○重枝
公述人 私は総同盟の
中央執行員をいたしております重枝琢己でございます。労働
関係調整法の一部
改正、あるいは
地方公営企業労働関係法案、あるいは
労働基準法の一部
改正案、こういう問題につきまして私の見解を述べまして、議員の皆様の善処方をお願いしたいと思うわけでございます。
まず総括的な点を申し上げますならば、本来労働
関係の諸法令の
改正、これを再検討するということにつきましては、占領時代の行き過ぎあるいは不備な点、こういうようなものを補うことを目的として始められたはずでありますけれども、それがいつの間にか、政府や資本家の反動的な労働者抑圧の意図を法制化するというような方向に進んで来たということについてはわれわれはきわめて遺憾に
考えているわけであります。このようなことがもし進みますならば、労働者を中心とするところの
国民の政府に対する反感、不信というものがいよいよ強くなりまして、国内不安も醸成され、国際的な信用という点につきましても非常にゆゆしい
事態を招来いたしまして、平和的な、民主的な日本として、われわれが日本を建設しようということを内外に公約しているのでありますけれども、こういう日本に対して非常に暗い影を投げているようなことになる、こういうふうに
考えます。
第二に労調法あるいは
労働組合法について見ますならば本来整備して行かなければならない多くの点がありますが、こういうような点を見送
つてしまいまして、反動的な取締法に化してしまう。こういうような傾向を明らかにしていることは、われわれの了承できないことであります。
第三に、こういうような法令の
改正という場合には、本来ならば積極的に労働基本権を伸張させ、あるいは労働者の自主的な組織を強化し、その反面非常にむちやなことをやる資本家をよく指導してもら
つて、その上に正当な
労使関係を築き上げる。こういうような
立場で日本の政治的な、経済的な自立を達成する方策がとらるべきであるかように
考えるわけであります。また政府は、提案
趣旨の中で、いろいろ答申案は審議会の
意見を十分参酌しているとか、あるいは
公益委員の
意見を尊重していると述べておりますけれども、これは必ずしも真実でなくて、自分の方に都合のいい点については非常に採用してありますけれども、その他の点についてはことさら目をおお
つているという点があるので、われわれはこの点について遺憾に思うわけであります。そういう総括的な感じを抱くのであります。
そこで個別の問題に入りまして、労働
関係調整法について申し上げますならば、二つの点について重大な反対を申し述べたいと思
つております。第一点は十八条の
改正でありますが、これは現在もその三号に、
労働委員会に提訴がされた場合に、
調停を行う必要があるというふうに
労働委員会が決議したときに
調停を始めるということにな
つておりますが、この項を削除して、当事者の努力が不十分な場合には申請を却下する、その場合には申請なかりしものとみなす、こういうふうに
改正しておりますが、これは事第十八条の第三号について
考えますならば、
言葉をかえただけであ
つて、同じことである。
従つてことさらにこういうような刺激的な方法をとる必要はない、こういう
意味で反対をするわけであります。また第二の点について
考えますならば、本来これは第十八条一号二号について問題があると思いますけれども、これは
現行法によ
つても十分
処理できるわけでありまして、むしろ
労使間の自主的な交渉による問題の
解決、それに対する意欲と
責任感というものを助長することによ
つて、初めて問題の本質が
解決されるものである。こういうふうに
考えるのであります。第三の問題点は、
労働委員会がこういうことをやることになりますと、勢い官僚的な運営、官僚的な介入ということになりまして、かえ
つて問題の
解決を遅らせることになると思われますので、十八条については、現行で十分
処理できる。
改正の必要なしというふうに
考えます。
第二は
緊急調整の問題でありますが、この点につきましても、
改正案にあります三十五条の二、三、四、あるいは三十八条の
規定、こういうものは不要であり、現行の十八条あるいは三十七条を完全に運用するならば、十分に目的が達成される。こういうふうに
考えます。特に
労働大臣の
緊急調整決定権、あるいは
緊急調整決定後に五十日間
争議行為を禁止する。こういうことは事実上の
争議禁止ということを各産業にわた
つて行い得るところの権限を
労働大臣に与えることにな
つて、このことから、労働
関係の諸問題についての行政的な介入と、
