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1952-04-15 第13回国会 参議院 文部委員会 第25号 公式Web版

  1. 連合国及び連合国民の著作権の特例 (会議録情報)

    昭和二十七年四月十五日(火曜日)    午前十時四十一分開会   —————————————   委員の異動 四月四日委員鈴木安孝君辞任につき、 その補欠として白波瀬米吉君を議長に おいて指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     梅原 眞隆君    理事            加納 金助君            高田なほ子君            木内キヤウ君    委員            川村 松助君            木村 守江君            黒川 武雄君            白波瀬米吉君            高橋 道男君            堀越 儀郎君            山本 勇造君            荒木正三郎君            矢嶋 三義君            岩間 正男君   政府委員    文部大臣官房総    務課長     相良 惟一君    文部省管理局長 近藤 直人君   事務局側    常任委員会專門    員       石丸 敬次君    常任委員会專門    員       竹内 敏夫君   参考人    評  論  家 中島 健藏君    弁  護  士 勝本 正晃君    弁  護  士 城戸 芳彦君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○連合国及び連合国民著作権特例  に関する法律案内閣提出)   —————————————
  2. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) 只今から文部部委員会を開きます。開会に当りまして、参考人かたがたに一言御挨拶を申上げます。本日は雨中御多忙の中にもかかわらず、本委員会の要請に応じられまして御出席下さいましたことを委員会を代表して厚く御礼を申上げます。御依頼状を差上げました際に、法案並びに関係資料を添付いたしておきましたから、法案内容につきましては御承知のことと存じますので、別に申上げる必要もないかと存じます。それでこの法案並びにこれに関連した諸問題につきまして御自由に御意見の御開陳を願いたいと思うのであります。それを承わりましてから、参考人かたがたに各委員の諸君から御質疑をして頂くことにいたします。別に時間の制限もしておりませんから、御自由にお述べを願いたいと思います。先ず公報掲載の順序によりまして、中島健藏さんからお願いをいたします。
  3. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) 中島でございます。連合国及び連合国民著作権特例に関する法律案を拜見いたしましたが、これは私どもにとりましても非常に難解な法案であります。この難解な理由二つありまして、一つはこの著作権特例を設けなければならないという事情そのものが非常に複雑しておるというところから来ております従つてどのような法律案を作るにせよ非常に難解にならざるを得ないということは一応認めざるを得ないのであります。そこでもう一つ理由は、この法律案が取扱わなければならない範囲に、戰時中だけでなく戰後も入つておるわけであります。ところが戰後にいろいろ国際條約、或いは国内法によらない政令その他による事態が新らしく発生しております。これが平和條発効後にどうなるかという問題がからんで参りまして、そこでますますむずかしくなつて来ておるわけでありますが、この経過処置と申しますか経過措置と申しますか、そういう経過措置に対する規律が十分でない。いろいろこの法律案の表に出ておらんことがたくさんあるわけでありますそのためにますますむずかしくなつて来ておる。事態がむずかしいところに持つて参りまして、そういう法律案の表に出て来ないものがこの中に実は盛り込まれておるというところからむずかしくなるのだろうと思いますそこで第一に私どもが考えますのは、この戰時中までのことについても問題がありますが、戰後にできました新らしい事態がどう処理されるかということを頭に置くかなければ、将来非常な紛争が起る或いは解釈の相違が起るというような場合が多少あると思いますので、それを幾らか申上げてみたいと思うのであります。一條二條あたりは問題ないのでありますが、例えば第三條でありますが、これは申すまでもなく平和條約の第十五條の(C)と関係するわけでありますが、この内容は、簡單に申上げますと、日本は相手方の法律がどうなろうと、要するに戰争中に、つまり昭和十六年十二月七日から「連合国との間に日本国との平和條約が効力を生ずる日の前日まで」、その間につまり若しも戰争がなかつたら当然発生するはずであつた著作権を認めるという法律内容でありますが、そこで問題はどこにあるかと申しますと、第一に、簡單昭和十六年十二月七日から「平和條約が効力を生ずる日の前日まで」とありますが、この間には実は二つの異る事情を含んでおる。これはこの法案全体に通ずることでありますが、それは事実上戰争が行われていた間、それから一応ポツダム宣言受諾によりまして占領という事態が起つたこの二つにはつきり分けて考える必要があるわけであります。そこで問題になりますのは、戰争中のことはそれでいいのであります。結局「取得するはずであつた日において」という言葉が出ております。この「取得するはずであつた日において」というこの日の問題がこれが非常に複雑なのであります。というのは日本著作権法によるわけでありますが、日本著作権法では著作権発生が無方式主義なのでありまして、別に登録しないでもよいのであります。物を書けば直ちに著作権発生するわけであります。従つてこの「取得するはずであつた日において」というのは事柄によつてはわかりますが、翻訳のような場合ならば本が発行された時を起算日といたしますからわかりますが、普通にはこれが確定が困難なのであります。それからそういう困難が一つつて、これについていろいろ問題が起るではないかということが次の第四條に亘つて関係して来るわけであります。この第四條のほうをみますと、これは簡單に申せば要するに戰争中と申しますか、その期間の間は事実上著作権の行使が不可能であつたという理由、或いはほかにも理由があるかも知れませんが、その間を普通の著作権保護の年限の上に附加える一例えば日本国内法では原著作権者の死後三十年間といううものが保護されるのでありますが、戰争中にかかるものは外国人署作権に関してその三十年の上に更に丁度十年何カ月になるかと思いますが、その間を附加えて四十年何カ月になる、そういうふうにすることを認めるというわけなのでありますそこでこの第四條は特に戰争中発生したもの、戰争前は別として戰争中発生した連合国及び連合国人著作権に関することなんであります。附加える場合にこれは非常にわかりにくいのでありますが、要するに途中で発生したものだから、その発生した日から平和條発効までの日を加えるというわけであります。これはちよつと図解しないとわからないのですが、これだけの間戰争期間があるといたします。ここで以て中途で著作権発生したという場合に、これは当然普通の著作権保護意味も受けますが、そのほかに丁度この発生した日から平和條発効までの期間を更に附加えるというのがこの内容と我々は理解するのであります。ところがこれが一番困るのはやはりここに「著作権法規定する当該著作権の…これはこれでいいのですが、更に第二項に入ります。二項に入ると、今申上げたのは一項があつて更に第二項まで入つたのでありますが、二項のほうへ参りますと「著作権法規定する」これは勿論日本著作権法だと思いますが、著作権法規定する当該著作権存続期間に、当該連合国又は連合国民がその著作権を取得した日から日本国当該連合国との間に日本国との平和條約が効力を生ずる日の前日までの期間に相当する期間を加算した期間継続する。「このやはり「当該連合国又は連合国民がその著作権を取得した日」というのが非常に面倒であります。国によりましては方式主義をとつております。例えばアメリカのようなところでは国会図書館に登録することによつて著作権発生する。これは日付をはつきり知ることができます。ところがベルヌ條約と申す国際條約に加盟しております国の殆んど全部は無方式主義、書けば発生するのであります。これが公けにされようとされまいと、本になろうと、放送されようとされまいと、要するにどういう形にせよ、それが公開されようとされまいと著作権発生する。そうなりますと国によつて、或いは場合によつて殊に日本著作権法による場合に一体著作権を取得した日から」というこの日を如何にして決定するかということが技術的に不可能じやないかと思われるのであります。これがただそれだけで済むならよろしうございますが、要するにこれからずつと続くわけでありまして、問題はいよいよ著作権が切れるのがいつかという問題になるわけであります。あるうちは問題ない。併し最後のいずれ四十年、日本国内法によりましてもこの法案によつて四十年ちよつとくらい経ちますと著作権が切れるわけであります。その切れる時期には非常に問題がある。と申すのは日本著作権法だと著者の死んだ時から死亡起算をとつております。死んだ時から三十年保護するということになつております。これは問題がない、いつ本が書かれようと一向問題がない。ところがこういうふうに突然「その著作権を取得した日から」という言葉が入つて参りますと、これが私どもには技術的にちよつと解決する途がない。これを又何らかの形で解決するにしても、こういう主義で参りますと絶えず問題が起るだろう、紛争が起るであろう。私の立場は大体実際上の立場から来ておるのでありまして、法理論的にはこれも成立つであろうという意味は、突きつめて行けば結局原著者がおれがこの日に書き上げたと言つた瞬間に発生するといえば調査も可能かも知れませんが、技術的に申しますとなかなかこれは困難である。その煩に堪えないのみならず国際国内共に非常な紛争を起すのではないかということがここで考えられます。私のこの法案についての一番の疑問はそこにあるのであります。すでにこれは民間の出版業者或いは放送会社あたりでは非常に問題にしておりまして喧々囂々とこれについて議論が起つております。そのいずれが正しいかを判別するに苦しむような議論がすでに起つておる次第であります。  それからそれが問題でありますが、そのほかに私どもが疑問といたします点は、占領中の既得権というものがあるわけであります。これにつきましてはこれはちよつと一口で申上げてもおわかりにならんと思うのであります。私自身がわからないのでありますが、非常に複雑怪奇な状態になつておるわけであります。このたび多分廃止にきまりました政令二百七十二号というのがあります。これは翻訳権に関する問題でありますが、この内容は別といたしましてそれがあつた。それからそれよりもつと前に昭和二十五年二月二十五日に文部次官通牒というものが出ておるわけであります。これは実は占領中特別の措置として国内法によらずとして外国著作権を一律に五十年として扱うということをきめた通牒であります。この五十年という根拠はどこにあるか探してみましたが、どうもよくわからない。結局その次官通牒によりまして国内法が死後三十年の保護をしておるにもかかわらず、死後五十年を保護するものとして取扱えという通牒が出ております。これは消えてもおりませんし、実は平和條発効後にはやはり意義を失う種類のものでありますが、それに基いてすでにさまざまな取引が行われておる。そこで食い違いがあるわけです。平和條約が発効すれば当然日本国内法が生きて来る。これは戰時中も実は生きておるのでありますが、それが次官通牒で一応制限された。それがどういうふうになるかがこの法令ではわからんのであります  それからもう一つ厄介なことは、これには関係ないようでありますが、著作権仲介業というのがある。これは簡單に申せば原著作者から委託を受けまして仲立をして一種のブローカーをやる、そういう業務をしたい者は文部大臣許可を得なければならないということでありますが、この法律もこれは廃法になつておりません。ところが占領下にそういう仲介業者がたくさん出たわけであります。これは日本人であろうと外国人であろうと仲介業をやる者は文部大臣許可を得なければならんというわけでありますが、占領中にそれにかかわりなく許可なしにたくさんの仲介業者が出ております。これがいわば占領中に大きな既得権を持つてしまつた、非常に大きな権利を持つております。これが一体占領終了後どうなるのかということがいろいろ問題があるのでありまして、契約がある者はいわゆる既得権がありますからそのまま既得権として生きるであろう。併しそういうものが恐らく個々別々のつまり問題であつて原則にはならんであろうということが当然考えられるわけです。