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1952-06-03 第13回国会 参議院 法務委員会 第47号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年六月三日(火曜日)    午後一時五十四分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            宮城タマヨ君            伊藤  修君            一松 定吉君    委員            加藤 武徳君            左藤 義詮君            玉柳  實君            長谷山行毅君            中山 福藏君            内村 清次君            吉田 法晴君            片岡 文重君            羽仁 五郎君   国務大臣    法 務 総 裁 木村篤太郎君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君    刑 政 長 官 清原 邦一君    法務検務局長 岡原 昌男君    法務特別審査    局長      吉河 光貞君    法務特別審査    局次長     関   之君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君    常任委員会専門    員       堀  真道君   —————————————   本日の会議に付した事件破壊活動防止法案内閣提出、衆議  院送付) ○公安調査庁設置法案内閣提出、衆  議院送付) ○公安審査委員会設置法案内閣提  出、衆議院送付)   —————————————
  2. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 只今より委員会を開きます。  破壊活動防止法案公安調査庁設置法案公安審査委員会設置法案、以上三案を便宜一括して議題に供します。  先ず左藤君から御質疑を願います。
  3. 左藤義詮

    左藤義詮君 本案は昨春以来、公案保障法とか、団体等規正法特別保安法と名称をいろいろ変え、二十三次案まで練つていろいろ研究を重ねて参りました。昨春大橋前総裁の発表した案に比べますると、団体の届出の義務、就職制限制度防諜規定非常拘禁制度解散団体財産没収強制調査権等がすべて取除かれまして、破壊活動範囲も著しく絞られて来ております。こういう点は政府が輿論を聞きまして幾度も繰り返えして来た、できるだけ基本的人権を侵さないように努力して来ましたその点は多とするのでありますが、それにもかかわらず、いろいろな反対がございますのは、曾つて治安維持法というものの悪夢が残つておる。大正十四年に国体変革又は私有財産制度の否認を目的とする共産主義及び無政府主義団体の結社を禁ずるという目的で、その刑も最高十年、懲役又は禁錮であつたものが、昭和三年及び十六年に改正されて。範囲が次第に殆んど無限のように拡張せられて、刑も死刑とか無期が加えられ、予防拘禁制度まで設けられる、こういうような曾つて悪夢から法というものが、必ずその範囲拡めて行くものだ、又それを官僚が必ず悪用するのだ、こういうようなことが非常に私は反対の主な根拠になつている。噂かも知れませんが、某閣僚幾らつてもいいから一旦橋頭塗作つておけばあとは幾らでも拡げられると言つた、というようなことが非常に本案反対者を私は刺激していると思うのでありますが、そういう点におきまして先日来法務総裁一つ信念を持つて説明しておられるように、どうしてもこれは必要なんだ、私はどうも今日までそういう点を国民に認識させるための啓蒙と言いますか、宣伝用意が不十分であつた、何か修正して行く場合も押し詰められて、いやいや一歩一歩退却して行くというようなことでなしに、国民の中に本当によく相談をして、国会でも幾らでも審議を尽して、聞くべきは聞いて、そうして最小限度どうしても必要なんだということは政府のまあ現在総裁が就任せられて非常に努力せられておりますけれども、私は甚だその点が国民と共にこの法律を作ろうという気魄と言いますか、準備が不十分であつたと思うのでありますが、その点について一つ総裁のお考えを承わつておきたい。
  4. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 誠に御尤もな御意見であります。一つ法案を作成し、これを国会に提出するにつきましても、十分国民意思の向うところを把握いたしまして、それに乗つかつて行くということは一番の建前であろうと考えております。全く御同感であります。殊にかような法案を作らざるを得ない、その必要性国民一般によく理解せしめるということは何よりも急務であろうと考えております。従いまして、この法案作成に当りましても、十分に国民現下治安状況を知らすべきことが必要であるのは御尤な次第であります。併し政府におきましては実はそこまで手がとどかなかつたのであります。御了承をお願いいたしたいと思います。併しながら現実の問題として各所に暴力的破壊活動が行われ、又極めて危険な状態にあるということは国民各位が十分に私は御認識を得たものと、こう考えております。そこで我々といたしましてはこの刻下の治安の現状を顧みまして最小限度法案を作成いたしまして、勿論我々は国民基本的人権はどこまでも尊重して参つて行かなければならぬという建前の下にこの法案を作成したわけでありまして、国民一般にその必要性を周知せしむることの努力の足りなかつたということについての御議論については誠に我々として遺憾であつたというよりほかないのであります。どうか国民各位現下情勢が如何に緊迫しているかということもすでにまのあたりに十分私は周知されていると考えておりますので、各位におかせられましても是非ともこの法案必要性を御理解下つて一日も早く御可決あらんことをこの機会に特にお願いする次第であります。
  5. 左藤義詮

    左藤義詮君 政府国民と共にこの法律を作るという努力が不十分だつたということを非常に遺憾であつたと申されますので誠に私どもも遺憾でございますが、米国でいわゆるマツカラン法ができますまでにはいろいろな計画がございましたが、三年近くの歳月をかけているのであります。その間にいろいろ国民意見を聞き練りに練つてできておるのでありますが、本来ならば私はそれくらいに念を入れて国会審議も十分尽すべきであると思うのでありますけれども、併し今総裁お話のように非常に現在の治安状態が危機に瀕している。昨年私どもマツカラン氏に会つていいろいろお話を聞いおりましたが、アメリカでは火炎びんも飛んだことはありませんし、又自動車が焼き捨てられたこともありません。又皇居前の騒動のようなことはなかつたのであります。ここまで緊迫して参りますれば私どももどうしても早期にかような手当をすることは民族の独立のために必要であると私ども確信をいたすのでありますが、それにつきましては国民理解もだんだん私は衆議院公聴会のときよりは参議院の公聴会のときのほうが修正をしてでも成立せしめたいという意見が多くなつて来ているようでありますし、これは申していいかどうか知りませんが、社会党の一部のごときも衆議院では否決せられたのが修正をして何とか最小限度のものを賄わなければならんというような空気も出ておるようでありまして非常にその点は私は国民本案に対する理解が遅まきながらも政府努力が足らなかつた、遺憾であるにもかかわらず漸く盛り上つて来ていることは私ども当然だと思うのでありますが、そういう点で一番心配せられております、特に母の立場から学生などが一時の躓きからのつぴきならんところに追い込まれるというような、その他言論機関等が思わざる拡張した法の適用のためにさような目に会われないように本法適用注意しなければならんのですが、先ほど申上げました治安維持法のように、噂のような某閣僚橋頭堡作つて拡張して行くというようなことは絶対しない、これは総裁信念を伺つておるのでありますから、その点について私は黙れと言うて驚かす軍閥もないはずでありまするが、いやしくも民主主義というものに日本が今後の国家の存立を託して行きます以上は、国会がさようなむちやな治安維持法のようなことを繰返すはずはないと思いますが、特に私は当局として法務総裁の、この法案を絶対これ以上は拡大しないのだ、これで十分賄つて治安を確保して行くのだ、こういう私は所信をこの際はつきり一つ伺いたいと思います。
  6. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 御承知通りこの法案建前曾つて治安維持法と全然その本質を異にしておるのであります。我々はこの法案作成ずるにつきましてもしばしば申上げましたように、できるだけ、最小限度においてその必要を満たして行こうというに過ぎないのでありまして、これを一つ橋頭堡として更にこれより強い線を出そうというような考えは毛頭ありません。どこまでも国民基本的人権を守りながら、現下治安情勢に鑑みまして、必要最小限度にこれを絞つて法案を作成した次第であります。もとよりこの法案運用につきましては極めて慎重にいやしくも国民の多数に影響を及ぼすようなことなからしむる用意は我々は十分持つておるのであります。重ねて申しまするが、この法案根拠といたしまして更に強いものを作ろうなんという考えは毛頭持つていないのであります。
  7. 左藤義詮

    左藤義詮君 本法を実施して参ります公安調査庁でありますが、どうも治安維持法等の経験から、法がひとり立法者の手を離れて官僚の手に移ると、これが濫用或いは拡大されるということがいつも心配されるのでありますが、私は特別審査局というものが占領下の遺物であつて、特に追放関係のことを多くやつてつたのであります。これが、ここに局長がおられるのでありますが、非常に国民心配をしておる、共産党地下に対しては殆んど手を伸ばし得ないで、追放関係等の小さい妙なことばかりやつておる。非常に特審局というものに対する国民の信頼が、信用が十分でない。その特審局が主になつてこ法案を立案せられ、更にこの特審局が主体になつて公安調査庁というものが換骨奪胎されているということに非常な私は国民心配があるのではないかと思うのであります。その点人事その他いろいろ微妙な点もございましようが、特審局公安調査庁になるのではなくて公安調査庁を全然別の構想から出発をするという御意図はないのでございますか。
  8. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) いずれの時代におきましても捜査官に対して国民が非常に強い批判をするのであります。これは私はこの法案を離れまして捜査官に対して或る種の同情を持つておるのであります。無論この行過ぎに対しては十分に警戒し、又自制もしなければならんのでありますが、この捜査官というものは非常にむずかしい仕事でありまして而も一番国民批判の的となつておるのであります。なかなか職務としては容易ならんのであります。私は或る程度の同情を以て見て頂きたい、こう考えるのであります。もとよりこの捜査官の行過ぎに対しては国民が十分に批判して過ちのなからしめるようにするのが尤もなことであろうと存じます。曾つて治安維持法を取扱いましたいわゆる特高について非常な行過ぎの点があつた、これは時代が全く違つてつたのであります。申すまでもなくその時代は大きな軍部という背景の下に或る意図を持つて仕事をしておつたのでありますから、故意に行過ぎをやつた事実も我々は承知しておるのであります。その後この特審局のあり方についていろいろ批判がございまするが、これは昔のいわゆる特高警察とおよそ私は本質的に異なつておるものと考えております。従いまして今後の捜査官については十分な警戒を、又訓練をすることは申すまでもないのでありますが、この法案を作成するに当りましても行過ぎのないようにという建前から強制捜査権を持たせないという建前をとつておる次第であります。而してこの公安調査庁人事の問題でありまするが、この法案が幸いに通過いたしますると、新たな構想の下にその人事一つつて行きたい、こう考えておる次第であります。
  9. 左藤義詮

