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鈴木義男君 私は、
日本社会党を
代表して、八千万
国民がひとしく危惧の念を抱いておる
防衛対策について
質問せんとするものであります。
第一に、
現行憲法のもとで、
政府は
警察予備隊を廃して
防衛隊または
保安隊なるものを置かんとしているというのは
ほんとうであるか、そういうことを合法的にやれると思
つておられるかどうかということであります。本論に入る前に、厳粛に承
つておかなければならないことがあります。それは、
政府は
憲法第九條にいう
戦力というものをどう解するのであるかということであり、次には
警察と
軍隊とをどう区別して
考えておられるかということであります。
吉田首相は、口を開けば、まるでばかの一つ覚えのように、再
軍備は断じていたしませんと仰せられるのである。また、二千億円くらいて
軍備などというと
世界の識者から笑われるぞと仰せられたのであります。しかし、今日の
警察予備隊が、ピストルのほかに
小銃、
機関銃、
バズーカ砲まで操縦しておることは周知の事案である。さらに
政府の最近明らかにした
構想によれば、
予備隊を
保安隊に切りかえるときには、この上さらに重
装備の
武装をさせるというのである。
海上保安隊の方では、三インチ砲を積んだ
駆逐艦数隻を
装備させるというのであります。それでもなおこれは
警察であ
つて軍隊ではないと言われるのでありましようか。(
拍手)
今の
憲法ができるとき、第九條に「
陸海空軍」と例示し、それでもなお足りないとして「その他の
戦力」とつけ加えたのは、深い
意味があ
つたのであります。第一次大戦後、
ドイツは
軍備を極度に制限されたのでありまするが、
ドイツ軍閥の残党は再び復讐をもくろみ、
警察隊の名のもとに要員を充実し、これに
軍事的訓練を施し、一旦緩急あらば一夜のうちに数十箇師団の
軍隊にかわる
可能性のある
戦力を用意したことは、著名な歴史的事実であります。ヒトラーが利用したのは、この
戦力であ
つたのであります。イタリアの
独裁者ムソリーニは、また別の形の
戦力を用意したことも、顕著な事実であります。そこて、
日本もまた一切の武力を放棄したと称しながら、このひそみにならうことをおそれて、当時の総
司令部は、
政府原案のうちに特にこの言葉を入れることを要請し、われわれも、まことにもつともであると信じ、
かく規定したのであります。ゆえに、三百代言的にはどう言われ得るつとしましても、
憲法の
精神は、
わが国においては、
陸海空軍と名のつくものはもちろん、その他名前は何であ
つても、重
装備の
武装を持つたものの
存在はこれを許さないということであると信ずるのであります。(
拍手)それでもなお
総理を初め
木村、
大橋その他の各
大臣は、
戦力というのは軍と名をつけたものに限るとお
考えでありまするか、お伺いいたしたいのであります。そもそも
警察と
軍隊とはどこが違うのかといえば、
法律の教科書をひもとくまでもなく、その
存在の
目的が違い、
従つてその
組織、
装備、
指揮命令の系統が異なることは、三才の兒童でも知
つていることであります。
警察なるものは、あくまで
国内治安の
確保のみを
目的とするものであります。強窃盗を捕え、個別的な
集団的暴力行為を鎭圧し、
政府転覆の
陰謀等を検挙するのがそのレーゾン・デートルであります。
従つて、人民の側で持
つておる
種類の
凶器の抵抗を排除するに必要なる、その
凶器に匹敵する
武器以上のものを持つことは許されないのであります。また
警察は、
武器を持つたからとい
つて、みだりにこれを使用し得るものではない。
緊急状態の場合でも、
正当防衛の範囲を越えて、みだりに
国民を殺傷することは許されないことであります。たといそれが
共産党の暴動でありましても、
共産党が戦車を持たないのに、その
集団に向
つてバズーカ砲を発射するがごときことは許されないことであります。(「ヒヤヒヤ」)
一方、
軍隊は、第一に
外敵に対して
存在するものであり、例外的に、
警察力では及ばない
内乱の大
規模化に際して、その補助として使用されるものであることも、何人も知るところであります。今日の
警察予備隊が、すでにこの範疇に属することは公知の事実でありますのに、
目下政府の企図しておる
保安隊に
至つては、
軍隊たること寸毫も疑う
余地のないものであります。(
拍手)もし、しからずと言うならば、
政府の
考えておられる
警察と
軍隊との区別はどういうものであるか、何人にもわかるようにお示しを願いたいのであります。(
拍手)
今日までの
総理並びに
閣僚の
説明によりますると、
