○
国務大臣(池田勇人君)(続) 以下、
昭和二十七
年度予算について説明いたします。
今回の
予算編成にあた
つては、以上申し述べましたような
経済運営の
基本的な
考え方に立脚いたしたのでありまして、まず
財政の
規模を
国民経済力の限度にとどめることが絶対に必要であると
考えたのであります。すなわち、
平和條約に基き、また
平和回復後の独立
国家としての責務にかんがみ当然に
負担しなければならない諸経費のみならず、冬部面における
財政支出今の要望はきわめて多額に上りまするが、国民の
負担能力を
考慮して極力
財政規模の圧縮に努め、一般会計の
予算総額を八千五百二十七億円余にとどめております。これは五兆三百億円
程度と見込まれる
国民所得に対し一七%弱に当り、
昭和二十六
年度における割合と同
程度であります。その結果、税制につきましても、
原則として従来と
つて参りました
措置を引続きそのまま踏襲することといたし、
国民負担の軽減
適正化をさらに一歩進めることができたのであります。
政府といたしましては、今後と心増税に訴えるがごときことは、極力これを避ける
所存であります。次に、
財政収支
均衡の
方針は鎚来通りこれを堅持し、一般会計はもとより、各特別会計及び
政府関係機関を通じて総合的に収支の
均衡をはか
つております。言うまでもなく、
財政は金融面の
施策と粗ま
つて国民経済の健全なる
運営を
確保し、その
合理化と
発展とをはかるべきものでありまするから、
予算の執行にあた
つては、総合的な
資金需給の
情勢等を勘案し、
実情に即応した
措置を講ずる
考えであるのであります。
次に経費の配分に関しましては、平和の
回復に伴い、
わが国は
日米安全保障條約の精神に基き、進んで相互安全保証の責任を果し、かつ
国内治安力を
確保増強する必要があるのでありますが、
賠償、外債の支拂い等の諸経費をも合せ、これら経費が
国民経済に過度の圧迫とならないよう、あとう限りの配意をいたしました。その結果、いわゆる内政費につきましても、前
年度以上の金額を
確保し得ることとなり、あげてこれを
経済力の
増強と民生の安定とに振り向け、その効率的活用と重要的配分に努めておるのであります。
次に、
予算の内容のうち特に重要なものにつきまして概略説明いたします。
まず第一に
平和回復に伴う
措置といたしましては、防衛支出金六百五十億円、警察予備費五百四十億円、海上保安庁経費のうち警備救難に関するもの約七十億円、安全保障諸費五百六十億円、
連合国財産補償費百億円、
平和回復善後処理費百十億円、総計約二千三十億円を計上いたしました。
防衛支出金は、
日米安全保障條約に基いて駐留する米軍に関して、わが方において支出を予想される経費であります。自衛権を行使する有効な手段を持たない
わが国といたしましては、防衛のための暫定
措置として米軍の駐留を希望したのでありまして、これに関する経費の一部を
負担することは当然の
措置であります。(
拍手)その内容は、近く
行政協定の締結等によ
つて具体的に定められることとなりまするが、米軍の装備、
食糧へ被服、給與等は
米国側において
負担し、その他の経費については両国において分担することが予想せられますので、わが方の
負担は
米国側のそれに比して僅少であると
考えます。
警察予備隊及び海上保安庁につきましては、その内容を充実し、機能を
強化するため、所要の
措置を講ずることといたしました。すなわち、警察予備隊におきましては、現在の人員七万五千各をさらに三万五千名、海上保安庁におきましては、八千名をさらに六千名増員するとともに、装備、施設等の
拡充をはかることといたしたのであります。
安全保障諸費は、
治安の
確保を期するため、警察予備隊及び海上保安庁に計上いたしました経費のほか、たとえば営舎の建築、通信、道路、港湾等諾施設の
整備、巡視船等における装備の
強化、監視施設の充実等について特段の
措置を講ずるとともに、
治安に関する機構の
確立、学校その他教育訓練機、関の設置等をも
考慮いたしておるのであります。今後における諸
情勢の推移により、内容がさらに具体化するのをま
つて、これらの経費の配分を適切に行いたい
所存であります。
連合国財産補償費は、
平和條約に基き
