○水谷長三郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、一昨日行われました
総理の
施政方針演説並びに大蔵
大臣、
経済安定本部長官の
財政、
経済演説に対し、若干の
質疑を試みんとするものであります。
まず
総理にお尋ねいたしたい点は、
総理の施政
演説は、相もかわらない、従来
国民が
新聞やラジオを通して断片的に知り得たところを羅列されたのみでございまして、そこに
独立を迎える
日本の外交、内政の基本についての確固たる
方針も経綸も見られず、単なるおざなりのものにすぎないことは、まことに遺憾千万であるといわなくてはなりません。(
拍手)この際
国民の聞かんとするところのものは、まず第一には、外国の
占領管理から解放されて、一応形式的に
独立の第一歩を踏み出した
日本が、いかにしてこの不完全な
講和を完全なものとし、不完全な
独立を完全なものにするかという点であろうと思います。第二には、日米
安全保障條約という変態的かつ暫定的な安全保障ではなくして、いかにして
日本の真の
独立と抵触しない
方法をも
つて日本の安全を保障し、かつ平和を確保するかという点であろうかと思います。(
拍手)さらに第三におきましては、
日本の
経済自立のため、いかにして
世界との自由通商、なかんずくアジア諸国との
経済的緊密
関係を樹立するかの点であります。これらの重要点につきまして、前述の
通り、
総理の
演説はま
つたく何らの確たる
方針を示しておられないのは、遺憾千万であると思うのであります。(
拍手)よ
つて、以下若干の点につきまして
総理の意見を聞きたいと思います。
まず
中国政府の選択につきましては、去る一月九日、
政府は、昨年十二月二十四日付
総理の
ダレス氏あて書簡を発表されました。これによりますれば、
総理は、究極においては
中国の
政府との間に全面的な政治的及び
経済的な
関係を律する條約を結びたいという
原則を示しながら、台湾の
国民政府との間にサンフランシスコ條約の趣旨に沿った一種の修交條約を締結することとし、これによ
つて、
国民政府を、現に
中国の一部に権力を及ぼし、かつ将来他の部分にも権力を及ぼすであろうところの政権として、一種の限定的承認を與えることを明らかにされたのであります。同時に、この書簡のうちで、
首相は、中ソ同盟條約を非難し、
中共政府の対日内部擾乱の意図を断定し、共産主義
政府とは條約を締結する
意思がない旨を断言されました。
そこで、まず第一に聞きたいのは、この
ダレス氏に対する書簡を譲られた動機と、これをあの時期に何
ゆえ公表されたかという理由をお尋ねしたいと思うのであります。(
拍手)一体
日本は、サンフランシスコ條約によりまして、一定の批准條件が整えば、内政においてもまた外交においても
独立国となるはずではないか。それとも、依然として
アメリカの保護国的地位に甘んぜなければならないのであるか。また同じ條約によ
つて日本は
中共政府もしくは
国民政府のいずれと
講和を結ぶかについて完全なる
自主性が與えられているのであるかどうか。しかして、この点は、
総理の第十二回国会における答弁に照らし、また米英
各国政府当局の発表を通して一点の疑いがないところと私は信ずるのであります。はたしてしかりとすれば、かかる
日本の外交の処理につきましては、当然に
日本の
独立達成のあかつきにおいて、
日本のみの自主的判断によ
つて決定すべきものではないかと私は信ずるのであります。(
拍手)しかして、この
日本の
方針の決定は、
日本の政治的安全や
経済的自立という基本條件を念頭におきながら、朝鮮動乱の状況等の国際情勢ともにらみ合せて、最も慎重な考慮の上になされねばならないことは、言をまたないと私は思うのでございます。(
拍手)
総理は、かかる輿論の動向を無視されまして、
日本の外交の基本にかかる重要事項について、民主主義の
原則を蹂躙し、得意の
秘密外交、独善主義によ
つて今度の決定を行
つたことは、まことに遺憾であるといわなくてはならぬのであります。(
拍手)率直に申しまして、
総理の
ダレス氏に対するクリスマス・プレゼントは、自発的のものではなく、強要されたものとしか思えないのであります。(
拍手)そうしてそれは、
ダレス氏のごとき練達なる
世界的外交官の手によ
