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吉武国務大臣 去る十二日及び十八日に行われました
ストの
関係について、
状況を御報告申し上げておきたいと思います。
実は御
承知のように今回
政府が
提案をいたしました
破防法につきまして、これはたびたび
法務総裁からも申しておりまするごとく、今回のこの
法律は
極左極右の極端な
暴力主義的破壊活動を防止しようというのが自的でございまして、
法案の
内容をごらんいただきましても、
暴力とは一切の
暴力をさしているのではございませんで、
暴力の中でも
内乱罪を構成するもの、それから
騒擾罪を構成するもの、それから
殺人、
放火、
汽車の
転覆、それから
爆薬物の使用、それから凶器をも
つて公務執行を妨害する、これらの極端な極刑に処せらるべき
暴力をあげまして、この
暴力をあえて行おうとする
団体に対する
規則が書かれているのであります。世間的に
暴力主義的破壊活動防止というと、一切の
暴行脅迫までみな含まれているような印象を受けるのでありますが、そうではないのであります。従いまして今日の
労働組合で、御
承知のように総同盟にいたしましても
総評にいたしましても、そういう
内乱をあえて行う、あるいは
殺人や
放火をあえて行う、
爆薬物を
使つてあえて
労働運動を行うということは、想像さえできないし、またや
つてもいないのであります。
従つてわれわれはこの
法律が今日の正常なる
労働組合に
適用にな
つて、これが
ために
制限あるいは
抑圧を受けるとは、実は夢にも
思つていないわけであります。
ところが
組合の方から
考えますと、多少私は
誤解があ
つたと思う。それはか
つて団規法をやるのだということで、一切の
団体が
規則を受けるのだということで、昨年末以来輿論として出て来ておりました
ために、
組合側はそのときからすでにごの
団規法に
反対するという
考え方で進んだ。途中この
法律の
内容が切りかえられたということにあまり気がついていない。切りかえられたということは全然気がつかぬわけでもないでしようが、そういうふうに性格がかわ
つたという認識が、私は欠けていた
ための
誤解があ
つたと思うのであります。そこで
組合側はたいへん
心配をいたしまして、これはたいへんだ、健全な
労働組合がこれによ
つて抑圧を受けるのじやないかということで、
政府が
提案をする前に十二日の
スト、十八日の
ストを
決定したのであります。そこで私は、これは
組合の
誤解である。われわれは
組合を
抑圧する
考えはないし、もしそういう
法律であれば、私
労働大臣としてもこれに対して
異議をとなえるべきでありますが、そういう案でない。そこで私が
説明いたしましたのでは、
主務大臣でございませんから、
組合も
納得しないでありましようと
思つて、
法務総裁に話しまして、一度ぼくのところへ来て
組合の
幹部にあなたの真意を話していただきたい。そうして
組合側がどういう点で
反対しているか、その
意見も聞いてみようじやないかということで、四月五日の十一時でございましたが、私の
部屋に
総評の
幹部、
法務総裁を呼びまして、
説明をさしたのであります。これは当時新聞に出ている
通りであります。
その当時
木村法務総裁が
法案の
説明をされると同時に、か
つての
治安維持法とどう違うかを
説明されました。それは
法務府でも
相当検討をしておるのでありまして、私も当時そばで聞いておりまして、なるほどよく勉強しているなと思いました。か
つての
治安維持法は、いわゆる国体の変革もしくは
私有財産制の否認という
思想を
対象にしての
治安維持法であ
つて、
従つて思想を
取締ろうとするところに非常な無理と、実際の
適用に幅が出て来たのでありますが、その点を今度の
破防法においては
十分検討をしております。たとえて申しますると、
暴行脅迫も今度の
法律の中で
規制の
対象にするということは、必要からいえば必要だ、ところがもしそれを入れるというと、
組合運動で
暴行脅迫的なことは往々ありがちである。それが
ために健全な
労働組合がこれでひつかけられるといこうとがあ
つてはならぬという
心配から、そういう
暴行脅迫的なものは一切除いて、先ほど申しましたように明らかに重罪に処せられる
内乱とか、
殺人とか、
放火とか、
汽車の
転覆、こういうふうな露骨な
事項だけを
拾つて、それをあえて行おうとする
団体を
規制した。つまり
思想にあらずして、
はつきりした
行動、
行為というものを
対象にしているというこれは一例でございます。そういうふうに非常に
検討を加えておる点を
説明いたしまして、私の見たところでは、
組合側も、なるほどそういう点を
考えているかなと、ある程度は理解があ
つたと思うのであります。しかし
組合側はそのときは、今
説明を聞いたけ
ども、われわれは
十分納得ができない、われわれはこの
法案を撤回してほしいと言い、そうしてそのときに、どうしてわれわれはこの
法律に
反対をしているかという点をいろいろ指摘されて、
反対をされてお
