○
政府委員(
牧野良三君) この
事前運動のことについてはいろいろの
意見を交換いたしましたが、私はこの点について特別な
考えを持
つております。
イギリスに参りまして
イギリスの
事前運動の状況を質したのでありますが、以前には
相当事前運動がありまして、判決の上で
選挙法違反のいろいろなケースを見せておりますが、
選挙区を培養するということと
選挙運動をするということとの
限界をどこに置くかというのが、御
承知の
通りイギリスの
選挙違反判例における学問的な
方面と実際の
方面とにおける非常に面倒な問題でございます。ところがグラツドストーンが政権を得ましてから、
選挙界を粛正しなければならないということから
選挙法違反と認めたときには
連坐によ
つて候補者に及ぶということをいたして以来、
国民のほうから声が
挙つて違反がなく
なつたということは、これは
日本でよほど
注意すべき大事な
事項だと思います。もう
一つ、
委員長、私はこの際御参考までに申上げたい、私はね、
イギリスの総
選挙を見て来て本当に私は恥じ入
つたんです。私は
選挙法とは約四十年取つ組んで来ておりまして、
自分はその道のエキスパートのような
自負心を持
つております。そして殊に御
承知の
通りに
選挙法違反は実際上にも
取扱つておりました。ところが
イギリスへ行きまして
国警の
刑事部長に同行を乞うて、そうして先ず第一にロンドンの警視庁へ乗込みました、
選挙後、どうか
選挙法違反の取調べに立会わしてくれと、そうして場合によ
つては公判にも立会いたいと、そうしてもう当分
イギリスに滞在してもいいという
意思を表白して二度出かけたのでありまするが、
選挙法違反がない。が、
武藤刑事部長はないだけでは
承知なりませんとい
つて、更に独自でスコツトランド・ヤードに二日間詰切
つて、そうしてあらゆる
方面からつついて見ると全然ない。するとこのことが明らかになりますと、一緒に参りました
衆議院議員団のほうの諸君と会合して、どうだという話をしますと、
牧野さん、これは
イギリス人にして初めて
違反がないのだ、
イギリス人の教養と訓練の然らしむるところと思うから、あなたは
日本に帰られても余り手放しでほらを吹かんでおいて下さい。ということであ
つたのです。そうだ、私もそう思う。こんな全然
選挙法違反がないなんということを思うならば、
武藤君なんかを強いて来てもらうということもなか
つたかも知れんが、私はそこに重点を置いて、同感であるから私もこの点を余りものを言うまいと言
つて、私は一行と別れてドイツに行きました。ドイツは大変よく歓待をしてくれまして、あらゆることに対して打明けた
説明をし、又その協力が欲しいというくらいであります。そうして私は、あなたの先ず第一に調べたいのは何だ、それは東西ドイツ統合問題、第二はこの間あなたがたが行
なつた
選挙の結果における
選挙違反の状況……、ないのでございますね、ドイツも。ところが州の
選挙にはあるかも知れないというので、特にバイエルンを選びましてミユンヘンへ行
つて、州の
選挙の後の状況を調べた。ここも大変に熱心に材料をくれて
説明してくれたが、
選挙違反がない。今度はイタリーに行けばああいう大変な所ですから
選挙違反があるだろう。ここで
一ついいおみやげがあるぞとい
つて、ローマに乗り込んだが、ないのだ、又困
つたな。そこでフランスは御
承知の
通り総
選挙をや
つて、そうして私が行きました二月前に
地方選挙をや
つておりましたから、ここに材料があると……ああいう政変の頻繁な所であるのみならず、乱暴な
選挙法の
改正をや
つて、思い切
つて共産党に締出しを食わせようというのでありますから、行きました。ここにもない。そこでアメリカを調べて、そうして
日本に帰
つてから、どうだと言
つたら……一行も又すぐ
日本に帰るはずが、飛行機がとれないために二、三週間滞在しなくちやならなくな
つて、私のあとから各国を廻りました。で、やはり
違反状況を聞いて歩いた。ヨーロツパもありませんなと、これを言
つていいか……、大変、この
衆議院議員団の連中は確信を持
つて、もう
選挙運動というものは根本から改めなければならん……じやない、
選挙そのものを改めなければならんというふうにな
つて来た、これはいいことでありますが、即ち
選挙法違反というものは
日本の特産物だという確信を得たのであります。そこでエキスパートを以て任じた私が非常に恥じ入りましたのは、
日本の
選挙というものは、これは
選挙じやない。甚だ失礼な言葉でありますが、これは
当選というものの取引、もう少し適切に言うならばこれは賭博である。その賭博も、許された
範囲においてやるならば一種の取引として認めてもよろしいが、なしてはならない権力の干渉をし、なしてはならない暴力を用い、使
つてはならない金を、而も秘密に使
つてこれの取引をするということは、私はこれは詐欺賭博の行為だ、こういうふうに断じて来たのであります。
委員会として余り言い過ぎる言葉を使うかも知れませんが、私は
法律的立場として
日本の
選挙というものは
選挙じやない、これは詐欺賭博であると極言してよろしい、こう思うのであります。即ち
当選するには手品と同じように種と仕掛けを持
つてかからねばならん、そうして手練手管を使わなければならん、これで初めて
当選確実になる、こんなことをやつちやいかん。私は、私の余生をどうかしてこの
選挙というものを、
日本で正しく行うことに捧げたいという
考えを持
つたことをこの
委員会で私は告白したい。そこで私はそいつができるか。私はできるという確信を持
つております。どういうわけかと申しますと、皆さんのお力によ
つて、僅かで……過去三十年間の
日本の
選挙干渉というものを全部ボイコツトすることができた。それからここ二十年間において皆さんの力で、私は
日本の
選挙界から暴力というものを完全にボイコツトしたと思います。もう私どもが
