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岸最高裁判所説明員 ただいま
大阪、廣島両
地方裁判所長から、廣島と堺市において起きましたこのたびの
事件について、詳細御
説明がありましたが、私から、やはり最近における同種類の
事件の二つ、三つを御
説明いたしたいと思います。
その一つは、つい最近の
報告によ
つて承知いたしたのでありますが、五月九日に
大分地方裁判所管内の臼杵という
支部で起きた
事件であります。その
事件は、五月九日の
公判期日に発生しました
事件で、その
事件は
被告人が
高橋某という人でありますが、その
公訴事実は、
被告人は
日雇い労務者として仕事についてお
つた。ところが、
昭和二十七年二月十七日午後二時過ぎごろ、あるところの
作業現場において、
現場監督の坂本というものから作業上の注意を受けたことに端を発して、憤慨した結果、その坂本という人の顔や頭をげんこつでなぐりつけたという暴行被告
事件であります。五月九日は、
ちようどこの
事件の第何回目かの
公判期日に当りまして証人を二人尋問する予定にな
つてお
つたのであります。
まず午後十一時に
開廷を宣して、当日の
審理の順序の第一の証人である、この
事件の被害者である坂本証人に対する証人尋問が開始されたのであります。その尋問は、
検察官から尋問いたしてお
つたのでありまして、その
検察官の尋問中に、当の
被告人と、
傍聴席におりましたある一名のものが、ときどき証人に対して、それは偽証だ、そんなふうでは
現場監督の資格がないとい
つたような言葉を浴びせかけるので、その都度
裁判官が、無断
発言を禁ずるという注意を與えて、とにかく
手続を進めておりました。そうしてこの主尋問と、それから
弁護人側の反対尋問を終了して、正午十分過ぎごろ午前中の
審理を終りまして、午後一時半にまた
法廷が開かれたのであります。そこで特別
弁護人としてついておりました富岡特別
弁護人の反対尋問中に、先ほど
傍聴人が、ときどきその特別
弁護人に対して、そこをつけつけとい
つたような
発言を
傍聴席からいたしてお
つたそうであります。次いでこの
被告人自身の反対尋問に入りましたころ、
被告人は証人のすぐかたわらに立
つて、証人に対して威圧を加えておると認められる
ような
態度で尋問を続けるので、
裁判官はそれを制止して、
被告人に着席のまま
発言させることとし、それと同時に、証人にもいすを與えて尋問の
手続を進めたのであります。
被告人の反対尋問中に、
被告人や、それから先ほどの
傍聴人から、証人に対して、うそを言うなとい
つたような
発言がありましたので、もちろんさ
ような
発言はその都度禁止いたしてお
つたのであります。また
被告人の証人に対する尋問が、いつも長い
自分の
意見をまじえた方法でなされるので、証人がどういう尋問の内容であるか理解しかねておりますと、先ほどの
傍聴人が証人に対して、何とか言わぬかとい
つたようなことを申し、
裁判官が
被告人の尋問のしかたがまずいので、その尋問内容を要約して証人に告げてやると、いらぬことをするなとい
つたような
発言をしますので、
裁判官はその都度
傍聴人に対して、無断に
発言するときは
退廷を命ずる旨を警告して、どうやら
被告人の反対尋問も大した波瀾を生ぜずに終
つたのでありますが、
被告人の反対尋問終了後に、その特別
弁護人からの補充尋問中、
検察官から、重複尋問であるからこれを制限してもらいたいという申立てがありましたところ、先ほどの
傍聴人が、いらぬことを言うなと
発言し、たびたび
発言しますので、
傍聴人に対しては再三
発言を禁ずる旨を命じ、また
検察官に対しても、
検察官が、
発言をする際は
裁判官の許可を受けられたいということを忠告いたしたのであります。すると、先ほどの
発言を禁止された
傍聴人がなおも執拗に
発言を続けますので、遂にその
傍聴人に対して
退廷命令を発したのであります。そこで
廷吏二名がただちにその
傍聴人のかたわらに行きまして
退廷を促したのでありますが、同人はいすを持
つて動かず、そのそばにいた他の一人の
傍聴人が
廷吏の行動を阻止し
ようとしましたので、このままの
状態を継続することは
