○並木芳雄君 私は、ただいま上程されました
日本国と
インドとの
平和條約の
締結に対して
承認を與えることに
賛成の意を表明いたします。(
拍手)
インドは、
サンフランシスコ会議に列席をいたしませんでした。また、日華條約を
締結する際にも、快からず伝えられた節もございます。そこで、私どもは、杞憂ではありましようけれども、もしや
インドが
日本自体に対して感情を害することのないようにということを念願してお
つたのでありますけれども、そのことは、今度の
日印條約
締結によ
つてまつたく杞憂であつた、
日印間の友情というものは、他にまさるものはないということを確認することができたのでございます。(
拍手)
インドが、高い理想を掲げて、とにもかくにも
世界の第三勢力をつくり上げて行こうとする、この熱意というものは、やはり私どもは高く評価しなければいけないと思うのです。と申します根底は、
アジアというものは、常に西洋諸国の圧力のもとにあ
つて、対等の地位にまで燃え上ることができなかつた。その勢力を挽回して、ほんとうの平等のもとに
世界の平和を確立しようとする理念から出ておるところに価値があるからでございます。(
拍手)従
つて、当然
インドは、
日本が日米安全保障條約を結んだことに対しても反対でございます。これは平等でない、一方的であるという見解でごさいましよう。また日華條約でも、この日華條約が、
アメリカの圧力によ
つて、
日本が無理に
締結させられたのではないかということを案じての反対の表明であつたようでございます。
しかしながら、それだけに、私どもが心配したにもかかわらず、
インドは、ただいま申し上げましたような、根底的に申しまして、
アジア民族というものの地位を高めるという底から出て来る意欲でありますので、必ずしも
日本のやつたこと、その
行為に対して感情を害しておるものではないのであります。でありますから、平和
会議には列席しませんでしたけれども、今度の二国間の條約の
調印には、私どもが予想したよりも以上の早さをも
つて熱意を示してくだすつたわけでございます。
のみならず、
インドは、四月二十八日、條約発効の日には、早くも
戰争状態終結の告示を出して、われわれに、ほんとうの永遠の平和、永遠の
友好というものを披瀝してくれたのであります。そのことは、今度の
日印條約第一條にはつきりと盛られてあるのでございます。私どもは、この一貫した
インドの高い理想、深い友情、こういうものを考えますときに、同じ
アジアにありながら、やや立場を異にしたとはいいながらも、
インドとの間の
調印ができましたことは、これひとえに
全面講和への一里塚であるということが言い得ると思うのであります。(
拍手)
先ほどの
日本共産党の
討論を聞いておりますと、か
つて全面講和を主張した共産党、腹の中では
全面講和ができない方がいいんでしよう。しかしながら、その腹の中で考えている
全面講和、実はその反対の気持というものにだんだん逆効果とな
つて、われわれが一里塚々々々をも
つて全面講和に近づいて行く。ことに
アジアの孤児であると言
つておつた、そのこともひつくり返つた。それとともに、
アジアの諸国は団結せよと共産党は叫んでおつた。それにもかかわらず、先ほどこの印度との條約に反対する
討論を聞いておりますと、まさしく窮地に追い込められて、窮鼠猫をかむような
討論に終始したことは、われわれの遺憾とするところでございます。私は、もし共産党が
民主主義を遵奉するならば、
討論に立、つた同じ人が、二度までも時間を守らずに衛視から引きずりおろされるようなことのないように、私は共産党にまず
民主主義を習
つてもらいたい。
民主主義を体得してからでなければ、この
日印條約に反対
討論をする資格はないと私は感じたのであります。(
拍手)
この條約自体には別に問題はございません。
戰争の跡始末をしたものであるし、どちらかといえば事務的に終始しております。
貿易、海運、航空、その他の
通商の糸口をつけたものであります。まさしくこれが玄関でございますから、今後われわれの手によ
つて貿易、海運、航空などの
通商の道をますます開いて行く、深めて行くというのでございます。まあ、その点においては問題がないどころか、むしろ
