○
政府委員(倭島
英二君)
インドとの
平和条約についての逐条
説明を申上げたいと存じます。先ほど
提案理由の
説明をせられた際に言及せられたところでございますけれども、逐条
説明に入るに先立ちまして、二、三この
インドとの
条約の特徴ともいうべきところを先に御
説明申上げまして逐条に入りたいと存じます。
今度の
インドとの
条約の特徴とも申すべき第一の点は、
インドと
我が国との間においては
戦争状態がすでに終了しておる、それは御存じの
通り、
インドがそういう布告を出しまして
我が国に通告をし、
我が国はこれを受諾いたしまして、去る四月の二十八日に
戦争状態が終了しておるという
関係にございます。
従つてサンフランシスコ
条約だとか、
日華条約等におきましては、その第一条において
戦争状態の終了ということを明記しておりますけれども、このたびの
インドとの
条約におきましては、
戦争状態は終了したという建前から出発した
条約でございまして、その点がこの
条約の
一つの特徴かと存じます。第二番目にこの條約の特徴とも申しますか、と思われるのは、当初
インドとの
交渉の経過におきましては、
インド側においては、この
条約は
戦争状態は終了はしたが、
戦争状態が存在したことから起
つて来たいろんな問題の跡始末がある、
従つて平和条約という恰好のものを作るときには、その
内容は
戦争の跡始末を規定するということでいいじやないかという
意見があ
つたわけであります。併しながら
我が国のほうの
見解といたしましては、
戦争の跡始末だけではなくて、
両国間の平和並びに今後の
友好関係を
はつきりさしておきたいということを主張いたしまして、その点が結局この條約に入
つて来たわけでございます。で、その
戦争の跡始末だけではないという点が二ヵ所に現われております。
一つは、前文の弟二項のところでございまして、
国際連合憲章の原則に基いて、
両国が共通の福祉或いは平和、安全の維持ということについて協力をする
希望を持
つておるということを明記しましたのが
一つと、それから第一条におきまして、
両国の間に、堅固な且つ永久の平和及び
友好の
関係が存在するということを規定いたしております。
従つて今申上げました二点と、後の條文とは少しその性質が異な
つております。二條以下十一條までの間において規定をせられておりますところは、大体において
戦争の跡始末という
関係にな
つております。それから第三の特徴と申しますか、それは大体において桑港條約の枠内において
両国の平和條約を結ばれたわけでありますけれども、サンフランシスコ條約に比較をいたしまして、更に
インドとの間においては
友好的な精神が相当強くこの條約を通じて現われております。その点はそれは各條を御
説明するときに言及いたしますが、例えば賠償の問題、
インドにおる財産を返還してくれるというような問題、或いは紛争解決のやり方というような問題、又そのほかの問題にしましても、互恵平等というような精神から相互主義にな
つておるような点がございます。それから第四番目のこの條約の特徴と申しますか、そういう点は、この條約の
締結に関しまして、
両国政府が
交渉を
はつきり始めましたのは昨年末からでございますが、諸般の経緯を経まして、最近にな
つて妥結する傾向にな
つて来た、でその際において、できれば
我が国のほうの
希望としましても、今
国会の会期中にでもできることならば調印、更にこれを
我が国の
国会において
承認を得て、批准交換というところまで成るべく行きたいという
希望を持
つておりまして、
インド側のほうとしても大体
意見が合
つておるのだから、それでは
一つ早くやることにしようということに同意をいたしまして、急いで
締結せられることに
なつた経緯がございます。そういうような
関係から、この條約の末文のところにその
関係が出ておりますけれども、この
交渉は英文で大体進めて参りましたので、英文のほうはできてお
つた、併し
日本文並びに
インド語による成文が間に合わなか
つた関係がございました。併しながら早く双方で固めてしまおうじやないかという双方の合意によりまして、英文だけで調印をしておる條約も国家間等の
関係では多数ございますが、差当り英文に調印をするということにいたしまして、今お手許にございます
日本文はその英文の校訂訳と言いますか、訳文の恰好にな
つております。併しながら
日本文による本文と
インド語による本文は、一ヵ月以内に双方で交換をいたしまして、そしてそれを成文とするということに合意がきま
つたわけであります。これもこの條約の
