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羽仁五郎君 只今
政府側からの御答弁を伺
つて、残念ながらますますその衝に当られるかたの認識がそういうところにあるとすれば、法はいよいよ嚴格でなければならないということを全体として痛感ずるのであります。第一に、証拠主義……、証拠主義を覆しているのではないかということの質問に対して、例えば取調べをするということは自由を拘束することでもなく、いわんや刑でもない、
従つて該当すると思料する人に対して取調べをしてもよろしいというお考えですが、その際に立法者としては、行政官としては、或いはそういうことをお考えにならないかも知れませんが、立法者として考えなければならないことは
二つあると思います。一つはそれが
日本の現在の行政
関係の有史のレベルにおいて濫用される慮れがないか、こういう場合には、これを法で許すということは躊躇すべきではないだろうか。御承知のように、これは残念ながら今までの
日本の行政官吏のレベルというものにおいては、これがしばしば濫用される。これが第一の点。それから第二の点は、特にこれは対象の主なるものは
外国人であるということです。我々
日本国民としても、こういう面における行政権の行き過ぎというものがしばしば問題を起しておる。それでこれは政務次官も又
管理庁長官も御自身が尾行をされる、調査をされるということは決して愉快なことではないと信じます。そしてそれが人権を尊重するゆえんだなんていうふうにさつきはおつしや
つておつた、同じ観念においておつしや
つておりましたが、とんでもないお考えであります。いわんや
外国人です。そこで現実において、今までこれは
入国管理庁長官も報告を受けておいでになると思いますけれども、今までこういう問題についてさまざまな事件が発生しているだろうと思います。私も、聞き及んでおります。そこで新聞などを通じて我々が心を痛めておつたのも、例えばパスポートを常時携帶していなければならない。これが
日本の官吏のレベルが高い場合にはそう問題も起らない。現にイギリスなり何なりじやそう問題は起らない。たまたま散歩に出て持
つておらなくても自宅に持
つているということで解決するのです。
日本の場合には散歩に出て直ちに持
つていないという
理由でこれを疑うに足る十分な
理由があるということに持
つて来る。そして直ちにこの人の自由を拘束するということが起
つて来る。そういう事件が一つでも
二つでもあるということになると、
一般に與える不安というものが大きくなる。こういう点を
政府としては、そういうような間違いは今まで一つもなかつたというふうに立証されるならば、我々も満足することができると思うのですが、残念ながらそうでないのです。ですから、さつきおつしやつたように、單に形式的にこれは刑罰にもあらず又自由を拘束することにもならないというお考えだけでなく、もう一歩どうか深くお考え下す
つて、そうして今申上げたような点で、殊に
外国人との間に
日本はやつぱりまだ野蠻国だという感じが起らないように努力して頂くことが望ましいと思うのであります。
それから第二の点でありますが、これは
簡單に
政府のおつしやることに承服するわけに行かないのであります。と申しますのは、成るほどこれは
日本の警察が余りレベルが高くないということをお認めに
なつたといたしましても、
入国警備官、
入国審査官というのはこれは具体的に端的に申上げると、いずれも
入国管理庁長官の補佐だろうと思います。それで
入国管理庁長官が右の手で警備官を持ち、左の手で審査官を持
つております。ですからこれは、いわゆる三権分立の
原則というものを今改めてお説教申上げることは失礼ですから略しますけれども、やはりこれはその意味において問題がある。いわんや、
外国人に向
つて発動するのですから、さつきの御
説明は誠に有難く拜聽いたしましたが、過去のようなことを繰返したくない。最近も関西方面でインドネシアの婦人のかたが、万引をしたのではないかという疑いで、男の人の見ている前でスカートをまくり上げ、靴下をまく
つて問題に
なつた。このかたは、疑えば或いはそういう常習のかたであるかも知れないということもある。併し常習のかたであるから、そういうことをや
つてもいいというお考えはまさかないと思う。これは「
日本タイムス」なり何なりを通じて国際的にも知られることだし、我々も読んで心を痛めたことも御了解下さるたろうと思う。ですからさつきの御
説明の程度でなく、もう少しお答え願いたいと思うのです。それから思想の自由についても、よく引かれる例で恐縮ですが、治安維持法というものは元来思想の自由を取締るものではない、それだけの面から見ればそうではなかつた。ところが御承知のように、美濃部先生なり河合榮次郎先生に対する圧迫というものが加わ
