○瀧口参考人 現在
早稲田大学で学生厚生部長をし、かつ学生
生活課長を兼ねております瀧口宏であります。当日は東京大学の
会議に出ておりまして、その事件の発端について目撃をしておるのではありません。従いまして、その事件の発端につきましては、ただいま島田総長から御説明のありました以上につけ加えることを差控えます。
七時十分ごろでございましたか、私は島田総長のもとまで訪れまして、島田総長が
ちようど、事件の重大であることを収拾されるために、みずからおうちを出ようとしている場面に遭遇したのであります。私は島田総長に、しばらく待
つていただきたい、私がまず行きますというので、それでおわかれをして、ただちにや
つて参りましたところ、すでに大学の正門階段前には、二百名近くであるかと思うのでありますが、武装警官が並んでおつたのであります。その先頭に神楽坂の署長が私服でおり、また私の知
つている範囲で見受けましたところ、戸塚警察署の次席であるか、三席であるかの顔見知りの方がおられたのであります。この方は武装しておられました。そこで私は署長さんに、今私が一応向うへ行
つて事態を収拾するから絶対にこの武装警官を中に入れないようにしていただきたいということを申し述べまして、二号館と本部の
ちようど中間で固ま
つてや
つておつたものでございますから、そこへはせつけたのでございます。そこで
ちよつと註釈めいたことを申し上げますが、本来学生部長もしくは補導部長というようなものは、どこの大学へ行きましても、大体一部の学生諸君からは反動の巨魁のごとく見られているものであり、多くの場合に、学生部長が出て参りますと、事態はかえ
つて急迫になることが多いような場面があるのでございますが、私が参りまして、学生諸君は拍手はもちろんいたしませんでしたが、静かに私を迎え、そうして私が、諸君、まず静かにぼくの言うことを聞いてくれと言つたときに、一言の声もなかつたという
状態でありました。私は学生諸君に、軽挙妄動することの絶対いけないことを述べまして、それからただちにそこにおられました二名の私服の方、これは後にわかりましたが、一名の方が、問題にな
つております山本巡査であり、もう一名の方は、藤沢ですか、藤田ですか、警部補の
階級だろうと思いますが、ともかくおいでに
なつたのは、六時ごろの方で、神楽坂署長の代理としておいでに
なつたということであつたのでありますが、この両名の方でございました。そうして学生に聞きますと
——学生ばかりでなく、御両名にも聞いたのでありますが、当時の段階は、この御両名で一筆書こうという段階にまで到達しておつたというのであります。そこで私は、学生の大勢おる中でも
つて一筆書かせようということが、脅迫的な行為であつたとするならば、はなはだ遺憾であると存じましたので、御両名にその旨を伺いましたところ、われわれは書いてもよいのだ、ただ、すぐそこに署長がいるから、それと連絡をと
つて、署長がうんと言えば、われわれは書くんだ、こういうお答えでありました。署長がうんと言えば書くということは、すでにこの近くに武装警官が多数おり、そこに多数の学生がおるという段階におきましては、きわめて円満に解決させるための唯一の道であると私は
考えましたので、それではお書き願いたいと言いましたところが、そしてまたすでに私が参ります前にこの両名の方々と署長との間には連絡がとり得たそうでございます。これは確認はしておりませんが、学生に言わしめますと、御両名の御
意見を署長さんの方に行
つて伝えたということを
言つておりました。私が参りましてから御両名の御
意見というものを署長さんにお伝えするという約束をしたのであります。その際に私が連絡役に当
つても、あるいはその御両名のうちのいずれか一名が連絡役に当りましても、学生の多少の動揺は避けられないところであり、学生が多少でも動揺しますならば、武装警官がそこに入
つて来るというきつかけにもなるというまことに不運な事態を起す可能生がございましたので、私の課におります川原田というものを呼びまして、そしてこの川原田君に、私だけの
意見で、この御両名の御
