○猪俣浩三君
日本社会党第二十三控室を代表いたしまして、本法案に反対をいたします。いろいろ詳細なことは前の反対論者が盡されましたから、なるべく簡單に申し上げたいと存じます。
第一点は、先の討論者からも出ましたことでありますが、本
法律案のその基底をなしまするものは
行政協定でありまして、この
行政協定が憲法の第七十三條に違反するものであることは明白であります。(
拍手)憲法第七十三條には、いやしくも條約である以上は
国会の承認を得なければならぬことにな
つておるのでありまするが、この
行政協定は、われわれは
審議することができませんでした。およそ承認ということは、ある具体的な草案がありまして、それを認めるか認めざるか、さような意義であることは、これは幼稚園の生徒にも明白な論理であります。しかるに、
政府は詭弁を弄しまして、遂にこれを
国会の
審議にかけず、
行政協定は成立いたしました。これをわくといたしまして、この法案ができておるのでありまするがゆえに、私は、この
法律案それ自体が根拠のないものであり、最高裁判所に訴える際には、違憲の
法律として裁判せられるおそれが十二分にあると思う。かような
法律に、われわれは賛成するわけには参りません。
この
法律案の内容は二大別できまするが、一つは、合衆国の軍隊の安全を保障いたしまするところのいろいろの條項、二は、いわゆる治外法権の具体的な條項であります。この合衆国軍隊の安全を保障する手段といたしまして、第二條には、その施設及び区域に立ち入ることを禁止し、あるいは要求を受けて退去せざる者を、不退去罪として一年以下の懲役、二千円以下の罰金、科料に処するということにな
つておりまするが、私が
委員会におきまして、
政府委員に今合衆国の施設として強制収用せられた、土地があり、そこに農民が田畑を経営し、あるいは家屋を持
つている際に、その
政府の強制収用なり強制処分に反対で、その強制処分取消しの訴訟をや
つている最中に、これを立ちのけというような要求を受けた際に、今訴訟中であるから、その判決を待
つて立ちのくというような場合でも、この二條の違反になるかという
質問をいたしましたところが、それは違反になるのだという
答弁で、ありまするから、とにもかくにも、
政府の強制処分によりましては、自分の
生活権さえ奪われる者が生じて来るという次第に相なるのでありまして、相当われわれの基本的人権を侵害する
規定が含まれているわけであります。
なおまた三條、四條のごときは、合衆国軍隊の裁判権を確保するために、偽証あるいは証拠を隠滅することを処罰する。合衆国軍隊の裁判のために日本人が処罰されるという
規定でありまして、これもわれわれとしては、はなはだ悲しむべきことであります。
第六條は、問題になりました合衆国軍隊の機密を探知、収集あるいは漏洩する罪であり、第七條は、陰謀あるいは教唆、煽動を処罰するという
規定であります。私どもは、
日本国憲法第九條によりまして、一切の戰争を放棄し、戰力の保持を禁じておる。されば、軍隊及び戰争に関しまするところの一切の
規定というものは、われわれの頭上から取去られた。刑法第八十三條ないし第八十六條は、その趣旨において削除せられました。すなわち、軍隊の機密を探知、収集し、あるいは漏洩し、あるいはこれを外国に通報するがごとき
規定は一切削除せられたのであります。なお要塞地帶法、軍機
保護法、国防保安法と称する、かような一連の單行法も、ことごく消滅いたしましたわれわれは、やれやれと胸をなでおろしたのでありますが、しかるに、これもつかの間で、現われましたものは、場合によりますとなおそれよりも苛酷、なる條項を含みますところの、この特別法の第六條、第七條であります。これは、われわれにとりましては容易ならざる立法であります。今上程せらておりますところの破壊活動防止法案よりも、あるいは場合によりましては言論の自由に影響を及ぼすところの危険な
法律、でありまして、これは実に愼重に
審議しなければならぬ大
法律だと思うのであります。
ところが、私どもは、この
審議につきましても、いささか不満がある。
法務委員会を開きましたことは四回か五回であります。旧国防保安法なるものは、
昭和十六年の二月一日から
審議せられまして当時は軍部、官僚の勢力はなはだ盛んにして、国内は戰時色に塗りつぶされておりましたが、その時分の、この国防保安法なるものの
審議状態を、調査いたしてみますると、かような
状態のもとにおきましても、当時の国防保安法案特別
委員会におきましては、衆議院におきましては前後七回の
