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説明員(安福数夫君) それでは御説明申上げます。瀬戸内海の
特殊性につきまして申上げる前に、水産業がどういう現況にあるかということを
簡單に申上げたほうが、瀬戸内海の
特殊性を更に御理解願えるだろうと思いますから、全国的な問題について
簡單に先ず申上げたいと思います。
我が国の水産業が戰前から戰後にかけまして世界の第一の水産国であるということは御承知の
通りでございますが、今も
つてやはり第一位でございます。併し漁民一人あたりの所得という見地から
考えますと非常に零細でございます。平均しまして現在のところ一人年間八百貫から千貫くらいどまりじやないか、数字的には非常に疑問もございますが、大体その
程度の平均の年間の漁獲量でございます。これは漁民の所得から
考えますと、それを金銭に換算いたしますと非常に安い金額になるわけです。試みにこれを二百円、現在二百円を少しオーバーしておると思いますが、二百円の貫当り値段で換算いたしますと、八百貫にいたしますと十六万円でございます。これから当然
経費を差つ引くわけでございますから、純然たる所得というものは非常に少くな
つて来るわけでございます。沿岸漁業を含めまして日本漁業全体の平均はそうい
つたような数字を示しております。これは日本の
農業の面におきましても同じことが言えるわけでございますが、これは日本の産業構造の然らしめるところが、何かそういう
関係たろうと思うのでございますが、その点は
農業に比べて水産業においても全く同じでございます。これが戰前の姿でございまして、それが戰時中から戰後にかけまして、どういうふうに日本の水産業というものが変遷して来たかということを申上げますと、戰時中は油とか資材の
関係で水産業というものは非常に圧縮されたわけでございます。併し戰争末期更に終戰後の日本の食糧
事情はつい最近まで皆様がたも御承知の
通り非常に窮屈な状態にあ
つたわけであります。従いまして水産業の上に課せられました日本の食糧
事情から来るウエイトというものが非常に重要視されたということは当然
考えられるわけでございまして、終戰後他の産業と比較いたしまして、日本の水産業の生産設備と申しますか、生産施設殊に漁船の復興は他の産業面におけるよりも非常に急速な面があ
つたわけでございます。従いまして終戰後の日本の漁獲量というものは非常に急カーブを画きまして上昇いたしております。併しこれもほんの二、三年の問題でございまして、すでに
昭和二十三年の後期から二十四年に入りますと水産業の経営状態というものは非常に惡化の傾向になりまして、現在非常に行詰
つておる段階にあるわけでございます。これはどういうことかと申しますと、農村と全く同じでございまして終戰後海外から引揚げた人たちもおるわけでございます。殊に戰前の日本の漁業というものは世界到る所に進出しております。そうい
つた漁船なり資本というものがやはり日本内地に戻
つて参
つたわけでございます。これが水産業というものは非常に水ものでございまして水産業が非常に儲かる、こういう見地から水産業に非常に過重な投資が行われたわけでございます。それが先ほど申上げましたように漁村の復興を非常に早めたということにも関連があるわけでございますが、そうい
つた関係上、水産業における資本の過重な投下と申しますか、そういう面と、海外から同時に人も引揚げて参
つたわけでございます。そうい
つた面は農村と同じでございますが、それによ
つて過剰人口を漁村に現出したということは、優に予想されるわけでございまして、そうい
つた資本から来る水産資源に対する圧力、それから人口から来る圧力、それから更にこれはつい二、三年の問題でございますが、漁業資材の問題がございます。御承知の
通り補給金制度というものが打切られまして、資材というものが非常に高騰いたしております。これは当然漁業経営に反映いたしまして、漁業経営というものは非常に赤字を出しておる現状でございます。
以上が全国的に申しまして水産業が非常に逆境に置かれておるということを
簡單に説明いたしたわけでございますが、更に瀬戸内海の
特殊事情を申上げますと、以上申上げましたことに加えまして、先ほど松永
委員からも御発言がありましたように、工業から来る非常な汚濁水の問題があるわけでございます。それから浅海の埋立の工事が各地で行われております。これを
簡單に申上げますと、文化が漁場を駆逐しつつあると申上げていいと思うのでありますが、そうい
つた関係で漁民というものが
自分の働く漁場を失いつつある。これは全日本の経済面から見ますと工業が発達する、更に
農地が造成される、こういう面から見ますと、まあ差引
プラスになることは明らかでありますが、漁民はそれだけ
自分の生活を失うわけであります。そうい
つた事情は瀬戸内海に殊に顯著だと言えるというふうに
考えるのであります。それから更に瀬戸内海の
特殊事情を数字的に申上げますと、我が国の水産業に占めます瀬戸内海のウエイトでございますが、戰前瀬戸内海の漁民は大体十四万から十五万、この数字は十年前でございます、そういう数字でございます。現在どのくらい漁民がいるかと申しますと、これも大体推定でございますが二十六万から三十万、約倍の漁民にな
つております。それから漁船の数を申上げますと、戰前の漁船の数というものは約六万八千隻でございます。これも十年前の数字でございます。終戰後現在の数字は八万四千という数字にな
つております。併しこれは
内容的に検討いたしますと、更に質的に増大しておりまして、先ほどの十年前の六万八千という数字の中の三〇%が動力船でございます。それが戰後の八万四千の中では四一%が動力船にな
つております。動力船だけが約八割の増加傾向にな
つております。これはどういうことかと申しますと、漁業内部の漁法というものが非常に合理化し進歩したと、こういうことになるわけでございまして、一隻当りと申しますかトン当りの漁獲量というものは当然それに比例して強化される、こういうことになるわけでございます。更に馬力数を申上げますと大体三倍にな