意見を直接署長さんに伝えていただくようにしたのであります。この御両名の
意見は最初二回は口頭で、第三回目はたしか、書面に書いていただいて、その書面に書いていただいたのは警部補の方でございますが、紙に書いていただいて、その裏に私がさらに、この事態は署長さんがうんと
言つてくださるのが事態を収拾する唯一の道であるからお願いしますとい
つて、そうして添書をいたしまして持
つて行
つていただいたのでありますが、不幸にして署長さんからうんという御返事がなかつた。この警部補の方は署長さんにここに来ていただいた方がいい、もしくはいただいてもいいということを言われておりましたが、私としては署長さんをことへお招きするということはかえ
つてぐあいが悪いと思いましたが、私自身の言葉としては何も先方に申し上げていないのであります。そうこうしている間に文学部の荻野教授並びに根本教授が現場にや
つて参りまして私たちの中に入つたのでございます。この三名でも
つて何とか事態を収拾しようと思
つておりましたところへ
教育学部長の佐々木教授がまたや
つて参りました。佐々木教授に伺いますと、佐々木教授はずつと二階からこの事態を静かに見てお
つて、そうして学生諸君がきわめて冷静に君の言うことを聞いておるというのに
自分は感激した、そこでこの事態をすみやかに解決しなければならないと思うから老骨をひつさげて飛び込んで来たんだ、場面が違うかもしれないが、私が解決つけられるならしようということでございました。それから神楽坂の署長さんに、そこに参ります前にお目にかかりまして署長さんと打合せをしまして来られたのであります。その打合せの内容を佐々木学部長から聞いたのでありますが、この事態を解決させるために大学側と警察の方々、警長さんを含めまして、そうして学生をまじえて別室でも
つて懇談といいますか打合せというか、そういうものをやりたいと思うがいかがであろうか。これに対して署長さんはそれはその方がよろしい、
自分は喜んでそこに行きます、もし陳謝すべきことがあれば陳謝いたしましようと、こういうふうにお答えに
なつたそうでございます。そこで佐々木学部長さんからこの模様を学生一般に伝え、学生もただちに納得し、私が爾後の
方法について伝え、ただちにこれも学生が納得し、そうして別室、つまり二号館の一階の部屋でも
つて会談を持つことに
なつたのでございます。その際先ほど総長が申されておりましたように、四名の者と十名の学生、実は十二、三名入
つて来たのでありますが、それを十名に整理をいたしましてあとは返したのであります。十名というのは署長さんの御了解を得ております。そして署長さんと、それから先ほど申しました二名の警官の方、それからあとからいつお入りに
なつたか明瞭に私は覚えておりませんが少し小太りの、警視庁の方ということを後に報道の方からお聞きしました、そういうような方々が警察側としてお入りに
なつた次第でございます。そして二言、三言言葉をかわしておりました。署長さんの言われるのに、私はこの事件の発端について何も知らないのだ、だからきようの打合せはここまでで打ちとめて、これはまたあらためてしたいものだとおつしやるので、それでは
ちよつと話が違う、のみならずそれは事態を収拾する道でないということを私も佐々木部長も説きまして、そうしてお願いをしまして、さらに話を進めることにいたしたのであります。この間学生には、私は終始静かにするようにと申しておりました。事実学生はまことに静粛であつたのでございます。このことを裏書きすることといたしましては、たとえば近くの学部で授業を受けておりました学生諸君の中にまつたくこの事件を知らないで帰
つてお
つて、あくる日の朝新聞を見てびつくりしたというような学生もおりますし、そういうような事態であつたということを御了承願いたいと思います。もちろんその間に二言、三言私が申すことに対して多少のやじが飛びましても、そのやじに対しては仲間の者がすぐ制するという事態でありました。もとより一回四階の方からビラをまいた事実がございます。このビラにいたしましてもまき始めるとすぐ学生の大多数がやめろやめろというように申しまして、そのビラまき行為をやめさせたというのでございます。そこで話の方でございますが、その次の段階に入りまていろいろとすつたもんだ話がございましたが、それは省略いたします。その中でも
