○
吉川末次郎君 私は
只今議題とな
つておりまする
地方自治法の一部を
改正する
法律案につきまして、
衆議院より回付して参りましたところの
修正案並びにそれを更に
修正いたしましたところの
中田君、私もその提案者の一人、代表者ではありませんが、
中田君外四名の提案になりますところの
修正案、並びに
岩木委員より御説明になりました案等のうちにおきまして、
中田君が提案理由を説明せられました
修正案について、私といたしましての賛成の討論をいたしたいと思うものであります。私が
中田委員が提案理由の説明をせられましたところの
修正案に賛成するということは、もつぱら
政府の提出して参りましたところの原案並びにこれを一部
修正いたしました
衆議院回付の
修正案に対しまして、基本的にも又
部分的にも多くの反対の意見を持
つているということから理由するものにほかならないのであります。
先ず総括的に
政府案並びに
衆議院の回付
修正案等に反対いたしまする見解を申述べさせて頂きたいと思うのであります。概括して申しまするならば、
政府がこのたび
国会に提案いたしました
地方自治法の一部を
改正する
法律案の底を流れておりまするところの基本的観念は、本
委員会の審議中におきまして私たち同僚
中田委員等からしばしば指摘されましたごとく、この地方制度における官僚主義の復活の基底の上にそれが立
つているということでございます。これは極めて重要なことでありまして、本
国会の開会勢頭に当りまして、吉田内閣総理
大臣の施政方針演説に対する質問を本
会議において私がいたしましたときに、自分は現下の吉田内閣によ
つて指導されているところの日本の政治、行政というものが、丁度第一次世界大戦後のドイツの政治事情に極めて髣髴たるものがあるということを申述べたのであります。即ち第一次世界大戦後のドイツは御
承知のごとくいわゆるワイマール憲法によりまして、その憲法第一条第二項に、国権は国民より発するものであるということと
規定いたしまして、民主主義、人民主権の見解を明確にいたしたのであります。そうして人民主権の上に立
つて民主主義的な制度をここに打立てたのでありますけれども、久しきに亙るところの第一次欧州大戦前のドイツの国民生活と、そうしてそれをもたらしました旧ドイツの政治というものが、全くワイマール憲法の内包いたしておりますところの民主主義或いは社会主義的な精神というものをば容易に理解せしむるに至らなか
つた、制度だけは民主主義的に改変せられたのでありますけれども、現実的なドイツ国民の生活は、その制度の
規定するところの
内容にそぐわなか
つた、多くの者は身を以てそのワイマール憲法の民主主義的な精神を理解することができないでいる間に、ドイツに対するところの外国側からの圧迫、或いは国内におけるところのインフレーシヨンの激化、それに伴うところの国民生活の窮乏等の事情が相待
つて、一面において共産党の運動を激成するようになり、それと対立して旧ドイツの軍国主義的な或いは超国家主義的な、国民がなお捨て切れずにいるところの観念に符応して、かのヒツトラーのナチズムの抬頭を促して参りまして、そのためにワイマール憲法の民主主義的精神は全く蹂躪せられて、ドイツは更に第二次世界大戦に導かれ、その結果が我々と共にこうした惨憺たるところの敗戦の憂目を再び喫するに至
つたという事例を挙げて、私はそれに極めて今日の日本の政治事情というものが髣髴たるものがある。いろいろな教育政策、或いは本
国会に提案せんといたしておりました、現に提案されておりまするところのこの行政機構の改革案、教育政策或いはこの地方自治制度の
改正等にそうしたいわゆる世間いうところの逆コースの線にますます追いやられているということが、現下日本の国民が当面しているところの最大の政治的な危機であるという基本観念に基いていろいろな政策についての質問を試みたのでありますが、この今我々の議題に提供されておりますところの
地方自治法の一部を
改正する
政府提案の原案を見まするのに、全くこれと符応ずるところの逆コースの線に一切の吉田内閣によ
つて指導されつつあるところの政治がその方向に逆転し、反動化しつつあるところの
一つの現われであるということを先ず基本的に痛感せざるを得ないのであります。そうして私はこの
委員会におきまして、今日まですでに五ヵ年以上この地方行政
委員の任について参
つたのでありますが、機会あるごとに、日本の民主化のためには地方行政の民主化が基底として行われなければならない、それは教育の民主化と共に日本を新憲法の精神に則
つて民主主義の国にするところの最大の要因であるということを機会あるごとに申述べて参りまして、そうしてその具体的な表現といたしましては、日本のいわゆる地方自治行政というものが、旧プロシヤ主義的な、旧ドイツ的な観念から戦後においても少しも頭の切替えの行われておらんところの旧内務省官僚によ
つて相変らず指導され、(「全くその
通り」と呼ぶ者あり)そのことが日本の民主主義におけるところの最大の悪であるばかりでなく、又地方行政上におけるところの最大の悪としてこれが改革されなければならん。そのことが何よりも地方行政の上においても必要であるということをたびたび申して参りまして、又例の