交渉経過並びに
両国の気持がそういうふうに向きましたので、急いでそういうふうな取極に
なつたという点でございます。大体以上のような四つの点が、特にこの條約を通じまして、あらかじめ申述べておきたいと思
つた点でございます。
さて前文から御
説明を申上げますが、前文には大した問題はございません。ただその二項のところにおきまして、先も言及いたしましたが、
国際連合憲章の原則に基いて双方が協力をするという
希望を持
つておりますので、この点を特に
はつきり明記したわけであります。
それから第一条、第一条は先ほどこれも御
説明をいたしましたように、この
条約、つ
まり戦争状態が済みましたあと、
戦争の跡始末だけではなくて、
両国間に堅固且つ永久の平和並びに
友好関係が存在するということを
両国において
はつきりここに合意したことを明記しようということにな
つて、この第一条が置かれることに
なつたわけであります。第二条以下は先ほど申しましたようなことでございますが、その第二条は、これは通商
関係に関する条項でございます。その第二条の(a)というところに、将来本格的な通商、航海
条約を
締結しようという趣旨を明らかにしまして、そのために
交渉を開始することに同意をするということを明記しておるわけであります。それから第二条の(b)、これはその本格的な通商、航海
条約ができるまでにおいて、何らか暫定的な規定を設けたい、これは大体そういうような趣旨のものがサンフランンスコ
条約の十二条にも規定せられておりまするし、それから
日華条約の議定書の後半にも同様の取極をしておりますが、
インドとの
関係においても大体サンフランシスコ
条約の例にならいまして、
インド政府と
日本国との間の
戦争状態を終結する告示を発した日、つ
まり去る四月二十八日でございますが、その日から四年間、以下のような取極で通商をや
つて行こうということに合意したわけであります。その(b)の(1)の点は、航空交通に関してでありますが、その航空交通について、これもサンフランシスコ
条約にも規定がございます。
独立の条文にな
つておりますが、ここでは
インドとの間に相互に最恵国待遇を与えるようにしようというような規定にな
つておる。結局こういうような書き方をいたしますと、若しも間もなく
インドとの間に、四年以内において航空協定、航空交通に関する協定ができますれば、それによる、若しもそれができなければ最恵国待遇を相互に与えるということになるわけであります。それから第二条の(b)の(2)のところでございますが、これは締約国は相互に最恵国待遇を与えようということを規定した
部分であります。この文章は比較的どうも読みにくいかと存じますが、要するにこの中で、この前半のところで、大体六つの事項について最恵国待遇を相互に与えるということを規定しておるわけであります。その
日本文も割合読みにくいので、それじや六つとはどこで切るのかということを今
ちよつと申上げてみたいと思いますが、第一は「関税及びすべての種類の課徴金」、これが第一の項目でございます。それから第二の項目が、「貨物の輸入及び輸出に関連する制限その他の規制」、これが第二の項目であります。それから第三の項目が「輸入若しくは輸出のための支払手段の
国際的移転に課せられる制限その他の規制」というのが第三の項目でございます。第四が「関税及び課徴金の徴収の方法」というのが第四の項目、第五の項目が「輸入及び輸出に関連するすべての規則及び方式」、第六がその次の「通関に際して課せられる課徴金」、そういう六つの事柄について相互に最恵国待遇を与えるということを規定しておるわけであります。その後半のところは、これは念のためにそれを繰返して申しただけのことであります。それから次の三項、(b)(3)のところは、これは内国民待遇を与える。その与え方は「
インドが内国民待遇を
日本国に与える限度において、内国民待遇を
インドにも与える。」ということを書いております。実は
インドが現在内国民待遇を外国に与えておりますところは殆んどない。我々が現在
承知しておりますのは、ネパール一国、小さなネパールという国が
インドの北にございますが、ネパール国だけは内国民待遇を与えておるということのようであります。そのほかには
インドは現在外国に内国民待遇を与えておらんということでありますし、又今後も果して内国民待遇を与えるかどうか、殊に
我が国に与えるかどうかはこれは
はつきりいたしません。が、とにかく
インドが内国民待遇を
日本に与えるということになれば、その限度において