つたのであります。そこで私はその後
考えまして、こういう
法律というものについて
組合が
ストライキで対抗するということは、これは
民主政治としておもしろくない。こういうものは
国会で
論議されるべきものであ
つて、
ストライキというものは
労働者の
労働條件に直接
関係があ
つて、初めて憲法が保障しているのだから、そういうものはひとつ自制をしたらどうかと再三申し上げましたけれ
ども、なかなか聞き入れられる様子もない。このままほ
つておくならば、いい悪いは別として十二日に
ストライキに入る。私といたしましても、
独立を目前に控えておるときに、
日本でこういう
法律に対して
反対をして
ストライキが行われるということは、国際的に見ても非常に影響するところが多いし、
総評という健全なる
組合の名においてもはなはだ芳ばしくないものと思いまして、それならば
心配がある点は
政府としてもできるだけ除去するに努めようじやないか、
法律には
はつきり書いてあり、また
法律の精神がそういう
組合を
対象にして
規制しようとするものでないことは明瞭でございますけれ
ども、なおそれ以上に
政府として
努力をして、
修正すぺものは
修正したらどうかということで、
ちようど四月十一日の
閣議でございます。私は
三つの項目を指摘いたしまして、
閣議の
了解を得たのであります。
その
一つは、この
法律は
労働組合の正当な
行為を
制限し、またはこれに介入するように
適用するようなことがあ
つてはならぬということを
法文に
はつきり書こう。そうしてなおこの
法律の
規制の
対象についても、不必要に
危惧の念を與えるような点は
検討しよう。それから第二に、この
法律に基く
行政処分の違法なものに対する
救済的な
処置について考慮しよう。第三は、この
法律の
公安審査委員会の
委員は、
労働組合その他
各界の
代表をも
つて組織しよう。この
三つを
閣議にかけまして、当時
閣議におきましても、それではこの
三つの
事項について
修正するとい
つて、
組合側は
ストライキをやるかという質問がございましたが、私はそれはわからない。これは
組合と
相談したわけじやございません。世間ではいろいろと、
組合の
幹部と
会つただろうといわれますが、私は
会つた覚えはないです。四月五日に
労働省の
労働大臣室で
木村法務総裁と
会つただけであります。しかし私はその当時の
国会側の空気を察しまして、
心配をしているようだから、不必要に
心配する点は除去することが、
政府のとるべき
態度であると信じましたから、この
三つの
事項を私は十一日の
閣議にぶつつけて、
了解を得たのであります。
そこで十一日にこの
三つの
事項について
修正するということを
声明をいたしまして、公表を
官房長官がいたしました。その後
組合の
出方を見ておりましたところ、発表と同時に
総評の高野君から、
政府はただいま
声明をしたようだけれ
ども、われわれは
納得ができない、
既定方針通り十二日には
ストに入るという
声明が出ました。こういう
声明が出たということで私ははなはだ遺憾に思いまして、
政府があれだけの
努力を拂いながら、それを
一片の顧みるところなくすぐ
ストを
決定するという
態度は、
組合のとるべき
態度ではないのではないかと
考えまして、午後に至りまして、四時でありますが、それではもう一度
総評の
幹部に会
つて話してみようということで、私の
部屋に
総評の
幹部十数名を呼びまして、そうして再度
最後の
勧告をしたのであります。それは
皆さんも御
承知でありましようが、本日
政府においては、
閣議においてこの
三つの
事項にわた
つて修正するという
態度をきめたのであります。この
法律は、繰返し繰返し
説明しているように、決して
諸君のような健全な
組合を
対象にするものではない。この
民主政治下において
暴力を否定するということは、
諸君たちの健全な
組合が育つゆえんである。
諸君といえ
どもおそらくこの
暴力を肯定されるはずはないと私は
確信している。
政府は、あなた方が
心配される点にももつともな点がある、再度
修正をしてまでその点を明確にするという
態度に出たのだから、どうかもう一度各
單産に
帰つて御
相談をしてくれないかということを、私は
最後の
勧告をしたのであります。当時私が申しましたその言葉は全部ニュースに入りまして、NHKでありましたか
ラジオ東京でありましたか、どつちでありましたか私は聞かなか
つたのでありますが、他の者が聞いたところによると、そのまま入
つていたということでありますから、私の言
つたことに間違いがございますれば、お聞き取りを願えばわかると思います。昨日も
法務委員会で、
政府はその
確信があ
つてきめたのだ
つたら、
組合にそういう
努力をしないで、さつさとかけたらどうかという
意見もありました。私はそれは正論とは思います。しかしこういうことにおいて
政治ストが行われることは悪いことではありますけれ
ども、いい悪いは別としてそういうことが行われるということであれば、
労働大臣としてはできるだけそれを未然に防止する