つて先ほど総長が申されました次官通達の問題が出まして、学生から次官通達に反しているというようなことが出まして、これに対して警察の方々から次官通達と逮捕状の問題は別問題であるというお話であるので、私は学生を制しまして、実際それは警察側の言われるように次官通達に逮捕状の文字はないし、事実言われるその
通りである。法理論云々ということが警察側から出たのでありますが、そういつたようなことを続けまして、この次官通達のそのままの問題ではないが、次官通達の精神にのつと
つて署長さんお
考えくださいと言つたことに対しては、署長さんが、私は同感だということを
言つておられます。そこでその次の段階は、この交渉が署長さんによ
つて運ばれたのでございますが、なお言い落しましたが、この会談では終始私が議長としての仕事をし、また学生諸君も、佐々木学部長までも私の議長としての
立場を認めまして、発言する場合には必ず私の了解を得て発言をしておつた。中には興奮いたしまして一言、二言学生のしやべつた者があるが、全部私が制すればやめてしまつた。私の了解を得ずに発言をせられたのはこの警視庁から来られたらしい小太りの方だけでございます。あとは全部私の統制のもとに発言をせられたという状況でございます。さてこの署長さんが
ちよつとお立ちになりまして、私に私語をされたい様子なので、私はそばに行きまして、何ですかと伺いましたら、学生の方から、大きな声で
言つてくださいという希望も出ました。それに対して、今署長さんが何か二人だけで話したいらしい、私は承るのだ、君たちは黙
つているようにと申しまして、私が署長さんから承るところによりますと、今すぐそこに荻野巡査が来ているから荻野巡査に連絡をと
つて一筆書いてもらう。これは書かせるという命令形ではなかつた、書いてもらう。だから連絡を出すのだ、しばらく待
つてもらいたい、こういうお言葉でございました。今すぐに、そうしてしばらくという言葉を私はそのまま信じまして、それは十分あればいいのだ、そうしてその事態がここで円満に解決するのだということを
考えまして、どうかそうしていただきたいと署長さんに述べたのでございます。署長さんは、たしか警部補の方であつたと思いますが、その方を連絡に出しまして、なお途中に学生がいるといけませんから川原田君
——私の課員をつけまして途中まで出した次第であります。その警部補の方がどう連絡されたか。荻野巡査がすぐそこでどこにおられるかということを聞くのは失礼に当ると思いましたので
質問も何もいたさなかつたが、しかしながら待てど暮せどお帰りにならない。いま
ちよつとというお話が三十分た
つてもお帰りにならない。そうしてその間に警視庁の太つた方はこのようなことを
言つておられた。いたずらに時間を遷延すれば
実力行使のやむなきに至るかもしれないという注意をされた。私はそれを、
ちよつと待
つてください、そういうことを今言われる段階ではない。今ここのところへ解決のための文書が来るのだということを思いまして、待
つてくださいと言つた。またその同じ方がこういうようなことも言われた。この山本巡査はきよう午後から大分疲れておる、のみならず病み上りであるから、そうしてまた晩飯も食べていないのであるが、あなたはこの巡査をいつまでもこうして置くつもりかという御
質問があつた、それに対して私は別にこの方にいてくださいとも、立ち去
つてくださいとも言う
権利を持
つていない。つまりこの方のからだを私は拘束しているのじやないということを
表現いたしまして、但しよくお
考えにな
つていただきたい、今武装警官がそこにたくさんいるんだ、たくさんの学生が静粛に待
つているんだ、このままこの方が出て行くと学生がわあわあ言うかもしれない、わあわあ言つたときにただちに事件が起るんだ、だからこのことをよくお
考えにな
つていただきたいということを、こちらから希望なりお願いなりを申し上げて、それで済ました次第でございます。そういつたような、第二問と同じ
