○
国務大臣(
大橋武夫君) 警察法の問題につきましては、
只今私といたしましては、まだ結論に到達しておらないのでありまして、
研究中の問題でございます。ただ
研究の過程におきまして、いろいろ
法務府と打合せをいたしておりまする
関係上、それらから推測いたしまして、新聞紙等におきましていろいろ推測的な記事が出ておるのでございますが、丁度いい
機会でございますので、これ又
研究中ということで誠に恐縮でございまするが、率直に
只今研究いたしております事項を申上げまして、御批判を仰ぎたいと思います。実は御
承知の
通り昨年以来
政府といたしましては、行政
機構の簡素化ということを
考えて参
つたのでございます。私丁度昨年暮まで一年半の間
法務総裁と警察担当の大臣とをかけ持ちをいたしておりました。その経験等から
考えまして、いろいろ警察法につきましても
研究をいたしたわけでございます。現状を先ず申上げますると、現在の警察法におきましては、国家公安
委員会が
内閣総理大臣の所轄機関ということに相成
つております。この所轄機関ということの
意味は極めて軽い
意味の監督権であ
つて、指揮命令権を伴わないものであるというふうに
法律的には
説明をせられております。そうしてその警察の担当の機関でありまする国家公安
委員会に対して
内閣総理大臣が指揮命令権を持たないという理由は、警察本来の職務というものは專ら法規の執行であるべきものである。法規の執行については法規の金ずるところによ
つて動くべきであ
つて、政治的な指揮、命令に従うことは警察の性質から見て面白くない、即ち政治と警察というものは分離をしなければならない、その警察と政治を分離せしめる
一つの制度上の保障といたしまして、国家公安
委員会という上部機関からの指揮命令に従うことの一番困難な
会議制の官庁を作り、而も
法律上最も軽度な監督権しかこの機関に与えない、この
機構が警察の政治からの独立性を保障いたしておるわけなんであります。而してその政治
機構から独立いたしました国家公安
委員会にいたしましても、その職務の範囲というものは警察全体の運営についての指揮監督権というものはないわけでございまして、これは国家地方警察の
行政管理面だけを担当することに相成
つております。そうして国家地方警察の運営面につきましては、都道府県知事の推薦により都道府県議会の承認を得て任命されましたる都道府県公安
委員会が運営監理に当る、こういうことに
なつておるのであります。一方全く自治体の公安
委員会によ
つて管理されまする自治体警察と相並びましていずれも地方的な独立機関が警察の運営面は完全にコントロールするということによ
つて、より一層警察の政治からの独立性を
確保しておる、これが現在の実情なのでございます。
併しながらこの
機構の運営につきましては先ず
政府におきましては、国家地方警察に関する法規の制定、
予算の決定、こういう面は国家公安
委員会みずからではできないために
政府といたしましても、国家公安
委員会と事実上密接な連絡
関係を持たなければならないことにあるわけであります。もとより法規につきましては国家公安
委員会が法規上制定を必要とすると認めるものは公安
委員会みずからが決議し、そうしてその意思によ
つて国会の常任
委員会にお願いをいたして、議員提出法案としてこれを推進して行くという方法は可能ではありまするが、
併しながらいずれの法規にいたしましても、やはり
予算的の
措置を伴わないものは稀でございまするから、どうしても
予算という面において
政府と相当密接な
関係を持たなければならんことは、これは実際の事実でございます。そこで
政府といたしましては吉田内閣になりましてから、特に
国務大臣のうち一名を指名いたしまして專らこの公安
委員会と内閣との
予算問題、法規問題等に対する実際上の連絡の
仕事を担当せしめる、こういうことに相成りまして、先には樋貝
国務大臣、のちには私が
法務総裁として兼ねてその
仕事を仰せ付か
つて参
つたことはすでに御
承知の
通りであります。そこで一体かような
国務大臣が果して必要かどうかという問題があるわけでございます。まあ現実の形態においては、必要上止むを得ずそういう
国務大臣を命じてお
つたのでありまするが、併しこれを命じなければならん理由は何かと申しますと、たまたま国家公安
委員会の所轄する機関が
内閣総理大臣でございまして、
内閣総理大臣は職務の性質上、なかなかみずからそういう峯上の作業に当るだけの余裕がございませんので、そこでその代りに他の
国務大臣を指名するというのが実情であります。で、これを若し他の大臣の所轄にいたしておきまするならば、さような
国務大臣を別に指定して連絡に当らせるという必要はないではないか、事実上法令或いは
予算上の問題について
政府と公安
委員会の連絡に当るということでございまして、事務の分量から申しましても、特に
国務大臣を一人充てなければならんほどの量的なものもないし、従いまして、これは他に適当な大臣がありますならば、その所轄に公安
委員会を移すことによ
つて、そういう特別の
国務大臣が一人置かれるということを省かなければならない、率直に言えば簡素化が可能になると、こう
考えまして、この問題をいろいろ
研究をいたしておるような次第でございます。勿論このことは成るべく職務上全然無
関係でない大臣よりも、職務上連絡が適当であるものがいい、そうなりますると、現在では
法務総裁が一番適当であろうというので、
内閣総理大臣の所轄機関でありまする公安
委員会を
法務総裁の所轄に移してはという点を
只今研究をいたしております。なおその場合において、
法務総裁が新らしく所轄に
なつて来た公安
委員会に対して、その職務の執行について指揮監督をするというような
改正をするかどうか、或いは又その代りに公安
委員会の
委員長に
法務総裁が当るというようなことによ
つて、事実上公安
委員会を
法務総裁が
管理できるような
改正を行うかどうかという点も
一つの
