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1952-01-31 第13回国会 衆議院 予算委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年一月三十一日(木曜日)     午前十時四十六分開議  出席委員    委員長 塚田十一郎君    理事 有田 二郎君 理事 上林榮吉君    理事 小峯 柳多君 理事 苫米地英俊君    理事 西村 久之君 理事 井出一太郎君    理事 川島 金次君       天野 公義君    井手 光治君       小川原政信君    尾崎 末吉君       甲木  保君    川端 佳夫君       志田 義信君    庄司 一郎君       玉置  實君    永井 要造君       今井  耕君    川崎 秀二君       藤田 義光君    西村 榮一君       山口 武秀君    横田甚太郎君       小平  忠君    世耕 弘一君       江崎 真澄君    江花  靜君      小野瀬忠兵衞君    角田 幸吉君       北澤 直吉君    栗山長次郎君       鈴木 正文君    田口長治郎君       中村 幸八君    南  好雄君       中曽根康弘君    早川  崇君       水谷長三郎君    風早八十二君       稻村 順三君    成田 知巳君       石野 久男君  出席国務大臣         内閣総理大臣  吉田  茂君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君         通商産業大臣  高橋龍太郎君         労 働 大 臣          厚 生 大 臣 吉武 惠市君         建 設 大 臣 野田 卯一君         国 務 大 臣 大橋 武夫君         国 務 大 臣 岡崎 勝男君         国 務 大 臣 岡野 清豪君         国 務 大 臣 周東 英雄君         国 務 大 臣 山崎  猛君  出席政府委員         内閣官房長官  保利  茂君         大蔵政務次官  西村 直己君         大蔵事務官         (主計局長)  河野 一之君  委員外出席者         専  門  員 小林幾次郎君         専  門  員 園山 芳造君         専  門  員 小竹 豊治君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件 昭和二十七年度一般会計予算 昭和二十七年度特別会計予算 昭和二十七年度政府関係機関予算     ―――――――――――――
  2. 塚田十一郎

    塚田委員長 会議を開きます。本予算の各案を議題に供します。本日は内閣総理大臣に対する質疑に入ることといたします。上林榮吉君。
  3. 上林山榮吉

    上林委員 総括的な問題について二、三総理大臣にその所見をただしてみたいのであります。  まず第一は、第三次世界大戦が起る可能性があるかという見通しについてでありまするが、総理は常に平和主義者として多年終始されて来たので、比較的公平な判断ができると思うし、また世界における権威ある情報を集め得るのは、ただいまのところ日本では内閣以外にはないのでありますから、半ば仮定の問題ではあるけれども、その所見を率直にただしたいのであります。御承知通りアメリカ軍備の拡張を盛んにやつておるわけでありまするが、それは戦争を進んでするためではなく、戦争を回避するためであるといわれ、また西欧の防衛力増強も、まつたくこれと同じ趣旨であると思われるのでありますが、一方原子力管理問題を初め、朝鮮動乱は、自由国家群共産国側とがいまだ戦つているのでありまして、未解決のままの状態が続いておるのであります。この複雑微妙な国際情勢総理はどういうふうに見ておられるのであるか。今国民がひとしく聞かんとしている重点であると思いますので、この際お尋ねをいたしておきたいのであります。
  4. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えを申します。第三次世界戦争は、そうたやすく容易に起るものではない。もし起せば、世界史上つて見ざるような非常な惨劇を呈する戦争ということはだれも想像しておるのでありますから、そうたやすく起るものではない。が、しからば政府としてどれだけの資料があるかと言われれば、御承知通り、今日は在外機関はある一部の国にはありますけれども、これは主として貿易関係であつて政治関係情報を集めるというようなことでなく、これは明らかに、明瞭なる訓令として、当分経済一方でやるようにということを申しておりますからして、従つてそういう政治的の資料については、いまだ十分集まつておりません。従つてこういうことがあるから、ああいうことがあるからといつて、事実をあげて、国民が納得し得るような正確なる材料を提供することは、内閣といえどもできないのであります。しかし諸般の事情から考えてみて、第三次戦争は容易に起らないということは断言し得ると思う。また過日チャーチルワシントンにおいて発表したコミュニケでありましたか、あるいは演説でありましたか、ちよつと記憶がありませんが、チャーチル意見として、第三次戦争の危険は、一年前よりもよほど薄らいでおるということを言つております。これは多分ヨーロツパ連盟ですか、同盟でありますか、あるいは共同防衛の準備が整つた結果でありますかどうか知りませんが、演説のうちには、明らかにチャーチルは、戦争の危険は一年以前よりもよほど薄らいでおる、こういうことを言つております。これはイギリスの首相として、相当正確な資料に基いての断言であり、信頼していいのではないか、私はこう思います。
  5. 上林山榮吉

    上林委員 総理政府として集め得る最大限度情報によりまして判断するに、国際情勢は一年前よりも悪化していない、戦争は回避できると思うという明確な御答弁を得たので、この問題についてはさらに慎重を期さなければならぬ点もありますので、これ以上質疑をいたしません。次に、われわれは自衛力国民負担力をよく考え完全独立後の国際情勢をよくにらみ合せて、漸増の方針で進むのが現段階においては実際的であるというふうにもちろん思つておるのでありまするが、もし近い将来憲法第九条を改正せねばならぬほどの軍備とは、どの程度の規模を持つものを軍備というのであるか。私は総理に対して、ただちに憲法第九条を改正して再軍備を現段階においてやれという意味で申し上げているのではありませんが、この点についてはどういうふうに考えているか、ことに再軍備ということの定義について、どういう考えを持つておられるか、この点を明確にいたしたいのであります。
  6. 吉田茂

    吉田国務大臣 いかなるものを軍備といい、いかなるものをしからざるかという問題はとにかくといたして、政府としては再軍備をいたす考えはない。また再軍備をするとしても、憲法の問題はむろんありますが、国力これを許さないと思う。今日飛行機一台つくつても、あるいはまた軍艦一そうつくつても、財政に非常な負担をかけるわけであり、飛行機もない、軍艦一そうもないという軍備は想像もできないのであります。今日われわれの主として考えるところは、日本の安全をいかにして守るか。むろんみずから軍備を持つて自分の国の独立、安全を守ることに越したことはないのでありますが、しかし国力これを許さない。そこで安全保障条約というような線で行くよりしかたがない、こう考えます。従つて軍備とは何ぞやということは、これは学者その他の研究によりまして、政府としては軍備は持てない、持たない、安全保障共同防衛の線で行く、こう考えております。
  7. 上林山榮吉

    上林委員 政府としては軍備をただちに持たない考えであるという点については、もちろんわれわれも承知し、これをまた支持しておるのであります。ただ総理並びに大蔵大臣の一部方面質問に対する答弁において、わずかな予算、いわゆる一千八百億円程度予算では軍備というに足らないと答弁しておりますし、一面法務総裁近代兵器、特にジエツト機ないしは原子兵力を持たないものは、これは軍備ではないというような見解を持つておるようでありまするが、われわれは質と内容と組織によつて、これを正確に考えなければならないと思いますので、再軍備をやらないということはよくわかりまするが、往々にして自衛力をはき違えて、再軍備というような意見も一面ありますので、この際この問題について統一した御答弁が願えるものならば、将来のため幸いであると考えるのであります。
  8. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをしますが、統一した意見といいますか、とにかく政府方針としては、今のような考えでもつて進みたいと考えております。
  9. 上林山榮吉

    上林委員 次に二十七年度の予算は、もちろんわれわれはただいまのところ補正予算を組むことなくして進まなければならないと思つておるのでありまするが、防衛費または安全保障費等は、現在においても大きく予算の二一%を占めておるのでありまするから、国民負担力はすでに底をついておるものだと考えるのでありますが、賠償行政協定いかんによつては、これが相当に増額するのではなかろうかと危惧されておる方面もあるのでありまして、そういうふうに予算が増額するということになれば、一面内政費に食い込み、ことに減税の公約をよく実行して来た自由党の方針にも影響がありますので、大局的見地からこういう点について最大努力を要望してやまないのでありまするが、二十七年度中には、いかなる事情があろうとも、大体において防衛費または安全保障費は、これ以上は増額しないというのが、政府の根本的な方針であるのか、あるいは事のいかんによつて相当予算を追加しなければならないということも、一応は頭の中に置いておられるのか、この点を承つて一私どもは二十七年度の予算をさらに一歩進んで解剖して見なければならないと考えておるのであります。御答弁を要望いたします。
  10. 池田勇人

    池田国務大臣 防衛支出金警察予備隊費海上保安庁諸費並びに安全保障諸費、合計千八百二十億円は、わが国の経済力から申しまして、精一ぱいのものでございます。従いまして、今年度内におきまして、これを増額する考えは持つておりません。
  11. 上林山榮吉

    上林委員 本年度内において、これを増額する意思のないという点はよくわかつたのでありますが、この問題については、経済問題を中心質問申し上げる際に、さらに解剖して質問を続けたいと思いますので、この点については保留をいたしておきたいと思います。  次にただしてみたいのは、米国代表のラスク氏と日本政府との行政協定の問題でありまするが、この問題は案外両国とも明るい気持をもつて取行われておりますことは、将来両国のためまことに好ましいことであると考えておるのであります。政府もまた本予算の審議中にも、その内容を適当に示すと言つておるので、この点も私ども了としておるのでありまするが、行政協定の中に基地ないしは駐留地を含んでおるものかどうか。しかも私はこの際お尋ねいたしたいことは、この基地ないしは駐留地中心といたしまして、原子兵力攻撃拠点と言いまするか、そういつたようなことが入つておるのかどうか。私は最近のアメリカ旅行において、アメリカ新聞記者その他から、日本国民原子爆弾を投下することに賛成をしているかどうか、きわめて率直な質問を各方面で受けたのでありますが、私はそれに対して、日本人ほど原子爆弾に関する限り不幸な国民はなかつたのである、ゆえに日本の上に原子爆弾を今後落されることは絶対にわれわれは反対である、但しもしたつた一発をどこかに落すことによつて世界の平和が完成するものならば、これは使用してもいいと思うけれども、そういうものを使わないで、平和を解決することがさらに望ましいのである、という意見を私は申し述べて来たのでありまするが、日本を離れて世界のおもなる方面においてもこういうような危惧の念が相当あるものだと私は信ずるのであります。そういう意味において、原子兵力攻撃基地あるいは駐留地をば、日本の国土内に設けるような段階にあるのかどうか、または全然そういうことはないのかどうか、もしあつたとしたら、それに対してはどういうような善処政府考えておられるのか、私はこの点は微妙な問題でありますけれども国民立場に立つて特にお尋ねをいたしておきたいのであります。
  12. 吉田茂

    吉田国務大臣 行政協定交渉は、わずかに一両日前から始まつたような事態でありまして、その内容は、私自身の進行中でありますから、確とは承知いたしません。また承知いたしても、交渉内容に属するものでありますから、こういうことがあるとは今日ここで説明はできませんが、消極的には今のような問題はございません。というのは、アメリカ軍としても、爆撃等についてはこれまで慎重な態度をとつており、そうして朝鮮の現在行われておる戦争についても、なるべく休戦で話をまとめようと、非常な忍耐をもつて、六箇月の間継続して交渉いたしておるような次第で、非常に慎重な態度をとつております。従つて今ただちに日本爆撃を受けるとか、あるいは原子爆弾という問題等は、全然この行政協定の中には入つて来ないはずであります。予想もいたしておりません。
  13. 上林山榮吉

    上林委員 おそらく戦争の起つた場合に、日本攻撃を受けるようなことは、戦略的にしろうとが考えてもあり得ないことであるということを私ども考えるのでありますが、不幸にして基地その他において日本原子兵力攻撃基地であるというようなことになりますと、この点は慎重に国民としても考えなければならぬ点でありますので、ただいまの総理言明によりまして、私どもも一応安心をいたしましたが、この点についてはさらに最善の御努力を要望してやまないのであります。  次に質問いたしたいのは、各国賠償要求総額は二百五十億ドル、円に換算をいたしまして、九兆一千八百億円という莫大なものになつておると言われておりますが、これは公式の各国要求額であるのか、単に一応伝えられる程度要求額であるのかどうか、この点を総理ないし経済閣僚から御答弁を願いたいのであります。
  14. 吉田茂

    吉田国務大臣 賠償金銭賠償はいたさない。またしなくてもよいことになつておるのでありますから、要求要求としていろいろ新聞に伝えますが、政府として何ら承知いたしておりません。またこれに応ずることもできない現在の状態にあります。
  15. 上林山榮吉

    上林委員 この要求額が公式のものであるかどうかということについて、経済閣僚その他の答弁あと要求いたしたいのでありますが、ただいま総理言明にあります通り、われわれは、賠償を規定しておる平和条約第十四条による役務賠償を、誠意をもつて実行しなければならぬということは、よく承知しておるのでありますが、ただフイリピンの賠償において、平和条約第十四条による役務賠償の原則でければならぬはずであるのに、八十億ドルという相当額要求を事実においてしておる。しかもこれは聞くところによりますと、平和条約第十四条に対しては、フィリピンサンフランシスコ会議において保留をしておるというようなことが伝えられておるのでありますが、そういう点はないのであるか。われわれといたしましては、これは追加賠償の形になつておるので、総理言明のごとく、誠意をもつて定められた条約を守らなければならぬけれども、ただいまの御答弁趣旨沿つて善処を望むということが国民ほんとうの声である、こう思いますのでさらに念を入れてこの問題をお尋ねしておるわけであります。
  16. 吉田茂

    吉田国務大臣 フィリピンが留保したということは、これは事実であります。しかしながら留保したからといつて、われわれがこれに対してその要求をすべていれなければならぬということもまたないはずであります。
  17. 上林山榮吉

    上林委員 条約の問題については、総理のお考え通りであると私ども考えておるわけでありますが、いずれにいたしましても申し上げたいことは、交渉の現段階において非常に支障を来しておるこの現実に対しての見通しは、最後結論を得なければなかなかほんとうの回答は出ないのでありますが、政府見通しとしては、平和条約第十四条の役務賠償の線を確保できる。また誠意を示せば必ず相手方にもこれを了解してもらえるのだという見通しについては、現実問題としてどういうふうに考えておられるか。今交渉の途中にあるので、こういう結論を要望することは無理な点もあると思いますけれども国民は非常に関心を持つてこれを見ておりますので、総理の口を通じて私は政府の所信を国民に知らしめてほしいと思うものであります。
  18. 吉田茂

    吉田国務大臣 この交渉は結局相方の妥協によつて成り立つものであつてりくつや主張ばかりしておつてもはてしがないのでありますから、一応いずれかに妥協点は見出し得ると思いますが、しかし日本の現在の国力において、八十億ドルですか、そういうような要求を、かりに誠意をもつてしても、日本負担力がない、ない以上はこれに対して応ずることはできない、これは確かであります。しからばどうなるかということは、今交渉をわずかに数日前に始めただけの話で、その後の交渉経過等につきましては、政府としては現在どの程度にあるかということはわかつておりません。従つて見通しということは、これはいわゆる誠意を持つて応ずるというだけのこと以上に、ここでお答えができない段階にあります。
  19. 上林山榮吉

    上林委員 最後に私は国府との修好交渉の限界について、総理見解をただしてみたいのであります。この問題については近く使節団台湾に派遣するという段取りにまでなつておると伝えられておりまするが、国府との間に修好条約を結ぶことの理由について総理見解を披瀝されたので、大体においてわれわれも了としておるのでありますが、特に総理ダレス大使書簡を送つてその旨を明らかにしたのは、米国における平和条約批准を促進するためであつた、こういうふうに言われたが、その後確かに米国上院、特に共和党の上院議員の間に一歩理解を深めたことは事実であります。しかしこのねらい以外に、総理はさらに具体的に大きなねらいを持つておられるものと私ども推測するのでありますが、これ以外のねらいとして、具体的にいかなることを希望しておられるのかどうか。この点をまず伺つておきたいのであります。
  20. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは本会議場においてもしばしば言明いたした通り日本立場として、隣国との間に善隣関係を打立てる。これがまた日本のために必要でもあり、また世界をして日本平和外交趣意を了解せしむるためにも肝要であると考えますから、それで条約関係に入ることを希望する国とは、できるだけ善隣関係を打立てて行きたい、この趣意以外にないのであります。それ以上何を考えるかと言われても、現在のところは善隣外交修好というのが切実にその目的であります。
  21. 上林山榮吉

