○吉田安君 私は、改進党を代表いたしまして、改進
党修正案に対してはどこまでもこれを堅持しつつ、
自由党の
修正案並びに
政府提出の
原案に
反対の意を表明するものであります。(
拍手)
自由党の
修正案を見ますると、ほとんどその
修正は
字句の
修正であり、小手先いぢりの
修正にすぎないのであります。(
拍手)これほどの大
法案を、これほど世間の耳目を引いた
法案を、二、三の
字句の
修正あるいは條文の書きかえぐらいの程度で、これを
修正したりというて得々んだる
自由党諸君の気持が、私にはわからぬのであります。(
拍手)この意味で、私は
本案に対しましては、抜本的
修正案をどこまでも堅持したいと思うのであります。
端的に申しますると、この
法案をどこまでも貫いたならば、これほどの問題を、一行政官によ
つてその資料を収集させて、また一行政官によ
つてその
証拠固めをやり、わずかなる当事者の弁明を聞いただけで、これをまた一つの行政官の
機関であるところの
審査委員会で決定してしまおうというのであります。こういうことにわれわれは
反対するのであります。
〔副
議長退席、
議長着席〕
さらにまた、それに対して不平があれば
裁判所に持
つて行くからよくはないか、こうおつしやるのでありますが、その
裁判所に持
つて行つたときにはどうなるか。二十四條の第二項には、さような不服があるときには、行政
事件訴訟
特例法によ
つて救済の道がある、こうおつしや
つておる。なるほど、その
通りに違いありません。ところが、被害者の方からそれに対して不服の申立てをする。
裁判所はこれを受理した、受理して、その
処分の執行停止の要求があつたときにやろうとする。やろうとすると、驚くなかれ、総理大臣がそれをいやだといえば、
裁判所は、なさんとするその司法権までも弾圧されるということになるのであります。(
拍手)この点は、よく御注意を願いたい。
裁判所は、否認権を行使せられたならば、せつかくの仮
処分もできないのであります。こういうことで、一体どうなるか。せつかくの救済
方法として認めたものも、こうしたことでは、とうていこれについての救済はできません。それで、その
調査と決定までは
行政処分でやるのでなくて、どこまでも
司法処分でやらねばならぬというのが、わが改進党の拔本的
修正の根本であります。(
拍手)
私は、いま少しくそれを申してみまするならば、今山口君の
賛成討論を聞いておると、まつたくこの
法案をも
つて民主的な、完全なる
法案だとおつしや
つておる。われわれもまた、今日この時代に、かような破壊的
活動に対する
取締り法案の必要は認めるのです。どこまでも認める。(「そうだろう」と呼ぶ者あり)認める。しかし、誤解もなさ
つてはいけません。これは認めるが、その
内容に至
つては、この
法案は、今申しまするような事由のもとに、絶対に無
條件に
賛成するわけには行かない。このことは、私は
委員会においての総括的質問の際にも申し上げておいた。ところが、
法務総裁木村さんは、何と考えられたか、あるところで、改進党の吉田君がこれには全面的に
賛成であるから、ぼくは安心だとおつしやつたということでありますが、この時勢に、この世相の際に、かような
法案をつく
つて出そうということには
賛成であるとは言
つたのでありますが、この
法案自体の
内容に対してまでも、全面的に、無
條件に
賛成ということは、一言も言
つていないのであります。(
拍手)それは速記録をごらんになれば、よくわかることであります。
それで、まず私は、中村君の提出されたる
修正案から申し上げてみましよう。ここに、この
法案にいうところの破壊的
活動がかりにあつたといたしましよう。さような
活動があつたときに、これを
規制する、
団体規制しようとするときに、たれがその
証拠を収集するかというと、
公安調査庁なるものを設けて、その長官の指揮のもとに、公安
調査官という一行政官がこれをやるのです。そうして、一方では、実際の
破壊活動をやつたところの各人の行動に対しては、司法
警察官がこれを
調査する。でありますから、二本建で行くということになるでしよう。そうして、それを集めて、今度は
審理官のところに持
つて行く。そのとき、初めて
審理官は
関係者をそこに呼んで、何らかの弁明をさせるにすぎない。そうすると、その
審理官は、そこででき上がつたものをどこに持
つて行くかというと、
公安調査庁長官の
請求によ
つて、
公安審査委員会へこれを持
つて行く。
公安審査委員会はまた、差出されただけの書類と
証拠によ
つて、ただちにこれに決定を與える。私は、これほど
危險ねものはまたとないと思うのであります。(
拍手)まず
調査官がいろいろのものを集める。今度は
審理官がそれを
審理する。それをまた
