○船越弘君(続) 顧みますのに、
昭和二十四年五月、本院におきまして
労働組合法、
労調法の一部
改正法律案が上程されましたときに、野党の
諸君は当時何と言つたか。
労働法規の
改悪だと言つた。彈圧
法規であると言つた。
労働者を奴隷と貧困に追い込み、ひいては
国民経済を破壞するものであると、
諸君らは反対をいたした。ところが、事実はどういう情勢にな
つて来たか。私がここで喋々するまでもなく、鉱工業の生産指数は、当時の
昭和二十四年三月が、
昭和九年―十一年を
基準年次といたしますると七四・五%、二十五年三月が八五・八%、二十六年三身が一二九・三%であり、本年の二月は一二九・二%と、非常な上昇率を示している。
労働者の名目賃金はどうな
つているか。二十四年が一四八・五%、二十五年が一八〇・五%、二十六年度が二三一・四%、二十七年一月が二六二・九%、また実質賃金も同様な上昇率を示しておりまして
昭和二十四年と比較いたしますと、実質賃金におきましては五二%という非常なる上昇率を示している。この実情こそは、この数字こそは、明らかにわが自由党の
労働政策の成功を物語
つている。わが自由党が
国民大衆のためにいかに善政を施したかということを雄弁に物語
つている。(
拍手)爾来三年を経過いたしました今日ただいま、性懲りもなく、再び三年前に繰返しましたところの古めかしい論拠と方法とをもちまして、野党の
諸君どもが三
修正案をこのたび上程いたしましたことは笑止千万の限りであると申さざるを得ないのであります。(
拍手)
憲法第二十
八條により保障せられました
労働三権と、二十九條の財産権とは、
憲法十二條、十三條とによ
つて明らかに公共の福祉のために利用せらるべき責任があるのでありまして、決してこれを濫用してはならないことは、
憲法解釈上一点の疑義のないところでございます。私は、ここに
憲法論議を省略いたしまして、今回最も問題とな
つて参りましたところの二、三点を取上げまして、
修正案に反対の論証を試みたいと思うものであります。
まず第一は、
労調法三十
五條の二の
緊急調整であります。この
緊急調整は、
公益事業に関する
労働争議、またはその規模が大きいため、もしくは特別の性質の
事業に関するものであるため、
公益に著しい
障害を及ぼす
労働争議につき、これを放置いたしておきますると
国民生活に重大なる
障害を及ぼすような場合に初めて
労働大臣が発動いたすものでございまして、これはひとえに
国民生活、公共の福祉の安全をはかろうとするものでございますい。しかも、その
決定後の
措置は、権威あり、公正なる
中央労働委員会に一切をあげておまかせしておるのであります。しかるに、
社会党両派の
修正案は、この
緊急調整を削除しよう、こういう御意見であるようでございます。
原案は、
冷却期間の設定はいたしておりましても、決して
罷業権を
禁止いたしておらないことは、
労働法規の建前から明らかでございます。(「五十日も
禁止しておるではないか」と呼ぶ者あり)そのことについては、あとに述べる。一歩譲りまして、
緊急調整の点を削除いたしたといたしましても、御承知のように、
経済ストと政治ストとの段階というものは非常に困難でございます。ところが、少くとも
経済問題におきまして、十
八條五号によ
つて調停ができ得なかつた場合には、いかなる
法律、いかなる根拠をも
つてこれに当ろうとせられるのであるか。もし
緊急調整を削除いたしました場合には、
経済問題、
労働問題をあげて
治安立法に讓らざるを得ないような
立場に追い込むことになるのであります。この点は、むしろ私は
労働大衆のためにもとらないところであります。(
拍手)
なおまた、ほんのわずか、短
期間片山内閣を組織せられましたところの
社会党とか、あるいは、いまだか
つて経験もなく、将来永久に政権にありつけそうもない小会派ならいざ知らず、過去におきまして数度にわた
つて責任ある内閣を組織いたしました自由党、また今後十年、二十年にわた
つて永久に責任ある内閣を組織しようとする確信と熱情を持
つておる自由党といたしましては、かかる事態を招来いたしましたときに、絶対にこれを拱手傍観して放任することはできません。かかる
観点からいたしましても、この
緊急調整の削除ということにつきましては、われわれ自由党は、遺憾ながら絶対に反対せざるを得ないのであります。
次に改進党の
修正案なるものは、
緊急調整の項を削除いたしまして、
現行法第十
八條第五号を
改正することによ
つて糊塗せんとするものでありますが、かかる重大事案が
中央労働委員会の単なる
調停によ
つてのみ
解決され得るやいなや、疑問なきを得ないのみならず、
緊急調整のあらゆる手段、すなわち
調停を除くあつせん、
仲裁、実情調査、勧告の方法がないことは、原案よりもむしろ非民主的であり、改進党の
修正案なるものは、
