○
伊藤修君 私は
本案に対しましては反対するものであります。なお
本案全体を通じまして、
質疑応答中において始終指摘しております
通り、これらの点に対しましては
本案における
ところの大きな欠点であると言わなくてはならん。又この欠点がやがては我々の
基本人権を阻害することの結果をもたらすものであるという観点からいたしまして、この
法案を施行するに当りましては以下述べる
ところの点を修正するに非ざれば、いわゆる国民の
基本人権の
保障というものが全きを得ないと、かように確信しておる次第です。
従つて私はこの際
本案については修正案を
提出いたしたいと
考える次第です。修正案はお手許に配布済みと心得えますから、以下修正の各條項についてその案文と、その
理由とを簡單に申上げて私の
意見を終りたいと存じます。
先ず
本案の第二條中「(
行政協定第二條第一項の施設又は区域をいう。)」を「
行政協定第二條第一項の施設又は区域で官報を以て公示されたものをいう。」に改めたいと思うのです。これは
質疑応答中にもありましたごとく、このいわゆる「
日本国内及びその附近」という
行政協定に基く
ところの字句を
本法中に引用いたしまして、これを基本にいたしまして、すべての
本法に定める
ところの犯罪事実を確定しようという先ず根抵の問題であるのであります。その地域が果して国民に知らさずして、ただ現場における
ところの標示のみを以て国民が違反した場合において直ちに
本法のごとき重罰を課するということは、これは為政者のとるべき方法ではないと思うのです。少くとも国民全体に周知徹底の方法をと
つて然る後現場においてこれが禁止区域たることを標示してこそ初めて為政者において手を盡したにもかかわらず、国民に違反行為があればよ
つて以て
本法において取締る、こういう行き方が正しいと思うのです。
政府当局におきましても、これはやがて官報若しくはその他の方法を以て公示されるという御
趣旨の御
答弁はありましたが、少くとも
本法において基本的にこれを明示しておかなか
つたならば、重なる
政府の行政
措置のみを以てしてはこの重大なる
ところの基本としてはふさわしくないと、かように
考えまして、本條中においては、先ず以て
政府はその施設又は地域のどこそこであるということを官報を以て明示することを要求する次第であります。
第五條中「糧食、被服、その他の物」を「その他軍事上重要な物」に改める。これは
質疑応答中において明確にな
つておりますごとく、いわゆる糧食の些細なものにおいてもいわゆる純理論から申しますれば、それをもやはり糧食云々として、器物毀棄罪が成立することになる。例えば一軍人の被服に対しまして、争い中或いはざれ事中において、これがたまたま破棄するに至りますれば、これをも
本法においていわゆる刑法の器物毀棄罪によらずして、これを本條によ
つて処罰することは過酷に失するものがあると言わなくちやならん。かような些細のものをも取締るということは恐らく
考えていられないと思うのです。又事実事案として裁判所に現われた場合におきましては、これに対して相当な
考慮は認められると思うのでありますが、併し少くとも
法律の成文の上において、かような末梢、些細なものをもいわゆる法の対象としてこれを取締ろうということになりますれば、この
法案を
運用する
ところの末端機関におきましては、この字句に拘泥いたしまして、些細のことをも取上げて、以て一応留置し取調べをし、そうしてその後裁判の手続を履むというような結果に至ることは必然と思われるのです。そういうようなことがあ
つてはならんと
考える。恐らくかような軽微なものは適用しないという立案者の
考え方も、この法が実際に
運用されるに至りますれば、その立法
趣旨というものは曲げられまして、広くこれを活用することに努められることは、今日までの第一線の警察官あたりの
考え方から徴しましても十分我々は認識しなければならん。さような危險の虞れのある、疑義のある
ところのものはこの際除いて、以てかような場合におきましては、刑法の言う
ところの器物毀棄罪を以て賄いますれば十分事足れりと
考えるのです。
従つてこの場合におきましては、
本法中においてかようなものは除き、その代りその他軍事上重要なものと、こういうことによ
つて十分私は賄い得る、かように
考える次第であります。
第六條第一項中「別表に掲げる事項」を「別表に掲げる事項でその漏えいが合衆国軍隊の防衛作戰上支障を生ぜしめる虞のあるもの」に、「物件で」を「物件であ
つて」に、「又は不当な方法で、」を「且つ、不当な方法で、」に改め、同條第二項中「通常」を削り、「收集することができないようなものを」を「收集することができないものを、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をも
