触れて御
意見を拝聽さして頂きたい。長々とどうも有難うございました。