審査委員会に持
つて行く。ことごとくこれが一行政官の仕事です。しかも、驚くことには、原告の立場に立つその
調査官なり、
審理官と、これを受けて裁判をするその
審査委員会が、同じ指揮系統の最高者たる
法務総裁の指揮下にあるというに至
つては、これは矛盾もはなはだしいものであると私は考える。(
拍手)一方で原告官の立場にある人がそれをするのはよろしいけれども、いやしくもこれをやる以上は、司法裁判
制度の
通りに、全然
関係のない立場にある
裁判所がこれを裁判するということが、今日の三権分立の建前からい
つても当然であろと私は考える。(
拍手)
ところが、それを
自由党の
諸君がどう
修正なさつたかと申しますると、その
修正は、そういうことではいかぬからというて、きのうまでは、いや、これを総理府のうちに置こうとか、あるいは
裁判所内部もどうであろうかというようなことをおのおの考えてみられた。考えてはみられたが、内部のどういう
関係か、あえて知る由もありませんが、それを、ただ同じ
法務総裁のもとに置いて、ただ特別に一つの
独立したる
事務局をつく
つて、これでごまかそうというわけだ。一体、
事務局とほなんです。ただ事務を
処理するだけのものじやありませんか。そういうものを置いて、それでけつこうじやないかというに至
つては、おおよそ
字句の
修正にすぎないと、あえて私が申し上げたのは、そこなんです。(
拍手)
あるいはまた、この三條にこういうことがあるでしよう。第三條の一のロ号に、「この号イに
規定する行為の
教唆若しくは
せん動をなし、又はこの号イに
規定する行為の実現を容易なら」めるため、その実現の
正当性若しくは
必要性を主張した
文書若しくは図画を印刷し、領布し、公然掲示し、若しくは頒布し若しくは公然掲示する
目的をも
つて所持する」云々とある。これでは、この煽動とまぎらわしいから、これを書流しにせずして、「この号イに
規定する行為」ということだけ行を改めたのであります。
自由党の
修正案はこれをただ読み流しに読んでも、行を改めて書いてみて、印刷に付して読んでみても、どつちも意味は少しもかわ
つていない。かわ
つていないのを、あえてそうなさろうということが、私の言う小手先いじりの
字句の
修正にすぎない。こういうことにな
つて来るのであります。
そういうことを考えましたときに、大まかに申しましても、私はこの
自由党の
修正案にはもちろん
賛成はできたいと同時に、この
原案に対しても
賛成ができないのであります。
もう少しく詳しいことを申してみますならば、この二十四條でも
つて規制の
処分を受けた
団体はどうすればよろしいかというと、たとえば、ある新聞社が
規制された。六箇月以内は
団体の
活動ができない。新聞の発行もできたいというような
処分を受けた。これではたまらぬからとい
つて、そのときはどうするかといえば、それは
裁判所に救済を求めよという。だから、
裁判所に救済を求めて不服の訴えをなす。なすけれども、
規制の
処分命令が出ておるから、六箇月の間は新聞の
活動ができません。できませんから、さらに
裁判所に訴えて、その
処分の執行停止を解いてもらいたいと、こう言う。そうすると、
裁判所は
愼重審議の結果、これは申立人の言うことがほんとうだ、こういうことで取返しのつかない損害を與えても気の毒だから、この
行政処分による執行停止を解除してやろう、
裁判所がこういう気持にな
つて、その判決をしようとすると、総理大臣が、行政
事件訴訟
特例法第十條第二項の但書によ
つて、ちよつと待て、そういうことをしては困る、こう言われると、遺憾ながら
裁判所はそれをやることができない。やることができないということになれば、一行政官の総元締である総理大臣の手によ
つて、司法権の
活動までもあえて干犯するという、三権分立の建前から恐ろしい結果を招来するということを、まずわれわれは考えてみなければなりません。(
拍手)ある
委員はこう言う。そんなことの問題には触れずして、今度は——現総理大臣は、私も尊敬する総理大臣である。ところが、誤つた総理大臣がかりに出ましよう。出て、そういうことをやられた場合はどうなるのです。これは三権分立が破壊するのはもちろん、一総理大臣によ
つてフアツシヨ
政治が実現するというおそれが、ここに生ずるのであります。これはいかぬことです。
こういう大体論のもとにおいて、わが改進党は、いわゆる
公安調査庁を設置する
法案にも
反対、
従つて今日ある特審局はこれも
反対、そうして今の
公安審査委員会を同じ屋根の下に置くことも
反対という拔本的なる
修正案を出したのであります。でありますから、
破壊活動があつたならば、それを
検察庁の手に渡し、あるいは司法
警察の手に渡して、この司法
警察あるいは
検察庁の手によ
つてこれを十分