修正でなくして、私は修悪であるように考えるのであります。また十
八條各号の
調停進行中に、
労働大臣の一片の通知によ
つて、追討ち的に三十日の
冷却期間を設定するがごときは、勤労大衆のためにも私はとらざるところであります。すなわち、改進党の
修正案は、
緊急調整の実体
規定を十
八條の各号に盛り込もうとする苦心のあとは、私にもよくわかるのではありまするけれども、私をして忌憚なく批評せしめますならば、虎を描かんとしてねこを描き得ず、死んだねずみを描いたと同断であります。改進党でなくして、私は━━━であるとの非難を受けざるを得ないかと思うのであります。
また
緊急調整の
冷却期間五十日について種々の論議があります。しかしながら、民主主義の先進国である
アメリカにおいてさえ、タフト・ハートレー法によりますると六十日、その上手続
規定の点を合せますると八十日の
冷却期間を
アメリカにおいても設定いたしておるのであります。他面、共産党の
諸君が随喜の涙を流す、
諸君の祖国ソ連においてはどうであるか、ソ連におきましては、鉄の氷で三百六十五日
争議権を凍結せしめられておるのであります。かかる見地に立ちまするときに、五十日の
冷却期間は決して過当なるものにあらずと言い得られるのであります。
第二は、公労法の一部
改正と
地方公営企業労働関係法案であります。
わが国が
独立をしましたのを機会に、前者は、
国家公務員であ
つても、統一的
企業組織の
現業職員、すなわち郵政、印刷、造幣、営林、アルコール專売等の
現業職員に
団体交渉権を與えるものであります。その数は五十三万に及び、後者は、政令第二百一号により
団体交渉を許されていなかつた
地方公務員のうち、公営
企業に従事するものについて、
現業国家公務員に対すると同様の
趣旨から
団体交渉権を認めんとするものでありまして、その数は約六万、これを合せますと約六十万名の勤労者に広汎な
基本権を與えるものでありまして、何人といえどもその進歩性を否定することはできないと私は思うのであります。
憲法、
国家公務員法、
地方公務員法をいまさら私が持ち出すまでもなく、公務員は全体の奉仕者であり、公共の福祉に直接関連するものでありますがゆえに、ストライキ権のないのは当然でありまして、諸外国の
立法例もこれを認めていないところであります。しかるに、
罷業権を與えぬ限り絶対反対だとの所論は、たいのさしみがなければ白い御飯も食べないと、だだをこねる子供と同断でございまして、私の絶対承服し得ざるところでございます。
なお
労働基準法その他について種々所見を申し述べたいと思ますが、時間の
関係がございますので、これを省略いたします。
これを要するに、今回の
改正案は昨年の秋以来、労、使、
公益三者構成の
労働関係法令審議会、中央
労働基準審議会の愼重なる審議の結果答申されたものでありまして、
労使の合致せる意見は全部これをとり、
労使の合意なき部分につきましては、おおむね
公益委員会の意見を尊重して採択せるものでありまして、その慎重にして民主的なる
立法手続といい、国際的水準にまさるとも劣らざるその
内容といい、さすがにわが自由党のホープであるところの吉武
労働大臣の苦心の作であり、名工の逸品として賞讃せざるを得ないのであります。さりながら、弘法も筆の誤りと申すこもとあるのでありますから、私は二、三
労働大臣に希望を申し述べておきたいと思います。
第一に、
緊急調整は、その明文の示すごとく、真に緊急やむを得ざる場合のみに発動すべきであ
つて、いやしくもこれを濫用し、
争議権の制限にならざるよう愼重を期せられたい。第二は、
地方公務員法第二十
一條に掲げる
單純労務については、少くとも縦割
現業について
団体交渉権を認めるよう、近き将来において特別の
立法措置を講じていただきたい。第三は、
珪肺病等悲惨なる職業病について、その打切補償の
期間を延長する等、近き将来において改善の方途を講ぜられたい。
最後に第四点は、
ゼネスト禁止法案は、終戰直後の
労働運動の状況よりいたしますれば、その必要なしといたしませんけれども、近時ようやく
日本の
労働組合も健全化に向わんとしつつある際でありますから、今後の
組合の動向を十分見きわめて、愼重なる
態度をと
つていただきたいと思うのであります。
最後に、私は心ある
労働者諸君にあえて訴えたいのであります。その第一は、
労使紛争の場合、
国民大衆の支持があ
つてこそ初めて勝利を獲得するものでありまして、公共の福祉のもとにおいてこそ
諸君の
生活向上があるのであり、第二は、
政府や官憲の一方的不当な彈圧により
諸君の
基本権を抹殺することは不可能であ
つて、むしろ
諸君の指導的
立場にある一部暴力主義的過激分子による
争議権、自由権の濫用によ
つてこそ
諸君の自由権が剥奪されるであろうことを私は申し述べまして私の討論にかえたいと思うのであります。(
拍手)