つて」に改める。これは大変長いようでありますが、先ず前段に申上げる
ところの「別表に掲げる事項」を「別表に掲げる事項でその漏えいが合衆国軍隊の防衛作戰上支障を生ぜしめる虞のあるもの」に限
つた理由は、これは
本法の第六條にいわゆる別表に掲げる事項として別表に列記された各事項は、すべて機密という認定を受けるわけであります。この別表を一覧いたしますれば、いわゆる機密でないものも含まれるがごとき感を抱くのであります。又事実これらのものを率直に
考えますれば、いわゆる軍の機密として取上げるに足らざるものをもここに掲げられておる。若しそれが作戰上に至りますれば或いは機密に属するものもあり得ると思いますが、少くとも平時の場合におきましてはさようなことが軍の機密と
考えられないようなものも随分取入れられておると思うのです。
従つて別表に掲げられておるものを我々は容認するといたしますれば、この前段におきましてこの
法律の主たる目的は、いわゆる
安全保障條約に基く
ところの
日本国の防衛及び第三国の直接侵略、これを
アメリカが軍において担任するのでありまして、この担任することの目的を達せしめるために、この
国内法においてこれを取締ろうというのでありますから、少くともこの
安全保障條約の企図する
ところの目的の範囲内において、我々は手当をいたしますれば、十分事足りると
考えるのです。然らずしてこれが平時の場合においても容易に解釈を左右し得るような点にまで推し拡げて、
国内法規において国民を規制するという
考え方は、余りに行き過ぎではないかと思うのであります。でこの点は将来においていろいろな問題を投げかけると思うのです。
只今少くとも
本法においてこうした
一つの枠を設けて、以て別表のものに対する
ところの機密保持ということに定めることが最も私は適合するものと、いわゆる
安全保障條約の目的に適合するものと
考える次第であります。
で次にはこの「物件で」を「物件であ
つて」と、これはただ文章の語呂を修正したに過ぎない。その次に「又は不当な方法で、」を「且つ、不当な方法で、」とこう改めたことには
本法の一番これが中心点になると
考えるのです。いわゆる
本法におきましては意欲犯罪といたしまして前段において害すべき用途に供する目的を以ていたす場合には
一つの犯罪が成立する。これは勿論取締らなくてはならん。私はこれは是認いたします。併し後段の又は以下はこれらの意欲、これらの不法行為をしようと、こういう害悪をしようという
考え方を毛頭持
つていない人々、例えば私なら私が趣味によ
つてあらゆる世界中にある現存する飛行機の型を收集したいという熱意からいたしまして、その飛行機なり
写真なりを收集いたします。收集の場合におきましては、それが或いは正しく売買によ
つて收集し得ることもあります。或いは歓心を買
つて收集することもあります。又、收集困難な場合におきましては、いわゆる不当な方法によ
つて收集することもあり得る、こういう收集癖のためにもこの犯罪は成立することになります。又、学者が或る発動機なら発動機を発明しよう、又は研究しようという場合において、あらゆる世界的の、世界に存在する
ところの、機械の型、或いはその図面というものを收集し、研究の
資料に供しようという場合におきましても、その行為において、少くとも不当とみなされるようなことがありますれば、すべてこれは罰せられる。併し、その学者は決して第三国に利益を図り、
アメリカ軍隊に害悪を與えるという
考え方は毛頭持
つていないという場合においても、犯罪によ
つて直ちに
処罰される。これは今後における
ところの
日本の科学の進歩、
日本の学術研究の向上に大きな阻害を與えるのみならず、これによ
つて言論というものが幾ばくか制約され、むしろ言論のすべてをこのことに関する限りは制約するものと言わなくてはならんのです。この点において、若しこれが原案
通り通過いたしますといたしますれば、恐らく将来におきまして、言論機関というものは、いわゆる日常刊行せられる
ところの
新聞、雑誌というものは、この別表に掲げられておる事項に関する限りは、すべて單独にこれを掲載し、
記事とすることは不可能となるのです。いわゆる事実上検閲制度の復活であり、事前に或る機関に、こういう事項を書きたいと思うがどうだと言
つて、事実上検閲を受けざるを得ない、してみますれば、今日言論機関の自由を
保障しておる、又これに対する
ところの何らの
法律的制約はないにもかかわらず、この
法律によ
つて間接的に検閲制度の復活ということを容認にすることの不合理の結果を招来することは、我々として到底憲法をみずから守ろうとする立場におる者といたしましては、かかる
考え方には絶対に
賛成しがたいのであります。従いまして私は
只今申上げましたような修正にいたしたい、この修正によ
つてもたらす