又これにつきましても問題があるのは、これによりますと、この法案によりますと、これは詳しく読むとわかりますが、大体日本のために非常に利益になるようにという苦心は十分認められます。つまりできるだけ日本のために利益になろうということがよくわかつております。今の第四條二項の「著作権を取得した日から」云々というのも黙つておけば講和條約の中にはこれはないのであります。講和條約の十五條にはないのでありまして、講和條約の十五條ではあつさりとつまり戰争中期間平和條約が発効するまでの期間をこれを加算する。通常期間から除いて考えるというように書いてある。ところがそれを特に解釈によりましてその間に発生したものは全部それを加算しなくてもいい、つまり発生した日から加算すればいい、そうすれば短かくなるのでありまして、向うというか、相手国著作者に対する権利の延長が幾らか短かくなり、一見非常に有利なようであります。ところがそのためにいろいろな紛争が起るということが考えられるのでありまして、この点を一体どうしたらいいかということがこの法案ではわからない。これは例えばアメリカとの間にはこれは日米間の特別な條約があつたわけでありますが、日米間の著作権保護に関する條約というものがございまして、これによりますと翻訳に関する限りは日米間は全くお互いの許可が要らなかつたのであります。これがまさに戰争発生まで、発生の前日までまさに有効であつた條約であります。そうなりますとアメリとの間には著作権の中の翻訳権に一関しては全く自由であるということになつておる。ところが戰争後にポツダム宣言受諾後に今の文部次官通牒によりまして、アメリカ著作権もほかの国の著作権と同様に死後五十年の、つまり何と言いますか暫定的な保護期間の間、保護しなければならんというので新しく権利発生したことになる。これはこの平和條約並びにこの法案をよく分析してよく読んで見ますと、これは日米間の関係は将来新らしい何か協約ができない限りは全然前と同じように自由であります。そうすると戰争中と申しますか占領中に発生したそういう権利が宙に浮いてしまう。一体消滅するのかあるのかということが非常にむずかしい問題になつて来る。私権上の契約といたしましては当然これは成立つているが、これは一般原則から行くとおかしなことになる。私としてはこの法案をこのまま出してもいいと思いますが、それらの紛争に対し或いは疑問に対して、或いは日本が非常に有利になるという点について、よほど肚をきめないとこれは国際間に問題を起すのじやないかというふうに考えられる。現にこれは私がフランス人側から聞いた話でありますが、フランス政府日本政府に対して著作権に関しては自分の国も日本著作権を非常に重く保護するから日本の国も重く保護しろというような申し入れをして来ているという話であります。或いは将来するようでありますが、そしてそれは通商協定によつてそれを定めたいということを申し込んでいるということを私は仄聞しているのであります。そこで又国際條約の問題がありまして、今の日米間の著作権に関する條約のほかにこれはここに專門家が、学者がおられるので私が申すまでもないと思いますが、日本が加盟しておりますのはベルヌ條約というものであります。これは戰争中は発動しないでいたように見えましたが、戰後スイス政府から突然日本政府に対して毎年の負担金を拂つていない、スイス政府が立替ておるのは迷惑だ、早く拂えという通知が来た。これは青天の露盤でありまして、そのときに非常にあわててさては入つていたのかということで多分戰時中もこめて拂つた。従つてベルヌ條約は戰時中占領中も活きていたと考えなければならん、これは非常に條約の関係でむずかしいと思います。この戰争によつてあらゆる国際條約が失効するかどうかということになりますので、專門的には私はわかりません。ところがこれが更に我々の関知しない間に、一九四八年七月二十六日にこれはベルギーのブルツセルで以て新らしく今のベルヌ條約の改訂が行われた。ところがその改訂内容であります。非常にベルヌ條約とは違う。殆んど全面的な大きな改訂が行われた。これは実は戰争前にこういう計画があつたのが、第二次世界大戰の少し前三十五年だと思いましたが、そのときに行われるはずであつたが、改訂会議がお流れになつた。それが戰争が終りまして開かれまして、我々としてはその結果を受取つたわけであります。これによりますと大分今までと話が違うのでありますが、私の仄聞するところでは、フランス政府の要求の中には、日本ベルヌ條約からブルツセル條約のほうに従つたらどうかという、そういうようなつまりサゼツシヨンがあるということを私も聞いておりますこれが事実であるかどうかは別問題といたしまして、戰後に相当に著作権というものが経済的に大きなものとして各国間の注意の的になつていることは明らかであります。これも新聞による知識でありますが、フランス人の国会では平和條約の批准の問題のときに、日本フランスの文化を愛好してフランス著作権による收益を非常にたくさん得ているという説明を政府のほうがしたということが新聞にも出ていた、そんなことで国際間の関係は実に空前の、これは世界始まつて以来かと思いますが、空前混乱状態にある。そして各国がいろいろ違う、その中で日本著作権法、つまり現状を押切ろうという態度が大体一番日本にとつて有利かも知れませんが、それがこの法案の大体内容のように思われます。それについて別に私はいいとも惡いとも申上げませんが、そういう問題がありますから、特に疑義を生じそうな問題、つまりどう考えても明瞭にならんであろうと思うのは、今著作権を取得した日というような言葉、これに対して不用意にこれを考えたならば、これがもとになつてごたごたが起るということを私は心配するのです。  大体この法案について私が理解いたし、且つ又考えている点は以上のようなものであります。これは実際問題としてお考え願いたいのでありまして、如何にも筋がすつと立つようでありますが、著作権に関する国際條約、それから各国国内法、特に日本国内法、これはどうしても、改正の必要があるということまでなつておるわけでありますが、そんなことですつたもんだやつておる。のみならず著作権著作権者、つまりものを書いた人間作つた人間、それを利用するほう、簡單に申せば出版者とか放送局とかそういうものがあるわけでありますが、利害関係で非常に対立しておる。更に引きま正しては出版者同士利害関係が対立している。これは單なる対立ではなくして、やはり著作権無体財産権を持つてつてもこれは本にならなければ財産権にはならないわけでありますから、やはり相互扶助関係にもあるというような、何ともかんとも厄介な問題であります。全体を通観いたしまして、つまり実際問題から考えて、この法案は非常にむずかしい、読みにくいために誤解を生ずる虞れがあるから、若し出すならばこれを十分解説する必要がある。或いは法案自体の文章その他も必要以上にわかりにくいのではないかと思われる点がある。  それから第二に、これはいずれも平和條約の第十五條の(C)項によつて生じた法律でありますが、そこにない解釈が入つていて、勿論解釈が入つてもいいのでありますが、その解釈の中に、どうもどうして一体きめるかわからんというような條項があるのではないかという疑いが濃厚にある。そういう点で、これはよほど慎重に御審議を願いたいと、こういうふうに私には考えられます。  大体以上であります。
  4. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) 次に勝本さんにお願いをいたします。
  5. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) この法案に対する一般の批評でございますか。
  6. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) これに関する寒意見なり、又いろいろこれに関連ししてお考えになる御意見がありましたら、お話を願いたいと思います。
  7. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) 平和條約が発効いたしますと、この平和條約の第十五條規定しておりまする著作権に関する條項が当然適用されるのでありまするが、それはこういう法律を作りませんでも、同時にそれが国内法的の効力発生して、條約の通り国内法が自然的に、特例的に変つて来て、その通り行われるわけでありますが、御覧になつてもわかりますように、平和條そのもの内容が非常にむずかしいのであります。この法律がむずかしいのは、やはりこの平和條約の第十五條をお読みになると、ちよつとおわかりにならないと同様にやはりむずかしくなつておるので、これは條約そのものがこういう状態である以上、この第十五條に関する特別法を作るという意味においては、大体こういう書き方になるのも止むを得ないかと思うのであります。今度の特別法の第一條に、平和條約第十五條規定に基いて著作権法特例を定める目的がありまするが、この目的から申しますと、結局こういうふうに書かざるを得ないということに大体なるのじやないか、そうして今中島さんがおつしやつたように、できるだけこの範囲日本に有利なように書いてあるということは疑いないと思うのであります。ただいろいろなこれに附随するむずかしい問題がありまするが、それは必要ならば又別な法律で作られるということにして、第十五條特別法という範囲に問題を制限いたしますと、大体こう書くしかほかに書き様がないことになるのじやないかと思うのであります。勿論例えば著作権を取得した日なんというものは、これは立証方法によつて、いつ書いたかということはなかなか立証もむずかしいのでありまするが、これは現行日本著作権法でも非常にむずかしいのでありまして、結局或いは当事者の立証本位の問題で、その人さえいつ幾日、著作権がいつから発生したということを立証しますれば、その日から平和條批准までの間の期間が加算されるわけであります。このベルヌ條約に加盟しておりまする日本立場としては、やはり著作権ができたときから、著作権がつまり実質的に登録とか、納本とか、このコツピライドであるというふうなアメリカ式の形式を必要としないで、実際著作物を書きますれば、公表しなくても著作権が成立しているというベルヌ條約の原則をとつておりまして、ベルヌ條約の加盟国たる以上、甚だそこはアンビギユアスでありますが、まあこういうふうに規定するしか方法ないと思うのであります。これをほかのほうに規定しようにも、先ずベルヌ條約と関係ある以上は何ともどうも仕方がない。例えばこれを本を発行してからということにやりますれば、すぐベルヌ條約の加盟国から文句が来て、ベルヌ條約の加盟国である以上、書けば当然保護されるのだ、なぜ日本はこの條約の施行法としてそういうふうに規定したかという文句が来るわけであります。ですから日本ベルヌ條約の加盟国であるということを前提として、どこまでもベルヌ條約の原則従つて、これは日本現行著作権法規定従つて、この平和條約の第十五條の実施に関する法律規定しようと思えば、まあ大体こういうことになるのじやないかと思うのであります。勿論この内容上多少條約とどういうふうに関連して来るか、多少問題になることもあるのじやないかと思うのでありまするが、そこは割合に有利に規定してあると思うのであります。例えば第七條でも「第三條と第五條との規定の適用については、申請書の提出、手数料の支拂その他一切の手続又は條件を課さない。」これはまあ條約の通りでありまするが、併しその但し書で以て、やはり登録をしなければ対抗ができないとか、登録税を徴收するとかいうことは、これはここに規定してありまするけれども、條約の精神から言うと或いはここまで規定すべきであるかどうか、そこも多少問題であると思うのでありますが、こういうふうに書けばまあ非常に日本では有利だと思うのでありまするが、御質問がありますればその点について意見を開陳いたしますが、私といたしましては大体こういうふうな書き方にするしか仕方ない、特許法とか、あちらのほうでは特別措置法がもうすでに行われているようであります。大体こういうものを作らなくても、平和條通りつておいても行われるわけであります。ところがそれについては非常に疑問が起るから、或る程度これを解説して、この適用を明らかにするということが必要だと思います。併しこういたしましても、なお且つ疑問は相当あると思うのでありますが、それを余りに正確に書くということはやはり自繩自縛になるので、多少解釈の余地を存しておくほうがよくはないかと思います。結局裁判所なり最高裁判所の判断によつて、各個の場合において適当に判断して行く余地を存しておくということがすべての立法において必要であります。がんじがらめに余り細かいところまで立法しておくということは、行政に対する適切な解釈を阻害する虞れがあるのじやないかと私は思うのであります。
  8. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) 次に城戸さんにお願いいたします。
  9. 参考人(城戸芳彦君)(城戸芳彦)

