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1952-03-29 第13回国会 参議院 法務委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年三月二十九日(土曜日)    午前十時二十九分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            伊藤  修君    委員            左藤 義詮君            長谷山行毅君            岡部  常君            齋  武雄君            一松 定吉君            羽仁 五郎君   国務大臣    法 務 総 裁 木村篤太郎君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君    法務法制意見    第二局長    林  修三君    刑 政 長 官 清原 邦一君    法務矯正保護    局長      古橋浦四郎君    中央更生保護委    員会事務局長  斎藤 三郎君   事務局側    常任委員会専門    員       長谷川 宏君    常任委員会専門    員       西村 高兄君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○検察及び裁判の運営等に関する調査  の件  (恩赦に関する件)   —————————————
  2. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 只今より委員会を開きます。  先般に引続きまして法務総裁に対する質疑を行います。先ず一松委員より御要求がありましたから、平和條約締結に伴う恩赦政府構想について総裁の御説明をお願い申します。
  3. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 御要求によりまして構想をここに披瀝いたします。  今回準備中の恩赦につきましては、恩赦法に定めるすべての種類の恩赦を行うことにいたしました。即ち政令による大赦減刑復権と、個別的に行う特赦個別減刑執行の免除、個別復権の七種であります。  そこで大赦令考え方を申上げます。すでに廃止された法律の罪、独立回復後は廃止することになつている法令の罪、即ちポツダム政令、これらはできるだけ大幅に考えておるのであります。  次に選挙関係事犯もいわゆる政治犯の一種と考えられまするので、これは十分考慮いたしたいと思います。次に、すでに目的を達して廃止せられた経済統制及び経済民主化関係法規もできるだけ取入れたいと考えております。次に、占領下長年の慣習に関しまして行われた法令、いわゆる労働関係につきましては、これを検討を加えたいと考えております。次に、税法関係につきましては無理の面もなかつたとは言えないので、これは目下研究中であります。  三特赦大赦に漏れた者で赦免相当の者に対しましては、個別的に調査の上行うことといたしたいのであります。これは国民感情考慮し基準を考え、検察官、刑務所長司法保護委員会委員長らの上申によつて詮議することといたしたいと考えております。  四、減刑、少数の兇悪犯を除きまして、政令により広く行いたいと考えております。除外されたものにつきましてはよく内容を検討いたしまして、酌量すべきものは個別的に減刑したいと考えております。  以上であります。
  4. 一松定吉

    一松定吉君 大体のことはわかりましたが、刑の判決確定したようなもの、まだ確定前で今審理中のもの、そういうものに対しましては、今まではよく判決確定しておるものということが前提となつて、それがために控訴上告のものも取下げて確定させて恩赦恩典に浴するというやり方をして見たり、或いは控訴上告をしておつても、確定したくても当然或る一定の期間内にその始末がつけば、遡つて恩赦恩恵に浴するというような実例、そういうのがたくさんありましたので、今現在審理中のものであつて先に申しましたような考えで早く確定しなければいかんではなかろうかというので、頻りに取下げるようなことをしておるものもある、取下げなくても或る期間内にきまれば、恩赦発令のときに遡つて効力を生ずるからといつてそのままにしておるものもある。いろいろ多種多様にあるのでありますが、こういうことについての御所見を承わりたい、これを先ず一つつて置きたいと思います。
  5. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 減刑につきましては、従来の先例におきましては、刑の有罪判決確定した人に減刑をするという、長年さようなことをいたして参つております。昭和二十二年の最後減刑の際に、一審、二審で禁錮以上の有罪の言渡しを受けて控訴中のものについて特例を設けまして、只今お話通りに非常にその係争中の当事者が混乱を来たしましてそうして不当の刑と思いながらも取下げをするというようなことがございますので、昭和二十二年の減刑令におきまして、政令減刑令施行の際に有罪の言渡しを受けて控訴中の人については、その後に確定した際に一般減刑と同じ割合で減刑をするという、こういう先例がございますので、これを十分研究して、只今それが非常にいいのではないかと、かように考えておる次第でございます。
  6. 一松定吉

    一松定吉君 そうしますと今のようなそういう非常にいい方法で結構だと思いますが、大赦令を発してから期間でも設けて、この期間内に確定せねばいかんとかいうことでもあるのでしようか。期間はなくても、例えば六カ月でも、一年経つた後にでも、判決があつた後に初めに遡つて恩恵に浴するということになるのですか、その辺はどうなつておりますか。
  7. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 昭和二十二年の先例におきましては、全然期間考えずに十分控訴権を行使して、そうしてその後に確定した際に減刑をする、こういう先例がございます。それがよいのではないかと考えております。
  8. 一松定吉

    一松定吉君 大変結構で、そういうように皆民間も希望しておりますのです。  そこでもう一つ伺いたいのは、例えば尊族殺今とか、或いは強盗殺人とかいうようなものに対しては今まで恩赦とかいうようなものについて随分澁つてつたよう実例もあるんですが、よほど兇悪な悪質なものは別として、その他はどういうようなお取扱いになさる御予定ですか。
  9. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 従来の先例におきましては強盗殺人等、すべて兇悪犯として減刑から除外に相成つておりまするが、今回はその点も十分検討いたしたいと存じております。併し本当に兇悪なるものについては、これはやはり一応除外をして、そうして個別的に事情を詮議して、そうして個別的に同情すべきものについては減刑を取計らうのがよいのではないか、かように考え準備をしておるような状況でございます。
  10. 一松定吉

