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国務大臣(
高橋龍太郎君)
只今加藤君の述べられましたことは、私も非常に重大な問題と考えて深く関心を持
つておる次第であります。いささか私の考えておりますことを述べまして御答弁にいたしたいと存じます。
先ず
生産量の問題でありまするが、
綿製品需給の
見通しは、
内外の政治、
経済情勢、
景気の
動向等に左右せられる面が多く、確実なる推定は困難でありますが、
差当り数カ月の問題としては、
内外の
需要の急激な伸長も期待できないので、
綿糸月産十五万
梱程度で
十分需要を充足できるように考えられるのであります。
従つて月産能力二十四万梱に及ぶ
施設を以て無
制限の
増産を行うことは
繊維価格の一層の低落を招き、漸く安定の緒を示した
輸出市場を惡化せしめ、
繊維業界全体の
市況を深刻化せしめ、延いては
国内景気の
一般の惡化を招くこととなる。他方においては
ドル資金の窮屈な
現状におきましては、
綿花の
輸入を無
制限にこれを行い得ないことは明らかでありますから、この面からも
綿業の
操業度を適正な水準に維持することが合理的であることは言を待たないのであります。もとより
政府といたしましては
国民衣料の豊富低廉な供給を確保することが肝要であると考えまするが、同時に
経済界の混乱を回避し、
輸出の
安定増進を図ることが
是非とも必要なので、この際
政府としては
輸出増進の
施策を強化すると共に、
外貨資金とも睨み合せまして
原綿輸入量に適当な
規制を加え、これによ
つて綿業の適当な
操業度を維持したいと考えておるのであります。
業界としても
輸出の
増進に格段の努力を払うと共に、
現状に適応した
生産の
自粛を行わるることを切望するのであります。
次に
金融問題でありまするが、
綿業界における
現下の
金融上の困難につきましては
只今お述べになりました
通りでありまして、
如何にも重大な
危機に達しておるのだと私は考えます。これは
加藤氏もお述べになりましたように、昨年種々の
原因で
商社の負担するに
至つた実
損額を、
如何にして填補して弁済せしめるか、この問題が
解決の鍵であります。元来私は昨年の夏、七、八月頃にこの問題が深刻化されました時分に、当時私
大阪へ参りまして、
綿業界、
商社側のいろいろ御
意見を聞いたのでありますが、その当時私がお尋ねしたのは、この
解決は要するにこの
金融策についていろいろの陳情を聞きますが、あなたがたのほうで、とも
かくこういう巨大な
損失が出たのであるからして、
紡績業者のほうと
問屋側のほうでその
損失をどういうふうに
解決して行くか、どういう割合で負担するかということをおきめにならんというと、
金融業者もなかなか決心ができぬわけである、その問題に触れるというと、私が
大阪へ行きました当時は、両方の
業者諸君も触れることを避けておいでになるような感じを受けたのです。昨年にこの
解決が本当にできていなくて、まあ一時見送るという
解決であ
つたのが、今日まで残された問題が今日又起
つて、一層この
金融の困難を来たしておるのであろうかと私は考えます。さてそういうことはいずれにいたしましてもよろしいのでありますが、この問題の
解決の鍵であるところは、要するに
一般市場の改善と
企業経営の
合理化、
健全化を図ることが根本問題でありまするが、そういうことを
言つても、現在の火を消すことが先決問題であるというような
状況にな
つているのだと思います。根本問題の
一つは、
需要を無視して
増産をした、そういうことも差控える必要があると、考えるのであります。私は
差当りの
措置といたしましては、やはり直接の
利害関係者である
商社、
紡績、
銀行の三者間で、隔意ない御協力を遂げられ、
相互扶助の精神を以て
打開策を見出さるることが第一必要だと思います。実際にはこれは非常に、余りに大きな問題でありまするので、すでに三者間の御
協議は進んでおりますが、まだ目鼻がつかないというのが
現状であります。
通産当局もこれにつきましてはいろいろ
苦心をいたし、又直接
業者諸君ともいろいろ話合いをいたしておるのでありますが、幸いに
綿花借款も成立いたしまして、将来
金融難打開の徴候も存しますので、必ず
事態は好転することと考えるのでありますが、
局面打開のためには
政府としてできるだけの
措置をと
つて行き、
関係各方面とも御相談し、御尽力をいたしたいと考えております。なお先刻の御発言のうちに
政府資金の
運用云々というお
言葉がありましたが、これも
一つの
方策だと思います。思いますが、これには又いろいろむずかしい面もあります。
折角苦心をいたしております。私は、この三月
危機ということがよく言われておりますが、これは切抜けることができるのじやないかと私は信じております。これは同じような