    参考人(城戸芳彦君) この法律案を見ますと、第一條平和條約の第十五條に基いたものであると、こう目的を定めておりますが、條約そのものがもう少し詳細に規定されておれば、もう條約そのもの国内法として効力を有し、それでもう足りるのでありますが、あの十五條見ましてもなかなかいろいろな問題を包蔵しおりますし、又解釈に疑義を生ずる点があるので、それで第一の目的はあの條約を補足する意味で、或いは解釈する意味でこの法案ができたものと思います。それから第二のこの法案目的とするところは、まあ解釈上できるだけ日本に有利に解釈したい。條約目的に違反しない限りは、有利にこれを規定したいというような趣旨でこの法案ができたのじやないかと思います。それで第一條は、これはもう何らの疑義はありませんので、平和條そのものが基本となつておるものですから、あの條約はどうだこうだということは、私らとして論議するのは別ですが、こういう法案を作る場合に、根本の條約に遡つて意見を述べることは差控えたいと思います。  それから第二條の第一項は、これも平和條約に規定がありまして当然のことでありまして、それなら連合国民とはどんなものかということは、平和條約には規定がありませんので、それでこの第二項ができたのじやないかと思います。  それから第三項も著作権とありますが、專門的に言えば、出版権と著作権とは全然別個でありますが、出版権そのものを広い意味著作権の中の一部と誤解される虞れがあるので、この第三項ができたのじやないかと思います。それから第三條も、これは全部が平和條約の中に規定されておりますが、ただ疑問に思うのは、この平和條約の中にはこの法案では、「日において有効に取得」とかいう、取得という言葉を使つておりますが、平和條約の翻訳のほうには「生ずる」と書いてありますから、これに何か特別の意味があるかどうか、この三條は、この点が私らちよつと疑問に思うところですが、結局これは取得といつても御承知のように原始取得と承継取得がありまして、この場合の取得は、原始的取得を意味しなければ、これは解釈はできないのですから、原始的取得なら「生ずる」と、同義語じやないかと私は思つております。ただこの点は多少疑問があります。  第四條は、これも根本は條約に規定がありますが、この中に括孤がありまして、(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)非連合国民著作権を持つておつた場合には、これは除いてしまう。それで仮に十年、たしかこの二十五日頃で八カ月になるのじやないかと思いますが、その中で非連合国民が七カ年持つておつた場合には、その七カ年が差引かれる。そういうふうになれば、これは、四條は非常に有利になるのじやないかと思います。  それから第二項は、別にこれも括弧の中が日本としては有利じやないかと思います。  第五條は、平和條約の通りではないかと思います。  第六條は、これも別に疑義はないのじやないかと思います。  それから第七條は、これは登録税法によつて云々と税法関係で手数料だけの問題のように解されまするけれども、これはそうじやなしに第三者の対抗要件までこれは適用されますから、それがないと日本においては第三者に公示方法がとられないとしますと、善良の第三者は非常な不測の損害をこうむる恐れがあります。平和條約にはそういう規定がありませんので、こういう規定をこしらえたのじやないかと思います。  以上考えてみまして條約そのものが詳細に規定されてないから、できるだけそれを補足し、或いは誤解の虞れあるところはこの法律ではつきりさせ、それから日本の有利になるような規定ができるものなら、これをやりたいというような趣旨でやつたものじやないかと思いますから、この法案自体は成るほど難解でもありますが、連合国と申しましても結局は平和條約にありますように、これら本法案にもありますが、戰争前日本と條約関係で相互的に保護してない国は、連合国であつてもあの平和條約で保護されるものでもなく、従つてこの法律案が仮に通過しても、この法律によつて保護されるものでもありませんと思います。それで結局連合国の一部の日本が加入しております同盟條約の、ベルヌ條約の加盟国であつて、而も連合国でなければこの法律は適用されないのでありますから、根本は中島さんがいろいろ指摘されたように、いつ著作権発生するかとか、或るはいろいろな問題がそれは生じますが、それはベルヌ條約国のものであればベルヌ條約が適用され、それからその他の外国人の場合は日本著作権法二十八條によつてこれは処理されますし、それからベルヌ條約国以外ではアメリカでありますが、アメリカ日本との條約は相互的に内国民待遇で保護されるという原則と、契約自由の原則二つから成立つておる簡單な條約でありますが、これがどうなるのか、平和條約に規定されておるように、アメリカのほうでこれを存続させるのか、廃棄するのか、廃棄したあとにどう処理するかは、これは将来に属するところでありますから、今何とも意見は申上げかねますが、結局連合国とここで謳つてありますけれども、この法律の適用されることはそうたくさんはありませんし、いろいろな疑義が生じても結局條約で処理され、或いは国内法で処理すべき場合は日本著作権法で処理されますから、それほどこの法案自体が不必要だとか何とかいうことでなしに、むしろ是非この法律は必要ではないかと私はそう考えます。
  10. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) この特別法規定されます趣旨についてちよつと補足いたしたいと思うのでありますが、特別法を作つておきませんと、條約の解釈になりまして、それはやはり條約の解釈ということになりますと、やはり最高裁判所の権限でもありますが、一面においてはやはり国際間の問題になると思うのであります。この條約に疑義が発生した場合の解決法を考えなければならん。国内法にしておきますと、最高裁判所で全部法律の問題が統一されてきまるわけでありますから、一この條約そのものが非常にこみ入つておりますから、やはりこういうものは一応国内法でその適用の法律をきめておきまして、その解釈を最高裁判所に委して国内で一応問題がはつきりきまるような措置にして置くほうが非常に有利ではないかと思うのであります。その点から申しまして特別法を作るという点に私は賛成いたします。  それから特別法の中にこの條約と関連しまして多少疑問が起るようなこともございます。併しそれは日本著作権法そのものを標準としてこの條約に合せて作るという以上は、やはりこういうことにならなければならんと私は考えるのでありまして、この日米間のことに関しましては、この平和條約第七條によりまして批准効力発生してから一年内に日本と條約相手国日本に対して曽つての條約を有効と認めるかどうかということを通知することになつております。通知がありませんと、日米間の著作権條約は当然失効してしまうわけであります。併し私自身といたしましては、もう一度一九〇五年の日米間の翻訳自由の原則及び相互保護のあの條約を復活さして頂きたいということを切に希望するわけであります。私個人といたしましてはGHQに対してそのメモランダムを出しまして、GHQのほうではそういうメモランダムを考慮に入れて新らしい著作権法の改正に従事してよろしいというような意向も示しておるのでありますから、これは外務省のほうから是非強硬に、強硬にというよりも熱心に日本の曾つて日米間の友好関係に基きまして相互に自由に翻訳できる、且つ相互に内国民待遇によつて著作物保護するという線を強硬に主張して頂きたいと思うのであります。  ただあの時の條約は第一條日米間は相互に翻訳自由であるということと、第二條に各国に内国民に認めると同一なる保護相手国においても相互に認めるというこの二つ條項から成立つております。この第二の條項が非常に解釈上疑問なのであります。当時はその解釈は非常にネグレクトされておりましたが、今日になりましては相互に内国民の待遇にするというと、アメリカのほうでは方式国でありますから、結局自分のほうで登録とか、コピイの表示、納本この三つが揃わなければ保護する必要はないということになりまして日本は損であります。その損は第一條日本利益になつております。利益になつておるというのは相互の翻訳が自由であるというのは非常にこれは公平でありますけれども、文化の輸出国と輸入国の対立はおいては文化の輸入国に非常に有利になるのであります。日本アメリカ著作権を利用するということが多いということになりますれば、表面上その翻訳自由ということで対等でありますけれども、実質的には日本が非常に有利ということになります。そういうふうな一條と二條とは噛合さつて不可分の関係で成立しておる條約でありますから、今度もどういうふうになるかわかりませんけれども、多少の犠牲は覚悟しなければならんと思うのでありますが、相互翻訳自由の原則というものを日米間にもう一度條約で認めてもらうように外務当局のほうから十分熱心に主張して頂きたいのでありあります。  結局この著作権につきましては各国が同じ規定を設ければもう殆んど問題ないのでありますが、各国が違つた原則をとらざるを得ないのは、各国の経済事情及び文化の輸出入の関係利害関係が対立しておるということが根本問題であります。ベルヌ條約とか、ハン・アメリカン條約であるとか、世界の條約を統一するようなユネスコのこれが幾らできましても大低そういうものは、国内の法律はなるべくいじらないという建前をとつております。又二国間の條約にはタツチーないという関係に立つております。それほど国内の、国際間の文化輸出入の関係が、需要供給の関係が対立しておりますから、これは今後の立法において十分御協議になりまして、できれば国際條約で以て文化の交流の関係の密接である日本フランス日本アメリカであるとか、日独関係を復活されるよう切に希望するわけであります。
  11. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) 参考人かたがたに対しまして御質問あるかたは御質問願います。
  12. 高橋道男君(高橋道男)