退廷命令の執行に支障を来すと考えられたので、十五分間
休廷を宣したそうであります。そこで
廷吏二名をも
つては爾後の
開廷中、
退廷命令かあ
つた場合に、その執行並びに
法廷の
秩序維持に手不足であると考えられましたので、十五分間の
休廷中に、
裁判所法第七十一条の二によりまして、
裁判官は臼杵市
警察署長に
警察官三名の派遣方を
要求して、
休廷後の
開廷にはその
警察官五名を入廷させて、かつさきに
退廷命令を受けた
傍聴人に対しては、
職員二名と
廷吏をも
つてその入廷を拒否してその際同人との間に
法廷の
入口付近で小ぜり合いが起
つたそうであります。次いで午後の
開廷を宣するやいなや、
被告人と特別
弁護人は罵声を放
つて警察官に向
つて退廷を
要求しかつ
裁判官に対しても
警察官の
退廷を
要求しておりましたが、このとき、さきに
退廷命令を受けた
傍聴人のかたわらにいて、その
傍聴人に対する
退廷命令の執行を妨げてお
つたところの
傍聴人一名が立ち上
つて、
被告人と特別
弁護人に相呼応して、
裁判長は横暴だ、一方的
裁判だとどなり散らすので、逐にその者に対しても、二人目の
退廷命令を発したのであります。
警察官の三名と
廷吏二名は、その
傍聴人のかたわらに行
つて退廷を促しましたが、その
傍聴人もいすを持
つて離れ
ようとせず、
被告人及び特別
弁護人は、
警察官及び
廷吏とその
傍聴人との間に立ちふさが
つて、
退廷命令の執行を阻止し
ようとしておりましたので、五名の
警官のうち一名に対して、
被告人を着席せしめる
ように命じて、その
警察官がその命令を執行し
ようとしましたが、
被告人はがんとしてこれに従わず、一方
法廷の人口の外からは、最初に
退廷命令を受けた
傍聴人が再び入廷し
ようとして、
入口を
警備中の
職員三名と小ぜり合いをしていて、
混乱を生じておりましたので、さらにもう三名の
警察官の派遣を
要求して、その
警察官が到着すると間もなくまた別の一人の
傍聴人が、その
警察官に対して、お前は何ゆえ来たのか、おれたちの税金で飯を食
つているではないかなどとどな
つておりましたので、その
傍聴人に対して、三人目の
退廷命令を発し、か
ようにして約四十分の後二人の
傍聴人を廷外に
退廷々命ずることができ、一時平静に帰しということであります。
この
裁判官は、この
ような
状態に入
つた際には、最初と
つたように
休廷を宣して全員を
退廷させて、
退廷命令を受けた
傍聴人の入廷を制止する方法をとろうかとも考えたそうでありまするが、
休廷後の再
開廷間もないことであり、
裁判官が
休廷々々を続けて
審理を中断することは妥当でないと考えて、一時の
混乱を賭しても
退廷命令を断固執行すべきであると考えてこの
ような処置をと
つたということであります。
か
ようにして平静に帰した後、特別
弁護人に対し、証人に対する補充尋問の続行を命じましたが、同弁護八は、
警察官と検事の
退廷を求めて、これが実行されなければ、尋問したいことはあるが、尋問しないと述べましたので、
裁判官は、
弁護人に対し、與えられた尋問の機会に尋問しなければ、尋問を放棄したものと認めるということを告げたのであります。時に四時四十分ごろであ
つて、その日二人の証人を調べるはずのところが、証人一人しか調べることができなか
つたということであります。
〔
委員長退席、
田嶋(好)
委員長代理着席〕
この
事件について、これは新聞記事が報道しておるところでありまするが、この
裁判官の感想として、か
ようなことを申しております。
退廷命令を出しても、これが実行されずに、うやむやになるといろのでは意味をなさない。
自分はこの種の
事件もかなり多く扱
つて來たが、き
ようの
ようなひどいことはなか
つた。き
ようの場合は、ま
つたく
法廷が暴力化していた感じがした。
警察の方も、けが人を出してはならぬと
思つていた点もあるかもしれぬが、もう少し命令の執行を強行してくれたら、こんな騒わぎにならず、
公判は続行できたと思うとい
つたような感想を漏らしております。
これが、ごく最近の五月九日に大分
地方裁判所の臼杵
支部で起
つた事件であります。
少しさかのぼりますが、今年の三月二十五日に、津の
