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野原政府委員 農業政策が一大転換期にあるということに対しましては、私も
同感であります。御
承知の
通り、終戰後
わが国の民主化の線に沿いまして取上げられました、いわゆる
農地改革によりまして、従来の地主及び小作という存在に対しまして非常な
変革が行われまして、約三百万戸に達する
自作農家が創設され、それぞれが自作に
なつたわけでございます。御
承知の
通り、
国内における耕作面積は開拓等によ
つて多少ふえましたけれ
ども、耕作の全体の面積そのものは大してふえてはおらない。約六百万町歩という田畑及び約五十万町歩の開拓地がふえたことにな
つておりますけれ
ども、しかし
経営規模におきまして、きわめて零細な、いわゆる
自作農家が非常にたくさんふえて、農村におけるある
程度の経済余力を持
つた地主階層はほとんど没落してしま
つたのであります。さ
ような大転換期、われわれは農村が真に民主化され、それぞれの
農業生産を営んで
農業経営が安定し、その勤勉と
努力にふさわしく農民の生活が向上することを期待して、今日の農政はその
方向に向
つて進めているわけであります。しかしながら何と申しましても非常に零細な
農業であり、その後の社会情勢、特に経済
事情の変転を見ますと、時に経済界は非常なインフレーシヨンの時代もあり、あるいは今日の
ようなやや小康安定を保
つている時代に入りましたけれ
ども、農民の生活は、依然としてそうした零細な規模の上にその一切がかか
つているのでありまして、農村人口は潜在的にまた相当人口過剰の現況でございます。これらの点から見ましても、農村の今日の
農業の生産力と農民の人口と、また農村に期待されているさまざまな
日本民主化の線に沿
つての農村自体への
施策と、その負担の均衡等から
考えましても、農民は過重な負担を背負わされて行
つたのじやないかと
考えます。これらの点はひとり農民のみならず、
日本の産業、経済、文化の各面にわた
つて、敗戰国
日本が背負わなければならなか
つた必然の運命であり、姿であ
つたとも言い得るのでありますが、それにつけてもやはり農民の生活状態が今日非常に苦しいことは事実であります。そこで先ほ
どもお話がございましたが、たとえば農民の課税の面からこれを見ましても、
お話のごとく、農民の税負担の能力というものは非常に微弱でありまして、他のあらゆる産業あるいは営業者等から見ますれば、非常に税負担の能力が低いということは、これはもう今日の農村の
実態から推しまして、当然低いのがあたりまえだという
ようなことにもなるわけでございます。しかしこれは農村がほんとうに経済力が充実しておれば十分なる負担に耐え得るはずであり、また耐え得る
ようにまで高めなければならぬと
考えておるわけであります。しかし今日の姿では、どうしても
零細化した大多数の新しい
自作農などは、まだ十分なる営農上の基礎を確立していないと見る方が、むしろ適切であろうかと思います。いかにしてかれらの
農業経営の面を確立せしめるかという点に対しましては、これはあらゆる
施策をその面に集中しなければならぬと思うのであります。
お話のごとく、いわゆる広汎な
意味において社会保障の
制度も強化される必要があるということはま
つたく
同感でありまして、たとえば
農業災害補償
制度のごときも、そうい
つた理想達成のために、
国家財政の苦しい中からも、相当巨額の費用を出して農民の
農業の災害補償等をや
つておる、あるいはまたそういう
ような
施策もことごとく
農業生産の確充、農民生活の保護あるいはまた農村
振興のために集中されておると申しても、過言でないのであります。特に税制の問題につきましては、御
承知の
通り、従来
農業課税につきましては、非常に負担が重か
つたのでありますが、今日の農村の
実態からいたしまして、農民に過重な負担をしていることは非常に苛酷である。何とかして農民の課税を少しでも減らす必要があるというふうな
観点から、
政府におきましても、いろいろと苦心いたしました結末、今日漸次農民の負担は軽減を見つつあるわけであります。またこれを向きをかえて言えば、農民は負担力がなく
なつた。非常に弱く
なつたという見方もあるわけでありますが、そのいずれも実は一面の直理があると私は
考えております。それで現在の
段階におきましては、やはり農民に対する負担はできるだけこれを軽減するという
方向と、税制の問題につきましては、そういう面から農民の負担を軽くするという
政策をより一層押し進めることが必要であると思います。同時に
農業生産の擴充強化の面におきましては、
政府は、いわゆる既耕地における單位面積当りの収獲を増強せしむるため
措置といたしまして、いわゆる
農地改革、
土地改良、灌漑排水あるいはその他の施設をするとか、あるいはまた
営農確立のために、無家畜
農家を解消して有畜
農家を創設するとか、さまざまなそうい
つた施策のために
国家の財政投資、それからまた財政投資で行き得ない面については
金融等の
措置によりまして、それぞれの問題を逐一解決すると同時に、これは零細農である
日本の
農業の特性から
考えまして、個人々々の
農家をして、その個人的な農民の力だけではいかんともなし得ない
ようなものに対しましては、努めてこれは農民の団体であるところの
協同組合の
育成強化をはかりまして、弱体な農民の一つの集まりではなしに、それが一本の力になれば、やはりあらゆる面から
農業の生産性を高め、
経営の
合理性を徹底せしめるという
ような点におきまして、いわゆる
協同組合の発案をわれわれは心から期待しておるのであります。
協同組合も終戰後のさまそれな転換期におけるあらしにもまれて、その理想とする姿になかなか発展ができなか
つた。むしろ中には非常に借財を負
つて経営に若しんでいるという
実態にかんがみまして、このまま放
つて置いたのではしかたがない。何とかして
協同組合を建て直さなければならぬという
観点から、
協同組合の再建整備法等もできまして、これに対する
政府の保護
政策を加えて今日に至
つているわけであります。営農指導の面その他におきましても、
経営改善その他に関しても、あらゆる面から
政府はそうい
つた日本農業の特性にかんがみまして、できるだけ
政府の財政援助あるいは
国家予算の支出をいたしまして、農村の
振興をはかりたいという
考え方で進めている
ような次第であります。