○
説明員(
坂根哲夫君) 私
公正取引委員会の
調査部長でございます。
只今委員長から御
説明がありましたように、本年四月一日に我が
委員会から
東京都知事に宛てまして
市場取引の
公正化についてという申入をいたしたのでありますが、これは昨年十二月十二日の読売
新聞に
東京都
中央卸売市場の
現状につきまして非常にセンセーショナルな書き方でありますが、まるで、伏魔殿の魚河岸という題で、その当時の
魚市場の
取引の模様について大々的に報道をいたしてお
つたのであります。そこで我々の
委員会といたしましては、一応
独占禁止法の
一つの眼目であるところの
消費者の
利益擁護という点からいたしまして、
築地魚市場の如何なる
取引をしておるのかという点につきまして、私
たちの
調査部におきましてその
調査を直ちに開始いたしたのであります。
そこでその
調査の結果を簡單に申上げますると、
新聞は非常にセンセーショナルに書いておるのでありますが、大体におきまして
新聞が
指摘しておりますところの
実情は、私
たちの
調査におきましても大体認められるところであります。そこでこの
市場取引がどうしてそのように不公正に行われておるか、
紊乱を来たしておるかという
原因を
調査した結果から考えて見ますると、生ず第一に
市場の
荷引競争と言いますか、
出荷者に対しまして
市場の
卸売業者が非常に
荷引競争の激烈なる結果から、その
紊乱が来ておるのではないか、こういうことが考えられるのであります。話は
ちよつと前後いたしますが、この
東京都の
中央卸売市場と申しますのは、御
承知ではございましようが、
築地を本場といたしまして神田、江東、荏原、豊島、淀橋、足立に
分場がございまして、敷地の総面積は約九万六千坪、
延建坪数は約四万四千坪の地域でありまして、そういう
分場があるのでありますが、過去の実績によりますというと、
築地本場の
水産物取扱数量というものが
分場を合せて全
市場の
取扱数の
圧倒的部分を占めて、
昭和二十五年には八八%でありまして六千万貫、
昭和二十六年、昨年は十一月までの実績におきまして九三%で、七千万貫ということになりましてこれは
築地本場、
築地魚市場の
取引というものが、
東京都民及び近郷の
消費者大衆の魚の
値段を殆んどここできめているという
実情でございましてここの
取引が公正に行われるかどうかということは、非常ないろいろな問題とな
つているのであります。そこでその
取引の
実情を
調査して見ましたところが、先ずこの
荷引の
競争が非常に激しいというので、先ず第一に
指摘し得る
競争の
手段として考えられるのは、
卸売人が
前渡金を渡している
政策であります。即ち
卸売人の
競争手段としての
前渡金政策というか、そういう
手段であります。これはすでにもう御
承知でありましようが、
魚市場におきます
卸売人の
営業收入というものは、
自分の
取扱いました魚類の
売上金額に対しまして、
出荷者から受取ります六分の
手数料がその收入になるのであります。これは内口銭でございますが、そういうことになる。そこでこの
手数料收入を増大させるということが
卸売人としては非常に大きな問題とな
つて来るのでありまして、
従つて卸売人としては、先ずこの
取扱う魚の
数量の非常に多いことを望む、或いは又できるだけ
値段を高くするということが、
卸売人の
手数料を殖やす
方法として考えられるわけであります。
従つて先ず
卸売人といたしましては、とにかく
集荷を成るべく多く
自分に引きつけるということでなくてはならない。これは
出荷者と申しますのは全国に亘ります
漁業者、これは個人、団体、
会社等でありますが、
卸売人はこれらの
出荷者に対しまして、
出荷奬励金という名目で
前渡金を支拂
つているわけであります。従いましてこの
前渡金が次の
出荷に対して清算されれば問題はないのでありますが、それはそういうことではなくて、或る程度の
出荷をしてもらうというような意味の融資というような意味を持ちまして、絶えず
前渡金を残しておくということになる。残しておけば
卸売人はその