ところの結果というものは、いわゆるさような、合衆国軍隊を害する
ところの用途に供する目的を以て、そういう意欲を以て收集し、探知し、いわゆる
意思と行為がなければいわゆる
処罰されない、こういたしますればさような
意思のある、さような目的のあるものはそれこそ
処罰することは私は差支えないと思う。さような
意味におきまして、本條におきまして特にこれは重点的に
考えましてこの修正を要求する次第であります。
第二項の「通常」を創る
意味は、この「通常不当な方法によらなければ」という文字を入れてこの條文を立てるということは、これは非常に異例な立法形式である。立法形式といたしましても国民がこの
法律の規範の下に服する場合におきましては紛らわしい法文として将来にこの解釈については相当な議論の余地が存する
ところと思う。およそ
法律を制定する場合におきましてはかような疑義を残すがごとき字句を、表現方法をとるということは私は好ましくないことと思う。
法律はそのまま国民の規範として直ちに知り得る、了解し得るような
法律を制定することが一番望ましい次第であります。かような
意味におきましてこの「通常」という文字を削らんとするものであります。
次にこの「收集することが、できないものを、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をも
つて」というこれはいわゆる漏えい罪に対しましていわゆる單なる、
質疑応答中にもありましたごとく、自分の家内に述べたとか、或いは心やすい者に不用意に述べたとか、こういう
意思のない行為もこの條文の適用によりまして直ちに
処罰される。
政府当局の御
説明によりますれば、
本法はいわゆる過失はこれは問わない、
意思なき行為は
処罰の対象とならないと、かように御
説明にな
つておるにもかかわらず、この場合に限りましてはいわゆる
意思なき行為を罰することができる、自分の家内に不用意な間に寝物語りで以て自分の職場に起
つたことを述べた場合におきましては、それが直ちに漏えい罪として
処罰されるということは、我々の日常国民生活の理念に反することも甚だしい。かような社会生活に不合理な
考え方の下にいわゆる
意思なき行為を罰するということは行き過ぎも甚だしいと言わなくてはならんと思う。かような
意味におきましてこの点の修正を求める次第であります。
第七條第二項中「教唆し、又はせん動した者」を「教唆した者」に改める。これはいわゆる破防法におきましても「せん動」という文字が非常に問題とな
つておる。この点は私は煽動ということに余りに敏感過ぎる、煽動という
言葉に余りに恐れ過ぎると思うのです。一体
本法におきまして煽動ということがあり得るかどうか、観念的にはあり得ると
お答えがあ
つた通りであります。併し事実上かようないわゆるスパイ行為、探知行為、收集行為、漏洩行為、こういう犯罪行為、こういう犯罪構成要件を以てしなければ犯罪は成立しないにもかかわらず、これを公に煽動する、或いは公でなくとも煽動するということがあり得るでしようかどうか、むしろこれは教唆、幇助という形において多く行うことがあり得る。煽動それ自体は公然なことになります。そういたしますればみずからその犯罪行為を周知せしめて犯罪を公然性を以て行うというような結果に至る。だからかような行為をも
処罰せんとすることは今日の立法体系におきましていわゆる幅を広くし、煽動をも
処罰しようという
考え方がたまたまこの一端に表れて来ておる。或いは破防法に煽動行為を入れるためここにこれを表現するというお
考え方かもわかりませんが、ここで橋頭堡を作
つて破防法における煽動というものを前にこういう
法律に「せん動」という字句があるじやないか、いわんやこの破防法において「せん動」という表現は当然である。こういう理論付けのためここに前以て予防線的にお書きにな
つたのかも存じませんが、私は事実上の問題としてさような事例は少いかと
考えます。して見ますればあえてかような文字をここに引用して立法形式の表現として用いられることは
賛成しがたいわけです。この点も私は削除を要求するものであります。いわゆる実際の問題として実益がないと、こう申上げるわけです。
それから第十九條第一項中「
参考人を」とありますのを、「裁判官の許可を得て、
参考人」に改めるのです。これは
政府の
質疑に対する
ところの御
答弁によりますれば、いわゆる行政
処置であるから行政権の範囲内においてかようないわゆる間接の方法によ
つて成る行政行為を賄うということは当然のことである、こうおつしや
つておりますが、
政府当局の立場からいたしましても、日常
法務関係にお携わりになる
ところの御列席の
政府当局といたしまして、この十九條に掲げることがいわゆる單なる行政的
処置とお
考えになるかどうか。本質は刑事訴訟法に定める
