○中村寅太君 私は、
野党各派を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
臨時石炭鉱害復旧法案に対し修正案を提案し、その
趣旨弁明をいたしたいと
思います。
この
法律の目的は、国土の有効な利用及び保全並びに民生の安定をはかり、あわせて石炭鉱業、亜炭鉱業の健全な発達に資するため、鉱害を計画的に復旧することとしておるのであります。この法案の実施によ
つて、国土が有効に利用せられることになり、民生が安定せられることになるならば、まず鉱害による被害者が心からこの法案の成立を喜んで迎えなければならないのであります。しかるに、被害者は
政府原案に対して
幾多の欠陥を指摘してこれに
反対し、ことに
自由党の修正案に
至つては、鉱業権者の圧力によ
つて生れたものであり、加害者たる鉱業権者の一方的な立場を守ることのみに終始しておる案であるということによ
つて、今日なお百三十万の被害民が断固として
反対いたしておるのであります。(
拍手)かくのごとく、被害者がこれを喜ばず、加害者である鉱業権者が喜んでこれの成立を期待しておるというところに
自由党修正案の致命的な欠陷があることを指摘しなければなりません。われわれが、今日まで二箇月間にわたり、
自由党の小委員
諸君とともに、共同修正案をつくり出すべく努力を続けて来たにもかかわらず、今日の
段階に
至つて野党修正案を
提出せなければならなくな
つた原因もここに存するのであります。(
拍手)
そもそも本法が
制定せられなければならない
ゆえんのものは、現行の鉱業法が、その
賠償規定において原状回復の
原則を確立せず、金銭
賠償主義を規定しているために、鉱害問題の根本的解決ができず、年々歳々鉱害は累積し、遂に今日の重大なる結果を生ぜしめたのであります。この法案では、鉱業権者に一定の金額を納付させ、不足の分は国家がこれを助成して、鉱害地の効用を回復しようとするものであります。現在、ドイツ、英国等におきましては、すでに原状回復制度のもとに、鉱業権者が自力で効用回復をや
つているのであります。わが国も、すみやかに鉱業法の
賠償規定の
改正を断行し、国家財政にたよることなく、農地及び農業施設はもちろん、家屋、墓地等一切の鉱害を完全に復旧せしめ、
国民をしてこの悲惨なる鉱害から一日も早く救出するよう抜本塞源的な解決をなさねばなりません。この法案により、鉱害権者は一定の納付金を出せば、数年の後には完全に鉱害の責任からのがれることにな
つておるのであります。これでは、従来よりも
賠償義務が軽くな
つたとして、濫掘が助長されるという重大な弊害を伴
つておるのであります。鉱害
賠償の責任は原状回復によ
つてのみ初めて免責されるという観念に立脚せしめ、その採掘にあた
つては、鉱害の予防措置、採掘方法等に万全の方策を講ぜしめるよう、指導と監督を一段と強化せなければなりません。
かくのごとき見地に立
つて、われわれは、この法案に対し、次のごとき修正を行おうといたすものであります。修正案の全文につきましては、議案書として提案しておりますから、その内容に讓ることといたし、大要を説明申し上げたいと存じます。
まず修正の第一点は、第二條の第十一号に「学校」とあるを「学校並びに公用及び
公共用建物」と改めたのであります。公衆と密接なる関係を有する
公共建物は、学校と同様に復旧の対象として取扱うべきであるとの
理由によります。
第二点は、第五十三條の
地方公共団体の負担を一割を越えない範囲にとどめることといたしたのであります。その
理由は、
賠償義務者または受益者が、納付金もしくは負担金を納付する能力なしと認められるとき、または
賠償義務者が不明であるときは、
地方公共団体はその維持管理を行う
公共施設の復旧費の一部を負担することとな
つているのでありますが、
公共施設は、その管理区分によりそれそぞれ
公共団体が維持管理しており、鉱害がなくとも、これら鉱業権者の物資輸送等によりまして損傷されることがはなはだしく、これが修復に要する経費のみを見ましても、年々多額の負担とな
つておるのであります。むしろこれらは被害者の立場にあるものと言えるのであります。ことに、最近
地方公共団体の財政が極度に窮迫せる現状にかんがみて、本来ならば負担を一切免除すべきものであると考えますが、特別鉱害の先例もありまするによ
つて、一割限度の負担はやむを得ないものといたしたのであります。
第三点は、第七十五條の本文に次の但書を加えることといたしました。「但し、豪雨、かんばつその他不測の天災に際し、当該農地が他の一般の農地に比して特別の損害を被
つたときは、その限度において、なお、当該農地に係る鉱害は、消滅しないものとみなす。」その
理由は、第七十五條において、農地または農業用施設について生じた鉱害であ
つて、復旧工事の完了により、本来有していた効用が完全に回復されておると認められた場合。あるいは未回復の場合におきましては、定められたる評価基準に従
つて未回復の効用の価格を算定し、その金額が支拂われるときには、鉱害は消滅したものとみなすことにな
つているのであります。しかしながら、その一例を申し上げますと、五尺陷没しておる美田を、元の高さに上げるためには莫大な経費を要するので、三尺程度これを高めることにとどめて、
あとはポンプによる排水施設によ
つてその効用の回復をはからんとするがごとき場合、この土地が本来有していた高さよりも二尺だけ低いため、豪雨等の際、他の一般農地に比し著しい損害を受ける危険を有しているのであります。この点の未回復に対する
賠償は何ら補償されることなく、鉱害は消滅したものとみなすことに、
政府原案も
自由党修正案もな
