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証人(
野口議君) 二月二十一日午後四時十分頃法文経の二号館の一階の事務所に逮捕に向いましたところ、被疑者はいないというので、一応引上げるということで、隊員十各で学友会の地下室附近に来たとき、十五メートルくらい遅れて随いて来た海老原巡査がおおいという声をかけたので、見ると学友会の角の道路の上で年令五十歳くらいの男と押問答をしておる。その周囲に
学生が十二、三名くらい同巡査を取り囲んでおることを見ましたので、全員現場に駈けつけるよう上野
警部補が命じました。そうして
茅根巡査が包囲中の
学生を指さして、あそこにおる、大きくて毛糸の襟巻をしておるのが福井ですというので、駈けつけてみますと、福井はほかの
学生と共に海老原巡査に対してなにか大声で言
つてお
つた。そこで上野
警部補は右手に逮捕状を握
つてこれを示して、「福井、暴力行為による逮捕状が出ているから逮捕する」と告げました。「何を」と言
つて殴りかか
つて来た。そうして逃げ出そうとしたので、上野
警部補は全員に対して逮捕しろと命じた、すると石川刑事ほか四、五名が逮捕にかか
つたのであります。何分非常に力が強くて撥ね返された。そこへ
学生の十二、三名の人が一緒に逮捕を妨害すべく抵抗して来たので、そこに互いに入り乱れて乱闘という形になりました、暫らくは逆に二、三歩引き摺られたという形で奪還されるのではないかと思われるような状態の下にあ
つたのであります。仕方がなく待機中の私服員が正門外におりましたので、そこに伝令をや
つて、そうして制服員に応援を求め、強力な
学生の抵抗を受けながら全員十名奪還を防ぎ正門のほうへ進みました。その間に
ちよつと被疑者が怯む隙に石川刑事が両手に手錠をかけることができました。続いて押寄せて来る
学生を排除し、逮捕現場から二十メートルくらい正門に向
つて前進した頃、制服の一個小隊が到着して援助の下に同行にかか
つたところ、却
つて激しい抵抗を受ける状態に
なつたが、暫くこれを排除しつつ前進し、正門二十メートル附近に至
つた隊四、五名の
学生によ
つて正門の扉を締められました。これは締められました状況の写真、それから逮捕の状況はここへ三枚の写真がございますので、御覧願いたいと思います。徒らは時間を要するのみで、そこにおいてただ突破しなくちやならんと
考えて、待機中の予備隊の応援を以ちまして、そうして正門に来ました。そうして予備隊が正門を開けなくて、一番正門に、外から向いまして左のほうの門を開けて、そうしてそこから被疑者を同行して同署へ持
つて来たのであります。それで手錠をかけたのは先ほど石川刑事と申しましたが、その手錠をかけるときに石川巡査は噛みつかれたので、そうしてそのときは石川巡査は手錠をかけましたが、そうして手錠をかけて同行しようとしたが、すでに集
つていた七、八十名の
学生によ
つて押し寄せられ、起すことはできなく、寝て起きなか
つた。そのまま担ぎ上げようとしたが押倒され、これを繰返えして十メトールくらい正門に向
つて進んだというのは、先ほども申し上げましたことを重複いたしますが、同行途中足に片錠をかけたという状況をここに摘出いたしますと、現状から二十メートルくらい
行つたところ福井は両足にて北澤部長、山本、石川刑事を蹴飛ばすので、同行中のこれは制服の高橋巡査が右足に片錠をかけて、そうして又左足にかけようとしましたけれども、足で蹴飛ばして、左の足にはかけられずに右足の足首にかけたまま同行いたしております。かけましたのは右足だけで、左まではどうしてもかけられずに同行して持
つて来た。これが最前申しました点とこれが違
つておりました。
それから歯のかけたときのことを摘出いたしますと、正門の十五メートル附近に至
つた頃、一旦立たせようとしたとき、持上げていた野内巡査の左手の人指し指に噛みついたのであります。噛みつきましたところが、
野口巡査が痛いからこう引いたのであります。引いた途端に歯が折れて下へ落ちたということを野内巡査が現認しております。又その横にいた高橋巡査もこれを現認しております。そうして署に来まして、署で取調べましたのは廣川
警部補、これは
犯罪事実の要旨及び弁護人選任ができる旨を告げて、弁解の機会を與えて供述録取することを告げました。福井は供述に先立ちまして、
主任さん、歯が抜けておると言いましたので、廣川
警部補はそれでは口を開けてごらんと言
つたら口を開けましたので、
主任は顔を近ずけて口をのぞき込んで見ました。確かに上の門歯が一本かけていましたが、歯莖がはれてもいないし、そのときはもう血もついていなか
つた。で痛むのかと聞きましたら、痛みはしないが、みつともないから入歯を入れてくれ、こういう申出があ
つたそうであります。このとき
主任は注意してみましたがほかには傷のあるところは発見できなか
つた。それから間もなく
東大生の山田光男君が福井君の差入を持
つて来たので受付けた。受付けたのはいろいろございますが、オキシフルそのほか四点、それから薬品でございます。洗面具、靴下、たばこ、それからキヤラメル、牛乳二本、食パン、毛布が二枚を福井君に渡しました。薬があるから痛むところがあ
つたら手当をしなさいと言いましたところが、福井君は
主任の目の前で先ず薬袋を開きまして、赤チンキを出して、手錠の跡が少し痛むのだと言うて赤チンキをつけました。歯は何ともないらしく薬はつけなか
つた。それから福井君は差入のものを全部平げて歯の痛むような
様子もなか
つた。そして最後にみかんを食べるとき、歯にしみないかと
主任が聞きましたら何ともないと言
つていた、そうして
あとで茶を呑んでも歯が痛まないようなので治療を受けるほどではないと認めたので、このことは
署長には
報告しなか
つた。そうして福井君は食べ終
つて、弁解録書を作りましたが、終始黙否権を
使つて何も言わなか
つた。そして八時頃、留置場に入れることにしたのであります。留置揚の担当の看守は玉置、小笠原両看守で、係り巡査が中に入れましてそうして身体検査をいたしたのであります。身体検査をするからとい
つたところが、身体検査をする必要はないとい
つて拒否したけれども、看守係りとしましては、身体検査のこの責任があるから、留置場の監理規定があるからということを説明して、漸く納得して身体検査をいたしました。そのとき着てお
つた着物は相当泥に汚れておりましたけれども、体はどこにも異常は認められなか
つた。又苦痛なども訴えなか
つたという状況でございまして、ただ最後にこのありました歯を入れてくれ、入れ歯をしてくれということを言
つたことに対してこれをしてやらなか
つた。歯の治療を歯の医者にさせなか
つたということは私遺憾に
思つておりますが、当日はもうなにしろ陳情はおしかけますし、周りはわいわい騒ぐし、私もここまで手が届かなか
つたということは誠に申訳けありませんが、この点は遺憾であります。