    左藤義詮君 捜査官が非常な骨の折れる、又憎まれやすい仕事だということは我々も理解するのでありますが、そうでありまするだけに、私はその人を得なければならん。先般の東大、早大等事件に対処した警察官を本委員会に呼んで、いろいろ調べをいたしたのでありますが、署長等におきましても、こういう人柄で本当に若い学生の気持がわかるのだろうか。ただ法律だけを振り廻して、人の心を傷付けるのではないかということを非常に我々も心配いたしたのでありますが、特に戦後、警察だけではないと思いますが、非常に道義が落ちておるというか、責任観念が衰えておると思うのでありますが、そういう際でありますので、特に私は公安調査官に対してはよほど人選に御注意をして頂かなければならない。研修等お話もありますが、ただ形ばかりの研修でなくして、非常に信念と而も温い人間味を作るということについてよほどの御注意を頂きたいと思うのであります。この際一つ伺つておきますが、強制調査を除いたのは私も誠によいことだと思うのでありますが、その結果調査資料が非常に不確実となつて、勢い調査は、捜査活動に便乗する司法警察官捜査活動に非常に頼るということが多くなると思うのでありますが、その際に調査捜査との間に厳に一線を画するだけの用意があるかどうか。又一方から言えば官僚の縄張りというのは、非常に役人の習性なんでありますから、そういうような点から調査をしますために、非常に機密を要する犯罪捜査或いは犯罪予防が、非常に騒ぎ立てるために折角の魚が逃げてしまうというような問題が起らないか。その司法警察官或いは司法警察官調査官との間の連絡機関というようなものを置く用意があるかどうかです。
  10. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 司法警察官調査官との連絡調整が緊密にとれて行かなければ法案運用というものは完きを期することはできない。誠に御同感であります。そこでさような調整を図るために一つ連絡会議でも設けたらどうかという御意見であります。誠に御同感であります。今直ちにそういう構想は持つておりませんが、行く行くはさような必要あれば合意の会議でも開けるようなことにしてはどうかと考えております。ただ今のところでは明らかにそういうふうにやるということを申すわけに、段階に至つておりません。
  11. 左藤義詮

    左藤義詮君 先ほどもちよつと触れたんでありますが、日共幹部即下にもぐつて、あれだけの特徴のある顔をした人がこの狭い日本にもぐつてつてそれが未だに捕まえられない。本法案の必要な理由を伺いまするときにも、殆んどそこからあらゆる源泉が来ておるようにおつしやりながらも、未だに確証が掴めない。甚だ靴を隔ててかゆみをかくような御説明でありますので、いろいろな議論も起きますので、そうした点について今までの刑法刑事訴訟法では賄えない。今後この法案が成立いたしますればその点については相当確信をお持ちになるのか。私は合法的な活動をしております共産党に対しては敬意を表するものでありまして、須藤君もここにいらつしやいますが、私どもも同僚として実に立派にいつも、これは共産党というよりもむしろヒユーマニスト、そういうような私たちはかたがたのやつておることに対しては敬意を払うにやぶさかでないんでありますが、そういう、実は私はヒユーマニストは御承知のない、地下のほうから非常な危険な、只今繰返されておるような破壊的な指令が出ている。共産党地下に隠れておるところに非常に大事な問題がある。そういうことにお気付きなつ中西代議士のごときはすでに脱党しておられる、須藤さんもいつ脱党されるかわかりませんが、そういう私は一番大事なところにですね、手が届かないというようなことでは、幾ら私は法律作つても駄目だと思うのでありますが、国民が一番心配している、一番の急所に対して、この法律によつて十分効果を挙げ得ると、こういう総裁確信を持つておられるかどうか。ここに特審局幹部がおられまするから今人事の問題については構想を練つておられるそうですが、若しこの両幹部が来るべき公安調査庁幹部となるだけの信念気魄をお持ちになつておるならば、その点に対する私は吉河関両氏の見込と申しまするか、自信と申しまするか、そういう点も一つ併せて承わつておきたいと思います。
  12. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) この法案がいよいよ実施された暁において、直ちにいわゆる非合法活動をしておる共産党幹部捜査できるかどうかということでありまするが、それはここでは私はお約束はできないのであります。従来これが捜査できなかつたということについては誠に遺憾至極でありますが、一体そういうことに関しましてもですな、十分に国民協力を待たなければならんと思うのです。国民と裏腹になつてはうまく行かない。是非とも私は国民協力を得たい、こう考えております。併しこの法案通過の暁におきましては、公安調査庁の機構を整備、拡充いたしまして、十分その機能を発揮して国民の期待に背かないようにと、こう考えております。
  13. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 極端な破壊分子が非公然の或いは地下活動をする、でその実体を把握するということが極めて困難なことは世界自由主義諸国の悩みであります。私どもにおきましても追放幹部所在については鋭意その所在調査して参りました。これらの八幹部につきましては検察庁から裁判所の令状が司法警察官国警自警に渡されまして、逮捕状の執行として中央、地方全国的にその所在捜査しておるのでありまして、特別審査局公職追放令運用といたしまして或いは団体等規正令運用といたしまして、その所在確認に御協力をして来ているのです。従いましてこの面から国警自警特審検察庁の間に、中央地方を通じまして除々に具体的な協力関係が設定されて参りまして、これは総裁の御方針によるのでありますが、最近におきましては極めて緊密な関係が随時実現されているような状況であります。併しながらこれらの元追放幹部所在確認につきましては、結局は国家捜査力又は調査力というものが問題でありましてこの国家調査力なり捜査力をますます高揚させて行くということが問題解決の第一歩であり、国民の御協力を得て而も基本的な人権を尊重しながらその目的を達するというためには、只今も申上げたように、私ども並びに検察庁国警自治警が十分に捜査力なり調査力を高揚さして行かなければならない。かように考えておるのでありまして、この目的のために一歩々々近付き得るというように確信しておる次第であります。
  14. 左藤義詮

    左藤義詮君 語るに落ちると申しますか、只今お話では徐々に国警自治警、検察と、特審との連絡が徐々にできて来て、最近になつて漸く体制が整つた。そうすると一年有余に亙つて今までは甚だ連絡が悪かつた。こういう法律を出さなければならないほど緊迫しておりながらばらばらの捜査をやつておられた、調査をやつておられたというようなふうに伺うのでありますが、その点甚だ遺憾でありますが、基本的人権に対する非常な心配があるにもかかわらず、我々がこの法律を必要としますその趣旨から鑑みましても、国民心配します一番の急所、つぼに当りまするように私どもは切望いたすのでありますが、なお第三条の一項のイに内乱内乱予備陰謀内乱等の幇助を暴力主義的破壊活動規定しておりますが、然らば刑法の第八十一条、八十二条の外患に関する罪、或いはその未遂予備陰謀、こういうものをここに語いますれば、成るほどこういう危険な一番のものが、あなたははつきりこれとはおつしやいませんけれども国民にもこれだなということはわかると思いますが、これをお加えにならなかつた理由。もう一つ例を申上げますれば、私ども破壊活動として電源爆発ということが非常に宣伝もされ、又心配もされておるのでありますが、そういうものは刑法上の未遂に当りまするか……こういうものを加えますると、或る特定の政党日本を破壊するために特に外国と連絡し指導を受けてやつておるということが非常にはつきりして来ると思うのですが、そういうことをお加えにならなかつた理由一つ……。
  15. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたしますが、この第三条の第一項に掲げてありまする刑法所定規定を御覧頂きまして外患罪の点について御疑問をお抱きになるのは御尤もな点だと思うのであります。これにつきましては、私どもとしては次のような考慮からこれに載せなかつたのであります。それは一つ刑法外患の罪を考えて見ますると、そのような場合はこの内乱の罪が、邦土の僣竊という規定があるのでありまするからしてそれで第一賄えないかという点が第一点であります。その次といたしましては、外患のようなことが現実の具体的な危険となつて参りますると、この破壊的団体の規制というようなこれだけのことでは恐らく賄えないのではないか。更に国家としては今の段階よりは一層危険なような状態に直面するのであるから、それは又この法案より別個の問題として考えるべきものではないか、かような考慮からこの三条の各事項はこれだけに限定いたした次第であります。
  16. 左藤義詮

    左藤義詮君 今のはちよつと見方が違うのでありますが、それだけ危険が迫つたから又法を新らしくするというよりも、私はむしろ危険はそこにあるので、内乱等も私はそこから、外患から影響する場合がこれも多いと思うのであります。而もその外患の罪、或いは陰謀等も非常に危険なのでありまして、これをお加えになれば、これは重いほうを加えるのでありますからちつとも私はそういう基本的人権との問題はないと思うのでありますが、これを加えることによつてこの法案目的はつきりするのじやないか。そういう点においてそれを遠慮したために却つて、いやしくも私は言論機関労働組合その他がこの法案に触れることはなさらないと信じておりまするが、特に外患ということがはつきりしますれば自分たちとは縁もゆかりもない問題なんだからやはり心配ないのだ、子孫のために民族のために是非守らなければならんのだという協力の心組みをはつきりさせるためにも私はこれをお加えになることが当然と思いますが、その点をもう一度。それから今の電源爆発の問題もお答え願いたい。
  17. 関之

    政府委員(関之君) 外患の点についてのお尋ねの御趣旨は誠に御尤もと思うのでありますが、これにつきましては先ほどお答え申上げたような事情によりまして、当面のことは一応これだけが相当ではないかというふうに考えていたした次第であります。  電源につきましては、なおこの点につきましては御質問趣旨もありまするからして検討して見たいと考えているわけであります。なおその電源につきましては、私どもといたしましては第二号のほうの或いは放火、或いはハの激発物破裂或いは爆発物使用というような方法においてそれが若し重大な問題がありまするならば、その方向においてこの恰好において捕捉することができる。そうして又そのようなこの号に当る場合だけに一応とどめておくのが諸般の事情から見て一応相当ではないかというふうに考えてこのような規定にいたした次第であります。
  18. 左藤義詮

    左藤義詮君 二号の汽車、電車等往来危険の考慮まで触れているのでありまするが、そうしますれば爆発物を使わなくても私は電源を破壊するとか、或いは発電所を急速にいろいろな発電を不能にするようなことができると思うのでありますが、そういう点を私は加えますと、これも或る政党の狙つていることを国民に知らしめるのに非常にはつきりすると思うのであります。只今外患に対して非常に遠慮勝な御答弁でありましたが、北海道等におきましては内乱と相呼応して、どこかから落下傘部隊が来るのだとか、或いは海岸へいろいろな応援が来るのだというような頻りにデマが飛ばされているのであります。デマにとどまらずに相当これを心配しているようでありますが、そういうことをはつきりと私は外患に関する罪というものをもう一度なぜ遠慮なさるのか、お加えになる意思はないのかどうか、それを伺います。
  19. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答え申上げます。将来の危険を考えられました只今の御質問は大変御尤もな点があると考えます。この点につきましては私どもといたしましても更に検討をいたすことにいたしたいと思います。
  20. 左藤義詮