つておるという数字が出ております。そういう結果漁獲の数字にどういう変動が来ているかと申しますと、戰前と戰後をかけまして大体瀬戸内海の漁獲量というものはそう大壷はございません。十年前の数字が一応四千八百万貫という数字が出ておりますが、それが現在約六千万貫という数字が出されております。それを一人当りの平均にいたしますと、戰前は一人当り三百貫であり戰後が二百二十貫でございますか、そういう数字にな
つておりまして僅か八十貫あたりしか減
つておりません。これは單に数字的に申上げますとそういう数字でございますが、これを質的に見ますと瀬戸内海の魚と申しますか、それは戰前は非常に高価な魚がいたわけでございます。瀬戸内海で有名な魚を申上げますと、たいとかさわらとかこれが瀬戸内海の二つの非常に貴重な高価な魚でございますが、それがだんだん減りつつあるわけでございます。つまり瀬戸内海から上ります蛋白の総量というものは、例えばプランクトンから逆算されるわけでございますがプランクトン、それから生産されます全部の水産資源というものは変らないとこういうように
簡單に数字が出るわけでございます。この数字が科学的に証明されるかどうか別としまして、一応そういうことは予想されるわけでございます。併し高級魚が減
つてそれに代
つて雑魚が殖える、こういうことは当然
考えられるわけでございまして、瀬戸内海の水産資源というものは現在そういう状況で枯渇しつつある、つまり質的に非常に惡くなりつつある、こういうことは言えるのじやないかと思います。これは漁獲の統計を各種の魚種ごとに見ましても一応窺えるわけでございます。いわゆる高級魚の二年三年た
つてからとるたいとかさわら、そうい
つた魚種が減少いたしまして、一年生の魚、典型的な例はえびが非常に殖えております。これは一年性魚でございまして、それほど濫獲いたしましてもすぐにこれは回復する、こういう資源でございます。つまり高級魚が減りまして雑魚が殖えつつある。これは魚民の経済にと
つては非常に致命的な問題でございます。大体そういうような傾向を辿りまして、これは日本全国の現情がそうでございますが、殊に瀬戸内海はてうい
つた、具体的に申しましたようにたいとかさわらが減
つて非常に雑魚が殖えつつある、こういう
事情にあるわけでございます。
それから瀬戸内海の漁業の秩序の問題でございますが、当然こうい
つた漁業経営は非常に逆鞘になりつつある、資源状況から申しまして漁民が生活的に窮乏することは一応明らかでございます。まあその結果どういうことが漁業の秩序の上に現われているかということを申上げますと、これは戰時中から戰後にかけまして、我が国のまあ国家権力と申しますか、国の威嚴、或いは取締の威嚴と申しますか、そうい
つた面の非常に弛緩が現われたのでございまして、その結果漁業の秩序というものは非常にめちやめちやにな
つておるわけでございます。まあ先ほど松永
委員からも名前が出ておりましたトロール漁業でございますが、これを正確に申上げますと小型機船底曳網漁業、こういう漁業にな
つておるわけでございますが、この漁業の実情を見ますと、現在全国的の数字は三万隻以上を超えております。それの約八割ぐらいが瀬戸内海に集中しているわけでございます。まあこの漁業はつい最近まで瀬戸内海では禁止にな
つていた漁業でございますが、それが現に二万近くも瀬戸内海で操業されていた、こういう実情にあ
つたわけであります。漁業というのは、日進月歩いたしておるわけでございまして、
農業よりも早く機械化されつつあるわけでございますが、そうい
つた関係でまあ無動力船が動力船になり、それに対して従来法制がそれに追いつかずに無許可の状態、許可違反の状態、そうい
つた状態が現在まだ全国的に
相当見られるわけでございますが、その漁業の秩序の回復を狙いとしまして、現在漁業制度の改革が行われているわけでございますが、それに関連いたしまして先ほど問題の瀬戸内海の小型機船底曳網漁業というものの整理に現在入
つているわけであります。どういう方法で人
つているかということを
簡單に申上げますと、これは産業行政といたしましては、非常にまあ非常識なやリ方でございますが、小型底曳というものを減船して行く、極端な例は船を沈めて
行つて船の数を少くしよう、こういうような非常にまあ非常識な産業行政までやらざるを得ない、こういう実情に日本の沿岸漁業が追い込まれているわけでございます。まあ先ほどからときどき宇和海区の問題が出ているわけでございますが、宇和海区もこの小型底曳は絶対にやらない、こういう決議を
委員会がや
つている、そういう実情にあるわけでございます。それから広島県でも二十六
年度で、これは小型底曳ではございませんが、船曳綱漁業というのがございまして、これが約五十カ統ばかり減船いたしております。そうい
つた非常に非常識な
措置までやらなければ日本の沿岸漁業、殊に瀬戸内海の漁業というものが資源的に行きつまるだろう、こういう実情にあるわけであります。これにつきまして水産庁といたしましてはいろいろ対策も
考えているわけでございますが、ともかく資源的には限られているということから、そういい名案がないわけでございますが、やはり全国的な趨勢から
考えまして、こうい
つた地帶の漁業というものはその漁業だけで生活するということは恐らく不可能だろう、こういうことは我々としましても結論的に持
つているわけでございまして、こうい
つた地帶の
農業との兼合いの問題、
農業の
振興というものも非常に重大なことだろう、我々自身もそういうふうに
考えまして、
農林関係のほうともいろいろ折衝いたしておるわけでございます。まあ以上のような実情でございまして、この
法案と共に非常に我々としましても注目いたしているわけでございまして、こうい
つた半農半漁
地帶の水産業と
農業という
関係は、十分我々としましても今後関連をと
つていい行政をやりたい、こういうふうに
考えておる次第であります。まあ
簡單でございますが、説明を終りたいと思います。
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