質問といいますか、注意といいますか、そういつたものがその後もしばしばその太つた方から出されております。また神楽坂の署長さんが相当理解されて来た段階におきましても、その太つた方は、署長さんのうしろに立
つておられて絶えず耳打ちをし、またいろいろと激励をしておつたというように私は受取つたのでございます。やがて四十分ばかりでございましたか、帰
つて参りましたのを拝見しておりますと、確かに何も持
つていない、これはだめだつたかと私はがつかりしておりますと、署長さんいわく、荻野巡査は別に過失があると思わないから何も書く必要はない、こういう御返事でありました。
ここで
ちよつとつけ加えますが、私が最初に申し述べましたように、そのときに学生はわび証文というような言葉を使
つておりましたが、私はそれはいかぬ、わび証文というような言葉は使うな、一筆書いていただくだけでいいんじやないか、しかもその文面も、きようの当初の行動に多少手違いがあつたから、今後こういうことをしないようにするという程度のものでいいんじやないかということを言つたのに対しまして、学生は全部納得したのであります。ですから、大体その程度のものなら書いていただけるんじやないか、こう思つたのでございますが、だめだということになりまして話はまた逆もどりして、初めから次官通達の問題が出ましたり、いろいろなことにな
つて同じようなことをまた一時間ばかり繰返したと思うのであります。一時間くらいたつたと思うのでありますが、そうしてその次の段階で、署長さんが、それでは荻野巡査に命じて一筆書かせますと明瞭に言われた。だからしばらく待
つていただきたい、荻野巡査に命じて
——署長さんが命ずるのですからこれは実行できると私は思いまして、やれありがたいと思つたのでございます。そうしてまた連絡のために、警部補だつたと思いますが、その方が出て行かれたのでございます。その方が出て行かれた後に、
——出て行かれる前でございましたか、山本巡査が大分疲れて晩飯も食へておらぬということでありましたから、私どもはただちに弁当をと
つて差上げましたが、もちろんこれはおあがりになりませんでした。そこでその方が連絡に出たあとで、私は山本さんに、あなたは疲れていてここじや食べにくいかもしれませんから、うしろのいすでおあがりにな
つて、そこでひつくり返つたらどうかという言葉をかけました。そうしますと、佐々木学部長も、ああそうだ、ぼくは忘れていたが、ぼくの部屋が二階にあるから二階に行
つて休んでもらつたらと申しまして、学生諸君いいだろうと言いますと、学生ももちろんそれは賛成だと言つたのです。それから神楽坂の署長さんにも、あなたそれでいいですかと言つたら、署長もそれでよろしゆうございますということを明瞭に
言つておられます。それで山本巡査に佐々本学部長がつきまして、そうして山本巡査だけではあとに誤解が起るといけませんので、たしかその警部補の方だと思いますが、その方が一緒につきまして、そうして佐々木学部長の部屋に
行つたのであります。佐々木学部長の話を承りますと、学生二、三人を供に連れて行つたそうでございます。この学生は佐々木学部長の顔見知りの学生であつたというのでありますが、その点は私は詳しくは存じておりません。そうして佐々木学部長の部屋に入りまして、ソフアに山本君を横たえまして、晩飯を食べるように勧めたり、多少熱があるというので、水で手ぬぐいをしぼ
つて学生に額に載せさせたりしたそうでございます。なおその際、佐々木学部長の腹の中で、もし不穏分子が学生にお
つて、この部屋に乱入して来ることがあ
つてはいけないというので、佐々木学部長は
——この点は私ははつきり確認しておりませんが、多分警部補の方の御了解を得ただろうと思いますが、それははつきり確認しておりませんので別問題といたしまして、とにかく中からかぎをかけまして、御
自分がかぎを持
つておつた。かぎは決して外からかけたものではありません。
自分でかぎを持
つておつた。つまりその中には学生数名と
——その学生は詰問とか何とかいう
