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国務大臣(
野田卯一君) 今回の
十勝沖震災につきまして、私は、五日に
総理大臣の特命によりまして
現地に向い、六日、七日、八日と三日間
罹災地域を視察し、またいろいろな打合せをいたしまして、九日に帰京いたしました。これより今回の
地震の
概要と
対策等について申し上げたいと思います。
今回の
地震は、御承知のように三月四日の午前十時二十三分過ぎに発生いたしまして、
北海道一帯及び
東北地方を
襲つたのであります。その強度におきましては、か
つてわれわれが経験いたしました福井の
震災の二倍、
南海震災とほぼ匹敵するものでありまして、このために特に
影響を受けました
地域は、
北海道の
釧路、
十勝、
日高の三
地区であります。この
地震に伴いまして、
津波または
高潮が来襲いたしまして、中には高さ三メートルに及ぶ
津波もありまして、甚大なる
被害を受けたのであります。特に今回の
津波に特異な
現象といたしましては、
釧路地区におきましては、
流氷が
津波とともに押し寄せて参りました。私は
現地に
行つてそれを見たのでありますが、
流氷の大きいものは高さが六尺ぐらいありまして、あるいは八畳敷き、あるいは六畳敷き、あるいは畳一畳といういろいろの形がありますが、非常に大きな
流氷が流れて参りまして、これが
津波とともに民家をさらうというような特異な
現象を生じまして、
災害をさらにひどからしめたのであります。
次に、
被害の
概要を申し上げます。
被害は
地域が広汎にわたり、
交通通信が杜絶しており、かつまた冬季のことでありまして、
北海道は全
道雪におおわれております。従いまして、
農地等に及ばしたところの
影響につきましては、まだ的確にこれをつかむことができません。しかしながら、三月八日現在におきまして
北海道庁が集め得ました資料について御
報告をいたします。
まず
人的被害でありますが、死者は二十六名、行方不明二名であります。
重傷者百十一人、
軽傷者四百十二人を算しております。
物的被害につきましては、
住宅及び各種の
公共施設の破壊、
交通通信の
被害、
農林水産業、
鉱工業等、各般に及んでおりますが、そのおもなるものを申し上げますと、
住宅につきましては、全壊並びに流失したもの千三百三十七戸、半壊五千三百四十七戸、中壊、小壊一万五千戸、
合計二方一千六百八十四戸でありまして、その
被害金額は三十五億五千六百万円と見られております。なお
住宅に関連いたしまして、
家財道具等の
損害が九億五千万円
程度と見積られております。
学校施設に関連いたしましては、小学校五十三、中学校十九、
高等学校十五、
合計八十七校が
被害を受けておりまして、建物の
被害面積は二万三千三百八十坪に上り、
損害金額は六億二千万円と見積られております。病院、保健所その他の
公共施設につきましても
被害がありまして、その
金額は三億八千六百万円と見られております。
水産関係につきましては、
津波、
高潮によるものが大部分でありまして漁船一千十六隻がその
被害を受け、その他漁具、
漁業施設等、総体におきまして
損害額は九億八千百万円に上
つております。
農業関係におきましては、
耕地関係におきまして十億五千六百万円、農作物及び
農業資材におきまして六千六百万円、
畜産関係におきまして七千九百万円、
開拓関係におきまして二億八千三百万円その他で、
合計十五億六千二百万円の
損害を受けております。
林業関係におきましては二億六千二百万円の
損害を受け、
商工業及び鉱業、この
関係におきましては、
損害が七億三千九百万円に上
つております。
公共土木の
関係におきましては、道路の損壊が十億二千三百万円、橋梁が三億四千七百万円、港湾並びに漁港が五億一千九百万円、上水道二億三千二百五円その他がありまして、
合計いたしまして
公共土木関係は二十五億六千万円の
損害を受けております。
次に鉄道につきましては、東
北海道一帯に
被害があるのでありますが、根室本線、
日高線の
被害が特に多く、橋梁の破壊したもの、路盤の陷没したもの等随所に起りまして、輸送機能は一時停止するのやむなきに至りました。列車事故は五つありましたが、乗客に
被害がなかつたのが不幸中の仕合せであります。
被害の総額は七億円と見積られております。通信施設につきましては、比較的
損害が軽微でありまして、五千万円
程度と見られております。
そのほか、先ほ
ども申しましたように、現在の
北海道は雪におおわれておりますので、農地の
災害等よくわかりません。こういう、いわゆる未報のものを約三十億円と見積りますと、
被害の総額は
合計百五十四億七千四百万円に上
つておる次第であります。
なおこの
被害につきまして特に申し上げたいことは、火災がなかつたということであります。ただいま
北海道では、各家々にみなストーブを盛んにたいております。一番たくさん火を使うときでありますが、それにもかかわらず火災がなく、私が訪れました
