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村尾重雄君 最後に
法務総裁のお考えを伺
つて私は
質問を終りたいと思うのでありまするが、この
法案が共産党の極左
暴力主義的
活動をば防ごうとしたものであるということは間違いないものと思うのであります。そこで我我も極左的な
暴力主義的
活動、
行動というものに対しては反対いたすものであります。我々は極力こうしたものを是正しなければならないと常に考え、又こうした
活動、
行動に対しては徹底的に戦う決意をいたしておるのであります。ところがこの破防法を連想いたしますと、我々は身にしみて感じることは治安維持法を思い出すことなのであります。これは私は当時たしか三大悪
法案と言われた維持
法案が国会に上提されたのは第五十議会と思いますが、その五十議会で若槻総理がこう説明されておるのであります。簡単ですが重要でありますので読上げますが、「世間には、この法律案が労働
運動を禁止するためにできている様に誤解している者がある様であります。この法律が制定されますと、労働者が労働
運動をするについて何らか拘束を受けると言う様に信じている者がある様であります。かくの如きは甚はだしき誤解であります。労働者が自己の地位を
向上せしめるために労働
運動をする事は何ら差支えないのみならず、私ども今回当局に当
つてこの様な事に依
つては何ら拘束を加えると言う考えを持たぬのであります。只この問題は前に申上げた如く、無
政府主義共産
主義を実行しようとしてはいけないという取締法であります。労働者にして無
政府主義を唱うるに非ず、共産
主義を唱えるに非ざれば彼等が労働
運動をする上に於て、この法律案は何の拘束を与えるものではないのであります。この事は世間に誤解がある様でありますから、この際これを述べて、本案の
趣旨を明瞭に致しておきたいと思います。」と、こうおつしや
つておられるのであります。ところが労働
運動の弾圧
法案として今日残
つておると言われているこの治安維持法というものは、その後どういう
影響を与えたかということは私から今日申上げるまでもないと思います。たびたび
衆議院においても述べられたことだと思います。ただ私は、これと同じようなことを木村
法務総裁もたびたびお述べに
なつたように私は聞いておるのであります。そこで私は新たに特に御
意思を伺いたいと思いますことは、この
法案が丁度可決されましたその年に、やはり労働争議調停法というものが、大正十五年のやはりこの五十議会、五十一議会になりましたか、これ又通過をいたしております。この争議調停法に基いて全国の各府県に、大阪のような大府県には二名の調停官でありますが、ほかの府県には一名の調停官が派せられて、その調停官というものは大体検察官が兼任したものが多い。内務畑の人が多か
つたのでありますが、これらの人がその府県の警察官と協議し合
つて労働争議に対処する。それから統計上労働争議の率というものはかなり短時日に争議が起らずに円満に解決している状況があるのでありますが、併し
警官が資本家と交渉し、又
警官が
労働組合及び争議団、当時は
労働組合はあらずして争議団というものが多く存在しておりますが、その争議団と交渉して、そうして
警官が
干渉して、争議が起る前に、起
つてからも強制調停の形式で問題が進められてお
つたのであります。ところがこれがうまく
行つた。その
理由の大半というものは、実際
労働組合には治安維持法が実際はそう過度に適用されなか
つたのでありますが、この治安維持法が存在するということが
一つの大きな圧迫となり、圧迫と
なつたということはこれは間違いないのであります。これがだんだん
昭和十年となり、十二年とな
つて、当時の事態を御連想を願
つてもおわかりのように、治安維持法というものが
労働組合に急速に襲いかか
つて参つたのであります。当時
ストライキ禁止
法案というような法律はありません。ありませんが、併し
ストライキが起るという徴候があ
つた場合、又
ストライキが起
つた場合には、すぐその首謀者なり、その主力の幹部はすぐ治安維持法によ
つてお前は赤だ、お前は非
国民だという名称ですぐこの
対象として拉致されたのであります。その数というものを私今日申上げておる時間を持ちませんが、この治安維持法が如何に、
昭和十年から戦争末期までのこの弾圧はこれは実に甚大なもので、この治安維持法の体験を受けたものにと
つては、生涯忘れられない問題なんであります。そこで私は
法務総裁に明確なお考えを伺
つておきたいというのは、
只今申上げたように、治安維持法、国会に上提に際しての若槻氏の説明があ
つたように、これは
労働組合には何ら
干渉するものではない、こうたびたびはつきりおつしや
つておられるが、事実この
立案者の
意思とは反してその後その法で律するところの人たちは客観的に法文を、これを悪用して、
濫用して、いわゆる労働
運動の弾圧となり、その結果があの戦争の起る原因となり、
日本の遂に今日の状態と
なつた大きな要素というものは、やはり含まれておると思うのであります。そこで私はこの
法案の
立案者としての木村さんが、我々は
立案意思というものはこうである。特に
労働組合の抵抗がきついから、最初の提案に際して第二条に、不当に
労働組合運動は制約するものではない。又正当な
労働組合運動はこれを制約し、なお又介入するものではないと謳われ、たびたびそれに対してのあなたのお考え方というものをば、
労働組合の、了解するように
お話にな
つておりますが、あなたの
意思と反してこの
法案の
審議がだんだん深くなれば深くなるほど、今日の
労働組合というものはこの
法案に対する
疑義というものは非常に深く持
つておる。深く持
つておるだけではなくして、この
法案が成立して後における
労働組合の運営に当
つているものは、相当な決意を以て今後の
労働組合運動の運営に当らなければならないという覚悟を今日いたしておるわけなんであります。そういうことはなお一層我々の杞憂であるかということについて、この際
法務総裁にお考えを伺
つて私の
質問を終りたいと思うのであります。