    ○高橋道男君 いろいろ御高説を伺いましたが、著作権の問題は国内問題でもありまするが、只今伺いますと殊に外国との関係が非常に密接なように、又非常に重大なように思うのであります。その点に関連いたしまし勝本ささんにお伺いいたしたいのでありまする、が、現在著作権に関する法律が文部省の所管になつておるようでありまするが、外国と殊に又今後いろいろな関係が多くなつて行くことを考えますと、文部省だけで扱われておることがいいのか、或いは別に外務省あたりにそういう扱う区所があつたほうがいいのか、と申してその二つの区所に分れることがこれ甚だ問題だと思います。そういう点に関して御所見をお伺いしたいと思います。
  13. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) この点につきましては現在の行政機構と関連して実際上はいろいろ問題がありましようけれども私の個人的の希望を述べさして頂きます。私といたしましてはこの国際文化に関する重大な案件を取扱いまするこういう部局面は特許法と同じように、又アメリカなんかと同じようにやはり政治の中心から独立した特許庁と同じように著作権庁というものを作りまして、ぺーブイント・オフイスがあるように、コピイライト・オフイスがあるようにできれば、これは独立の機関といたしまして内閣直属、或いは国会図書館とか、ああいうふうに関係を持たせて、できればこれは独立の文化行政の一つ国際的中心機関といたしまして、議員の皆様から文部省と外務省とから独立して、従来これは曾つて内務省にありまして、これが著作権の何か監督官庁のようなふうに見て、これは検閲制度の便から内務省になつたと思うのでありまするが、いろいろな著作権に関する立法が、往々外部から著作権に関する何か管理権であしるとか、監督権関であるというふうに誤解を受ける虞れが往々あるのであります。でありまするからこういう慮れのないように何か独立の特別な官庁として、当時の政府であるとか、当時の外交政策というものと切離して、もつと広い観点から世界の文化に協調し、且つ日本利益保護するということか自由にできる組織に是非して頂きたいということを、これは私個人として切に皆様の御協力をお願いしたいと思うのであります。
  14. 木村守江君(木村守江)

    ○木村守江君 ちよつと中島先生にお尋ねをいたしますが、講和発効後に著作権に関するいうこと法律ができることは大体においていたし方がないというような結論のようでありますが、それであるとこれは非常にむずかし、特に著作権の取得の日からというようなことが非常に難解であるというようなお話でありましたが、先生は何かいうこと難解でなく、もつとわかりいいようなふうに訂正なさるようなことがありましたならば御言明願いたいと思います。
  15. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) 私といたしましては特例に関する法律のようなものは是非必要だと思います。先ず第一に法律がなければ非常に困る。と申しますのは平和條約の中における著作権に関する十五條の(C)項というのが非常にわかりにくい。ところがこのわかりにくさという中には複雑な意味がある。というのは特に期間を限つてある。先ほど申上げましたように、その期間というのは、單に戰時中でなく、占領中が入つておる。この占領中にいろいろな既成の事実ができたということが当然これは含まれておると見るわけであります。と申しますのは占領行政として行われましたさまざまなことがあるのでありますが、それが全部これに関連して参ります。これをそのまま平和條約の中になぜ細かにきめなかつたかということは、これは恐らく個々の通商協定なり、或いは国際條約なり、その他いろいろなことによつて処理なければならんという、そういう実情にあるからだと思います。そこでこの場合に私の希望といたしましては、既成の事実を残さない、更に新らしく将来紛争の因になるような事実を残さないという消極的な意味も含めて、疑義のあるようなことは、若しそれが何とかなるものならば除去する、将来の立法に譲りますというふうにしたほうがいいんじやないか。それから将来予想される国際間のさまざまな交渉に当つて、でき得る限り有利な伏線を引くことは非常に確かであるけれども、併し私の考えでは、この平和條約の中における著作権條項簡單なようでありますが、これは非常にエキス。ハートが作つたと思います。非常に考え抜いてぎりぎりのところ作つた思います。それは日本が次に或る既成事実を持ち出そうという考え方になるのでありますが、そのときによほど注意しないと逆ねじを食う慮れがあります。そういう意味において立法が必要である。そうして文章は率直に申しますれば、殊に戰後に文語体から口語体に変つたいろいろな理由もございましようが書きようによつてはもう少しやさしくなると思います。  それから一番ここで問題になりますのは、要するになぜ取得するはずであつたとか、そういうような取得した日というようなことが問題になるかというと、現在の問題になると同時に将来を規定することになる、つまり短いものはすぐにも問題が起つて来る、少くとも十年何カ月かの後にすぐ問題が起る。それから條約だから四十年ですけれども、相当の長い間の最後まで絶えずこれはあとを引くと思います。今後仮に戰争の結果生じた特別な期間ですね、普通の法律よりも余計附加えろというその期間、これは臨時加算期間というふうに考えて見るとわかるのでありますが、これがなければ問題ないんです。死んだときから起算するという国内法によりますから問題はないのでありますが、そういうときに取得した日ということになれば、国内法にもなければ、ベルヌ條約にもない。これは勝本先生は最高裁判所の判定に待つとおつしやいましたが、これは私としては原則をきめるならば慎重にきめなければならん。これは実際問題としてもあらゆる紛争の因になるだろうと思います。それは最高裁判所でも恐らく判定に苦しむ問題じやないか。勿論理窟としては最高裁判所で決定するような余裕を作るということは必要なんでありますが、煩に堪えないようなそういうものをあらかじめ作つて置くことも、これ又実は立法の趣旨から申しまして危險ではないかというので、特にこの点私としては日本著作権法、並びに日本が現在関係しておる諸国條約、そういうものでどうも解釈ができない、解釈はできてもこれは実際取扱上非常に困難だという点については、これをよくわかりやすくすればするほど実はなお困難になるかも知れませんが、これを方法としては、再考して考え直すということもあります。若しこれだけならばこれこれこうい意味であるということを十分にあらかじめ御審議を頂いた上でないとこれは問題が起る。代案といたしましては、私は取得するはずであつた日というふうにしないと、これは英語の平和條約の原文によりますれば発生するという意味、アライズンという言葉を使つておりますが、「日」という言葉を入れることは一見有利であるが、問題が起るんじやないかという点に非常に疑問を持つのであります。字句の修正ということは、これは十分可能であるし、そういうふうになすつたほうがいいんじやないかというふうに考える点が、特に今の「日」という字を入れたことについて感ずるのであります。全体の文章のむずかしさは、これは平和條約のむずかしさより遙かにこれはむずかしい。これを理解するのは容易なことでありませんし、実は私どもは三十年も著作権法をいじつておりますが、これくらい難解なものにぶつかつたことはございません。これは難解であるからといつて、或いは面倒くさいからといつて通してしまうと既成の事実ができる。これは恐らくこの法律では解決ができません。というのは占領下発生した権益というものは非常に面倒なことになると思います。それをどんなにむずかしくても十分に具体的に御検討になつて御審議願わないと、あとでこれは容易ならざる紛争の因になるということは、私は個々の具体的な例について一々申上げたのであります。非常に最近に迫つておる問題もあります。それから禍根を恐らく数十年後に残す問題がある。そういうことは幾らでも予想できる。そういうことを一々ここで列挙して行くことはできませんが、例えばアライスン、発生するという平和條約の内容に対して、権利を生ずる日というようなことは私は余り使わないほうが有利じやないか、若し有利とするならば十分に有利であるかどうかということを確めた上でやらないと、逆手を取られるんじやないかという不安があるわけであります。
  16. 矢嶋三義君(矢嶋三義)