努力を
最後まで拂うということは、私は自分の職責であると存じまして、
せつかく
閣議決定した
事項ではございましたが、十一日に私は
閣僚諸公に説きまして、これだけの
三つの点を
決定していただいて、
声明したわけであります。
その晩いろいろ各
單産で
論議がかわされたようでございまして、詳細の点は申し上げる時間もございませんけれ
ども、まず
炭労において、それでは
政府が
修正するということだから、どういうふうに
修正するか一応見たらどうだ、それを見ない前にすぐ
ストに入るなどということは、
組合のとるべき
態度ではないじやないかということで、十時ごろでありましたか、
延期を
決定したようであります。私は健全なる
労働組合のとるべき正しい
態度をとられたものと
確信をいたします。全鉱においても引続いて、やはり
炭労がと
つたと同じように、それでは
政府の
出方を見ようじやないかということで、
延期になりまして、逐次
総評の各単産も同じような
考え方で、十二日の
ストはほとんど
延期に
なつたわけであります。だた一部の全自動車、その他左翼的な
組合の中には、二時間
ストあるいは四時間
スト的なものは、ごく一部行われました。その総人員は、わずか四万程度であ
つたように思います。
私はその
市明をいたしました
三つの点に基きまして、さつ
そく法務府と
相談をして、この
事項について、どこをどう
修正すればこの
趣旨に沿うかということで
論議をかわしまして、その次の火曜日の
閣議ですから十五日でございましたか、十五日の
閣議で
修正をして
決定をした。それは一々ごらんになれば、
はつきりわかることでありますが、第一に
声明いたしましたこの
法律は
労働組合の正当な
行為を
制限し、またはこれに介入するように
適用するようなことがあ
つてはならないことを明記する、これはこの
通りの文句を第
二條の第二項に入れたのであります。第二項をお読みになりますと、「この
法律による
規制及び
規制の
ための
調査については、いやしくもこれを濫用し、
労働組合その他の
団体の正当な
活動を
制限し、又はこれに介入するようなことがあ
つてはならない。」ということを
はつきり書いたのであります。このことはすでに
二條の一項にはある程度抽象的にはうたわれております。しかしこれは抽象的過ぎてわかりにくいという
意見もございましたので、私はこの点は明瞭に約束したことは入れたがよろしいということを強く主張して、ここに入
つたのであります。
その次に一項の後段に掲げました先ほど申し上げましたなおこの
法律の
規制の
対象について不必要な
危惧の念を與えないように
検討する、この点は
諸々方々にいろいろ字句の不明の点がある。たとえば
団体の
行為として
破壊活動を
行つた団体に対する
規制、あるいは
破壊活動を
行つた団体に対してという
文字が
方々にあります。そうするとこれで
心配しているのは、
団体といつてもその中で、
組合員が一人
殺人をや
つた、それが
団体の
行動だとい
つて、
団体が
規制を受けたのではたまらぬじやないかという
意見が、ございましたが、これはもつともである。そういう
フラクがか
つてにや
つたことで、
団体が
責任を負うべきではない。それでは
団体が
団体としてや
つた行動であるということは、これは法の
趣旨はその
通りであるから、
法文にもし不明の点があればそれを
はつきりしようということで、第一條におきましても「この
法律は、
団体の
活動として」という
文字を入れておるのであります。この点の
文字は
方々にございます。第四條にも
はつきり「
団体の
活動として」という
文字を入れております。また第六條にも、それから
方々数箇條にわた
つて、単なる
フラクがや
つたことにおいて
団体が
責任を負わないということを
はつきりしておるのであります。また第三條におきましても、
内乱的な「
行為の
実現に資する
ため」というので、資する
ためというなら、ただそういう
印刷物を持
つてお
つても、それが資すると解釈せられては困りはせぬかという
危惧の念もあ
つたようでありますから、その点を訂正して、「
行為の
実現を容易ならしめる
ため」として、容易にする
ために印刷をし、所持するということがなければ、ただそれに役立
つたということだけではいかぬというふうに、その点を明瞭にしております。そのほか
方々に
機関紙というものがございますが、その
機関紙も、その意味はただ何でもというのではなくて、
団体がその目的、
主義、
方針等を主張し、そして通報し、または宣伝する
ため継続的に発行する
印刷物である。ただ
一片のピラや何かを
機関紙といわないというふうに、
方々にこういう点の
努力を盡したのであります。
それから第二に、この
法律に基く
行政処分の違法なるものに対する
救済措置、この点も
組合側は、
行政訴訟で
違法処分に対する
救済の道はあるが、これがいつまでた
つたら
救済されるか期限がない、そうすると
団体が
規制を受けて
処分を受けて、それがまだ審理中だとい
つて何年もだらだらとやられては、事実上