言葉を昨年の夏も
大阪で
業者諸君に述べたのでありますが、要するに
我が国の現在では、
金融を極度に統制をして、
財界の
整理と言いますか、それに
外科的手術をすることを避けて、徐々に
整理をして行こうというのが年来の
政府の方針でありますので、
日本の
財界ではパニツクが起きるというようなことは私は考えられないと思います。それは誰が政局に
当りましてもそういうことを放
つて置くことはようしないわけであります。ところがこの三月
危機、先だ
つても或る所で私は三月
危機というものは考えられないのだということを申しましたれば、私が非常に
楽観をしておるように誤解されて、その後いろいろな質問を、受けたのですが、これは決して
楽観ではないのです。
考えようによ
つては悲観であるかも知れない。
日本の今の
経済界というものは三月
危機であるとか、十二月
危機であるとかいうものは存しないのだが、年中
危機、一年中或る
程度の
危機がある。ただ丁度
手形の切替時が十二月に多いとか、三月に多いとかいうことでそういう説が出るのでありますが、私は決してこれは
日本の
財界は
楽観しておるのではないのであります。年中或る
程度の
危機があると言わなければいけないのだと思います。
次に
設備の件でありますが、御
承知の
通りこの一両
年間に
紡績業のみならず
各種の
産業においてかなり活溌な
設備の新
増設が行われ、その結果一部の
産業におきましては、過
剩設備の
傾向を生ずるに
至つたのであります。
綿紡績業におきましては先刻
加藤委員より各面に亘
つて詳細な
数字を挙げられまして、私はそれを繰返しませんが、昨年末現在において運転可能の
錘数は六百四十八万錘であるという
数字が
通産省では出ておるのであります。これは一ヵ年半に六割以上の
増設に値いしておるのであります。今日の
輸出及び
内需の充実のためには、
加藤君の御
意見もありましたが、大体五百万乃至五百五十万錘で十分であると思われますので、すでに
設備過剩の
傾向は歴然としておると言わなければならないのであります。
我が国経済におきましては、
電力不足、
産業設備資金の
梗塞はかなり深刻であり、
電力、石炭、造船、
鉄道等の
重点的基礎産業部門以外の
産業投資は、或る
程度これを抑制することが、
国民経済的見地から要請せられておる状態でありますから、すでに過
剩設備を擁しておる
紡績業者といたしましては、これ以上の
増錘を
自粛することが
業界全体の
利益であると共に、
国民経済的に申しましても必要なことであるのであります。比較的
不要不急の
産業における
生産設備の新
増設に対しましては今後
政府が
如何なる
措置をとるべきかということにつきましては、目下慎重に
検討中であります。私はこのために何か
法的措置が必要であろうと考えております。よくビルディングの濫設が問題になりまして、例えば東京などにおきましてはすでに過剩であるのではないか、これに対して何か抑制すべきではないかというような
意見が盛んでありますが、
我が国の現在のように
資金が
梗塞し、
資材も乏しいその際に
不要不急の
施設は、
重要産業と言いますか、それへ数えられております今の鉄のごときについてでも、
設備過剩の面があれば再
検討をする必要があると考えております。そういう
法的措置をとるということになりました場合には、どういう
産業に適用すべきかという問題が起るのでありますが、その際には
紡績業のごときは第一に取上げなくてはいかん
現状だと私どもは考えております。なお先刻ちよつと申し落しましたが、
紡績業者が
自粛操業をするということは今日の
事業者団体法その他で制約を受けてできないのだというお
言葉がありましたが、その
通りであるのであります。私は昨年の
臨時国会のときも、
独占禁止法並びに
事業者団体法につきましては大幅の改正が
日本産業のために必要だという
意見を持
つておることを述べたのでありますか、甚だ遺憾でありまするが、まだその点はいろいろな
事情がありまして、私の
意見は実現していないのであります。
輸出組合というようなものがダンピングを阻止し、
海外の信用を維持して行くためにも必要でないかという
加藤君の御
意見でありますが、これ又私は同じ
意見を持
つております。昔の
輸出組合は少し行き過ぎた点がありまして、かなり非難があ
つたのでありまするが、そういう行き過ぎた点は又何かの
方法でそれを止めることができる。ただ昔そういう点があ
つたからと
言つて、現在甚だ必要に迫られている
輸出組合というものがいつまでもできないということは、私は非常に遺憾に存じております。成るべく速かに
輸出組合というようなものができることが必要であるという私の
意見は今日なお変
つておりませんで、その方向に努力いたしたいと存じております。又努力いたしつつあるのであります。