    一松定吉君 大変この御構想は我々非常に満足するのでありますが、最後一つ伺いたいのは、総裁からお話のありましたように、ポツダム政令によつて発令せられましたるいろいろな法規に触れたもののうちで、統制経済とかいうようなもので、ふだんこういう特例のない場合には、当り前の商売をやつたことで犯罪にならないのが、こういう特例によつて普通の商売が罪になるというようなことで処罰されたのが、今度の戰争中において、又、その後において非常にその数が多い。これは今総裁お話によりますると大幅にこの恩恵に浴せしめたいつもりである。これはむうその通りの御予定でありましようか、その点を伺いたいと思います。
  11. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 総裁からお話のございました通りでございまして、統制がもうすでに必要がなくなつて、すでに廃止になつておるもの、或いは講和回復の際に廃止になるというような予定のものについては、ポツダム政令で出ておりますもの、その他單行法で出ておりますものもございます。さようなものも赦免すべきではないかと考えて、現在準備をいたしているような状況であります。
  12. 一松定吉

    一松定吉君 最後に……。それで結構ですが、そういたしますと問題はすでにその刑の執行を終えた者に対して何か特別な方法をおとりになるのですか、その点は……。
  13. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 恩赦法によります赦免減刑その他はすべて既往に遡らない、効果が及ばないということになつておりますので、これはいたし方がない、かように考えております。
  14. 一松定吉

    一松定吉君 その通りでしようが、何か復権とか何とかいう手続きを早くとるとか何とかいう方法で、やはりその恩恵の一部に浴させるほうがいいと思いますが、それはどうですか。
  15. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) お答えが不十分でございまして恐縮でありますが、復権等につきましては、一般復権もございますし、特別の復権もございますので、さような際に十分考慮せられると思います。
  16. 左藤義詮

    左藤義詮君 関連して……、非常な大幅の恩典を施されることは非常に結構でございますが、さよういたしますと、どのくらい現在の受刑者が減りますか。実は予算の審議をいたしますときに、今年の行刑関係予算を実は通してしまつたわけでありますが、そういうことは余り考慮に入つていないように思うのでありますが、その予算受刑人員との関係、どういうふうにお考えになつておりますか。概略人数或いは予算との関係について……。
  17. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) まだ案が確定いたしておりませんから、はつきりしたことは勿論わかりかねるのでございまするが、現在在監している人で、出る人につきましては減刑によつて出る人が一番多いのではないかと考えております。私保護のほうの関係をいたしておりますので、出て来た人がとたんに行きどころがなかつたり、職がなかつたりして又間違いを犯すというようなことがあつてはならないと考えまして、これらについての手当も考えたいといろいろ調査をいたしておりますが、まだ何人出るかということは見当がつきかねております。ただ相当数出るということはわかつておりまして、予算上それは大蔵省の査定の際に考慮せられていることと私は存じております。
  18. 左藤義詮

    左藤義詮君 実はその問題をあとから質問しようと思いましたが、今お答えがあつたのでありますが、一方刑務所のほうの費用相当私は軽減されるのじやないか、又一方今おつしやつたような出所いたします者をどういうふうに保護指導して行かれるか、これは私はこのほうに実は予算の振替えというか、相当の御用意が要るのじやないか。それについてどういうような、今あなたのほうから先にお話があつたのですが、もう少し具体的に保護行政、今後の指導についての構想、どのくらいの人数予定して、どういうような準備をしていらつしやるか、それに対する予算が、補正しなくて先日通りました予算で賄い得るかどうか。その見通しを伺つておきたい。
  19. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 先ほど申しましたように、在監者約八万人ぐらいにつきましてどれくらいの人が即日、或いは十日とか二十日後に出るかということを考慮研究いたしておりますが、まだ数字はわかりませんです。ただ、減刑の率につきましても、まだ確定はいたしておりませんのでございますが、従来の例によりますと、四分の一を減する、こういうことに相成つております。それらの点から言いますと、四分の一と言いますと二割五分でございますので、それだけ、八万人の二割五分が、即日或いは近いうちに出所するとは思いませんが、やはり一万人くらいの人が即日或いは遠からざるうちに出所するのではないか。而も昨今の状況におきましては、仮釈放制度が極めて広汎に活用されております。この仮釈放にならない人が結局多く減刑令適用を受けて出所するごとに相成るものと存じまして、これらの保護につきまして万全を期したいと存じておりまして、実はこの数日その案を研究いたしております。大体構想といたしましては各府県にございまする保護観察所刑務所と十分の連絡をとり、一大体どういう人が何人ぐらい出るだろうか、そのうち行き所のない人が何人あるだろうかということを十分検討いたして、そうしてそれについて保護会側で受入れる数がどのくらいあるか、それから生活保護法適用を受けさせることについて都道府県側十分連絡をとり、或いは職業のない人については職業安定所側との事前に十分連絡をとつて、できるだけ行き所のない人について安堵をさせたい、かように考えております。で、その当日は恐らく刑務所から適当の距離の所にそれらの人に対する相談所等も開いたらいいのではないか、そして万全を期したいと存じております。さような関係相当予算が必要かと存じております。これらは未確定のために本予算には、二十七年度の予算には計上しておりませんので、予備費で、来年度四月一日になれば予備費要求したい、予備費が困難な場合には二十七年度分の保護費用をできるだけ第一四半期にたくさん使うことができるようにしてもらつて、そうして第二四半期、第三四半期、或いは第四四半期において補正なり、適切な措置をとつて参りたい、かように考えていろいろ準備してあります。
  20. 左藤義詮