つては当然に直接強要したはずはなく、対日
平和條約の
米国の上院における批准を獲得するための道具として不可欠であるという間接の圧力が加わ
つた結果であることは、ごうも疑う余地はございません。(
拍手)このことは、さらにこの書簡が二つの條約の上院上程にあた
つて公表されたという事実、すなわちタイミングから見ましても証明されると私は思うのであります。われわれは、この
吉田内閣の決定が、はたして時あたかも行われたトルーマン・チャーチル会談において取上げられ、英国当局の同意を得たかの、外交の裏面史については何も知りません。しかし、英国の輿論は、保守的
新聞の論調を見ましても、決して芳ばしいものでないことは、
総理も御存じであろうと思うのであります。(
拍手)以上についての
総理の明確なる御答弁を求めたいと思う次第でございます。
次に
吉田総理大臣にお尋ねしたいのは、同じ書簡で示した、共産
政府とつき合わないという
態度についてでありますが、この書簡と、それより先に
総理の
新聞会見における断言は、
中共政府の現状が台湾その他のいわゆる未解放地区を残した現状についてのことであるのか、それともより一般的な
見解であ
つて中共政府がかりに
中国の唯一の
政府の実態を備えたときでも同様であるのかどうか、もし同様であるとするなれば、他の共産
政府、たとえば連邦にも適用されるものであるかどうか、この点を明確にされたいと思うのであります。(
拍手)われわれは、
スターリン首相の
日本国民に対する年頭のメッセージ、大山郁夫氏に対する平和賞の授與、その他来る四月のモスクワにおける
世界経済会議に対する招請等の一連の平和攻勢の実体を認識しつつも、他面、共産主義には
反対である、反共だからとい
つて、隣邦との正常な外交や通商
関係をも毛ぎらいいたしまして、不必要な刺戟を試みる
総理の外交の非常識にあきれる次第でございます。(
拍手)この点に関する
総理の所見いかん。
第三に、
日本の
経済自立と
世界の平和確保の二つの点から見まして、
日本とアジア、なかんずく、遺憾ながら目下のところでは、東南アジア諸国との通商、
経済の緊密化と、これら
地域の
経済開発が必要であることは、論をまたないところであると信じます。そこで問題となるのは、サンフランシスコ條約に基く
賠償問題でありまするが、この條約に示された不特定な債務のきめ方というものが、
関係諸国に対して過大な期待を抱かしめ、他面
日本国民に対して深刻なる不安を與えておることは、遺憾千万でございます。(
拍手)
政府は、この問題の打開について、いかなる対策を持
つておるのか。例のごとく、
新聞の断片的な報道を除いて、
国民は国会を通じて明確に聞かんと欲しておる次第でございます。
もちろん、この問題に関しまして、ただいま苫米地氏の質問に対して池田大蔵
大臣は、誠意をも
つて当
つておるという御答弁でございましたが、單に抽象的な、誠意をも
つて当
つておるというようなことでは、
国民は断じて安心ができないと思うのでございます。(
拍手)わが党は、
賠償條項の改訂を要求するものではございますが、他面、
日本の
経済自立と、アジアの解放援助の見地から、
日本は
世界の相互扶助計画の一環として、みずからその能力に応じた範囲において貢献をなすことが妥当と信ずる次第であります。しかして、この貢献は、これらの諸国に対する友愛と親善の見地から自発的に行うものでありまして、債務の履行という
性格を脱却したものでなければなりません。(
拍手)かかる見地からするならば、
日本の開発援助の方式は必ずしも技術、労務の提供に限定する要はなく、
企業の開発やプラント輸出の方式も採用することができ、またこれを
アメリカのポイント・フオア計画、イギリスのコロンボ計画などと総合いたしました国連の計画に組み入れられることも、われわれは
考えることができるのであります。以上の点に関する
政府の所見を聞きたいと思います。(
拍手)
第四は、
独立国
日本の安全保障につきましては、
政府は対米依存主義と、国会の権威を無視した
秘密外交によりまして、不平等な
立場における変態的な日米
安全保障條約を締結いたしました。われわれは、国連を現存する唯一の
世界的平和機構としてこれを支持し、その肯定の上に立ちまして、その不完全性を是正し、特にその国際安全保障機能を強化いたしまして、究極的には