    上林委員 米国における平和条約批准の促進と同時に、善隣外交基本方針従つて修好条約を結びたいのであるという言明をされたのでありますが、われわれもそれを強く希望するものであります。  そこで国府との修好条約は、中国を代表し得る主権者と認めて行うのでなく、国府主権が及んでおる範囲内の政府と限定して行うがごとき説明を承つて参りましたが、一部の情報によりますと、国府中国代表としてサンフランシスコ平和条約できめられたと同じものを強く望んでおるようでありまするが、これが調整に対しては、政府としてはいかなる方針を持つて臨まれるつもりであるか。あるいはまたその見通しについてはどういう見通しを持つておるのであるか。この点をただしたいのでございます。
  22. 吉田茂

    吉田国務大臣 台湾国民政府希望するところは、お話のようなところであるかもしれませんが、しかし政府はあの書簡において明らかにした通り、私としては中国全体を含めた政府というようなことはあとの問題として、でき得るだけ各国といえども善隣関係を打立てて行つて、そうしてやがて全国に及ぶというようなことになればけつこうであるという考えでもつて、ただいま国民政府と話をしたい、こう考えております。また台湾政府条約関係に入ることを希望するというのでありますから、一応全権団を出して交渉を開始してみたい。その結果どうなるかということは、交渉の結果を待つよりしかたがありませんが、趣意は今のような趣意でもつて全権団を派遣するつもりであります。
  23. 上林山榮吉

    上林委員 漸次日本希望相手方希望を調整して善隣外交基本の線に沿つて前進して行きたいという御趣旨に対しまして、私も理解するのでありまするが、この総理の求められている修好交渉というか、修好条約というか、これは言うまでもなく平和条約とは全然違つた線において締結するという方針だろうと思いまするが、もしそうだとするならば、ただいまのところでは、中共とは事実修好条約のごときものはできがたい状態にあることは、中ソ条約において日本仮想敵国にしていることや、ソ連の日本領土不法占領等によつてそういうことはできないことは十分承知するのでありまするが、彼らにしてこういう点を改め、真にイデオロギーにとらわれることなく、善隣外交の基礎の線に立つて改めて来るとしたならば、国府と同じような程度修好条約を結ぶ事態になるかどうか、あるいは結んでもいいと考えておられるのかどうか。将来の問題でありますけれども、心携えを承つておきたいのであります。
  24. 吉田茂

    吉田国務大臣 平和条約には、この平和条約の線でと書いてあります。それよりも利益な条件で結ぶことを許さないが、しかし趣意サンフランシスコにおいて調印された対日条約の線で日本条約関係に入る国に対しては、日本はその要求を拒むことができないということが明記されております。ゆえに現在の平和条約違つた、あるいはそれ以上の有利な条件で、日本はいかなる国といえども修好条約といいますか、平和条約を結ぶことはできないと義務づけられていますから、全然違つた線では結ぶことはできませんが、しかしながらそれ以上に有利なこともできない。一応平和条約の線で進む。サンフランシスコにおいて調印をしなかつた国に対しても、どこの国に対しても、講和条約の線で行くということに義務づけられていますから、その線とまつたく違う線では、いかなる国とも修好条約を結ぶことはできません。  それから中共政府といいますか、が、イデオロギーは別として、障害がなくなつた場合にどうするかというようなことは、むろん善隣外交趣旨からいつてみて、国民の感情を満足するような処置がとられた後においては、善隣外交趣旨から条約関係に入ることも、決して躊躇はしませんが、現在の状態では、そこまで行き得ないと思います。
  25. 上林山榮吉

    上林委員 結論として承れば、サンフランシスコ平和条約による修好条約ではないが、その修好条約は、それと同じ内容を持つたものを目標にして交渉をしたい、こういう趣旨と承つていいのであるかどうか、その点をお伺いいたしまして、私の一応の質疑を終りたいと思います。
  26. 吉田茂

    吉田国務大臣 その通りであります。
  27. 塚田十一郎

  28. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 吉田総理大臣に対しまして、御質問を申し上げるのでありますが、まず昨年の講和条約以後におきましても、これら調印国との間における批准の問題、並びに未調印国国国との間に国交を回復することに、たゆまない御尽力を願つていることに対しまして、深い敬意を表しておきます。  まずお伺い申し上げたいと思いますのは、平和条約調印した日本以外四十八箇国が、その批准に対して現在の段階ではどういう態度で進んでおるかという、批准に対する模様を一応承つてみたいのであります。
  29. 吉田茂

    吉田国務大臣 現在各国別批准の光景については、私はただいまここではつきりいたしませんが、しかし私の記憶しておるところを一応申し上げますと、イギリスはすでに講和条約批准を終えて、そしてワシントンに寄託いたしております。米国においては、上院批准の協議中であります。近く、二月のうちには批准を了するのではないか、あるいはそれより早くなつても遅くなることはないと思います。その他の国については、いつ批准を終るとかいうような情報がありますが、これに対しては、取調べた上でもつて申しますが、だんだん批准の――オランダもただいま議会にかかつておると思います。それからその他アルゼンチンかどこか、そういうようなところも条約批准の議事を進行中でありますが、詳しいことは、取調べた上でお答えいたします。
  30. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 ただいま御答弁を伺いました中で、米国はただいま批准にかかつておるが、二月中には大体終るであろう、こういうお見通しでありますが、それにつきまして、最近新聞の伝えるところによりますと、この批准は、日本米国との行政協定が成立するまで待つ、こういうような模様であるということも伝えられておるのでありますが、そういつたようなことがあるのでありましようか。このことも伺つておきたいのであります。
  31. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 新聞にそういうことは出ておつたようでありますが、私の承知するところでは、そういう関連はないと考えます。
  32. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 それから、ソ連の態度について御見解を伺つておきたいのでありますが、昨年九月のサンフランシスコにおける講和会議への招請に対して、初めは沈黙を守つて、これを拒むかのように見えておつたソ連が、にわかに会議に出席いたしまして、平和条約の草案と違つた代案を出して、会議を妨害いたしておきながら、その後日本に対しまして、いろいろの、子供だましのような宣伝をいたしておるのは、どういう真意と御解釈になつておるのでありましようか。こういうことが日本国民に対して、または世界、特に東南アジア諸国に対しまして、どういう影響を与えるか。こういうことについての御見解を、一応伺つておきたいのであります。
  33. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは、どういう趣意であるかというようなことは、臆測以外には私には申し述べることはできません。のみならずソビエト国も連合国の一員でありますから、その行動について、私から批評がましいことは、差控えたいと思います。なお批准等については、岡崎国務大臣から説明をいたさせます。
  34. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ただいま総理の申されました批准状況でありまするが、大体総理のおつしやつた通りであります。南米諸国、フランス、オランダ、あるいは東亜の諸国、いずれも順調には進んでおるようでありますが、まだいつというような日取りまでははつきりいたしておりませんような状況であります。
  35. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次にお尋ね申し上げますのは、平和条約の発効は、もはや時間の問題と思うのでありますが、条約発効とともに占領軍司令部、及びその中に加えられておる各国の代表部は、もちろん解消せられるものと思うのでありますが、ソ連や中共等、条約に入つていない国の代表部はどうなるのであるか。すなわち即時これらの代表部は日本から引揚げることになるのであるかどうか、これを伺いたいのであります。と申しますのは、われわれが心配いたしておりますことは、これらの未条約国が、かつてに占領司令官などというものを残しておく心配はないかというようなことや、あるいは通商団などという名称をかぶせて、在留しようとするようなことはしないか。こういうようなことについての心配がありますので、この条約発効後の総司令部の解消、並びにこの中における各国代表部の解消がどうなるのか。この中において、ソ連や中共がどうなるのか、こういうことについて伺つておきたいのであります。
  36. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 各国の代表部は、総司令官のもとに派遣されておるものでありまして、特にソ連の代表部は、対日理事会の代表として、総司令官のもとに派遣されておるのであります。従いまして、対日理事会がなくなる場合には、法律上ソ連代表部の存在の理由はなくなるわけであります。中共に対しては、まだここに代表部等がありませんから、問題はないと思います。なお通商代表部と申しますか、何かそういう別の形で置くかどうかということについては、まだ何ら私ども承知しておりません。
  37. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 これに関連いたしますが、現在総司令部の中に参つております中国の代表部というものは、最初のままで、いわゆる国民政府の代表としておるのか、中共政府の代表としておるのか、それらのところはどうなつておるのか、これを一応伺いたい。
  38. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 中国代表部は国民政府を代表しております。なお国民政府は、終戦当時降伏文書に調印したり、あるいは国際連合の一員として、その関係でもこちらに来ておるので、そういうような関係がずつと続いて、国民政府の代表として今日中国代表が来ておるのであります。
  39. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 先ほど同僚議員の質問総理お答えになりました通りに、政府日本に対する中共態度が改まらない限り、中共政府とは国交回復の問題には移らない、こういうことを明らかにされまして、台湾における国民政府との間に修好条約というか、そういうものについての交渉を進めておられるのでありますが、このことにつきまして、一体国民政府との間に条約ができ上つたあと中国全体、中国民全体と日本との間はどういう関係になるのか。このことについて伺つてみたいのであります。
  40. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 中国全部とか、あるいは中国民全部とかいうことになりますと、明確なことはむろん申し上げられないわけであります。総理も国会でお話になりましたように、中国国民全体とはなるべく早く善隣友好の関係に入りたいのであります。ただその組織している政府の性格等において問題があるわけであります。しかしながら、ただいま中国国民政府との間に通常関係を樹立したいという希望は、その一部で、実現可能な範囲でやろうとしておる問題であります。
  41. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 そういたしますと、中共地域との貿易関係はどうなりますか。もとより戦争前といえども中国本土との貿易はわが国の対外貿易総額の六、七パーセントにしかすぎなかつたのでありますから、積極的に中共地区との貿易を急いで考えなくてもよい、それよりも相手が希望している東南アジア諸国との関係に力を入れた方がよいというふうな見方もあるにはあるでありましようが、もし中共地域の人々から日本との貿易をいたしたい、経済行為をいたしたいと望んで来たら、この問題に対してどういうふうにおやりになるのか、これを伺つてみたいのであります。
  42. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ただいま国際連合は中共政府に対してある種の措置をとつております。政府は国際連合の決定にできるだけ、またできる範囲で協力することにいたしております。従つて国際連合の決定しておるある種の措置の範囲内のことについては、政府は国際連合の決定にできるだけ順応してやらなければなりません。それ以外の問題でありましたならば、貿易ということについては別に支障はないわけであります。ただこれも総理がしばしば言われましたように、中国と昔非常に大きな貿易があつたからといつて、今後そのような大きな貿易が回復できるかどうかということは、現在の中国大陸においては、強い計画経済を施しておりますから、あまり期待ができないであろうということは当然考えられる点であります。
  43. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次に、野党の一部の諸君は反対する人もあるようでありますが、国民の中にもその真意をいまだ十分に理解できない者もあるようでありますから、この問題を重ねて伺つておきたいのでありますが、中国日本との間に、さつき御答弁になりましたように、国交を回復するにあたつて台湾における国民政府を相手にしたという問題につきまして、特に伺つておきたいと思うのであります。一体中共政府を選ぶか国府を選ぶかということにつきましては、日本に与えられた自由課題としての選択権があつたようでありますが、これに対して大体国民考えておりましたところのものは、国際情勢中共のこの後の態度等をよく注意しておいて、当分どつちを選ぶかを保留をいたしておいて、その間には何らか便法の一時的の措置を講じておいて、将来のことに対処するであろう、こういうふうな考え方を持つてつた国民が多かつたのであります。ところが、急いで今回国民政府を相手として修好条約のごときものを結ぶ、こういうことにいたされた、その意味につきましては、先般本会議におけるところの野党の質問に対しまして、総理は、このことをやり、またこういうやり方をやるということをダレスさんに対して書簡をもつて回答を与えられたのは、米国批准に役立つからだ、こういう意味の御答弁があつたのであります。ここで私が伺いたいと思いますことは、米国批准に役立つ、こういうことだけでなくして、ほかにも相当に深い意味があつたのではないか、こういうふうに思つておるのであります。申しますならば、世間の常識というものと実際問題とは異なるごとぶ往往にしてあるのでありますが、さつき御質問申しましたように、平和条約が発効いたしますと、連合軍司令部はもとより解消する。従つて司令部の中にあつた各国の代表部ももとより解消する。この代表部が解消すれば、日本条約を結んでいなかつた国の機関は日本から引揚げねばならない。そうすると、何千年かの長い間日本善隣として特殊な関係にあつた隣邦中国との縁が、一時的であるにもせよ切れることになる。であるから、この一時的にもせよ縁が切れるようなことを防ぐために、まず国府との間に修好条約でも結んでおいて、その後適当な時期において中国全体を相手として善処いたしたい、こういつた理由が他にもあるのではないか。こういうことを考えておるのでありますが、米国批准に役立つということ以外に、そうした意味がありますかないか、このことを伺つておきたいのであります。
  44. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ただいまのお話も、なるほど理由のあることでありますが、われわれの方の考えから申しますと、元来国民政府は国際連合の一員であり、降伏文書の調印者であり、そうして対日理事会のメンバーでもあつて、ここに代表部があるわけであります。従つて政府ができるだけ多くの国と善隣友好の関係を樹立したいという方針から言いますと、国民政府はとにかく善隣友好の関係を樹立し得る態勢にあるものでありまするから、われわれの方針としては、中国全体の問題はしばらくおき、少くとも国民政府は通常関係を回復し得る相手方考えて来ておるのであります。それはつまり、もう既定の事実と言いますか前からきまつたことであります。それをただ総理が手紙で書かれただけのことでありまして、そうしてこの手紙を発表したということは米国批准等の関係もありましようが、その方針は前からきまつておるわけであります。政府としては、ほかの国々に対しても、でき得る限り早く、そうしてできる範囲で同じように善隣友好の関係に入りたい、そういう方針の一環としてやつておるわけであります。
  45. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 この次の問題は簡単に伺いますが、賠償の問題、先ほど上林山代議士からも質問があり、昨日私も大蔵大臣質問をいたしたのでありますが、あらためて総理大臣から伺つておきたいと思うのであります。と申しますのは、終戦以来、前例のない八千五百二十七億という大きな二十七年度の予算の数字でありまして、その中に含まれた平和回復処理費として対日援助費の返済、外貨債の償還その他対外債務の支払い、本邦人に対する建物等に対する補償等々と賠償とが合せてわずかに二百十億程度と予定せられておるにすぎないのは、少いのはまことにありがたいわけでありますが、これで済むかどうかということについては、大蔵大臣はこれでやれる自信がある、こういう確信のほどの御答弁があつたのでありますが、賠償の問題については、賠償の数字等についてはどう決定するかという点では今後の交渉に最善を尽す、賠償そのものは現金ではなくて役務賠償でやるのだから心配いらない。しかも条約の第十四条の規定によつて行うのであるから、日本国民経済を圧迫するようなことは絶対にしない。こういう答弁があつて、一応安心したのでありますが、この御答弁をそのまま私どもは確認をいたしてよろしゆうございますかどうかということについての総理の御答弁を伺つておきたいのであります。
  46. 吉田茂