    左藤義詮君 近くは昭和二十二年ですが、或いはその以前にも相当恩赦等があつたが、そして刑を免ぜられたり、刑期を減ぜられたりした人が重ねて又罪を犯すようなものがあつたかどうか。そのために治安上、或いは一般の人に非常な迷惑を及ぼすようなことがなかつたかどうか、その点について従来の実績等研究になつてつて何か資料があるかどうか。そういうことを参考にして今後どういうようなことを法務総裁として将来お考えになつておるか。そういう過去の実績等について一つお伺いしたい。
  21. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 過去の実例は私は今ちよつと申上げることはできませんが、実はこの刑余者について適切な指導をしなければならないことは常に考えております。我々としては中央更生保護協会というものを設けて、私もこれに前から関係しておるが、全国に約五万人の人たちがこれに盡力して下さつておる。この人たちは殆んど手弁当である、非常に熱心にこの保護事務に従事して下さつておるのです。年に数回東京に代表者集つて、この前にも約三、四百の人が集合して今度の恩赦のことについて協力を願つておる。この人たちの活溌な活動によつて大よそ好結果を得るものだろうと私は考えております。この人たちは全く土地の何といいますか、熱心に社会事業に携つておる人たちであつて、全くの手弁当でやつておる。これは国家で何とか講じて報いなければならないと考えております。この人たち報酬等を度外視して熱心にやつてつて、この人たち十分連絡をとつて万遺憾のないようにして頂きたいと、こう考えております。
  22. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) ちよつと補足して申上げまするが、従来の恩赦の際に、出所した人が間違いを犯して問題を起したということにつきましては、詳細な点は存じておりませんが、明治三十年の英照皇太后の崩御の際の恩赦におきましては、五万数千の在監者のうち九千九百何人かの出所者があり、その中には北海道集治監という比較的兇悪犯と言われておる罪名の人がたくさんおりまして、その人たちの中から二千五百人ばかり内地に送還すべき人が出たのだそうでございます。その当時は、御承知のように、社会保護事業の至つて振わない時代でございまして、若干北海道網走辺で問題があつたということを聞いております。さような関係で、その際四十万円ほどの御内帯金社会事業に御下賜になりまして、それが保護事業一つの進歩の気運になつたということを伺つております。
  23. 左藤義詮

    左藤義詮君 明治三十年の古いお話伺つたのでありますが、その後の数回のそういう措置に対する事後の成績等につきましては、これは私非常に今回の問題にも、将来の保護をやつていらつしやる上にもいろいろ必要だと思いますが、十分調査し、そういう実績一つ考慮して、万々恩典に背くことがありませんように御善処を願いたいと思うのであります。まあそういう過去のことについて御調査がなければ止むを得ませんから、一つこの際十分御勉強を願いたいと思います。  それからもう一つ共産党関係政令違反、まあ出頭しなかつたりした者は別でありますが、そうでない者に対しては、同じように恩典に浴するようにお考えになつておるかどうか。これは特に私は今の世界情勢から今後の治安の問題にも関係いたしますのですから、これはどういうふうにお扱いになるつもりであるかということを……。
  24. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 現在いろいろ考慮いたしておる点でございます。
  25. 左藤義詮

    左藤義詮君 もう講和の発効の時期は追つているのでありますが、まだ考慮中ということは甚だ理解しがたいのでありますが、どういう御方針でおやりになるのか、一つこの際伺いたい。
  26. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 現在まだ決定いたしておりませんので、いろいろ研究いたしておる段階でございます。
  27. 伊藤修

    伊藤修君 只今法務総裁から大体の輪郭についてお伺いいたしましたので、我々は過去において数回前法務総裁並びに現法務総裁にお伺いいたしましたことについて、或る程度までの輪郭は了承し得て誠に結構であると存じます。ただ只今法務総裁が御説明になりましたうち、税に対するところの問題については目下研究中であるという仰せでありますが、これは御承知通り終戰後連合国の示唆に基きまして、日本税制制度に対するところ取扱いについて、相当納税義務の強化ということが、国民の従来の生活感情とマッチしないような形において示唆された結果、強くこれが取締られた傾きがあるのです。中には徳川時代におけるところの、税金滞納によつていわゆる牢屋にぶち込まれるというような感覚をも抱いて相当国定の間には不平もあつたのです。勿論納税義務の絶対的たることは申すまでもないことであります。併しやはり国民納税に対するところ義務観念の稀薄な今日の日本の現状に照しまして、余りに苛酷であつたようにも見受けられる。又税法に対するところのいろいろな馴れざる点もあつたのですか、これらの点は早々の折柄であつたのですから、十分考慮せられて然るべきであると思うのです。今日においては納税の如何に絶対的のものであるかということは国民において十分知悉しておることと存じますが、過去におけるところ納税義務違反によつて処罰された多くの国民のあることは御承知のことと存じますから、これらに対しましては……、中には悪意のものもありましよう。併し中には従来の慣行になれて、知らず知らずに罪を犯したというものもあり得るのです。又経理関係の不馴れからして税務署の指摘によつて摘発されたというような事例もあるのです。だから大体の事案の形を見ますると、いわゆる税法に馴れざる点に帰着すると考えられる。これらの点を十分考慮されて、今後は別といたしまして、少くとも今日までの分に対しましては、私は全面的に一つ大赦恩典に浴するようにして頂いて、将来を戒めて頂くというほうが私はやはり刑事政策却つていいのじやないかと思うのです。若し万止むを得ずいろいろな国際関係その他の事情もおありになつて、全面的にこれが許すことが能わざるというような場合におきましては、最後税法改革の時期をポイントといたしまして、その前の事案に対しましては少くとも私は大赦恩典に浴するようにして頂きたい。即ち昭和二十四年の四、五月頃ですか、最後税法改革があつたのですから、その時期を境にして、その前のものに対しましては許すというような方向に、これは最小限度において私は考慮を煩わしたいと思う。かように存じておる次第です。  いま一点は、先般も申上げましたことでありますが、いわゆる終戰後六年間の間に幾多の総司令部のいわゆる覚書が出ておるのです。覚書自体では勿論それが犯罪にはならないのですが、いわゆる覚書を守らない場合におきましては政令三百十一号、後の三百二十五号によつて、総司令部の命令に従わざるものは、いわゆる占領政策違反としてこれらの法規によつて処罰されるという結果になつて、今日処罰されておるかたがたが相当あり得ると思うのです。又現に審理中の事案相当あります。その中には広く、例えば只今左藤さんがお尋ねになりました共産党関係の分もあります。又そうでない部分が多数あることは御承知通りであります。或いは経済法規についてメモランダムケース違反事案もひとしくやはり三百十一号乃至は三百二十五号によつて処罰されておる。先年でありましたか、二、三年前において、農業協同組合の解散の場合におきまして、その残余財産処分について、いわゆるメモランダムケース違反として知らず知らずに処罰されておるような不仕合せな人もあるのです。こういうものは、私は只今左藤さんがお尋ねになつたよう共産党関係とは又別個な問題であつて、その時代においてこそ初めて占領政策違反として処罰する必要もありますが、今日においては、それはさような違法性を認めることはあり得ない。社会秩序を保持する上においても、占領政策遂行の上においても、もはやそういう障害は除却されておる時代になつているのですから、かような事案はやはり私は斟酌されて然るべしだと思います。故にいわゆるメモランダム違反の大多数というものは、この際大赦に浴させるように御考慮賜わりたいと思うのです。この二点について重ねて法務総裁の御意見を伺つておきたいと思います。
  28. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 伊藤委員只今のお説は、私は至極く御尤もだと考えております。税法関係につきましては、申すまでもなくこの申告制度を取入れまして、終戰直後混乱時代で、誠に納税者が困惑した時代があるのであります。御承知通り、アメリカでもこの申告制度を取入れたのが一九四二年、今から丁度十年前であります。それを日本に取入れてやつたのでありますから、なかなか納税者のほうでも混乱したことと考えております。従いましてお説のごとく、この点については十分に考慮いたしたい。  又ポツダム勅令違反の件につきましては、誠に占領中といえども、只今となつてはお気の毒な事案相当数あると考えておりますが、これらにつきましては、できるだけの考慮を拂いまして、お説のような線に沿つて行きたいと、こう考えております。
  29. 伊藤修

