○猪俣
委員 私は
社会党二十三控室を代表いたしまして、この
修正案に賛成し、なお
修正部分を除いた原案に賛成をいたします。
自由党及び改進党の諸君が最初出されました
裁判所侮辱制裁法案には私は反対するつもりでありました。しかるにその後両党諸君の鋭意なる御研究によりまして、相当進歩的色彩の濃厚な
修正案ができましたので、私も賛成する気にな
つて参
つたのであります。両党の御努力に対しては敬意を表します。ただ
提案者ならざる党といたしまして、若干の
裁判所側に対しまする要望を述べさせていただきたいと存ずるのであります。近来治安立法その他いろいろの
法案が出まして、これは相当大衆の反対があることは御存じの通りでありまするが、その根本原因は、結局この
法律を施行いたしまするところの官僚に対する不信用から来ているのであります。その法それ自体、正面解釈から来ましたことに対する反対よりも、濫用に陥るのではないかという配慮から反対が強くなるということは事実であります。日本の今までの官僚に対しましては、私どもまだ信用しき
つておりません。相当法を拡張解釈いたしまして、できるだけ自己に便利なように法を適用して参りまして、そのために相当の基本的
人権が侵害せられて参りましたことは、私が呶々を要せぬと思うのであります。幸いに日本の
裁判官は過去におきまして、一般の行政官僚あるいは検察庁のごとき官僚と比較いたしまして、相当民衆の信頼を博して参りました。これは事実だと思います。これは
裁判官にもその人を得た点がございましようが、
制度がまたあずか
つてこれに力があ
つた。たとえば
裁判の
原則といたしまして、不告不理の
原則あるいは
裁判官除斥の
原則あるいは弁護権の活用、こういう
制度が
裁判官をして、とにかく民衆の信頼を博せしめてお
つたということも過言ではないと
考えるのであります。今やかような
裁判の大きな
原則をすべて超越いたしまして、本法ができ上
つておるところにわれわれ非常に危惧の念があるのであります。そこでより一層
裁判官諸公におかれましてはその点に留意せもれまして、いやしくも基本的
人権を、この権力を振りまわすことによ
つて蹂躙するようなことが万々ないように、これはくれぐれもお願い申しておきたいのであります。これは本法には明らかにな
つておりませんけれども、現実の姿といたしまして、これの適用を受ける対象はどういうものであるかと申しますならば、共産党あるいは共産主義者及びその同調者、ほとんどこういう連中に限られるのではないかと
考えられるのであります。そこでこういう人たちが
裁判所において特に
秩序を乱すという根本原因については、よく
裁判官諸公も反省せられまして、その原因をよくお
考えにな
つていただきたい。私がこういうことを申上げますることは、近時どうも私どもといたしましてはなはだ首肯できないことが見受けられる。それは全国の
裁判官の監督権及び人事権を握
つておられますところの最高
裁判所の長官の言動というものが、どうもはなはだしく矯激なる言動をなさ
つておる。
裁判官会議その他におきまして、この共産主義者その同調者に対しまする非難というものは、いわゆる反共団体としてのフアツシヨ、右翼団体の頭領の人たちも三舎を避けるような言動をなさ
つておる。ただいま田中耕太郎氏は、
裁判官訴追
委員会に八十五名の在野法曹によ
つて訴追されております。この訴追請求書を読んでみますと、私ども暗然といたします。証拠としていろいろ提出せられておりまする長官の言動というものは、これが一体日本の長官としてかような言動を吐くことが適正なりやいなや、私は田中長官の態度に対しまして、実に不可解に存ずる。長官が、
裁判官会議等において、かようなる矯激なる反共的な思想を表明せられますと、その監督下にありまする全国の
裁判官は、権力ある長官の告示でありますから、栄達をはからんとする者は遵々乎してそれを守りましようし、あるいは内心反対であ