日本も与えるという一種の念のための規定のようなわけであります。その次の項でございますが、それは、以上の最恵国待遇並びに内国民待遇というものを規定をしておる主としてこの(b)項の適用について例外を書いておるわけであります。その例外の第一は「通商
条約に通常規定されている例外に基くもの、」、これはその最恵国待遇、内国民待遇の例外と
考える。次の例外は「対外的財政状態若しくは
国際収支を保護する必要に基くもの」、これは諸般の為替
関係から生ずる措置であります。第三番目が「重大な安全上の利益を維持する必要に基くもの」、而もそれは「ほしいままな又は不合理な方法で適用されない」、そういう重大な安全上の利益を維持するための必要な措置というものも例外に
考えるということが明記されておるわけであります。次のところは「また、前記の(2)のいかなる規定も、千九百四十七年八月十五日前から存在し、又は
インドが隣接国に与えている特恵又は利益には適用しないものとする。」、この「千九百四十七年八月十五日」というのは、
インドが自治領に
なつた時でありますが、その以前からいわゆる
コンモンウエルス・カントリーの間にある特恵又は
インドが隣接国に与えておる利益というものはこれは適用しないと書いてあります。この件につきましては、その前段にあります「通商
条約に通常規定されている例外に基くもの、」ということを特にここに抜き出して書いたわけであります。
インドはエジプトだとか、オーストラリアだとか、スペインだとか、スウエーデンだとか、そういう国々の間との貿易協定においても、こういう特恵
関係或いは利益について除外をするということを書いておりますが、特に大体これを特記しなくても「通商
条約に通常規定されている例外に基くもの、」というところに入るという解釈でございますけれども、念のためにここに列挙をするということに合意をしたわけであります。なお、先ほど申上げました例外規定の三つの枠については、サンフランシスコ
条約の十二条にもそれと同様の規定がございまして、十二条の(b)でございますが、大体同様の規定がございます。
従つてこれもこういう例外規定を設けるということは、大体サンフランシスコ
条約には傚
つたものであり、その範囲で行
なつたものであります。それからCはただあとにある五条の
関係を留保して書いてあるだけであります。
次に三条に移りますが、三条はこれはサンフランシスコ
条約の九条に対応する規定でございまして、若しも
インドが
希望するならば、漁業の
関係についてその制限或いは保存、発展ということについて協定をしようという
両国の意思を書いたわけであります。漁業の
関係につきましては、
インドでは現在そういうような協定をしなければならんということを感じておらんようでありますけれども、念のためにこういうことを置こうではないかということで、これも一種の念のための規定でございます。
次に第四条に移りますが、この四条とそれから
一つ飛びました第六条、これは特にこのたびいろいろ
交渉をしました中で双方で大いに
考えた点であります。従来我々の
承知しておりますところでは、
インドは
我が国に対して賠償はとらないというようなことを新聞等も
インドの責任者のかたがたが発表しておりましたが、この
交渉に当
つても第六条の(a)に書いてありますように、最近
インドは賠償はとらんというような意向は相当
はつきりしておりまして、併しながらこの
インドにある
日本の財産をどうするかということについては必ずしも
はつきりしておらなか
つたわけでありますけれども、これは
交渉の結果、主として
我が国のほうの
希望なり主張というものが容れられまして、そこの第四条にありますように、
インドにあります
日本国又はその国民の財産並びに利益を現状において区返還し、回復するということに
インドが合意をしてくれたわけであります。特にこの点についてはネール首相が配慮をされたということも聞いております。
第五条は、これは
日本にあります
インドの財産或いは利益を返還するという規定でございますが、実は戦時中
日本にございました
インドの……、戦時中
我が国は
インドはその戦時中の大
部分において敵国扱いをしておりません、又敵国人扱いをしておらなか
つたのであります。
従つていろいろな戦時措置を受けておらなか
つたわけでありますけれども、英米その他の銀行等化預けてお
つたインド人の預金その他英米
関係なんかと混入して戦時措置を受けたものが若干ある趣きでありますが、大体この返還するという第五条の適用を受ける
インドの財産というものは極く少い範囲のものでございます。併しながら少いにしろ、とにかく