釧路の町におきましては、人口十万を算する都市でありまして、この
地震とともに九箇所に火災が発生したのでありますが、消防団はよくこれを消しとめましてわずかに二戸燃えただけ、こういう成績であります。全道にわたりまして火災がほとんどなかつたということが、今回の
被害を僅少ならしめておる
一つの大きな原因だと認めます。
次に、今回の
震災に対してとられました応急
措置について申し上げます。
現地におきましては、道庁が中心となりまして、罹災地の支庁長を駆使し、罹災地の市町村長と連絡をとり、また
関係の各機関と協力いたしまして、迅速果敢に方策を進めております。あるいは無線電話を極度に活用して各地との連絡を緊密にし、また
震災対策本部を急速に設置し、調査班を各地に派遣する。また、ただちに
災害救助法を
発動いたしまして必要なる
措置をと
つておるのであります。
食糧につきましては、大体におきまして、
現地に
政府米あるいは乾パン等がありますから、それをまわしまして、配給に事なきを得ておる次第であります。
衣料につきましては、
災害備蓄用の毛布、あるいは進駐軍から提供されましたもの、あるいは厚生省から急送いたしましたもの、あるいは
現地において入手されましたもの等を活用いたしまして、至急にこれを配
つておる実情であります。なおそのほかに、六千点に上るララの救援物資も罹災民を大いに助けておる次第であります。
医療につきましては最も重点を置きまして、
地震の起りました四日の即日、
北海道大学、日赤、一般病院の医師を
現地に派遣いたしまして、ただちに医療に従事させておるのであります。薬品につきましては、
現地にあるものを使い、また進駐軍から提供されたものを使いまして間に合せておる実情であります。
次に飲料水でありますが、この
罹災地域におきましての水道は、ほとんど全部破壊をいたしております。
従つて、市民あるいは町民は、ただちに飲料水に困るのであります。これにつきましては、井戸水を使い、あるいは水道に対しまして応急
措置をとりまして、ようやく間に合せておるのでありますが、非常に水が悪いので、さらし粉をも
つて津水装置を施しておるというような
措置を講じておるのであります。家を失いました罹災民につきましては、ただちにこれを、あるいは寺院、あるいは学校等に収容いたしまして、必要な手当をいたしておるのであります。
飛行機につきましては、今回非常に活用されまして、飛行機の上から救援物資を投下する、あるいは人心安定のために各種の通信あるいはその他宣伝のビラをまくというように、飛行機がたいへんに活用されまして復旧に大いなる貢献をいたしております。
交通通信、すなわち鉄道につきましては、国鉄当局が昼夜兼行の努力をされまして、
十勝と
釧路との間の鉄道四十キロは、いわゆるずたずたのやられておつたのでありますが、不眠不休の努力によりまして、十一日には開通をしておると思います。通信につきましては、六日と七日の両日にわた
つて全
北海道の通信が復旧を見ておる次第であります。
次に治安並びに人心の動向でありますが、治安は完全に維持をされております。これにつきましては、無線電信電話の利用、あるいは飛行機の利用というようなもの、あるいはまた救援復旧等の
措置が、きわめて手ぎわよく、順調になされておるというようなことが、あずか
つて力があると思います。また
国家警察、自治体
警察、消防団等が、きわめて緊密なる連絡をとりまして、有効果敢なる活動をいたしておるのも、その大きな原因であると思います。中央から、われわれが、
災害の翌日に
現地に飛行機で飛んで参りましたことも、
現地の人々にとりましてはたいへん喜ばれたことでありまして、私は自分のことを申し上げて恐縮でありますが、
釧路の東方の霧多布という漁村が一番ひどくやられております。そこに参りましたときは、村民の各位が出迎えてくださつたのでありますが、そのうちの年をとつた人々が、手を合せてわれわれを拝まれたときには、私はまつたく感きわまりました。(
拍手)
今後の対策といたしましては、緊急
住宅の建設が最も急がれておるのであります。
住宅を失つた方が千戸以上に上
つておると思いますが、この方々に対しまして、まだ
北海道は寒くありますので、従いまして、バラックでもいいから、できるだけ建ててあげるということが、まつ先になさるべきことであるのでありまして、道知事も、十日に開かれました道議会におきまして、この問題を一番早く取上げて
措置をすると申しておりましたから、おそらく決定を見たことと思います。
土木
災害、すなわち道路の整理、あるいは橋梁の復旧、あるいは先ほど申しました上水道の修理、あるいはまた学校がたくさんやられまして、休校のやむなきに
至つておるのがたくさんあり、また病院もかなりいたんでおります。こういうものに対しましても、すみやかなる
措置がとられなければなりません。もうすでに