賠償請求権の放棄、あるいは
インドにおける
日本資産の返還、紛争の
解決方法などにおいては、われわれが期待した以上の寛和な
講和でございまして、この点、私どもは
国民とともに深い感謝の意を表明するものでございます。(
拍手)
政府のごときは、この喜びのあまりに、実は
日印條約の
日本文に
調印しておりません。あまりに
條件がよかつたために、一刻も早く
国会にかけてその
承認を求めようということで、実は皆さんの間には御存じのない方があるかもしれませんけれども、この
日印條約の
日本文も
調印はしておりませんし、
インド文にも
調印していないのでございます。ただ英文だけが基本とな
つてとりあえず英文だけに
調印しよう、これにサインをして、あとから
日本文と
インド文は一箇月以内に交換をするという、非常に略式な方法をと
つたのであります。
政府は、要するに、ことほどさように喜んでおつたという、その一端を示すものであります。もちろん、かくのごとき略式は、今後は絶対に
政府によ
つてとられてはならないということを、私どもは警告をしておきました。それは、こういういい
條件の條約の場合にはよろしうございましようが、
日本に不利な
條件の條約を押しつけられたような場合に、苦しまぎれに英語だけの案文によ
つてそれに
調印をさせられて、それで條約が成立するというようなことのないことを、私どもは警告をしたのでございます。(
拍手)
以上、まことにわれわれとしては、これ以上求めても得られないほどの條約でございますが、最後に、今後のこの條約に基く実施過程において、
政府に対して私どもは要望しておきたいと思います。それは、
貿易に例をと
つてみましても、
日本と
インドとの昨年の
貿易の数字を見ますと、
日本から
インドへ昨年千八百万ポンド、それに反して、
インドから
日本へは千六百万ボンドの
輸入でございます。
日本からは輸出超過にな
つております。しかるに、英国から
インドへは一億二千万ポンドの輸出にすぎませんけれども、
インドから英国には一億五千万ポンドの輸出にな
つております。こういう点を考えますと、
日本からは輸出超過、英国からは
インドへ輸出の方が少い、この一事をと
つてみましても、最近バトラー蔵相が英国
経済の危機を唱え、ポンドのピンチを伝えております。従
つて日本の
インド貿易というものも、必ずしも手放しの楽観はできないと思います。そういう点については、
政府として十分留意をして、国交の円滑をはかりつつ、
日印貿易が円満な進展を途げるように努力をしていただきたいのでございます。(
拍手)
もう
一つだけ申し上げておきますが、政治上の條項に触れられなかつたことは、いささか私どもには物足らなか
つたのであります。その一例といたしましては、
ポツダム宣言による引揚げの促進の問題がございます。
平和條約では、第六條に、
ポツダム宣言の引揚げに関する條項は生きておる。連合国は確認をしておるのであります。
ポツダム宣言はすでにその効力を失
つておりますけれども、その中で、たつた
一つ生きておる條項は、この引揚げの促進である。その條項は、今度の目印條約の中にも、私どもは入れてほしかつた。そうして、
インドも引揚げの促進に関しては大いに努力をするという意思表示を、せめて、してもらいたかつた。そういう点では、今後領土の問題もありましようし、
両国間のほんとうの平和、ほんとうの安全の保障という問題もございましよう。その点、われわれは、今の
政府が、ややもすれば英米だけの陣営に走り、
世界の対立する二大陣営の一方にのみ偏しようとする
態度を十分改めて、反対に二大陣営対立の激化を緩和するように、そのために
アジアの大国
インドとの條約を意義あらしめてもらいたいと思うのであります。
われわれは、
本條約の
締結によ
つて経済関係が深く結ばれるとともに、ただいま申し上げましたように、今後この
インドの崇高な理念と友情とにこたえつつ、かつは
インドの協力を求めて、
アジアその他の諸国との国交
調整、国交回復に貢献するよう
政府に特段の要望をいたしまして、
賛成の
討論を終りたいと思います。(
拍手)