    ○矢嶋三義君 先ほどから承わりましたところによりますと、中島先生は非常にわかりにくいむずかしい法案である、こういうふうに御説明下さいました。なお勝本先生のほうでは、法律は余り割り切つて置かないほうがいい、解釈、判断の余地を残して置いて、国内法規定しておいて、最高裁判所でその黒白をつけるほどの余裕を残しておけばいいというような御説明を承わつたわけでございます。なお城戸先生はこの法案平和條約の十五條の(c)項から来ているので、この法案について論ずるに当つてはこの平和條約云々ということはこの際申したくないというようなお話があつたわけでございますが、私ここで先生にお伺いいたしたい点は平和條約の第十五條の(c)の表現がこういうむずかしい法律案というものをもたらしたのか、更に私は城戸先生に伺いたい点は、先ほど御遠慮なさいましたけれども、私は念のために伺いたいのでございますが、この法律平和條約の第十五條の趣意というものに対して、どういう御見解を持たれているか。将来の法案通過後における法の運用にも関連いたしますので、私は伺いたいと存じます。  それから先ほどから三人の先生が主張された点で、共通されている点は結局著作権を取得する、或いは著作権発生ということが問題になつているようでございますが、これを何かはつきりするような方法はないものかどうか。素人でございますので承わりたいと思います。
  17. 参考人(城戸芳彦君)(城戸芳彦)

    参考人(城戸芳彦君) 御質問がありましたので、十五條の(c)項についてちよつと申上げますが、十五條の(c)項は余りに先ほど申上げましたように簡單でいろいろな疑義を生じ、それから誤解も生ずるのじやないかと思いまするので、この十五條の(c)項のような著作権に関する條項を條約に入れる場合はもう少し詳しく書いて頂きたかつたのでございます。例えば著作権発生する日だとかという、日なんというものは非常に困難でありまして、従つて平和條ベルヌ條約にも日本著作権法にも保護期間の起算点を死亡の年の翌年の一月一日から三十年とか五十年とかいうことで起算して行くのでございます。死亡した日となりますと、なかなかこれは立証は困難で、国外の辺鄙な所で亡くなつた人の死亡の年月日までとなると、非常に面倒になつて来ますので、そういう点もはつきりしてもらいたかつたし、それからいろいろ中島さんも意見を述べられたようでしたが、占領期間中には司令部の行政上の必要からしていろいろな措置をされたのだと思いますが、あれは一貫して條約に基礎を置いたものでもなく、又日本著作権法によつたものでもなく、又アメリカ著作権法によつたんでもなく、非常に根拠そのものが、なんでああいうような処置をするのか不合理じやないかと思われる点もあれば、その根拠を疑うような点もありましたので、そういうような占領期間中の著作権の取扱いに関しても、平和條約で何とか基本を作つてもらいたかつたのであります。それは例えば五十年主義を司令部はとりまして、その結果文部次官通牒なり或いは管理局長の通知が関係方面に出されて、民間では実際は外国人著作権は五十年主義で処置して来たものでありますが、その平和條約の趣旨から行きますと、結局日本の入つている條約だとか、国内法で処置するわけでありますから、原則として著作者の死後三十年主義がとられるのであります。そうすれば五十年主義でお互いが出版権を設定し、或いは利用契約を締結したものはそれは五十年主義で行きますが、若し無断で著作権を侵害した場合は五十年主義占領期間中のことであるから戰後も五十年主義で行くのか、この平和條約によつて占領期間中もこの平和條約の趣旨の三十年で行くのか、非常に疑問であります。それから平和條約の中には総司官の命令したことだの、処置したことについては、これは変更しないことは何條でしたかあつたように記憶しておりますが、そういうことと、どう関連して来るのか、非常に問題があるのであります。その他にもまだ小さな問題がたくさんありますが、十五條の(C)というような規定をこしらえるならもう少し詳しく規定して欲しかつたのでございますが、それが規定されておりませんで、結局今後の各国との條約上、占領期間中のものはどうするかというようなものが残つて来るのじやないかと思います。それはまあ当然のことではないかと思いますが、とにかく割り切れない気持がする。この十五條の(C)項では私ら考えております。
  18. 矢嶋三義君(矢嶋三義)

    ○矢嶋三義君 勝本先生、著作権発生というのが問題になるというのですが、いい方法はないでしようか。
  19. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) これは私の個人の考えでございまするが、例えば戰争中スイス人からアメリカ人が著作権を買つたとかいうような場合を考えて見ますと、アメリカ人が取得した或いはそういう場合に、その著作権がやはり戰争期間中延びるわけでありまするが、それは発生にあらずして、取取得でありまするが、それが今ちよつとここで考えたばかりでありまするが、昭和十六年十二月ちよつと……。その前に初めにこれが非常にむずかしいというお話でありますが、私は非常に簡單法律だと思います。ただ日の計算であるとか、何かに関するので、殆んど法律上疑義のない簡單法律である。不正競争防止法であるとか、これは御承知でありましようが、あれほどむずかしいものはない。私は少しばかり法律をやつておりますが、内容は非常に簡單だと思うのです。少し文章が長いのでありますが、平和條約から見ますと非常に内容は文章も非常に簡單だと思います。内容も非常に簡單で極めて……。中島先生は諸外国の文献にも通じておられるのでありますが、非常に簡單な法集でありまして、まだまだ問題を言えば日本現行法律にはもつとむずかしいのがある。これをもう少し簡單に書き直すこともできないではありませんけれども一般日本国民が読んでわからないという問題ではないと思います。内容が正確であるということが法律には最も必要であると思います。それで内容を正確に書くということは必要でありますけれども、條約を国内法で余り狭く身動きできないように解釈すると、やはりいろいろ解釈として外国から多少突込まれる虞れもあると思いますが、まあやはり十五條の趣旨をただ書直した程度にとどめておく。むずかしい問題は城戸さんの言われたように條約の解釈になるのだから、国内法で余り深く触れないほうがいい。問題が起らなければ殆んどこのまま終つてしまう問題だ。問題が起つた場合にはこの條約そのもの解釈に委ねておくほうがいいかと思います。それで五十年主義と言いますけれども、城戸先生の言われた……、これは御承知のように文部次官の通牒で出ております。或いは局長の通知で出ておりまして、これは法律じやないのであります。日本では五十年主義に則つておりますが、日本法律は五十年になつたのじやないのでありまして、次官通牒でありまして、これは法律でも何でもないのであります。それで違反した場合にはどうなるか、法律違反となるか。ここは非常に日本政府の……。
  20. 参考人(城戸芳彦君)(城戸芳彦)

