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政府委員(北島武雄君)
只今の木村さんの御質問に対しましてお答え申上げます。
アメリカにおきまして
関税引上げの
傾向が現れましたのは昨年からでございます。今まですでに
引上げが実施されたものを申しますと、先ず第一に油漬けの
まぐろの罐詰でございます。これはまあ
アメリカの関税法を
ちよつと申しませんとわからないのですが、
アメリカの関税法にはいわゆるホーレー・スムート法、これは一九三〇年の関税法でありますが、これに相当高い税率がついておりまして、これが基本税率にな
つております。これに対しましてその後一九三四年でございましたと思いますが、ルーズベルト大統領のときに、互恵
通商協定法というものができまして、その基本税率に対しまして、
アメリカに対して差別待遇しない国に対しては、その五〇%までの範囲内において別個の修正税率というものがございまして、この修正税率がGATT税率を含めまして、現在大体
アメリカに対して差別待遇をしない国に対して與えられている、こういうことであります。油漬けの
まぐろの罐詰は、この基本税率が四五%ということにな
つておりまして、これに対しまして従来メキシコとの関税
協定によりまして二二・五%というふうにな
つております。ところがメキシコとの関税
協定の期間が一昨年一ぱいで切れまして、昨年一月からこの修正税率というものがなくなりまして、従価四五%という税率が出ているわけです。これが
引上げの一番初めの
段階でございます。
それから次には、すでに
引上げましたものは毛糸の手袋の並級品のものでありまして、高級品でないもの、具体的に申しますと、一ダース四
ドル未満のものでございます。これに対しては刺繍のあるものと、それから刺繍のないものとに分けまして、刺繍のあるものは従来従価七〇%、それから刺繍のないものは
ポンド当り三十セントにプラス従価一七・五彩という税率がございまして、これが今年の一月から刺繍のあるものに対しては従価九〇%、それから刺繍のないものに対しては毎
ポンド四十セントプラス従価三五%という税率に
なつたわけであります。この
毛糸手袋の並級品のほうは、中国に対して
アメリカがGATTで譲歩した税率でありましたが、中国が脱退いたしましたために、これは今年の一月から修正税率をやめて基本税率に復したという恰好にな
つております。現在
引上げの実施が
アメリカの各方面で以て多少問題にな
つておりますものを先ず申しますと、これは御
承知のように先ずなまと冷凍の
まぐろでございます。これは現在無税ということにな
つておりますが、昨年九月にこれを毎
ポンド三セント当り課税するという案が
アメリカの下院に提出されまして、十月に下院の歳入
委員会を通過し、更に十月十五日に下院をすべて通過いたしまして上院にかかり、上院におきましては今年の五月九日に財政
委員会を通過いたしまして、近く本
会議で審議される予定ということにな
つております。なおこのほか塩水漬けの
まぐろの罐詰に対しまして、現在従価一二・五%の税率にな
つておりますのを、これを四五%に
引上げようという案が今年の一月八日に下院に提出されまして、目下下院の歳入
委員会で審議中であります。なおこのほか御
承知のように
陶磁器につきましては、並級のディナー・セットに対しましては現在毎ダース十セント、プラス……、これはものによりますが、従価三五%乃至七〇%、こういう率でありますのを、毎ダース十セントプラス従価七〇%乃至一〇五%、こういう案にしよう、こういう
傾向がございまして、今年の一月下旬に行われました上院の財政
委員会の決議に基きまして、近く関税
委員会、これは大統領に直属の
委員会でありますが、関税
委員会で以て審査を開始するという予定というふうに伝えられております。それから高級ディナー・セットにつきましては、これはまだ具体的には問題にな
つておりませんが、目下業界で
運動中というふうに伝えられております。それから捺染の
絹スカーフ、これは現在従価三五%の率でありますのを、これに対しまして業者のほうから来年四月十四日に例の関税
委員会に申請が行われておりまして、これを従価六五%にしてもらいたいということで、目下関税
委員会でこれに基いて調査中であるやに伝えられております。
なおこのほか
ミシンにつきましては、現在普通品、高級品とも従価一〇%でありますのを、これを普通品に対しては従価一五%、高級品については三五%にしたいという業界の意向で、目下
運動中と伝えられております。それから又この
ミシンに対しましては、不正取引防止の任務を持
つております連邦取引
委員会、FTCでありますが、不正取引防止の
委員会が、
日本品の
輸入について不正な競争手段が行われていないかどうかを目不審査中であるように伝えられております。それから毛糸の手袋の並級品はすでに本年の一月から上げられておりますが、高級品につきましても、目下業界で
運動中だというふうな
情勢であります。
アメリカの
関税政策は、昔から共和党とそれから民主党におきまして、
考えが相当違
つておりまして、共和党は御
承知のように保護関税主義であります。一九三〇年のホーレー・スムート法というのが共和党のフーバー大統領のときにできました非常にきつい関税であります。これに対しまして民主党のほうは、昔から比較的自由
貿易を称えております。勿論
国内産業のほうの面をないがしろにするわけじやありませんが、共和党に対しましてはどちらかというと自由
貿易主義、この二つの
傾向がございまして、現在それぞれのいろいろ
引上げの
運動が行われておりますが、これは私
どもといたしましても、先ほど
牛場局長が申上げたように、大統領
選挙を目前に控えまして、相当共和党方面の
運動があるように聞いております。それから民主党の方面におきましても、目下大統領
選挙を控えまして、そう一概にむげにこれをしりぞけるというような恰好ができないことにな
つておるのじやなかろうかと、私
どもでは推測しておるのであります。但し
新聞にも伝えられておりますように、行
政府の大統領なり国務長官等におきましては、これらの風潮は
日本との外交方面において非常に面白くないというような
考えで見られておりまして、本日の
新聞にも出ておりましたように、マーフイー
アメリカ大使が、場合によ
つては大統領がこれに対して
拒否権を発動することも
考えられる、こういうようなことを述べております。目下私
どもとしましては、この動向に対して非常な注意を拂
つておるのでありますが、今のところではまだ何とも、どういうことになるのか、実は必ずしも楽観を許さんのじやないかと、こういうふうに
考えております。併しもともと民主党の
政策というものは、比較的自由
貿易主義でありますので、これが、業界のこの
運動がそのまま実現するだろうとは私
ども考えておりません。それから又そうあ
つてはならんと思
つております。