ポツダム政令による
予備隊の
期限の来るのを幸いとし、近く
保安隊の
設置法案を
提出して、これが
編成がえをし、
人員を増加し、
装備を重くして、
外敵の侵攻にも備えるというのであるが、一切の
交戦権すら否定しておる
憲法を
改正することなくして、そういうことができるとお
考えにな
つておられるのでありまするか伺いたい。
吉田首相は、
秘密独裁外交を得意として、
西南諸島の
信託統治の問題にしても、この
防衛力漸増の問題にしても、ことに
日本の国策上最も重大な選択である中国と中共との和平の問題にしても、
国会が開会中であり、また開こうと思えばいつでも召集することができるにもかかわらず、こうも
国民代表の
意思に問うことなく、
総理一人の
意思できめて、
米国当局、ことにダレス氏等に言質を與え、
国民をして
事後に承認するの余儀なきに至らしめておるのでありまするが、これをも
つて立憲政治家の
態度であると信ぜられるのであるか伺いたい。
米国当局は、
平和條約調印後は、その
効力発生前といえども、
日本を事実上
主権を
回復せるものとして
取扱つて、自主的に
独立国として諸事対等に
交渉に当らしめるということを明らかにしておるのである。しかるに、
かくのごとき
態度というものは、あまりにも卑屈ではないか。
大橋国務大臣の
説明によれば、
保安隊には
小銃、
機関銃、
バズーカ砲はもちろん、
大砲、戦車まて與えるというのである。
海上においては、
大砲を
装備した軍艦をも備えるというのである。新聞紙の伝うるところによれば、行く行く三十万にもふやすつもりであるというのである。
バズーカ砲を何のために使うかといえば、人間の
集団を殺傷するために使うというのである。
世界のどこに、こんなべらぼうな
警察がありますか。(
拍手)
木村法務総裁は、
委員会において、
原子兵器と
ジエツト機のような強力な
兵器を持たなければ、今日の御時勢では、もはや
軍隊とはいわれないのだと定義されたようであります。
国民を愚にするもはなはだしいといわなければならぬ。そういうものが
軍隊の要素ならば、
世界には、三、四箇国を除いては
軍隊なしということになるのである。(
拍手)からすをさぎというのは、まさにこのことであります。もう少しまじめに答えられんことを希望いたします。
また
総理大臣は、二千億円くらいで
軍備などというと笑われるぞと言われたのであるが、金額の多寡は問題ではないはずである。現
政府のように、
武器は全部
アメリカから拝借することにきめておる場合には、二千億円あれば、
りつぱに軍隊はできるのである。
総理は顧みて他を言う名人であります。私は、現
内閣の
閣僚のうち比較的良心があると信ぜられる
天野文部大臣に、
保安隊を何と
考えられるか、正直な御
見解を承りたいと存ずるのであります。(
拍手)
ことに
大橋国務相の御言明によれば、今度の
保安隊設置法では、任意の退職を許さぬ、また勤務を
終つた人員の
応召義務を
規定したいということでありまするが、こういうことは
国民の
基本加入権の制限でありまして、はなはだしく
自由意思を抑制することである。
兵役義務に類する
義務を
憲法に
規定せずしてできることでありましようか。
政府は、口を開けば
国民に
遵法精神を説き、
やみ取引を厳罰に処すると申しておるのでありまするが、
政府みずから、
白晝公然、
憲法を正面から蹂躙し、
やみの
軍隊をつくろうとしておる。法を破り、
国会を無視する元凶はだれよりも
政府自身であるという印象を八千万
国民は抱いておると思う。(
拍手)
国民道徳を乱る、これよりはなはだしきはないといわなければなりません。われわれは、まず何よりも
政府に正直であれと求めるものであります。また将来この
保安隊に勤める人々にしても、この性格の不明瞭な、ぬえ的存往にその一身をささげるということは、はなはだしくその自尊心を傷つけることでありまして、正しき
勇気と
信念とを持
つて挺身することを不可能ならしめるのではないかをおそれるものであります。
思うに、この
やみ軍隊の
設置というものは、
日米安全保障條約の
前文——これも事前に何らわれわれに諮かることなく、
総理の独断で約束したものではありまするが、この
前文の中に、
日本の
自衛力の
漸増を期待するということがうた
つてあるので、
総理が
アメリカに対してつくることを約束した結果生れて来るものと想像するのであります。しからば、
総理は、ちやんとした
構想を用意しておるものと推察いたします。單に今秋の三万五千の増員だけにとどまらず、漸を追うて増強して三十万に達するとか、四十万に達するとか、一定の計画があるに相違ないと信じます。これこそ、
国民の