組合はそれでつぶされてしまう、こういう
意見がありまして、なるほど私
どももそれはそういうことではならぬ。そこで
法務府といろいろ折衝いたしました結果、これは
裁判権に対するところの
制限だから、なかなかむずかしいというお話でありましたが、幸いに
公職選挙法の中に唯一の
例外がございまして、百日以内に判決をするように努めなければならぬという
規定がございますから、
公職選挙法に
例外があるならば、この
法律に
例外を置けないはずはないじやないかということを主張いたしましてその点もこの中で
修正をいたしました。二十四條の三項に新しくこの
條項を入れまして、
違法処分に対する
救済の
措置を講じたのであります。
それから第三に約束をいたしましたこの
法律の
公安審査委員会の
委員は、
労働組合その他
各界の
代表をも
つて組織する、これは
法文にはうた
つておりませんが、これは
政府が
声明いたしました
通り、
公安委員の中には必ず
労働組合の
代表を一名入れるということは、
閣議決定をいたしておるのであります。それともう
一つ大きい点は、二十七條を削除した点であります。第二十七條は、とかく問題にな
つておりまする
公安調査官が、必要があるときには
関係人や
参考人を呼び出していろいろ尋問ができる。ことに
調査の書類を要求することができるという
規定があ
つたのであります。これを
間接調査権とい
つております。この
間接調査権で、
組合の者が
参考人だとい
つてぞろぞろ呼び出されているいろいろなことを調べられるのは困るという
意見があ
つたようでございまして、これはもつともだ。しかしこれはこの
法律の施行の上においては重大な
規定ではあるが、それが
ために
組合が
心配をするということだ
つたら、これも思い切
つて削ろうということで、この
間接調査権の二十七條を削
つてしまつたのであります。これは重大な
修正であります。
それほど私
どもは、これは現在の政党なり
組合を
対象とするものでないということは、
確信を持
つておるのでありますけれ
ども、しかし相手方は
心配をして聞かないのでありますから、
心配の点はできるだけ除去しようというところで、
最後まで
努力を続けたのでありますけれ
ども、不幸にしてわれわれがこれだけの
努力をした
修正では不満である、こういうことで十六日に
スト決定をいたしまして、十八日にすべての企業、
総評傘下の
組合が
ストに入
つたという
状況であります。
私
どもは、この
法律は
民主政治下において、
皆さんも御
承知のように、一部にはこれは
刑法さえ
改正すればそれでいいじやないか、
刑法で十分じやないかという
意見がございますが、
労働組合に御
関係の
方々もたくさんおいでになるのでありますが、終戦直後今日まで行われました幾多の極端なる
暴力行為、すなわち
汽車の
転覆、あるいは
殺人、ひんぴんとして行われるところの
放火、これらが単なる
個人の犯罪として、
個人の思いつきでや
つているとは、だれもお
考えにならないだろうと私は
考える。それは一定の組織によ
つて、背後の
団体の背景があ
つて行われるものであるということは、何人も疑わないところだ。それでありまするならば、
せつかく独立をして、
日本は新しい
政治を打立てて行こうというときに、再びこういう
暴力によ
つて政治が曲げられるということは、一刻も早く除去すべきであろうと存じまして、この
法律を
提案したわけであります。
なお
ストライキについて一言つけ加えておきたいことは、この
争議の中に、ただ
一つ私鉄の
争議が関連をしておるのであります。
私鉄の
争議につきましては、ことしの一月以来
賃金闘争が行われて参りまして、それが妥結しないで、ずつと引延ばしにな
つてお
つたのであります。これも私
どもとしては、できればこの
政治ストの中に巻き込ませたくない。経済闘争であるならば経済闘争として、何とか事前に解決をさせたいと思いましたが、そこに一定の関連があ
つたかなか
つたか
はつきり存じませんが、前日までに解決する見込みでおりましたものが解決できないで、遂に十八日の
ストの中に合流をして行われたことは、はなはだ遺憾に存ずるわけであります。こういう公益、多衆の足を奪うような
争議というものは、できるだけそういう
争議に出ないで、自主的な話合い、あるいはもし話合いがつかなければ、
労働委員会等を通じて解決するということが私は望ましいことと思
つたのでありまするが、遺憾ながら十八日に
ストに入りました。そこで私
ども入
つたものをほ
つておくわけに参りませんので、再び
争議に入る気配がございましたから、中労委の中山さんとも
相談いたしまして、第二次の二十三日の
ストにつきましては、前日夜通しかかりまして、各経営者及び
組合側に
勧告をいたして、遂に東京五社につきましては、東武を除く他は午前四時五十分ごろに解決いたしまして、運転ができるようになりました。大阪の方は遂に及びませんで
ストに入
つたのでございますが、これもけさ夜明けにほとんど解決をしておる
状況であります。
以上大体の概要を御報告申し上げました。