各国軍備の廃止を主張するものであるとともに、
世界の現状におきましては、
各国の自由、
独立と秩序維持の見地からいたしまして、国連憲章第五十一條の集団的自衛権と
地域的安全保障制度を、憲法の許す範囲において是認するものであります。しかし、この変態的な日米
安全保障條約には
反対でございまして、これはよろしく改訂せねばならないと思うのであります。
さしあた
つて、まず問題となるのは、第三條、
行政協定の問題でありますが、
政府の秘密独善外交のもとに、いかなる国権喪失的な協定が仕組まれるのであるか、またいかほど
国民の権利
義務が制限されるのか、かいもく示されておらないのであります。しかも一方におきましては、
政府は
行政協定によ
つて国会の白紙委任状を強要し、今般さらに
予算面において臨時軍事費的な白紙委任状を要求しておる次第でございます。(
拍手)
そこで、とりあえず次の諸点をわれわれはただしたいと思います。第一は、
行政協定はいつまでにつくり、これを公表するのか、また秘密協定はあるのかないのかということを聞きたいと思います。第二は、裁判管轄権と治外法権とはいかになるかという点を聞きたいと思います。第三は、
防衛分担金は英国、フランス等においても
負担するものであるか。われわれは、共同
防衛の建前からいたしますれば、
アメリカ駐留軍の費用は
アメリカの
負担とするのが当然であると思
つておるが、その点はどうであるか。さらに第四は、日米合同委員会の組織と権限はどうな
つておるか。さらに第五には、再
軍備に関する約束の有無と、予備隊の
性格、その指揮命令権等を聞きたいと思う次第でございます。(
拍手)
次に問題になるのは明年度
予算でございまして、これは池田大蔵
大臣から御答弁を願いたいと思います。明年度
予算は、新しい
独立の第一歩を踏み出そうとする
わが国の進路を、ここ一年にわた
つて明確に規定するものであります。従
つて、それは何よりもまず、底の浅い
わが国経済力の根幹を倍養し、
国民生活を安定させる役割をにな
つているといわねばならないのであります。ところで、今われわれの目の前に提出された昭和二十七年度
予算は、はたしてこの役割を忠実に履行しておるといえるであろうかどうか、残念ながら、われわれは、断じていないといわざるを得ないのであります。(
拍手)
その理由の第一は、
厖大なる
講和関係費の内容でございます。
防衛分担金、予備隊等の強化費及び安全保障費として計上されたものを合計すれば、驚くなかれ千八百二十億円に上り、総支出額八千五百二十七億円の実に二一%に当るのでございます。この数字がいかに過大なものであるかは、
政府原案がこれをば五百億円も下まわる千三百億円であ
つたことによ
つても明らかであるのでございます。しかも、その内容たるや、空々漠々として、か
つての臨時軍事費をほうふ
つたらしむる底のものであります。たまたま
新聞に報ぜられるところによりますれば、あるいは陸にあ
つては、警察予備隊を二十八年度中に三十一万人に増強するといい、あるいは海にあ
つては、海上予備隊なるものを
創設し、米軍貸與分を考慮外といたしましても、重装備の二千トン級大型監視船十余隻、一千トンないし五百トン級二十数隻を新たに建造するといい、さらにまた空にあ
つては、戰闘と哨戒とに当る総数二千機の航空隊を設置するという、かかる種々の報道を読みまして、率然としてこの
厖大な軍事
関係費に直面するとき、現
内閣が平和憲法のわくをか
つてに飛び越えて、いわゆる再
軍備を実行しようとしておる事実は、これを隠すことは断じてできないと思うのであります。(
拍手)
吉田総理は、口を開けば再
軍備は行わないと言われておるが、この
予算は、かかる
総理の
国民を惑わす
声明の欺瞞性を、無味乾燥なる数字の羅列の中に徹底的に暴露したものといわざるを得ないのであります。(
拍手)大蔵
大臣もまた、そのいわゆる三
原則の第一に、
防衛力は漸増することを明らかにしておられるのである。われわれは、この
予算をも
つて、いわゆる再
軍備への第一歩とみなすのであるが、大蔵
大臣の所見ははたしていかんということを聞きたいのである。(
拍手)
理由の第二は、この
予算と
国民生活の安定との
関係についてであります。さきに述べた
厖大なる
講和関係費は、みな非生産的な支出でありましてそれ自体としては有力なるインフレ要因でございます。しかも、それは内政費を削