    伊藤修君 もう一点この際……。法務総裁余り来て頂けませんから、恩赦の問題とは別個の問題でありますが、ついでにもう一点だけですから、申上げておきたいと思うのですが、聞くところによりますと、法務府の今度の機構改革に伴いまして、いわゆる人権擁護局廃止されまして、課に変更なさるがごとくに漏れ聞いているのですが、私は法務総裁は、十分いわゆる人権擁護局が、今日の日本国情から申しましても、必要欠くべからざるものであつて、今日こそこの擁護局の設置を国民は求めて止まないものであると思うのです。漸く民主主義軌道に乗つて来て過去における権力によるところ国民の被害というものを、本来ならば民間団体その他においてこれは是正さるべきものでありますが、日本国情からいたしまして、そういうことは適切でないというので、官庁においてこれが行われているのです。漸く人権擁護の何ものたるか、国民の大多数が知り得るようになつて、又人権擁護委員というものが全国相当多数委嘱されておる。これらの人が日夜人権擁護のために闘つておる。憲法の基本人権のために身を以て挺身しておる。その重要なる仕事に対しまして、課にこれを縮小いたしまして、将来の人権擁護というものの全きを私は期せられないと思うのでありますが、この際私は、経費その他の関係もおありになることと存じますが、私は人員の如何にかかわらず、機構といたしましては、やはり局としておかないというと、他の官庁人権毀損の行為があつた場合において、法務府の人権擁護局勧告をするというならば、相当のそこに力を認められますけれども、課であるとか、部であるとかいうようなものにおいてこれが勧告をするといつても、適切でないと思うのであります。この際私は法務総裁に、是非この点は考慮を煩わしておきたいと思うのであります。折角人権擁護局というものが今日その軌道に乗りつつある場合において、これを廃止する、若しくは縮小するというような考え方は、是非改めて頂きたいと思います。法務総裁の今日のお考えはどうでありましようか、一つつておきたいと思います。
  30. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 人権擁護の必要なることは、私も人後に落ちないつもりであります。そこで本当に人権擁護の運動を活溌にし、その成果を如何にして挙げるかということが、一番問題であると私は考えております。従来私の経験によりますると、相当弁護士会でこの事業を真剣に取上げて、成果を挙げております。これを官庁指導の下に置くというよりか、私はむしろ弁護士会が自発的に大いにこの人権擁護に今までも進んでおるのでありまするが、今後よりよく私は進んで頂くことを希望して止まないものであります。そこで今お説の人権擁護局廃止の問題が出まして、今考慮中でありまするが、ただ名前にとらわれてその実が挙らんということでは、誠に私は遺憾と、こう考えております。又人権擁護局が民事局の中の一課となりましても、これを実績を挙げて行けば、その目的に副うゆえんであろうと、こう考えておるのであります。ただ單に名前にとらわれてその実が挙らんというようなことでは、遺憾であります。仮にこれが局がなくなつて課となりましても、実際面において本当の活動をよりよくして行くことができますれば、各地の弁護士会連絡をとつて、従つてこの人権擁護の実を挙げて行くべきではなかろうか、こう考えておる次第であります。併しまだ結論まで参つておりませんので、お説の趣旨を十分考慮いたしたいと思います。
  31. 伊藤修