現地におきましては、いろいろな資材を集めまして、日夜兼行でこの方に努力をいたしておる実情であります。なお今後の問題といたしましては、罹災民に対しまして生業資金を融通する問題、あるいは漁船、漁具その他の漁業施設を奪われておる漁民に対しまして、すみやかにこれらの生産
手段あるいは生活の
手段を与えるという問題、その他
幾多の問題があるのでありますが、
北海道庁におきましては、道会を開いて、いろいろな方策を立て、こぐ近日中に上京して、われわれと打合せられるはずにな
つておるのであります。
政府におきましては、
現地に派遣した者が大体帰
つて参りましたので、本日の閣議におきまして、
北海道開発庁を中心とし、各省が協力いたしまして、
災害復旧の
措置を推進するために特に協議会を設置することにいたしました。われわれは、この協議会を中心にいたしまして、大いに復旧対策を促進したいと
考えておる次第であります。
次に、私は今回の
災害についての感じを申し上げますと、
地震の
程度が、先ほど申しましたように、あるいは南海
地震に匹敵し、あるいは福井
震災の倍であつたという
程度の大
地震であつたにかかわらず、
被害におきましては、これらの
地震よりもはるかに少く済んだというのでありますが、その原因は、
地震の起りましたのが午前十時二十三分という、ちようど昼の、各人が働いておる最中であつた。また当日は天気がよく、また今回大きな
被害を受けた土地が、いずれも雪はありましても、比較的雪の浅い地帯であつた。その上なお幸であつたことは、ちようど潮の引いておる干潮時に遭遇したことであります。もしこれが満潮時でありましたならば、私は海岸地帯の
災害はずつと大きく
なつたであろうと思いますが、幸い干潮時でありました。こういうような自然的
条件のほかに、私は、人的
条件といたしまして、道庁であるとか、あるいは支庁、あるいは市町村、その地
警察、こういうような方々がきわめて緊密に提携して、果敢なる
措置をうまくとられたということに大きな原因があり、また道民諸君の心がけがきわめてよく、ストーブを消す、あるいはストーブを持ち出す、それがために負傷をした人も相当あるのでありますが、このストーブの処理等につきまして全力をあげた、その他の点につきまして、あるいは
津波の襲来に対して警告を発し、それに
従つて粛々として行動されたというようなことが、物的、
人的被害を最小限度に食いとめた原因であろうと思うのであります。人心は、先ほど申しましたように、今安定をいたしております。しかしながら、その安定のうちには、当然当局が有効適切なる
措置をすみやかにと
つてくれるであろうという期待に相当の根拠を持
つておると思うのであります。(
拍手)従いまして、われわれは、できるかぎりの力をもちましてこの救済策、復興策、復旧策を打立てて推進したいということを痛切に感ずるのであります。
最後に私が一言つけ加えたいことは、進駐軍の今回の
震災に対するきわめて親切な御協力であります。私が千歳飛行場に参ります往復は、リッジウエイ大将から特に貸していただきました飛行機に乗りましたが、また
現地におきましては、知事その他の者が、交通が杜絶をして、道がいたんでおるので、
被害地に近寄れませ。
従つて、飛行機をも
つていろいろな連絡をとる、あるいは視察をするわけでありますが、それに対しまして、心持よくあらゆる航空機の便宜を提供され、あるいはまた物資を投下するにも飛行機を使う、あるいはビラをまくにも飛行機を使うというわけで、何でも使
つてくれということで、全部の飛行機を提供されるという親切ぶりであり、物資の面におきましては、毛布その他の衣料、あるいはカン詰その他の食料、あるいはその他医薬品というものを幾らでも上げるからというように開放されまして、急速なる救援に大いに役立つた次第であります。またリッジウェイ大将の代理官が
現地を訪れまして慰問激励されるということもあり、特に私が感激いたしましたのは、
北海道を管轄しております騎兵第一師団長がみずから音頭をとりまして、進駐軍の部内におきまして、今回の
震災に対する義捐金の募集運動を始められておることであります。私は、この好意に対しまして非常に感激をいたしました。われわれとしては、一日も早く復旧復興をなし遂げまして、この好意に報いたいと存ずる次第であります。(
拍手)なお一言、
北海道以外の
地域、
東北についても申し上げますが、
東北で
震災が多少でもありましたのは、岩手県、宮城県、福島県であります。しかしながら、宮城県、福島県の
災害はきわめて軽微であ
つて、申し上げるほどではありません。ただ岩手県につきましては、
地震もある
程度ありまして、特に宮古が
被害を受けたようであります。相当の
高潮を見たのであります。その
金額は、道路、海岸
関係におきまして千八百八十万円、農林省の漁港
関係におきまして一億円、運輸省の港湾
関係におきまして二億円、田畑その他におきまして三千九百万円、
合計三億五千万円
程度に上
つております。
以上をも
つて私の
報告を終わります。(
拍手)
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