○松原一彦君 私は敗戦国とは言え日本罠族が今度の戦争に従事し、且つその犠牲と
なつた人々に対する感謝を表する点につきまして、今日まで遷延いたして参つたことに対して非常に遺憾に思
つておつたのでございますが、この心を暗くいたしておりました問題がとにかくここに一応の緒につきましたことについて、賛意を表するものでございます。
従つて今回小
委員長から
修正案が御提案になりましたことに対しまして賛成をいたします。併し私はこの
法案の本旨そのものについて非常に遺憾に思うものであります。この点を申添えまして、二つの要望をつけて討論をいたしたいのでありますが、一つはこれが
援護法の各を以て出ましたことに対して、少なからざる遺憾の意を持つものであります。これは
援護というべき性質のものではないと私は堅く信じております。何となれば
遺族その他の人々が求めて参りましたものは、
援護ではないのであります。これは
国家補償の権利に基く要求であつたのであります。明治以来戦店に対しましては国が堅くこれを保障している
法律がある。即ち
遺族に対しまして
恩給による
遺族扶助料というものが確立いたしているのであります。又
傷痍者に対しましては増加
恩給というものがはつきりいたしておる。これは今日といえ
ども現存いたしておるのであります。これを実行せずして、而も
軍人懲罰令に等しいようなポツダム
政令第六十八号というものを
法律にまで改めて、その既得の権益をなお一カ年間空白として押えつけ、そうしてこれに代るに
援護の名を以てしてこの
法案が出されているということに私は非常な憤りを持つものであります。既得の権益というものはたとえそれが戦争に負けたであろうともこれは尊重しなければならんものであります。たとえ国の財政において許すべからざるものがあるとは言え、これは先ず第一に
考えなくてはならん、深く
考えた上で処理すべきものであります。西ドイツのごときはあの敗戦の
あとにもかかわらず、すでに二年前においてこれを処理いたし、今日この
軍人遺族等に関する社会保障的な面におきましては国費の五一%が割かれているのであります。独立国の意識を堅持する上におきましても、過去の
軍人や
遺族等をば粗末に扱われることは断じて許されないのであります。独立は兵隊の数では遂げられません。民族がみずから心の中に誇りを持
つて、そうして過去の人々に対する感謝が常に満ち、これをば厄介者にするような粗末な心を持つたのではとても今後の独立が推進できるものではないと信じます。金がない、財政が許さないという説明も聞いておりますけれ
どもが、日本の安全を保障するために、治安を維持するためには、外国兵を無期限に無制限に駐屯せしめて、これに驚くべき多額の金が
支出せられているのであります。日本の国内には動員して一千万に及ぶところの精鋭があるのであります。この人々に対する我々は感謝も信頼もなく徒らに外国の兵隊の数を揃えてもそれで日本の独立は遂げられません。戦死した人々に対して深き感謝を拂い、なお又現存しているところの曽
つての
軍人の人々にも、我々はその労を塙うものがなくてはならないのであります。勅令六十八号、ポツダム
政令と今は
言つておりまするが、この
政令で押えつけて一カ年間の空白を作つた結果、その代償としてここに国家の補償である
恩給措置を行うことができず、いや、進んで行わず、
援護の名を以てかような軽微な措置をとらざるを得なくな
つている。併したとえ軽微たりともこれによ
つて遺族並びに傷痍の人々に対しましての若干の補いをすることはできますが、七百万に余る正規
軍人の当然受くべき権益である
恩給権はこの一カ年間ここに空白を生ずる。これに対する一片の措置もと
つていない。現役の文官は追放解除と同時に
恩給が復元するのであります。なお過去の
軍人は追放解除と同時になお一年の空白を残すのみならず、日清、日露役以来の
軍人、既得権を持
つている
恩給受給者並びにその
遺族扶助料を持
つている人々は、なお一ヶ年間ここに泣かされるのであります。これはこの
援護法に件
つて何かの措置が講じられているならばなお且つ慰められるものがありましよう。一片の措置もないのであります。私はここに少なからざる憤りを感ずる。かように
軍人を粗末にすることによ
つて果して今後の毎軍備とか、或いは日本の安全の措置をば漸増するといつたようなことに
政府は自信を持たれるかどうか。外国の兵隊を借りて日本が独立して国防力を漸増するなどということは、これは一つの夢であ
つて、笑うべき夢に過ぎないのである。私はミリタリズム再現に関しまして絶対に反対するものであります。国防とミリタリズムとは全然違うのであります。そのためには過去のたとえ政策の誤りがあつたであろうとも国の法によ
つて保障せられることを信じて出征し、且つあの過労に堪えて、そうして今日まで苦難に堪えて参つた人々に対して、当然の感謝と報いとがなくてはならない。それがこの
援護法によ
つては全く現われておりません。又
援護に金がないと申しますが、今回の
援護措置によ
つて我が子を失い、我が夫を失つたる人々、寡婦のごときは年額一万円のこれはいわゆる
年金と称するものでありまするが、月割にしますると八百三十円にしかならないのであります。
生活保護費にも当りません。然るに最近新聞の報ずるところによりまするというと、警察官が公務によ
つて死亡した場合には最高百万円が