つてしぼり出したものでありまして、内政費のみを比較するならば、明年度は今年度に比して相当額減少しておるといわざるを得ないのであります。従
つて、それはすでに
国民生活を圧迫する巨大な圧力を内に蔵しておる。
政府の統計数字によ
つても、一昨年の
朝鮮事変前まで一路上昇の道をたど
つて、戦前の七五%まで
回復いたしました
国民の消費水準は、事変勃発とともに急激に下降カーブを描きまして、昨年八月には六五%まで落ち込んでおるのであります。この数字は、その後若干
回復いたしましたが、今日またこの
予算を契機といたしまして、この上昇カーブは逆転して下向きになる危険にさらされておるのであります。かかる切迫した情勢のもとにありながら、
政府が社会保障
関係費、失業対策費に計上した金額は、
国民生活安定のためには不可欠の支出であるにかかわらず、総支出のわずか九%にすぎないのであります。(
拍手)
独立の好機に喜び勇んでパンを求めた
国民に対して、無情なる
吉田内閣は石を與えるということしか知らないのであります。(
拍手)
アメリカ並びに西ヨーロッパにおきましても、「大砲かバターか」の問題は、それらの国々の政治家の頭痛の種とな
つておることは、
諸君御存じの
通りであろうと思います。しかしながら、敗戦によ
つて大打撃をこうむ
つたわが国経済が直面しておる問題は、こんな、なまやさしいものではございません。
わが国におきましては、「大砲かバター」でなくして、「ピストルか梅ぼしか」が問題であろうと思うのであります。(
拍手)
国民が水を飲み、梅ぼしをかじ
つてつく
つた軍隊に、祖国
防衛の
精神が充満するわけは断じてございません。(
拍手)
わが党は、「再
軍備よりも
生活安定」のスローガンを掲げまして自衛の第一歩として、まず
国民をして安んじて日々の
生活を送り得る最低
生活を保障することを主張するものであります。(
拍手)そして、そのためには、まず何よりも
講和インフレを抑圧し、
講和関係費をできる限り緊縮することを強くわれわれは要求するのであります。しかるに、この
予算は、
講和関係費においては、さきに述べたように
政府原案を五百億円も上まわり、
防衛分担金は
アメリカ側の
負担分より百億も多く、さらにまた
賠償に至
つては、海のものとも山のものともわからないのでございます。大蔵
大臣は、かかる
予算をも
つて、その三
原則の一つにいう
国民生活の水準はこれを切下げないということが、はたして実現できるかどうか、この点をはつきりと御答弁願いたいと思うのであります。(
拍手)
この際特に大蔵
大臣に念を押しておきたいことがございます。
賠償、外債の支佛い、対日援助返済、
連合国人財産返還などの
経費を、前年度分の繰越し百億円を加えて三百億円のわくに納めておられるのでございますが、はたしてこのわくの中にとどまり得るかどうかは、大きな疑問であるといわなくてはなりません。また安全保障費五百六十億円は、その臨時軍事費的な
性格にかんがみまして、どこまで膨脹するかわからないのであります。さらにまた
講和関係費のために削減された内政費は、総選挙を前にして、
自由党としては何とかしたいところであろうと思うのであります。しかも、大蔵
大臣も
演説において、租税收入の見積りが過大にあらずやという議論を聞くと告白しておられる
通りに、来年度の
国民所得五兆三百億は、きわめて甘い水増しといわざるを得ないのであります。(
拍手)この上補正
予算を組んで、
国民からこれ以上租税を取立てることは、勤労大衆の
生活にと
つては、まさに大きな脅威であるといわなくてはならぬのであります。(
拍手)
日本の
独立の年に編成された初めての
予算といたしまして、あとからまた増額をはかるような補正
予算は絶対に愼むべきであります。大蔵
大臣は、補正
予算なしにこの
予算で一年間を乗り切
つて行ける自信があるかどうか、この点をはつきりさせていただきたいと思います。(
拍手)
第三の問題は、
安本長官に対しての御質問でございます。それは
国民経済と
予算との
関係についてであります。この点につきましては種々の問題がありますが、ここでは、ただ一つだけを取上げて、周東
安本長官の御答弁を煩わしたいのであります。
ドツジ超均衡
予算後、一時は急激に收
つて行