代表として、われわれのあずかり聞かんと欲するところであります。こそこそと少しずつふやして行く、
国民の
批判をおそれて、目立たないように、小出しにやるのではないか、そういう
やり方は、決して正しい
やり方ではない。かかる重大問題は、常にそのときどきの政治的、財政的、さらに
国際的状況に照して、確たる
批判に耐えるものでなければならないと信ずるのであります。
私は、この際、自由党の
諸君の、国政の
最高機関としての矜恃に訴えたいのであります。もう少し
諸君はイニシアチーヴがなければならないと思う。つんぼさじきに置かれて、たた
独裁的秘密取引に
——そして一日々々と
既成事実がつくられて行く、この
既成事実に
事後承諾を與えるだけが仕事でありまするならば、二百八十余名の
議員諸君の絶対多数は
一種のかかしにすぎないのではないかと言われても、弁解の辞がないのではないかと存する次第であります。(
拍手)
さらに、われわれにはもう
一つ納得の行かないことがある。
吉田首相は、
予算委員会において、
目下ラスク氏との間に進められておる
行政協定は
予備交渉にすぎない、
ほんとうの
協定はおそらく両條約の
効力発生後に成立するものと思うという
答弁をされたのであります。してみれば、
行政協定はまたまつたく不確定のものであります。しかるに、一方においては、
明年度予算に
防衛費と
安全保障費として、細目を示すことができないまま一千二百億という厖大な額を計上して、われわれに
審議を求めておるのである。
かくのごときは
国会の
審議権を軽視するものであ
つて、不都合千万といわなければなりません。(
拍手)のみならず、また
大橋国務相の言うところによれば、
保安隊の経費は
予備隊の
予算でまかな
つて、それが不足のときには、この
防衛費または
安全保障費のうちから流用するというのであります。これも実にふしぎである。
防衛費、
安全保障費は、
安全保障條約並びに
行政協定に基いて、
米国軍の
駐留に関して必要とされる費目と解しておるのでありまするが、そしてこの
行政協定では、
警察にせよ、
軍隊にせよ、
わが国の
防衛力の供出ないし共助というものを期待しないというように承
つているのでありまするが、こういうことは非常な矛盾であり、許すべからざることと存ずるのであります。この点、明確に承
つておきたいのであります。
最後にいま一つ承りたいことは、
安全保障條約には、
米国軍の
駐留はひとり
日本の安全のためだけでなく、
東洋の安全のためにも、というふうにうた
つてあるのであります。
間接侵略によ
つてわが国に
内乱が起つた場合には、
日本政府の
要求によ
つてのみ
駐留軍は出動することが明記されておるのでありまするが、
東洋に騒乱が起つた場合、
日本にある
駐留軍が
日本以外の領域に出動する場合に、これに
日本政府はあずかるのか、あずからないのか、明瞭でないのであります。(
拍手)こういう場合、
米国の認定によ
つて、
わが国の
意思を排除して出動するのでありましようか。どうもそうとれる。そうすれば、
わが国は完全なる
米国軍の
軍事基地として
東洋の作戦に使用されることになるのではないかと存ずるのであります。
行政協定をとりきめるに際して、
政府はこの点についてどう対処されんとするのであるか、承りたいのであります。また
保安隊は、こういう場合、国外には派遣しない、求められても拒絶するということでありまするが、そういう
事態が起りますれば、
交戦国の反撃というものを予想しなければなりません。その際、
保安隊は手をこまねいて見ておるのでありましようか。こういう場合か最もデリケートな場合と思うのでありまするが、
政府はいかなる心構えを持
つておられるか承りたいのであります。
お聞きしたいことは山ほどありまするが、時間の関係上省略いたします。
要するに、
保安隊が
一種の
軍隊であるということは、いかなる詭弁をも
つてしても欺くわけには行かないのでありまして、そういうものを設けることは、
憲法の
規定と正面衝突するのであります。
政府がひそかに
アメリカに約束した手前、どうしても重
装備の
保安隊をつくるつもりだというならば、われわれはにわかに賛成の側に立つわけには行かないのでありまして、すべからく
憲法改正を広く
国民の輿論に問うことこそ、まずこれに先行すべき道と信ずるのであります。それだけの
勇気も
信念もなくして、
脱法行為で当面を糊塗せんとするがごときは、まことに唾棄すべき卑劣なる
行為と言うをはばかりません。(
拍手)
政府に向
つて猛反省を促す次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣木村篤太郎君
登壇〕