連合国財産に関する補償のために要する経費でありまして、
連合国財産補償法の規定に
従つて計上いたしたのであります。
平和回復善後処理費は、
連合国に対する
賠償、対
日援助費の返済、外貨債の償還その他対外債務の支拂い及び占領によりて損失を、こうむつた本邦人に対する補償等を予定いたしております。計上いたしました金額は比較的に僅少でありますのは、対外的な経費の支拂いにつきましては、
交渉等の
関係上、
年度の当初からの支出を必要としないと認められること、及び
昭和二十六
年度補正
予算に計上されました
平和回復善後処理費が来
年度に繰越して使用でできることを見込んだためであります。
第二に
経済力の
増強のための
措置といたしましては、まず
食糧増産対策に
重点を置いております。今後人口
増加による
需要量の増大に対応するためにも、また
国際収支の観点からいたしましても、食料
自給度の
向上をはかることが肝要であります。これがため、来
年度予算におきましては、本
年度に比し約百億円を増額して四百三億円を計上し、土地改良事業及び開墾、干拓事業の推進、農業共済保険事業の改善充実等をはかることといたじたのであります。
次に国土資源の
維持開発であります。来
年度における公共事業費は、その最
重点を災害の復旧及び治山
治水事業に置き、
昭和二十六
年度以前にこうむりました前災害の約三割を来
年度中に復旧する予定であります。また河川事業につきましては、
電源開発を兼ねた総合
開発事業としてこれを推進する
計画であります。
また
経済基礎の充実をはがるため、特別会計を含めて千百八十三億円に上る
産業投資を予定いたしております。
第三に、
政府は、民生の安定及び交教の
振興のため積極的な
施策を講ずることといたしました。
すなわち、まず生活困窮者の保護、健康保険その他の社会保険、結核対策及び失業対策につきまして五百二十七億円を計上し、本
年度に比して六十七億円を
増加いたしております。
なお住宅事情の急速な改善に資するため、住宅金融公庫に対し百五十億円の投融資を予定いたしておるのであります。(
拍手)
次に戦死者遺家族及び戦争による傷病者に対する援護
措置につきましては、遺家族年金その他として二百三十一億円を計上するほか、交付公債約八百八十億円をも
つて遺家族一時金に充てることといたしました。(
拍手)
政府は、
国民諸君とともに、戦死者に対しあちためて敬弔と感謝の意を表し、遺家族及び傷病者の方々に深い同情の念を抱くものでありまして、今後ともあとう限りの援護
措置を講ずる
所存でありまするが、
施政の
現状にかんがみ、また将来にわたる
国民負担を
考慮いたしまして、ただいまのところ、この
程度にとどめざるを得なか
つたのであります。(
拍手)
文教の
振興につきましては、六・三制校舎の急速な
整備を行うため所要の経費を計上いたしまするとともに、学術
振興、職業教育のための
施策の充実について特段の配意を加えることといたしました。
次に地方
財政につきましては、平衡交付金を千二百五十億円に増額するとともに、別途
資金運用部
資金による地方債引受けのあくを六百伍十億和に拡張いたしました。最近地方
財政は逐年膨脹の一途をたどり、
財政困難の声が高い
実情にあります。このような地方
財政の
状況に対しましては、
政府並びに地方公共団体ともに根本的な
検討を加え、
行政事務の刷新、歳入の
確保、経費の節減及び効果的な使用等について特段のくふう、
努力が肝要であると存ずるのであります。
次に歳入のおもなるものといたしましては、租税及び印紙収入を六千三百八十一億円、
日本専売公社益金を千二百五億円と見込んでおります。本
年度の租税収入は、昨年十二月末の実績において
予算額の七二%に達し、
年度を通じて
予算額を
確保し得る
見込みであります。
来
年度の
経済状況につきましては諸種の観測もあり、租税收入の
見込みが過大にあらずやという聞くのでありまするが、今後
生産、
物価ともに堅実な歩みを続け、
国民所得も順調に
増加するものと
考えられますので、六千三百八十一億円の租税及び印紙收入を確実に見込むことができるのであります。(
拍手)従いまして、租税收入不足の結果増税に訴えなければならないようなことは、今後絶対に起らないと確信いたしております。(