    伊藤修君 法務総裁のお考え方はよくわかりますです。勿論弁護士会において、全国弁護士会若しくは連合会において、人権擁護の問題について日夜取上げて、強力に働きかけておることは承知しておりますが、何分にも民間団体でありまして、予算も伴いませんし、調査その他の点において不十分であつて、その行動の結果というものに対しましては、国民に何といつても強く示唆を與えるだけ権能を持つておりません。やはり日本の今日の過度期のあり方といたしまして、今当分の間は官庁においてこれが取扱いをされることが、最も時宜に適したものであろうと思います。仰せのごとく名前にとらわれまして、実際仕事をしなければ何にもならんということはあり得るのです。私は今日の人権擁護局がそうであるとは考えません。勿論これは課になつても、仕事をすればいいじやないかというお説は、一応首肯されますけれども、やはり今日の世相から考えまして、ともすると憲法に折角保障されたところ基本人権というものが次第に復古的になつて、いわゆる基本人権の保障というものが、有名無実化するというような国民の危惧があるのです。その場合にかような重要なポストを縮小するということは、いわゆる政府考え方というものが、そういう点において軽く扱うのではないかという、国民が一応の危惧を抱くのじやないか、私はそういう点においてもやはり拡張する、拡大するというならばともかくといたしまして、縮小するということは、相当政治的に大きな影響を與えると思います。こういう点は賢明な法務総裁も、僅かな予算や何かに拘泥せられずして、これは私はこのまま残されまして、法務総裁のお考え方を十分この面に生かして頂く、こういうあり方のほうが、私は在野でお盡し下つたあなたの一つのあり方としても、私は好ましいのじやないか、この点は重ねて一つ考慮を煩わしておきたいと思うのであります。
  32. 一松定吉

    一松定吉君 ちよつと尋ね落しましたが、具体的の例を挙げてお話をしますが、公職選挙法違反は勿論、全部大赦にかかるという御意見のようであつたのでありますが、この公職選挙法に牽連して政治資金規正法でいつも罰せられる。例えば法定費用を超過しておるのに、超過しないような嘘の届出をするというと、すぐこれは政治資金規正法によつて罰せられる。こういう場合は公職選挙法と政治資金規正法の両方によつて罰せられておる。こういうときに、この公職選挙法は勿論大赦によつて流してしまうという場合に、政治資金規正法だけ残るということであると、面白くないと思うのですが、そういう場合は、やはり同じように大赦のうちに含めて全部流してしまうというほうがいいと思いますが、そういう点はどういうふうに御構想になつておりますか。
  33. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 現在研究中でございます。ただこの一所為数法で大部分のものが大赦になつて一部のものが大赦にならないという場合は、何と申しまするか、一所為数法の関係で、他の大赦にならないという罪名が半面にあつたという場合については、一応従来の先例では大赦にはならない、これは法律上の一罪であるからならない。併合罪の場合は別でありますが、一所為数法の手段、結果の場合は、これは大赦にならない、こういう考え方でございます。ただ実際問題としましては、その半面の罪が極めて軽微であるという場合には、特赦において取りあえず十分考慮される、こういうことに相成るかと信じております。只今御指摘の政治資金の法律というものにつきましては、まだ研究中でございます。
  34. 一松定吉

    一松定吉君 それは私特にお願いしておきますが、公職選挙法と政治資金規正法は、これは関係がありますから、公職選挙法については大赦によつて流してしまうということであるならば、同じように政治資金規正法もそういう恩典に浴せられるように一つ考慮をお願いしたい、それから今一つ、刑法五十四僚の、「一個ノ行為ニシテ数個ノ罪名ニ触レ又ハ犯罪ノ手段若クハ結果タル行為ニシテ他ノ罪名ニ触ルルトキハ其最も重キ刑ヲ以テ処断ス」この五十四條の場合に、一個の行為であつて数個の罪名に触れるときは、そのうちの最も重き罪について処断される。これはそのうちのあるものは大赦によつて流される、或いは特赦によつてそのうちのあるもの、一部が減刑せられるという場合に、それがされないものがそのうちにあるからといつてもこの五十四條によつて言渡された刑は一まとめになつておるのです。それについてやはり多少の何か手心を加えるということが恩赦というものの恩恵をそれらの人に及ぼすということであろう、及ぼすようにしなければならないと思うのですが、こういう点も若し今御考慮中でありまするならば、この案文をお作りになりますときにそういう点を御考慮に入れて、成るべく広くそういうような不都合のない方法に御考慮を相成りたいということを私は思つておりますが、その点についての御構想はどうでしよう、五十四條の……。
  35. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 五十四條の、一個の行為であつて数個の罪名であるという場合には、最も重き刑を以て処断する。強盗と、住居侵入というものが手段、結果で、一個の行為ではございませんが、手段、結果のために、やはり五十四條の適用を受けます。そういうふうな強盗、傷人である、そして減刑にならないという場合は、やはり住居侵入のほうも結局一つの刑でございますので、これを一応ならないという関係になりまするが、そういつた事案と別に、許されるほうは重くて、許されないほうが軽いというような場合には、個々の事案につきまして調査の上、恩赦の趣旨を徹底させるようにいたしたい、かように考えております。
  36. 一松定吉

    一松定吉君 もう一つ、これだけでおしまいです。今言う選挙違反みたいようなもので流れる場合に、その進行中に生じた訴訟費用というようなものは、当然流すことのほうがいいと思いますが、それはどうなつておりますか。
  37. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 従来は取らないというふうに相成つておりますので、さような結果になるかと存じます。私細かい議論は知りませんですが、いろいろ議論があるようでございます。
  38. 一松定吉