    吉田国務大臣 大蔵大臣予算説明のときでありますか、はつきり申しておられた通り賠償問題がすぐ新年度から支払いを開始するということはあり得ない。交渉の結果、今後の交渉の間に額はきまるので、それに対してただちに支払いに入るということは考えられないから、本年度は幾らでありましたか、あの程度でもつてまかない得る。将来は将来でやるという説明をいたしたはずであります。また閣議においても、われわれはそう了解いたしておるので、本年計上した額が賠償のすべてではないはずであります。
  47. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次に伺いたいのは、ラスク特使一行との間に、日米対等の立場に立つて交渉が進められておりますところの行政協定に対しまして、最も私どもが深い関心を持つております点についてお伺いいたしたいのであります。現に国際情勢がきわめて険悪であり、ソ連、中共朝鮮動乱等、身近に不安が積つておるにもかかわらず、日本みずから国を守るに十分な防衛力がない。そこでわが国の希望によつて、日米安全保障条約が締結せられ、米国の好意によつて日本防衛のために、ある期間米国軍が日本に駐留することになつた事情については、私どもはよくこれを了承いたしておりますし、また日本がこれらの駐留軍に対しまして便宜を供与するということの約束をいたしておることも承知をいたしておるのでありますが、特に総理希望申し上げ、かつ伺つておきたいと思いますことは、この協定の中に、特に強く秘密協定などというようなものではなくても、広く一般に知られない協定というようなものが入りはしないか、こういうことと、第二は、この協定の中に治外法権的な要素が多分に織り込まれはしないかという心配、第三には、この協定の結果が将来日本国民経済力を強く圧迫するような多くの財政負担、すなわち主として防衛力に要する負担でありますが、こういうものが課せられることになりはしないかという三つの心配な問題であります。この三つのうち、秘密協定の問題につきましては、政府がしばしば秘密協定はないと言明しておられるところではありますが、ある目的のために国民を煽動しようとするものがあるようでありまして、さも秘密協定というような強い意味の何ものかがあるような言説を弄して、国民を特に惑わそうとするようなものがあるように思いますので、これをはつきりいたしておきたい、こういうのであります。  第二の治外法権的な強い要素が、もしこの協定の中に入るといたしますれば、これは国民が納得をするのに困るであろうと思うのであります。そうして、しかも国民を根強く動揺せしめるような結果となり、その間隙を縫つて大きな騒擾に導く、煽動しよう、こういうのが出て来るのを心配するからであります。  第三の財政上の負担については、これ以上申しませんが、その三つについての御見解を伺つておきたいのであります。
  48. 吉田茂

    吉田国務大臣 行政協定内容は、先ほど申した通り一両日前から入つたような状態でありますからして、内容はまだ確定いたしておりませんが、しかし秘密協定のごとき思想は何ら考えておりません。  それから第二の治外法権的の条項が含まないか。いわゆる治外法権的の条項は含みませんが、しかし米国軍隊として、ある軍律といいますか、規律のもとにある以上は、日本の裁判権等とは自然衝突する場合があるでありましよう。しかしこれは各国にも例のあることであつて各国の先例に従わないような、それ以上の負担はないはずであります。  それから負担が増すか増さないか、一応予算でもつて計上しておる通り負担よりはないはずであります。
  49. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次にあらためて、さらにはつきりいたしておきたいと思います問題は、二十七年度の予算におきまして、防衛力の増強を急がなければならなかつた点と、この防衛力の将来の問題に関しまして、なお国民に十分に理解を求めたいために、この御質問を申し上げるのであります。御質問申し上げます中に、昨日大蔵大臣に伺つたのと重複する点もあるかもしれませんが、第一は、二十七年度総予算額は八千五百二十七億に達しておりますが、二十七年度に国民所得が五兆三百億に達する見込みでありますから、その国民所得の割合からすれば、この予算は一七%弱であつた。画期的な減税に成功した二十六年度の国民所得と予算との割合が一七%であつたのと比較いたしますれば、やや少いくらいでありますので、もとより心配はいらないところの均衡のとれた予算と言い得るようであります。しかしながら、この八千五百二十七億円の予算のうちに、防衛費安全保障費警察予備隊費、海上保安庁費中警備救難費等、合せて一千八百二十三億が計上せられておりますために、総予算の中に占める割合が大きい。伺いたいのはこの点であります。これをさしまして、野党の一部諸君が、名目は再軍備ではないが、予算から見て再軍備である。国民に黙つて軍備をやるのはけしからぬ、用途の明瞭でない多くの予算を計上するのは、あたかも、かつての東条内閣における臨時軍事費に似たようなものであるなどと非難をするのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)しかしながら、この防衛力に関する予算は、三十六年度の終戦処理費より九百億程度多いのみでありますし、他面、日本経済力を安定せしむるための内政費も、二十六年度よりは二十七年度がはるかに多いのでありますから、この点も別に心配はないと思いますし、独立国となる日本の安全のためには、こうした防衛力に要する経費はなければならないものとは思うのでありますが、特にこのことをはつきりいたしておきたいと思いますのは、さつき申しましたような非難を一応はつきり解消させるということと、それから防衛力の関係を二十七年度になぜかように急がなければならなかつたという事情がどういう事情であつたか、このことと、それから二十八年度からさらに防衛力の漸増という言葉通りに、この経費がふえて行くのではないか、こういうことを心配するのでありますが、二十八年度からの予算につきましては、昨日大蔵大臣から、この程度以上ふやすことはないだろう、むろん国際情勢の変化や物価の変動等によつて多少は左右せられるかもしれないが、予算の面については大体この程度で行けるであろう、こういうことを伺つたのであります。ともかくさつき申しましたように、国民にこのことをはつきりいたしておきたいために、この防衛力をなぜこう急いでやらなければならなかつたかというこの事情を伺つておきたいのであります。
  50. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 事情と申しても特にありませんが、われわれは今年度、しかも早いうちに完全なる独立をいたす予想をつけておるわけであります。独立国として自衛力の漸増をはかるのは当然の責務と考えておりまして、国民生活を圧迫しない範囲で、できる限りのことをするのはこれはあたりまえの話であり、またしなければならぬことである、こう考え予算に計上したわけであります。  なお将来のことにつきましては、これはわが国として独自の見解で、その必要に応じ考えるわけでありますが、ただいま尾崎君の申された通り国民生活を圧迫しないで、今の見通しではそうえらい変動がない程度のものに来年度もなるであろう、こういう予想をしておるわけであります。
  51. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次に伺いますのは、防衛力と国民経済力というものとを調和をいたし、さらに少い防衛力の中にも筋金を強くして、また国連へ協力する点においても力強くやれる方法はないか、こういうことについて伺つてみたいのであります。総理は先ほどもお述べになりましたように、従来しばしば再軍備ということは急ぐべきことではない。今考えていない。国民経済力が将来安定した場合あらためて相談の上できめたい、こう言われて来たのでありまして、これは新憲法の精神にも沿うことはもちろんでありますし、また国民もこの総理態度に非常に賛成をし、共鳴をいたして参つて来ておるのであります。でありますから総理の信念であり、方針であるところのそのやり方に経済力を合して行き、防衛のやり方を合して行く、こういう点から考えまして、このことの質問を申し上げるのであります。まず二十七年度の予算程度でもつて、さつき御答弁なりましたような、大体やつて行ける見通しではあるが、物価の変動があつたり、あるいはまた国際情勢の変動があつたりいたして、これをふやさなければならないというような場合がありましても、なるべくならば予算をふやさない、二十七年度程度でおいて、これらに要するところの経費をできるだけ国民経済力開発のための内政費に充てる、こういうやり方ができるかできないか。これを要約して申しますというと、真の防衛力と強くするためには、まず国民経済力の充実のために、いわゆる防衛力を強くするための期間を置いておく。この期間を置くことを米国にも、あるいはまたわが日本国民にもよく了解を求める。その了解を求めて、国民経済力を強くせしめるという期間を、せめて三年間ぐらいは中を置いて、四年目あたりから防衛力、あるいは将来は国民の賛成を得て、再軍備ということになるかもしれないでありましようが、ともかくそうした防衛力を強くするというまでの間、国民経済力を強くするという問を置いて、その期間を置いたあとから防衛力の方に相当力を注いで行く。その間はもとよりアメリカ日本安全保障については全幅の御信頼を申し上げる、こういつたみたいな区切りをつけたやり方ができないか、このことを伺つておきたいのであります。
  52. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 御説はまことにごもつともでありまして、総理初めわれわれの気持はむろんできるだけ国民経済を発展させたいというところにあるのは当然であります。ただ国民経済の発展ということと国内の治安維持ということはうらはらでありまして、国内の治安維持がはつきりしており、国民が安心したときにやはり経済の発展ということも考えられるのでございます。片方だけやつて片方だけ全然ほうつておくというわけにも行きませんと考えております。従つてでき得る限り国民生活の安定をはかりつつ、余力をもつてこれまた自衛力の漸増ということを行つて行くのが至当であろう、こう考えるのであります。
  53. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 次に伺いたいのは、警察予備隊と海上保安庁関係の訓練についてであります。警察予備隊、海上保安庁に対しまして、その任務に必要な技術や行動に対しての訓練が行われていることは承知いたしておるのでありますが、その技術や行動の中心をなすべき精神訓練はどういうふうの模様に相なつておるか、このことをお伺い申し上げてみたいのであります。
  54. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 警察予備隊等の筋金と申しますか、根本精神という面の御質問のようでありますが、これは昔と違いますので、いろいろの旗じるしを掲げて行くということはなかなか困難であります。それでわれわれはまず民主主義の擁護という点に重点を置きまして、さらにそれに何と申しますか、ヒューマニズム(発言する者あり、笑声)というようなものを加味させて、正しい道、新しい国を守るという考えから、デモクラシーを根幹とした防衛力の漸増ということを考えておりまして、特にえらい旗じるしというようなことは考えておりません。
  55. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 私はその点をもう少しはつきりいたしておきたいのであります。と申しますのは、いまさら私は昔の古い意味の精神訓練というようなことを申しておるのではないのでありまして、ただいま御答弁になりましたような民主主義の行き方でなければならないことはもちろんではありますが、いわゆる新しい時代に順応して行けるところの、そうして治安を守り真に祖国の防衛をするためには、また世界の平和のためになることであるならば、身をもつてこれに当るという愛情の深い精神が、防衛力の中核をなさなければならぬ、こう思うからであります。ただ組織を拡大してみたり、技術のことを習わしてみたりいたしましても、その内容が強く整つておらない限りにおきましては、その効果を十分に上げることができないだけでなく、かえつて日本の将来のために禍根となるおそれがあることを心配をいたしますので、今後の予備隊、海上保安庁というものに対して、ただ民主的というようなことでおくことな上に、さつき申しました新しい愛情に基くところの、身を挺して祖国のために当る、人道のために当る、こういつた深い何らかの精神訓練というものをおやりになる用意があるのか、御構想があるのか、この点をもう一ぺんはつきり伺つておきたいのであります。
  56. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 御説はまことにごもつともであります。われわれもそう考えております。そして今は占領下にあるものでありますから別でありまするが、おそらくいよいよ独立して独立国たる責務を国民が感ずるときは、予備隊員も当然それを感ずるでありましようし、その間から新しい一つの国を守るという精神が出て来ることを期待しております。
  57. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 その点はできるだけひとつ答弁のような趣意を強化していただくように要望いたしておきます。それから最近新聞にもちよいよい出るようでありますが、保安省とか治安省とかいう、特に日本の治安や防衛のために必要な省をお設けになるお考えがあるのかどうか、このことを伺つておきたいのであります。
  58. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ただいまいろいろ研究中でありまして、まだ結論が出ておりませんので、しばらく御猶予を願いたいと思います。
  59. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 結論は出ていないが、目下そのことについて考究中である、こういうわけでありますか。
  60. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 その通りであります。
  61. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 ついでにこのこともはつきりいたしておきたいと思うのでありますが、最近特に日本の防衛力を強くしておいて、国連協力の名において急いで朝鮮その他に警察予備隊等を出動せしめるようなことがありはしないか、こういうことを申しておる者が相当にあるようでありますが、日本の警察予備隊等を強くしておいて、国連協力の名において朝鮮その他に出動させるという、そういうようなお考えがあるのかないのか、近い将来そういうことが出て来るのか、出て来ないのか、このことを明らかにしておきたいのであります。
  62. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 警察予備隊等は、国内の治安維持に当るものでありまして、いわゆる間接侵略に備えておるものでありますから、朝鮮等にこれが出て行くということはとうてい考えられないことであります。
  63. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 あと一問で終ることといたしますが、特にこの際心配をいたしますことを伺つておきたいと思います。それはいわゆる防衛力等の経費というものが、二十七年度の予算相当盛られております結果、これらのものが直接物に結びつく予算でないがために、これらの経費を使うがためにへ相当インフレを激化しやしないか、こういう心配を私どもは持つておるのでありますが、このインフレを激化したい、インフレを押える、こういうことは数年来吉田内閣が特に力を尽されたところなのでありますから、この二十七年度の予算によつてインフレを激化しないということについて何らかのお考えを持つていらつしやるかどうか、このことを伺いまして終りといたしたいと思います。
  64. 周東英雄

    ○周東国務大臣 予算の執行にあたりましては、お話の点は十分考慮いたします。もちろん必要な箇所に対する財政投資その他については十分やりますとともに、不急不要の用途はできるだけ金融的に引締めるということを考えつつインフレの動因を押えることにいたしたいと思います。同時に今日生産の増強ということから、必需品の需要ということもあわせ考えつつインフレに対処するつもりであります。
  65. 尾崎末吉

    尾崎(末)委員 他の大臣の質問保留いたしまして、総理大臣に対する質問はこれで終りたいと思います。
  66. 塚田十一郎

    塚田委員長 午前の会議はこの程度にとどめまして、午後一時より委員会を再開して質疑を継続することといたします。  これにて休憩いたします。     午後零時五分休憩      ――――◇―――――     午後一時二十一分開議
  67. 塚田十一郎

    塚田委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  これより質疑を継続いたします。中曽根康弘君。
  68. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 吉田内閣総理大臣に対して御質問申し上げます。  過般のトルーマン、チャーチル会見におきまして、米英両国寒の間に対ソ政策の転換があつたような情報が伝えられております。すなわち朝鮮の休戦あるいは日本との関係における台湾政府の限定的な存在を承認、あるいは駐ソ大使としてケナン氏の任命、こういうような兆候は、従来の封じ込め作戦より、対ソ寛容政策と申しますか、そのような政策ヘアメリカイギリスも移行しかけているのである。もしこういうようなことが真実であるとしますと、アメリカの現在の軍備拡張経済にやや変化が来ていて、それが本年度の日本経済にまた相当な影響を及ぼすのではないかとも考えられるのであります。この点に関しまして、総理大臣はいかなるお見通しをお持ちでございますか、お尋ね申し上げます。
  69. 吉田茂

    吉田国務大臣 ワシントンにおけるチャーチル首相とアメリカの大統領との話合いの実相についてはいまだ存じません。ただわれわれのたよるところはコミュニケだけでありますが、コミユニケによると、対ソ問題はどうか知りませんが、しかしあるいはお話のような、対ソ関係において相違を来したのかもしれませんが、これは私は存じません。少くとも中国に関する関係においては、多少違つて来たんではないか、そういえばコミユニケの中に、ブロード・ハーモニー・ニュースということが書いてある。これなども――これは私の解釈でありますが、多少の相違はある、意見の相違はあるが、しかしながらブロード・ハーモニーはでき上つた。大局において、大筋において意見の一致を見たというような意味ではないか。しかしこれは私の想像でありますから、確実な証拠を持つて言うわけではありませんが、そういう感じがいたします。
  70. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 われわれが一番知りたい問題は、アメリカ軍備拡張経済が、今年はどういうふうになるかということでございますが、この点に関しまして総理は、いかなるお見通しをお持ちでございますか。
  71. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはさつぱり申して、私においてはここで意見を申し述べるだけの材料はありませんから、私としては意見の開陳を差控えたいと思います。
  72. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に、ソ連の方の動きを見ますと、御存じのように、四月にはモスクワにおいて経済会議を開くということもいわれております。あるいはまた年頭のメッセージを日本にも送つて来ております。あるいはECAFEの会議や、その他全般的な政策を見ますと、ソ連も対立を緩和するような政策に出るのではないかと見られております。ソ連のこのような微笑政策――スマイリング・ポリシーといいますか、このような微笑政策は、一体真の平和を求めての動きであるか、あるいは戦略的な動きであるのか、この点について総理大臣の御見解をお示し願いたいと思います。
  73. 吉田茂