地方裁判所の第一回
公判期日に、次の
ような事実が起
つております。この
事件は、中村某外二十八名に対する住居侵入、損壊、公務執行妨害、傷害等被告
事件、いわゆる松阪職業安定所
事件といわれておるものであります。
同日午前十時に、約二百名の男女が、赤旗を先頭に行進して来まして、
裁判所前に集合し、二、三のリーダー格の者が、
傍聴券は八十枚だということだが、それだけでは絶対承知できないから、あくまで闘争し
よう、あるいは
法廷戦術をとろうという
ようなことを絶叫して気勢をあげておりました。約十分後、
法廷の
入口の
傍聴券交付所に押し寄せて、そこで係員が
被告人の名を呼び上げ、また
傍聴人へは
傍聴券を交付し
ようとしましたところ、全部入廷させろ、
傍聴を制限するわけはない、公開の原則に反するなどと口々に叫び立てて、はては係員の持つ
傍聴券を引きさくやら、その係員を群衆の中に拉致するやら、立入り禁止のため設けた柵を破るやら、またこれを阻止し
ようとする係員の目がねを割り、窓ガラスを破る等の乱暴に出て、
被告人の入廷を促しても、この大衆全部に
傍聴させなければ入廷しない。応援にかけつけた
警察官に向
つて、こんなところへ来ないで、どろぼうでもつかまえて来いというふうなことを口々に叫んで、はては
入口向
つてワツシヨワツシヨの掛声で押し寄せるありさまであ
つたそうでさります。
裁判長と
弁護人との話合いの結果、
傍聴券をもう十枚増発して九十枚とするが、
被告人はすみやかに入廷すること、もし入廷しないときは保釈を取消す事態が生ずるかもわからないということになる旨
被告人らに伝えられました。
被告人たちは、われわれはたとい保釈が取消しにな
つても皆と一緒に闘う。とにかくわれわれはこれから
法廷に入るが、
傍聴人の件についてはあくまでも闘うと言
つて、
被告人ら全部入廷いたしました。ところが、すでに
傍聴券所持者を入廷させておりましたところ、群衆は
法廷の
入口から
法廷横
廊下になだれ込み、係員の制止、整理を聞かず、まず
傍聴券を所持しない者が暴力をも
つて法廷内に押し入り、
法廷内は
傍聴券の所持者が三分の一、所持しない者が三分の二となり、立錐の余地なく、一旦
入口を閉じた後も、
職員の制止を聞かずに
法廷内外呼応して強引に
入口を引開け、わつと喚声をあげてなだれ込み、ま
つたくすし詰め
状態とな
つて、
法廷のドアを閉ざしましたところが、入廷できなか
つた四、五十名のうち、計画的に後退していた
傍聴券所持者が現われて、
傍聴券の所持者をなぜ入れないのか、当然の権利だ、入れろなどと、係員、
警官に入廷を
要求し、また
法廷から用便と称して出て来た
被告人がこれを扇動していたということであります。その後
法廷の窓が開放されますと、
法廷外におるものはこれにすずなりにな
つて、
廷吏が窓を締めると、
法廷の
内外から明けろ明けろと叫びたてて、相当の喧噪
状態になりました。
裁判長から
法廷外の者に対して退去の命令を発し、
警官をして退去せしめましたが、
裁判長が派遣
警官を
警察に返すや、またまた窓付近に集合して、廷内に叫び立てる
状況でありました。一方
法廷の
入口では十数名の者が執拗に入廷を
要求しましたが、
裁判所職員はこれを制止して入廷させなか
つたのであります。
審理にあた
つては、
被告人らは、
警官を
裁判所から退去せしめること、
傍聴人をもつと入れることを
要求して、
傍聴人や
被告人がこれに呼応して
やじる者がありました。その後は
人定尋問、
起訴状朗読があり、
被告人らは検事に釈明を
要求し、検事は立証段階において釈明する旨を述べて、
裁判長も訴訟を進行し
ようとしましたところ、
裁判が不公平だ、検事はなぜもみ消すかなどと口々に叫び立てて、喧噪をきわめましたが、弁護への申出によ
つてその日はそれで
閉廷いたしたということであります。その日は
裁判所では
傍聴人整理のために設けた柵が破壊され、
廊下の窓ガラスが五枚ほど破壊され、また
法廷の
入口の引戸の一枚の腰板が破壊され、
廷吏のめがねが破損したそうであります。なお同日
裁判所構内に、
公判に押しかけ
ようという題のビラをまいた者があ
つたということであります。これがこの三月に津で起きた
事件であります。