    一松定吉君 まだ発表にならない前に、関係方面からこうだああだという確定的な御意見を承わることのできないことは承知しておりますから、この程度において私は打切ります。
  39. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 恩赦関係について法務総裁に原則的な考え方を伺つておきたいと思うのでありますが、繰返して同じ問題について御意見を伺うことは避けたいと思うのでありますが、すでに先ほど来各委員から、伊藤委員からも法務総裁の御意見を伺つてある、いわゆる普通に世間で言われておる政令三百二十五号違反、占領政策違反という事件、そしてその中には共産党関係の事件も相当に含まれておる。この問題でありますが、この問題についての法務総裁のお考えは、前々回の本委員会のときに私からお尋ねをいたしました際に、法務総裁が私の申上げましたような点を十分考慮されるということをお答え下さつておるので、重ねて伺うことは大変本意ではないのでありますが、ただその点について伺つておきたいのは、法務総裁は、私としては法務総裁に期待するところは、この法の尊嚴というものを飽くまでお守り下さるということを期待しておるのであります。で、先に検事会同において訓示なさいました御趣旨もその点にありましたわけで、法の尊嚴というものが堕されてしまうと、事態は民主主義において收拾すべからざるものになる。従つて今回行われます恩赦の場合にも、飽くまでも法の尊嚴というものの見地から考慮されて行かれるものだと思います。勿論、現在政党内閣制度をとつておられるのでありますから、その政党の政見というものがそこに働かれることは十分でありますが、併しいやしくも政党の政治上の見解というものが法の尊嚴をも侵しで行くような事態があるならば、これは法務総裁として立派に法を守つて頂くものと思います。で、私は今思い出すのでありますが、大正の末年でありましたか、昭和の初年でありましたか、法務総裁よく御承知の当時の学連事件、大学の学生諸君の中に、共産主義的の宣伝活動がありまして、これが当時、共産主義の宣伝をも直ちに破壊活動と見るような考え方から検挙され、処罰され、それに対して美濃部先生が專門家として批評せられて、たとえ共産党の諸君が、法廷を階級闘争の場と考えることがあつても、裁判所が法廷を階級闘争の場と考えるようになつてしまうならば、民主主義的な法の権威というものは地に堕ちてしまうのだということを述べておられたのを、当時私は読んで深い感銘を受けたことがあるのですが、最近私法務委員として地方に派遣せられ、裁判所或いは検察庁において、検事正或いは裁判所長のお考えを伺つております時にも、とかく共産党というものに対しては法の保護が及ばないというように誤解されるのではないかと思えるお考えを伺つて、ひそかに心を痛めております。私は念のために申上げておきますが、共産主義者ではないのであります。併し飽くまでこの法の保護というものの上に立つて行きたい、飽くまで民主主義の確信の上に立つて行きたい。従つて我々は民主主義への確信の上に立つならば、法務総裁も訓示せられましたように、共産主義というものは恐れるに足りないという確信を持つております。併し自分自身のほうで法の尊嚴というものを崩すならば、これはまさに共産主義は恐るべきものとなるでしよう。共産主義以外にも右翼の活動も恐るべきものになる。法の確信さえあるならば、それらのものは恐るべきに足りないのだと思います。従つてこの三百二十五号等に関係するような問題等についても、私はこれらの事件に関係して生じました或いは殺害であるとか、その他の刑法によつて当然その責任を追及されなければならない犯罪が、それから発生しておるものがあると思います。これも本来考えてみれば、実はその際にこの政令三百二十五号なり、或いは占領政策によつて日本憲法において保障されておるところの言論なり、出版、新聞の自由というものが占領軍によつて制限されたということは、直ちに納得しにくい場合もあつたということは、我々として考えなければならないと思います。一方では新聞の自由を保障しておる。併し他方で占領軍の武力を以て新聞を検閲される。これに対する反抗心というものが国民の間にあることは、その理由のあることは法務総裁も御了解になるだろうと思います。国民が何も反抗しないようになつてしまうほど恐ろしいものはないのであります。或る意味において国民が反抗心を持つておるということは、日本国民未だ亡びずと言わなければならん点もあるのであります。従つて私は国民が或いはその判断を誤つている場合もあるかも知れませんが、日本国民がみずからこれは正しいことではないのじやないかと思う場合には、十分反抗するそれだけの気力を持つ国民であることを将来永久に希望するものです。併しその際とかく権力者、或いは占領軍、或いは占領軍と協力する日本側の官憲、又更に憎むべきは占領軍の威を借りて自己の官僚主義的な権力をほしいままにしようとする官憲が不幸にして今日まだ日本にあとを絶つていないことも、法務総裁もよく御承知通りであります。そういう意味で私は特にこの三百二十五号関係において明白に或いは人を殺し、或いは人を傷け、或いはものを盗むというようなことに関係しているものについては、これについても多少の考えなければならない点があるとは思いますが、そういう点については暫らく措いて、それ自身いわゆる占領政策違反というものについて実際上においてはそうした政治上、或いは思想上、或いはその政策に関係して、占領期間中のそうした特殊の事情によつて発生し、検挙され、起訴され、或いは刑を受けておるというような人々に対しては、この際に恩典を及ぼすということが私は理論上正しいのであり、そして又これが法の権威を共産主義者の人々にも痛感せしめる、感銘せしめる最大の方法であるというように思いますが、法務総裁はどうお考えになつておられましようか。前回の質疑と重複しておる点があることを大変恐縮に思いますが、お考えを伺つておきたいと思います。
  40. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) 法の尊嚴は飽くまで守らなくちやならんと考えております。殊に今後我々は講和條約発効後に、真の独立国として平和民主国家を建設して行く使命を十分担つておるのであります。どこまでも法の尊嚴というものを堅持して行きたいということは申すまでもないことであります。それと同時に国民も又法の尊嚴を自覚して、いやしくも国家において制定したところの法は、これを守つて行かなければならんという自覚を持つことが必要であろうと私は確信してやまないのであります。然るにかかわらず、一部の分子があえて法を犯そうというものあるに至りましては、誠に遺憾千万なことであります。併し政府当局といたしましては、国史よりも先ず法の尊嚴ということを自覚して、これを守つて行くということの熱意を持つのが当然であろうと考えております。そこで今は説のポツダム政令のことにつきましても、我々は十分に考慮をして善処したいと、こう考えておる次第であります。
  41. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 最近のニューヨーク・タイムズの論評の中に、御承知のようにアメリカで共産党の中央委員のかたがたを逮捕し、裁判し、それに関係してそれを弁護した弁護士七名でありましたか、十名前後のかたがたが法廷において裁判官の裁判長の制止に従わず非常に激しい言葉で長い間裁判官に向つて弁論の上で抵抗されたという理由で、法廷侮辱罪になつた。そしてそれがアメリカの最高裁判所まで控訴されまして、最高裁判所では五対三の裁判官の判決で以てその法廷侮辱罪が成立しておりますが、それに対して三人の最高裁判所の裁判官、即ちブラック・ダグラス・フランクラルターというこの三人の最高裁判所の裁判官が少数意見を掲げて、その中に三人の共通した御意見としては、その際の法廷侮辱罪を言い渡した判事、即ちメジナ判事がみずから告発し、そしてみずから裁判する、こういうことをやることはアメリカにおいて法の尊嚴が維持できなくなる一つの端緒になる。右の手で人を告発して、左の手でこれを裁判するということになるならば、民主主義以前、民主主義はどこにあるか、封建主義と全く同じではないか、政府がそういう態度をとるならば、人民のほうは政府の法についての観念を信頼しなくなつて来るということは今更申上げるまでもないことである。只今法務総裁のおつしやつて下さいましたように、国民も勿論法の尊嚴を守らなければならないが、それに先立つて且つ又それよりも優れて政府が法の尊嚴、法の公平ということを飽くまで守つて頂くようにお願いしたいと思うのであります。前回に申上げましたから繰返しませんが、この講和條約が発効し、日本が独立する際の一方においては国民の非常な期待、他方においては未だ国民が経験したことのない外国軍隊駐留下の生活、そういうところに発生して来る様々のデリケートな感情、従つて又それが容易に挑発されるような感情を含んでおる。右からも左からも挑発されるような事態を含んでおる。これに対してどうか法務総裁が高邁なる政治家としての識見を持たれて、そうした紛擾が発生して来るようなものはあらかじめ除いておく。そうした材料になるようなものを存置しておいてそこに様々の紛擾が発生して、従つて法の尊嚴ということも場合によつては害なつて行くというような状態が発生しませんように、どうか講和発効後にそうした問題についてさまざまの困つた問題が発生することがないようにお願いしておきたいと思うのであります。  なお、それに関連して伺つておきたいのでありますが、それは最近新聞などにも発表せられておりますような、いわゆる治安立法の関係ともなるのでありますが、さつきの伊藤委員の御質問になりました人権擁護局の問題、人権擁護局が、結論におきまして人権擁護局を今後より以上にその地位においてもその機能においても拡大して頂きたいということを申上げておきたいと思います。これは極く最近の人権擁護局の発表せられました数字を見ましても、昨年一カ年の人権侵害事件は、受付数一万六千二百三十五件、一カ月平均千三百件、この千三百件のトップは警察官の人権侵犯が圧倒的に多く、七百七十八件に及んでおり、その中で職権濫用五百八十四件、暴力、凌辱百七十七件、致死又は傷害が十七件、警察官が人権を侵害し人民の生命を奪つておる場合が十七件、全体として警察官による人権侵害が一月で七百七十八件で、全体で一月に千三百件の多数を占めておる。これがこの数字が私は日本の現状をよく現わしていると思うのであります。国民も勿論或いは誤まつて法を護らないという場合もございましようけれども、併し日本の従来までの実に悲しむべき現状は、政府なり官憲なり或いは警察官なり、或いは特審局なり、そうした側の取締りというもののほうが人権を侵害しておる場合がこのように圧倒的に多いのであります。そういうような環境の中に、いわゆる治安立法というものにおいて、或いは若しも日本がそうした環境がないならば、その法の適正を発揮し、その目的を果たすに必要にして十分なる機能にとどまり、従つて法の尊嚴を維持することができるかも知れませんが、こういう雰囲気の中で、こういう環境の中で取締りが若干でも行き過ぎますと、その限度には殆んど制止することができません。これは曾つて治安維持法がそうでありました。治安維持法はよく御承知のように、最初においては全く最近政府がお考えになつておるのと同じような構想で出発され、当時若槻さんでありましたか、内務大臣として、決してこれらが政治上、或いは社会的運動というものを取締るものにはならないのだとおつしやいましたけれども、併し事実上においては最後には遂に或いは河合栄治郎教授とか、美濃部博士とかいうようなかたがたが迫害せられ、場合によつては現在の金森徳次郎氏なども身辺に危險を感ぜられるというようになつてしまうのであります。で法務総裁は現在講和が発効前後の日本の内閣の最高の法律上の責任者として、この点についてどうかその第一歩を誤まられることがないことを私としても切願をいたしまして、治安立法一般についてもそうでありますが、特に人権擁護局をこの際こういう環境の中において、或いは格下げをする、或いは機能を縮小する、或いは中央にはそういうものがあつても地方では活動しにくくなる、或いは先ほどの御説明で名前に拘泥せられないということは御尤もでありますが、併し中央で以て課というものになつてしまえば、地方におけるその機能は今日よりも遥かに下がらなければならないと思うのであります。現在では幸いにして法務府においては局であるので、各地方においても相当の権威を以て活動しておられる、それにもかかわらず毎月の人権侵犯が千三百件で、その中で警察官の人件侵害が七百七十幾つある、こういう国は文明国には余りないのじやないかというように思うのであります。すでにさつき伊藤委員に対してお答え下さいましたので重ねてお答えをお求めいたしませんですが、人権擁護局が今日如何に下がるかということは、どうかあなたの法務総裁の御在任中にそういうことはないようにお願いして置きたいと思います。
  42. 岡部常