    吉田国務大臣 ソ連の少くとも日本に対する政策が、多少緩和されたとも考えられますが、これはしかし言葉の上の緩和であつて、事実においてはどれだけの事実があるか、未帰還者の問題についてもそのままであります。その他未解決の問題は依然としてそのままになつておるのでありますが、言葉だけでも、日本に対して緩和した言い表わし方、これは非常にけつこうなことだと思います。しかしながらただちにこれについてとやこやの批評はいたしたくないと思いますから、差控えたいと思います。
  74. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 スターリンがともかく年頭のメッセージを外国の国民に送つたということは、非常に画期的なことでありまするが、米英における会談あるいはソ連の動き、こういうものを見ますと、それが戦術的なものであるか、あるいは真に欲してやつておるのか、これは別といたしまして、ともかく世界の対立が緩和して来つつあることは、御同慶にたえないと思つておるのであります。こういうやさきにソ連がメッセージを送つて来たのでありまするが、これについての総理大臣新聞記者団に対する考え方の御披瀝を見ますと、何となく、ラブレターを送つて来たのをけんか腰で突き返すような、不粋な印象を与えておるのであります。こういうやり方がはたして今後の日本にとつてよろしいかどうか、私は疑問に思うのでありますが、総理大臣はこの点に関して、ソ連に対してどういうような態度を今後おとりになるか、お尋ねしたいと思います。
  75. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は元来不粋な者でありますから、粋な外交なんぞできませんが、スターリン首相のメッセージに対しては、私は批評を差控えます。
  76. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 新聞紙その他の伝えるところによりますると、モスクワの経済会議が近く行われるやに承つております。この経済会議に、日本の著名な人たちが招請されているということでございますが、この旅券の発給に関しまして、日本政府にやや難色があるやに、昨日の外務委員会でも承つております。この点に関しまして、総理大臣はいかなる御見解をお持ちでございますか。
  77. 吉田茂

    吉田国務大臣 政府としては何ら正式の交渉を受けておりませんので、お答えはできにくくあります。
  78. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 政府として正式の交渉を受けていないというお話でございますが、すでに、たとえば石橋湛山氏であるとか、北村徳太郎氏であるとか、あるいは村田省藏氏であるとか、こういう人が候補者に上つておるようであります。これらの人々が、鉄のカーテンを越えて向うへ入るということは、日本の前途のためにも私は好ましい結果を生ずると思うのでありますが、総理大臣は、こういう方が行かれることに対して、いかなるお考えでございますか。いけないというのか、あるいはけつこうだというのか、政府方針だけをお示し願いたいと思うのであります。
  79. 吉田茂

    吉田国務大臣 この問題が内閣の問題として具体化された場合は考えますが、いまだ何ら交渉を受けておりませんので、お答えできにくくあります。
  80. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 旅券法の第十三条によりますと、旅券を発給しない場合は次の場合だと書いてあります。一項から五項までありますが、第四項までは刑事犯罪やその他のものが規定されておりまして、第五項に、「外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」こういうふうに書いてあります。北村徳太郎氏や石橋湛山氏が、直接に日本の利益を害したり、公安をそこなうおそれがあるなどということは、われわれは毛頭考えないのであります。従つて、こういう方々がもし行かれるような場合になつたら、政府は当然この法律に基いて旅券の発給をやらなければならないと思うのでございますが、総理大臣に重ねてこの点について承りたいのでございます。
  81. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 別にまだ旅券を出すとも出さぬとも言つておるわけじやないのでありまして、総理のおつしやるのは、具体的な提案があつたときに、その事実に基いて考えるということでございますから、旅券の問題は、まだ何も問題になつておらないわけであります。
  82. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかし、このことはきのうの外務委員会ですでに取上げられておりまして、政府委員答弁しておるのであります。政府側がそのように将来の問題として逃げておるということは、まさか石橋湛山氏が鳩山派であるといわれるからでもございますまい、北村徳太郎氏が反吉田の巨頭だから逃げるわけでもございますまい。私は政府の善意を信じまして、この質問はこれにとどめます。  その次にお伺いいたしたいことは、米上院の公聴会において、ダレス氏が正式に証言しております、その証言の中に、ワイリー共和党上院議員がヤルタ協定について質問したのに対しまして、ダレス氏は、対日条約はヤルタ協定を正式にはつきりと廃棄する最初の措置であり、われわれがヤルタ協定により課せられた義務からも、全面的に解放されることを初めて公式に認めるものである。ヤルタ協定はすでにソ連によつて侵害されている、こういうふうに証言しております。ヤルタ協定の取扱いにつきましては、総理大臣つて言明があつたと思うのでございまするが、アメリカ側からこのような正式の見解が表明されたのに対しまして、総理大臣はいかなるお考えでありますか、もう一回明確にしていただきたい。総理大臣お尋ねをいたします。
  83. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 元来ヤルタ協定は、日本の全然関与しない協定でありまするから、これについてアメリカ側でどういう発言がありましても、それは英・米・ソ三国間の関係でありまして、われわれの方は関与しないことになつております。
  84. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 かつて私は、総理大臣にこの問題を御質問申し上げました。そのときの総理大臣の御答弁は、私は明らかに覚えております。アメリカ側の見解としては、約束したことは必ず守る。ヤルタ協定につきまして私が質問したときに、こうおつしやつた。そして、このヤルタ協定に関しましては、アメリカ側の議論としては、これを否定するような見解があるが、総理大臣の御見解いかんと聞きましたところ、アメリカ側の見解に従います、こういう御答弁をなすつて、ヤルタ協定は第三国の問題だから関知しないということは触れておりません。今回になつて急にそういうことを言われるのは、はなはだ私はふかしぎに思うのであります。ヤルタ協定の内容は、御存じのように、日本に影響するところきわめて大であります。たとえば南満洲鉄道の問題がある。これは対日賠償の問題ともからんで来る問題であります。あるいは大連港を国際港に開放して、ソ連が管理する、こういうような問題もあります。あるいは旅順港をソ連の軍事基地として貸与するという条項もあります。これらは日本の将来にとつてきわめて重大なことを意味しておるのでりまして、われわれはこれを無視するわけに参らないのであります。従つて日本側としても、われわれはアメリカ側の見解を喜ぶものでありますが、日本側の政府としてはどういう考えを持つておるか、国民に示すことは国民に対する責任であると考えるのでありますが、重ねて総理大臣に承りたいと思います。岡崎国務大臣は、外務大臣代理だそうでありますから、外務大臣でいらつしやる総理大臣の御見解を承りたいと思います。
  85. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎国務大臣から答弁いたします。
  86. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ヤルタ協定の結果が日本に影響のあることは私も認めます。しかしながら元来これは三国間の協定でありまするから、アメリカ側の意見がプリヴエイルしてヤルタ協定が廃棄になるかならないか、これはわかりません。しかし、なればけつこうだとは思いますけれど、いずれにしても三国間の協定でありますから、われわれの方からとやかく言わずに、この決定を待つ以外に方法はないのであります。
  87. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次にお伺いいたしますが、賠償の問題であります。賠償問題につきましては、すでにフィリピン側において八十億ドルを要求されたといわれて、われわれ国民を憂慮させております。インドネシアとの問題におきましても、あるいは今後の問題におきましても、相当な困難が参ることを、われわれは予想しておるのでありますが、八十億あるいは二百億ドルというものを要求されておつては、われわれとしてははなはだ迷惑であり、払う能力もないと思うのであります。そうなると当然この問題は非常にもつれて参りまして、いろんな対外関係において、日本の将来のために心配しなくちやならないと思うのでありますが、こういう問題の解決について、第三国の介入を欲する、たとえばアメリカに対して公平なる見解を求めるとか、あるいは国際機関のあつせんを求めるとか、こういうことも一つの方法ではありますが、しかし、そういうような方法を私はいいとは思わない、やはり当該国において最後まで交渉誠意をもつて持続すべきだと思う、またそれを解決すべきだと思うのですが、政府側はこういう問題につきまして、いかなる御方針をお持ちでありますか、お尋ね申し上げます。
  88. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 賠償関係では、今おつしやつたようなむずかしい問題はあることはあります。しかし、われわれは誠意をもつて賠償のみならず経済協力その他においても、できるだけ善隣友好の関係を保つて行きたいと考えて、今話合いを進めておりまするから、必ずやわれわれの誠意を了解されて、円滑に解決するだろうと信じております。ただいまのところ、できるだけまじめに誠意をもつて努力するということ一つで向つております。
  89. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 まじめに誠意をもつておやりになるということをわれわれはしばしば聞いて、非常に御同慶に存じておるのでございますが、しからば現在フィリピンやインドネシアその他の国々の日本要求しておる額から見て、昭和二十七年度の予算に盛られたあの百十億であるとか、昨年度分を入れて二百十億、これが対外的に見て誠意を示したと客観的に考えられましようか、考えられないとするならば、政府に何らかの将来の措置が用意されておらなければならないと思う。この点について、政府はいかにお考えでございますか。
  90. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 元来賠償の正式の交渉は、講和条約発効後に行われるものでありまして、ただいまやつておりますのは、いわば予備的の会談であります。従つて前に大蔵大臣からも御説明がありましたように、四月一日からただちにそういう費用がいるとも想像できませんので、今年はこの程度でまかなえるであろう、こういう考えであるのでありまして、額がどうだから誠意が足りないとかいう意味では決してないのであります。
  91. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 誠意を示すと言われておりますが、実際日本としてはないそでは振れない実情にあります。しからばないそでは振れないという誠意を、具体的にどういう形で示しますか。会議の席上においておじぎをうんとするとか、あるいは言葉をやわらげるとか、そんなことではきかない問題であつて、何らか政府としての正式の措置ができなければ、誠意を示す方法にはならないと思いますが、具体的にいかなる誠意の示し方をするのか、総理大臣お尋ねいたします――これは総理大臣にお願いいたします。
  92. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎国務大臣の方が、私よりもつと正確なお答えができると思いますから譲ります。
  93. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 今申しました通り賠償の話合いというものは、必ずしも額を値切ることをもつて能事足れりとするものではありません。要するに先方は戦争による被害をできるだけ回復したい、復興したい、こういう考えであると思いまするから、経済協力というような面からもできるだけ協力をいたし、その他国民生活をそこなわない程度で、でき得るものは賠償方面でもできるだけ努力する、こういうことで行きたいと思います。具体的な話合いは漸次これから進めて行くわけであります。
  94. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に、吉田総理大臣兼外務大臣にお尋ねいたしますが、現在フイリピンと台湾使節団行つており、あるいはこれから行くことになつております。そこでフイリピンへ派遣されました津島使節団は、いかなる権限を持つて行つておるのか、単に向うの御用を承つてあいさつして来るだけのものであるか、あるいはある程度の抽象的なとりきめをする権限まで与えられておるのか、政府の訓令の内容をまず外務大臣にお示し願いたいと思います。政府の外務大臣である吉田外務大臣にお願いいたすのでございます。
  95. 吉田茂

    吉田国務大臣 将来の外務大臣からお答えいたします。
  96. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 津島顧問は日本の代表者としまして、必要があれば協定を作成し、またこれに署名する権限を与えられております。
  97. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 河田烈氏が台湾政府に対する使節団として派遣されるように承つておりますが、河田使節団の権限はいかなるものでございますか。
  98. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 台湾に派遣する使節団につきましては、まだ閣議にも諮つておりませんし、これは今後の問題であります。
  99. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に東南アジアの開発問題につきまして、総理大臣お尋ね申し上げます。この東南アジアの開発という問題は、国際的にもかなりデリケートな問題でありまして、中国問題あるいは東南アジア、一番あの辺で力を持つております英国との問題があると思うのであります。しかし一方アメリカ側におきましては、東南アジアの開発に、かなり力を入れているということも、モロー氏やその他の言明によつて承知しておるのでありますが、この点に関して日本が東南アジアに進出することに関して、米英の間にいかなる話合いがあり、日本イギリスとの間に、いかなる了解のもとに、今後進出するか、その基本的な話合いや了解があつて、しかる後に経済的な進出が行われると思うのでありまして、政治的な基本的了解につきまして、吉田外務大臣にお尋ね申し上げます。
  100. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎将来の外務大臣からお答えいたします。
  101. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 この問題につきましては、たとえばアメリカのポイント・フオアとか、経済協力とか、あるいはコロンボ会議等、いろいろな関係はありまするが、われわれはこういう点を考慮しまして、将来に当る準備をしております。しかしながらまだ何ら根本的な話合いをやつたというところまでは行つておりません。
  102. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 日米経済協力と東南アジアの開発ということは、過般の各大臣の施政方針演説にも盛られておつたことであります。あれほど力を入れて宣伝している問題が、まだ基本的な了解なしに行われているということは考えられない。もしそうであるならば政府の怠慢と無責任たるや、はなはだしいといわなければなりません。ないのか、ないとすれば無責任です。隠しているのかどうか、もう一回その辺を説明していただきたいのであります。あの施政方針演説は空虚な内容でなされたとは、われわれは解しません。
  103. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 決して施政方針演説等は空虚な内容ではないのでありますが、基本的な話合いと申しますものは、結局独立後に行われるものでありまするから、まだ今のところは準備時代であります。
  104. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば準備時代に、いかなる考え方を用意しておられますか、お尋ね申し上げます。
  105. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 われわれとしては、でき得る限り、いかなる国とも経済協力をし、もしわれわれの方でできることならば、経済回復あるいは開発に尽力したい、こういう考えは持つておりますが、同時に戦争以来何と申しますか、経済侵略といいますか、こういうような、日本側で経済的に出て来て、何か経済的な侵略でも行うような懸念を持たないとも限りませんからして、この点については極力注意をいたしまして、先方の欲する人、欲する方面の援助、こういうことをいたしたい。こちらから進んでむやみにいろいろのことをやらずに、むしろ先方の希望を受けて、できるだけの援助をいたしたい、こういう考えで進んでいる次第であります。
  106. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 今の岡崎国務大臣の答弁は、非常に重要な問題に触れているだろうと思うのであります。私は総司令部のモロー氏と会いまして、いろいろ承つたときに、あの東南アジア関係を担当しておられるモロー氏が一番言われたことは、政府に積極性がない、政府に計画性がない、このことに尽きておつたのであります。日本の将来を見ても、資本の蓄積、それから安定した市場を持つこと、これが自立経済達成に一番大事なことでありますが、その安定した市場を持つということは、外交的な話合いのもとに経済的になされなければならない。かつて日本は、これを軍事的にやつて経済的に出て行つたわけであります。しかし外交的になすということは民主的なやり方でありまして、その外交的な、積極的なプラン、これが先行しないから今のように遅れているのであります。政府は、しからば一体いかなる地点にいかなるものを開発するか、そういう地区ごとの積極的な開発計画がありますか、いかがでございますか。
  107. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 われわれは人の国に向つて、かつてに自分の計画を押しつける考えはごうもありません。先方の希望に従いまして、できる限りの尽力をいたします。
  108. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 何も人のところへ無断で侵入しろと言つているのではありません。東南アジアの各国も要望しておることであります。またアメリカもそれを非常に希望しておることであります。この点につきましては、双方の話合いで積極的な日本の政策というものは展開できる。この点が吉田内閣の現在の対外的経済政策の一番脆弱な面であります。ただいまの岡崎さんの御答弁でもはつきりしておることであります。この点については政府の深甚なる反省を要望いたします。  第二の問題は、中国との問題であります。平和条約第二十六条によりますと、日本は平和会議に参加しなかつた調印しなかつた国々と、平和条約をあの原則によつて結ぶことが認められております。そこで残つているのは、アジアではインドと中国であります。この中国の問題というものは、実に重大な問題であるだろうと思うのであります。いかなる形態で今後中国との全面的和平を達成して行くかということは、これからの歴代の内閣最大課題になつて行くだろうと思います。そこでそういうことを始める前提として、中国の実態に対する調査は、事前になされなければなりません。われわれが中国との和平を展開できるとすれば、中国の実情を知るだけの権能がまた与えられていなければ、実際はできないわけです。従つて第二十六条を結んだということは、中国の実態に関するわれわれの情報収集や、その他の調査の権能が与えられておると解釈しておるのでございますが、一体政府は現在の中国の実態というものを、いかにお考えになりますか、まず中共政権の内容についてお尋ね申し上げるのであります。朝鮮和平を持つて参りましたことは、中共とソ連の間である程度の話合いがあり、中共経済やその他の面に、ある程度の問題があるから、こういうのが出て来たと思うのでありますが、どういう理由で中共はああいう方向へ出て来たとお思いでございますか、お尋ね申し上げます。
  109. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 われわれはまだ朝鮮とか中共とかに代表者も置いておりませんので、この点は十分な情報も持つておりません。従つてここで御答弁するのは差控えたいと思います。
  110. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 情報も持たず、調査もしないで、台湾を選ぶとか北京を選ぶということはあり得ない。そんな盲のようなことでやつたことですか、そんなことは絶対あり得ないのです。そんなふうに隠さないで、中共はこういう状態である、台湾はこういう状態である、アメリカイギリス考えはこういう状態である。だからわれわれは台湾とこういうような関係を結んだ……。それが正しい親切な政治のあり方です。それをこの国会を通して国民が望んでいるのであります。どうか政府は公明に御見解をお漏らし願いたい。中国の中で中共が現在いかなる状態にあるのか、特に朝鮮の和平を持つて来るのは、中共内部にかなりの動揺もある、民族派の台頭がある、かなりの困難もある。しかし一方においては、ソ連側からの圧力もある。そういういろいろなことも聞いております。政府の知つている範囲のことを虚心坦懐にお示し願いたい、これは岡崎さんは知らないかもしれないが、吉田総理大臣は知つているはずであります。吉田総理大臣にお願いいたします。
  111. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎大臣の方が私より正確でありますから……。
  112. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 ちよつと待つてください。吉田総理大臣にきようわざわざ御出席を求めるために、委員会をこんなに延ばして来た。そうしてけさから初めてこういうように行われた。吉田総理大臣は何のためにここへおいで願つたのでありますか。岡崎さんで間に合うならば、何もきよう吉田総理大臣のお越しを願う必要はないのであります。総理大臣としてのお答えを私は要求いたします。
  113. 吉田茂