拍手)
税制の
改正につきましては、先般所得税の軽減を中心として租税
負担の合理的
調整の
措置を講じ、平
年度約千億円に達する減税を
実施いたしたのでありまするが、来
年度におきましても、従来の
措置を
維持するのほか、さらに所得税及び相続税の
負担の軽減
合理化をはかり、また課税の簡素化及び
資本の
蓄積に資するため、税制
改正を行いたい
所存であるのであります。(
拍手)すなわち、所得税につきましては、生命保険料控除の限度の引上げ、讓渡所得税の軽減簡素化等を行い、相続税につきましては税率の引下げ、
基礎控除及び生命保険金控除の引上げ、退職金控除の新設等の
改正を行う予定であります。また法人税につきましては、徴收猶予の場合の利子税の引下げ等、その
合理化をはかることといたしております。また砂糖消費税につきましては、その
負担の
状況及び統制の廃止を
考慮して増徴を行うことといたしました。
次に、金融に関する
施策について申し述べます。
まず
財政による
産業資金の
確保の問題であります。本来
産業資金は民間
資本の自発的
蓄積にまつのが望ましいのでありまするが、
現状においてはいまだ不十分でありますので、来
年度におきましては、市中金融機関による
供給が困難と思われまする長期
産業資金、中小企業
資金及び農林漁業
資金等についで、
財政資金によりこれを積極的に
確保する
方針をとることといたしました。すなわち、一般会計、
資金運用部
資金及び
見返り資金を合せまして千百八十三億円に達する
財政資金の活用をはか
つておるのであります。なおこのほか、
資金運用部
資金については、今後の
状況により、金融債の引受等による
産業資金の
供給についてさらに
努力とくふうをいたしたいと存じております。
次に
資本蓄積の
増強であります。
政府は昨年来特に
資本蓄積の
増強に意を用い、これがため積極的に諸
施策を講じて参
つたのでありまして、その成果は見るべきものがあります。すなわち、昨年中における金融機関の一般預金の
増加額は六千億円を越え、前年の
増加額の一・七倍余に達しております。投資信託は総額百三十三億円という好成績を収め、株式の拂込み金額もまた約七百五十億円に達する状態であります。このような趨勢にもかかわらず、
資本の
蓄積は
生産の復興に比べまして著しく立ち遅れているのでありまして、
政府は引続き
資本蓄積のための諸
施策をさらに強力に推進いたす
所存であります。すなわち、税制において
資本優遇の
措置を講じますほか、企業の社内留保の
確保については今後とも十配配慮して参ることといたします。また近く郵便貯金の利子及び預入限度の引上げ、国民貯蓄組合の非課税限度の引上げ及び無記名定期預金の
実施等の
措置を講ずるのほか、特に
電源開発資金等に充てるため、新たに貯蓄債券を発行する
計画であります。
資本蓄積の不足を短期間に一挙に解決することはなかなか困難でありまするが、
政府は国民とともに、着実に
資本蓄積を推進して参りたいと存じております。次に金融機関の経営等に関する問題であります。金融機関の経営
方針につきましては、特に経営の健全化と、
資金の効率的な活用について要望いたしたいのであります。これがため、
資金の吸収
蓄積に一段と
努力されることは申すに及ばず、
資金の運用にあたりましても、かねて
政府の要望いたしておりまする不要不急
資金の貸出しの抑制について積極的に
協力されることを期待いたします。今後の
情勢によりましては、信用
調整の
措置は一層その必要性を加えることも予想されますが、
政府といたしましては、できるだけ金融機関の自主的
措置にまつ
所存であります。
自立後の
経済運営にあたり、金融機関の任務はまことに重大であります。この際格金融機関はよくその公共的使命を自覚し、その役割を遺憾なく果されることを切望いたすのであります。
なお金融機構につきましては、
政府は逐次その
整備をはか
つて参
つたのおありまするが、今後とも
事態に即応しで金融体制の
整備確立を進めたい
所存であります。
最後に、
国際金融の問題について申し述べます。終戦当時、
わが国は外貨
資金をまつたく持たなか
つたのでありますが、
国民諸君の
努力によりまして、