調査いたした上、これが
犯罪なりとするときに初めて司法
裁判所に提訴することが今日の立憲
政治の建前でなくちやならぬ、私はこう考える。(
拍手)なぜ、それをあえてなさらぬか。なぜ、さようなことに
反対をなさるか。そうすると、
行政処分と
司法処分とが
混淆するおそれがあるとおつしやるが、それは決してさようなことはないのである。
しかも、この
公安調査庁を設置し、そうして
審査委員会なるものを設置すると、初めの予算が十億を要するということを聞いている。
諸君、現
政府は、行政機構の改革、なかなかやりにくいところの行政整理もあえてや
つて、仕事の簡素化をはかり、費用の軽減をはかり、よ
つても
つて国民の負担を軽減しようということを言うておられる。その言葉はまことにけつこうです。そうなくちやならない、という口の下に、また特審局を昇格して、これを
公安調査庁になし、一方にまた同じ行政官をも
つて公安審査委員会をつくろうというがごとき、屋上屋を重ねて国費を濫費するということは、その点から、言
つても、今日の日本の経済
状態から、われわれは反響ざるを得ないのであります。(
拍手)私は、さような観点からいたしましても、これに
反対したい。のみならず、
公安調査庁のやること、あるいは
審査委員会のやることは、今日の
検察庁及び
警察で事は足りると思います。しかしながら、それでも事が足りないというならば、検察にさらに一段の筋金を入れて、ほんとうに
活動能力の整備される
警察をつくることが、今日
公安調査庁をつくり、たくさんの人を、ここでまたたくさんの金をかけて養うよりも、はるかに私は策の得たものだ、かように考えるのであります。
これは大体の私のわくでありますが、さらにこれにしさいに入
つてみるならば、今度はいわゆる
教唆あるいは煽動犯までも——煽動を、しかも
独立罪として
処罰しようという。一体、なぜこれが一般
刑法においてやれないか、私はこう思う。なるほど、煽動というものは一般
刑法にはありません。一般
刑法にはないけれども、今日まで相当に騒擾罪なるものが繰返して行われたことを歴史は示しておる。そのときに何か不自由を感じたかといえば、現行の
刑法によつを事は足れりと私は考えておる。しかも、
教唆犯のごときは、御承知の
通り、これは
刑法総則によ
つて、正犯に準じて
処罰することができますから、これも何ら
独立罪として
処罰する必要はあえてないではないか。煽動に至
つてもまた同然であります。さようなものを、煽動罪を認めてまでもこれを
処罰せんとすることは、今日の世相からして行き過ぎの感をまぬがれない、かように私は存ずるのであります。
政府並びに
自由党は、
法律さえつくつたならばそれで事足れり、
治安は維持されるとお思いになる二とが万々一あつたとするならば、これは思わざるもはなはだしい愚論であると私は考える。一体、世の中は、法はなきにしかず、
法律はないのが一番いい、けれども、やむを得ない。でありまするから、ただ
治安維持、
治安維持ということで、いたずらに民心を惑わすがごとき
法律をつく
つて、それによ
つて治安の維持は足れりと思うならば、これは間違いである。まずその前において、さようなことの起らないように、経済の面からも、生活の面からも、思想善導の点に力を注ぐことが、今日まさに平和となり、
国家が
独立しました以上は、最も大事なことであると、私はかように考えるのであります。(
拍手)
この
法案の第
二條を見ると、われわれが心配しておるように、立案者の側にあ
つても、
政府の側にあ
つても、よほど心配しておる。なぜならば、そういうことをするとき、
人権蹂躙をしないように気をつけろ、あまり深入りをしてはならぬぞということが、この
法案の第
二條に明らかに書いてある。それほど恐ろしい、それほど警戒せねばならぬ
法案をつく
つてそうしてそれによ
つて取締りを断行して
治安維持をやろうということは、思わざるもはなはだしいものでありましてそこにこそ、いわゆる世間みなの人が
反対すみように、
憲法が
保障しておりまするところの
人権、自由を侵害するおそれがあるとまでも極論されておるのであります。
さような点をかれこれ勘案いたしますると、ほんとう抜本的にわれわれ改進党が提出いたしましたるこの
修正案こそ、私はまれに見る完全なる
修正案である、かように考える。(
拍手)私は、
自由党を除いたる他の
社会党その他
共産党の
諸君まで、この改進党の
修正案こそ時代に即し、一歩前進したる、ほんとうの適法なる
修正案と、かように考えるのでありますから、どうぞ
自由党の
諸君も、もう少しくゆたかな気持を持
つて、このわれわれの
修正案に
賛成され、いさぎよく
原案を放棄されることを私は絶叫いたしまして、私の
意見とする次第であります。(
拍手)