    左藤義詮君 特定の共同目的を達成するための継続的結合体、非常にむずかしうございますが、そういうものの決定に従いまして継続的に教壇から、或いは壇上から講義しなくてもゼミナール、その他学生の指導もございますが、そういう方法によつて学生の暴力活動の教唆或いは扇動するような教授或いは教官、こういうものが個人として言うならば本法の三十七条ですか、若しそれがわかればその団体は規制を受けると思うのでありますが、こういうものをあなたがたが調査して発見なさる方法があるかどうか。この間も警官が大学に入つて問題がありましたが、大学の自治、学問の自由というものとの関連において、どういう方法において……、これは一番私は親として子供のことを心配いたします上からも又民族の希望であります若い者を……、今朝も毎日新聞にもそういうような問題ございましたが、過ちに陥らしめないためにこれは非常に必要なことでありまするが、これをどういうふうにして調査せられるのでありますか。この調査が大学の自治或いは学問の自由というものと非常な摩擦を起す心配はないかどうか。どういう具体的な方法を考えておられるか、伺つておきたい。
  21. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 学校におきまして教育を仮装いたしまして、この法条に規定するような宣伝、扇動を行う、勿論その実質は違法な行為であります。かような行為が行われた場合におきまして、先ず一番問題になるのは、捜査の端緒がどこに現われるかどうか。そういう事実があつたということを疑うべき捜査の端緒、調査の端緒がどういうふうにして現われるであろうか。その端緒が現われました場合におきましては、当然これを捜査し、或いは調査することは当然のことでございます。私どもといたしましては、学校当局者と従来からも随時いろいろな点につきまして御連絡申上げております。又、学生諸君の中から自発的な申告を受ける場合もございます。かような面から端緒が現われました場合におきましては、当然調査を進めるという建前になつておる次第であります。問題は学校当局との間の隔りのない、相互の立場を考えた御協力ということが非常に必要だというふうに考えております。比較的この面におきましては、従来からも割合に円満に行われておる次第でございます。
  22. 左藤義詮

    左藤義詮君 最近起りました警察と大学との事件から見まして、特審局は別だとおつしやるかも知れませんが、私どもの受取ります印象では比較的円満ではないように思いますが、よほどその点は、今後努力なさいませんと、学問に対し、或いは学者に対し、若い学生に対する理解を持つて、そうして手を携えて国家治安を守つて行こうという、よほどの私は深い人間的な繋がりがございませんと、事実上は非常に困難である。すぐ調査をしようとする、忽ちにしていろいろな摩擦を起し、感じやすい学生をしてついそういうことに傷付けるようなことになりはしないか。この点は今非常に楽観したようなお話でありますが、私は必ずしもそうは考えないのでありまして、この点につきましては総裁がもう一度それに対する十分なる努力をして、今のような甘い考えではないが、十分努力するという御所信を伺つておきたいと思います。
  23. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 最近の学生警察官の対立と言うか、摩擦は誠に遺憾千万と私は考えております。私はこの前も或る機会に申上げたのでありますが、警察官も人の子であります。而も最も重要なる国家治安の任に当つておる人であります。仮に警察官が三日その職務を全国でストツプしたならば、その結果はどうなるか。恐らく日本治安というものは維持できないだろうと私は考えております。強盗その他の各種の犯罪が巷に横行するであろうと思います。警察官必要性というものは私は空気のようなものである。皆この警察官活動して我々の治安を守つてくれておるので、余りに安易に我々は生活しておるのではないかと、私はそう思つておる。もう少し警察官に対しての国民同情というものがあつて然るべきであろうと私は考えております。行過ぎもありましよう。人間は神様じやありません。多少の行過ぎは、これは十分な説得を以てこれを是正してやるべきであろうと思います。その点において、私は警察官に対して国民がもう少し理解ある態度を持つて欲しい。学生諸君に対しましても私はそのことを申しております。学生も人の子であり、警官も人の子である。もう少しお互いに寛容の態度があつて然るべきであろうと考えております。とかく学生は、私は常に言うのでありますが、レジスタンスを持つております。私も長年の間学生の生活をして来た一人であります。十分に学生の心理は把握しておるつもりであります。子供も皆学校を卒業いたしまして、子供も学生の気分を味わつております。このレジスタンスの気分がなければ、子供は発達しないのであります。これを十分に伸ばしてやりたい、いいほうに伸ばしたい、そうして立派な寛容味のある人間、情味のある一つの人間を完成して行くことが一番必要であり、又我々がさような方向に青年を指導することが一番肝要であろうと思います。  そこで最近の学生と警官の問題でありまするが、お互いにもう少し人間味があつて私はよかろうと考えております。警察官も勿論行過ぎの点もあつたでありましよう。学生の間にも行き過ぎがあつたでありましよう。併し私は決して前途は悲観しておりません。必ずや相互の理解がその間に生じて、学生は立派な青年となり、社会人となつて行きましよう。警官も又国民に信頼される警察官となつて行くことを期待しております。さような意味を以ちまして、互いに人間としての理解を持ち合うということであれば、必ずや私は円満に運んで行くものと信じて疑いません。雨降つて地固まるであります。最近の学生警察官とのあの摩擦事件が不幸にして起りましたが、その後における状態は、漸次いいほうに向つております。最近にも私は矢内原総長にも会つたのでありますが、最近における東大の学生の気分も、曾つて学生の気分とはよほど変つておるような状態であると承わつております。かような意味合いを以ちまして、漸次互いに理解し合い、その間に調整をとつて行くならば、私は必ず円満に運ぶものと信じておる次第であります。
  24. 左藤義詮

    左藤義詮君 大学内における本法違反の調査については、当局と連絡をとり、通報を待つとか、或いは学生、教授等の申告を受けてという特審局長のお話、御答弁でありましたが、申告ということでありますが、ひと頃これはどこの指導でありますか、脱税者を通報いたしましてそれに対して褒償を与えるということがございまして、非常なこの国民の気分を暗くいたしたのであります。先日も総裁は投書等をみだりに用いないと……。併し事実上私は警察或いは検察庁事件をやつておりますのが、非常に投書によるのが多いということを私ども聞知しておるのでありますが、極端な例になりますが、独裁国ではお互いに口を縅して、お互いがスパイじやないか、親子互いに疑い合うというようなことになりましたなら、これは私は非常な、犯罪を一方では防ぐと共に、一方では国民を非常に暗いものに追い込んでしまうということになりますから、この点につきましてはよほどそういう点を御注意なさらないと、調査の端緒を申告に待つ、現在でも相当の情報を集めておられるようでありますが、先ずお伺いしますが、現在情報を集めるために一カ月どのくらいの費用を使つているのであるか。今度公安調査庁ができましたらどのくらいの費用、予算を以て情報をお集めになるか。申告等についてはやはり相当の褒賞をお出しになるおつもりであるかどうか。
  25. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたします。公安調査庁におきましての予算はまだきまつていないのであります。従来私どもが情報並びに調査の面におきまして使用いたす予算は、褒賞費並びに調査委託費、この二通りの種類の金になるのであります。これが公職追放令、それから団体等規正令運用されておりました時代におきましては、両法令につきましてこれらの予算が認められていたのであります。その総額は、先般申上げました通り、月額約七百万円近い額でありました。公職追放令が先年度を以ちまして大体廃止されましたので、現在におきましてはその半額の支給を受けているわけでありまして、予算面におきましてはその半額の支給が計上されているわけでございます。公安調査庁におきましての予算額はまだきまつておりません。
  26. 左藤義詮

    左藤義詮君 どのくらいの予算を御要求になるおつもりでありますか。
  27. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 大体先ほど申しました前年度程度の予算を頂戴したいと考えております。
  28. 左藤義詮

    左藤義詮君 先般総裁は、申告、投書等についてはよほど戒しめなくてはならないという御意見であつたのでありますが、只今政府委員の答弁でありますると、大学その他の調査については申告を主とする。そこに相当矛盾があると思うのであります。特に検察或いは警察等におきまして、捜査の主は検察でありますが、相当投書を基にして捜査をされている。場合によつてはそれでもう捜査令状まで請求しておられる。これに対してははつきり住所、氏名を明らかにしたものならば私はいいと思うのでありますが、それを確かめないで匿名の人を傷付けるようなそういうものによつてもそれが度重なれば動くという実例を聞知しているのでありますが、こういうことは一切今後どこかではつきり線を引いて、例えば人を陥れるような匿名のものによつては一切動いてはいけない、そういうものは一切無視してしまえというような部下に対して一つの通告をなさるおつもりがあるかどうか、一つ承わつておきたいと思います。
  29. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は先般の委員会の席上でも申上げた通り、無責任ないわゆる通報、申告というようなものに動かされてはいけないということは、今でもその信念において変りません。さようなことになりますと非常に暗い政治が行われるのであります。従来から私は無名の投書なんかに動かされてはいかんということは常に注意しております。特審局長が申しましたのも、そういう無名のいわゆる申告というのじやありませんので、責任を持つた申告と私は了解いたしております。将来とも確実な責任を持つた申告に基いて運営して行きたい、こう考えております。
  30. 左藤義詮

    左藤義詮君 検察庁にその通告をなさる御意思がありますかどうか。
  31. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 私は正式の指令は出しておりませんが、常に集会の席上で私の意のあるところをしばしば繰返しておるわけであります。
  32. 左藤義詮

    左藤義詮君 この法案第三条の2にございます団体というのには地方公共団体は含まれていないという御答弁が前にあつたと思いますが、さよういたしますと、全村が破壊活動を継続的にやろうとしている、例えば赤い村というようなのがよくあつたのでありますが、そういう場合にはこの法律では賄えないことになるのでありますか、或いはやはりそういうものに対しても規制を加える意思があるかどうか。
  33. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 御質問のような場合におきましては、大体その村内の住民の大多数が一つの破壊的な団体を結成いたしまして、その団体活動として破壊活動を行うという場合ではないかと考えられるのであります。かような団体に対しましては規制をかけることができるものと考えております。
  34. 左藤義詮

    左藤義詮君 時間が来ましたからもう一つだけ。公安審査委員の人数でございますが、委員補佐は三人置かれまするが、委員長及び委員四人というのは或いはこういう問題の性質からいつて少いのじやないか。これは十分な審議を期するために若干増員をするような御意思があるかどうか。なお委員長委員も総理大臣が任命するのでありますが、委員を選んでその中から委員長を互選するようなふうに改める御意思はないかどうか。この二点について伺いたいと思います。
  35. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 委員の数でありまするが、大体警察の国家公安委員も五人でやつているのであります。五人くらいがこれを運用するのに極めて適当かと、こう考えて原案を作成した次第であります。それから委員長は別に互選でなく、内閣総理大臣或いは法務総裁がやるということになつております。これは互選より、委員長はつきりきめて初めから任命されることのほうがその人選その他について妥当じやないかという考慮からさようにしたわけであります。
  36. 左藤義詮

