○棚橋小虎君 もう
一つ最後に一点お伺いしたいのでありますが、この事件は大変長い間の事件であります。今日は
決算委員会が長い間かか
つて調べ上げましたところの大体の結論、それと検察庁の出しましたところの結論が食い違
つておりますので、
決算委員会としては一度中心人物であるところの
大橋証人、それからその取
調べに当
つたところの検察庁の検事を喚問いたしまして、そうして
決算委員会としての疑点を
調査しなければならんというので、本日のこの
証人喚問と相成
つたわけであります。大体この事件の中心問題は私は二つであると
考えるのであります。
大橋証人に関する限りは問題は二つある。その
一つは、
大橋証人の
法律上の責任であります。それから他の
一つは、
大橋証人の政治上の責任であります。
法律上の責任につきましては、先ほどから大勢の
委員諸君の御
質問もあり、検察庁ではそれに対しまして不起訴にな
つております。私
どもこの
大橋証人に対する横領の嫌疑等を見てみまするというと、これは非常にぼんやりしているようでありますけれ
ども、横領として起訴すれば起訴できる事件であります。又横領として起訴しないでおこうと思えばそれは証拠の取りよう、或いはその陳述に対する解釈によ
つて起訴しないでもいい事件である。結局どうにでもなる極く紙一重の事件であると私は見ているのであります。ところで、先ほどから
証人の陳述をお聞きしておりまするというと、これは事柄は大した金ではないかも知れませんが、相当性質としては惡質な事件であるということを
考えなければならんのであります。つまり
証人はいろいろなことを申しておられます。そこにはいろいろな
事情がある。或いは
高橋と
田中とのバランスの衡平がとれないというようないろいろなことを申しておられますが、ともかく四千数百万円の過払金ができて、そのうち約二千万円くらいは国庫に戻
つたのでありますが、二千数百万円の金というものはまだ弁償ができておらん。そのお金を弁償するために
証人もお骨折りにな
つたのでありますが、
会社の
財産も
田中或いは
高橋の
個人の
財産も提供いたしまして、できるだけ国家に対する穴埋めをしなければならんというところで、株券も
自動車も全部提供されてお
つたのであります。でありますから、一日も早くこの国家に対する損害を補填するということが眼目でなければならんし、又
証人としましても或いは
足利工業といたしましても、
特調の役人といたしましても、それが先ず解決しなければならん問題だ
つたと思うのであります。
〔理事
飯島連次郎君退席、
委員長着席〕
ところが、
高橋が
特調に参りましてその
自動車を売
つてすぐその金を納金するからということで……一種の詐欺であります、これは詐欺で起訴されておりますが、その
自動車を
特調から取戻して参りまして、そうしてそれを売
つて、その金で以て納金する、こういう
約束をしてそれを持
つて来た。ところが、
特調のほうが知らん間にその
自動車を売
つてしま
つたのであります。そうして、その金で以て新らしい
自動車を買
つた。これは、ここで儲けようと思
つて買
つたに違いないのであります。ところで
特調のほうからどうして早く納金せんかという催促を受けた。ところが、すでに金はなくな
つて新らしい
自動車が
買つてある。そこで
特調のほうでは一日も早くその
自動車を
売却して、そうして百万円の金は少くも入れてもらわなければならん、それ以上のことは、これは
証人を初め
高橋、
田中らが
特調のほうに頼み込んで、何とかしてその金を運用して、多少の儲けをすることを許してもらいたいというようなことが申出られましたので、
特調としては非常に困
つた申入れであ
つたでありましようが、併し有力な
証人の仲介であり、申入れでありますので、
証人の顔に免じて、
特調はよんどころなく一カ月かそこらの間にできるだけ早く金を入れてもらいたいというところで
承諾をしたらしいのであります。ところが
証人は、その国家に補填すべきところの金を、
田中と
高橋との
個人のバランスがとれないとか、いろいろそういう
個人的の
事情を
考え、そうしてそれを
高橋の名前で預金しておいて、そうしてそれが
自分がそれを管理し、
自分の子分であるところの
山下にそれを出し入れさせて、
山下が
自動車を営業しておりますその営業資金にしてお
つたのであります。かようにしている間に、先ほ
ども申しまする通りに、僅か一年二カ月足らずの間に、
自動車売却代金百三十三万円というものが僅かに四千五百六十五円三十八銭にな
つたわけであります。かようなことになりましたについては、