労働委員会が政府機関に隷属するという危険をもたらすものになるわけであります。さらにこの問題につきましては、審議会において
公益側の
委員が一致して主張されましたところの、
総理大臣に
緊急調整の請求権を置き、それを
労働委員会が審議をして、
公益委員五名を含む過半数の
決定によ
つて初めてそれを始めるという、こういう慎重な案を踏みにじ
つて、一方的にこういう案を出しておる。これはまつたく不要なことであるわけであります。われわれは以上のようなことから
考えまして、
緊急調整については、十八条の
改正、三十五条の二、三、四、三十八条というものはまつたく不要であり、これをあえて
改正しようとする態度はどうも納得が行かない。それは労働
関係の自主的な
解決と、
責任のある
労使の行動、あるいは
労働委員会の眞摯な努力、こういうものを信頼せずに、思うままに政府が干渉して取締りをしよう、こういう基本的な意図が見られる。これはまさに逆行であ
つて、戦前の
状態に帰るということさえ
考えられるので、こういう点については絶対に反対するものであります。
公務員
関係につきましては、
労働関係法令審議
委員会におきましては、
公益側の
委員の一致した見解としまして、原則として全部に労働基本三権を認める、それから少くとも
現業の
関係の人たちにつきましては、
争議権を認めるということが一貫して主張されておつたのであります。われわれはこういうような
公益側の妥当な主張に基きまして、公務員
関係の諸法令が立てらるべきだと
考えますので、そういう線に沿
つて、
委員の
各位が公企労法あるいは
地方公労法その他について、十分なる修正をや
つていただきたい、こういうことをお願いするわけであります。
また
労働組合法につきましては、先ほども申しましたように、検討がなお不十分であるように
考えます。特に次の四点について
考慮を払
つていただきたい。第一点は、
労働委員会の
委員の選任は職権委嘱でなくて、やはり旧法においてとられておりましたように、推薦
制度とすることがきわめて
実情に合つた形になる、こういうようにしていただきたい。第二は、不当労働行為に対するある程度の整理はできましたけれども、これに対する罰則がきわめて軽い。こういうことでは、罰則をあえて顧みず、そういうことをやることもあり得るわけでありますので、この点をさらに強くする。第三は、不当労働行為が
労働委員会で審問されるということになりますれば、たとえば首を切られた者、その他そういう不利益を受けた者は、一応かりに原職に復帰させて、その上でそういうものをや
つて行く、こういうことにして行かなければ、最も被害を受けておる者は労働者でありまして、
労働委員会の審問の期間中の生活のかてを得る方法がないわけでありますので、そういう方法をとらるべきであろうと思うわけであります。第四点は、
労働組合の資格
審査のいろいろな
規定がありますけれども、これを十分に簡素化する、こういうことをや
つていただきたい。これは答申案の中にも確かにあつたというふうに
考えますので、この点はぜひや
つていただきたいと
考えます。
最後に
労働基準法関係について三点だけ述べたいと思います。その第一点は、女子の時間外労働の問題でありますが、現在の六十一条に但書を加えてこれを緩和しようというような意図がございますが、もしこれが許されますならば、極端な場合には、女子は連続六日間、毎日二時間の残業が合法的に行われるということになりまして、本来の
労働基準法が目的としておりますところの女子労働の保護ということと、はなはだしく背馳することになりますので、この点は現行
通りにしていただきたい。
第二点は、女子の深夜業の問題でありますが、これを
中央労働
基準審議会の議を経て、命令で定めることによ
つて緩和しようとするものであります。この点につきましても、本来命令にそういうような大きな権限を与えるということは、非常な誤りを生むもとになるわけでありまして、そういうようなことを命令にゆだぬべきではない。第二に、従来労働
基準審議会はこういうような緩和
規定についてきわめて寛大と申しますか、非常にルーズであ
つて、そういう審議
委員会で認められた現行の
労働基準法が骨拔きになるといつた点が多々あつたわけでありますので、こういう点から
考えましても、こういう
規定を認めますならば、女子の深夜業禁止というものは文字
通り骨拔きにな
つてしまうというふうに
考えられるので、この点については強く反対いたします。
第三点は、炭鉱鉱山における年少者の就労の制限を緩和する
規定でございますが、これは第七十条第二項に、技能者養成の