    参考人(城戸芳彦君) 占領目的だよ。
  21. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) 占領目的…、それはメモランダムの解釈によるのであります。米国からはいろいろ言つて来るかと思います。併し日本国内法の問題としては問題ないことになつて、そこは非常に微妙になつて工合いよいよできているのであります。これは私ども感心しているわけであります。これは合わせて日本法律で五十年にするとまだ問題が相当出て来ることと思いますが、ただ次官通牒で注意書きなんです。それであそこに一応日本で外国の著作権を使用する者は国の如何にかかわらず皆五十年主義を尊重しなければならんというメモランダムであつたのでありますが、それは翻訳するにしてもそれを複製するについてもいちいちGHQの許可を受けなければならないという、CIEの許可を受けなければならないという前提の下に、すべての外国の著作権は五十年間保護するのだということを向うは言つたのであります。そうして許可を受けてCIEが許さない場合、許さないときにはどうなるかというと著作権は認めていないところが著作権は尊重していると日本に言つておきまして、これは秘密会じやありませんか……。(笑声)その本当の趣旨は検閲、つまり著作権のあるものでもないものでも一応全部CIEに伺いをたてて、そうして著作権がなくてもこれはいかん、これは占領目的に反する、思想上いかんということもありましよう。それから著作権があつてもCIEでこれはまあ出したほうがいいといつて認めるものもありましよう。だから日本政府に宛てたメモランダムはとにかくすべての著作物は五十年経過したらともかく、経過しない場合にはどこの国の著作物でも一応皆伺いを立ててみよう、俺のほうで著作権内容は決定してやるからと、こういうのでありまして、GHQが五十年主義とつたのじやないのでありまして、五十年は尊重しろと日本に言つて来た。日本ではそれに関するものは皆伺いを立てて、翻訳するにしても出版するについても一応伺いを立てて向うが具体的にその著作物許可を與えている。例えばチヤタレイのあれでも、全部あれは翻訳権を一応承認してもらつた。ところがチヤタレイのあれだけについては許可しなかつた、ローレンスのあとのものについては許可したが、チヤタレイだけは許可しなかつたのです。著作権があるのになぜ許可しなかつたか。それは占領目的に反するからという意味もありましよう。だから著作権内容が五十年主義になつているか……、五十年のほうで皆一応アメリカのほうがそれをコントロールするかと申しますと、これはコントロールしている場合もあるのだ。著作権存続期間五十年にあらずして、それをコントロールする方法としてああいうことを言つているのでありますから、日本政府法律としないで、單に次官通牒として注意を促したのでありますが、そこは非常にデリケートな問題でありますから、よくそこは実際上の事情一つ御推察請りて御判断あらんことを願いたいのであります。  それから今問題になつております第四條でありますが、これはやはり私は取得したほうがいいと思います。譲渡ということが中にありまするから…。つまり連合国民がそれを使ほうと思つて戰争期間の間は使えないからして、その使えなかつたやつを延ばしてくれ、結局こういうことなんです。そうしますというと、発生した場合と同時に取得する場合も考えてやらなければならない。  それから発生の場合でありますが、日本著作権法で行きますと、日記でも何でも自分で書きますと、文芸学術の意義があればそこに若作権が発生する。アメリカは御承知のように登録とコピライトでありますが、本の最初にコピライトがなければ保護されない。あの意思表示がなければ保護しないのであります。これはベルヌ條約の国では殆んどないことでありまして、むしろ原稿を書けば原橋に著作権が生ずる。アメリカはその上に登録しなければならない。又それを国会図書館に納付しなければならない。この三つの條件が揃いまして初めて出版に関する著作権保護される。日本法律では、作ればすぐ保護されますから、日本としては著作物ができたら保護しなければならないそれは実質的に成立した時から、戰争期間中の間も加算してやるということでなければならない。それであとはその終りのところは明らかであります。つまり著作者の生存中而して死後三十年間を認めるのでありますから、死んだ日は明らかでありますから、その三十年間経つてそのあとで少しばかり延びるわけであります。だからこうしておきましても……、又こうするしか仕方がないのであります。これを出版の日からと書きますと、先ほど申しましたように日本法律ではすぐ著作権が成立するからなぜ出版の時からとしたか、その間のことはどうするかということになると思うのでございます。だから一応著作権が成立した時からということにして、それでいつ成立したかは利害関係者が自分で立証する。立証できなければ仕方がない。立証できないものを無理に保護する必要は全然ない。今の法律上……。それは裁判所で結局きまる。著作権の成立日がいつかという争いをすればきまるわけであります。そうでありますから結局こう書くより仕方ないと申したのであります。併し皆さんが出版のときからしようというならそれもはつきりしていいかも知れないと思うのでありますが、それは日本法律立場から立法するということは私はむしろ反対したい、こういうふうに考えておるわけであります。
  22. 矢嶋三義君(矢嶋三義)

    ○矢嶋三義君 中島先生にお伺いしたい点は、先ほど平和條約第十五條の(C)項にない解釈がこの法案の中に入つている、こういう御発言があつたのでありますが、それを一つ指摘して頂きたいし、又それは我が国に有利になつているのか不利になつているのか、それを中島先生に伺いたい。  それから勝本先生でも城戸先生でも結構でございますが、承わりますと、先ほどの城戸先生の御発言では、この平和條約十五條の(C)項というのが非常に簡單に書かれているので、誤解を、或いは解釈の相違が起る可能性がある、こういう御説明を承わつたわけであります。それではそれほど不明確に簡單平和條約の十五條の(C)項が表現されているのならば、それを最も有利に條約解釈をして、そうしてここに立法ということが考えられないかどうか。この点を伺いたい。先ず中島先生から……。
  23. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) これは十五條の(C)項にないという意味は、つまりここに(C)頃に特に(i)と(ii)と二つありますが、そこでは解釈されていない。規定されていないわけで、新らしく規定したと解釈した意味で入つているのが第四條の第二項であります。それは要するに例のごとく延ばす、……簡單に申上げますが、普通は、著作権保護期間戰争から平和條約の発効の日まで延ばすというその計算方法がここにある。つまり平和條約のほうの十五條(C)項の二項によりますと、明瞭でないのであります。そこが戰時中につまり発生した、或いはその期間中に発生した著作権についてはどのように加算するのか。平和條約のほうでは逆に除算ということになつております。その計算方法が全然書いてないので、その間に発生したものも機械的に一定期間を若し延ばすとすれば、技術的には極めて簡單でありますが、こちらに不利になる。そこでつまり今の問題の著作権法規定する著作権を取得した日からという言葉が入つて来た。これがつまり十五條には解釈によつては生じますが、全然ないと思います。それからちよつと附加えておきますが、勝本先生は大変やさしいとおつしやつたが、私は反対であります。断じてむずかしいのであります。というのは、理窟だけで考えますとこれほど筋が通る話はないのでありますが、私は具体的な問題を考えておる。私も著作権協議会を代表する理事として殆んどこれに忙殺されてひどい目にあつておる。実際のことを考えますと、こんなむずかしいものはない。これは恐らく立案者である当局も勿論御存じのはずであるし、実際問題を扱つておりますと、一々この場合はどうなるということをやつて見ると疑義だらけだ、文章は人の趣味にもよりますし、理解力にもよるので、もう少しわかりよくなるかと思いますが、文章について申すのではなく、且つ又論理について申すのではない、実際にこれを運用する場合に当つてこういう場合どうなるかというとむずかしい、そこでほかの点はともかく、今指摘した点は、これは極めて重要な点であります。この條文だけで見ますと明らかに日本に有利であるように思われる、というのは一方的なんです。著作権保護期間を長くすれば日本に有利であるか不利であるかということを申しますと、これを使用するほうでは短いほうが金を拂わずに済むから楽である、ところが著作権者から申しますと保護期間が長いのが得だということでなかなかこれも複雑である。そこで中をとりましてこれを考えてみるにしても、これがこの特例法の中で一番重要な点で、我々が寝耳に水で驚いた点は、戰争発生から戰争終了の前日までの間を延してしまうぞというこの十五條(C)項によつて発生した新らしい條文なんであります。これを縮めようとする、これは四條二項の法案なんです。縮めようとするのは私は非常に賛成で、結構なんでありますが、これは縮めるときに一体何を基準にして縮めるかというときに、勝本先生がおつしやつたようにこれは国内法にも国際條約にもない、これは一々最高裁判所に持つて行くとしたらこれは一つの理想論であつて、到底これは実際上困難であるということから、これはまあ慎重に審議を頂きたいと思うのは、特に四條第二項の点であります。私のは理論より実際問題を考えておりますが、この点につきましてはすでに先ほど申しましたが、解釈のほうのまちまちさ加減というものは民間側では喧々囂々になつておる。喧々囂々たる議論の原因の一つはわかりにくいということでございます。  それからもう一つは、これは明らかにどう考えても、一体方式主義をとつている。我々の法律から、一体どこから基準にするかという点で、これは国際的にもここのところを突込まれた場合に、これは一々日本の最高裁判所参で決定するのだと言つてもこれは通ることでないということを私は考えております。
  24. 矢嶋三義君(矢嶋三義)