つたインフレーシヨンも、最近に至りまして、再びその頭を持ち上げて来ております。
財政面における画期的な黒字は、
金融面における赤字、すなわち日銀貸出しの増加によ
つてカバーされて今日に至
つていることは、識者のひとしく認めるところでございます。赤字公債発行のあるなしにかかわらず、依然として日銀の窓口からは、紙とインキで刷
つたお札があとからあとから流れ出て帰
つて来ないという点は、少しもかわりはないのであります。このような状況のもとにおいて健全
財政を誇ることは、まさに頭隠してしり隠さずというほかはございません。(
拍手)
しかも、われわれの眼前にある光景は、札を抱いて餓死するこじきの姿ではございません。われわれが見るのは、オーバー・ローンに悩む銀行であり、
輸入金融のやり繰りに詰
つて倒産する
貿易商社であり、重税にあえいで一家心中する
中小企業であり、また低賃金と首切りに悩む労働者であり、さらにまた低米価と肥料高に悩む農民の姿であります。一方また東京のまん中には、トルコぶろが現われ、
大臣寄贈の花輪を飾
つたキャバレーが
国民を驚かしておるのであります。(
拍手)かかる、あさましい光景は、決して偶然の産物ではございません。それは、現
内閣が現在までとり来
つた行き当りば
つたりの自由放任
政策の最も端的な表現でございます。(
拍手)
この病的な
現象を抜本的に退治する道は、わが党が年来主張するごとく、
電力、
石炭、鉄鋼、造船並びに食糧を中心にした計画
経済をば、思切
つた金融統制とともに断行いたしまして、特需景気以後特にいびつと
なつた
わが国経済の構造を正常なる
状態に立ちもどらせ、その根幹を培養する以外にはないのであります。(
拍手)しかるに、現
内閣は、深刻化する
世界的な軍拡
経済のもとにありながら、かびのはえた、旧態依然たる自由放任
政策にしがみつきまして、国際
経済の大勢に逆行する孤児となろうとしておるのであります。(
拍手)
かかる状況を眼前にいたしまして、しかも、かかるインフレ要素をかかえ込む分不相応な
予算をも
つて、昭和二十七年度の
わが国経済は、はたしてインフレの大波をしずめて、難破することなく、無事に安定の港にたどり着くことができるであろうか。一昨日の
安本長官の長々とした
演説のうちには、インフレのイの字も述べられず、確固たるインフレ対策を聞くことができなか
つたのは、きわめて残念でございます。
安本長官は、はたしていかなるインフレ対策をお持ちであるか、率直にお聞きしたいと思う次第であります。(
拍手)
なおこれに関連いたしまして、
安本長官は、昭和二十七年度の
貿易及び重要物資の生産並びに
国民所得につきまして、一昨日の長い
演説のあとに、ちよつぴりと若干の見通しを述べてはおられるのでございますが、われわれの知りたいのは、そういうことではなしに、
政府のいう自衛力の漸増計画に対処するところの長期の
経済政策であります。この漸増計画は、さきに述べたように、ほとんど際限なく膨脹する危険をはらんでおるのでございまして、明年度
予算においては、わずかにその頭だけが現われたにすぎないのであります。この計画が着々と実行に移されますと、
わが国経済の前途に、はかり知れぬほどの
影響を與えると思うのでございますが、
安本長官はこれに対処するいかなる長期的施策を持
つておられるか、どうか率直にお答えを願いたいと思う次第でございます。(
拍手)
以上、私は、
吉田内閣の
政策がとうてい
国民生活に安定と
希望をもたらすことができない
ゆえんを説明して参りました。しかしながら、実はこのことは、私はよりも、ほかのだれよりも、ここに並んでおられる
吉田総理以下の閣僚
諸君及び與党たる
自由党の
諸君が最もよく知
つておられる点でございます。何とならば、
諸君は、その施策が必ずや勤労大衆から巨大な反撃を食らうことを知
つておるが
ゆえに、ここにその反撃をば前も
つて封ずるために、憲法に定める基本的人権にはほおかむりをして、治安立法を制定し、労働三法を改悪して、弾圧の大だんびらをとぎすまそうとしているからであります。(
拍手)
治安立法中、本国会に提出予定の団体等規正法案は、稀代の悪法とうたわれ、われわれ無産運動に従事した者には、残酷きわまりなき弾圧の魔手を振
つた、かの治安維持法にまさるものと言われておるのでありまして、(