つてもそれを表面に出せない、長官の意を迎えるような態度になる者もありましようし、またこの該博なる知識とそしてクリスチャンとして崇高なる人格を持
つておると尊敬せられておりました田中長官の言であるがゆえに、この訓示に非常に薫陶せられる
裁判官もございましよう。そういたしますならば共産主義あるいは共産党というものに対しまして、はなはだ矯激なる先入観念を
裁判官が植えつけられておると見なければならない。はたしてしかりとするならば、これは
裁判の危機であります。日本の憲法の十九条においては良心の自由信条の自由が許されておる。しかも憲法の七十六条によりましては、良心に
従つてのみ
裁判官は
裁判をするということに
規定されております。今、世界の二大あるいは一大思想として共産主義というものが存在しておるのであります。これをまるで鼠賊のごとくののしるがごときは、はなはだその思想の狭隘にして視野の狭小なることを示すものでありまして、
裁判官がかような態度、先入観念をも
つてこの
裁判に臨みますならば、共産党だという身分だとか、共産主義的の言論を吐いただけで、それに憎しみを感じ、特別なる態度、感情をも
つてこれに接するというようなこともあるいは起るのじやないか、こういうふうに思われる。それに対しましては当然反撃が起る。こういうところに彼らが特に法廷を乱すがごとき言動をなす者が出ることも
一つの原因じやないか。もちろん彼らの中にはそれを
目的としてや
つておる者があ
つて、一種の確信犯人というような者、そういう者に対しては、私はこの
法律は効力はないと思う。かえ
つてこういう法廷闘争の渦中の主人公として
裁判官が登場するというようなことで、私はこの
法案とかえ
つて逆な
効果が将来起るのじやないかということを憂慮しておるものでありますが、とにかくそういうことにつきまして、
裁判官諸公におかれましては十二分なる用意とま
つたく公平無私なる態度で臨んでいただきませんと、検察権と
裁判権を両手に握
つておるようなこの
法案でありまするがゆえに、これをえたり賢しといたしまして、いやしくも傲岸なる態度をとり、
弁護人その他に対して優越感を持ち、も
つて法廷を自分の権力によ
つて押えつけんとするがごとき態度をとる者があるといたしますならば、根本的に日本の
裁判官は非難せられるのみならず、日本の司法
裁判それ自体に非常なる危機が来るということを私は警告したいと存ずるのであります。ことに田中耕太郎氏のごとき思想を持ち、それを宣伝これ努めておる現下にありましては、この
法案というものは非常に危険があると私は
考えておりますが、とにかく一応こういう
修正案が出たのでありますし、現下の法廷のはなはだ無
秩序なる態度に対しましては、私どもま
つたく快からざる思いをいたしておる一人といたしまして、これに賛成いたす者でございますが、どうぞ何らかの
機会におきまして、片寄
つた思想、片寄
つた主義によ
つて裁判官が法廷に臨むというようなことのないように十二分なる御注意をしていただきたいと思います。私どもも
裁判官訴追
委員会におきまして田中長官の反省を求めたいと存じまするが、もしこういう長官のような片寄
つた思想で鼓舞激励いたしまして、下部の
裁判官諸公がその線に沿うてこの
法律を背景といたしまして、法廷に臨むことがあるように相なりまするならば、これはやぶをつついてへびを出すような失敗をすることに相なりまして、この責任たるや、重大なることが発生すると存じますから、この
法案には賛成はいたしますけれども、くれぐれも、今までの
裁判官が比較的民衆の信頼を博してお
つたことは、
制度そのものが相当力あ
つたものであることを反省せられまして、そうして共産主義者が何がゆえにかく騒ぐのであるかということに対しまして、ただ彼らが悪いのだどいうことのみならず、そこに至りまするいろいろの原因につきましても十分探究いたされまして、この
法律が燦として栄光を収めることのできますように、私は衷心からこいねがうものでございます。
こういう
意味におきまして賛成をいたす次第でございます。(拍手)