    左藤義詮君 なお若干疑問の点がございますが、又逐条審議のときに譲りまして、時間が参りましたので、これで私の質疑を終ります。
  37. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 本法案審議に当りまして最も重要な点は、本法の規制並びに罰則の適用の対象となるところの暴力主義的破壊活動の意義と内容を明記することと、それから本法のような治安立法が日本の現状において果してその制定が必要であるかどうかということにあると思うのであります。又それと同時に、本法案のごとき法律が若し濫用さるることになれば、憲法によつて保障された人権自由に対しまして重大な侵害の慮れがあるので、さような濫用の防止策と人権自由に対する保障が本法案自体の中に十分考慮されて取入れられているかどうかという点だと思うのでありまして、さような点につきまして御質問申したいと思うのでありまするが、持ち時間が今日は少いので、成るべく重複を避けて簡単に二、三質問申上げたいと思います。  先ず本法によつて取締ろうとするところのこの破壊活動の内容は第三条によつて規定されておりまして、この三条の解釈につきましてはこれまでにいろいろ論議せられておりまして、その解釈並びに立法の趣旨はほぼ明確になつたようでありまするが、本法で一番今問題となつている中心は扇動の点だと思いまするので、この点に関しまして二、三質問申上げたいと思います。  先ず扇動の意義、解釈に関しましてはこれまでたびたび政府においての説明もありましたし、又この扇動という字句はすでに明治十七年に制定されました爆発物取締罰則にも規定せられ、そのほか公職選挙法とか或いは税法、それから新聞紙法等にすでに国内においても立法例がいろいろありましてそれに対する判例学説もあつて、その意義は明らかになつておるのでありまするが、この第三条の第一項第一号の口とハの関係において明確にして頂きたい点があるのであります。それはこの第一項第一号のハには「イに規定する行為の実現を容易ならしめるため、その実現の正当性又は必要性を主張した文書」と規定してありまするが、この正当性等の主張とそれからロに規定するところの扇動とはどういうかうに違うか。つまりハの文書の印刷とか頒布、公然掲示も扇動の中に入るのではないかというふうな見解を述べられておる向きもありますので、この点を一つ明確にして頂きたいと思います。
  38. 関之

    政府委員(関之君) お答えいたします。ハの実現の正当性若しくは必要性を主張ということは扇動とは異なるわけであります。扇動は前回までにお答えいたしたがごとき意味でありまして、この実現の正当性若しくは必要性を主張するということはいわばこの号イに規定する行為の宣伝行為、扇動なくして宣伝行為に当るものと、こう考えるのであります。
  39. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 それはこの前からの説明で、そういうふうに抽象的にはわかつておるのですが、実はもう少し具体的に説明して頂きたいと思いますが、まあその程度にいたしまして、要するにこの文書を取締るということは、これは先般公聴会における公述人の共同通信の牛島さんだつたと思いますが、文書だけで暴動が起つたことはないというふうなことを言われたのであります。さような意味からして、こうした文書まで取締る必要がないではないかということを言われたのでありまするが、恐らくこうした文書を取締るということは現在共産党等で企図しておる内乱の意識革命ということに対処するためにかような文書を取締るのだと思うのでありまするが、この点につきましていろいろ世間の危惧を招いておると思うのでありますが、こうした文書が現在の国内治安にとりましてどんな影響を持つかということについて法務総裁の御見解を承わりたいと思います。
  40. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 現実共産党員が配付いたしております種々な文書がございます。これは恐らく曾つてお目にかけたことがあるかと私は考えております。さような文書が広汎に付されましてそうしていろいろな頭の固まらない人たちにそれが読まれる。そうしてそれに多大の影響力を与えるということは国家治安の上から見て極めて危険なことであるのであります。
  41. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 この扇動ということは現在の事態に鑑みまして非常に恐るべき実害的な結果を引起す危険性が極めて大きいことを我々は感じておるのでありますが、最近の諸外国における治安立法には多くこの点がいろいろ論議せられて、これを処罰しておるようでありまするが、その立法例について本案審議の参考のためにお聞きしたいと思うのでありまするが、先ず昨年ドイツ刑法の一部が改正せられたようでありますが、ドイツは現在我が国と国情も比較的似ておる点もありますので、先ずそのドイツの破壊活動取締に関する立法の動向、殊に扇動に関する立法例についてお伺いしたいと思います。
  42. 関之

    政府委員(関之君) お尋ねでございますから、これは私どもがこの法案の立法の一応参考といたしましたドイツの事例につきまして知つておるところを申上げたいと思うのであります。特に問題を扇動等の点に集中いたしましてお答えいたしたいと思うのであります。ドイツの刑法議論の立て方は丁度日本刑法と同じでありまして、教唆犯を規定しておりますが、これは本犯が実行した場合にこれを処罰するというのが日本のごとく基本的な建前であるわけであります。こういう原則のほかに次のような注目すべき規定があるわけであります。一つは重罪に該当する行為は独立にこれを処罰するということがあるわけであります。この重罪と申しますのは法定刑として死刑があるとか、或いは一年以上の刑に処するとかいうようなことが刑法に定められておりますが、とにかくそういう重い罪についての扇動行為、これは独立罪として規定しているわけであります。次に重罪を犯すこと、又はこれに加盟すべきことを提言する、これは扇動とは違うのでありますが、要するにそういうことをこちらから提言するというその言葉を独立的にこれを処罰しているわけであります。又公然多衆の面前又は文書によつて法令又は官憲の命令に服従しない、そういうことを扇動することを独立罪として処罰しておるわけであります。又一般的に犯罪の扇動ということにつきましての規定がありまして、そうしてこれは扇動によつて結果が生じた場合と、全然結果が生じない場合との二つに区別いたしまして、結果が生じた場合は重く、全然結果が生じない場合でありましてもこれを犯罪として処罰しておるわけであります。かようなことが今までの刑法の中に盛られておる教唆のほかに扇動を独立罪として処罰しておる条項であります。その言葉もこれは教唆はドイツ語の法令を見てみますとアンシユチフテンという言葉を使つていますが、扇動であるとか、提言であるとかいうのはアウフフオルデルンとかエルビーテンという違つた言葉が使つておりまして、やはり日本における教唆という言葉のほかに各種の扇動或いは提言という言葉を使つて犯罪が実行されなくてもその言葉自体だけを処罰しているというのがドイツの刑法では見られるのであります。以上が今日までのところでありましたが、昨年の八月平和条約の成立を見越しまして、ドイツでは刑法の改正をいたしたのであります。それはどういう点を改正いたしたかと申しまするならば、一九四六年占領軍がドイツを占領したときに、内乱に関する一切の規定の削除を命ぜられたのであります。それが全部削除されまして、新たに平和条約の成立を見越しまして、やはり独立国家としては内乱規定がなければならないということに相成りまして、内乱規定を何条かに亙りまして新たに挿入いたしたのであります。その中には内乱的な破壊活動に関する罪につきまして注目すべき規定があるわけでございます。そこで先ずその中に一条といたしまして内乱罪についてはそれを構成要件とするような文書、そして録音盤、図面若しくは製作物の出版、製作、頒布若しくは頒布目的の所持というものを新らしい規定によつて処罰しているわけであります。そして又このような内容を有している表示物又は製作物、映画、放送、録音盤若しくはその他光学的な複製、これは写真などを意味していると思うのでありますが、光学的な複製によつて頒布するものを新たに処罰しているわけであります。かように広い内乱に関する扇動行為、そして今申上げたような文書、録音盤、図画若しくはその他の製作物、そういうものの出版、製作、頒布、頒布目的の所持というものを広範囲に処罰することにいたしているのであります。これのほかにドイツ刑法の今度の改正におきましては非常に広範囲な憲法の原則とか、或いは大統領であるとか、或いは国会であるとか、或いは憲法裁判所であるとか、或いは政府というようなものに対する政治上の目的を以てする名誉毀損とか、その地位を辱かしめるというような行為に対しまして広汎な条文を設けましてそういう行為の一切を犯罪として処罰するというような規定が設けられているのであります。以上の点が主だつたドイツ刑法における今日の破壊活動に対する扇動的乃至は言葉によるさような行為の処罰をする規定でありまして、なおそのほかにドイツ刑法のいろいろな条文を当つて見ますと、或いは治安妨害罰であるとか、或いは虚構の事実を以て各種の宣伝扇動をするとかいうようなことにつきまして広汎な取締規定があるわけであります。
  43. 小野義夫