規定として入るようにな
つております。これは結局は
基準法の六十四条、十八才未満の就労禁止ということを命令によ
つて骨抜きにする結果になるわけでありまして、今度の
労働基準法の
改正の中での最大の改悪であるというふうにわれわれは
考えまして、絶対に反対するものでございます。元来この六十四条というのは、
基準法の中できわめて進歩的な
規定でありまして、それによ
つて鉱山の労働者は従来非常にこうむ
つておりました肉体的、精神的な重圧から幾分でも緩和されて、自分たちの将来に大きな希望を持つことができるようにようやくな
つておつたわけでありますが、この
状況を緩和しようとすることになれば、これはまつたくの逆コースでありまして、本来資本主義的な政策から派生して参りますところの、いろいろな弊害から労働者を守るということを建前にしております
労働基準法の根本的な精神にもとるものである。同時に、国際的な信頼感を、
労働基準法の改悪というものの中から失うという重大な結果にな
つて来ると思います。この点はきわめて重大でありますので、若干その
理由をつけ加えさせていただきたいと思います。
第一は、政府はILOの炭鉱
委員会の決議があるからということで、それを援用して、こういうことをやるのは妥当だというふうに
規定しております。しかしながらこれはまつたく悪質な詭弁を詳しいおることになると思うのであります。その
理由は、ILOの石炭
委員会が年少労働者の技能養成をもちろん討議しておりますけれども、それはどういう観点からかと申しますと、年少労働者をどういうふうにして保護するかということを基礎において
考えておるわけであります。そして職業指導、職業輔導、健康診断、夜間労働、休憩時間及び休暇、社会保障、あるいは監督
制度、社会福祉、こういうような十一項にも上る総合的な問題の
一つとしてその問題を検討しておる。
従つてその中の
一つをピツクアツプしてやるべき問題ではないのであります。しかも今あげましたいろいろの問題は、一般の鉱山労働者に対する施設と密接な
関係がある。こういうものの全然不十分な日本におきまして、しかも他の項目と切離して技能者養成の名のもとに年少者の雇用を認めようとすることは、石炭
委員会自体の討議の
趣旨からはなはだしくはずれたものであるといわなければならぬのであります。それからILOの討議は、本年の総会において一般討議が行われ、第二次討議が必要であるということにな
つて来年の総会において第二次討議が行われる。その
決定によ
つてようやく条約または勧告ということになるのでありますけれども、しかもそういう条約、勧告ができましても、ILOの憲章には、はつきりとそういうような条約、勧告を
理由にしてその国の労働者の有利な
条件を引下げることはできないということを明瞭に書いておるのでございます。こういうことでありますから、石炭
委員会の決議を
理由にして政府が改悪をやろうということは
理由のないことになるわけであります。また政府はILOに対する正式な復帰の際に、ILOの憲章を十分に守りますということを、
国民を代表して内外に宣言しておる。ところが今申し上げますように、石炭
委員会の討議を不当に援用して
労働基準法の改悪というものを既定の事実にしようというふうに
考えておりますが、こういう態度は最も悪質な不信行為であると
考えます。
従つて当然そういうような点は国会において是正すべきであると
考えるのであります。第二の反対
理由は、御
承知のように勝山の坑内は高温多湿、あるいは空気か悪く、有害な粉塵が多く、そしてまつ暗でありまして、非常に各種の危険か多いのであります。
従つて成年者といえども肉体的、精神的に大きな負担を負
つて労働しておる。また労働そのものが重労働で、非常に体力の消耗も大きいのであります。そのことは必然的に非常に高い災害率、あるいは罹病率、珪肺とか、炭肺とかいう特殊な職業病、あるいは身体が奇型にな
つて来るところの特殊な
一つの奇型、そういうようなものが出て来ております。また死亡率も非常に多いし、坑内へ入
つております者の平均年齢も非常に低いのであります。こういうところに端的に現れて来ておる。か
つて政府の高官か某炭坑に入りまして、炭坑というところは非常に寒気のよいところだということを言つた事例がございますけれども、それは日本で最も設備の完備した炭坑の、しかも実際に作業をしている所からは数キロ離れましたところの、炭坑のほんの入口の所に連れて行
つてもら
つて、そういう感を漏らしたというにすぎないのであります。その点は十分御認識を願いたいと思うのであります。諸外国におきましては、こういうような特殊な