支給せられるのであります。又警察予備隊に入隊した者は、この九月満期と同時に、僅か二カ年の公務に服したことに対して六万円の金が
支給せられる。今後はこれが二万円になるとか聞いてはおりますが、そういう現在の人々に対する態度は誠に……まあ至れり盡せりとは申されますまいけれ
どもが、妥当な措置が講ぜられつつ、一面におきましては、過去の人々に報ゆること何ぞ乏しきやということを私は痛感せざるを得ないのであります。ないとは申されない。たとえ国費の半分を割こうとも、西ドイツぐらいな措置のできないはずはないのであります。今回はいたし方がございません。我々はこれをほんの一時の暫定的な弔慰として認めまするが、明年度の予算におきましては、嚴に正当なる権利に基く国家の補償がこの人々に
支給せらるるように
政府は措置をとられたいということをば要求いたします。
いま一つの私は附帶的な要求として強く希望いたしたいことは、今度の捜護措置の
対象の中に、未
復員者と称する六千三百十四名の人々が漏れておることであります。未
復員者給與法に基く六千三百十四名の人々であります。この人々は戦争最中からの持越患者でありまして、その八割六分三厘が結核の患者であ
つて、六分五厘三毛が精神病患者、
あとがその他とな
つておるのでございますが、この人々は、占領治下において万止むを得ざる措置として応急的に最低の
医療を與えられるだけで今日まで過して参
つておるのであります。併しこれは、結核というものの性質上、公傷であるかどうかということについては、従来
恩給法上にも疑問がありますけれ
どもが、今日入院せしめて国家がこれをば給與法によ
つて治療をいたしておるゆえんのものは、一に戰時中の公傷に基くものという理由にあるのであります。そうであるならば、この戰時中の公傷に基いたものが外形に現われざる……外傷ではありません、内臓疾患ではありますが、これは当然
援護の
対象とすべきものであります。この人々は、未
復員者給與法によ
つて入院して治療を受けることがなお継続せらるるようにな
つておりまするので、その点では特別の措置として一応認められまするけれ
どもが、この気の毒な、手が一本ない、足が一つないという人よりも、全身を動かすことのできない、而も十数年病床に呻吟する者すらある、この人々には、一銭の手当も與えられておらんのであります。チリ紙一枚買うこともできない。葉書一枚も買うことのできないような
生活を続けておるのであります。最初は家庭からの仕送りもあつたそうでありますが、
只今では、家庭も長いこの病人に万策盡きて、今日は殆んど送金がないのが大部分であるということを聞いております。これは法の上から申しまするというと、なかなかむずかしい解釈があるらしい。一旦これを、全部を六項症として今回のような最低二万四千円の手当をつけるとしましても、一旦
恩給を受けた者は、未
復員者給與法の将外に出なければならない制限があるそうでありまして、病院から出なければならないことになる。そうなるというと、
恩給もうけられないという
政府当局の御意見でありますが、法によ
つて人間が縛られることはないと私は思います。この現実に対して如何なる法を立つべきかが問題であります。今回の
援護措置の中に、この六千三百余名の気の毒な戦争以来の重病患者が持越しされておるということに対しましては、私は非常な遺憾を感ずる。これをこの中に
包含せしめることができたならば、夥しい金が今回
支出せらるるのでありまするからして、込みとな
つて、これが何とか処置せらるるでありましようが、
援護法の
対象から取残されるというと、至急に單独法か何かを以て
あとから追つかけて措置をしましても、これはよほどむずかしいものがありはしないかと思うのであります。かような
意味におきまして、私は内臓疾患、特に伝染性のこの結核症患者等或いは精神病者等に対する
援護の
方法につきましては、遅滞なく当局におきましては適切なる手段を講じられまして、こういう人々をば泣かせないように適切な方途をとらるるように切望するものであります。ただ今回の
援護法によりまして、
恩給法では到底救済のできないところの多数の人々が一応のう慰を受けることができる、或いは戰勝時代にも曾
つてなかつたような、
戰沒者の子弟が一つの枠を以て育英費の中から教育資金を與えらるる途を胴かれたということは、戰敗の悲しみのうちにおきましても、一つの大きな進歩だと信ずるものであります。いずれにしましても私はその
根本に非常な不満足を持つものでありますが、そういう理窟を申してお
つてこれは日を延ばすわけには参りません。かような
意味におきまして、今回この
援護法に対しましては幾多の疑問、不満を持ちつつも
参議院が
参議院らしき態度を以ちまして、政党を超え、全員一致して何とか一日も早く結論を得て、そうして温かい手が差延べられますようにと努めて参りましたことに深く敬意を表し、本
法案に一応の賛成をいたすのであります。
お断り申しておきますが、私の第一クラブは、そのクラブの性質上全員を代表してということは申上げかねます。多数の人々は……勿論多数と申しても私のクラブは僅か八名ではございますが、私の話した限りにおきましては、賛成を表してくれたと思いますが、併し全員一致ということは
只今申上げかねます。せいぜい説きまして
参議院らしいすつきりした態度を以て今回はこの
法案が成立しまするように努めたいと思います。
以上二つの希望を申述べまして、本案に賛意を表します。