○
中山壽彦君 第二班の
視察報告を私から申上げます。
第二班は五月二十一日から二十七日までの間、京都、滋賀、奈良、和歌山の各
府県へ
山下委員、
大谷委員、
河崎委員と私の四人が事務局から齊藤参事及び
厚生省の佐藤事務官を同行いたしまして、
国立病院の
地方移管につきまして、
地方の
実情を調査して参
つたのであります。各
地方の
意見を総合して見ますれば、いずれも
地方移管には
反対ということでございまして、その
理由とすることは、国立としての経営している現在でさえ、その経営が非常に困難なところが多く、更に不完全な設備を如何に整備して行くかということを
考えた場合、
地方財政の現状から見て、或いは
医療の
低下を来たしはしまいかと
考えられるのであります。仮に
地方移管をすることとしても、整備
計画の樹立と財政
措置を考慮して、
地方の希望と相待
つて移譲を決定すべきものと
考えられたのであります。各
病院、各
地方自治団体、
医師会代表者等の
意見を
中心に順次申上げてみたいと存じます。
先ず京都
病院について。京都
病院は
政府の説明によれば、国立として存置の予定であるが、これを調査いたして見ますると、敷地が一万九千十一坪、建坪の延が三千五百三十八坪、
建物の種類が木造二階建二棟、平家建二十棟、設備は一応整
つております。病室の数、大病室が二十七、個室が五十一、病床数が三百五十六、内訳、
結核が九十九、伝染病が十、その他が二百四十七、
職員数、定員二百四十、現員が二百三十八、看護婦の養成所、甲種生徒が五十七、一年生が二十三、二年生が十七、三年生が十七、収支の
状況、昭和二十六年度においては、収入超過七万三千二十八円でありまして、収支の割合は一〇一%とな
つております。完全給食実施の概況、昭和二十六年四月一日よりこれを実施し、栄養研究会を開き、医師と栄養士との間において各患者の嗜好をも考慮して栄養食の調理に万全を期しており、調理場の設備も完備している。完全看護実施期日とその概況、昭和二十旧年一月、GHQ係員の直接指導の下に順次看護婦勤務の三交代制、患者附添を廃止したが、昨年六月から職務
内容の進歩と改善を図り、現在夜間における完全看護を実施している。その他、患者の
状況について。現在の患者収容定員は入院三百五十六、外来四百八十と定められているが、入院患者は常に満床の
状態である。
病院改築
計画について。目下の
病院経営は比較的良好な線を進んでいるが、
建物不足と腐朽
建物の改築を要し、将来
国立病院とし名実を共に備わつたものを完備するため、総経費十億円を以て昭和二十八年度から順次現在の
建物の空地新築
計画を立て、設計図を添えて
厚生省にその実現方を申請している。京都
病院における概況は以上の
通りであるが、
病院側としては、
地方移管又は国立療養所転換等の希望は全然なく、現在のまま国立として存続し、
建物新規
計画の実現を要望している模様であります。次に京都府庁側の
意見としては、知事、部長いずれも同様の
意見を以て、京都、福知山、舞鶴、各目立
病院とも現在のまま
国立病院として存続を要望し、
地方自治団体の現財政を以てしては到底経営困難の
実情であ
つて、
地方移管後独立採算制の強化によ
つて医療面から開業医を圧迫すると共に、
国立病院の現
職員を
地方公務員へ全面的な切替も困難となるものと思われ、
地方移管に
反対しております。又京都府
医師会代表も知事の
意見と同様の意向を表明いたしました。なおこの機会に西舞鶴
地方に日本赤十字を
中心とした公的
医療機関新設について、舞鶴市
医師会との間に
意見の相違を来たしている問題がありますが、この点については、当該市舞鶴
医師会長は、現在東舞鶴に公的な
医療機関があり、新らしく西舞鶴に公的な
病院を新設する必要はなく、他の
医療機関の整備拡充によ
つて治療上支障を来たすことはないので、日本赤十字社本社と日本
医師会との間で資料を持ち寄
つて検討を加えられ、結論を出すように御協力願いたいとの要望があつたことを御
報告申上げておきます。
二、八日市
病院について。滋賀県八日市
病院は元
陸軍病院の残存
建物を引継ぎ