条件に対して、いろいろの施設及び対策を立てております。ところがそういうものが全然備わ
つていない日本、しかも自然的な
条件としても、非常に日本の炭鉱の
条件は悪いのでありますが、そういうようなところでこういうことをやるということの弊害は、火を見るよりも明らかであろうと思うのであります。
労働大臣は、先般の
委員会の質問に対するお答えであつたかと思いますけれども、英国では坑内労働は十六才から認められているということで、あたかも世界の各国が十六才以上を認めているというような答弁をしておられます。
労働大臣が
実情を御存じないのならばいたし方がございませんけれども、もし
実情を御存じの上でそういうことを言
つておられるとすれば、これは重大な不信行為があると思います。と申しますのは、米国、濠州、カナダ、トルコ、アルゼンチン、チリー、フインランド、ルーマニア、ユーゴ、フランス、ポーランド、こういうようなところでは十八才未満の坑内就労を忌避しているのであります。特にブラジルにおいては二十一才というような制限
規定があるのであります。また英国の例を引いておられますけれども、英国における事情というものは、御
承知のように社会保障
制度が十分に完備した優秀な国であるということを
考えていただいて、それと日本と十分比較していただきたい、こういうふうに思うのであります。
それから第三番目の
理由は、厳格な
条件を付して技能者養成をするならいいではないかというふうに言
つておられますけれども、技能者養成というのは、これは第七十条に
規定してありますが、「長期の教習を必要とする特定の技能者を労働の過程において養成する」とはつきり書いてありますけれども、坑内の労働の過程において養成するということになれば、どういうことになるでありましようか。それは先ほどから私がるる述べておりますところの、きわめて悪
条件の中で労働をさせるということになる以外にはないのであります。こういう点が地上の労働と著しく異
なつたところでありますので、こういう点は十分
委員の
皆さんにお
考え願いたい。一般労働と何らかわるところがないわけであります。
従つてそれをやらせなければ技能者養成にはならない、こういうジレンマに落ち入ると思いますので、結局それを認めるということになれば、一般労働に十八才未満の者の就労を許すということの第一段階にしかなり得ないと思うのであります。
次に第四番目の
理由は、政府は年少者の就職の機会ということについて問題を提起しておられますけれども、これは別個の観点から政府の社会政策、政府の施策としてやられるべきことであ
つて、それをこういうような弊害の多い問題と肩がわりをするということは、本来間
違つている。同時に技能者養成によ
つて吸収し得るそういう未就労の青少年の数も、おのずから限定されていると思うのであります。
第五番目に、そういうような情勢であるにもかかわらず、この制限緩和を強行しようというのは、結局はどういうねらいかとわれわれ
考えるならば、低
賃金の年少者を雇用してやろうという、非常に悪辣な方法を
考えておるとしか、われわれは想像することができないのであります。これはおそらく議員の皆様の良識をも
つてしても、私はそうだろうと思います。
それから第六番目に、政府は、
労働基準法についての答申案は、
中央労働
基準審議会で満場一致で
決定され、全部一致して賛成をしておるのだということを盛んに各方面に述べられておりますけれども、しかしながらそれは大きな誤りでありまして、それは
関係の
委員も出ておりましたけれども、それは
関係の
委員の個人的な見解にしかすぎないわけでありまして、今日炭鉱や金属鉱山の
労働組合が、こぞ
つてこの坑内就労の制限緩和に反対しておる事実を十分見ていただきたい、全国の鉱山労働者の声を直接国会は聞いて、この問題について善処していただかなければならないというふうに
考えます。
第七番目に、最後の
理由でありますが、政府のいうところの技能者養成ということは、現在の法規のままでも十分にそのことは行い得る。十八才未満の就労を禁止してお
つても、十分それまでにいろいろな方法でこの問題がなされ得るということを私は申し上げたいと思います。でありますから何ら危惧される必要はないのであります。
以上のような事情を申し上げまして、非常な劣悪な労働
条件のもとで、保護施設も少く、また文化施設も非常に少い鉱山で生産に従事しておる鉱山労働者の保護ということを、むしろ別な観点から立てていただきたい、こういう点を特にお願いいたしまして私の
公述を終ります。