    ○岡部常君 先ほど来恩赦に対する御構想を承わりまして、従前の恩赦に比しましてよほど進んだものであるということを感じとりまして私も安心いたしたものであります。今更刑事政策の目的を説くまでもございませんが、国家といたしましては咎めること、裁くことというよりは、むしろそれを如何にして許すかということに力を注ぐべきものであろうと思うのでありまして、而もその咎めること、裁くことは容易でありますが、許すことはなかなか困難なことなのでありますが、今回のような講和発効という国民的の喜びに際しまして、その機会を利用してこの許すことを大幅に持ち得るということは最も私は機宜に適したことであろうと思いまして、この点については十分大胆なる御施策があつて然るべきものと考えるのであります。つきましては先ほどちよつと左藤委員からも御質問がありました点に触れますが、従前の恩赦におきましては、いわゆる恩赦再入者に対しまして非常に窮窟な制限を設けておつたようであります。恩赦再入者に対しては再び恩赦を施さない。これは尤もなことであります。従前のたびたびの恩赦においては、或いはそれが妥当であつたかも知れませんが、今回のような特別なる時期に際しまして、いわば国家が生返える……、実際日本は革命に際しまして新らしい国家にいよいよなろうとしつつある。そういう重大なときにおきましては、従前の例を破つて、そういう先のことは咎めないですべて帳消しにしても私はよろしいと実は信じているものでありますが、先ほど来恩赦再入者に対する制限というようなものは一向お話がございませんので、或いは従前の例を破つて何ら差別なしに同じく恩赦に浴せしめるのではないかと思つて安心しておりますが、念のために伺つておきたいのであります。私の主眼とするところは、徒らに執拗に咎むるなかれ、許すときには思い切つて許せという考えが主になつているのであります。
  43. 斎藤三郎