委員会を開催し、相当活発なる質疑応容が繰返され、なお時の柳川司法大臣は、大体毎回出席しておつた。今度の
法務委員会におきましては、
法務総裁はただ一回出席したのみである。あとは局長にまかせておくというような始末、かように、われわれの言論に重大なる
関係のありまするこの大
法律を審査するにつきましては、はなはだ不十分であると私は考えておるのであります。
かような次第で本日上程されておりますが、なお場内は寥々たる人事数であります。このわずかなる人数によりまして、この基本的人権に大侵害を及ぼすような法案が一瞬にして成立するかと思いますと、実に私は感慨無量でございます。こういう意味の法案でありまして、私どもは、賛成するわけに行かない。なお
政府は、いろいろこれが言論の自由の束縛にあらざることを説明しておりますけれども、その
政府の
答弁のいかんにかかわらず、この
法律が一旦でき上りますならば、これを施行いたしまするところの下部
機関においていかなる
行動をとるかは、過去の
治安維持法の運用その他においても、われわれは推測できるのでありまして、この点におきまして、アメリカあたりとは非常に差異がある。アメリカあたりにおきましては、相当の、あるいは言論、集会に対する規制の
法律がありますけれども、これにつきましては、かの行政庁の最高長官でありまする大統領は、こういう
法律につきましては必ず拒否権を行使いたしまして、これに反対の意を表明いたしておるのであります。しかるに、日本の行政官の長官である
総理大臣は、先頭に立
つて、こういう反動立法、人権を抑圧するような
法律案を盛んに出そうといたしておりまするので、天地霄壤の差異がある。されば、その上の行うところ下これにならうで、下の官僚どもが、得たり賢しと、この
法律を濫用することは明らかである。
なおまた、アメリカ最高裁判所には、相当の高邁なる判事がおりまして、事いやしくも言論の自由というようなことにつきましては、最高度にこの自由を保持せんとする努力をしておることは明らかであります。明白にして具体的なる差迫つた
危險のない場合においては、こういう言論を圧迫するような
法律は、ことごとくこれを違憲なりとして裁判所ては解釈しておる。こういうことろにおきましては安心できるかも存じませんが、日本の裁判所あるいは日本の行政官、これはわれわれ安心できない。
そこで、かような心配になるような
法律は、これをつくらざるにしかず、かような意味におきまして、私どもはこの濫用を心配し、こういう民主政治の最高の基点でありますところの言論の自由をいやしくも抑圧するような
法律案に対しては、賛成するわけには参りません。
なおまた、この治外法権の問題につきましては、いまさら申し上げるまでもなく、明治の初年以来四十数年かかりまして、当時の政治家が苦心さんたん、ようやくかち得ましたところの平等條約、これが今やまた逆転いたしまして、しかもこれは今まで世界に実例を見ないような大きな特権が合衆国軍隊に與えられておる。合衆国の軍人、軍属、その家族までがこの治外法権を持つに至りましては、まことにわれわれは言葉がない。家族が、構成員の一員として、
日本国内至るところに治外法権を持つがごときことは、今
政府は、いや他に実例があるというような
答弁をいたしましたけれども、これはまつたくうそであります。大西洋條約、あるいは米英協定、あるいは米比協定におきましても、いわゆる軍人の家族がこの治外法権を持つがごときことは絶対にありません。軍人に治外法権を持たせることは、あるいは合理的説明もできるかもしれませんが、一体その家族に治外法権を認めるがごときことは、何ら合理的な説明ができないはずであります。
われわれは、かような屈辱的な
法律をしいられておる。私どもは、かような意味におきまして独立だ何だといいましても、現われましたるものは実に屈辱的な
法律であ
つて、かようなものに対しましては、私どもは賛成するわけには参りません。かように、このいわゆる刑事特別法の十條以下、はなはだ屈辱的な條項がたくさん
規定せられておるのでありまして、かような意味におきまして、私どもは賛成するわけに参りません。
以上申し上げましたような、憲法に違反する協定を根本とする
法律、しかもわれわれの基本的人権を侵害するおそれのあることが多々
規定されておるこの
法律、しかも国辱になるような治外法権を詳細に
規定しておるこの
法律、かような
法律に対しましては、断固としてわれわれは反対するものであることを、ここで論ずる次第であります。