議論が始
つたというように批判されて来たのでありますが、併し私はそのことが行われない限りは地方行政に従事、その一班を担
つておりまする者といたしまして、繰返し繰返し私は機会あるごとにそれを申述べて、又その線に沿うて行動をして来るということこそが、今日の私は我々政治家としての責務であるということを平素考えておるものでございます。そういう逆コースの線においてこれが行われた
改正案であるということは、一切を通じまして現われておるのでありますが、特に今度の
政府から提案いたしておりまするところのこの
改正案の主要なる点二、三を抜いて更にこれを申述べたいと思うのであります。
いろいろな
改正要点がありまするけれども、その最も重要なものといたしましては、私は先ず自治体議会の議員数の減少を
改正案の中に持
つて来たということであります。それは
衆議院におきまして
政府の原案は全く元に戻されてしま
つたのでありまするけれども、
衆議院がそうした自治体議会の議員の数が多過ぎる、そのために経費が余計いるというようなこと、その他の理由を挙げまして、
政府が出しましたところの原案を元に戻しましたことにつきましてのこの
修正の理由として、我々のほうに送
つて参りましたものを見まするというと、それについての理論的な基礎には多くの自信を持
つておらん、極めてあいまいなるところの薄弱なる信念の上に基いて、ともかくも今日ではこういう
修正はしないでおこう、恐らくは選挙を前にいたしまして、彼らの地方的な基盤でありまするところの地方自治体の議員諸君のこれに対する熱心なる反対運動が、自己の選挙地盤に対するところの影響力を考えまして、理論の上においては自信を持たない、或いは世間いうところの、私のいうところの、たびたびこの
委員会で申述べて参りました。又今日も多少申述べました世間の官僚的な俗論、一部のアメリカの自治体におけるところの独立的な傾向を、先ほど来由しました日本の地方自治制を過去において毒して参り、現在なお毒しつつあるところの旧内務省の官僚諸君が その官僚主義に合5世界の事例のみをば引張
つて参りまして、自分の都合のいいようにこれを皆に宣伝いたしておる。その宣伝に言論機関その他のものがむしろこれに阿附いたしまして、誤まれる輿論を構成しておるのでありますが、そういう誤まれるところの輿論に対してはこれを反駁すべき理論的自信を持たないで、政治的な事由からただ一時を糊塗して、そうしてこうした
政府原案に対してはともかくも結果においては元にもどされるような
態度をと
つて来られたということは明白であると思うのであります。でありまするから
衆議院の
修正案というものにつきましては、結果においては私は賛成でありまするが、
衆議院が文書等においてここに廻しておりまするところの理由というものは、実に理論的に無確信の上に立
つて行われておるということを深く第二院の立場において、第一院である
衆議院の
態度を遺憾としつつ、結果においては
衆議院の
修正案には賛成するものであり、又その点については
政府原案に対しては反対するものであるということを先ず申上げておきたいと思うのであります。
第二には、私はこの
改正案の
政府原案は、百二条でありましたか、自治体議会の開会の数の問題でありまして、先に質問の過程におきまして
中田委員からも御指摘に
なつたことでありまするが、定例会を年一回に限定するところの原案を我々の前に提出して参りましたことのごときも、又最初に申しましたところの逆コースの線に沿うところの古き官僚主義の復活ということが基本的な観念として、役人の立場から、理事者の立場から最もいやな議会の権限を縮小し、議会を自己の政治行動の上において厄介視するところの官僚主義的見解からかくのごとく自治体議会の定例会を一回に限定しようというところの原案を出して参
つたものでありまして、これに対しましては我々の党といたしましては、飽くまでもこの定例会は現行法
通り年六回以上開くべきものであるという見解を持
つておるところのものでありまするが、
衆議院はその中間をとりまして、回付して参りました
修正案には、定例会は年四回とするというようにして参
つて来ておるのであります。私たちは現行法
通りでいいと考えるものでありまするけれども、併しなおそうしたことについての救済の
規定として臨時会を開くことができるのでありますから、
中田さんのほうの会派や
岡本さんの会派の御意見等ともいろいろ調和的な
態度をとりまして臨みたいと思
つておりますが、そのことにつきましてはただ我々の意見を申述べまして、深く
衆議院からの回付案であるところの四回という回数をば現行法
通りとするという
修正は、今私たちとしましては提出するに至らなか
つたのでありますが、我々の意のあるところはどうぞお汲み取りを願いたいと思うのであります。これ又質問の過程においてたびたび私のすでに申述べたことでありまするから、重複を避ける
意味におきましてこれ以上は申述べません。ただこれ又逆コース的な官僚主義の現われであるということだけを繰返して附足しておきたいと思うのであります。
もう