国立病院として存続して来たのであるが、地理的に極めて不便であ
つて、設備不完全、患者も少なく、その利用も不便な位置にある
関係から、八日市町当局と協議の上新たに八日市町に
建物を移転して外来診療棟を設け、診療所として使用中であるが、この診療設備も建築中途であ
つて、町当局は現在の移築にさえ相当多額の
負担をして来た。現在更に今後整備費多額を要する
地方移管には
反対であ
つて、従来の方針
通り国営を以て、移転中途にある本
病院の急速な整備を要望しておる模様であります。
現在の
病院の
状況は左の
通りであります。
(1)本院イ、敷地一万一千百二坪、
口、建坪七百九十八・二五坪、ハ、
建物の種類、木造平家建。
(2)診療所、イ、敷地五千七十五坪。口、建坪百九十一・二五坪。ハ、
建物種類、木造平家建。
(3)設備はすべて不備で、且つ機械化していないため非能率的で不便である。
(4)病室数及び病床数、病室は大部分大部屋であ
つたのを改造して中、小部屋にな
つており、病床数八十(
一般二十五、
結核五十、伝染病五)である。
(5)
職員数七十。小
病院のための患者数に比して
職員数が多い。
(6)看護婦養成所なし。
(7)収支の
状況、年間約七百万
程度の赤字とな
つている。
(8)完全給食は入院患者全部を対象としているが、食糧費、設備、器具不足等から不十分の
状態である。
(9)完全看護、
建物の配置、宿舎不足その他の
事情のため困難な
状態ではあるが、完全看護に近い
状態にしようと努めている模様である。
三、滋賀県下の
医療機関の現況について。
(1)
一般病院、診療所、医師その他、イ、
一般病院二十三、病床数千四百十九、診療所数四百九十九、
病院診療所医師数六百六十八、医師一人当り人口数千二百八十九、人口万当り病床数十六・四、口、歯科診療所数百七十三、歯科医師数百八十三、歯科医師一人当り人口四千七百五、(2)特殊
病院、イ、
結核診療所五、病床五百九十九、人口万当り六・九、口、精神
病院一、病床百六十七、人口万当り一九(3)公的
一般病院基幹整備
計画案によれば、管内人口八十六万千百八十、
病院数二十、現在病床千百九十五、人口万当り十三、増床
計画七百三十五、完成時の床数千九百三十、万当り病床数二十二。(4)無医村五村であるが
医療上支障あるのは一村のみである。
八日市
病院における
病院管理者の
意見は、現在移転、改築の途上にある本
病院として、現在の
通り国立としてこれが完成を要望し、地理的に見て将来国立癖旗所へ転換を希望する。又
地方財政上から見て
地方移管は困難と思うとの
意見であ
つて、
職員組合代表は、
職員の整理等の面から
地方移譲には
反対であ
つて、従来
通り国立病院として存続を希望するが、止むを得なければ国立療養所として転換せられても
地方移管には
反対する。又患者代表は、
地方移管後
医療面から及び独立採算制強化の面からサービス
低下を来たすため
地方移管には
反対するとの
意見であつた。右の八日市
病院を
中心とした
地方移管問題に関する滋賀県知事及び厚生部長の
意見としては、整備不完全な
病院をそのまま
地方へ
移譲されることは
地方として
反対であ
つて、地理的に
医療の
地方分布の
状況からすれば、附近の大部分の者は京都
病院及び大津、彦根等の公的
医療機関へ入院する者が多く、県としては
移譲を受ける意思はないとのことであつたが、
地元八日市町長は、公的
医療機関が八日市町を
中心に是非必要であ
つて、本
病院の存続は是非必要であ
つて国立病院として残してほしい。又
病院の一部移転中途で中止されては困るから続いて国で実施してほしい。この移転には町財政から相当多額の
負担をしているので、今後の
負担は困難であ
つて是非既定
計画通り実施してほしいとの
意見であつた。滋賀県
医師会代表としては、従来国営で移転も進行して来たのであ
つて今後も国で経常して行くべきだと思うが、普通
病院としては経営困難かと思うので、今後地理的に見て国立
結核療養所に転換して行
つてはどうかと思うとの
意見であつた。
四、奈良
病院について。奈良
病院の入院患者は奈良県下は勿論京都、三重、大阪の各肝県下に亘