ところのいわゆる尋問、検証、物件の領置、いわゆる司法権を用いなければ到底なし得ない
ところのものである。この場合におきましては刑事訴訟法におきましてはいずれも令状の発行を要求しておる、それを條件にしておるのです。にもかかわらず
本法においては單に行政的
処置であるというようなお
考えの下に安易にこれを定められておるのですが、その本質はいずれも司法的処分である、司法行為である、準司法行為と申しておるものであります。かような準司法行為に対しましては、なお且つ單なる行政的
措置であるという
考え方の下にこれをなし得るということは、これこそ憲法の言う
ところの
基本人権の
保障というものが全くここから崩されるものと言わなければならない。若しかこの理論を推し拡げるならば、いわゆる検事、警察官、これらの第一線の捜査官はいずれも行政官であります。準司法官としての行政官であることは御
承知の
通りでしよう。この行政官がなすことはすべて行政
処置である。だから検事は何をや
つてもいいんだ、裁判所の許可を得なくてもよいのだ、こういう観念に通ずるものがあるんではないでしようか。してみますれば現在刑事訴訟法で以てこれを喧ましく規律する必要はどこにもない。刑事訴訟法も改正しなくてはならない結果を生ずるのではないでしようか。かような不合理の基本的観念を以て、安易にこれを行政行為としてここに頬被りして通ろうという
考え方は、私は見識ある
ところの
政府の各理事者の
かたがたのとらざる
ところであろうと思うのです。若しかようなことが容易に認容されて行くならば、延いて以て
日本の
政府の
法律体系というものは、行政
措置なら何事もなし得る。かような不合理の結果を招来し、過去における
ところの警察国家、権力国家、そういうものが再び具現するような結果をもたらすことは火を見るよりも明らかであります。
以上申しました観点からいたしまして、本修正案を
提出するものであります。私は参議院の
法務委員会というものが今日までのあり方といたしまして、超党派的にすべてのものを判断して参りました。又参議院において
取扱う
ところの
法律案というものは一党一派に偏すべき
法案ではない。国民全体に普遍的に適用される
ところの一般法規を多く
取扱い、而もそれはすべて国民の
基本人権に影響をもたらす
ところの重要法規であるのであります。
従つて参議院の
法務委員会のあり方といたしましては、常に政党政派を超越しましてただ一個の参議院議員として、一個の
法務委員会の
委員といたしまして大所高所からこれを
考えまして、すべて国民のために最もよき
法律を制定することに努力して参
つた次第であります。然るに
本案についてのみ私は参議院が、衆議院においてミスした
ところのもの、衆議院において
審議不十分と思われる
ところのこの
法案に対しましてチエツスするという
考え方は、十分参議院の
使命としても当然なさるべきことであると思うのです。由来国民が参議院に対しまして大きな信頼と
希望とを抱いておることは、少くとも参議院の
法務委員会は超党派的にものをと
つて、以て行動をしてお
つた、この信頼にあると私は自負している次第であります。にもかかわらずここにかような重要な事案に対しまして党派的にいろいろな拘束を受けられまして、これに対しまして真に皆様方がお持ちになる
ところの
考え方というものが、そのままここに採決の上に表現せられないということがありますならば、それこそ私は二院制度の否定せられる
ところの国民に大きな口実を與える結果をもたらすものではないかと思うのです。こういう点を憂えるのです。私たちは参議院の立場といたしまして、どうかこれに対しましては虚心坦懐に自分の信ずる
ところをそのまま表現して頂きたい。勿論自由党の
かたがたにおかせられましては
政府與党という
一つの立場もおありになりましよう。併し良心の赴く
ところ最も正しいという
考えを率直に披瀝して頂きたいことを私は切に懇望してやまないのです。殊に緑風会の
かたがたにおかせられましては、一党一派に偏せず、個人の立場を以て常に自由に御
活動あらせられるというこの会派におかせられましては、当然私はよき
法律はよきあり方に定められることが最もふさわしいあり方ではないかと思うのです。それが会派の
一つのあり方に拘束されるということは、参議院緑風会本来の成立の
趣旨からいいましても、大きな矛盾があるものと言わなくてはならん。この点は十分私はお
考え合せを願いたい。恐らくこの
法律が原案
通り公布されますならば、それこそ将来国民がみずから作
つた法律にみずから拘束を受け、覊束され、曽ての江藤新平がみずから梟首罪を制定しみずから梟首罪に服したがごとき、そういうような結果をももたらすべき危險な
法律であるということを私は指摘いたしまして、私の修正
意見を申上げる次第であります。