一つは最も重大なるところの問題として、この
委員会においても大きく取扱われ、又
衆議院におきましてもいろいろな政治問題にな
つておりまするところの特別区の性格の問題、それに伴うところの区長の現行公選制をば、
政府原案によりまするならば都知事の任命とし、又
衆議院回付の
修正案によりまするというと、これを間接選挙によるところの議会の議決を基本として定めるという
修正案についてでありますが、これ又質問の過程におきまして多少我々の意のあるところを申述べて参
つたのでありまするが、私はこうした現行自治法を作りますときの
委員の一人といたしまして、その
委員会におきましては実は今日
政府が原案として出しておりまするような案に近いところの意見を申述べまして、ただ形式的な、或いは地域的な地方分権主義をば即民主主義であるというような考え方は必ずしも妥当ではない。我々は中央集権をば地方分権化するところの必要を感ずるものであるけれども、その地方分権といいますか、行政の権力の分散、デセントラリーゼーシヨンというものは、そうした空間的な地域的な分権主義、デセントラリーゼーシヨンを考えると同時に、機能的な、フアンクシヨナリーなデセントラリーゼーシヨン、機能的な分権を併せて考えて行かなければならん。そうして東京都の特別区というものは、これは完全なる基礎的公共団体と申しまするか、市町村と同一なるところの、この全然分離したるところの独立の自治体というように考えるということは誤
つておるのであ
つて、東京都民の自治生活というものは、東京都というところの
一つの総合的な大自治体を基底として少数の経済的な社会的な生活をしておるところのものである。例えて言うならば、我々が杉並区或いは世田谷区のような所に住んでおりましても、我々がリクリエーシヨンのために芝居を見に行くには、中央区にあるところの歌舞伎座や或いは千代田区にあるところの帝国劇場に見に行く。我々は住宅地区に住んでお
つてもそのビジネスは千代田区の丸の内において行われておる。我々が買物をするときには、違う所に住んでお
つても、これは中央区にあるところの三越百貨店に買いに行く。であるからして三越百貨店に入
つて来るところの売上所得を中心としてのいろいろな財政的な見方、そういうようなもの、その他一切のそうした財政的な行政的な
関係というものは、東京都民の実生活が東京都を中心にしておるという、区を必ずしも単位にして生活しているものではないということを基底として区政の問題についても考えて行かなければならない。ただ地元の区にこれをやらしめることによ
つてよりよく能率が発揮できるような少数の事務というものはこれは国任せでいい。併しながら総合的な自治体区民としての生活は、東京都を中心としてすべて考えられて行かなければならん。
従つて先に行われましたところの大田区の区民の一部の、私はそれは理事者と大田区の区
会議員のかたが中心であ
つたと思うのでありますが、数十万円の区の経費を使
つてそうして区内に立看板を立てて、そうして大田区というものをば全く
地方自治法上における独立の市と同じようなものにして、大田市にしようというような運動は全く誤れるものであるというところの見解をとりまして、永田町小草校でそのための自治権拡張大会というようなものがありましたときにも、私は反対であるから出席をいたさなか
つたのであります。そのような見地に基きまして、私は基本的にはそういう見解を持
つております。併しながら今日こういう原案を
政府が出して参りましたということにつきましては、私はこれに賛成することができないのであります。制定するときならばよろしい、できない前ならば、そういう見地において私は区長を公選にするというような制度につきましては、その当時私は反対をいたしましたことは、地方制度調査
資料として
当局から出版せられておりますところの書物の中にも私の申しましたことは述べられておるのであります。
地方自治法がそういう区長の公選制ということを
規定しない前に、私は
鈴木君個人にも言
つたのでありますが、当時行政課長であ
つたところの
鈴木君は、私の言うたことには反対の
態度をとられた。自由党の現在の
参議院議員であるところの郡君は当時の地方局長でありまして、私の申すことには反対の
態度をとられたのでありますが、郡君は今日一官僚でなくて、
参議院議員としての、政治家として
国会に出ておられるのでありますが、自由党の諸君等と共に過去においてこの
地方自治法制度の制定当時において、ひとり私がこういうことを、今日
政府が提案いたしておりまするようなことの合理性を述べましたときに反対せられた、郡君によ
つて代表されるかたがたがどういう
態度をとられるのであるか、私はその政治的な責任をむしろ問いたい気持にな
つております。かくのごとき考えを私持
つておりますが、今日ではこれは私はこういうように逆転さして行くことはいけないという考えを持
つておる。前ならばよろしい、前ならばよろしいが、すでに一度区長公選制というものを確立いたしました以上は、それは内閣
委員会にかか
つておりまするところの、多くのこの行政機構の改革問題、特に行政
委員会のこの改革、
