○
羽仁五郎君
法務総裁はそういうふうにお
考えにな
つておるのだろうと思います。併し
法律は別のことを
考えております。又この
法律を用いようとしておる人は別のことを
考えております。この
法律から見ますれば、例えば集団行進の途上において公務執行妨害があ
つた。これは先ず
破壊活動の行為として取上げられて来る。そういうようなことが幾つか重な
つて来る場合において、今
法務総裁がおつしや
つておるような
破壊活動をすでに実行し又繰返して行う虞れがあるという認定が下されるのです。そうして
法務総裁が決して公安調査庁の長官におなりになるわけでもないし、又
調査官におなりになるわけでもない。又永久に
法務総裁をなさるわけでもないのです。それで今朝からだんだん申上げておるような、現在までの
日本の
官僚的な
官僚独善、
官僚独裁の空気の中で、今
法務総裁のお
考えに
なつたこととは全く逆のことをこの
法律は
考え、この
法律を使
つて行くことができるのです。そういう点は今制限されておる時間の中で一一申上げませんが、一昨日、昨日
伊藤委員からの御
質疑をお聞き下さいまして、私の今申したことが
根拠がないとはお
考えにならんと思います。
時間の制限がありますので、第四の点に移らして頂きますが、第四の点について
法務総裁に伺
つておかなければならないのは、事実この
法律案の背後に何があるかということを
法務総裁としてもお
考え頂きたいと思うのです。この
法律案の正面から出ておるものと、それからその背後に何があるのだろうかということであります。で
法務総裁も繰返して御説明下さいますように、それから又我々も繰返して申上げまするように、一体この
法律が言
つておるような、さつきも申上げましたが、
破壊活動というものをなすところの
団体というものはあり得ようかということであります。これはいわゆる内乱という事実そのものを取上げても、さつき言うように、英国においては六年に一遍、或る
意味においては内乱の事実そのものでさえも滅多に起ることはないのです。よくよくの場合でなければ起るものではないのです。ですから、この
法律がそういうものを
取締ろうとしておる
対象についての
規定があいまいだという輿論及び学者の
指摘は、決して理由なしとは言えないのです。ないものを
規定しようとしているのですから、それはあいまいにならざるを得ない。これはこの
法律が
規定しておる
取締りの
対象となるものがあいまいを極めて、輿論に非常な不安を与え、学者はこうしたあいまいな
規定の持つ危険を
指摘せられるのは、この
法律の
取締ろうとしておる
破壊活動というものはあろうはずがないのです。ある
破壊活動、あり得る
破壊活動というものは刑法で
取締られているのです。あり得ない
破壊活動というものを刑法で
取締れないのは当り前ですよ。そこでさつき申上げたように、そこには二つの場合しかあり得なくな
つて来る。これはどうか
法務総裁も十分
考えて頂きたいのですが、
日本の過去の
官僚がそういうことを一回もや
つたことはない、そういう習慣は全くないというのならば、私はちつとも心配しない。併し事実においては、
日本の過去の
官僚は、それから又
日本の現在の
官僚が以てよりどころとし、或いはその助けとしているかも知れないアメリカにおいても、フレーム・アツプ、でつち上げ、或いは挑発ということは、これはもう誰が見ても実に厭うべきそういう習慣がございます。福沢諭吉は、
日本には正月の初捕りということがあ
つたと、江戸
時代にはいわゆる岡つ引というのですか、目明しというのですか、正月の二日に仕事始めとい
つて江戸の市中を徘徊する、正月の二日だか元日だか知りませんが、別に悪いことをする人があるはずはありません。
併しその日は何も仕事がなくて役所へ帰
つて来ては甚だ縁起が悪いというのです。どうしても縁起に仕事をしなくちやならんわけで、人相がちよつとおかしいとか、或いは風附がどうもちよつとおかしいという人を捕えて来て、とにかくその日の仕事始めとする、正月の初捕りという
言葉が
日本にあるくらいです。そうしてこれは封建
時代の
言葉です。福沢諭吉はそういうことを心配したかも知れないが、今日はもうないとは先生もおつしやらないと思うが、如何でしよう。そういう
伝統があるのです。フレーム・アツプ、この間も海野普吉さんがラジオを通じても言
つておられました。その如何にいわゆる情報屋の情報というものによ
つて、
日本の情報
警察といいますか、祕密
警察といいますか、そういうものが動いているかという一つの例を挙げておられる。我々の聞いたところによれば、
特審局長の犬が毒殺せられたと、これは成るほど破壊分子がそういうところまで行
つているのかと、僕は
吉河君に非常に同情した、さぞかし