山下が主としてその資金の運用に当りましたから、
山下に責任があ
つたようにも
証人は申しますけれ
ども、
証人は少しでもその監督、管理の責任を持
つておりながら、最後まで、それを知
つてお
つたか知らないかわからないが、知
つてお
つたとすれば怪しからん。知らずにや
つたとすれば迂濶な話で無責任である。これは国家の金であります。そういうことをして国家に対して大きな損失を与えたのでありまして、
証人は、その金は百万円国家に返
つていると申しているのでありますが、それは事件が起りましたところの
昭和二十五年の九月には僅か三十万円しか入
つておりません。百三十三万円の
自動車売却代金のうちの三十万円しか払
つておらないので、あとの百万円というものは空に消えてお
つたのであります。この事件が起
つてやかましくなりましたので、
証人らはあわてて法務
総裁という地位にあ
つて、
足利工業と和解をいたしまして、そうして裁判上の和解をして、分割
返済をするような
和解調書を作
つたのであります。
証人は法務
総裁としてそれをや
つている。そうして百三万円という現金はどこかに行
つてしま
つているのであります。事件がもう拡大いたしましてやかましくな
つて参りましたので、四苦八苦苦面をいたしまして、あと三十万円、四十万円と
返済して、百万円入金したということに相成
つたのでありますが、かように事件を追
つて考えて参りますというと、私は
証人がこの事件に
関係するところの重要なるところの地位であり、
証人の立場から申しまして、むしろ
証人がこの事件の首謀者であるというふうに私
どもは
考えなければならんのでありまして、この首謀者は、然るに検察庁の非常にお情けあるお取計らいによりまして
証人は起訴を免れております。ところが
関係者である
高橋、
田中、それからいま一人の
高橋でありますか、こういう
関係者は皆詐欺横領というような名前で起訴されておる。
山下も起訴はされておりませんけれ
どもこれは弁償をしたり、又直接の責任は
大橋にあるから
山下にはないというところで、これは無罪、不起訴というふうに相成
つているのであります。かように
関係者はことごとく起訴されているにもかかわらず、
証人一人は
法律上の責任を免れたということに相成
つております。これは私
ども、検察庁のこのお取扱いに対しましては、もつと検察庁にも質して見なければならない点があると思うのでありますが、併し一応
法律上の責任についてはこれで結論が出て参りまして、
証人は不起訴ということに相成
つております。併しながらこの事件が不起訴にな
つたからと申しまして、
証人は清浄潔白、偽仰天地に恥じないものであるということは私は言えないと思う。何かの新聞にもありました通り、この二重煙突事件というものは、
大橋証人に対してはこの二年間亡霊のごとく付きまと
つており、そういうふうにして全国の国民は
大橋大臣と言えば二重煙突というふうにすぐに
考える。
大橋総裁をめぐ
つて、非常に疑いの雲が
大橋総裁の周囲に群が
つているわけでありまして、この国民の疑惑というものは、検察庁のかような特別のお取計らいによ
つて不起訴にな
つたということによ
つて、決して払拭されるものではないと思う。かようにして若し
総裁が、
自分が不起訴にな
つたから、これで以て
自分の
法律上の責任は全部済んだのであるというふうに若しお
考えになりまするならば、これは私は何と申しますか、耳を抑えて鈴を盗むと言いますか、余りに私は国民の意向を無視したものであるのじやないかと、こう
考える次第であります。決して不起訴によ
つてこの疑惑は一掃しておらんと
考えます。更にもう
一つそれ以上に、私は
大橋国務大臣の責任を問いたいことは、この事件のために国民の間に非常な疑惑を惹起し、そうしてこの二カ年の間これだけ騒がして、そうしてこれが市井の一町民であるとか、或いは一農夫であるとかいうような人でありますれば、この事件が不起訴にな
つて法律上の責任がなくな
つたとい
つて、知友親戚を集めて祝宴でもして喜んでいるかも知れません。けれ
どもいやしくも現内閣の閣僚であり、そうして今はおやめになりましたけれ
どもこの事件の起
つた当時は法務
総裁であ
つた。そういう地位にあるところの人が免れて恥じないというような態度でおられましたことは、これは国民精神の上にも、国民風教の上にも私は見逃すことのできない由々しい大事であると
考えるのであります。仮に
法律上の責任が
大橋氏になか
つたといたしましても、私はそのようなことでどうして現在日本の風教を維持し、そうしてこの汚職事件が頻々として起