    吉田国務大臣 総理大臣といたしましてお答えいたしますが、答弁は正確を要しまするからして、私よりも岡崎君の方が正確な御答弁ができると考えて、そう申し上げたのであります。
  114. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、吉田総理大臣考えておることは、正確でないということになるのですが、しかしあの書簡がどういう名前で出たかというと、吉田茂という名前でダレスさんにあててあります。従つて吉田茂氏の責任においてなされたことでありまして、知らないということはあり得ないのであります。吉田総理大臣にお願い申し上げます。
  115. 塚田十一郎

    塚田委員長 中曽根君に申し上げます。総理大臣が他の国務大臣をして答弁をさせられる場合には、他の国務大臣が総理大臣のかわりに答弁をいたすわけであり、従来ともその例に従つて来ておるわけでありますから御了承願います。
  116. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 今御質問の点は、吉田総理からダレスさんにあてました手紙に明らかな通りでありまして、中共につきましては、国際連合において、中共に対しある種の措置をとつておる、また中ソ同盟条約日本に向けられたる条約考えられる、また中共方面では、日本の内部撹乱にある程度の力をいたしておる、こういうことが認められますので、この際中共条約を結ぶ意思はない。他方国民政府に対しましては、けさほども申しました通り、降伏文書の調印者であるし、また国際連合の一員であるし、対日理事会の一メンバーでもあり、現に中国代表部をここに設けておる。われわれは、この国民政府とは善隣友好の関係に入り得る関係になつておるのであるからして、日本全体の善隣友好関係を実現しようという一環として、この際国民政府条約を結んで、通常関係をもたらそう、こういうことであります。
  117. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 書簡のことはあとお尋ね申し上げます。私が御質問を申し上げておりますのは、中共の内部がいかなる実態にあるか。政府は、これをいかなる見通しのもとに、現在の政策を進めているかということであります。すでに御存じのように、南支の方におけるいろいろな動きや、あるいは将領系の動き、政治家は非常な国際派が多いそうでありますが、将領は案外そうでないという話もあるそうでありまして、そういういろいろな内部の実態を認識した上で、これはこうだという決断の上でやつたに違いない。その中共の将来及び現在に対する認識を国民にお示しを願いたいと思います。
  118. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 その点は先ほど申しました通り、われわれはそういう内部のことに立ち入つての正確な情報は持つておらない。しかしながら中共を承認すべきであるかどうかということ、あるいは国民政府条約を結ぶべきであるかどうかということに対しては、先ほど申しました通りであります。
  119. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 代表部がいるとか、あるいは国連で承認されているとか、そういう法律形式的な問題ではない。われわれの隣におる国の内部のことです。隣の家の状況がわからないでは、これとどういう交際をするかわからない。これはフランスやパラグアイやアルゼンチンならば法律形式論でやつてもよろしい。しかし隣のうちの状態を知らないで、隣のうちと交際することはできない。これは中学生が聞いてもわかることである。そういうことに対して二十六条によつてわれわれは選択権を認められた。しからば調査する権能も付随して認められておるはずである。従  つてこの点に対しては私は執拗に岡崎国務大臣に御質問申し上げます。
  120. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 何べん御質問を受けましても、われわれは調査をすべき機関をただいま持つておらない。そしてあなた方が、あるいは中曽根君がお持ちになつている情報以上のものを、われわれも持つておらないのであります。しかしながら先ほど申したように中共に対してどういう考え方を持つべきかという根本の点については、先ほど申した理由によつて明らかだろうと思います。
  121. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 政府がそういうような浅薄な、しかも軽卒なやり方でやつたということは、これでわかつたと思う。私はそれ以上聞きません。  もう一つ、この点でお聞きしたいことは、最近中国から日本に来ていらつしやる方が相当多いようであります。この中国人の中には国民党系の人もおりましようし、中共系の人もおります。しかし大部分の者は中国人の中国を建設する、日本とは善隣友好の関係を結びたい、そういうアジア同族意識に燃えた人たちが非常に多い。明治のころ孫文やあるいはその他の人が来たときに、日本においては、政府はどうしたか私よく知りませんが、しかし少くとも民間側はこれらの志士に対しては、相当な待遇を与え、友好関係を結んでおりました。こういう関係は今後においては、ますますはげしくなると思うのであります。私たちが知つておる範囲におきましては、そういう方々は日本をまだ相当頼みにしておる。当てにしておる。日本にそれだけの実力があるかどうかわかりませんが、国力に相応しただけのある程度の相手になることは必要だと思うのであります。この点に関して政府はいかなる態度をおとりになりますか。政府としてあるいは民間に要望することとして、その二つについてお尋ね申し上げます。
  122. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 政府としていろいろやるということもなかなかむずかしいと思いますが、元来われわれは中国国民に対しては、最も深い友愛の感じを持つておるのでありますから、これらの人々が、できるだけ日本において優遇されんことを希望することは当然であります。
  123. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣お尋ね申し上げます。十二月二十四日に総理大臣はダレス氏に書簡をお送りになりました。国会開会中であります。休会中でありましても国会開会中であります。しかもあの書簡はまつたく突然意表外に出た書簡であります。何ゆえに国会開会中にもかかわらず、ああいう書簡を独断で急に出す必要があつたのか、それほど切迫した事情があつたのか、その辺の状況をお示し願いたいと思います。吉田総理大臣にお願いいたします。吉田総理大臣の名前でやつたのですから、吉田総理大臣にお聞きしたいのです。
  124. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは前の外務大臣、前大臣の名前においてされたものでありまして、行政事務にしても後の外務大臣が引継ぐのが当然であります。ゆえに私の名前で出した書簡にしても、私の名前でもつて結ばれた条約にしても、後の外務大臣がこの責任をとり説明をするのが当然の話である。
  125. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 岡崎氏はまだ外務大臣ではない。従つて現在外務大臣でいらつしやるのは吉田氏でありますから、吉田外務大臣にお尋ねいたします。
  126. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎国務大臣をして答弁いたさせます。
  127. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 先ほど繰返して申し上げましたように、吉田総理大臣に御出席をお願いいたしましたのは、総理大臣あるいは外務大臣としての御見解をお漏らし願いたいということであつたのであります。岡崎さんにここに御出席を求めてやる日ではないのであります。従つてたいへん御大儀ではございましようけれども、外務大臣である総理大臣にお願いいたします。
  128. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ちよつと私はつきり聞きとれなかつた点もありますので、もう一度ひとつ……。
  129. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 岡崎国務大臣ではなくて、私は外務大臣に申し上げておる。従つて外務大臣はお聞きとりのようですから、どうか外務大臣からお答弁を願います。
  130. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 先ほど委員長から申し上げたように国務大臣は総理大臣のかわりに答弁できるのでありまするから、もう一度ひとつ説明を願いたいと思います。
  131. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば申しましよう。十二月二十四日に吉田茂氏の名前でダレス氏に手紙が出たが、あれは国会開会中である。しかし前後の状況から見て、あのように突然意表外にああいう重大な書簡が、国会や国民の知らない間に出されるということは、よほど切迫した事情があつたのだろうが、現に国会は開かれておつた、あの時は自然休会中だつたから、開こうと思えばいつでも開けるわけです。そういうことを無視して、急に意表外に出たということは、よほど切迫した事情があつたのだろうが、その切迫した事情をお示し願いたい。
  132. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは何べんも申し上げました通り政府方針としては、善隣友好の関係をできる限り樹立するという意味からいつて国民政府となるべく早く条約を結び、これと通常関係に入りたいというのは、これは既定の方針であります。従つてあの手紙は新しく事態をつくり出したというのではなくして、今までの方針をそのまま紙に書いたものであります。ただ、総理説明されましたように、その後になりまして、この書簡上院に提出したいという先方の話でありましたので、それならばこちらでも発表しようということで発表しただけであります。なおこの種の事務は行政の一部でありまするから、内閣の責任において行われることは当然であります。
  133. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 政府の既定方針を紙に書いただけだと言われるならば、それでは十二月十六日にやつてもよかつたわけです。あるいは一月二十二日にやつてもよかつたわけです。その間をねらつて――言葉は悪いが空巣ねらいみたいに行われたのはどういうわけでございますか。なぜ十二月十六日にやらなかつたか。
  134. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは行政府の責任において行う手紙でありまするから、国会の開会中であると閉会中であると、あるいは休会中とを問わずいつでもできるのであります。ただ偶然あの日に手紙を出した、こういうだけであります。
  135. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それが官僚秘密外交と言われるものなのです。あの手紙は単なる一枚の手紙にすぎないかもしれない、しかしあの手紙には八千万の国民の運命がかけられておるかもしれない、そういう重大な手紙は、国民の支持のもとに、国民の協力のもとに、全国民の名前において出されなければならない。吉田茂という名前は、その全国民を代表しておるという意味においてあれは書かれておる。従つて当然全国民共感の中に出されなければならないのであります。そういう協力の求め方を今までやつておいでになりましたか。それもやらないで、形式的におれは総理大臣だから権限があるのだ、行政府の責任においてやるのだ、ぽいと出して、それでここに政治があるとお思いになりますか、いかがでありますか。
  136. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 私はああいう書簡をよその国で出したときも、国民にこれを示して、国民全部のサインを求めてからやつたという例は聞いておりません。なおわれわれは国会に多数を占めております与党をもつて構成しておるのでありまして、この与党は国民の多数の信頼を受けておる、こう確信しております。(拍手)
  137. 井出一太郎

    ○井出委員 ただいま中曽根君の質問に対しまして、問題は御承知のように吉田書簡をめぐつての発言でございます。当然総理答弁の衝に当らなければならぬにもかかわらず、将来の外務大臣という表現を用いられて、岡崎国務大臣のみが答弁に立たれるということは、われわれとしてはとうてい了承できません。なおまた時間の制約がきわめて厳格にある総理に対する質問でございますから、この際委員長から、必ず総理答弁されるように御手配を願いたいと思います。
  138. 塚田十一郎

    塚田委員長 井出君の議事進行に関する緊急質問に対する委員長お答えは、先ほど申し上げました通りであります。
  139. 川島金次

    ○川島委員 委員長は今井出君の議事進行の発言に対して、先ほど発言をした通りだと、なるほど議事規則からいえば、総理大臣に対する質問答弁を他の国務大臣をもつてせしめることはできるということは、われわれも承知していないわけではない。しかし本日並びに明日に行われまする予算委員会は、各派理事が協議をした結果、委員長の責任において総理大臣の出席を求め、もつぱら総理大臣に対する質問を行い、その質問に対して総理大臣答弁を行うことをもつて本日及び明日にわたる予算委員会の運営の方式とするということは、各派満場一致で理事会において決定されたことであります。従つて総理大臣の都合もあろうと思いますので、われわれはその決定に際しましても、この二日間においてできるだけ審議に協力をし、そして各派が時間の割当さえも承服をして協力をするということを申合せたのでございます。しかも先ほど来委員質問は、もつぱら申合せ通り総理大臣に対する質問であります。にもかかわらず、いたずらに他の大臣をもつてこれに答弁をかわらせるということは、われわれが今明日にわたる委員会の運営について、せつかく各派が協調して定めたことに反することもはなはだしいことになるのであります。委員長はそういう事柄についても十分の責任を持つて開会したはずであります。従つて委員長におきましては、中曽根委員質問総理大臣に対して発せられた質問である以上は、引続き総理大臣みずからが、これが応答に当るということを、委員長から強く要求すべきであるということを、私は委員長に忠告を発したいと思います。どうぞそのようにこの委員会の運営を、委員長の責任においてはかつていただきたいということを強く要求いたします。
  140. 塚田十一郎

    塚田委員長 ただいまの議事進行につきまして、委員長よりお答え申し上げます。委員長におきましてもなるべく御趣旨に沿わんことを期しておる次第であります。なお議事進行の発言要旨は、政府側においてもお聞き及びと思いますので、なるべく委員希望に沿うような御答弁あらんことを希望いたしたいと思います。
  141. 吉田茂

    吉田国務大臣 いろいろ議論がありますが、私の出席中に国務大臣が私にかわつて答弁せられたことに対しては、私はことごとく責任を負いますから、私の答弁同様にお考え願いたいと思います。
  142. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 今委員長が川島君の質問に対してお答えになつた趣旨と、総理大臣お答えになりましたこととは、たいへん齟齬があるように思います。総理大臣の任命した国務大臣だから、その代理でいいんだ、自分が責任を負う、こうおつしやるのでありますが、委員長の御発言は、岡崎さんではいけない、尋ねられておるあるじである吉田さんが答えなさい、こういう趣旨なんです。従つて委員長の御見解ともたいへん違うのでありますが、私は委員長の御見解に従いまして、吉田総理大臣専門にこれからお尋ねいたしますから、吉田総理大臣もつばらお答えを願いたいと思います。  そこでいわゆる吉田書簡なるものが出されましたのは、アメリカ国会上院批准関係も考慮せられて出されたと言われておるのでありますが、その点はその通りでございますか。吉田総理大臣お尋ね申し上げます。
  143. 吉田茂