意味じやなく、手伝いのための学生であり、学部長の部屋に学部長がおられ、そうしてまた山本君のほかに警部補の方が一人だけついておつた、こういう
状態でございまして、これを軟禁というのであるならば、これはどうにも
日本語の論理が合わなくな
つて来るんじやないかとさえ私は感じておるのでございます。
そこでその次の会談の方の話でございますが、そうや
つて待
つておりましたところ、いくら待
つてもお帰りにならない。先ほどの「すぐそこに」とまつたく同じことであります。そこでそういつたことが起るかしらんと私は
考えましたので、今の段階の最初の時期に、署長さんに、それじや今荻野さんはどこにおられるたろう
——あまり遠くにいるのではまた時間がかかるので、どこにおられるだろうと申しましたところ、署におるはずだということでした。神楽坂署なら近いわけですから、自動車で行けばそう長くかかるわけじやないと私は判断いたしまして、それじやなるべく早くしていただきたい、われわれも時間を急いでなるべく早く解決したいと思
つているからと、その旨を申し述べました。なお警察側から御
意見が出まして、この事態を早く収拾してくれなければ困る、早くこの
会議を終らせなければ困るという御
意見がありましたので、それは実は今待
つておるのでありますから、われわれがどうこうということはできないので、警察で今使いを出しているから、その使いが一刻一秒でも早く帰
つてくれれば、それだけ早く解決するのですよと申し述べました。
またその前の会談で、山本君をここにほ
つておいちやいけない、帰してもらえないかとおつしやいましたときに、私は言葉をつけ加えましる、早くお帰ししたい、だから使いの方を早く帰すように署長さんも努力してくださいということをお願いしておるのでございます。こういたしまして、やはり四十分くらいも待つたでございましようか、待ちました末に、何も持たないで連絡の方が帰
つて参りました。私は大いにがつかりしたのでございますが、署長さんのお話を聞きますと、
自分としては
——荻野巡査が、
自分としては署長の命令なら書いてもいいが、第四
方面の本部長が書くなと
言つておるから書けない、こう言うのだとおつしやつた。それが学生の前だつたので、間髪を入れず私は
質問を申し上げました。荻野巡査にと
つてあなたが直属の上官なら、本部長も直属の上官でしようと言いましたら、そうなんだ、実は
自分の上官でもある、こういうお答えがありましたので、そこでこれではしようがないと思いまして、署長さんにお願いいたしまして、署長さん、今この事態はもう一息で解決し得るのであるから、どうか署長さんが本部長に特別に電話をおかけにな
つて、この事情をあなた自身から御説明にな
つていただきたい、と申し上げましたところ、よろしいとおつしやいましたので、あいにく電話が前の建物についておる
——私たちのおりましたのは二号館でございまして、一号館の本部の建物の私の部屋に電話があるのでございますが、そこへ行きますためには、学生の静かに待
つておるその中を通らなければならぬ。そこで私は窓から顔を出して、学生に、今こういうわけで署長さんが電話をかけに行くから、君たちそこをあけろと言つたところ、すぐ一メートルばかり道をあけてくれたのであります。そこで振り返
つて、署長さんどうぞおいでにな
つてください。いや行かぬでもいいんだ。それは困る。私が学生に道をあけさしたからどうぞおいでにな
つていただきたいと申しましたところ、連絡を出しましたから行かない、こうおつしやいました。それは困るから、どうか直接お話合いにな
つていただきたい、電話で連絡ができるのでしよう、と言いましたら、それはできるとおつしやいましたので、電話は向うにあるからと申しましたところ、署長さんは出て行かれて電話をかけに行かれたのでございます。署長さんが電話をかけに行かれた後の行動は私は存じません。向い側の私の部屋に入りまして、あとから聞きますと、中からかぎをかけて電話を確かにおかけに
なつたそうでございますが、そのことに対しては、私は直接見聞したものではございません。
そこで署長さんが電話をかけに行
つておられるので、私どもはこの返事を待
