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委員長(
羽生三七君) 時間も余りないようでありますが、私から最後に一言希望を
申上げておきたいと思うのであります。それは、この
農地法案の審議過程に、たまたま
農地問題について各方面で
議論が闘わされ、なかんずく先般現在のアメリカ大使館農務官のラデジンスキー氏並びに東大教授近藤康男氏両氏が所論、所見を発表して、この問題に対する見解を明らかにしたのであります。ラジンスキー氏は、
農地改革は崩れてはおらないが、若しその危険が
日本にあるとするならば、それは
農地の相続による細分化であるということに問題の重点を置かれておるようであります。更に六百万以上の
農家が六百万
町歩という狭隘の
土地の中にひしめきあ
つているというところに問題の中心を置いておるようであります。これに対して近藤教授は、
農地改革は農民の期待に反しておるという
意味で、それぞれ異
つた角度から問題を論じられておりますが、私ども今回の
農地法案を見まして、過去の三
法案がまとま
つて一つの
法案に整理されるわけでありますけれども、問題は何と言いますか、資本主義と言うか、自由主義の経済の中にあ
つて、この
特段の
農地に対する規制をしているこの
法律というものが、いろいろな角度からは論じられますが、併し我々は
日本に隣する中国の例を見ましても、中国の
農地改革に不熱心である蒋介石国民
政府の失敗の例を見ましても、いろいろな問題はあるにしても、
農地改革というものが
日本の政治上に重要な寄与をしたという事実を、我々認めざるを得ないわけであります。それが若し非常な後退をするというようなことになりますというと、ここに新しい経済闘争、政治闘争の違
つた局面が又展開されることにな
つて来るのではないかという杞憂を持つわけであります。併しながら一面において、この自由主義的な経済の中で、
特定の
立法措置で
土地の問題を規制するということが非常に困難であるということはわかりますが、これは是非
政府がこの運営の面で、その困難ではあ
つてもそれは排除して、成るべくこの改革の精神を崩さないようにして行
つて頂きたい。これは我々の希望の
一つであります。
それから幾ら
土地の
売買の問題等を
法律等で規制いたしましても、先ほど
片柳さんも若干触れられましたけれども、
農産物価格の問題或いは
農業収入全体の問題で適正なるバランスが得られなければ、みずから耕地を売らなければならないような羽目に追い込まれることは事実であります。
法律上、
農地問題を
法律によ
つて規制すると同時に、他面において、やはり
農業が採算の合う
一つの事業として成り立
つて、
法律の保護如何にかかわらず
農地を手放すことのないような経済的な
基礎というものが、
農村の中に、特に
農家の生活の中に確立しなければ、この
農地法の将来というものについていろいろな杞憂というものが湧いて来ると思うのであります。そういう
意味におきまして、
農地改革の精神を崩されるということは非常に我々としては困りますけれども、同時に又それだけに頼るのではなくて、今申しましたような、
農業が他の産業と同様な基盤で、つまり仕事として成り立つ、
農業だけ特別なものでなくて、他の商業
生産と同様に企業としても成り立つような経済的基盤の上に置かれることを期待するので、その場合は、
政府が
農産物価格の問題或いは
農村の
金融の問題、その他格段の御努力を願
つて、農民の経済の安定を通じてこの
農地改革の案質的な進行が期待できるというところへ持
つて行きたいと思うのであります。これは私の希望でありまして、それぞれ本
法案の中には問題があるということは御
指摘になり、又各
委員の皆様から修正の御
意見も出たのでありますが、会期切迫の際、多忙の間にどうかということで、皆さんが他日を期せられて今回の
衆議院送付原案に対する修正というようなことは適当なる機会にということになりましたので、それらの点もお含みの上、将来本案について十分の御検討あらんことをお願いする次第であります。