    吉田国務大臣 その通りであります。
  144. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 これはしかし非常に重大な問題であります。アメリカ国会における批准を促進するという外交上のことが必要か、日本日本みずからの運命を自分で決するという独立自尊の権威ある国策のきめ方が必要かという問題に入るのであります。単にアメリカ国会における批准を促進するという外交上の手続に忙殺されて、日本民族百年の大計を誤つてはならない。私はこの点に関する政府のあわただしいやり方や、ダレス氏との会見の模様なんかを見ると、このような齟齬があると感ぜずにはおられないのであります。  そこでお尋ねいたします。吉田総理大臣は、あの書簡をお出しになりますときに、中共の模様をよくお調べになり、しかも日本民族が今後の運命を決する上について、これ以外にはない、そういう御確信のもとにお出しになりましたのですか、いかがでございますか。
  145. 吉田茂

    吉田国務大臣 この説明は、先ほど岡崎国務大臣が私にかわつて説明せられた通りであります。
  146. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この点につきましては、時間がございませんので追究いたしません。  しからば吉田総理大臣お尋ね申し上げます。ダレス氏と十二月に吉田総理大臣がお会いになりまして、いろいろお話があつたようであります。そういう結果もあつて、この書簡が出たということは、何人も認むるところであります。このような日本の運命を決するような重大な書簡を出すというからには、これを出した結果、アジアにいかなる変化が来るか、日本の将来の立場はどうなるか、アメリカはこの日本立場に対して、どういう外交政策をアジアでとつて行くか、そういう将来の見通しアメリカの極東政策の大綱に関する見通しを聞いて、しかる上にあれは行われたと考えなくちやなりません。それが行われておらなければ無責任であります。そういう意味におきまして、吉田氏はダレス氏とお話になりましたときに、アメリカは今後アジアをどういうふうにして行こうとしているか、日本台湾あるいは中共、こういう関係をどういうふうに展開させて行くつもりで、ああいうふうな関係になつたか。アメリカの極東政策の大綱をお示し願いたいと思います。
  147. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はアメリカの極東政策等については何らの発言権はありませんが、この私の書簡によつて日本の国際上の関係はよくなつたという見通しのもとに発しました。必ずよくなりますから御安心ください。
  148. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 たいへん心臓の強い模様でありまして、腹痛を起すほどの御容態ではないようです。  しからばお尋ね申し上げますが、国民政府修好条約を結ぶ、一方にはこれは交戦団体になりますが、ともかく中共政権というものが北京に介在しておる。そこに日本というものがあつて経済的には相当密接な将来を考えなくちやならぬ。それでは一体この中共国府との関係というものは、日本立場といたしまして、どういうふうに打開して行くつもりでありますか。つまりそれは大陸反攻というような実力によつて解決さるべきものであるか、あるいは中共内部における変化によつて、統一政府にもたらすべきものであるか、あるいはそれに対して日本は単なる拱手傍観をやつて事態の推移を待つというのか、この三つのうちどういう立場をお考えの上でこれをおやりになりましたか。吉田総理大臣お尋ねします。
  149. 吉田茂

    吉田国務大臣 吉田総理大臣が直接にお答えをいたしますが、(笑声)日本政府としては、日本政府の関する事務処理の上からして書いたのでありまして、アメリカのアジア政策がどうなるとかいうような遠大な見通し等については、事務当局である外務大臣としては、――あなたが外務大臣になられた場合は別でありますけれども、現在の外務大臣としては、当面の事務を処理するのが外務大臣であり、ことに外交がまだ再開されておらない日本としては、当面の事務を処理することが手一ぱいであります。
  150. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 吉田総理大臣は、行政大臣であると同時に、国務大臣でいらつしやいます。国務大臣の地位は、単なる行政事務をやるだけではありません。この大きな書簡は、単なる行政的手続ではないのです。あの有名な近衛声明、あれにも匹敵するような、政治的な声明であります。従つて、単なる’行政事務に忙殺されてあれをおやりになつたとは、私たちは考えたくはありません。おそらく政府もそういうことではないのです。おそらく吉田総理大臣のことでございますから、遠大な深慮に基いてやつた。だから日本のためによくなると言われておる。だから、よくなるためには、どういう展開が今後行われてよくなるのか。アメリカ日本と、それから両方の関係を、ぜひお示し願いたいと思うのであります。
  151. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の答弁は、先ほど申したところで尽きております。
  152. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 吉田総理大臣は、前回の国会におきまして、この中共国府の問題につきましては、事態の推移を待つて善処すると言われておりました。事態の推移を待つてというのは、常識的に考えれば、やつぱり二箇月や三箇月の期間は置くべきものであります。ところが僅々一箇月の間に、がばつとああいうことが行われた。そうすると、前にお漏らしになつた言葉と、やや違うのであります。しかしあの言葉を信用しますれば、今後中共国府関係については、別に実力による解決も考えてはおらぬ。また中共側から国府を攻略するということも考えておらぬ。要するに現状をもう少し見て、その現実に即して行く、そういう言葉のニュアンスが現在もまだ続いていると私は考える。それは事態の推移を見てという言葉の中に、そういう含蓄が含まれていると思うのでございますが、そういうふうに解してさしつかえございませんか。
  153. 吉田茂

    吉田国務大臣 事態の推移を見て善処いたしました。今後も善処いたします。
  154. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういう禅問答を繰返していては、時間がもつたいないですから、私は次へ進みます。  しからば、こういうような御書簡をお出しになる前に、いろいろ現在国際的な関係考えてみますと、英国の存在というものがございます。英国は中共政権を承認しております。しかも現在の世界政策は、イギリスアメリカとの緊密な提携の上に展開されておる。日本自由国家群の中に投じたからには、そういう大きなわく内において外交政策は打出されていると信ずるのであります。そういう御言明も、かつて内閣はおやりになりました。しからばあのような書簡が出される前に、イギリス側とのある程度の了解のもとにこれが行われたかどうか、この点も将来大きな問題でありますので、お尋ね申し上げます。
  155. 吉田茂

    吉田国務大臣 日本は外交の自由を持つておりません。連合軍を通じてする以外に外交はいたしておりません。従つて特にイギリスの了解を求めはいたしませんが、何らの抗議の出ないところを見るというと、イギリス政府もよくやつたと思つておるのだろうと思います。
  156. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかし新聞イギリス国会における発言の模様を見ると、非常に驚愕したということが報ぜられております。それは、吉田総理大臣の先ほどのお考えは、何かの一部のものをお読みになつて、そういう御答弁をなすつたと思う。英国側やその他との事前の了解もなかつたと私は解釈せざるを得ません。  しからば次の問題に移ります。この書簡内容を見ますと、すでに御言明になりましたように、平和条約第二十六条による正式の全面的な平和条約ではない。限定された修好条約である。こういうふうに御答弁になりました。それに相違ございませんですか。
  157. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは書簡に書いてある通りであります。
  158. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 書簡に書いてある通りというのは、私が今申した通りであると解してさしつかえございませんですか。
  159. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは一番正確なのは、書簡でありますから、書簡の方にひとつ御同調を願いたいと思います。
  160. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、書簡はそういうふうに解釈せざるを得ないから、そういうふうに解釈します。そうしますと、台湾との間に修好条約を結んだ。しかし現実に交戦団体として中共政権というものがある。しからば平和条約第二十六条にいう公面的な平和条約というものは、一体どういうふうにしてお結びになるつもりでありますか。これは重大な問題であります。インドとの間には、すでに下約束ができておるやに聞いておる。しかし中国との関係は、やはりこれを統一政府という構想を持つておるのか、そうでなくてこのままずつと割れた状態で、事実上の状態を継締して行くのか、しかしいずれにせよ中国の問題は一番重要な問題です。今度の戦争にいたしましても、満洲事変、北支事件、上海事件から起つておるのであつて、一番被害を受けたのは中国です、中国の民衆です。政権にあらずして民衆です。従つて日本が降伏するときには、ソ連ごときに仲介されてやるのではなくして、まず中国に降伏すべきであつて中国を通じてアメリカと和平すべき性質のものである。それが隣組同士の仁義であります。それくらいの重大性を持つておる中国に対して、一体中共国府日本の今後の全面講和――二十六条による講和というものは、どういうふうに展開して行くつもりか、政府の御所信を伺いたいと思います。吉田総理大臣にお願いいたします。
  161. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎国務大臣からお答えいたします。
  162. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 国民政府との間の関係は、あの書簡にあります通り、現に支配しておる領域、または将来これに入るべき領域に関するものであります。その他の問題は将来の推移にまつわけでありますが、われわれの方から内政干渉がましいことを言つたりしたりすることは、むろん極力これを差控えなければならぬと考えます。
  163. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば承りたいと思いますが、ともかく二つの政権がある程度の実力を持つて対立している間は、中国との二十六条における平和条約はできない、それは事態の推移を見る、こういう意味であると解釈してさしつかえございませんか。
  164. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 そういう原則的な問題を、ここでいくら言つてもしかたがないと思います。われわれは中国民衆の中の、われわれと善隣関係を結び得る範囲の人たちとは、できるだけ善隣関係を結んで行きたい、こういうことで、ただいま国民政府の治下の方は善隣関係を結ばれる状態にありますから、これとまず善隣関係を結ぶ、こういうことで進んでおるのであります。
  165. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば、中共方面が同じく善隣関係を結びたいという意思を有し、そういう事態が出て来た場合には、やはりこういうような修好条約を結ぶ用意がある、こういうふうに解釈してさしつかえございませんか。
  166. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは先ほど申しました通り、この手紙にも書いてありまするが、国際連合が中共に対しある種の措置をなしており、また中ソ同盟条約というような事実もある等、いろいろの事柄がありますので、ただいまわれわれは条約をこれと結ぶべき立場にない。しかし将来これが全然かわつた態度になれば、それはそのときのことであります。
  167. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に承りたいと思うのでありまするが、そういうふうにして修好条約が、あるいは二つできて来るかもしれません。可能性はないとは言えないのです。しかし統一政府というものがないから、中国との間は当分の間二十六条により平和条約はできないのだ、こういうふうに解釈してさしつかえございませんですか。
  168. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは先ほど申しました通り、将来の事態の推移によるのでありまするから、今こうであるとか、ああであるとか、原則的のことを申しても意味はないのであります。ひたすら将来の推移をまつ、こういうことにいたしております。
  169. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この書簡内容につきましてお尋ねをいたします。この中に中国方面台湾方面から聞えた情報の中にも、「わが政府は法律的に可能となり次第」という言葉がある。「法律的に可能となり次第」ということは、いかなることをいいますか、お尋ねいたします。
  170. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは、対日平和条約が所定の手続を経まして、効力を発生したときのことを申します。
  171. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、国府との修好条約の効力の発生の時期を、対日平和条約の効力の発生の時期以降にする、こういう意味でありますか。
  172. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 その通りであります。
  173. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に交渉内容でありますが、平和条約第二十六条の原則にのつとつてやると、先ほど総理大臣も言われました。そこでお尋ねいたしたいのは、この中にこういう言葉があります。それは「現在中華民国政府の支配下にあり、又は今後入るべきすべての領域に適用がある」こういうふうに書いてあります。そうなると、台湾は現在支配下にある。今後入るべきものというのは、台湾、その領海、領空を除いたほかが中国の領域とすれば、本土以外にはない。そうしますと、これらの本土に関することも、修好条約の中に多少触れて書かるべきものであるとも考えるのでございますが、本土に関することはこの修好条約の中でいかに取扱われますか、お尋ねいたしたいと思います。
  174. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 本土だけではなくして、いろいろ島もあります。また帰属不明の島もあるのでありますが、そういうことには関係なく、こういう手紙と申すものの普通の書式は、現在領有するもの及び将来入るべきものというように書くのが普通でありますので、こういうふうに書いたのであります。
  175. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういう形式的なテクニカルの問題で片づくべき問題ではない。将来この中で今後入るべきすべての領域という問題は、現在のアジアの情勢から見て、相当な問題をはらんでおる問題である。これはすでに国民全部が承知しておる問題であり、かつ憂慮しておる問題であります。従つて修好条約内容に、これらのことが書かれておるからには、何らかの形においてこれらのものが文字として出て来ると思うのでありますが、その点はいかがでございましようか。
  176. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは手紙をすなおにお読みくださることを希望いたします。つまり現在管轄しておる領域だけと限ることは、これまた国民政府に対する内政の干渉になるのでありまして、この点は自由にならなければならない。ふえるときもあり、減るときもある。とにかく国民政府の治下にある領域、こういうふうにおとりになれば、それですなおに了解できると思います。
  177. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 時間がありませんから、書簡の問題についてさらにお尋ねいたします。こういうような条約をお結びになつたということは、ある程度においては中共との関係に冷却関係が生ずるということも予想されます。このような台湾を相手にするということを言うからには、イギリスアメリカとの関係において、日本経済自立に関し、何らかの話合い、日本のために有利な話合い、はつきり言えば、ある程度の見返りというようなものがあつて、初めてこれらのものが展開されると思うのでありますが、政府はそういう点について何らかの措置を行われなかつたかどうか、その点をお尋ねいたします。
  178. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 私どもはこういう問題について、商取引のようなことを考えておりません。われわれは善隣友好という大きな筋からいいまして、でき得る限り広い範囲と通常の関係に入りたい、こういう希望から行つたのであります。従つてこういうことをするから、何かしてくれというような話合いはいたしませんけれども、こういうことになつた結果、さらにアメリカ等との経済の協力を密接にする必要がありといたしますれば、当然これは考えるべきものであります。ただいろいろの交換条件等は決してこれをいたしておりません。
  179. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 交換条件がないのはあたりまえでありますが、何らかのそういう暗黙の了解といいますか、含みがあつてそういうことは行わるべきものであります。そういうような含みというものは話合いの中にはなかつたのでありますか。
  180. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは御承知のように、政府の同情は前々から国民政府側にあつたのであります。また従来の経済のやり方を見ましても、中共との間の貿易はごく微々たるもので過ぎて来たのであります。こういう現実の事態を見まして、先ほども申しましたように、こういう手紙というものは、現状の政府考え方を文字にしたためただけでありますから、従来からこういう点で中共との貿易が少ければほかの方にどういうふうに転換するかということは、経済安定本部その他関係の部局で、十分研究しておることであります。
  181. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この書簡を見たときの国民の印象を申しますと、国民の声が十分出尽していない。国民はこの書簡を見て非常な焦慮を感じたと思うのであります。と申しますのは、国民の間こういう問題に関する理解を深めておかなかつたからであります。国民の中には、われわれもその一人でありますけれども、この政策は三国同盟に投じたことにも比すべき一つの投機的政策ではないか。元来アメリカはアジアというものを知らない。しかし日本は同じく黄河文明の中に住んでいるアジア人である。このアジアの実態がわからないアメリカの政策の影響を受けて、この政策が国民の知らない間になされたのではないかという憂慮を持つておるのであります。もしそういうことであるならば、ただいままで吉田内閣の閣僚が御答弁になつた内容を見ると、この書簡はある程度の影響を外国から受けて、その結果衛星国がここに一つ誕生したにすぎない、こういう印象を受けるのです。日本日本独自の考えで、政策を展開したのではないという印象を受けておるのであります。これは独立にさしかかる日本としては、実に重大な問題なのであります。日本が近衛声明一本出したために、これだけの悲劇を招いて来ておる。吉田総理大臣は、岡崎氏は、そういう点も十分お思いになつてやられたと私は思うのでありますが、その誤解だけはまだ解いてないのであります。それはなぜであるかというと、今まで吉田内閣のやられた外交政策というものは、そういう色彩が濃厚であつたのであります。あえて申し上げますならば、戦争前の帝国主義的外交の残滓が残つておる。功利主義的外交の残滓が残つておる。もう少し申し上げますならば、日本の明治以来の外交政策というものは、富国強兵になるために一生懸命働いた。しかしようやく欧米の水準に入つたら、今度は欧米の手先になつて支那でつまみ食いをやつた。そのつまみ食いの結果日本は膨脹して来たのだ。そうして欧米の間に点数をかせいで富国強兵を完成した。終戦後の日本の外交は、その轍をふんで一辺倒で点数をかせいでおみやげをもらう。功利主義的な、現実的なにおいがぷんぷんとしておる。黄河文明の一員としてのアジア人的な感覚がない。むしろわれわれの立場からすれば、この中国問題というものは、アメリカ国内においては共和党と民主党との争いの元である。政争の種であつた。その政争の種におどらされて、ここまで決断をせざるを得ない立場に追い込まれたのではないかという憂いすらあるのであります。日本はアジアにおいて中国の隣にあり、従つてアジアや中国を知らない米国の政策というものを、ここで一回受けとめなければならない。そうしてわれわれは中国事態をよく認識して、これはこうすべきである、これはこうすべきであるとアメリカに反省を求め、修正を求めて、それを中国あるいはアジアに展開しなければならない。そういう立場が新しい独立後の日本立場なのであります。言いかえれば経済的に三角貿易と申しますか、それが行われるならば、外交にも政治にも三角外交というものがここに展開されて、そうしてアメリカの政策は必ず日本のふるいを通さなければアジアに適用しない。それだけの権威を確立しなければ、日本独立国家になつたとは言えない。アジアに衛星国家が一つ生れたにすぎないのである。そういうような結果出て来たのが、これであるとしかわれわれは認めないのであります。政府はこのような非難に対して、いかなるお考えをお持ちでありますか。吉田総理大臣に御質問をいたします。
  182. 吉田茂