    政府委員斎藤三郎君) 只今一度恩赦になつて許されて出たものが更に罪を問われて現在服罪しているというような者について、従来は恩赦から除外しておつたが、今回は特段の場合であるから、そういう点を差別しなくてよろしいのではないかというお話でございまして、その理由としてお述べになつた縷々の点、誠に私どもも正しい御議論のように考えます。そういうふうに研究して善処をいたしたいと存じております。
  44. 岡部常

    ○岡部常君 只今局長お答えを得まして非常なる喜びを感ずるものでありますが、従前恩赦令が発布されましたときにおきまして、刑務所内の空気が恩赦再入者に対する恩典がないために如何に暗いものであつたかということはすでに万々御承知のことであろうと思いますが、その点を今後御考慮になる資料にせられることを希望いたします。  それからこの際ついでに、やはり広く恩沢を及ぼすという意味におきましてこれも従前の恩赦令においては取上げられなかつたことでありますが、執行猶予中の者に対する刑期、これは勿論減刑に與かるものと思いますが、執行猶予期間というものについては全然考慮をせられなかつたように思います。それについて巷間にはいろいろ論議もございますし、猶予期間の短縮をしてもらうこと……。成るほど刑の本元が軽減されればありがたいけれども、やはり差当りにおいてはそれらの恩沢に、執行猶予の恩恵に浴している者の差当りの喜びは、その期間というところにある。その期間が五年なり三年なりというものがやはりそのままに置かれるのであるならば、いわゆる画ける餅に過ぎないというような比喩をもしているのであります。私は従前の執行猶予の成績に徴しましても、この点惜しみなくこの期間を短縮せられ、それも何分の一とかいうようなややこしい面倒くさいことは抜きにしまして、單純に何年、三年のものは一年とか五年のものは二年にするというような簡單な方法で彼らを奮起せしめ、自信の念をいよいよ強くせしめるという処置こそ、刑事政策上の大きな功績が上がるのではないかと思うのであります。この点についての御構想をお聞かせ願いたい。
  45. 木村篤太郎

    国務大臣木村篤太郎君) その点につきましては我々もかねて研究中でありまして、十分考慮に入れたいと思つております。
  46. 小野義夫

    委員長小野義夫君) 最後委員長としましても、先ほどからのお説を拝聽しまして、質問ではございませんけれども、お願い申したいと思いますのでありますが、先ほど羽仁委員のお説の中に、政党政治であるから、例えば多少その党の政策が反映することも止むを得ないというようなお言葉があつたように承わつたのでありますけれども、私はこの恩赦とか特赦、その他の減刑につきましては、嚴重にそういう政党政派の政策乃至は意思をこれに少しでも汲入れるごときは甚だしく我々は不愉快とするところでございまして、かかる形跡若しくは憾みのないようにして頂きたいと存ずるのであります。而して私どもは今後いろいろ国家社会の公安を維持する上につきましては、相当思い切つた厳格なる立法を一方に要望いたしますと共に、許すべきことにつきましては、それは例えば共産党の思想若しくは行動から発生したるものであつても、或いはその他右派の非常な危険思想を持つておるようなものでも、これはこの際は許すべきは大幅に先ほどの皆様の御議論のごとく許されまして、而して今後発生すべき諸問題について、法の厳格或いは立法の周到なる用意等につきましては、私どもはあえてこれを否定若しくは反対するものではないのであります。許すことあつてこそ初めて取締り得るのでありまして、若し許すということなくして取締るということは、実際その目的を達し得るものではないと思うのでありますから、この際もう思い切つた先例などということには余り重きを置かずに、日本のいわゆる第二次昭和革命と言いますか、維新の改革に次いでの第二の改革のこの機会に際会いたしましては、一方に新らしき立法をなすことの必要と共に、一方に過去における犯罪に関する限りは、この際犯人を善導し、善に帰るというその機会を與えるということが、非常に普通の場合にはできないのを、この場合そういう機会を與えるものでありますから、この点一つ非常なる英断を以て御処置あることを希望してやまん次第であります。このことをお願い申上げます。(拍手)  それでは本日はこれで散会いたします。    午前十一時四十四分散会