    委員長小野義夫君) ちよつと速記をとめて……。    〔速記中止〕
  44. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記を始めて……。
  45. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 これも先般公述人等において述べられたことでありますが、新聞の社説とか、時評、短評などの執筆者はことごとく政治上の主義、施策の推進、支持或いは反対をやつてその扇動を職業的に行なつておるものだかようなことが扇動という字句によつて取締られることになれば言論界が非常に萎靡……庄迫されるところがあるのだ。これが非常に心配だというようなことを言われており、又世間一般でもどうもそうした危惧が持たれているようでありますが、併しこれは私はさような場合は本法に触れるものではないと思うのですが、殊に本法の立法の趣旨と本条の良識ある運用によつてはかような心配がないのですが、一般世間でさような危惧を抱かせてまでこの扇動というものを取締らなければならないという点について一般国民が納得するように法務総裁の御所信をこの際はつきり明確に述べて頂きたいと思います。
  46. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 新聞報道関係においていろいろ危惧されておるという点でありますが、私はよくこの法案趣旨理解下さるならばそういう危惧というものは一掃されると考えております。もとより報道機関は政府の施策に対して批判し、或いは時によつて攻撃することは自由であります。而して自分の信ずるところの政策を推進することもこれ又自由であります。これは新聞報道の私はむしろ任務と考えております。併しながら政策を批判したり、或いは攻撃したりすることを超越して、その目的のために、本法規定しておりますような破壊活動を扇動するということは私はおよそあり得ないことと考えております、常識上……。殊にこの第三条にきめましたのは、これは刑法上御承知通り兇悪犯罪の特別の類型をなしておるものであります。かような犯罪を扇動するというようなことは常識上あり得ないところであるのであります。而してこの扇動ということについては私は非常な危険性があると存じます。御承知通り教唆であればその特定の人に対してのいわゆる唆しでありますが、扇動は多衆に対しての一つの何と言いますか煽りであります。これが危険なのであります。具体的に申しますると、これは小さいことでありまするが、この間のメーデーあたりでありましても或る種の危険分子は大衆の中に隠れておるのです。そうして突然出て来て群衆を煽りおる。そうして又群衆の中へもぐつて逃げ込んで、それをしばしば繰返す。こういうことが最も私は危険性が多分に包蔵されておる。これは極く瑣末な例に過ぎませんが、多衆を相手としていわゆる法律的に申しますれば中正の判断を失わせて、そうしてここに犯罪の決意をなさしめる、又すでに決意を持つておる者を更に助長させるというようなことは極めて治安の面から見て危険至極なものであります。この扇動ということに私は本法の重点があると考えております。扇動によつて如何に国家のいろいろ治安が乱れるかということはおよそ私は想像できる。さつき御引用になりました公職選挙法あたりにおいての扇動、あれなんかも大きな役割を果しておるのであります。さような点から見ましてこの扇動ということは最も我々は重大視しておる。ソヴイエトの反革命法におきましてもちやんと扇動という文字が使つてあります。中国の反革命条例においても扇動という文字を使つております。こういう類型の法案を見ましても扇動という文字のないところはありません。扇動こそ私は最も危険なものと考えておる次第であります。
  47. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 私も法務総裁と同様の意見を持つものでありますが、これに関連いたしまして第四条の第一項の第二号の機関誌紙の問題について伺いたいと思いますが、これは法務総裁がおいでになられなくてもよろしいですから……。
  48. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 甚だ恐縮ですが、それでは……。
  49. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 この機関誌紙という定義はこの法文の中に括弧に入れて「団体がその目的、主義、方針等を主張し、通報し、又は宣伝するために継続的に刊行する出版物をいう。」というふうに定義してあるのでありまするが、この観念が必ずしもどうも明確に具体的にされていないのじやないかと思いますので伺うのであります。我々は新聞紙の種類は一般的に通俗的には一般紙と業界紙或いは機関紙、特殊紙と区別せられているように思つておるものでありまするが、私は朝日であるとか、毎日、読売、時事、東京或いは日本経済とか産業経済というような新聞紙はこのうちの一般紙に該当するもので、これらの新聞の会社或いは法人の定款等を私はよく見ていないのでありまするが、恐らくその目的というものは同じようなものではないかというふうに思われるのでありまするが、これがいわゆるここにいう機関誌紙に入るかどうか、この点についてお伺いしたいと思います。
  50. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたします。結論から申上げますと、一般の一般紙その他の商業紙はこの機関誌紙には入らないものと考えております。只今質問のように現代における一般の新聞は、不偏不党の立場と万人に読まれるための編集ということを建前にして、発達いたしました、一般の新聞は、只今定款の御指摘がありましたが、いずれも定款等におきまして新聞の発行自体を目的とする企業体によつて経営されておるわけであります。かような立場から今日言論、報道界におきましては一般紙、それから業界紙、特殊紙或いは機関紙というように区別を立てましてこれを取扱つているのが実情でございます。この実情、この実際はやはりこの本法案における機関誌紙の解釈についても当然適用されなければ一ならないと考えております。この法案におきましては、特定の共同目的を持つ団体がその目的なり、主義、方針なりを主張し或いは宣伝するために団体活動の一環として重要な文化的な手段といたしましてかような新聞形態の刊行物を発刊してその目的拡める、こういうところに機関紙の特色があると考えておる次第であります。今日只今お尋ねのごとき一般紙その他の新聞は新聞の発行自体が目的であり、さようなことを目的とする企業体によつて経営されており、背後団体の主義なり、目的となりを宣伝するというような立場にはないものと考えております。併しながら独立した一般紙の形態とか或いは業界紙の形態をとりながら、実際におきましては背後団体の管理の下にその背後団体目的拡めるという役割を実際に演じておりまする場合には形式の如何にかかわらずこれは機関紙と実際上認められなければならないと、かように考えておる次第であります。
  51. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 極めて明快な御答弁を得まして、同じくこの第二号の三行目にある「当該機関誌紙を続けて印刷し、」云々とありますが、この当該機関誌紙というのは、例えば或る団体が機関誌紙を三つなら三つ出しておる場合に前に破壊活動を行なつた、その機関誌紙ということであろうと思うのですが、この点は如何ですか。
  52. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 御質問通りであります。この点につきましてはその機関誌紙が問題になりますので、先般伊藤委員から機関誌紙の同一性について政府の見解を述べようという御質問がございまして留保答弁になつておるのであります。後日これを申上げたいと考えております。
  53. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 機関誌紙の同一性につきましては、それは今後の御答弁を伺うことにいたします。先ほど外国の立法例につきまして伺いましたが、ドイツの点は明らかにされましたが、アメリカにおきましては、国内安全保障法や、スミス法などでこの扇動のみならず唱導とか使嗾とかいろいろな言葉が使われているようでありまするが、これを本法の扇動と対照して一つ御説明して頂きたいと思います。なお先ほど法務総裁からもソ連や中共の立法例についてもちよつと触れられたようですが、それも併せて簡単に御説明願いたいと思います
  54. 関之

    政府委員(関之君) 先ずお尋ねのアメリカの場合について御説明いたします。一般にドイツやフランスの大陸法系に比較いたしまして英米法系統におきましてはこの教唆の罪につきましての考え方が根本的に違つているのであります。大陸法系の考え方におきましては、日本刑法と同じように人を教唆して犯罪を実行せしめた場合のみに教唆罪を以て処罰するということが、それが犯罪を犯させる言葉を罰する原則であるわけであります。ところが英米法系統においては、犯罪は重罪、反逆罪、軽罪の三つに区別して分けまして、反逆罪につきましてはこれを扇動したり、或いは宣伝したり、或いは教唆したり、まあ言葉はいろいろありましようが、要するにそれを犯させるように仕向ける言葉の一切をもそのままで処罰する大陸法系の考え方と、そこが根本的に違つているわけであります。そこで米国は申すまでもなく英法の流れを汲んでいるものでありまして、従つて犯罪を反逆罪と重罪と軽罪の三つに分けておりまして、そうしてこれで反逆的な行為と重罪の行為についてはもう扇動行為それ自体としてもう犯罪として処罰しているわけであります。ところが然らばこの扇動とかというようなこの言葉は一体どういうように使われているかと申しますと、これは御承知のごとくにアメリカの各種の判例或いはスミス法であるとか、或いはアメリカニユーヨーク州におけるところの無政府主義の取締法であるとかというような法令を調べて見ますると、それだけに現われている言葉でも十種類くらいあるわけであります。その言葉は例えて申しますとアベツト、アドヴオケート、インサイト、エンカレツジ、ブロヴオーク、アージ、カウンセル、ア、ドバイス、テイーチというようなふうにいろいろ言葉が、日本の或いは教唆と訳し、或いは扇動と訳せるようないろいろな言葉を全部法案の中に並べているわけであります。これは日本の教唆扇動というこの議論と比較いたして見まして誠に注意すべき現象でありまして、なぜそういうふうに同じ言葉をこれを日本語に訳して見ると、アベツトの中に扇動と訳し或いは教唆と訳し、教唆し或いは扇動するというような日本語の訳があるのであります。又このアドヴオケートはここのいろいろ主唱し唱導するというのに当るわけであります。インサイトは激励する、扇動する、とにかく犯罪を犯させるようないろいろな言葉を殆どすべてここに並べてあるということになり、これだけで処罰されるということになるわけであります。そこでなぜこういうふうなことがアメリカにおいて行われているかと申しますと、これは議会の立法理由書までは手を経ていませんですが、いろいろあの本この本などを見まして私推定いたしますのに、恐らく被告人にお前はアドヴオケトした、いや私はインサイトしたのですというふうに遁辞を弄して自分の罪を逃れようとするから、それであらゆるいろいろの言葉を並べて全部のそういう犯罪を犯させるような一切の言葉を取締るというところか眼目ではないかと思うのであります。そこでこれはこの法案に関連いたしまして御審議の御参考までに申上げたい点でありまするが、申上げたごとくに、英米法におきましてはすべて重罪の扇動というようなことはそのままでもう処罰されている。ところでこの法案第三条に規定するこの罪は果して英米法的な眼から見るとこれが重罪に当るかどうかという問題になるわけであります。そこで第三条一項一号の刑法内乱罪の規定、これは申すまでもなく重罪以上の重い反逆罪の規定でありまして、かような行為の扇動とか教唆ということはこれだけで処罰されることになるわけであります。  次に騒擾の罪でありますが、これはアメリカの例を調べて見ますと、或る州によつては重罪に規定され、或る州によつては軽罪に規定されるというような実情になつているのであります。それからロからチまでの行為、かような行為はすべて重罪になつているというのが英米法の実際の取扱のようであります。そこで米国のと日本のこの扇動との関連においてお請いたしますならば、勿論一号反逆罪の扇動であるとか、二号におきまする騒擾そしてロからチまでの行動の扇動とかいうような行為は向うにおきましてはこれは普通法上当然にもう犯罪とされてそれ自身処罰されているというようなことに相成つておるのであります。これが米国の実情と、そうしてこの本法案との関係において御理解をお願いいたしたいと思う点であります。  次はソ連の場合でありまするが、これは最近の刑法というのが手に入らず一九三三年版の刑法の本がありましてそれを調べて見ますと、この教唆罪というようなことについては大体その大陸法系的な、フランス法的な考え方をとつております。やはり教唆は相手方が実行した場合にそれを処罰するというのがその原則になつておるわけであります。ところがこの原則に対しまして重大な制限があるわけでありまして、それは事いやしくも反逆罪、これはソ連の政権を倒してしまう、ソ連の政府を根本から倒して他の政権を立てるというようなこういう反逆罪につきましてはそれに対する一切の扇動と宣伝行為を処罪する、而もその内容を有するあらゆるパンフレツトとか、或いは檄とか、文書の頒布であるとか作成、保管、こういうものまでも全部その保管それ自体だけでも処罰しているわけであります。これが一条あるわけであります。次にソ連におきましてはこの反逆罪の次にソ連の政治方式に反する罪というものが一条載つておりまして、これもソ連の刑法から見ますると極めて重大な罪の一種として掲げておるわけであります。これはちよつと日本の類型はありませんが、要するに政府を侮辱したり政府の力を弱めたり、内乱までは考えないけれども、要するに政府の各種のやることを弱める反抗、反対するということの罪を広汎に規定しておるわけであります。その中に注目すべき一つ規定といたしまして、民族的或いは宗教的敵愾心、或いは反抗心を刺激するために宣伝又は扇動したもの、そうしてかような一切のビラとか、或いはビラを作成し、印刷物を頒布し、保存する、かような一切の行為を犯罪として、そのことだけで処罰しているわけであります。そうしてなおここで我々が注意いたさなければならない点は、ソ連においてはその刑法十六条によりまして罪刑法定主義をとり払つておるわけで、それは次のような条項があるわけであります。  「本刑法の条項に示されていない社会上危険な行為をなした者は本法のうちそれに最も近き条項により処断する。」という規定が一本入つておるわけであります。これも反革命の各種の宣伝、扇動乃至は各種の宣伝、扇動は全部今申上げたような二条で持つてつて全部抑えられるということに相成りまして、これで申しますと、今日の日本規定で申しますと内乱的な行為の各種の宣伝、扇動は申すに及ばず、いやしくも政府に対する反対、反抗、政府の力を幾らかでも弱める、或いはこの政権を侮辱するとかというような一切の行為がこの罪刑法定主義を撤廃したこの十六条の規定の援用によりまして一切が又ぴしやつと抑えられるというような規定に相成つているのではないかと考えられるのであります。  次に中共のお尋ねがありましたが、これは中共は今日特別なああいう政治形態をとつておりまして、又強力にその政権の維持を図らなければならない点から又他国に例の見られない強いところの規定を設けているわけであります。それは一九五一年の二月に中華人民共和国懲治反革命条例というものが制定されまして、これは要するに一切の反革命的な文書を全部処罰するという基本的な線をはつきりと打出したものでありまして、それで各種の実害的な行為を初めとして、この政府に対する、今ソ連で申上げたような政府を倒すのであるとか、或いはこれに対する反抗、反対をするところの一切の挑発、扇動、宣伝、こういうものにつきまして三年以上の徒刑に処するというふうになつておるわけであります。これはそれだけを読んで見ますと、「反革命を目的とし、次の各項に該当する挑発、扇動等の行為ありたる者は三年以上の徒刑に処する。一、群衆を扇動し、人民政府の徴税、徴糧、兵役、公役あるいはその他政令実施に反抗又は破壊したる者。二、各民族、各民主階級、各民主党派、各人民団体あるいは人民政府対人民の団結に対して挑発、離間策を弄する者。三、反革命的宣伝を行い、流言飛言を造出流布しある者。」こういうことが全部処断される。而もなおこの規定において私ども注意しなければならん点は、ソ連と同じように罪刑法定主義を撤廃しておりまして、若しこの反革命的な行為であつて、この条文に規定されていないものはそれに最も近いもので処罰するというのを一本入れてある点であります。この十条とこの規定との練り合せによりまして、一切の反革命的な、又反政府的な言動はすべて封じられる。流言飛語という言葉がありまして、何にも言えないというそこに実情が想定されるのであります。大体以上のような次第になつております。
  55. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 次に爆発物取締罰則は明治十七年に制定せられたので、それには教唆、扇動を独立罪として規定してあるのですが、その扇動について一今までの運用の実績等について資料がありましたらここでお配り下さるか、或いはここで簡単に説明して頂きたいと思います。
  56. 関之