気持が悪いであろう、あとから聞けばそれは肺炎で死んだのだという話であります。(笑声)これは恐らくは噂話に過ぎないでしよう。併し私は笑えないものがあるのです。
法務総裁もおありになるだろうと思います。労働組合のメンバー、或いは
政党のメンバーでありましても、若い人もおりますよ。随分思慮の足りない人もある。その人に向
つて挑発いたしますれば、それは瓶の中にガソリンくらい入れて火をつけて投げるくらいのことはやるかも知れない。そういうことをや
つてフレーム・アツプをやり、或いは挑発をやるというふうにして起る場合に、成るほど或る
政治団体なり労働組合なり何なりが、ここに言うところの
破壊活動というものをなすかも知れない。然らざる場合には、さつき申上げたようなよくよくの場合、
政治家が手段尽きて、而もその信念のために
武器をとるという場合しかあり得ないのです。そうでないとするならば、今度第二の場合ですが、一定の
団体を包括的な認定によ
つてそういう破壊的
団体であるとすることなんです。この包括的な認定がこの
法律案の主体をなしており、これが如何に問題であるということは
伊藤委員が各条項について
指摘された
通りです。そうして、想像するところによれば、恐らくは
共産党が
解散せられ、或いは「アカハタ」が発行停止をされるのです。そうして、仮にこの
目的を達して
共産党が全く絶滅せられたと、根絶せられたという場合に、公安調査庁は潔く
解散せられるでしようか、消滅するでしようか、これは
法務総裁もよく
考えて頂きたい。決して
解散しないと思います。
日本の
官僚の
伝統の上に立つこの公安調査庁は決して
解散しません。その次の仕事を探しますよ。正月の初捕りを始めるのです。その次に何をやるかといいますと、必ず
社会党をやります。或いは我我をやります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)これは過去において行われたことであり、決して今後行われないとは限らない。そうして、今ノーノーと言
つておられる自由党にまで最後には及んだことは、決して過去のそんなに遠い、一世紀も二世紀も遠い話ではありません。特高
警察が
共産党をやり、
社会党をやり、そうしてそのあとにやがて元の政友会、民
政党にまで及んで、遂に大政翼賛会を作
つた。これは論理的にそうならざるを得ない。
官吏が
自分のや
つておる仕事がなく
なつたと、これは大変喜ばしいと、今度
自分は八百屋か魚屋か正業について一生を送ろうというふうには思わないのです。そうではなくて、これは次に仕事を探さなければならない。これは決して現在の
官吏の個人を侮辱しようと思
つているのではない。
法務総裁も御同感であ
つた通り、どうかしてこの
官僚主義から脱却したいという唯一の動機から、唯一の憂慮からこの際申上げておるのです。お笑い下さるようなことであるならば、私は実に嬉しいのです。併しながらそうでないからこの点を申上げておる。そうして、今申上げたように
破壊活動というものはあり得ないのですから、これをでつち上げるか、挑発するか、そうでなければ次々と拡大して行く。この拡大することのもう一つの必然性には、先ほども申上げましたように、
共産党なら
共産党を圧迫すれば非合法になる、非合法になれば秘密
活動になる、秘密
活動になればどこへ行くのかわからない。そうしてこれはアメリカの場合にも最近起
つておることですが、その
共産党なり、或いは禁止された
団体なりが、或いはそれと類似の
団体が印刷物を出して、そうしてそれを郵便によ
つて送りつける場合があります。
法務総裁のお手許などにもそういう郵便が来るかも知れない。それから又そういう郵便の宛先のリストがそういう
団体にあるかも知れない。そこでそういう
団体を尾行し、或いは張込みを行う、或いはそこに乗込んでそういうリストを公安調査庁が手に入れられれば、そのリストに載
つておる名前は、
左藤義詮君のような
政治家のところにも必ずそういう新聞は来るだろうと思う。そういう
人々の名前は、そういうリストの上から公安調査庁の重要な資料として、その上に調査が行われるのです。そうして恐らくは
左藤君なり何なりの場合には、これはそういう疑いの全然ない人だということが調査の結果わかるでしよう。併しわかるまでの間は、あなたの人格は侮辱されるのです。こういうことが起り得ないということを、
法務総裁は良心に基き、
政治責任に基き、国会における証言の
責任においておつしやる、とができましようか。而もそういうことが起る虞れが多分にあ
つて、或いは多分と申さなくてもよろしいです、多少なりともあ
つて而もその
破壊活動というものは実際ない。或いはあるとしても、これを絶滅することはできない。こういう
法律案がどうして堂々たる
法務総裁によ
つて国会に提案され、国会を通過することができるのでしようか。今申上げたことが間違
つておるのでありましたら、どうか教えて頂きたい。