もう一つ四月の十四日に、静岡の
地方裁判所で勾留
理由の
開示期日に起きた
事件を
説明いたします。
その当日、午前十時三十分
開廷に際して、
警備員が六、七名
廷吏が二名
法廷に入
つておりました。まず
裁判官が入廷して、
傍聴人、
被疑者の順で入廷の順序をと
つたところ、
傍聴人は、
傍聴券所持者の間に券を持
つていない者を巧みにはさみ込んで、大勢の人の勢を利用して、
入口から押込みの方法で入
つた。
法廷のうち側で
傍聴券整理の任にあたる
警備員が、これを制止いたしましたが、すでに入廷した全
傍聴人が、総立ちとな
つて警備員を罵倒して、その制止を妨害する挙に出で、その制止を押し切
つて強引に数名が不正に入廷しましたので、
警備員をさらに増加配置いたしましたが、入廷の
傍聴人は完全なかたまりとな
つて、四、五名の指導者に統率され、
法廷外から腕力を振
つて押し込んで来る、
傍聴券を持
つていない者を阻止している
警備員の背後に立ちまわ
つてえり首をつかまえ、また不正侵入者を引入れる等の挙に出で、
傍聴席にもぐり込んでしまい、
警備員が不正入廷者の
退廷を求めますと、
傍聴人は口々に、公開の
法廷だ、何が
傍聴券だ、だれが来てもよい、などとどなり散らし、
警備員の措置を罵倒妨害し、またいち早くその隣の者が、袖の下から自己の
傍聴券を、券を持
つていない者に渡し、不正入廷者は
傍聴券があればいいだろう、とこれを提示をするとい
つたぐあいで、
傍聴人の入廷に約一時間近い時間を要し、
混乱を生じたのであります。
裁判官はその際再々にわた
つて不正に入廷する者の
退廷を命じましたが、その
ような
状況のもとでは、
傍聴券を所持する者と所持しない者との判別が困難となり、その命令執行は不能の
状況でありました。最後になりまして、定員六十名以上が入廷している場合は
閉廷し、全員
退廷させる、その上にあらためて
傍聴券所持者の入廷を許すという命令を出した。その人員を調査しましたところ、約十五名の不正入廷者があ
つたのであります。その調査に際しても、いろいろそれを妨害する行為があ
つたそうであります。そこで全員
退廷の命令を出しましたが、
傍聴人は口々に先ほど申しました
ような暴言を吐き、かたまりにな
つて退廷に応じない気勢を示し、
法廷内は
騒然となりましたので、
裁判官は
廷吏、刑務官十二名、それから
警備員十五人と、この多数の
傍聴者、つまり
朝鮮人の
傍聴者ですが、この七十五名との力の均衡を考えて、実力行使に出た場合には一層の
混乱に陷ることを考慮して、そのまま
開廷いたしました。勾留
理由の
開示及び
被疑者、請求者の
意見陳述は比較的平穏に行われましたが、
被疑者、請求者の
意見陳述は各十分間の制限に、再三の制止にかかわらず従わなか
つたので、やむなく
意見中途の零時十五分に
閉廷を宣し、
被疑者傍聴人の
退廷を命じましたところ、
被疑者、請求者、
傍聴人は一丸とな
つて口々に続行を求め、総立ちとな
つて閉廷が不当であると怒号罵倒して、数名の
傍聴人は木柵を乗り越えて
被疑者の席になだれ込み、
被疑者の
退廷を執行し
ようとする刑務官を突き倒し、刑務官を床の上に転倒させる等の行為に出て、
傍聴人が
被疑者を取囲んで
混乱に立ち至
つたので
裁判官は待機
警官四十名、
警備員三十名を
訟廷課長指揮のもとに入廷させて
被疑者を救い出し、
傍聴人の強制
退廷をさせる等の処置をとりましたが、
法廷の構造等の
関係から
警察官、
警備員の活動は行動の自由を十分発揮されずに
裁判官席、
被疑者席になだれ込み、
傍聴人とこれを阻止せんとする
警察官及び
警備員が正面から対立して、この
退廷命令の執行に際し
警備員の森下雇ほか数名は
傍聴人によ
つて殴打され、またはけられ、あるいは突き飛ばされ、倒され、また洋服をつかまれて引ずられる等の暴行を受け、
警備警察官が警棒一本を奪われたほか、腕時計を壊される者や腕に傷を受けた者等も出たということであります。この
混乱は口や筆には盡すことができないということであります。この
混乱は約十五分くらいで済みまして、漸次
法廷は静かになり、最初の命令
通りようやく
傍聴人を
退廷させて
閉廷することができたということであります。か
ような次第でありまして…。