つております現在の腐敗堕落した官公吏を粛正して、そうして日本の政治を美しくするその責任を持
つておられるところの閣僚の一人であるところの
大橋氏が、
自分は不起訴にな
つたからその責任はないのである、青天白日の身にな
つたのであるというような安易な
考えを持
つておいでになるということは、実に日本国民として私は禍いがあると
考えるのであります。
大橋氏に対する責任の追及の上におきましても、私
どもは、成るべくならば、こういうことは余りに大きくしないようにしてということを初めから
考えてお
つたのでありまして、初めは私
どもはただ会計検査院の批難
事項の第何面付十号という事件として私
どもは
調査にかか
つたのであります。然るにだんだん
調べるに従
つて、あとからからこういうふうに底深い腐敗事件が現われて参りました。然るにこれに対しまして、
大橋氏は一言も今日まで謹慎の意を、或いは済まなか
つたというような態度をお示しにな
つておらんのであります。若し
大橋氏が国民に対して真に申訳ないというお
考えがありますならば、今日まで幾らでもその機会はあ
つたのでありまして、私は
大橋氏が本当に天地に恥じざる公明正大であ
つたという確信があるならば、
自分の証拠を皆集めて
決算委員会に御提出にな
つて、そうして
自分のしたことを隅から隅まで
調べてもらいたいというお申出があ
つて然るべきだと思う。然るにもかかわらず、むしろその反対に
高橋証人や
山下証人を喚んだときに、内部に策動して、かなり
高橋証人や
山下証人は
大橋氏に有利なように事実を曲げた
証言をいたしております。又
決算委員長は二回に亘
つて本
会議にこの事件の中間
報告をしておりますが、いやしくも国会で国務大臣がこれだけの嫌疑をこうむ
つて、そうして中間
報告をされた以上、本当に
大橋氏が責任を重んじられるかたでありましたならば、直ちに立
つて自分の潔白に対して一身上の弁明をあの際されるべきであるにもかかわらず、少しもそういう気配はない。そうして
只今申したように、
証人調べにはいろいろ策動され、そうして更にに自由党の諸君はこの
委員会におきましては、我々がこの事件を検察庁に
調べを一任したいという協議をいたしましたときには全部反対をいたしまして、遂に多数の力によ
つて、この検察庁にこの事件を
調べさせるということはもみ消しております。更にこの間
高橋証人を呼びましたときには、その
証人が
大橋氏に不利であることを見て取られまして、到頭その
証人の
証言することを阻止しようとして全員退場されたという事実は、つい二、三日前のことであ
つた。さような不謹慎極ま
つた、国民を無視したような態度に出られましたので、我々は国会の権威の上にどこまでも
決算委員会の任務を遂行して、国民の前にこの事件の真相を明らかにしなければならんというので今日まで非常な決心を払
つて戦
つてや
つて参りました。そうして今日ここに
大橋氏に再度の
証言をお願いしておる次第であります。こういうわけでありまして、私は今日までこの事件に対して、なぜ
決算委員会はあのようにしつこく、あのような非常な熱心を以てこの事件に当
つて行くかということに対して、いろいろ
事情を知らないかたからは、かれこれ言われてお
つたようであります。併しながら
只今申上げるような
事情でありまして、私
どもはいやしくもこの国会を無視し、
決算委員会の
調べを、
決算委員会の
調査を無視して、飽くまでこの事件の責任を
考えずに頑張
つておられるところの
大橋氏に対しまして、どこまでもこの事件に対する糺明をいたして氏の責任を問いたい。こういう
考えから今日までや
つて参
つております。これは私
どもの国民に対する義務であります。又国民はこういうことによ
つて黒白を明らかにし、そうして政治というものが本当に正しいところを歩んでおるのである。日本の政治というものは、情実によ
つて左右されておるのではないということを国民に知らせることが、風教の上にも、又国民精神を作興する上にも大事であると
考えまして、我々
決算委員会の小
委員はそういう
考えを以て今日までや
つて参
つております。私は最後に、
大橋氏はさように国民から疑惑をこうむり、そうして何か
法律上でも釈然としない立場に今日でも立
つておられるのであるが、今後なお閣僚の一員として国民の、一挙手一投足に国民の注視を浴びるところの閣僚の一員として立
つて、日本の政治を指導することができるとお思いにな
つているかどうか。その政治的責任を私は
大橋氏はどうお
考えにな
つているかということについて、もう一遍
大橋氏の最後の御答弁をお願いしたいと思うのであります。