つているのであります。これは、
憲法第二十九條に保障されている財産権の侵害なりといわなければなりません。この点は、この法案の重大なる欠陥でありまして、この未回復の限度においての鉱害は残るものといたしているのであります。この但書の文句は、與党、
野党が一緒にな
つて共同修正案作成途中、
自由党の小委員
諸君をも含めて、一致してつくり出されたところの修正案であります。それが、今月
自由党より提案せられている修正案から姿を消し、
野党の修正案にのみ取上げられてあります点を、
諸君は考えなければなりません。(
拍手)この文句が
自由党の修正案から突如として姿を消したのは、鉱業権者の圧力によ
つて消したものであるといわなければなりません。特に
自由党の、ただいま委員長が読み上げました附帯決議の第四項には、
公共施設の復旧補助金に関する返還義務を免除することをつけ加えております。これは、第九十二條に、国は補助金を交付した
公共施設の復旧工事が完了したときは、その
賠償義務者に対し補助金の返還を命ずることができる規定とな
つておるのであります。その総金額はおよそ三十億四千万円になる見込みでありまして、その内訳は、
地方公共団体が二億四千万円、鉱業権者が二十八億円返還することとな
つておるのを、何ゆえにこの二十八億円という莫大な金を鉱業権者をして返還せしめないように決議文をつけたのか、私は、この決議文をつけたところに、
自由党の
諸君が鉱業権者の圧力に応じておる姿が出ておると言えると思うのであります。(
拍手)われわれは、この点については断固として糾彈せなければならない。
第四点は、第七十八條の規定により、復旧不適地について支拂うべき金額を決定するときは、あらかじめ当該復旧不適地の所有者の同意を得なければならぬことといたしたのであります。およそ農民が農地に離れることは、親が子に別れるにひとしき愛着を持つものであります。これが
日本農民の誇りでありこれあるがゆえに、今日終戰後六箇年にわたる食糧
危機に際し、
日本国民の食糧が確保せられて参
つたものと信ずるのであります。(
拍手)この農民にと
つては生命にもかえがたき農地を、一時拂いでその権利を奪い去ろうとするときに、当該義務者の了解を得ること、承諾を得るというくらいのことは当然のことであ
つて、これを一方的に打切
つて行こうとする
自由党諸君の
態度を、われわれは断じて糾彈せなければならぬと思うのであります。(
拍手)
自由党の修正案によりますと、單に市町村長の意見を徴するということにな
つておる。そういうことで、もしも君らの財産の権利を放棄させるときに、はたして
承知するかどうか。ぼくは、この際
自由党諸君のこの修正案の真意を了解するに苦しむのであります。
第五点は、第七十九條において、鉱害が生じている家屋等に対して、
賠償義務者をして事業年度ごとにその復旧計画を
提出せしめ、これによ
つて復旧工事
計画性を持たせ、工事の進捗をはからしめようといたしておるのであります。その
理由とするところは、家屋等の復旧につきましては、
政府原案並びに
自由党の修正案によりますれば、農地並びに
公共施設の復旧と異なり、通産局長の許可を受けたときに初めて協議裁定によ
つて復旧工事が施行せられるという、きわめて被害者に対して不親切な規定とな
つておるのであります。年々被害額が増大して倒壊の危険を感ずる家屋の中に居住して、その被害に対して何ら
賠償を受くることなく、日夜きようきようきようとして不安と不便の中に生活をせなければならない現状は、重大なる社会問題といわねばなりません。人間のしんぼうにも限度があります。これらに対する不平不満は、やがて加害者に対して一時に爆発するおそれが生じておるのであります。かくのごときことにな
つては、わが国の基礎産業たる石炭鉱業の発達に重大なる支障を来すことは明らかであります。よ
つて、鉱害
賠償義務者をしてすみやかに復旧の実をあげしめ、も
つて民生の安定を期せんとするものであります。
第六点は、第九十一條における農地または農業用施設の復旧に対する都道府県の補助金及び第九十四條の事業団の事務経費中、都道府県の負担を免除いたしたのあります。そもそも鉱業権の設定、施業案の認可等一切の許可監督権は国にありまして、都道府県には何らの権限もないのであります。福岡県を一例にと
つて見ましても、農地の鉱害による米麦の減收は年間四億五千万円に達しております。
生産県としての福岡権農民が、また消費県としての一般県民がこうむ
つておるところの打撃は甚大なものがあるのであります。
さらに県財政におきましても、負担しておりますところの鉱害対策の負担金は年間五千万円に上
つておるのであります。かくのごとく県及び県民は被害者の立場にありますから、これらに負担せしめることは不合理であるという見地に立
つて、この点を免除しておるのであります。なほ、従来農地や農業用施設の一般災害復旧費に対しても都道府県が一割を負担してお
つたものを、最近における
地方公共団体の財政の窮迫事情によ
つて、昨年度よりこれを廃止されておるのでありますから、これらの事情を勘案いたしまして、この際都道府県には負担せしめないことにいたしたのであります。
以上申し述べました
野党修正案は、
政府原案並びに
自由党の修正案と比較いたしますときに、立法の目的である国土の有効利用、民生の安定、さらに石炭鉱業の健全なる発達の見地から見ましても、はるかに公正にして現状に即した最善の案だと信じておるのであります。
自由党の
諸君におかれまとても、行きがかりにとらわれることなく、鉱業権者の圧力に屈することなく、率直に、勇敢にこの
野党の修正案に満場一致
賛成せられんことを強く要望いたしまして、私の説明を終ります。(
拍手)