出荷者と強力な
一つの
紐帶ができ上りまして、絶えずそこに
卸売人が来るという
方法でありまして、我々が
調べましたところ、昨年二十六年の決算によりますと、
主要卸売人の
前渡金が、
東京都の
築地卸売市場の四大
卸売人の場合に、
東都水産というのがございますが、これが七千八百万円、
中央魚類が七千七百万円、
大都魚類が五千九百万円、
築地魚市が三千六百万円というような
前渡金を出しておりまして、この四大
卸売業者の
取扱の合計は、全
入荷量のおよそ八割五分を占めておりますが、今申しました
前渡金の額というものは、
各社資本金の数倍に達しているわけであります。中央、東都いずれも三・八倍、大都は六倍、
築地は三・六倍、この各社はいずれも
前渡金を借入金によ
つて賄つているという
実情であります。ところがその他の小
会社というものは、これは
資金が乏しくて、こういう
手段に出られないということになりますので、
前渡金の
政策が
荷引に対する非常な大きな役割を果している。
それからこの
前渡金の
政策をやることと同時に、これは
ちよつと話が飛び離れるでありましようが、
前渡金というのは
統制時代の
名残りでありまして、要するに統制中
荷受機関が、
集荷機関がきめられておりましたので、
前渡金を受けて
集荷責任を果すということをや
つていたのでありまして、今日の
実情では実はこういう
前渡金の渡しというようなことは不適当であるかと思うのであります。
なお
あとでこの問題を引つくるめて申上げますが、これは
市場法、これによります
東京都條例から見まして違法であることは確実であると思うのでありますが、この問題が
一つ出て来た。もう
一つは、この
卸売人の
競争手段といたしまして
せり争いがあります。これは
荷引の
競争で
自分たちが扱
つたものを
せり争いいたしまして、できるだけ高価に
販売をする。そうして、できるだけ
手数料を余計取る。そうして、今申上げました
前渡金の金利の負担をこれによ
つてと
つて行こうという考え方でありますが、これは細かく申上げるまでもないが、この
方法の中には
渡し込み、これは要するに例えば一例といたしまして
卸売人が
仲買人の了解もなく
過剰入荷品の一部を
仲買人の店舗に
渡し込み、いわば強制的な押売であります。或いは
卸売人と
仲買人の間に
会議がありまして
せりにかけない品物を
仲買店舗に預ける、いずれにいたしましてもこういうような
方法で
一つの
渡し込みをやる。それから売惜しみという
方法、これは大体
東京都の
適正需要量約二十五万貫の魚が入
つておりましてこの二十五万貫を超える入荷があ
つたならば、一応供給過剰になるわけでありますので、これをどう捌くかということが問題であります。これは今申上げました
渡し込みのような
強制割当販売にもなるのでありましよう。或いは
及到着列車の一部を翌日に廻して値崩れを防止するというような
一つの売惜しみの
方法、或いは或る魚をその日の
気配相場によりまして、これをそれよりも
幾分高目に売り込もうとする
卸売人がおりましたときに
自分と
特殊関係にある
仲買人に対しまして、
せり前に打合せをしておきます、そして高目の値を唱えてもらう、こういうような
サクラ戰術、或いは又
卸売人のうちの或る
会社を、数社でございますが、これが
話合つた上
仲買人から一口五万円の
保証金をと
つておる、これはもう
保証金を出した
仲買人は
バツジをつけまして区別してお
つたが、これは、
バツジはやめたが、そういう
一つの
情実関係にある
仲買人とその然らざるものとありまして、有利に
保証金を納めた
仲買人が
せりを決定するという
情実売買、或いは又
卸売人が
出荷者の委託を受けまして、
販売すべき立場にあるにもかかわらず、あらかじめ
仲買人の注文を受けまして、この注文によ
つて出荷者から荷を引くという場合でございましてこれは
卸売人の
産地買付の型をと
つておりますので、実質的には
せりにはかけないで、例えばかけても形式的に
値段がきま
つて行くというようなことになりましてこれは