    ○矢嶋三義君 城戸先生一つ……。
  25. 参考人(城戸芳彦君)(城戸芳彦)

    参考人(城戸芳彦君) 結局十五條の(C)項の明確でない点だの、或いは不備の点、或いはもう少し詳細に規定しなきやならんことは、今後の條約で明確にするほか方法がないのじやないかと思います。
  26. 高田なほ子君(高田なほ子)

    高田なほ子君 中島さんにちよつとお伺いしたいのですが、占領行政中に連合国占領軍によつて得られたこの既得権が非常にそれは大きな問題じやないかと思うのです。これはまあ申上げるまでもなく被占領国とそれから占領している側との間におけるその権益というものは極めてこれは問題になるのじやないかと思うのですが、それが講和発生後も継続してまあ権益を持つているわけなんですが、国際的にそういつたような占領中の特定な既得権というものが継続するような、著作権に関してですが、そういうような例がほかの国にあるのかどうかということ、それが一点。  もう一点は、私はこの文化交流という広い面から考えたときに、世界のあらゆる国と日本が対等の立場において文化の交流をしなければならないということは、これは世界の文化人のひとしく理想とするところだと思う。ところがそういう特定の占領下における権益が特にこの国内法で擁護されるというようになつた場合に、世界間における文化の交流の上にどういつたような影響を持つて来るものであるか、私は素人でありますので、これを読んでも、繰返し読んでも理解に苦しむのでありますが、この点については特に具体的に詳しくお聞かせ願いたい。
  27. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) この点については特に国際間の慣習につきまして、は、私よりも法律の專門家の勝本さんのほうが適当かと思いますが、私どもが根本的に持つております疑問は、占領下に行われた行政的な著作権に関するさまざまな措置占領目的とどういう関係にあるかという点で、これは例えば占領軍の安全を保持するためということならば占領政策として私は認めますが、へ—グの陸戰法規その他を参照してみまして、戰前の個人の私権であるところの著作権に対して相当大きな管理が行われるということについては、国際法上からの疑問も実は私は持つておる。これは併し占領下に何らかの理由によつてそういうことが行われることはあるかも知れない。けれども大体において今度の占領後の措置と申しますのは、非常な、世界の歴史の中でも特例であるのじやないか、少くとも近代における特例であるというふうに考えるのですが、それが私どもとして、特に今御質問がありました中であとを引くということは非常に問題があると思う。その中の一つが今度廃止になりました政令二百七十二号というのがありまして、これは翻読権の問題ですが、簡單にわかりよく申上げます。と、私が例えばここに連合国人のAという人間の作品を翻訳する、正当にというのは占領下における正当なる手続を経て翻訳する、翻訳する瞬間に普通ならば私は二次的に翻訳君作権というものを持つわけであります。原著者は勿論権利がありますが、私が翻訳したことによつてその翻訳物に対して二次的に翻訳君作権の所有者になる、ところがそれを私が翻訳すると同時に無償で、無條件に原著者にそれを譲渡する私が訳したらただで以つて返してしまう。そういうことをして、而も登録するという義務を行うというのが政令二百七十二号であります。これは世界に例がございません、これはないのであります。これは併し考えてみますとさまざまな誤解もあるのでありますが、日本人が無断翻訳その他をやつて、他国の著作権を今まで尊重していなかつた。従つて懲罰的にそういうことをやるのだということが若し考えられるとすればあるのであります。併しそれは事実調べて見ると、やはり我々は日本国内法によつている限り、そうむちやくちやに侵害はしてない。だからなぜ個人の私権に至るまでそういうふうに政令で制限しなければならなかつたかということが非常な私は疑問を持つておつたのです。併しその占領中には幾ら疑問を持つても止むを得ない場合がありますが、占領後にそれが残るわけであります。というのは登録されるのでありますが、且又契約書も書かされ登録される、契約書があつて登録されるというのですから明かに私権として残るし、その私権が発生した根拠が今申上げたようなものであつた場合にはどうしたらいいか。私どもは冗談半分なんですが、へ—グの国際裁判に提訴すれば問題になることだと思います。これには莫大な金がかかり手数がかかるわけであります。ところが原則的にそういう問題を解決しなければならん。ところがこの法案にはそういう問題は一つも触れておらんのです。触れるというのは大変なことになるので触れておらんのですが、それを認めるということにはなつておらない。そこでちよつとでも引つかかりができないようにということを余計私どもは考える。つまり既成の事実をここで認めたくない、かといつてどのような根拠にせよ、そういうふうな正当な形によつてこの私権として確保されているものを今これを引つくり返そうとしたならば大変な努力を要する。それにこりていますから、既成の事実を作るのではない、こういうふうに考えております。それから無條約国との関係占領中というよりは占領後に新らしく條約国と同様に取扱われて来る。アメリカは條約国であります。この翻訳は自由である。その他国際條約に入つていない国もある。そういうところの問題、そういうのがそういうふうにあいまいになつて来たということからこの処理が相当大変だと思う。普通ならばいいのですが、そこにさつき申上げましたように食い違いが起つたりいろいろなことが起る。そういうことでその点はやはり相当にむずかしいと思います。その問題については実はこの法案一つも触れておりません。触れていないから余計むずかしくなる事実はあるのですから、第三者でなく当事者として考えてみますと、その事実は頭において、さて自分のほうはこの法律でどうなるかというと、全然ない。ただあるとするならば今の保護期間の問題、いつまで一体こういうことが続くのかということが疑問になる。従つて起算という問題が非常に重要になる。いつから起算してこうなる。つまり自分の拘束される期間はいつまでかという疑問が起る。これは特に権利の使用者のほうで……。著作権者のほうは、これは今までのところ翻訳者がそれを非常に感ずる。翻訳と申しますのは、諸外国では、一般に少数の例を除きまして、翻訳者というものは余り重んじられてはおらない。つまり簡單に申すとフランス語を英語に直すということはそう困難じやない。わからなければ單語を列べておけばいいということになります。日本の場合は翻訳者が相当の学力を持ち、且つ專門的な知識を持つていなければ不可能である。従つて日本翻訳者というものは非常な労苦を拂つていて、而も外国人はそれを十分理解しないからその受ける報酬が少いけれども、そんなような点から、つまり期間というような点が著作者側として問題になる。そういうようなことがひつからまつて参りまして、この法案全部を搾つて来ると、これは先ず第一に必要は、これがなかつたら混乱を起すということで、必要ではあるが、疑義を残すようなものを少くとも減らして行つたらどうか。それから殊にこれはいいことか惡いことか、今申上げた占領期間の間のことはここに触れておらないのでありますが、その期間を含んでいるという事実があるから、つまりその期間を含んでの法案であるから触れてはおらんが、何か処置をしなければならん点であるが、非常な混乱が出て来る。そういう点を更に搾つて参りますと、今の著作権発生の日というものは事実私としては非常に気になる。これは私の個人としての意見でございませんで、私の代表しておりますところの著作権協議会というものは二十八ばかりの団体組織の法人でございます。著作権に関するすべての法的な団体を含んでおります。ここから出て参りましたエキスパートが全部首をひねつて、この法案を見て非常に難解だと言つておる。勝本さんはそれは私どもの專門の委員長としておいでになる。勝本委員長はやさしいとおつしやるのですが、みんなこれでは正直のところを申して非常に複雑怪奇であり、勝本さんはお出でになりませんでしたが、えらい目にあつてやつと発見したのが起算日をいつにするかということです。特にこれは非難する目的は全然ないのでありますが、特に明らかに今の問題になりました占領期間中のさまざまなむずかしい問題を含んだその期間をも含めて処理すべき法案であつて、それが出ていないというところに問題がある。出せとは申さないのです。出したらこれは非常にむずかしくなるし、これは今後の交渉に待ちます。従つて今の平和條約の十五條の(C)の一項、二項から余り離れた解釈をしないで、すべてを後日の解釈に或いは交渉に待つ。更に特に申上げたいのは直接にこの影響を受けますのは日本著作権者並びに著作権使用者でありますから、この人たちはただ單に自己の利益だけで言つているんじやないのであります。やはり一種の文化の担当者として認めなければならん。この連中がつまりまあどういうふうに考えているかという意見を十分に聞いて頂きたい。私は本質はその意見をほぼ代表してお話できると思つている次第であります。だからその法案が表面からはわかりにくいという程度ですが、裏には今御質問がありましたような事情が入つておる。つまり法案の表には出ておりませんが、その期間を含むという点において入つておる。その内容には触れておらない。而も触れることは非常に困難であるし、そこでずつと幅を擴げまして、平和條約との関係はどうかというと、中に解釈は多少はある。その解釈の中に一つ問題があるから、その点は十分御審議願つて疑義を残さないようにしておかないと、それに関連するあらゆるものがぞろぞろと出て来たならば、立法関係かたがたは勿論ですが、我々もこれは巻添えを食つて大変な目に遭うということを考えるわけであります。紛争が殖えますと、まあその解決には非常な費用と労力を要する。直接の関係人間としてはそれをできるだけ少くしてもらいたいというのが希望なんであります。
  28. 山本勇造君(山本勇造)