つておつたのでございますが、その待
つておつた時期には、すでに山本巡査と、それからもう一人の警部補か何かの方は学部長室に行
つており、署長も向い側の建物に電話をかけに行
つており、もう一人小太りの方は、たしかそのとき、いつの間にかもう抜けておられてその部屋にはおられなかつた。おそらくその方は連絡に行かれたのであろうと思うのでありますがおられなかつた。こういう事態で、部屋の中には警察側の方は一人もおらなかつたというように私は了解しております。
そうして私ども待
つておりましたら、やや電話がかけ終つた時間じやないかと思うころに、警官がなだれを打
つて、静かにすわ
つている学生の群れに殺到して参つたのであります。私は窓からすぐ顔を出しまして
——新聞社の連中も全部顔を出しましたが、学生は静かにしろ、騒いじやいけないということを述べました。私の目撃している範囲では、警官はぞつと侵入して参りまして、みな長い時間でございますからすわ
つて待
つておりましたが、その待
つておりましたのを、うしろから足でけつ飛ばしたり、こん棒で頭をなぐるということをや
つておりまして、この時期におきまして、一名の学生の抵抗者も、少くとも私の見ている面ではなかつたのであります。ただ警官がなぐる、けるという
状態であつたということを申し上げることができるのでございます。そうして警官隊がそういうぐあいでございますから私は急いで飛び出しまして、諸君、警官の諸君、待
つてくれ、こういうふうに言つたのでございますが、そんなことはもう血気にはやる警官諸君でございますから聞くべき問題ではない。どんどん進んで行かれる。ひよつと見ますと、けが人がそこにごろごろころが
つている。私は課員と一緒にそのけが人をすぐ収容しなくちやいけないというので私の部屋の方に収容させようといたしましたが、すぐ向い側の部屋の入り口のところに約三坪くらいの小さな部屋みたいなものができているのでございますが、その中に十名ばかりの学生が退避しておりまして、そうしていずれも無抵抗でございます。ほとんどうしろ向きにな
つておりましたが、それを警棒で盛んになぐ
つている。この現場を私は見た。そこで私は飛んで行きまして、この警官隊にやめてください、やめてくださいと言つた。すると今度は私がなぐられた。私が包囲されて十五、六頭をなぐられた。私は大学の学生厚生部長だと言つたのですが、そんなことはどうでもいいらしいので、そんなことはどうでもいいとか何とか口走
つておられましたが、その間にも私の頭を数回なぐつたりしているというような
状態で、応援に来てなぐつた人もあるというような
状態でした。もつとも遠慮してなぐられたのかもしれませんが、私は現在こぶがここに
一つできているだけで、あとは何も負傷がないのでございますが、手の方は二箇所傷を負
つております。まだ多少
——大したことはないのですが、私はこんなことは問題にいたしませんが、しかしながらはなはだ残念であつたのは、私が身分を明らかにしてもなおかつ何を
言つているのだというような態度で、あとから飛んで来られてまでなぐるというような
状態なんでございます。それから私は負傷した者を収容しなければならないので、だれか背広の者はいるか、背広の者出ろと
言つて、背広の者が多少課員が残
つておりまして、その負傷者を収容するという
方法をとつたのでございますが、もう倒れて動けない者もございまして、頭から出ている血がノートをぬらしているといつたような
状態でありました。あちらこちらに血痕がある。まだ警官は逃げている者をどんどん探してはおつかけるといつたような
状態でございました。そこで私どももあちこち救
つて歩きました。警官隊はもちろん救援隊じやないのでございますから、こういう負傷した者を救
つているはずはないのでございますが、ともかくそんなような
状態であつたということを私は正直に目撃したところで申し述べることができるのでございます。その間におきましても、少くとも私の