インドの
関係の財産は
日本側で返すということを
日本側で約束をしたわけでありまして、更にそれが損害若しくは損傷を受けている場合には、
我が国は連合国財産補償法というものの条件よりも不利でない条件で補償するということを約束したわけであります。この約束の結果、やはり恐らく今
国会で、従来ございまする連合国財産補償法を何らか修正をして頂きまして、
インドにも適用があるようにしてもらうということになると
考えております。
第六条は、これはサンフランシスコ
条約で申しますれば、十四条の賠償に関する規定に対応するものでありますが、この規定において
インドはサンフランシスコ
条約とは違
つて、
日本に対するすべての請求権を放棄するということをその第一項に申述べております。なお先に御
説明しました第四条で、
インドにある
日本の財産をすべて返すということになりておるわけでありまして、更にこの第六条の(b)においてその他の請求権を放棄しておりますので、十四条の
関係は、サンフランシスコ
条約の十四条の
関係は、
我が国に大変有利なふうに解決ができる建前に
なつたわけであります。
それから次の第七条は、これは戦時中
日本の裁判所が行
なつた裁判判決で再審しなければならんというようなものがある際には、再審ができるような必要な措置をとることを
日本が同意をしたということでございます。これも実は先ほど申上げましたように、
インド人は敵国人扱いにされておりませんので、こういうような再審をしなければならんというような必要は、我々の
承知しておる限り殆んどない模様でございますが、併しながら念のためにこれを置こうということで、サンフランシスコ
条約の十七条というものに倣いまして、ここに規定をすることに
なつたわけであります。
第八条の規定は、サンフランシスコ
条約の十八条に殆んど生き写しのような恰好でできた規定でございまして、
戦争状態の存在ということのために、戦前の債権債務というものが影響を及ぼさないということを相互に書いたわけであります。それから外債の
関係も、これも大体桑港
条約の
通り。それから(C)のところはサンフランシスコ
条約の規定よりは更にこれを双務的な書き方に改めているわけであります。
それから第九条は、これもサンフランシスコ
条約十九条の規定と殆んどそのままで、ただサンフランシスコ
条約の
関係から落ちておりますのは、ドイツの
関係が落ちているだけで、殆んどそのまま書いてあり、
戦争から生じた
日本の請求権というものを
日本が放棄するということであります。
それから第十条は、この
条約について何らか紛争が起きた際にはどういうふうに解決するかということでございます。サンフランシスコ
条約の二十二条では、司法裁判所に持
つて行くような規定にな
つておりますけれども、
インドとの
関係においては、この十条の規定の
通りに、できるだけ双方の協議によ
つて解決しよう、併しながら六ヵ月以上もかか
つてまだ何ともならんというときには、更に相談の結果
考える方法によ
つて、仲裁によ
つて片付けようということで、これも
友好の精神から出たわけであります。
それから十一条批准の規定であります。それから末文のところは、最初に御
説明申上げましたように、このたびの
条約を成るべく本
国会会期中に取運びたいという当方の意向に
インドも賛成しまして、こういうような便法をとることにしたわけであります。
なお以上御
説明いたしました十一条のほかに、ここでは
交換公文が
一つ附いております。その
交換公文は、先に御
説明をいたしました第二条の末段のところに書きました
インドが
コンモンウエルス・カントリーに対して与えている特恵並びに利益というものを二条のところで書いておりますが、将来そういうようなものを又設けるかも知らん。而もそれを第三国に及ぼす際には、
日本にもそれを及ぼすことにするという
了解の下に、将来もそういうようなことが起るならば
日本はこれを認めるという規定であります。なお申添えますが、この将来と申しましても、この通商
関係についての取極は、先ほども申上げましたように、四年間が限度でありまして、而もそれは四年を待たずして、できるだけ早く双方が本格的の通商
条約を
締結したいという
希望を持
つておりますので、恐らく四年を出でずして本格的のものができる。そうすれば第二条並びに
交換公文の
関係は、更に本格的な通商
条約の中で再検討されて取入れられるということになるわけでございます。
以上を以て、簡単でございますが、逐条の
説明に代えます。