仲買人に対する名義貸ということになります。こういうような
方法で、要するに
せり売りの
販売競争の
手段が、不当な
手段が行われておる。或いは又
卸売人の
競争手段の
一つといたしまして、
仲買人の把握をいたします。これは
あとで又申上げますが、
市場の原則から言いますと、
卸売人が特定の
仲買人を把握する、特定の
仲買人と結託するというようなことはしてはならないのでありますが、
卸売人と
仲買人の
関係は売手と買手の立場に当るのでありまして、
業者の
価格決定を
せりでするということにな
つているのであります。そういうことをしないで
仲買人を把握して行くというようなことが行われてお
つたのであります。こういう点が我々の
調査の結果で現われたのでありますが、これがそうしたならば、我々が
調査の目標として考えました
消費者生活との
関係においてどういう
関係になるか、こう考えて参りますと、勿論こういう不正な
取引が行われて魚の
値段が高いという非常に精密な計算が出て来れば問題ないのでありますが、御
承知のように魚の
取引のコストと言いますか、それはなかなかむずかしい問題でありますが、こういう
生鮮水産物のごとく原価の定めがたいものにつきましては、なかなかそこの
関係がむずかしい。併しながら一般に言われていることは、私どもの
調査部で、
大阪に行
つて聞いた意見でありますが、一般に言われている見解に従いますと、
卸売業者の
従業員一人
当りの
月当りの
扱い額が百五十万円ならば、その
卸売会社はペイをする、採算が合う。二百万円ならば好成績と言えるということが言われているわけであります。こういう見解に基きまして
東京と
大阪の
業者別の
取扱額を
従業員一人
当りについて見ますると、
東京市場の
中央魚類は三百十七万円、
大都魚類は二百五十四万円、
東都水産、
築地市はそれぞれ百七十万円を示しております。要するに
東京では現在十四社の
卸売会社がありますが、その中の六社が百五十万以上の、一人
当りの
取扱額を示しております。ところが
大阪のほうは百五十万以上の
取扱額を示しておるのは僅かに二社でありまして、
大阪は七社でありますが、その中の二社が百五十万円を超えておるに過ぎない。こういうことから言いますと、
東京の
卸売会社のほうは
大阪に比しまして一人
当りの
扱い額が相当高いところがあるということがわかるのであります。この成績から見ました事実を以て直ちに
東京の卸値が
大阪よりも不当に高いということはなかなか言えないではありましようが、一応この事実は
東京の出来値が
大阪よりも高いのではないかということを想像せしめるのではないかと我々は考えたのであります。こういう工合に
取引の
紊乱というのは
卸売業者が
集荷の
荷引の
競争を、余りに劇甚な
荷引競争があるという経済的な
原因から考えられるのでありますが、そのほかこれは
市場側のほうの見解であるようでありますが、
市場が非常に狭いということ、そのために
取引が公正に行われないという事情が出ておるように言われておるのでありますが、成るほど現在
築地市場の約四分の一は
進駐軍の使用になりまして確かに狭いという現実的な事実はあるのでありますが、併しながらまあ
東京の
市場に匹敵する狭さを殆んど同様に持
つておるのは
大阪があるのでありますが、併し
大阪の場合は狭いからとい
つて直ちにこういう
取引が行われていないということから見まして、その狭いということから直ちにこの
取引が合理化されるということは余り理窟にはならないのであります。むしろ
東京都は昨年の十月以来非常に熱心に
監督されておりますが、その
監督が十分でなか
つたということが
一つの
原因ではないか、こう思うのであります。更にもう
一つ先ほど申上げました
渡し込みも止むを得ないという理由として挙げられておりますのに
貨車到着の遅延を挙げておるのであります。現在
築地市場に
水産物を搭載して到着する貨車の時間は午前一時二十二分、二時二十二分、三時二十七分、四時十七分で、特に六時二十五分というような
不定期便が入るのでありますが、最初の一時、二時、三時というのは一応問題ありませんが、最後の四時十七分の貨車がとかく