    政府委員(関之君) お尋ねの点はあとで調べまして改めて資料にいたしまして提出いたしたいと思つております。
  57. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 次に三条の文書でありますが、従来単なる情報としてではなくして刑事事件捜査に当りまして、内乱等の正当性、必要性を主張する文書を頒布し、又は頒布の目的で所持したような事例があるかどうか。それらの点について御説明願いたいと思います。
  58. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは資料であとで……。
  59. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 若し何でしたらあとで検務局長からでも御説明願いたいと思います。
  60. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 長谷山君、大分時間が。
  61. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 そうですか。もう一、二点だけを伺います。  次に第十五条と十六条の関係でありますが、十五条は不必要な証拠ということで、この規定の条文がどうも取締の方面からのみ立案されたのではないかというふうな感じを受けるのでありますが、その点は先般他の委員からも指摘されたようでありまするが、その際の政府側の御説明によれば、これは事件に全く関連性のないもの、或いは立証の趣旨が不明確なもの、或いは審理を遅延させる目的だけのもの、又取調べ不可能なものというふうなものであるというふうな御説明があつたのでありまするが、これが第十六条の調書、この調書は「弁明の期日における経過について調書を作成しなければならない。」ということになつておりますが、この経過ということについては、こうした証拠の提出等につきまして、これを不必要と認めたかどうかという点について、これが記載されるかどうか、この点をお伺いしたい。
  62. 関之

    政府委員(関之君) お尋ねの第十六条の調書につきましては、不必要と認めてこれを一応取調べないということにとたしまするならば、その経過は調書に記載されるのであります。そうしてその次第が明らかにされるわけであります。
  63. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 この調書の作成はその都度やるのですか。如何なる機会にやるのですか。
  64. 関之

    政府委員(関之君) これにつきましてはその期日ごと、例えば期日が若し連続いたしますれば毎日々々というふうに考えているわけであります。
  65. 長谷山行毅

    長谷山行毅君 時間を制限されましたので、もう一点だけを、これは重要な点だと思つてお伺いいたします。今までの委員からも余り問題にされていない点でありますので、この点重要と考えて御質問申上げますが、この調査庁の長官が処分の請求をした場合において、公安審査委員会ではこれに対して二十一条のような決定をするわけでありまするが、これに対しまして調査庁長官が異議の申立ができるか。つまり二十一条の決定、この却下の決定或いは棄却の決定に対して公安調査庁長官が司法裁判所に出訴できるかどうか。これはこの本法規定のうちにどこにも規定せられていないのでありまして、又これは理論上も権限争訟としていろいろ問題が多いところだと思うのでありますが、その点についてお伺いいたします。
  66. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 誠に適切なお尋ねだと思いますが、今お言葉にありましたように、この国の機関相互の訴訟の問題ということは、一般的には、例えば或る役所の公務員を罷免した場合に人事院でそれに対する或る種の裁定をした、それに対して或る役所から人事院を相手にとつて訴えができるかというような形において、あらゆる場面が考えられるのであります。その関係におきましては、特に法律はつきりとそれができると書いてあれば別でありますけれども、それが明らかにされておらない以上は、今お尋ねのような訴えはできないというふうに今まで考えておるわけであります。
  67. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 次は玉柳君。
  68. 玉柳實

    玉柳實君 二週間に亙ります各委員の熱心な質疑応答や、公聴会におきます公述人の陳述等を通じまして、問題の諸点はすでに明らかにされた感があるのでありまするが、従いまして、重複に亙る点は極力避けまして、二つの点についてお伺いいたしたいと考えます。  従来の経過を通じまして感じますことは、只今長谷山君からもちよつと触れられましたように、今日この法案の成立を必要とするがごとき国家社会の基本秩序を紊乱するような危険且つ切迫した暴力的破壊活動が現に存するのであるかどうかに対する認識如何の問題と、いま一つはこの法律を施行した後、その運用面におきまして、憲法において保障する言論、集会、結社の自由等の基本的人権の制限が公共の安全確保のためにとられる手段と比較いたしまして、均衡を失することなきかどうかというこの二点に焦点があると考えるのであります。又この点がこの法案の是非を決する鍵と言えるかと考えるのであります。政府から頂きました資料と、過日の朝鮮関係の説明によりましても、又過般の五一事件或いは五・三〇事件を初め、全国的に頻発する警察署或いは税務署等の襲撃事件その他もろもろの現象を分析いたし、更に又社会的な状況をも勘案いたしまして、共産党或いはこれに関連する地下の秘密組織の指導による武装蜂起の準備段階にすでに入つたものと観察もせられるのでありまして、国民ひとしく不安の念に駆られ、前途を憂慮しておる次第でありますが、政府がこの法案の立案に当りまして、かような破壊的な活動が近き将来一層急激に増大する危険があるという認識の下に立案をされたのか、或いは又現状程度の危険が反復せられる程度で今直ちに心配されるような大規模な危険はないであろうというような程度の認識の下に立案に当られたものかどうか、先ず以てこの点について、所見を伺つておきたいと考えます。
  69. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたします。先般御審議の参考にいろいろな文書、資料の写しをお手許に差上げた次第でありまするが、これらの文書、資料を通じまして明らかに看取されることは、特定の団体組織を以て活動するものが一つの抽象的な理想としていろいろな社会の変革を理想として描いておるのではない、現実活動目標として、武装叛乱によつて日本国憲法並びにその下に成立した政府の絹織を転覆破壊することを実践目標として掲げまして、この目標を実現する方針を打出して、その方針を実際に進める行動を支持扇動しておるような状況であります。これは現実の危険がすでに現在するというふうに認めざるを得ないと考えるのであります。私どもといたしましては、過去半歳の実績を徴しましても、次第にかような活動が激化しておるのだということは否定することができないと考えるのであります。而もかような活動は、今日の社会におきまして、経済恐慌とか或いはその他の天災とか、各種のいろいろな社会に大きな不幸をもたらすような出来事が一朝にして起きました場合には、極めて恐るべき破壊的な活動をたくましゆうするのではないかということが予想される次第でありまして、かような事情の下にこの法案を立案した次第であります。
  70. 玉柳實