二つの目だけでございますのでこれは何とも申し上げられませんが、目で見、かつほかの方々の見たところでは、どうしても警官隊に対抗して格闘したというのがないようであると申し上げていいのではないか。少くとも私は見なかつた、こういうふうに申し上げることができるのでございます。ある者は突き落されて地下室におつこちてそのまま動けなくな
つておりますし、ある者はみずから地下室へ飛び込んだ者もある。ある者は教室の中に逃げ込んだといつたような
状態であつたのでございます。それから私がずつと二号館の外の方へ参りましたときに、一隊の警官隊の方々の指揮者らしい人が
——その指揮者らしい人が
ちようど
教育学部長の部屋を指さしまして、あそこだあそこだと言われまして、すぐ行けということを言われましたので、私はそう
教育学部長の部屋に殺気立
つて殺到されたんではかなわないと思いまして、川原田と一緒になりまして途中でその警官隊の先に出ようといたしましたが、途中階段が狭いので制止されて、やつとそのドアの前で一番先頭に立つことができた。そしてその中に入りますと、中ではまだ学部長ももちろんおりますし、学生もおりますし、例の神楽坂の山本巡査もいたのでございますが、そこへ警官の諸君がずつと入
つて行きました。あとで聞きますと、その段階の前にすでに神楽坂の署長さんがどう入つたのか一隊を指揮してその部屋に入
つておつたそうでございますが、そこまでは私はわかりませんでした。ともかくそこに入
つて佐々木学部長に
ちよつと声をかけ、そしてどうしようかと思
つているときに、総員検束だと言う。どうにもならない。そこで佐々木学部長は学部長ですと
言つて身分を明らかにした。しかしだれでもいいから検束だと言う。しようがありませんから私も黙
つておりました。検束するならしかたがない。出るところに出て物を言おうと思いまして、学部長もにこにこ笑
つてしかたがありません。そこで私が先に立
つて検束された形でございますが、警官隊もさすがに私どもが身分を名乗
つておりましたので、佐々木学部長の両手はとりましたが、私の両手はとらない。私は警官隊の前に立
つて、だれか来てくれ、私はどこに行
つていいかわからないじやないかというようなことを言いまして外に出たところが、途中でも
つてもういい。もういいと言つた
つて検束したのだからもういいということはないというので……(笑声)何か表へ出て、中佐ぐらいの
階級章をつけられた方のところに行きましたところが、その方がもういいから帰
つてくれということを言う。私はそれ以上しつこく言うことはございませんから帰
つて来た。こういう
状態でございます。そうしてただちにみなを収容いたしまして、それぞれ看護婦も残
つておりましたので傷の手当をするなり、あるいは付近の病院にこれを送り込むというようなことを
行つたのでございます。そうして大体警官隊も撤去することになりましたので、そうしている間に総長先生が自宅からおいでに
なつたということも私は耳にしたのでございます。それで警官隊が帰りますので、そつちの方に学生が行
つておりまして、帰りがけによくある例でございますが、ばかやろうとか石を投げたりする事態があるとまた紛糾することがありますので、学生にこつちへ来い、こつちへ来いと言いながら一番前に出まして、そこの所は本部の正門前でございますから多少暗いのでございますが、そこであちらこちら歩いておりまして、
ちようど警官隊が点呼をと
つているのを私は聞いておつたのでございます。そこで警官隊の方には負傷者はほとんどなかつた、第何小隊全員異状ありませんとか、どういう言葉か知りませんが、何がそういつたような、捻挫一名というような程度でございまして、警官隊は何も負傷はなかつたようだということを私は聞きまして、そうして部屋に帰
つて参りまして事後の
措置をとつた。事後の
措置と申しますのは、けが人をどうするかという問題でございました。それでその手当をいたしまして、残
つておりました課員全部を集めまして指示をいたしまして、そうして総長先生が来ておられましたので、総長先生のところに教務課長がやはりおりましたので、お伺いした。
こういうのが大体私の見た、そうしてまた聞いた
——聞いたといいましても直接的に聞いた
部分をなるべく多くしてお話したのでございますが、実情でございます。