遅れ勝ちであります。それが遅れると魚の
せり時間であるところの午前六時までは荷下しして配列する時間がありません、大変無理だ、そういう不正な、不公正な
取引が行われるといような理窟があるようですが、併しながら
大阪市場の
卸売人の話及び
関西市場の
関係者の話によりますと、
最終列車が
せり時間の三十分前に入りますと、ぎりぎりでありますが当日の
せりに間に合うということを言
つておるわけであります。
従つて到着の遅延が
せり時間の三十分乃至一時間前であるということを基準としてこれを売り控えるとか、或いはその今申しました
渡し込みをやるということはこれは余り理由にはならないのではないかと、こう思うのであります。そのほか言われておりまする理由に
法律が
実情に即していないというようなことが言われておりますが、これは
現行法が改正されれば別でありますが、
現行法にある以上はみずからの、
自分たちの行為の
正当性を主張するために
法律に罪を持
つて行くものではないかということが考えられるのであります。こういう点が、我々が考えた
調査でありますが、然らばこれが
公正取引委員会といたしましては直ちに
独占禁止法上の問題に持
つて行けるかどうかという問題を考えたのであります。勿論
只今御
説明しました範囲内におきまして、例えば
出荷者である大口の
出荷者と、大品の
卸売人、それが又
仲買人とこう一連に結びまして、
一つの系統を
作つて、そこに強い
紐帶を持
つているというまあ或る種の企業共同的な
取引というものは
独占禁止法の不当な
取引制限に該当する慮れはないと言えないこともないのであります。或いは又先ほど申上げました
渡し込みとか、
サクラ制、
情実売というものは、
独占禁止法で申します不
公正取引第二條第六項、第四号に、
利益不利益を以て、他の顧客を自己と
取引するように強制するということがございますが、それに該当する虞れがないでもないのでありますが、問題はこのもとに、根本に帰りまして
市場法に基きまする
東京都條例というものが、立派な
條例がございまして、その中に例えば第五條におきましても、皆様御
承知でありますが、一応読みますと、「
市場において行う売買は
せり売の
方法による。但し、左の各号の一に該当する場合には
入札売定価売又は
相対売の
方法によることができる。」第一号、「品種によ
つてせり売の
方法による
販売が不適当であるとき、」第二号、「
数量が多過き又は到着が遅れたため
せり売の
方法による
販売が困難であるとき」、第三号、「
せり売の
方法によるときは不当な
値段を生ずる虞れがあるとき」、第四号、「
卸売人でない者が
販売するとき」、第五号「その他知事において必要があると認めたとき」、こういうことがございまして、これが但書で
せり売以外の
方法でやれるわけでありますが、これが
施行細則によりまして、これをやる場合には第
五條但書の規定により、こういう
せり売以外の
方法でやろうとする、
販売しようとするときには、「その事由、品種、産地、
出荷者、
数量及び
販売方法を具して知事の承認を受けなければならない。」ということになりまして、この五條の但書が濫用できないようにな
つておりまして、この
監督が徹底いたしまするならば、
独占禁止法に或いは該当するかも知れないところの問題が、むしろ
東京都知事のほうにおかれて、若しこの
市場法に基く
都條例の徹底的な
監督を行われれば、これは十分問題が拂拭できるのではないか、こう考えまして、
東京都知事宛にこの
勧告書を差出したわけであります。
東京都のほうにおかれまして、私
たちの
調査によりますと、昨年の十月以来数次に亘
つて熱心に
監督された事実がございまして、まさにこの点につきましては食糧庁も
公正取引委員会のお
調べに
なつた点については異議はない、むしろこの点については
市場法による
東京都條例の徹底的な
監督をしたいということを我々にお話に
なつたような次第であります。昨年の暮から今年の四月に亘りまして、私
たちの
調べました
経過ほこのようであります。