○石野久男君 私は、
労働者農民党を代表して、ただいま上程されておる
航空法案及び
航空法の
特例に関する両案に対して
反対し、同時に、自由党から
提出されておりまする
修正案にも
反対の意思を表明するものであります。
航空法を制定する
目的は、第一條が明示しておるごとくに、民間航空の発達のために航行の安全をはかる方法を
規定し、かつこの事業の秩序を確立する点にあります。近代における総合工業といわれる航空機を十二分に活用できる航空業を育成発達せしめることは、
わが国の産業経済施策として必要であることをわれわれはまた認めるのでございます。しかるにもかかわらず、われわれがあえて本
法案に
反対せざるを得ない理由は、次の諸点であります。
第一に、本
法案の立案過程並びに
法案の
内容を通じて、
行政所管に関するきわめて不明朗な経緯があり、法の効果発生後において、法が意図する航空の発達のため、ぬぐい切れぬ疑義を内包していることであります。去る四月九日、もく星号の惨事は、
わが国航空史上に幾多の得がたい教訓と示唆とを與えたものであると信ずるのであります。営業面については、
政府の監督のもとに、
日本航空会社がその衝に当り、所有、運航、整備についてはノースウエスト航空会社が責任に任じている事実は、この惨事の収拾のために多くの難問題を提起しております。航空事業についての最近のこの実例は、
本法制定の
審議にきわめて重要な予見を與えておるものであります。
さきに航空に関する諸研究をゆだねられた航空
審議会は、きわめてわずかの
反対を除いて、
政府に航空
行政上の一元化の必要なることを答申しているのであります。しかるに、
吉田内閣は、四月二十八日閣議決定を行
つて、きわめて不可解なる指示をしたのでございます。型式証明、耐空証明から、航空機の安全性に関する
行政上の責任は
運輸大臣にゆだね、生産施設及び生産技術検査の責めを通産
大臣に所管せしめることに
規定されているのでありますが、このことは航空
行政上きわめて重大なことであり、航空の全面的直接責任の地位にある大場航空庁長官をして、運輸・通産連合
委員会の席上、航空
行政に対する困難と危惧が感ぜられ、安全の責任がとれないとまで言わしめておるのであり、また同長官をして、こういうことでは航空
行政上の思想の一部を変更せねばならぬとさえ言わせておるのであります。この混乱が
本法の
内容として包蔵されておるのであります。だからこそ、自由党内部においてすら、幾たびかにわたる折衝が代議士会あるいは政調会で行われて、難澁と醜態を暴露したではありませんか。
吉田内閣のもとに設置せられた航空
審議会の答申が、閣議で通産省と運輸省とにけんか両成敗的な
措置をされたことは、放置できない不祥事であります。党内または閣内における諸関係が、一国の
法律の中に明朗性を欠いた形で現われるということは、許しがたいことであるといわなければならないのであります。しかも、
法案自体の中には、担当当局が安心してその業務につくことに危惧を生ぜしめるような事態があるということは、重要視しなければならないことであります。もく星号の惨事がいまだ耳新しいものであるだけに、一層強く航空
行政の
基本的考察が
要望せられている際に、閣内または党内の派閥や利害に左右される、悪臭紛々たる感じのする
本法の不明朗性は、将来に禍根を残すものであると断ぜなければならないのであります。自由党の諸氏が提案する
修正案をも
つてしても、この
基本的な面から発生する弊害は除去することができ得ないものであると信ずるがゆえに、わが党は、立法の責任の立場からも、
国民のための
国民経済的見地からも、本
法案に
反対するものであります。
第二点は、
本法施行にあた
つて行われる行為及び
制限がきわめて非民主的な取扱いに終始していることであり、このため大衆のこうむるであろう被害に対する何らの救済策がないということであります。第三十九條が
規定する申請の審査にあた
つてなされる行為は、利害関係者による公聽会がわずかばかりの救済策でありますが、四十條の告示が行われた後には、ぼとんど救済策がありません。四十九條の物件
制限が行われるに及ぶと、近隣地の受ける被害は、けだし想像に絶するものがあるということは、過去の経験に徴して、われわれは想起しなければならない事実であります。これに加うるに、第百六十一條の十六号によ
つて土地収用法の
改正が行われるに及んでは、付近の住民にと
つては万事休するということになるのであります。すでに上程されている航空機製造
法案とともに、これらの製造業者、運航業者に手厚い施策が行われようとしている本
法案は、大工業資本と銀行資本に奉仕して、大衆を収奪する
内容を持
つているといことに対して、われわれは
反対するのであります。
第三点は、本
法案は、民間航空事業の発達を期待しているにもかかわらず、むしろそれとは別個に、すでに
政府が明示しているサンフランシスコ條約から
行政協定に及ぶ一連の
日本再軍備の方向と軌を一にしているということであります。この
法案が上程されると同時に、学生航空連盟が発足し、航空に関する諸活動が頻発して来ているということは、私どもに戰時中の学生航空隊、少年航空兵を想起せしめるのであります。本
法案第八十七條の
規定する無操縦者航空機に関する
規定は、近時航空機の発達がわれわれの予想以上に進歩しているという現実並びに航空機は当分米国のものを輸入することを前提としている
日本の実情のもとでは、いろいろの疑義を持たしめるのであります。
また
本法は、国際民間航空條約の
規定の趣旨に
従つてつくられたものであることは、提案説明者によ
つて明らかにされているのでありますが、この国際民間航空條約は、各国が軍備を保持し、軍用機を使用することを建前としているものであります。本
法案の提案者は、
日本国憲法第九條において、軍備特に空軍に触れて、それらを所持することを否定しておる
規定については、何らの考慮を拂
つていないのみか、そのような状況下における航空の発達を考慮して
本法の立案に当つたものとは思考されないのであります。かかる意味からして、本
法案は、民間航空の発達の美名に隠れて、米国航空事業家及び資本家の
わが国における販路の安定と確保のための役立ちを背負い、公然の秘密として着々進められている再軍備への
基礎作業だと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
同時に上程とな
つている
行政協定の
実施に伴う
航空法の
特例に関する
法律案は、最も具体的に現われた、このよい例であると思うのであります。軍備を持たず、独立を呼号する
日本は、国際民間航空條約の第一條に「締約国は、各国がその領土上の空間において完全且つ排他的な主権を有することを承認する。」と明瞭に
規定している主権が、この
特例によ
つて排除されるのであります。私は重ねて言う。民間航空の美名に隠れて再軍備を用意し、利害関係によ
つて法の
内容が混乱されている
航空法案及びこの
法案で自国の主権をみずから放棄する
内容を持つ
特例法案に対して、
労働者農民党は絶対に
反対することを表明いたしまして、私の
討論を終る次第であります。(
拍手)