○成田
委員 予算説明書で約二十五億円未復員者給與費、生活保護費の減額にな
つています。これだけ減額されましてなお
運用の面で十分心得てやる、また
関係者を呼び寄せて指示すると言われましたが、今までの未復員者の給與につきましても、この点は非常に機械的な
取扱いを受けて、未復員者給與法の当然
適用を受けるべき者が受けないで、
戦争犠牲に苦んでいるという人がたくさんあるのです。これは厚相は下情を御存じないからそういう御答弁になる。單に係員を呼び
出して、一応の訓示をすれば間違いなくやれというような官僚的なお
考えを持
つていると思う。私たち社会党に参りました二、三の例を——
一つの障情書が参
つておりますから、ひとつ読んでぜひ参考に供したいと思います。
これは末復員者給與法の
適用を受ける際に、公務に基因した負傷は、これは官費で療養の給付をするということにな
つておる。ところが一片の紙上の調査で公務と見ない。従軍中に負傷しまして、それからリユーマチスが発生した。これは公務じやない。こういうことで現在両足が動かないで呻吟している人の訴えて来た悲壮な手紙ですが、これについて厚相の御所見を承りたいと思います。読み上げてみます。名前は略します。
私は
昭和十九年五月五日三十八歳の身で海軍水兵に召集入団して鹿児島県大島防備隊にいてしごく元気で勤務中、
昭和十九年九月二十九日隊長海軍大尉の命により荷揚げ作業中、高角砲の台輪のロープ切断のため身の振り場のないために、左足関節部に落ちかかり歩行不能となり、防備隊医務室にて受診の結果、左足関節部骨折挫創傷と診せられ、入室し休業を受け療養に専念中、十六日目膝関節が急に痛み
出し、当係り軍医長の診察を乞うと、診断もしないで、次のように言
つた。貴様の関節の痛みはそもそも漫性の横着炎というやつかいな病気だ、左足の傷も全快しておるからすぐ本日より全治出勤しろという惨酷きわまる診断を受ました。患者の療養の経過は、入室、休業、軽業、治療出勤、全治出勤という順序にな
つておりましたのに、私の場合は入室から一挙全治出勤という診断でございました。私は心の中で泣いた。このからだで便所へ行くにも杖なくしては歩行もできないので、何で出勤ができるはずがありましよう。この病む足がなぜ軍医長にわからないのか、しかし上官の命は朕の命のと心得、絶対服従しなければなりません。泣く泣く診療室を出ると、待
つてたかのように、衛生兵が目を丸くして私を呼びとめ、貴様におれが気合薬を入れてやる、軍医長の命令だ、文句なかろう、この軍医長の処方箋を見よと差出された紙切れには次のように書いてあ
つた。この者は慢性横着炎発病につき、この病気には気合薬より他に良法はないからよろしく頼む、こう書いてある。海軍の気合薬とは、大東亜
戦争完遂、精神鍛錬と書いてある大きな角のある棒でありまして、この棒で腰を殴打することであります。彼が私に対する気合薬というものは、それはそれは筆にも口にも書き表わすことができぬ殴打でありました。健康体のときでもなかなか悲痛きわまるものでございますのに、ましてや患者の身の私には殺されたがましかと思うくらいでございました。医学上患者が関節の痛みの診察を乞うと、医者は診断もしないで慢性横着炎だのという病名がつけられるのでしようか。患者をバットでなぐれば、関節の痛みがとまり、良薬と医学上認めておるのでありましようか。社会党より立
つて十分お聞きください。私を一生取返しのつかない不具者に至らしめた重大
原因はここにあると申し上げなければなりません。それから身を引きずりながらも兵舎に帰り、伍長室に行き、退室屈の報告をしますと、ここにも先記軍医長の処方箋がまわされてありました。また私は驚きました。病舎でさんざん気合薬をちようだいいたしているのに、今また隊の事務係兵になぐられることを覚悟いたしておりますと、係兵筒井水兵長はしごく温厚にして私の報告した全治出勤の
言葉にむしろ疑念を抱き、君のそのからだでしよせん出勤ができるはずがない、軍医も軍医だ、なぜ全快するまで治療しないのだろうかと軍医の医療の怠慢を恨んでくれました。このときばかりは私は思わず熱い涙を流して感謝せずにはおられませんでした。しかしいくら兵舎内の休業を受けたといたしましても、いつまでも続きません。軍医長の休業証明書がない限りは、衛生兵下士官や当直将校にしかられます。貴様はどこが悪いか、悪ければ軍医の証明があるはずだ横着休業だ、こうしかられました。私は心の中で決心しました。どんなことがあろうとも二度とかの軍医長なんかのやぶ診断を受けるものか、倒れて死んでも出勤してやろうと決心して熱のある足を海水でひたしたタオルで巻き、足の関節の動かないのをがまんして、びつこを引きながら悲壮な思いで陣地構築に作業すること二日、遂に行き倒れの身となり、意識不明となり……あと長いので省略いたしますが、その後転々と内地の海軍の療養所で療養してお
つた。とうとうこの関節炎は慢性化しまして、両足が立たなく
なつた。これに対しまして厚生省当局は、これは公務に基因するものじやないということを、一片の書類の上の審査で決定しておるのであります。厚生省の医者に聞きますと、この関節リユーマチスというものが、打撲傷から発生するか、しないかということは、現在の医学じやわからない。だから公務であるとも、あるいは公務でないとも言えない。しかし
予算が足りないから、こういうものを公務と認めるわけには行かない、こう
言つておる。また今度三億も減額された場合に、はたしてこういう
人々が救済されるかどうか。厚相が單に係官を東京に呼び集めて一片の訓示をやりましても、
予算の
関係を
考えましたならば、こういうかわいそうな
戦争犠牲者というものは救済されないと思いますが、こういうことのないように厚相はおやりになる自信があるかどうか、承りたいのであります。