    吉田国務大臣 岡崎国務大臣が御答弁をいたします。
  183. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 いろいろ御高説を拝聴しましたが、ほかの内閣はいざ知らず、現内閣は自主的の考えで行動をいたしております。どうももう独立したようなお話でありますが、われわれは外交は今後独立したときに初めて本物が生れる、こう考えておりまして、ただいままだ正式の外交があるわけではないのであります。
  184. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 正式の外交、非正式の外交の問題ではない、日本の国策の問題であります。日本はすでにある程度の外交能力も付与されておるではありませんか。そのときに戦々ようようとして、卑屈な考えを持つてつて日本独立が確保できるとは思われない。そういうような感覚を持つておるから、この間の新聞によれば、台湾との修好条約を結ぶために、犬養健を派遣すると書いておる。犬養健とは何ですか。私は個人的な非難をするのではないけれども、あれは欠席裁判で死刑の宣告を受けた人じやないか。そういうような感覚で台湾との修好を求めようといつたつて、向うは早くしたいから、おせじを使うかもしれない。しかしアジア人が笑います。日本の良心がこれを笑います。そういう考えは今後一切払拭していただきたいと思うのであります。  それから中国との問題でありますが、これはアジアの今後の戦争か平和かを決する重大なスタートになります。われわれは何としても平和の確保をやらなければならない。平和の確保をやるためには、世界の民主主義の原則にのつとつて世界観の共存を認めなければならない。そういう方向に今世界は動きつつある。日本はその陣列に入らなければならない。世界観の共存を認めるならば、現在日本自由国家群の中に投じてそれをやろうと思えば、われわれはアメリカに対する信義を失つてはならぬ。これは当然のことであります。それが根本的な根締めであります。それをもとにしながら、米英との緊密な提携の上に立つて、共産国家群との国交打開をはかる、ここに世界観の共存を認める日本立場がある。そういうような共産国家群との国交打開をはかるという意欲と努力が、現在の政府にぱ認められない。これは日本の将来に影響するところきわめて大であります。たとえば現在中共政権の中におる者でも、共産党員である前に中国人である。それが中国人としての意識であります。北鮮人民、彼らは共産人民である前に北鮮人民である。そういう風土に根ざした運命協同意識というものを、われわれは放してはならぬ。そういうような見解政府にいささかも盛られておらないと思うのでありますが、政府はこの点をいかにお考えになつておりますか。
  185. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 われわれは現実に地に足のついた方針を国の政策として決定しております。
  186. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この点は国策の基本でありますから、総理大臣の御答弁をお願いいたします。
  187. 吉田茂

    吉田国務大臣 国策の基本でありますから、将来の外務大臣から確実にお答えをいたします。
  188. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は総理大臣に御質問する前に、これでも一生懸命勉強して来たつもりであります。私は日本の将来を考え、まじめな質問をしておるつもりであります。こういうふうなまじめな質問に対して、今の総理大臣の御答弁はまじめな御答弁とは受取れない。私は国会議員としてまじめな質問をしておるのです。どうか総理大臣のまじめな答弁を聞かしていただきたい。私は国会議員の権威として、これを総理大臣に申し上げます。委員長要求いたします。
  189. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はまじめに国務大臣をして答弁させておるわけであります。いずれ御高説はとくと考えますが、今日ここでお答えいたすだけの私は確信がございません。岡崎君の方が一層よく御承知であると思います。
  190. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 今の答弁は非常に重大です。総理大臣答弁する確信がないから岡崎氏に答弁させる、こんなことがありますか。吉田総理大臣日本の国政を握つておる人である。この基本を握つておる人が、確信がないとは何事でありますか。私が申し上げたいのは、今後の日本の将来を決する外交政策の基本です。この基本に関して、ここで答弁する確信がないとは何事です。内閣をやめなさい。国政を担当する能力がないということではありませんか。それでは総理大臣お尋ね申し上げますけれども、私に答弁する確信がないというならば、当然政治上の信義に従つて国民にその信を問わなくちやならぬ。いよいよ解散の時期が迫つたと思います。総理大臣はしからば解散するか、しないか、お尋ねいたします。総辞職か、解散か、どつちか以外にない。
  191. 吉田茂

    吉田国務大臣 あなたの御解釈にまかせます。
  192. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この問題は国策の基本に関する問題でもあり、また国会の権威にも関する問題であります。私はこの問題に関しては、これからの吉田総理大臣に対するわれわれの考えの表明を留保いたします。時間がありませんので、次の質問に入りますけれども、この問題はあとでまたもう一回取上げるということを申し上げておきます。  次に申し上げたいのは、自衛力漸増の問題であります。政府は今まで安全保障条約に基く行政協定の問題が出ますと、仮定の問題だから答えられない、こう言つて常に逃げて来られました。吉田総理大臣が現にここでおやりになつた通りであります。ところが今度出て来ましたこの予算案を見ますと、防衛支出金六百五十億、安全保障費五百六十億というものが、内容の明細なくして出て来ておるのであります。しかも大蔵大臣説明によれば、想定で組んだと言つておられる。これは仮定の予算であり、想像の予算であるといつてもさしつかえない。しかしそのような不見識なことを政府はするはずはないと思うのでありますが、もし想像の予算、仮定の予算でないとするならば、日本自衛力を漸増する件に関して、政府の計画があるはずであります。自衛力漸増の政府の計画と大綱を、ここで吉田総理大臣からお示しを願いたい。池田大蔵大臣に尋ねません。吉田総理大臣お尋ね申し上げます。
  193. 吉田茂

    吉田国務大臣 大蔵大臣がかわつて答弁いたします。
  194. 池田勇人

    池田国務大臣 想像の予算だと申されまするが、予算は来年度の予定をいたしまして組むのであります。だから予定ということを想像にお考えになれば、想像の予算と言えます。しかし私は昭和二十七年度におきましては、防衛支出金警察予備隊費、海上保安費あるいは安全保障費千八百二十億円と予定いたして組んでいるのであります。内容につきましては、行政協定その他との関係がありますので、各自ごとにつきましては予算書には計上いたしませんでしたが、御説明はいたしたはずであります。
  195. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 池田大蔵大臣から各自ごとについて詳細な御説明は承つておりません。これから総理大臣お尋ねいたします。  第二番目にお尋ね申し上げたいことは、この安全保障条約によりますと、日本自衛力を漸増して行くと書いてある。そうして昭和二十七年がそのスタートの年であります。そうすると、千八百二十億という巨額な経費がスタートで盛られた。漸増と言うからには来年はもつとふえるのでありましよう。あるいは再来年はさらにふえるのでありましよう。こういう点につきまして、将来はいかになりますか。ともかく来年はこれよりよけいふえるか、再来年はさらにふえることになつているのか、どういうことになつておりますか。総理大臣お尋ねをいたします。
  196. 池田勇人

    池田国務大臣 昭和二十七年度は千八百二十億円で、しかも警察予備隊の方は今年度は三百十億円ですが、これが五百四十億円にふえております。来年度におきまして漸増というのは、金額的の問題でなしに装備の問題もございまするから、昭和二十八年度の金額につきましては、ただいま申し上げる段階に至つておりません。
  197. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 時間がありませんから はしよつて質問をいたしまするが、自衛力漸増という問題は今後の一番大きな政治問題であります。そこで日本防衛費負担の限度ということが問題であります。先般来の政府並びに各閣僚の答弁を聞いてみますと、国民所得を引上げて、いやそう重くはないと言つている。あるいは二千億くらいは軍備じやない、そんなものは軍備の軍の字にも当らぬという軽視した言葉を言われております。しからば現在の日本においては、防衛費、自衛費を負担するとすれば、何パーセントくらいまでが限度であるとお考えになりますか。将来についてもいかがでありますか。
  198. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいまの経済財政状態では予算に盛つているのが最高限度であると考えております。将来は日本経済力の問題でございまするが、もし経済力が非常に上昇すれば、まず内政費に及ぼす、その次に防衛費、こう考えざるを得ないのであります。
  199. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、国民所得の三・五%になつておりまするが、経済力がいかに上昇しても、常に防衛関係の費用というものは国民所得の三・五%以内に納まるもの、こう解釈してよろしいでございましようか。
  200. 池田勇人

    池田国務大臣 それは非常な誤解でございまして、経済力が高まれば、まず内政費に持つて行きたい。その次に防衛費に持つて行きたい。こう考えているわけでございます。三・五%にくぎづけにするという答弁はいたしておりません。
  201. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 現在が基準になるとすれば、現在の比率がそのままパリテイーに動いて行くはずだ。国民経済力がふえて行けば、もちろん内政費もふえて行くが、防衛費もふえて行く。従つて原則としてその。パリテイーで動いて行くのか、こういう質問であります。
  202. 池田勇人

    池田国務大臣 予算というものはそんな形式的のものではないのであります。生きた予算をつくらなければなりません。だから三・五%にくぎづけされるわけではないのであります。
  203. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それは無責任な御答弁であります。基準というものがなくちやならぬ。いつもいつもめのこ算用でやるべきものではない。漸増というならば、やつばり基準があつて順次ふやして行くということになる。その基準のメルクマールを与えなければ国民は納得しません。国力がふえて行けば内政費を先にふやして防衛費もふやすのだ、そういう抽象的な言い方ではだめです。大蔵大臣は計数に詳しい人でありまするけれども、ともかく一定のスタンダードを示していただきたい。何らかのスタンダードを示して、今年がとにかくスタートでありますから、漸増というものがどういうカーブで上つて行くかという基準を示していただきたい。
  204. 池田勇人

    池田国務大臣 重ねて申し上げますが、予算中における各費目は、何を何点何パーセントというふうにくぎづけされるものではございません。たとえば内政費のヴオリユームの問題でも、公共事業費の問題、文教費の問題、社会保障費の問題でもやはり全体のわくからいつて、しかも国民生活の状況あるいは経済状況から行かなければならぬ問題であるのであります。生きた予算をつくるのが私の仕事でございますから、死んだ形式的なものをつくることはいたしません。
  205. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この予算が生きた予算だとはわれわれは思えない。このようなわずかな、あの戦死者遺家族の費用を百七十五億円に切り下げて、防衛費を千八百億円もふやして、血も涙もある予算とは言えないじやないか。これは死んだ予算、冷血な予算。生きた予算とは絶対に受取れません。  しからば第三に承ります。行政協定を締結するために、現在政府交渉中でありますが、一体行政協定日本側原案の大綱というものを、ここで総理大臣に示していただきたいのであります。総理大臣にこれはお答えを願います。
  206. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えいたします。内容は示すわけにいかぬ。
  207. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 たいへん怒つて言われましたが、なぜ怒つたのか私はわかりません。ともかく総理大臣は今までここに参りまして、行政協定内容については、予算あるいは法律で、その都度都度出すと言つておいでになつた。そこで予算が出て来たわけです。しからばこの金の裏づけになつている原則は、どういうことになつているか、これは当然の質問であります。従つて、細目はもちろんきまつていないでしよう、しかし大綱はきまつていべき性質のものであります。だから想像もできたわけです。その想像の根拠を総理大臣はお示しを願いたいと思います。
  208. 吉田茂

    吉田国務大臣 交渉内容を一々事前にお話することは、私は責任のある外務大臣としてお断りいたします。
  209. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣お尋ねいたしますが、この間ラスク氏は第一回の会合の初頭に、声明あいさつを出されました。このあいさつではかなり大胆なことを言つておられます。まず第一は、両国は対等なる主権国家としての立場でやる。第二番目には費用の分担というものは能力に応じて、そうして平等に負担する。この平等という言葉は実に重大な問題です。第三番目は商工業や農業には負担をかけない。第四番目には協定は自衛力漸増問題には触れない。こういう大きな原則を打出しております。この程度のことをわざわざ外国から来たアメリカ側で言つておられる。日本国におられる日本国民の代表であるところの大臣が、日本国民にこれ以上のことを言えないということはあり得ないのであります。従つてこういう大まかな大綱を総理大臣にお示し願いたいと思うのであります。
  210. 吉田茂

    吉田国務大臣 ラスク氏がすでに大綱なるものを示している。これは私も同感であります。それ以上に申すことは私の立場が許さない。
  211. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば申し上げますが、総理大臣のそれでは方針を承ります。国民にわかることをここで聞きます。一体それでは連合軍総司令部の第一ビルにあるあれは移転するのかどうか。いかがでございましようか。
  212. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは条約発効後におかれております。
  213. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 発効後でない。政府は移転を希望するのかどうか。政府希望しませんのですか。
  214. 吉田茂

    吉田国務大臣 その内容に属することでありますから、言明いたしません。
  215. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 今非常に怒られたけれども国民の一番知りたいことはこの問題です。その問題が答えられないなら第二に聞きます。一体進駐軍の列車が通つている、白線のスペシアル・カーがある。あれは独立後はなくなりまか。われわれと混在して連合軍兵士は汽車に乗りますか。
  216. 吉田茂

    吉田国務大臣 それはなくなるものと御承知ください。
  217. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 第三番目に、駐屯軍総司令官は日本政府交渉するときには、アメリカの大使を通じてやるものか、あるいは直接日本政府交渉すべきものか。この点もお漏らし願いたい。
  218. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは発効後であります。
  219. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次の問題をお尋ねいたします。この安全保障費五百六十億というものは厖大な費用でありますが、行政協定に基く経費でございますか。
  220. 池田勇人

    池田国務大臣 安全保障諸費は、行政協定に基いてきまるものもあります。それによらないものもあると思います。
  221. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 では、この内容は幾らが行政協定用のものであり、幾らがそのほかのものでありますか。
  222. 池田勇人

    池田国務大臣 行政協定がきまつておりませんので、数字は申し上げられません。
  223. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 行政協定以外のものは、日本側の立場があるからわかつているはずです。しからばそれは何に使うものですか。
  224. 池田勇人

    池田国務大臣 行政協定によつてきまる部分がありまするから、日本側で使うものはまだきまつておりません。
  225. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 行政協定以外に使うものは、しからばどの経費と、何と何と何の用途に使う金でありますか。
  226. 池田勇人