    玉柳實君 只今の御答弁から察せられますことは、暴力的な破壊活動が、近き将来一層増大する危険があるとのお見通しに立つたものと考えられるのでありまして、この点におきましては、私も同様の感じを持つておる次第であります。およそ政治家は衆に先んじて憂えなければならないのでありまして、而して憂いあればこれに備えるところがなければならんのも当然であると考えるのであります。大体組織されない大衆は暴力の前には全くの無力でありますし、又警察のごときもその背後に軍隊を持たない場合におきましては、計画的、又組織的な暴力革命の前には殆んど無力であることは古今の歴史に徴して明瞭であると考えるのであります。かの一九一七年の十月のロシア革命の例を見ましても、スターリンが主筆をしておりました党機関新聞の工場閉鎖と、その機関紙の発行停止に官憲が向いました際に、初めて武装蜂起が行われたのでありまするが、僅か一昼夜を経ました翌朝には、主都ペテルグラードは王宮と軍司令部を除いては完全に暴力革命者の手中に落ちたのでありまして、これから考えましてもそれまでの気運が醸成されるまでには、或る程度の日時を要することと考えられまするけれども、ひとたび武装蜂起してからは案外簡単にその暴力革命が成功する危険のあることを物語つておると考えるのであります。過般の五月一日のメーデー騒擾事件におきまして、若し皇居乱入の秘密指令が当時出ておりましたならば、当時の警察官の警備態勢を以てしてはこれを阻止することができなかつた。暴徒はやすやすとして皇居内に乱入できたであろうと言われておるのでありまして、若しかようなことが起きておつたといたしますれば陛下の御安泰さえも危ぶまれるわけでありまして、今日法務総裁初め特審局局長連以下がこの国会において答弁をしておられるようなことができるかどうかわからないようなことであつたとも考えられるのでありまして、誠に想像するだに戦慄すべき事件であつた考えるのであります。これ一らの相手が話せばわかる相手でありまするならばいろいろと理と以て説得する方法もあり得るわけでありますが、暴力革命を信条として破壊に猛進するものに対しましては、政府治安の責任を完全に負うと同時に、その責任を完全に果すに足る権能を十分に持つ必要があると考えるのであります。本法だけでは治安確保の目的を達するには不十分であるということは法務総裁からもしばしば言明をされたのであります。又事実本法は当初の草案からいたしますれば相当これは退歩と申しましようか、遠慮をされておるのであります。又直接治安の任に当る警察制度の改革案のごときも、見ようによりましてはなお生温い感じがするのではないかというようなことも相当指摘し得ると考えるのでありますが、現在国会審議にかけられております、一連の構想だけを以ちまして、果して治安の重大責任を果し得るかどうか、懸念なき能わずであります。近き将来に本破防法の条項を改正して更に強化する必要に迫られ、或いはその他更に二三の別途の法的措置を相次いで必要とされるような状況に追い込まれはしないかどうかこれらの点に対する今後のお見通し、御所見を伺つておきたいと思います。
  71. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 実は法務総裁から御答弁申上げるような重大な御質問であります。後日その点は又法務総裁から改めて御答弁申上げたいと思うのであります。私どもといたしましては、現下の事態というものを基礎にいたしまして、危険の明白にして……、現在の危険を基礎として立法しなければならないということを考えているわけでありまして、この法案はまさに現下の事態というものを基礎といたしまして立案をいたした次第でございます。
  72. 玉柳實

    玉柳實君 政府の資料や又御説明によりましても、外国人が暴力主義的な破壊活動をやる危険性が極めて多いのでありまするが、かような場合におきまして、刑罰規定を以て臨みますと同時に、情状によりましては、国外に退去を命ずるとか、或いは日本人に帰化することを禁止するというような必要性考えられるかと思うのであります。いやしくも国家社会の基本的な秩序を破壊するような暴力活動をする外国人を国内に養つておくべき理由は毫もないわけであります。アメリカの国内安全保障法を見ましても、又南ア連邦共産主義抑圧法、その他ポルトガルの秘密結社取締法などを見ましても、これらの規定があるのでありますが、日本現下情勢から考えました場合に、さような措置をとる必要性が痛感されるのでありまするが、本法律にその規定を欠いておりまするのは、他の律法によりましてこれを律することができるからでありましようかどうか、その点を伺いたいと存じます。なお他の法律によりまして国外退去を命ずる等の措置がとり得られるような場合に、本法規定する罰則との関係におきましてその適用が如何になるのでありまするかどうか、お伺いをいたします。
  73. 関之

    政府委員(関之君) お尋ねの点につきましては国籍法と出入国管理法によりまして措置ができるものと考えているわけであります。
  74. 玉柳實

    玉柳實君 その場合に本法の罰則との関係はどういうことになりますか。
  75. 関之

    政府委員(関之君) 外国人の本法の罰則の適用につきましては、国際法上において例外がない限り、原則としてこの法律適用されるものである、かように解釈している次第であります。
  76. 玉柳實

    玉柳實君 私のお伺いしたいと思いました場合には、この本法によりまして禁錮の刑を処する等のあと国外退去の措置を講ぜられるとか、或いは本法の罰則が適用しないで直ちに国外退去を命ずるというような結果になるのであるか、その点をお伺いしたかつたわけであるのであります。
  77. 関之

    政府委員(関之君) 出入国管理法とこの一般の刑罰法規との関係におきましては、いずれの措置もできるわけであります。強制退去を求めることもできますれば一応刑罰を科して強制退去を求めることもいずれの措置もできるわけであります。
  78. 玉柳實

    玉柳實君 それでは次にこの第三条の扇動の問題は最も議論の多いところであります。これまで殆んどの委員から詳細な質疑が行われまして、これに対する当局の御説明も十分に伺つたのでありまするが、私の考えによりますると、この扇動は或る場合には、多数の委員が懸念せられましたように、人権の自由を拘束しやすい、さような危険がある場合もあろうかと考えられますし、又或る場合には暴力的破壊活動の危険がいやが上にも増大し、若しこの規定を欠けば、或る程度本法案は骨抜きになつてしまう実に扇動こそは本法案の生命とも言えるというふうに、その重要性を認め得る場合もあろうかと、かように考えるのであります。この扇動は第三条第一項第一号のロ、第二号のイからリまでの各項の罪につきまして一律に扇動を独立罪として処罰する建前になつておるのでありまするが、これを仔細に分析して考えて見ますると、扇動の結び付きやすい場合、その危険の程度等につきまして、各号の間において必ずしも同じではない、おのずから区別が考えられるのでないかと思うのであります。扇動が最も結び付きやすい場合、又その危険が最も懸念せられるような場合は、刑法第七十七条の内乱罪、第百六条の騒擾罪のような場合であろうかと考えるのであります。只今木村法務総裁から扇動は大衆を煽るのでその危険が非常に恐ろしいということを言われましたのも、そのような内乱罪或いは騒擾罪のごとく多衆共同して行われるような犯罪の場合にその扇動の害毒が非常に大きいということを意味せられたものと考えるのであります。そして現在刑法内乱罪、或いは騒擾罪におきましては、それぞれ集会等のほかに附和随行者をも罰する建前になつておるのでありまして、かような場合に扇動の危険性が最も多いと考えるのであります。その他の場合におきましては、比較的扇動の危険性が結び付きにくい場合が多く、教唆を以て律すれば足りるというようなことが考えられないこともないと、かように思うのであります。尤も最近の極左分子のやり方は、あらゆる手段方法を弄しておりまするし、且つ巧妙を極めておるのでありまするから内乱罪、騒擾罪以外の罪については扇動罪の危険の結び付きがあり得ないというようなことは勿論断言できない次第でございまするが、世上相当の非難もある規定でありまするので、内乱罪、騒擾罪以外の場合におきましても、この扇動の危険が大であり従つてそのいずれの場合においても扇動を罰しなければならない、これを罰しなければ本法案としての画龍点睛を欠くといつたような理由につきまして詳細御説明をお願いいたしたいと思います。
  79. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたします。扇動は先ほど法務総裁からも御答弁申上げた通り、不特定多衆の者に対してこれを相手として行うという関係からいたしましても、多衆犯罪或いは集団犯罪として刑法規定されておりまする内乱罪、騒擾罪、或いはこの法案において規定いたしておりまする第三条第一項第二号のリでございます。凶器又は毒劇物を携え、多衆共同してなす公務執行妨害というような行為が多く通常扇動行為の扇動の対象となるということは言えると思うのです。併しながら一面考えまして、それでば強盗罪のごときは扇動の対象にはならないかと申しますると、これも又過去におきましてその実例があるのでありまして、御承知と思いまするが、関東大震災が起きましたときに、横浜におきまして非常に大きな掠奪犯罪が起きましてその首魁は赤旗を立てて隊伍を組み、掠奪を扇動いたしました。相当大きな大掛りな事件が起きたわけでございます。そういうような場合におきましても、或る特定の事態におきましては政治目的を以てするかような掠奪犯というものが集団的にもやはり行われ得る危険性があるものと考えている次第でございまして、ここに要するに、只今申上げた集団犯或いは多衆犯以外の行為におきましても、もとより常時においても扇動の対象にはなる場合がある。特に又異常時におきましては非常な扇動の対象となる危険性が多いかと考えておる次第でございます。
  80. 玉柳實

    玉柳實君 多衆犯罪以外の罪につきましてもこの扇動の危険性がないということは私も考えないのでございますが、ただ扇動の最も結び付きやすい場合はお話通り騒擾罪、或いは内乱罪のごとき多衆犯罪の場合であろう。従つてこれらの場合に限定するか、或いは世評いろいろの非難を押切つても他の場合においてもなお且つ扇動罪を独立罪と認めなければならないか、という比較考慮する上におきまして参考としてお伺いいたした次第でございます。当局の説明としてはわかりましたので、次の点に移りたいと思います。  第三条第一項第一号ハの文書、図画の所持という点につきましても、この扇動の問題と同様に本法中最も議論の多いところでありまするが、この「所持」は多くの場合前段の印刷、頒布或いは公然掲示の中に包含される場合が多いのじやないかと考えられまするが、如何でございますかどうか。尤もこの点につきましても最近のごとくその手段、方法が極めて巧妙でありまして、例えば新刑事訴訟法で認められておりまする黙秘権を行使するというような場合なども考えて見まずると、この規定がなければ本法は骨抜きになる虞れはないこともないとも考えるのでありまするが、扇動と同様に問題の極めて多い条項でありますだけに、この「所持」を罰しなければならない必要性につきまして、いま一応当局のお考えを伺つて審議の参考にいたしたいと考えます。
  81. 関之

    政府委員(関之君) お答えいたします。この「所持」が第三条第一項におきまして、破壊活動として掲げられ、行政処分の団体等の規制の一つの原因となり、同時に三十七条以下の条文におきましてそれが犯罪として処分されることに相成るわけであります。従いまして、それではさような処置を受けまするからして、危険な行為として社会的に評価される十分な価値がなければならないと私ども考えておるわけであります。そこでこのハでありまするが、先ほど御説明申上げたように、これは内乱というような行為を宣伝いたしまして、そうして一般大衆に意識的な、ここに撹乱と混乱を来たしてそうして大衆を内乱という方向にぐんぐん引つ張つて行くという恐るべき危険な行為であります。これらの行為は、こういうような文書が各人に頒布せられたときにそういう実害が、頒布して皆んなが読むというときにその実害が生ずるのであります。併しすでにその行為が、さようなふうに大衆の意識を革命のほうに惑乱、混乱して、ぐんぐん引つ張つて行くというような危険な行為でありまするから、それを頒布するときまで手をこまぬいて見ているその行為は、国家全体の公共安全の上から考えまして、頒布するまで待つておるか、或いはその事前に察知するかという問題は、公共安全のためにどの程度まで問題を考えるかという基本の考え方に相成るわけであります。そこで私どもといたしましては、このハに掲げられる極めて危険な文書につきまして頒布されて、その結果が現われるまで待たずにその事前において十分にこれを把握いたさなければ公共の安全を確保する上において欠くところがある、かように考えましてこの規定におきまして、印刷をして頒布若しくは公然掲示する目的を持つて所持する、この点を誠に危険な行為であると考えたわけであります。なお現下の時局に鑑みますと、かような文書が極めて広範囲な組織的な配付網によつて頒布されておる、かような現実の事態を考えて見ますると、このことを印刷し、又こういうものを頒布若しくは公然掲示する目的を持つて所持するその行為自体も極めて危険な行為でありまして、その段階において抑えなければ結果として恐るべきことがここに発生する、かように考えてここに印刷し及び所持ということを規定いたした次第でございます。
  82. 玉柳實