つて利用者が多いが、その経営面は昭和二十六年度収支
状況において約六百万の赤字を出している
状況であるが、その概況は次の
通りである。(1)敷地、五千六百二十四坪。(2)建坪、百五十四万六千二十三坪。(3)
建物の種類つ、木造二階建、百十三・五坪。木造平家建、百三十六万千二百九十八坪。煉瓦建、七万千二百二十五坪。(4)設備、一応は整
つている。(5)病室数、病床数、病室大室七、中室三、小室八十五、病床百四十五。(6)
職員数、宝貝百十一、現在員百九。(7)看護婦養成所なし。(8)収支の
状況、昭和二十六年度において約六百六十万円の赤字とな
つている。(9)完全給食は炊事設備の大改造を行い、調理機械を設備して実施している。(10)完全看護については看護婦の三交代制に切替実施しているほか、雑仕婦も総婦長の監督下においている。五、奈良県下の
医療機関の
状況について。(1)
病院、病床、医師数その他、イ、
一般病院十九、病床七百五十五、
結核十一、病床七百三十一、伝染病三、病床三十九、精神病三、病床二百四十八。口、医師、七百八十三、歯科医師二百七十二。ハ、診療所数四百三十二、病床数五百六十三、歯科診療所数二百五十九。(2)基準病床と現在病床との比較、人口七十六万二千三百八十六、必要病床数千二百九十七、人口万当り一六・八八、現在病床数六百七十五、人口万当り八・八六、不足病床六百六十五、増床数六百三十、整備病床、千三百五、人口一万当り一七・一。(3)無医村数十二。
奈良
病院における
病院管理者側の
意見としては、地理的に奈良市に完備した
病院が必要であ
つて、その入院患者も京都、大阪、三重方面からも相当にある現状から見て、
地方移管になれば、入院料の点でも必ずしも他
府県からの入院患者を同一の額によ
つて入院せしむるということもできないようにもなり、利用者の面から
地方移管には
反対である。又
地方自治団体の財政面からも到底経営困難と思われ、独立採算制の強化に伴い治療面にも
低下を来たし、且つ現在の
病院の整備は不完全であ
つて、これが整備には相当多額の費用を要し、
地方財政を以てしては完備困難と思われる点からも
地方移譲には
反対であるとのことであつた。
次に
職員組合代表は、人員の整理が強行される点及び地理的に見て現在の場所に公的
医療機関の存置は必要であ
つて、
地方財政的には引受困難とも思われるので、
地方移管には
反対であるとの
意見を申述べた。又患者代表は、国立として経営している現在でさえ経費不足の
状況であ
つて、若し
地方へ移管せられる場合は更に経営上困難を来たすものと思われ、治療上にも影響を及ぼすと思われること及び社会保険診療が円滑に行われないと思われる点等から
地方移管には
反対であるとの意向であつた。
次に奈良県知事及び衛生部長の
地方移管についての
意見は、現在奈良県は医科大学を経営しており、県財政面から更に国立奈良
病院の
地方移管には
反対であるが、地理的にみて奈良に公的
医療機関の存置は是非必要であ
つて総合病院として国立として存続し、不完全な設備の充実を図
つてもらいたいとの要望があつた。奈良県
医師会代表の
意見も大体知事の
意見同様であ
つて、
地方移管には
反対を表明した。なお奈良県知事はこの問題以外に奈良県下の寄生虫及びトラホーム予防対策について腐心しているが、国庫からも撲滅費の一部を補助せられるよう御協力願いたいと強く要望していたことを御
報告いたします。
次に和歌山県に移ります。
田辺
病院について。田辺
病院は元大阪陸軍第一
病院白浜分院を国立大阪
病院白浜分院と改称し、白浜町に存在したものを昭和二十五年田辺市に移築し、昭和二十六年三月より国立田辺
病院として発足したものであるが、全国
最初の試みとしてオープン・システムを創設している
病院として特異性のある
病院であ
つて、田辺市を
中心とした地域に完備した
総合病院として存立を必要と認められるものであるが、その概況は次の
通りであります。(1)敷地、四千四百十八坪。(2)建坪、七百七十六坪、延建坪一千二百七十五坪。(3)
建物の種類、木造二階建及び平家建。(4)設備、