貿易も漸次伸張を見まして、外貨ぢ充実して参りました。昨年
米国の対
日援助が打切られた後も、
国際収支上の著しい困難を来すこともなく、今日
わが国の外貨
保有高は約九億ドルに達して、昨年三月末に比し約四億ドルの
増加を示し、
米国の対
日援助額を控除いたしましてもなお約二億七千万ドルの
増加と相なりておるのであります。(
拍手)
しかしながら、このような表面上の好転にもかかわらず、なお幾多の問題を包蔵していることは否定できません。これまでの
国際収支の好況も、実は
朝鮮動乱に伴う
特需の影響による一時的な部面が少くなく、また今後はこれまでのような外国の
援助も期待するわけに参らぬことはもとよりであります。また新たに各種の対外債務の支拂いの問題を控えておるのであります。
従つて、健全な
国際収支上の
自立がすでに
達成されたものと
考えることは、尚早であります。われわれは正常なる
輸出の
増進に対し、今後一段と
努力することが必要であると思うのであります。(
拍手)
さらに、
わが国の
国際収支の現況については、これを通貨別にも
検討して、ポンド手持高の異常な
増加の現象に注目する必要があります。これを漫然放置するときは、外貨収支の面から
貿易が行き詰まるおそれがあるのであります。これが打開策のための
基本的な
方針として、極力通貨別にも
均衡のとれた
貿易の拡張に努むべきでありまして、特に
ポンド地域またはオープン勘定地域からの
輸入の
促進にまず主眼を置くべきであります。御承知の通り、外貨
予算面において、本
年度第四・四半期には、これらの地域からの
輸入を
増加することといたし、その運用面におきましても、自動承認制の
拡大をはかり、
輸入保証金の割合を引下げる等の
措置を講じたのでありますが、
国内金融の面におきましても、
日本銀行の融資あつせん等の活用を期待しておるのであります。
次に、外貨
資金と
国内資金との
調整の問題であります。外貨
資金の
蓄積に努めなければならぬことはもちろんでありますが、これに見合
つて放出されまする
国内資金がイノフレーノヨノの要因となる危険があるのであります。
政府は、いわゆるイノウェノトリー・ファイナンスによりまして、この間の
調整をはか
つておるのでありますが、本来は外貨
資金の
増加に見合う
国内資金は民間において
蓄積されることが望ましいのであります。
現在為替銀行は、為替業務の取扱いにつき、その
資金の大半を
財政資金及び
日本銀行からの融資に依存しておるのでありますが、
政府は為替銀行がその自主性を
回復し、その創意とくふうによ
つて正常な為替取引を円滑に進め得るように育成して参りたいと
考えております。
なお
国際通貨基金及び
国際復興
開発銀行への参加も近く実現を見るものと期待されまするが、今後とも
わが国は
現行為替レートを堅持し、
外資導入その他
国際的な
資金の交流の円滑化に努め、
国際金融の本道を進んで参りたいと
考えるのであります。(
拍手)
以上、
昭和二十七
年度予算に関連いたしまして、
政府の
財政金融政策の大綱について申し述べた次第てあります。
繰返して申しまするが、今やわれわれは、
国際社会において再び栄誉ある
地位を
確立するための出発点に立
つておるのであります。この際、
政府も、地方公共団体も、企業も、家庭も、おのおの独立国としての自覚に欠くることなきやを謙虚に反省すべきときてあると存します。この意味におきまして、私はここにあえて
国民諸君に訴えたのてあります。企業は、濫費を慎しみ、
資本の
蓄積に努めるとともに、
合理化を進めて、
国際経済の変動によく耐え得る実力を涵養し、個人生活は、享楽に堕することなく、健全な家庭生活を楽しみ、苦しい中にも節約と貯蓄に努め、(「その通り」
拍手)将来と子孫のために備えていただきたいのてあります。また公務員
諸君は、
予算執行に当り、常に適正を旨とするはもちろん、さらに進んて積極的にその能率的な使用をはかるため、くふうと
努力とをお願いいたしたいのてあります。(
拍手)
私は、
日本国民の勤勉と叡智とは必ずやよく
わが国経済の弱点を克服して、みずから頼むところある
経済を
確立し、
世界各国民の尊敬と友情とをかち得ることを
諸君とともに確信するものてあります。(
拍手)
――――◇―――――