つて来る。これは何か偶然だつたということなら、私もちつとも心配しませんけれども、併しそういう必然性があるのではないか。又必然性がないということは断言できることではないと思うが、いわんやこれが
外国人に向
つてなされるということである。
日本の
政府で雇う人である場合でもいささか問題に法的にはなります。それが、いわんや
日本に出入し、或いは
日本に多少長い間住もうとしている人に
関係して来る。要するに、
外国人ですから……
外国人に対してこういうことをするということは、お答えの先に言うと恐縮正ですけれども、アメリカでや
つてますけれども、アメリカでや
つているが、国際的になかなか非難があるということである。そういう点でもう一点、單に形式的の御答弁では安心することはできないと思うのです。それから
入国者につきましてもこれは同様であります、困ることはあるのです。併し困ることがあるからとい
つて、その
法律のほうで何も困らないようにやろうという結果、民主主義の
原則の法を崩して行くということはお考えになるべきだと思うのです。
最後に指紋の点でありますが、観光客にはしない、そして多少長く
日本に
居住されるかたに対してする。そうすると、これは論理を裏返せば、
日本を愛し、
日本に暫らく
居住しようとする人に対しては、却て失礼なことをしなきやならんようにな
つて来る。さつき
管理庁長官は、指紋をとるということは人権を尊重するゆえんだ、
日本では昔からや
つておるということでありましたが、どういう理論上の根拠に基いてそういうことをおつしやるのか、無学にして私は了解に苦しみますが、そういう理論上の根拠があるならば教えて頂きたいと思います。それで、さつきの例を又繰返すようなことはいたしませんが、或る意味において
日本を愛し、
日本に
居住しようとする人が、
日本人よりもひどい待遇を受けるということを、私はどうも納得することができない。我々
日本国民自身は、さつきのお話では、戸籍があるからいいというのですけれども、併し戸籍がない、例えは
日本に随分長くおられ、
日本を愛し或いは
日本で骨を埋めようとされておる文化上、或いは音楽上、或いは学問上、立派なかたがおられる。そういうかたの指紋をとるというようなことは、私はどうも
政府においても忍びないことじやないかと思うのです。先頃、東京都では、古本を売りに来る人の指紋をとろうというふうに警視庁でや
つて、古本屋さんのほうでは、こんなことはできることではない、それによ
つて得るところの実益と、それによ
つて失うところのものと均衡を失しているということで、沙汰止みに
なつたこともあります。そういう点でもう少し深くお考えを願いたいと思います。それで犯罪者扱いするのではないというお言葉の下から、パスポートの灘用或いは僞造ですか、パスポートの僞造という惡意を予想しておられることは事実です。惡意のある人はどんなふうに
法律を作つた
つて、惡意は
法律を潜るのです。それで惡意のある人を潜らせないように
法律を嚴格にやると、ひつかかる人は皆善意の人なんです。これは理論上もしよつちゆう言うように、惡意のあるマイノリテイというものに対して人権を侵すような
法律を作ると、必ずそれは善意のあるマジヨリテイの人権を侵すということになることは、民主主義の上で忘れてはならない
原則です。ですから、この点についても私は、只今の御
説明で納得することのできないことを非常に遺憾に思うのです。それから
日本人が
外国でこういう
取扱を受ける虞れはないとおつしやいますけれども、あります。現にあります。又やられておる。それを我々としては今後打破する努力をして行かなければならない。
以上、いずれの点についても、
政府の御答弁は納得することができないのですが、
最後の点は、本日政務次官が私或いはその他の場合でしたかのお答えの中におつしや
つておられた言葉の中に、朝鮮のかたや中国のかた、或いは中国の中の台湾のかたというようなものの善良なかたがたに対しては、というお言葉がありました。これもやはり実は重大な問題でして、これは單に言葉ならいいのですけれども、併し近代の民主主義の法の根本の
原則の一つとして天使のための法というものもないし、惡魔のための法というものもないのだという有名な格言があります。それで、これはこの点においても、
日本に
入国し又は
日本に
居住されようとする人に、善意の人と惡意の人と分ける考えがあ
つて立法をするということは、やはり近代の民主主義の法の根本
原則を覆すということになります。ですから、さつきも申上げましたように、そういう
法律を作りますと、少数の惡意のある人は平気でそれを潜
つてしまうのです。そうして、多数の善意のあるかたが非常な不愉快な感じを抱かれるということになるのでして、その点について、これは
最後の点でありますが、一つ十分のお答えを頂戴しなければならないと思うのであります。