選挙に出ました頃は、親分が出まして、一杯飲んで、そうして脅迫して歩く、それがもう天下に横行して、その後ろへ政府がついておるのであります。でありますから、ときの権力を背景としますればどんなこともできた。ところが完全に
国民の力でこれを
選挙界から排除したという歴史を持
つておる以上は、完全に私は金銭を排除することができる、この確信は帰納的に私は持ち得る。殊にこんな乱暴な金を使うのは戦後のことであります。この戦後においてはむしろ金を使わせるような傾向を私は
選挙法上作られていたということに深い
注意を請いたいのであります。そこで先ず第一に、
選挙には金を使つちやならんということを目標にこれは行く、
只今衆議院では各党、各派の人がみんなその心持にな
つてくれました。これはまあ、とても大きい収穫でありまして、
衆議院の議員団の諸君が、
イギリスを初めとして各国の
選挙の状況を見に行
つてくれたということは、近来にない私は大きい収穫だ
つたと思うのであります。而して
只今局長より御
説明申上げました、
選挙運動に関することには
相当寛大であるという、あんなことまで許す必要はないのじやないかというのです。というのは
イギリスで、
委員長、驚いたことは
選挙運動というものはございません。で、初めはこんなことじや見に来た甲斐がないと思うほどに
選挙運動というものが少い。ところが
演説会場へ行きますと大変に盛んなものであります。
演説会は……。そこで又
演説のやり方がいいのですね、会場における状況は、如何にも
政治を議し、
選挙のことを論ずるというその空気が、どの
演説会場にも満ちております。そうしてどこへ行きましても満員でございます。そうして婦人の数のほうが紳士よりも多い。これで成るほど男女同権も
政治の民主化も徹底するのだ。こうするにはどうしたらいいかというと、極めて、たやすいことだと思います。もう
選挙というものの
演説というものは
内容を
中心として行かなければならない、
日本のようにどこまでもビラをたくさん後に並べて、そうしてもう大きな声を挙げて人の惡口ばかういうのは
演説じやないということを教えて行かなきやならない。それは何かというと、ほかの
運動をもうしない、すれば金がかかるということになれば、これはおのずから
演説会に集中するですね。だからそのほかの
運動はしちやならんということよりも、
一定の金額以上のものを使つちやならないということに重点をおきますと、ほかのことをやれば必ず金がかか
つて、それで立証できるですね。紙代から、人夫賃から、何からでありますから、
演説会と、それから政党及び政党の幹部が出しますところの
印刷物、これらが重要な働きをなすということになるというと、自然に結論的に、私は
国民を教育するということになる。まあ
選挙運動として眼についたものは、各党各派の領袖の著書、パンフレツト、それをシヨーウインドーへずつと積上げていて、これを安い値段で市民に売る。羨ましい風景だなあと思
つて見て参りました。こういうことになりますと、党がこれは金を出すのでありますから、
候補者の
費用にはなりません。そうして皆さんは買
つて行くのでありますから、
従つて多く売れますると、それが党費になるということになりまして、非常にいいと思います。そこで帰
つて来まして、私は第一条乃至第五条というものはピシヤリと金的を射ている。これだ、これを徹底させるのだ、新
選挙法の草案の第一条—第五条というものを徹底させる。これにはもう
衆議院、参議院その他
新聞、雑誌、挙げてこの趣旨を
国民に徹底せしめて、そうして金を使
つた候補者はもうそのままで
当選が無効になる。又偶然、金額でありますが、
只今局長から、先ず九十万円から自動車賃を入れて百二、三十万円と申しました。これが、
イギリスの現在の
選挙運動費の
法定額にほぼ似ております。向うは小
選挙区でありまするからそれで十分です。で、
日本ではこれが中
選挙区でありますから、余ほど困難だろうと思いますから、もう少しこれは殖やさなきやならない。と同時に、
選挙というものには余り
選挙区が大きくちやいけないのだけれども、
選挙区の小さいことを嫌
つて大きいことを望むのは何かというと、これはやはり賭博的な関係があるのでございます。というのは、当りくじの多いのに皆は入
つて来る。だから百万円の当りくじ
一つよりも、十万円でいいから当りくじを十本欲しいという心持になるのは、当てるということを目標に富くじを買う人の心持だと思います。
従つて又、これを五万円を二十本にしてくれよという希望の出て来るのも、これも当然であります。私は、どこまでも、
日本人は知らないうちに
選挙というものに関してはスペキユレーテイヴなエレメントをできるだけ豊富潤沢にするという心持が、もう徹底し過ぎている。でありますから、お許しを乞うて……、
牧野の言うような、これは詐欺賭博である。もつと品の惡い言葉が許されるならば、インチキ賭博だということを
国民に徹底的に教える。と同時に今度の
事前運動はこれを私は皆さんにや
つて頂きたい、金を使
つて……。それは皆さん、賭博の、手品の種なんだ、魔術なんだ、その魔法に魔術にかかつちやならないぞ、何となれば、
選挙とは、ということにして、私は民主化
運動に転化して行くほうが、
事前運動を……、私どもや、国会の諸君が一緒にな
つて、ジヤーナリズム、ジヤーナリストの
方面とがつちり手を握
つてそうしてこの機会に
日本というものは革新しなきやいかんという一大
運動を起して、それは
事前運動をその中に入れてしまう。そうすると
自分だけの、
選挙運動に似たる
事前運動はもう恥ずかしくてできなくなる、こう思うのであります。
従つて、そういうことを目標とする
事前運動である、ならば、どんどん奨励してやらせるということへ追い込んで行きましたならば、
事前運動の浄化、美化、合理化ということが結論的にできるのじやないか、こんなに思うわけであります。御参考までに……。