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加藤(充)
委員 私は自分だけで時間をとらずに、ほかの人にもや
つてもらいたいと思うので、もう一点でとどめたいと思います。私は
世界の良識的な
立場で、まずこの
法案を見て行きたい、こういう
立場をまずとりたいと思うのであります。その
立場からここに引用して、それに対する
見解をぜひ明らかにしてもらわなければならないと思いますので、引用で恐れ入りますが、しばらくの時間をそのために許していただきたい。私が手元に持
つております本は、「赤い中国の横顔」という本であります。これは中国に二箇年半滞在したアメリカの記者によ
つて書かれたものであります。「或る有名な政治家は近代中国の様相を次のような
言葉で述べている。「過去百年間のあいだの中国の
国家的地位の低下と、
国民の
精神的な萎縮とは、主としてその原因を不平等條約に帰すことが出来る。不平等條約の履行、即、中国のあますところのない屈辱の記録であ
つた。……本来は帝国主義の一象徴にすぎない少数の外国人兵士と警官とが、中国の
社会生活、政治生活を窒息させた巨大な権力とな
つた。」」こういう
文章に続いて、「これは毛沢東の
言葉でも、スターリンの
言葉でもない。蒋介石の言
つた言葉なのである。蒋はその著「中国の運命」の中で、中国の「
国家的屈辱の記録」を詳細に述べている。」こういう書出しをもちまして、続いて、「西欧諸国の侵略は一八四二年に調印された中英南京條約に初ま
つた。……帝国主義諸国は治外法権
制度をしいた。……諸外国は軍隊を駐屯させる
権利を獲得した。一切の政治、司法、軍、警、関税、交通、鉱業、宗教、教育に関する重要点——
国家としての中国を
維持する上に不可欠な一切の
文化、国防、経済上の要項——は、既に今迄に相ついで諸外国と締結された條約を通じて売渡されてしま
つているのであ
つた。……何かの争点についての折衝が始まると、必ず外国の軍艦はその砲門のおおいをはずし、中国の官吏や商人を威嚇し、中国
政府や地方の政庁に圧力を加えて、彼等の要求を通すことができた。……中国
政府と
国民は外国人を恐れるように條件づけられていた。……中国の将兵は帝国主義者たちに威嚇されても、反抗するだけの勇気に欠けていただけでなく、反抗しようと思いつきさえもしなか
つた。……租界は犯罪人の避難所となり、中国の
法律の権威は地におち、中国人の
法律を守る習慣はそこなわれた。……租界の警官が中国人に加えた非人道的な拷問は人間としての礼節に欠けたものであり、筆にあらわすさえも耐えがたい。……なおその上、諸外国の得ている、
国内の河川をさかのぼり、沿岸にそ
つて交易し、開港場に工場を建て、鉄道を敷設し、鉱山を開き、自国の銀行を通じて通貨を発行する、などの諸
権利は、すべて彼等の経済侵略の影響を増大させる助けになり、中国の経済にはかりがたい損失をこうむらせた。……
わが国の市場には外国商品がはんらんし、自国の製品を売りひろめることができなか
つた。……伝統的な手工業は凋落し、新設の機械工業も繁栄しえなか
つた。中国の輸入超過は増大する一方であ
つた。……中国の経済は弱体化し、貧窮化し……農業は退化し始めた。貧困化した村々では、灌漑用水路は修理されないままになり、提防は崩れ、飢饉がひろがり、小村落は荒野にな
つた。」最後に、「租界は麻酔薬の根源地にな
つただけでなく、淫売婦や、賭博者や、泥棒や強盗の隠れ場所にもなり、美しい、繁栄した諸都市が悲惨と混沌の地獄とな
つた」というのである。これは、今では売国奴となり果てて台湾に余命をつなぐ残党となり果てた蒋介石が、まだ
国民党の首領として
国民党の
政府をつくり上げて、中国の人民の信頼と支持を一応ごまかしながらも獲得し続けることができた
時代に、彼の書いたものであるのであります。彼すらもこの
立場を裏切
つたために、先ほど来言
つた御
承知のような
立場と運命に置かれたのであります。
私はここで最後の
質問を申し上げますが、日米
講和條約あるいは日米安全
保障條約、それに続く行政協定、それの遂行のための
国内諸
立法、そしてこの
法案もまさしく
治安の面から来る重大な背骨的な、柱的な意味を持
つたものであると思うのでありまするが、
幾多の條約遂行の
立法、同時に政治が続けられて行
つております。
日本人が
国民としてその生活、あるいはまた
憲法に
保障された基本
人権の点からい
つても、また同時に民族の運命からい
つても、この
占領と言いますか——問題がすぐに文句が出そうだというならば
言葉をかえてもよろしいと思うが、不平等な前古未曽有の屈辱的な條約の遂行をやることに対して、これを打破
つて行かなければ生活も基本
人権の
保障も何もないのである。
従つて日本の
憲法はこの基本
人権というものを
保障してもおりまするし、民族の
立場に立ちましても、このようなものを打破して行くということが
日本の
国民の希望であり、
意思であります。こういうようなときに民族の独立あるいは平和
憲法を守る、平和の確保をあらゆる手段を盡して守
つて行く、獲得して行くということは、これは奪うべからざる個人としての
日本人の
権利であり、同時に私は民族としての自主権の
内容だと思うのであります。こういう点から判断して、先ほどの蒋介石の「中国の運命」と称する出版物の一
内容から見ても、
政府は大いに反省し、先般来重々各
委員あるいは公聴会の公述人からも述べられている点、こういう点から考えて、こういう
法案というようなものを撤回すべきであり、こういう
法案こそ国を売りつぶすことに相なるものだ。これは蒋介石すらが
指摘しておる
通りである、こう思いますが、
政府のあとで泣き言をたれないようなはつきりした
責任のある回答を、この機会に承
つておきたいと思います。