    玉柳實君 次に本法は、労働組合の正常な活動に何ら影響を与えるものではないということが繰返し説明をされたのでありまするが、それにもかかわりませず組合側におきましてはこれに納得せずストに訴えてでも飽くまで本法の成立を阻止しようと企図いたしておる次第でございまするが、そこには何か誤解があろうかとも考えられまするが、又本法自体に何か不明の点があるかも知れないというふうに反省して見る必要もあろうかと考えるのであります。従来他の委員からもいろいろの実例を挙げて、かような場合には本法に抵触するかどうかにつきまして当局の意見を聞かれたのでありまするが、この問題が労働組合方面等から非常に重大なる関心を以て見られております関係上、世間の疑惑を少しでも取除きたいという意味におきまして、多少観点を変えましてこの点についてお伺いをいたしたいと考えるのであります。一人の無事の民をも生ぜしめないことが政治の要諦であるということは法務総裁、又二、三の委員から切々として述べられたのであります。誠にその通りであると考えるのでありますが、ただ今までの議論では主として官憲の場合について述べられたように記憶いたすのであります。勿論権力を持つ者がこれを濫用する、誘惑に陷りやすいわけでありまして、従いまして官憲は特に慎重に自粛自戒をしなければならない。これは当然のことであると考えるのであります。併しながら一般の人といえども何人も自己の自由を主張できますと共に他人の自由も十分に尊重しなければならない、その義務があるわけでありまして、この点警察官たると一般民間人たると何らの区別はないと考えるのであります。然るにこのストライキ、これも労働法規上容認せられておりまする正当な理由に基くストライキならば問題はないのでありまするが、今回のこの破防法の通過を阻止する或いは労働関係法規の議会通過を阻止するといつたような違法な、いわゆる政治ストを行うことによりまして、国民大衆に対して経済的な損失を与えることは勿論大衆の自由を束縛し、いろいろな危険をももたらすのであります。例えば電産等の組合におきましてストライキをやる、夜中若しも送電を中止いたしますれば交通事故が頻発いたしまして、そのために死傷者が出るといつたようなことも考えられます。病院におきまして、外科の手術をやる最中に、送電がとまるというような場合におきまして、その病人に対する人命の危険も考えられるのであります。或いは又鉄道ストをやる、相当前から予告して早朝からやればその危険も少いかと思いますけれども、抜打ちストでもやつた場合を考えて見ますると、群衆が駅構内において激昂して、駅員との間において、或いは群衆同士の間におきまして、いろいろな暴行、脅迫が起ることが当然予想もされる。更に或いは駅長室の破壊を企てる、或いは電車、汽車に投石、破壊をするというような、騒擾罪を以て律すべきような事態をも発生し得ることはないとも断言できないと考えるのであります。而もこれを組合幹部は堂々とその政治ストを計画し、取締官憲からも放任されておるのでありまして、これは治安上大きな盲点ではないかと考えるのであります。これに対しまして何らかの対策をお考えになつておるかどうか、伺いたいと存じます。殊にこのストライキが相当大規模になりまして、いわゆるゼネラル・ストライキといつたような大規模のストライキが行われるような場合におきましては、その危険は一層甚大なるものがあろうと考えるのでありまして、これら現下取締の盲点ではないかと考えられる点につきまして、今後の対策等につきまして一応お伺いいたしておきたいと存じます。
  83. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) 大変重大な御質問でありますから、法務総裁から改めて御答弁をいたしたいと思います。
  84. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 玉柳君どうですか、今日はこの辺で……。
  85. 玉柳實

    玉柳實君 これで結びまずから……。それでは、今基本的な問題につきましては後日総裁から御答弁を伺うことにいたします。これに関連いたしまして、考えられまする主として法律適用の問題につきまして御所見を伺いたいと思います。この第三条の二項によりますと、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対するため、」騒擾、殺人、放火、列車転覆のような行為をすることを暴力主義的破壊活動と定義しておるのでありますが、この前段の政治上云々の目的を以ちましてスト行為をやり、先ほど申しましたような違法な政治スト行為をやり、その結果として騒擾、殺人或いは放火或いは列車妨害等の結果を引起したような場合に、その場合明らかに私は因果関係はあると考えるのでありますが、先ほど例を挙げました通り、電産組合でストライキをやつたために送電を停止し、そのため交通事故が頻発してそれに基く死傷者が多数発生する、或いは私鉄ストによりまして多数群衆の騒擾を惹起し、列車、電車等への投石、破壊が行われるというような、さような結果を惹起することが当然に私は予見し得られると考えるのであります。勿論初めからかような結果を生ぜしめることを目的として政治ストをやるような、さような不健全な組合は一つもないと考えるのであります。さような意味におきまして、労働組合の政治ストに対しても本法適用がないという御意見があるかも知れませんが、併し御承知通り刑法におきまして犯意ということは事実の認識があれば足りるのでありまして、必ずしも結果を生ぜしめる意欲を必要としないわけであります。又こうすればかような結果が生ずるという場合に、こうすれば必ずかような結果が生ずるというような確信のある場合のみならず、かようなことをすればそのような結果が発生するかも知れない、或いは発生しないかも知れないというような不確実なる認識だけの場合におきましても、いわゆる事実の犯意として刑法犯罪の構成の要件を満たすことに相成つておるわけでありまして、従いまして、この違法な政治ストによりまして只今のような結果が生れることは当然予見できる、確実に予見できる場合、或いは不確実な場合を問わず予見ができる。而もあえてこれをやつたという場合に、本法適用は絶対にないかどうかということをお伺いいたしたいのであります。なお本法の他の要件といたしまして「団体活動として」とございますが、組合の活動としてストライキを決議してやるのであります。又本法にいう他の要件といたしまして、当該団体が継続又は反覆して将来更に暴力主義的破壊活動を行う明らかな虞れある場合とございますが、すでに現在のストは第一波スト、第二波ストが行われ、近く第三波のストが計画されておるような実情であり、事と次第によりましては更に第四波、第五波のストライキが計画されることもあり得ると、かように考えるのであります。さようなことを考えますと、今日の違法政治ストは本法にいう要件を一応備えておるとも考えられるのでございますが、果して政治ストをやる労働組合本法によりまして絶対に規制される場合がないかどうか。この点につきましていま一応御所見を伺いたいと存じます。
  86. 関之

    政府委員(関之君) お答えいたします。お尋ねの点の最初のほうの分でありますが、これは要するに団体としての活動がそこに行われたかどうかという点の事実認定に相成ると思うのであります。この法案における団体としての活動は、要するにその団体がこのような暴力主義的破壊活動をやろうということを団体としての決定をいたしまして、それに基いてかような活動をする、その場合に団体が、かような活動をしたという問題が、そういうことに相成るわけであります。そこでお尋ねのお言葉の中で、団体が、或る組合が政治的な目的を以て或るストをする、それが全く労働組合法上のストとは全然関係なく、全くの政治的なストであるということに相成りますれば、この二号の「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、」ということに当る場合があるかと思うのであります。而してその場合におきまして、団体が、団体意思決定に基きまして二号に掲げるようなことをいたしますならば、この法に当るということに相成るわけでありますが、私どもとしましては、このおよそ正当な、正常な法の下において活動する労働組合がかようなことをするということは想像することもできない、考えることができないというふうに考えているわけであります。もはやかようなことをする組合は、普通に法にいうところの組合というものではない。而もこの第四条におきましてはすでに御了承を頂いておるごとく、当該団体が一回やつた暴力主義的破壊活動を継続又は反覆してかような活動をやる、さような団体はすでにかような暴力主義的破壊活動をなすことが性格化した団体というふうに申上げてもよろしいかと思うのでありまするが、さようなとにかく団体でなければこの規制の対象とはならないのであります。従いまして、法にいう正常なる労働組合、法の下における正常な組合活動をなす労働組合がおよそかような暴力主義的破壊活動をなすことが性格化するというようなことは到底考えられないことであるというふうに私は考えている次第であります。
  87. 玉柳實

    玉柳實君 御説明はよくわかるのでありますが、私のお伺いいたしました主たる狙いは、団体としてこの第三条に列挙するような暴力主義的な破壊活動を、初めからさような犯罪を犯そうと意図して活動するというようなことはこれは万あり得ないと考えるのであります。ただ明らかに政治ストを目的として、その結果として欲する、欲しないは別といたしまして、その結果として先ほど申上げましたような、この第三条に列挙するような、事件の一部が随伴して起る場合があり得るのじやないかというふうに考えるのであります。先ほど申上げました刑法上のいわゆる事実犯意というような場合に該当するような事例の場合において、この法の適用が絶対にないかどうか、その点をお伺いするという質問の要旨であつたのでございます。その点につきましてもう一度お答えを願いたいと思います。
  88. 吉河光貞

    政府委員吉河光貞君) お答えいたしますが、ストライキのような行為と、ここに列挙いたしておりまする各種の行為とは、客観的に見まして必然的な連関のある行為ではないと考えております。で、お尋ねのような場合は一体具体的にはどういう場合であろうかと考えますと、一つ団体がストライキのような行為をやろうということを団体意思として決定いたしまして、これを実際に行なつた場合にこれに参加した個々の人たち団体意思とは離れてそういうような活動に出るのじやないかというような心配があるような場合があるのではなかろうかというような御指摘であろうと思うのでありますが、飽くまでここでは、団体に対して責任を問う場合におきましては、団体意思決定として一つの行為がきめられまして、この意思決定を実現するために役職員なり、構成員の人たちが行なつた行為が、団体活動である、かように考えておりますので、恐らく只今のような場合、団体の責任を問うというような事態は起り得ないものと考えている次第でございます、
  89. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記とめて……。    〔速記中止〕
  90. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 速記始めて……。
  91. 玉柳實

    玉柳實君 先ほどの私の質問を速記録等によりまして仔細に御検討頂きますれば、只今の御答弁は不十分であるということにお気付きになるかと思うのでありまするが、ただ局長から結果として労働組合活動については本法適用するような場合は起り得ないと、そういうような結論のみを本日は伺つておきまして、この程度で本日の質疑を打切りたいと存じます。
  92. 小野義夫

    委員長小野義夫君) それでは本日はこれで散会いたします。    午後四時二十六分散会