拍手)これに対しては、労働組合その他の民主団体は言うまでもなく、弁護士会からも猛烈な
反対の声が上
つておるほどであります。これは民主主義の
最後のとりでである基本的人権を守ろうとする良心を持つものとして当然の行動であろうと思うのであります。(
拍手)何となれば、同法によれば、官僚の一片の通牒によ
つて、時の
政府を批判する一切の言動はことごとく圧殺され、さらに進んで警察法を改正して国警と特審局とを統合し、全
世界の不信を買
つた戦前の特高警察の復活をたくらんでいるからてあります。(
拍手)さらにその他ゼネスト禁止法案、集団示威行為取締法案、労働法改悪などによ
つて、労働組合は、そのただ一つの武器であるストライキ権はもちろんのこと、基本的労働権は実質的に奪われまして民主団体の一切の大衆行動は日の目を見ることができなくなろうとしているのであります。しかも、そのきざしは、去年の暮れ行われました京都の市電・市バスストに対する弾圧とな
つて現われたのであります。これは明らかに、敗戦の苦悩という莫大な
犠牲を拂
つてかち得ましたととろの民主化のコースを逆行して、再び戦前の暗黒政治に舞いもどろうとするものであります。(
拍手)一体
政府が、かかる反動的諸法案を本国会に提出する所存はどこ、にあるのか、木村法務総裁並びに吉武労働
大臣の所見をわれわれは伺いたいと思います。(
拍手)
なおこの際ついでにお伺いしたいのは、あの京都市電従業員の全員休暇戦術は、スト権を奪われた地方公務員としてはやむなき行為とわれわれは認めるものでございますが、木村法務総裁は、この行為は地方公務員のスト行為を禁止した政令二百一号に違反するものと
考えるやいなや。われわれは、かかる検挙は明らかに憲法違反と
考えられるのでありますが、法務総裁の
見解いかんということを聞きたいのであります。(
拍手)さらにまた、この検挙に便乗いたしまして、被疑者八名を首切
つた京都市当局の行為は、明らかに不当労働行為と
考えるのでありますが、労働
大臣の所見はいかん、これを承りたいと思うのであります。
私は、今を去る二十三年前、昭和四年の第五十六回帝国議会におきまして、治安維持法の改悪に
反対して、無産政党議員を代表いたしまして、日比谷の旧議事堂の壇上におきまして、時の田中議一
内閣に対決したことがございます。
〔
議長退席、副
議長着席〕
そのとき、私は、働く者のパンと自由とを求める声は、いかなる狂暴なる弾圧をも
つてしてもこれを圧殺することはできないこと、歴史に逆行する近藤勇の蛮勇は、先見の明ある勝海舟の江戸城明渡しに及ばない
ゆえんを説いたことがあります。田中
内閣のときから露骨と
なつた、無謀なる大陸侵略のさんたんたる末路は、すなわち現在のわれわれが、みずから身をも
つて痛切に体験しつつあるところであります。私は、今日再び歴史の一大転機に立ちまして勤労大衆の
生活を守り、その基本的人権を擁護せんがために、当時と同じ警告をば、田中
内閣の外務次官たりし
吉田総理に発ぜざるを得ないことは、
日本のためにまことに悲しむべきことであろうと思うのであります。(
拍手)
吉田総理は、近藤勇の道を選んで、新撰組ならぬ
自由党の
諸君と心中をするか、あるいは勝海舟の道を選んで、あつぱれ賢宰相の名を後世に残すか、いずれの道を歩もうとされるのか、
総理の所見を私は聞きたいと思う次第であります。
最後に
総理にお聞きしたい点は、高知県知事選挙にも明らかなように、失政相次ぐ
吉田内閣に対しては、民心すでに遠く去
つたものと言わなくてはならぬのであります。(
拍手)しかも
日本は、来るべき
講和條約発効を機といたしまして、ポツダム政治から
独立政治へ移行せんとしておるにもかかわらず、
総理は任期一ぱい政権を担当すると豪語されて、解散を要求する世論をま
つたく無視されておるのであります。しかしながら、
内閣の命数を決定する
最後のものは、これは吉田ワン・マンのカでは断じてなく、輿論以外の何ものでもないと私は
考えておるのであります。(
拍手)民の声は神の声と言われております。
総理は真に謙虚な気持にな
つて、この神の声を聞き、国会を解散して、世論のさし示すところに従うべき用意ありやいなやということを聞きまして、私の
演説を終ろうとするものであります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