    池田国務大臣 行政協定内容がきまつておりませんので、わかりません。
  227. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういう不明確な不誠意内容がこれだということになつている。だからこそ私はこういう不正確な予算を審議できますかと言うのである。今まで大蔵大臣は、いや正確な予算だと言つておいでになりましたけれども、今の御答弁で、すでに内容はわかつておるのでありますが、内容がないとして私は次に進めます。  この防衛支出金負担がはたして公平かどうかという問題でありますが、外電から伝えられたところは、大体日米折半だということが言われておる。この折半の原則ということを池田大蔵大臣は正しいとお思いになりますか。
  228. 池田勇人

    池田国務大臣 ダレス氏がこの前言われたように、その分に応じて折半するということは新聞で見ました。しかしその防衛支出金について、どれだけアメリカ負担する、日本がどれだけ負担するということにつきましては、行政協定できまる問題であります。
  229. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 池田大蔵大臣は、この間外国の模様をおつしやいましたけれども、英国は一体どういう分担になつておりますか、フランスはどういう分担になつておりますか。
  230. 池田勇人

    池田国務大臣 各国経済事情、並びに各国がやつておりまする軍備の状況等によりまして異なります。
  231. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 ですから、英国は何パーセントで、フランスは何パーセントですか。
  232. 池田勇人

    池田国務大臣 何パーセントという問題でございまするが、これは、イギリスアメリカとの問題につきましては、パーセンテージではいつていないようであります。問題はイギリスが陸海空軍を持つている。しかも空軍のうち、聞くところによりますと、爆撃機については米軍があそこへ駐留いたしております。しこうして米軍の爆撃機隊の活動に関して使用いたしまする不動産その他の借り料と、トランスポーテーシヨンと申しますか、移動の場合の輸送費はイギリス負担する、こういうことに相なつております。しかしこれはあくまで、ラスク氏が日本へ来られて言われたように、イギリス軍備並びに財政等から考えてきめられる問題であります。フランスの問題につきましては、大体原則として、レソトあるいはトランスポーテーシヨンは駐留せられる国の方で負担することが原則でございますが、フランスとアメリカとの間の問題は、西ドイツに進駐いたしまするフランス軍その他の経費との関係でございまして、正確な基準はないと私は心得ております。
  233. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大体において政府側の考えは、まあ半々くらいならこの辺で手を打つところだろう、こういう思想がある。これは非常に危険な思想であります。一体なぜわれわれが半々を受持つ必要があるのか。大体日本自衛力がなくなつたということは、ポツダム宣言に基いて向うが軍備を解体したからやつたのであつて、何も日本人がやりたくてやつたのではない。そういう点を考えてみても、もし連合国が日本自衛力を付与しようと思えば、相当の援助を与えてすればいい。これは日本側として権利があると考えていい。それを半分にしてくれたからありがたいということは奴隷根性です。国民所得を見てもそうです。この間中の政府答弁を見ると、国民所得がどうだ、ああだということを言つております。しかしアメリカイギリス日本を比べてみても根本が違う。たとえば国民所得を見れば、アメリカは約千五百ドルといわれておる。日本は百ドル、十分の一以下、日本は生活が低い。イギリスはどうかといえば、日本は年間三万六千円が平均所得。ところがイギリス日本の金に直して二十何万円、これは五倍、六倍、七倍に当る。そのほかにエンゲル係数を調べてみたらどうか。御存じのように日本は五五%です。イギリス、フランス、アメリカは三五%程度です。では予算を見たらどうか、イギリス予算の三割強というものは社会保障費であつて国民に還元されて来るものである。日本予算とは非常に違う。そういうあらゆる国力の基礎を考えてみた場合に、半々が公平だとか、千八百億円が安いなどということはとうてい言えない。こういう根本的な問題に対する政府の認識がきわめて足りないと思う。われわれからすれば半々でも重いと思います。この点について大蔵大臣はいかにお考えになりますか。
  234. 池田勇人

    池田国務大臣 半々がありがたいとか、千八百二十億円が楽だとか言つておりません。千八百二十億円も、これは今の状態からいつたら最高だ、こう言つておるのであります。半々がどうかということにつきましてはまだきまつておりませんが、大体私は今までの経験で、あるいは折半するということはお話いたしておりますが、今の状況から申しまして、防衛支出金六百五十億円と予定いたしておるのであります。これは日本の財政状況から考えてまあ適当ではないかと考えております。
  235. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この方法といたしまして私は大蔵大臣お尋ねいたしたいのでありまするが、来年度以降の予算編成方針においては、当然日本の自衛費を増して行く、それに比較して同じ額だけ分担金は減らして行く、あるいは安全保障費は減らして行く。そうしてトータルのパリテイは確保する、こういう政策で行くべきだと思います。自衛費は増して行く、それは自分の国力に応じて増して行く。それに応じて分担金や安全保障費は減らして行く。これが財政のこれからの常道だと思うのでありますが、大蔵大臣はいかなる政策をおとりになりますか。
  236. 池田勇人

    池田国務大臣 有力なる財政政策の御意見として承つておきます。
  237. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大蔵大臣の御方針をお示し願いたいと思います。
  238. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど来申したところで御了承を願いたいと思います。
  239. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 吉田総理大臣お尋ねいたしますが、予備隊制度というものは、自衛力漸増計画の中において、一体あとどれくらい御継続になる御方針でありますか。総理大臣お尋ねいたします。
  240. 吉田茂

    吉田国務大臣 警察予備隊は今年の十月をもつて一応打切るつもりであります。
  241. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 本年何月でございますか。
  242. 吉田茂

    吉田国務大臣 十月と思います。
  243. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 十月でお打切りになつてあとはどういうふうな形で日本の自衛、治安の確保をやつて行くのでありますか。
  244. 吉田茂

    吉田国務大臣 これも日本の治安状況、あるいは国外の状況等によりまして、防衛隊を新たに考えたいと思つて、ただいま研究中であります。
  245. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その防衛隊というのは、やはり警察予備隊と同じ性格であつて憲法違反にはならない防衛隊であると解釈しでさしつかえありませんか。
  246. 吉田茂

    吉田国務大臣 その通りであります。
  247. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば伺います。この警察予備隊が終つて、十月から防衛隊ができる。そうすると、警察予備隊に何かの欠陥があるとか、制度の変改を要する相当の理由があつておやりになると思うのでありますが、どういう御理由でそういうふうにおやりになるのでありますか。
  248. 吉田茂

    吉田国務大臣 警察予備隊は一応二箇年という期限を切つて創設いたしたのであります。その期限が満了した場合にどうするかということは、これは今研究中であります。
  249. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大体その後に出て来るいわゆる防衛隊なるものは、やはり警察予備隊と同じような装備を持つた力でございますか。総理大臣お尋ねいたします。
  250. 吉田茂

    吉田国務大臣 大橋国務大臣がかわつて答弁いたします。
  251. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 現在の警察予備隊を基礎にいたしまして、大体これに準じて行つて行きたいと思います。
  252. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういたしますと、装備としましては、高射砲とか戦車、大砲、あるいは米国から貸与された駆逐艦、こういうようなものがやはり装備になる予定でございますか。
  253. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 装備につきましては、引続き米側の援助によりたいと思つております。
  254. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 ここで根本的な問題があると思うのであります。この横田さんの新憲法の本を読んでみますと、軍備の廃止というところにこう書いてある。「新憲法はさらに軍備を廃止した。陸海空軍その他の戦力は、保持しないというのである。「その他の戦力」の意義は、かならずしも明白でないが、「陸海空軍」とあわせて考えれば、すべての軍、」――大橋さんよくお聞きください――「軍、軍の装備、軍事的施設、軍需産業などを含み、いやしくも戦争を遂行する手段となり、資力となるものは、ことごとく保持を許さない」と書いてある。これは東大の国際法の権威である横田さんが書いたのですから、権威のある本です。「軍の装備、軍事的施設、軍需産業」ここまで書かれております。ところが現在の警察予備隊は、高射砲を持つておる。あるいは駆逐艦類似の艦艇を持つておる。これがこの戦力、これに入らないものかどうか、これは基本的な問題であります。高射砲というものは飛行機を撃つものです。飛行機は外から飛んで来るものです。現在の共産党は、ジエツト機日本国内で持つているとは考えられない。結局海外から侵入して来るものを撃つのは高射砲です。そうすると海外から侵入して来たものを撃つという行為は、相当な警察を脱却したものでなくてはできないはずです。これは一種の防衛行為です。これは大きくなれば防衛戦争になるでしよう。そういうものをやりながら、しかも力は、今言つたまうに軍の装備、軍需産業まで含めておるのが、国際法学者の見解であるとすれば、現在の警察予備隊ですらも憲法違反の疑いがある。さらに今後出て来る防衛隊なるものは、さらに大きな憲法違反の疑いがありはしないか、いわんやこの五百六十億、六百五十億という経費がこれから支出されて、厖大な金が出て来るということになれば、当然これは軍に接近して来、あるいは通例、軍といつてもさしつかえない。持つている力からすれば、あるいはパラグアイの軍より強いかもしれない。エクアドルの軍隊よりも強いかもしれない。従つて実体を考えれば、これは憲法違反と考えてさしつかえないと思うのでありますが、大橋国務大臣は、これをいかに考えておりますか。
  255. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 法務総裁から本来お答えすべきかもしれませんが、便宜私に御質問がございましたのでお答え申し上げます。警察予備隊は軍ではありません。また警察予備隊の持つております装備につきましては、憲法に違反するとは考えておりません。
  256. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は警察予備隊を視察いたしましたが、警察予備隊には高射砲中隊というのがある。高射砲中隊ですよ。名前がちやんとある。それから警察予備隊の編成を見ても、軍の編成でできております。内務を見ても軍の内務であります。こういうあらゆる点を考えてみると、実質は軍以上のものである。しかもことしは五百六十億、六百五十億という厖大な経費がこれに注がれるということになれば、いかにこれは軍でない、軍でないと言つても、法衣のそでからよろいがもう出て来ている。この予算は私に言わせれば平清盛的予算である。そういうようなまやかしの予算がここに出て来たということは、憲法違反の疑いがある。これは重ねて述べた通りであります。これにさらに防衛隊ということになれば憲法蹂躙です。民主主義の根底が破壊される。日本独立する当初にあたつて政府がそんなようなことをあいまいにしておいて、どこに民主主義の確保ができますか。共産党はこれに乗じて何でもやりますよ。非合法でもこれに乗じてやりますよ。その根本を正さないで、どこに政治がありますか、この点に関して総理大臣の明確なる御所見を承りたいと思います。
  257. 吉田茂

    吉田国務大臣 法務総裁から明確な御答弁をいたします。
  258. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 警察予備隊は、たびたび申し上げます通り、国内治安の必要上、その装備を定めているわけでございます。これは軍隊とまつたく性質の違つたものと考えております。
  259. 塚田十一郎

    塚田委員長 中曽根君にお諮りいたします。すでに割当の時間が過ぎておりますが、なお一問を限つてお許しいたします。
  260. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 もう一問。今の問題の継続ともう一つだけ。
  261. 塚田十一郎

    塚田委員長 一問を限つて許します。
  262. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この問題を結末をつけて、もう一つ願います。
  263. 塚田十一郎

    塚田委員長 理事との話合いでそのようになつておりますから、そのように、あと一問に限つてお許しいたします。
  264. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからばはなはだ遺憾でありますが、ほかのものを割愛いたします。警察予備隊に対する今の問題がありましたから、私の考えを申し上げて質問をもう一つ申します。警察予備隊へ行つてみて、あの若い隊員にいろいろ聞いてみると、非常に精神的な混迷があります。一体自分たちは警察法規を学ぶのか、歩兵操典を学ぶのか、この混迷であります。彼らに言わせれば、警察へ入つて来た、しかしやつていることは軍以外のことはやつていない、これは話が違うし、自分たちの運命はどうなるのだろう、一体自分は、たとえば公務障害をやつた場合に、自分たちの家族の補償はどうなるのだろう、自分たちは一生懸命に国のためにやろうとしても、国家はほめてくれないのか、褒賞制度はないのか、こういうことが基本的な問題なんです。国防力というものは、そういうあいまいな関係につくらるべきものではありません。もしかりに日本の状況を考えれば、外国から来るときは、日本人部隊が来るでしよう。しかし自分の国を守ろうと思えば、入つて来る日本人を撃たなければ国は守れない。西郷南洲を城山で討つたと同じであります。そういう道徳的勇気は、民族協同体を自分たちが守るのだという愛国の至情に燃えて出て来る。それだけの高い道徳性と潔癖性を軍の根幹に要する。だからこそ各国とも、この問題には心胆を砕いている。それだけのものがこの予備隊にはない、それで国防を全うできますか、国内治安は全うできるだろうか、そこに根本の問題がある。警察予備隊は現在の憲法の私生子である。この私生子をこのまま大きくして行つたつて、決して力にはなりません。そういう意味で、総理大臣はおやめになるという言明をなさつた。これは正しい。しかし次に出て来るものを同じ性格のものでやつてつたら、これは大同小異であります。従つてその根本的な性格、それをすみやかに明確にするということが、現在の国家防衛力、国家治安力を確保する根本問題であるということを、私はここで申し上げておきます。  最後に御質問を申し上げますが、それは天皇御退位の問題であります。これは重大な問題でありますから、吉田総理大臣から御懇切なる御答弁を承りたいと思います。現天皇が一貫して平和論者であつて戦争の形式的責任がないことは、世界及び国民のひとしく認めるところであります。しかし、現在旧憲法第三条、神聖不可侵の御身分より人間に解放せられた天皇が、地上のわれわれと同じ一員として、過去の戦争について人間的苦悩を感ぜられておられることもあり得るのであります。もしこの天皇の人間的苦悩が、外からの束縛によつてほぐされない状態であるならば、この束縛を解くことが、古くして新しい天皇制にふさわしいことといわなければなりません。外からの束縛と考えられるものは何でありましようか。その一は、終戦後の日本を安定させ、国際義務を履行するために、位におられる連合国に対する道義的責任感であります。その二は、戦争及び終戦後の悲劇と混乱を最小限に食いとめて、国家の秩序回復と民生安定のために在位される国民に対する責任であります。これら二つの問題は、しかしすでに解決され、またはまさに解決されようとしております。もし天皇が御みずからの御意思で御退位あそばされるなら、その機会は最近においては、第一に新憲法制定のとき、第二に平和条約批准のとき、第三には最後の機会として、平和条約発効の日が最も適当であると思われるのであります。しかしこの問題はあくまで天皇御自身の自由な御意思によつて決定さるべく、何らわれわれから論議すべき筋合いのものではないと思うのでありますが、国際情勢、国内情勢より判断して、天皇がもしその御意思ありとすれば、この御苦悩をお取払い申し上げることも必要かと存ずるのであります。皇太子も成年に達せられ、戦死者の遺家族たちにもあたたかい国家的感謝をささげ得ることになつた今日、天皇がみずから御退位あそばされることは、遺家族その他の戦争犠牲者たちに多大の感銘を与え、天皇制の道徳的基礎を確立し、天皇制を若返らせるとともに、確固不抜のものに護持するゆえんのものであると説く者もありますが、政府見解はこの点についてはいかなるものでございましようか、御親切な御答弁をお願い申し上げます。
  265. 吉田茂

    吉田国務大臣 この問題は軽々に論ずべき問題でないことは、あなたも御同感であろうと存じます。私はここに一言申しますが、長くは申しませんが、今日はりつぱな日本に再建すべきときであり、再建すべき門出にあるのであります。日本民族の愛国心の象徴であり、日本国民が心から敬愛しておる陛下が御退位というようなことがあれば、これは国の安定を害することであります。これを希望するがごとき者は、私は非国民と思うのであります。私はあくまでも陛下がその御位においでになつて、そして新日本建設に御努力あり、また新日本建設に日本国民を導いて行かれるということの御決心あらんことを希望いたします。(拍手)
  266. 塚田十一郎

    塚田委員長 今日はこの程度にとどめまして、明二月一日は午前十時より委員会を開会して質疑を継続することといたします。  これにて散会いたします。     午後三時十一分散会