政府は多くこれを廃止しようといたしておるのでありますが、戦後とられましたところの民主主義的な制度というものの機能を発揮することに努めないで、或いはわざと努めないでいて、そうして官僚独善主義的な立場から行政
委員会の機能を発揮せしめず、又一度与えたところの区長公選制に基くところの、区行政の民主化の方向として、区民の政治生活をばリードして行く何らの
努力をなさないで、
実施後数年を経た今日において、直ちに元に戻してしまうというがごときは、これは政治的な見地からいたしましてよろしくないというのが私の反対いたします第一点であります。
それから第二点は、これは憲法との抵触の問題であります。この問題につきましては
岡本愛祐君その他のかたがたから今日までこの
委員会においてしばしば繰返されて参りましたところの意見であります。私は時間を省略いたしますがために、私の憲法論をここに展開いたすことは避けたいと存じます。結論だけ申上げまするならば、少くともこれは憲法の
規定に違反しておるものであるというところの多くの疑点がある、疑いがあるということは私は否むことができないと思うのであります。その
意味におきまして私は
政府原案に賛成することはできません。
第三点としての私の反対の理由は、
前提として最初に申述べました、いわゆるこれが日本の政治行政の全般的反動化の逆コースの線に沿うところの動機において提案されたということでありまして、これ又いろんな例証する具体的な事例を省きまするけれども、私はその動機は明らかにそうした逆コースの官僚主義、地方行政上における官僚主義復活という線に沿うての動機に基いて提案されたものという
意味におきまして私は反対いたすものであります。そうした
三つの理由に基きまして、
政府が提案いたしておりまするところの特別区の区長の選任の制度についての見解については全く反対である。世論ごうごうとしてこれに対する反対の声が挙りまするや、又定例
会議を四回とするところの妥協案を作りましたと同様なる不徹底なる政治的な選挙地盤との
関係に基く事由を基底といたしまして、
衆議院はいわゆる議会によ
つて区長を選任する間接選挙制度の
修正案を我々の手許へ送
つて来たのであります。これはもう質問の過程におきまして同僚原
委員、
中田委員、
岡本委員等からも指摘されましたように、旧自治制におきますところの市長或いは町村長の議会選挙制度を復活したものでありまして、その旧制度が如何に多くの弊害をもたらしたかということに鑑みまするならば、我々はこの不徹底なるところの制度に賛成することはできないのであります。私はここに予言いたしましても決して外れないと考えるのであります。東京都の区において区長の選任についてこのような間接選挙制をとりまするならば、区長たらんとするところの人は、私は全部とは申しませんが、その中に必ず近くです、長からざる将来において黄白をばらまき、或いは利権を約束することによ
つて自分が区長になることを承諾せしめて、区
会議員に、そういう
条件によ
つてその区長にな
つて来るところの人、そうした汚職事件が近き将来において必ずどこかの区から出るということは必然であるということを私は今日予言いたしまして決して外れないと考えておるものであります。
右のような
意味におきまして、
衆議院から回付して参りました区長間接選挙制の
修正案に対しては断固反対するものであります。
従つて現行の制度をこのまま持続しようというところの
中田委員が提案理由を説明せられました提案に全く同感するものであります。
結論といたしまして、これ又同僚
岡本委員から先ほど
お話があ
つたのでありますが、私もこの
法案が我々の
委員会に回付せられて参りましたときから申しておることでありますが、ともかくもこの区長の選任の
方法の問題につきましては、政治問題化して世論ごうごうとしていろんな異論が併立いたしておるのであります。而も区長の選挙は、その総選挙は三年後であります。大田区のような特例はありまするけれども、すべて大体におきまして三年後に行われるのでありまするから、時期は差迫
つておらんのであります。而も
政府は我々に、地方制度の全面的な改革を審議するために特別の調査会を設置するというところの
法律案を我々の手許に提案されておるのであります。何のためのその調査会であります。折角の調査会に、このような異論が併立して、而も東京都民の間に、特別区の都民の間に政治的な紛争を生じておりまするところの問題は、ともかくも今眼前に実現せられようといたしておりまするところのこの自治制度の調査会に託しまして、十分の専門家の
検討を経由したる後において、我々がそれに対するところの
態度を決定するということが、これは常識的に考えまして当然の処置でなければならんと思うのであります。結論といたしまして、私はこれを近く実現するであろうところの地方自治の調査会に委託して、十分なる調査を経て、その結論に基いてこのことを決定するまで我々は現行法
通りこの区長の選任の制度を持続したいという見解を持
つておるものであります。
以上申述べましたことに基きまして、
中田君の提案理由を説明いたされましたこの
修正案に対して満腔の賛意を表するところのものであります。