    ○山本勇造君 勝本さんでも城戸さんでもどちらでも結構でございますが、ベルヌ條約が、日本が今度は独立するとしたならば復活して来るものじやないかと思うのですが、ブラツセル條約があるにしても日本が入つておるのはベルヌ條約ですから、あれが復活するんじやないかと思いますが、復活して来ると同時にあの中に日本が特殊の益権といいますか、普通であれば死後三十年でなければ自由にならないものが、あのベルヌ條約の中には日本はたしか初版発行後十年でしたかな、その後においてはこの権利を支拂わないで日本で訳すことができるというような特例が設けてあつたように記憶するんですが、そういうのが今度復活して来ますか、来ませんか。それをちよつとお伺いしたいと思います。どちらのおかたでも結構です。
  29. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) お尋ねの趣旨はこういう問題だと思います。日本著作権法第七條には、翻訳権は原著書発行のときから十年間原作者が持つているので、十年経ちますと、何人でも自由に原著者の同意を得ずに翻訳し得るという規定がございます。これは曾つてベルヌ條約のパリー規定でありまして、日本はパリー規定原則を今日も守つておるわけであります。これがベルリン及びローマにおいて改訂されておりますけれども、その改訂されておるというのは、やはり翻訳権も五十年間保護しなければならんということになつておりますけれども日本ベルヌ條約、ローマ條約には留保をつけておりまして、日本としてはベルヌ條約の第五條規定従つて立法しておる。その立法を今日も留保を附しておるのでありますが、著作権保護期間については、ベルヌ條約は五十年でありますが、日本は三十年主義を今日までとつておる、これはそういうリザーブを付けてできております。ところがブラツセル條約というのは最近できまして、日本は加入しておりません。ベルヌ條約には加入しております。日本戰争中といえどもベルヌ條約に拘束されていたのであります。且つその権益を主張することができたのであります。何よりもその証拠には戰争中ベルヌ條約の加盟国としての日本の負担額を日本戰後つております。この條約は御承知のようにこの国際條約は戰争中にも続いているものということになつております。二国間の條約は、この批准後一カ年の間に連合国から日本に対して継続を存続さす場合にはその意思表示する、黙つておればそれは終つてしまうということになつております。先ほどのこの條約の第七條であります。日本国際條約の関係はそういうふうになつております。だから日米間のこの特定條約もアメリカのほうで黙つておりますとなくなつてしまうわけであります。なくなつてしまうときに日本にはベルヌ條約の国であるから、アメリカとは関係がないからアメリカは自由に侵害してもよろしいかというと、アメリカのほうは同時にカナダで出版いたします。カナダはベルヌ條約の加入国でありますから、日本アメリカに対して義務を負うが、アメリカのほうはどちらかというと自由になるということで、義務を負わないということになつて甚だおかしいことになる。そこでもう一遍一九〇五年の日米間の協定というものに復活さしてもらいたいと、こういうふうに今私どもは考えておるわけであります。日本戰争中も今日もベルヌ條約の加盟国としてベルヌ條約の原則に立つておるわけであります。そこでこの著作権成立の日もベルヌ條約に従つて実質上著作権日本でできたときから著作権発生する、方式国とは違う。アメリカベルヌ條約に加盟しないというのも、アメリカ著作権成立の根本方式を異にしておるからベルヌ條約に加盟し得ないのであります。そういう事情にありまするように、著作権の成立に関しては、方式国と日本国のような、ベルヌ條約のような無方式国と対立しておりまして、世界の著作権を統一して行く上においてこれが癌をなしておるのであります。これは今後ユネスコ條約なんかでこの癌を取除こうと思いまして、例えば日本著作物に(C)という記号を附せばアメリカはこれは登録をしたものと同じように取扱うというような提案もございます。日本がこれに参加するかどうか、最近やはり問題になつておりまして、将来やはり参加しなければならないと思います。それからブラツセル條約にも日本は将来やはり参加しなければならないと思います。ベルヌ條約は五十年主義を無制限にとつております。リザーべーシヨンできないのであります。翻訳の点については、日本は留保できることになつております。プラセル條約に加入いたしましても翻訳については将来の留保を認めるということになつております。併し五十年主義は、どうしてもブラツセル條約に加盟する以上は、三十年のリザーべーシヨンはとることができない。今日の世界情勢はやはり著作権者保護するという立場に立つております。アメリカは二十八年、二回に分けて最初の二十八年、もう一回審査すればもう二十八年保護する、合せて五十六年保護するということになつております。ですから保護期間はドイツも戰時中三十年主義を五十年主義に変えました。スイスベルヌ條約の本家本元でありますから……。
  30. 山本勇造君(山本勇造)

    ○山本勇造君 そういうことは大体わかつておるので、私の質問はこの翻訳権の場合ですね、今度独立した場合には、ベルヌ條約の中にある翻訳権なんですが、十年で日本は自由になれるかどうかという点をお聞きしたい。
  31. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) 十年でなりまして……、少し期間が延びますね、そうすると戰争中の間だけが延びるわけです。
  32. 山本勇造君(山本勇造)

    ○山本勇造君 そこのところがつまり中島君の言つておるように僕にもちよつと疑問になつて来るのですが、具体的な問題として例えば何をとつてもいいと思いますが、新潮社でジイドの翻訳をやつておりますな、この頃全集みたいなもので……。あれはもう恐らく初版発行後もう十年くらい過ぎておると思うのですが、然るにもかかわらずこの間の戰時中においては、あれは相当の金を出して、そうして翻訳権をとつておるわけですね。そうすると、今度独立した場合のときには、今の発行後十年の問題が起つて来るから今度は出さないでいいことになるのか、それともこの間出したのでそれがあとまで続いて来る、そういう実際の問題……。
  33. 参考人(勝本正晃君)(勝本正晃)

    参考人勝本正晃君) 発行後十年たち、更に戰争中期間をプラスしまして、更に六カ月プラスしたその以後は自由でございます。
  34. 山本勇造君(山本勇造)

    ○山本勇造君 中島君お答え下さい。
  35. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) そうは簡單に行かないので、あれは十年以内に原著作者翻訳をどこにも許可しなければ処分する、その間に誰かに許可すれば、これは普通の保護年限だけ延びるわけです。ジイドの場合半分は多分切れております。そこが問題です。そのときの処理はこの法案ではできない。それからもう一つの問題は、翻訳権に関しては起算が、いわゆる初版発行後ではつきりしておる。ところが放送を考えてみますと、翻訳物が出て翻訳を放送に利用する場合には、これは翻訳と違います。起算が問題になる。そこで翻訳権に関しましては今山本さんがおつしやつた通り若しも日本の従来の通り国内法或いは現行法がすべてそのまま残るとすれば、一応起算の問題はなくなる。併しそれを更に使う場合にすぐこれに引つかかつて来る。今山本さんがおつしやつたようにこれは全然困るわけです。例えば占領下に特別な行政措置によつて許可を得た。ところがこれが全部そういう制約がなくなれば自由であるというのが随分ある。そうすると初めに金を拂つた連中は既得権というか、排他的な権利を、独占権を維持したいのは当然です。とにかく金を拂つたのだからこの権利は続けて行く。片方は法律的に切れて誰がやつてもいいのじやないか……。これに対して問題が起るのは、両者が紛争するだけならいいが、ジイドは死んでしまいましたが、ジイドの著作権を持つておる連中が介入して来れば、これはすつたもんだの大騒ぎになるということは明瞭です。これをどう救済するかということは、少くともこの法律では全然わかりません。
  36. 山本勇造君(山本勇造)

    ○山本勇造君 今度独立して結局ベルヌ條約の翻訳特例が認められるということは非常に僕は有利だと思う。けれども今のような平和條約の問題と引つかかつて来るとそこのところがどうなつて来るのか、やはり疑問を持ちま市。
  37. 参考人(中島健藏君)(中島健藏)

    参考人中島健藏君) これはつまり経過措置になりますね。占領行政が一応法的に終了してそれから新らしい関係発生するまでの経過措置、これはもうこの平和條約によりますと、瞬間に変るようなふうになつて、そこで何らかの経過措置をやらないとこれはえらいことになる。その点でつまりこの法律方法としては例の十五條の(C)項ですね、あれを丸呑みにして一応の、つまり国内法でやはりきめておかなければ工合が惡い。だから何かの形でそれをきめるということには私も反対でない。併しその場合にその程度でやめておいて、あとのつまり立法的なりいろいろな行政措置なり主権に関するものですから、一方で国家権力だけでどうにもならん問題がある。つまり商法の問題にも関係しますし、いろいろなことが出て来る。これが余り細かにやつてもいかんし、そうかといつて目前にいろいろな問題がある、そのほうを急いでもらいたい。こういう立法は必要でありますけれども、こういう立法では問題の争点になりますようなものを除いてもらつて、それよりも経過措置のほうをもつと行政官庁としては考えてもらいたいということを痛切に感じます。
  38. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) 他に御質疑はございませんか……。別にないようでございますから、これで委員会を閉じたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  39. 委員長(梅原眞隆君)(梅原眞隆)

    委員長梅原眞隆君) それではこれで委員会を閉じます。    午後零時三十八分散会