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国務大臣(
木村篤太郎君)
只今の御
懸念は御尤もであろうと思います。私自身は
治安維持法に
ひつかかつたわけもないし、又
取締られたわけもありませんが、友人その他親戚の者にして不幸にしてそういうものに
ひつかかつた例をしばしば聞くのであります。そこで我々はこの
法案を作成するについてそういうようないやしくも
懸念を持つようなことがあり、又さようなことがあ
つてはならんというところに深き考慮を及ぼしたのであります。御
承知の
通り治安維持法におきましては全くこの
法案と
対象を異にしております。これは全然違うのであります。これはもう
皆さん御存じのことであろうと思います。併しその運用においてどうするかということを我々も同様心配する。そこでこの
法案の
対象は、今申上げましたように極めて嚴格にきめておるのであります。これが第一点です。これを漠とすれば、そこに
濫用の余地が多分にある。そういうことであ
つてはいかんというので、その
対象を極めて嚴格にここに絞
つておることが
一つと、それから
一つは今官憲が濫りにこれを
認定しちや困る、御尤であります。そこでさようなことのないように考慮を払
つておるのであります。御
承知の
通り治安維持法におきましてはいわゆるそのまま司法
警察官が
認定して検事局に持
つて行くというようなやり方もや
つておつた。そこに世間から大きな
一つの疑惑を抱かれ、又実際の
取締方について不信の点があつたのであります。そこでこの
法案におきましては先ず第一に、勿論さようなことが行われたか行われなかつたかという捜査は調査官がやることは無論のことであります。併しながらそれに対してさようなことがあつたとして問題に
なつた場合において、先ずその本人について十分に弁解の余地を與えたい、これであります。この
法案を御覽下されば極めて明瞭でありまするが、十三條に「当該
団体の役職員、
構成員及び代理人は、五人以内に限り、弁明の期日に出頭して公安調査庁長官の指定する公安調査庁の職員に対し、事実及び証拠につき意見を述べ」、これはいろいろ調査官が集めた
資料がありまするから、その
資料に対して十分な弁解を與えさせる。而もなおこれに対して
反対に有利な証拠も提出させてやる。こういうことにな
つております。而もそれ以上に十四條におきまして、この
目的の
対象になりました
団体において五名以内の立会人を選任することができる。これはこの取調について実際自分のほうから有利な証拠を出しましよう。その証拠について取調をやるのでありますが、その際に五人の立会人を自分で選任する。これは官選のものじやないのであります。次に
対象と
なつた当該
団体において五人の立会人を選定して、而もその弁明の期日には立会人のほかに
新聞、通信、報道の事業の取材業務に従事する者は傍聽させる、この規定を置いたのであります。ここで十分な弁明の機会を與え、又自分に有利な証拠を提出させて、而もそれに対して任意の立会人を選んで、不都合のないようにこれは監視させる、こういう建前をと
つておるのであります。而もここで手続が終りますると、更にこれはいゆる公安審査
委員会というものに持
つて参ります。公安審査
委員会は、これは独立の何らの制限も受くることなく、公正な見解を以てこの
事件について如何に処置するかということの最後の判断をさせるわけであります。かような建前をと
つて、いやしくも行き過ぎのないようにという十分な考慮を払
つております。而もこの最終的決定に対して異議があれば、これは普通の司法裁判所に提訴できる、こういうことにしておりまするから、
濫用の点は極度に防止する建前にな
つております。