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参考人(
田中榮一君) 私から実は
前回の
文部、
法務両
委員会の
合同委員会の席上におきましても、私は
冒頭に申上げましたごとくに、私も
大学の
矢内原学長と同じように、
学問の自由、
大学の
自治ということにつきましては、当然これは尊重すべきものであるという
見解を持
つておるのであります。ただ同じ自由にいたしましても、全部が全部何をや
つてもいいという自由ではないと思うのでありまして、これはやはり今の
矢内原学長の御
発言のごとくに、やはり
大学といえ
ども法の範囲内において、
憲法の認むる自由、而もその
憲法の認むる自由ということは、
憲法に言うところのいわゆる公共の福祉に反しない限りにおいての自由というものがこの
基本的人権の
章條によ
つて認められておるものと、かように考えております。
そこで今回の問題が発生いたしまして、
警察は
学問の自由を侵害し、
大学の
自治を侵害するというように世上に宣伝されておるのでありますが、私
どもの気持としましては、絶対に
学問の自由を今まで侵害したことはないと考えております。
それから又
大学の
自治につきましても、私は
警察権を行使することによ
つて、
大学の
自治を事実上侵害したことはなかろうと私は信じておるのであります。この
学問の自由とか、
大学の
自治というような問題は、
警察権行使とは私は別個のものであると考えております。勿論
警察はかかる問題に何ら関與する必要は全然ないのでございます。併しながら先ほど
学長の御
発言の中にありましたごとくに、
大学といえ
ども絶対に
治外法権ではないということでございます。例えば
大学の
構内におきまして不穏な
ビラ、或いは政令三百二十五
号違反の
ビラが撒かれている、現に撒かれている、そのような場合において、これを
警察が全然もう手放しで、
大学の
構内であるから
警察はもう手も付けられないのだというような状況で、これを放任しても差支えないものであるかどうか。これは
警察の
立場から申しますると、
大学の
構内といえ
ども、自由に人の通行し得る場所でありますから、これらの不穏な
ビラ等が撒かれているという事実を視察する、又若し撒かれてお
つたならば、これに対して適宜の
措置を講ずるということは、これは私は
警察権として当然の
措置ではなかろうかと考えております。ただ問題は、これをやる上において、
学校側とどういうように
了解を付けてやるかということが問題でありまして、これをやること
自体が直ちに
学問の自由を侵害したとか、或いは
大学の
自治を傷つけたというようなことは、私はないんじやないかと、かように考えているわけであります。まあ
警察側としましても、十分にこの
学問の自由とか、
大学の
自治ということにつきましては、我々は当初から何回も申上げております
通り、十分にこれは尊重している。尊重しているからこそ、
次官通牒によ
つて、成るべく
警察的な
許可とかそうい
つたものは、すべて
大学総長に御一任申上げたい、かような趣旨で、実はかような取りきめをいたしているような次第でございます。
それから
次官通達でございまするが、これにつきましては、先般
文部、
法務両
委員会の席上において私から御説明申上げましたごとくに、
次官通達の第三号に、
学校構内における
集会、
集団行進、
進団示威運動等の
取締りについては、
当該学校長が阻止することを
建前とし、
要請があ
つた場合、
警察がこれに協力すること、ということにな
つております。この
解釈は、
学校内におきまして
無届の
集会が行われる、或いは
校長の許さざる
集団示威運動、或いは
集団行進等が行われてお
つて学校がこれを何回も警告を発して制止する。併しなかなか
学校の力を以てしては到底これを鎭圧、抑制することができないと、止むを得ず
学校長から
警察に実力行使によ
つてかかる
無届、無
許可の
集団行進、
集会等をやめてもらいたい、中止してもらいたいというような
要請があ
つたときに、
警察側から然るべき人数を出して
学校構内において
取締りをいたす、かように我々は実は
解釈をいたしておるのであります。そこでこれができましてから、かような
解釈の下に
現実に
学校長の
要請によ
つて出動いたした場合も数回ございます。併しながらこれは、今申上げましたのは
学校構内におけるいわゆる事実上治安が乱れるという
程度のものでありまして、例えば
ビラを撒くのを一応視察するとか、或いは
取締るというようなことは、私
どもはこの
條項の中には含まれていないと
解釈しておるのであります。例えば最近もこうした問題が起
つている際にもかかわりませず、
毎日ビラが撒かれております。その
ビラはここに持
つておりまするが、こうした
ビラが、
現実にこうした問題が起
つている際にかかわらず
学校の
構内において撒かれておるということであります。で、この
ビラというのは御
承知のように何もこれから
ビラを撒くからというような恰好で撒くのではないのでありまして、
ビラを撒くというのは
隠密の間に、或いは適当な所にこつそりと置いておいて風の力によ
つてそれをばら撒かすとか、或いはそつと下に落すとか、或いは適当な所に置くとか、或いは暗い所において、
映画館等暗い所において天井に向
つて放り上げるとか、こういうようないろいろな
隠密の間にこういう
ビラを撒くということが行われておるのであります。これを一々何月何日にどこへ行くからということを一々
学校の
了解を求めて
取締をするということは、実際問題としてこれは不可能なことなのであります。かような点から我々は今のこうした
ビラの
取締であるとか、そうした点は
学校長の
了解がなくとも、必要によ
つては随時随所にこうしたことを視察するということが必要であるのであります。この
程度のものが入
つたからとい
つて私はあえて
学問の自由を侵害するとか、或いは
大学の
自治がこれによ
つて破壊されるということは恐らく私はないのじやないかと思うのであります。勿論
取締りした結果については、その都度現在こういう所にこういう
ビラが撒かれておりましたということを
学校当局に一々
連絡をしておるのであります。そうして今後こういうことがないように
一つ御
注意を願いたいと思うと、又そういう場合におきましても、できるだけこの事前の
連絡のないときには必ず
事後連絡を
学校当局に申上げまして、
学校の御
注意を喚起しておるというようなことでありまして、従来もこの
程度のことが行われておるのでありまして、私はこの
程度のことが行われることによ
つて、やれ
学問の自由が侵害されるとか、
大学の
自治が壊されるとかいうことは少し考え方が仰々しいのじやないかというようにも実は考えられるのでありまして、本質的に何か
学問のことにつきまして
警察がかれこれ言うというならばともかくも、
警察官が教室に
行つて、中に入り込んで
教授の
講義内容をメモするとか、そういうことは絶対にや
つてないのであります。又
学生大会が
構内に開かれましても、
警察官はただ掲示によ
つて今
学生大会が開かれているという
程度のことを知る
程度でありまして、それ以上
警察としても知る必要はありませんので、又中にも入りません。掲示板によ
つて今どういうものが行われているかということぐらいは、これは当然私は
知つてお
つて差支えないのじやないか。これは
警察官でなくてもあらゆる者があの中を通るのですから、その
程度のことは誰でも知るわけであります。そうしたことで一々
学問の自由が壊されるとか、或いは
大学の
自治が破壊されたとかいうことは僕は少しおかしいのじやないかというふうに実は考えているのでありますが、ただ
次官通牒につきましては、いろいろ文句の点につきましても、いろいろ両者の
見解において相違がございまするので、この点につきましては、いま少し
文部当局とも
学校側がよく折衝いたしまして将来再びこうした不祥事が起きないように、これを防止することに
警察も、
大学も、
文部当局も協力せねばならないと、かように私は考えている次第であります。