研究題目でございますが、この点は私は適当でないと
只今考えております。と申しますのは、やはり
一般警察事務というものは、これと政治と分離するという現在の警察法の精神が正しいのでありまするし、又若し
法務総裁が国家公安
委員会を指揮したり、或いは国家地方警察を指揮するというようなことにしなければならんというならば、これはひとり国家地方警察ばかりではなく、より以上重要な地域を管轄いたしております自治体警察についてこそ、
法務総裁が指揮する必要があれば指揮できるように
改正を
考えなければならん問題である、これはいずれも警察本来の地方分権民主化という点から申しまして、私はそういう
措置は政治的に適当でないとこう
考えておりまして、
只今法務総裁が公安
委員長になる、或いは公安
委員会に対して指揮権を持つ、或いは自治警察に指揮権を持つというようなことはしないほうがよろしい、こう思
つております。そこでかようにいたしまして、
法務府に仮にこの案を進めまして、公安
委員会の所轄を移すということになりますると、これはただ
総理府から国家地方警察が
法務府の所轄に移
つただけでございまして、そのほかには実質的な
変更は現状に比べて何らないわけでございます。そこでもともと警察制度について今残
つておる問題は何か、これは昨年御
審議を頂きました警察法の
改正ということによりまして、おおむね従来の欠陥が是正されまして、非常にうまく
なつて来ておりまするが、併し
一つだけ残
つた問題は
法務府の特審局というものと警察というものとで、同じような職務について同じような二重の
組織を持
つていることに
なつておる。この点が二重、三重に機関があれば、却
つて競争的にうまく行くという
仕事もありまするが、併し情報の收集、調査、捜査というような隠密を要するような
性格の
仕事でございまするので、却
つて競争がお互いに突つつき散らすということは能率を上げるよりも下げることが多い。この問題はなお
研究を必要とするのでありまして、今申上げただけではこの問題の解決は困難であります。何となれば、成るほど
法務府の特審局というものはこれは
法務総裁が
行政管理面も運営
管理面も統轄いたしまして、自己の指揮監督下にあるものでありまするから、
法務総裁はこの動きについては完全なる統轄をすることができますが、併しこれと協力しなければならんところの国家地方警察或いは自治体警察というものについては何ら指揮監督権がないわけであります。所轄にはなりましても、国家地方警察に対する指揮監督を与えないという、私の先ほど申上げた
考え方によりますと指揮監督権がないのでありまして、これを
法律上調整するということは事実上方法がないということになる。そこでこの問題を何とか解決いたしまして、国の重大な
治安に関する調査並びに捜査面については両者の協力できるような調整の
措置が必要である、こう存じております。それでこの調整といたしましては、若し両方の機関に対しまして
法務総裁が平等に指揮監督ができる場合におきましては
法務総裁がその調整の
責任をとればいいわけですが、一方については指揮監督ができるが、一方については指揮監督ができないという
條件がありまするので、これを調整するということは現状のままにおいては
法務総裁の手に余る
仕事なんでございまして、そこで
機構の点において何か
考える必要がありはしないか。で、無論これは私まだ全然
研究中でございまして、そういうふうにしたいというような
考えも持つに至
つておりませんが、ただ
考えられまする方法といたしましては
国警においてや
つておりまする、又自治警においてや
つておりまする対共
関係の捜査活動、この活動面と今後特審の活動の
重点になる部面は全くまあ対象が一致しておりますから、この部面を両方から引出して合体させてはどうか、きように
なつた場合に、この特審と
国警のその面が合体して、その場合にその所属をどうするかという点があるわけであります。若しこれを国家公安
委員会の下に付けるということになると、これを特審をやめて特審を
国警に合併さぜるということでありますが、その場合において国家の
治安上最も重大なる問題でありまするこの
間接侵略に対する取締面、こういう面について
政府の立場、又国家の中央
政府というそういう立場から見まして、これを
政府の指揮監督の及ばない公安
委員会にその
仕事を一任するということが果して適当であるかどうかという問題があります。それからもう
一つ警察法自体の内部の問題といたしましては、仮にこの
機構を国家地方警察に合体し、現在の
国警本部のその
機構が特審を吸收して大きく
なつた場合においても、現在の警察法上のこれの運用については疑義があるわけです。と申しますのは、この
使命は各地方警察に対する
行政管理の
仕事ではなくして、それ自体が中心と
なつて捜査を指揮命令し、そうして各地方機関の協力を受け、その
責任において捜査を続けて行くという、それがこの
使命になるわけであります。これは警察法上は警察についての
行政管理にあらずして、運営
管理でなければならないわけです。そうなりますると、運営上の問題でありまするその運営上の中心となるべきこの新らしい
機構というものが、本来
行政管理だけしかできないところの国家公安
委員会の事務局でありまする
国警本部も一
組織としてあるということが、警察法の運営
管理と
行政管理をきちつと分け、これによ
つて警察の政治との独立性ということを維持して行こうというこの根本の精神をぶち壊すことになるわけでございまして、この点において
法律上(「議事の進行上簡單に願います」と呼ぶ者あり)無理がありはしなかろうか、こういうふうに
考えておるわけでございまして、そういう
機構を仮に作るといたしましたならば、どちらかというと公安
委員会の下の
国警本部の附属機関といたしまするよりは、
法務総裁直接の
機構として
編成するほうが運用上至当ではないかと
考えております。併しこの点はなお
研究中に属することを申上げて置きます。