総合病院としての診療科目の完備はないが、全般的に新設による
計画の線に沿
つて建設されているので、完成の際は
理想的のものとなるように思われる。病室数、病床数、大部屋四十、個室十四、特室八、病床数五十四床。
職員数、定員七十六、現員七十七。看護婦養成所なし。収支の概況、昭和二十六年度において約六百八十万円の赤字を示す。完全給食を実施しつつあり。完全看護は当初からこれを実施している。
田辺
病院に対する
管理者側の
意見としては、現在の田辺
病院は病床数僅か五十床であ
つて、不十分なため更に増床し、最小限度百床に拡充して
国立病院として存置を要望しており、田辺市周辺には人口約三十万あ
つて公約
医療機関としての存続は是非必要ではあるが、
地方財政上からこれを移管せられても、増床
計画の遂行困難であ
つて、又現在のまま放任すれば
総合病院としての機能を発揮することもできず、而も五十床の
病院として経営困難であ
つて、従来
通り国立としての完備を要望するとのことでありました。又
職員組合、患者組合等は現在組織なく、
意見を聴取できませんでした。
地元田辺市からは、市としてはすでに移転の際千三百六十万円を
負担して来たが、今後更に
負担する能力なく、
病院は設備中途にあるのであ
つて是非
国立病院として拡充整備せらるるようにとの要望がありました。
次に白浜温泉
病院について。白浜温泉は元傷痍軍人白浜温泉療養所として開設せられたものであるが、その後国立白浜温泉
病院と改称されたものであめ
つて、設備等から傷痍者の療養所として転換も
考えられるのであめるが、
地元にてば温泉地としての発展上、傷痍者のみの療養所に限定することを
反対し、大衆的温泉
病院として存続を要望している。その概況は次の
通りであります。
敷地四千五百六十二坪、建坪七百二十坪、延建坪九百六十三坪、二階建。設備、温泉治療設備、物療設備その他を有す。個人病峯、隔離病室等がない。病室及び病床数つは、病床七十九。
職員数五十一。収支の
状況、昭和二十六年度において約百十万の赤字であります。
右に対する
病院管理者側の
意見としては、特殊温泉治療設備のある
病院として設備の拡充を希望するが、傷痍者のみの温泉
病院又は療養所として転換することには
反対であ
つて、現在のまま国立として他方へ移管せず、設備の拡充を希望するとのことであつた。又
職員組合、患者組合等なく、これらから
意見を聴取することはできなかつたが、白浜町長からは、町営としては財政的見地から困難であるが、国営としても特殊な傷痍者のみの療養所に転換することには
反対であるから、是非
国立病院として存置せられるよう要望がありました。
和歌山県下における
医療機関の
状況について。
病院、病床、医師その他、
一般病院二十五、病床千二百二十二、
結核病床七百九十一、精神病床六、伝染病床三十三。診療所数六百三十五、病床数九百四。右以外二百床を持つ精神
病院及び
結核病床二百床を持つものあり。比較的中部以南に施設が少ない。無医村十七。基準病床と現在病床との比較。必要病床数二千百十一、要増床数七百六、過病床数四十九、人口九十八万二千百十三。
和歌山県知事及び衛生部長の
国立病院地方移管に関する
意見としては、県下国立の各
病院とも
地方へ移管することは
地方財政上から困難であ
つて、従来
通り国立病院として整備の上経営せられたいとの希望であつた。又和歌山県
医師会側としては、
地方公共団体に移管することは
地方財政上困難なことは知事の
意見と同様であるが、
医師会として移管を受けることができるようであれば、その条件、経営の方法等について研究してみたいとの
意見を述べた。
以上調査の概況を申上げましたが、各
府県、
医師会、
病院を通じて、
地方移管にはいずれも
反対の
意見強く、
地方的に特殊な
事情から
地方移譲を希望するものから徐々にこれを移転して行くべきものと
考えられるが、むしろ全国的な公的
医療機関の配置
計画と相待
つて、既設
病院の整備
計画を樹立し、然る後に経営主体の
検討を要すべきものと
考えられるのであります。
右簡単にこれを以て御
報告といたします。