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法制局参事(
岸田實君) いわゆる普通に
営業権といわれておりますものは、経済的にこれを申しますと、
企業収益から換算いたしました
企業価値とでも申しますか、
企業価値から有形資産の価値を控除いたしました残りのものを無形資産価値といたしまして、それを包括して
営業権というような名称で実際の取引におきましては取引の対価の中に織込まれておるわけでございます。両法の
営業譲渡の観念の中には、
只今申しましたような
営業を行うべき地位並びにいわゆる物権的なものでない事実上の要素も
営業権というような名称で取扱われるということを前提にいたしまして
規定いたしておるわけでございますが、併しこれは物とか或いは現在の既存の
法律観念におきまする
権利と称し得るものであるかどうかという点は非常に疑わしいのでございまして、通説は、これは事実上の取引上の利益のある要素であ
つて、
権利ではないということを言
つておるわけでございます。元来
財団は
抵当権を
設定いたす
目的のために作るものでございますが、
抵当権はその
性質上その対象となるべきものが特定されておる必要があるわけでございます。その対象によりまして優先的に弁済を受けるということになるわけでございますし、その第三者に対しましては排他的な
権限を持つものでございますから、その
内容が具体的に特定され、比較的安定性のある
権利であることを必要の
要件といたしておるわけでございます。
財団制度は、既存の民法の
抵当権が
不動産にその対象を限定いたしておりましたのに対しまして、その
範囲を拡大いたしまして動産をも含み、又物権的な色彩の強い賃借権というような債権まで含んでおるわけでございます。併し、
抵当権が本来求めております
原則は依然としてこれを踏襲する必要があるという
建前で従前の各種の
財団制度はできておるわけでございます。従いまして
只今申上げましたような事実上の要素であり、又その
内容が如何なるものによ
つて構成されるか不安定のものであり、将来の
経営の
方針の如何によりましては変動する可能性もある
営業権というものをこの
組成物件の中に入れるということは適当ではないのではないかというので、業界などにおいてはそういう要望もあつたという話も伺
つておりますけれども、従前の
財団制度を参酌いたしまして
組成物件から除外いたしたわけでございます。併しながらこの
法律では、先ほども申上げましたように十八條によりまして当然
免許の
承継という
建前をと
つておりますので、結局この
財団が
競落されますとその
事業が
競落人に移ることになります。そこで、その点から
営業権的要素はこの
財団の中に背後に取入れられておるという恰好になりまして、
従つて工場抵当法の場合よりはこの
法律による
財団の価値というものは、
只今申上げました
営業権的な要素をも含めた、生きて活動している
企業自体を
担保の対象にしたような効果を生んで参るのではないか、それだけ
担保価値も高ま
つて来るのではないかというふうに考えられるわけでございまして、結論としては、
組成物件に明確に
規定いたさなくても、
営業権的要素はこの
法律においては考慮されておるということが言えるのではないかと考えておるわけでございます。