○關
政府委員 本
法案の逐條について御説明いたしたいと思います。
まず第一章から申し上げます。第一章は総則の
規定でありまして、この
法案の
目的、運用、
暴力主義的破壞活動等の基本の
観念について定義を與えたものであります。
第一條は、この
法律の
目的を掲げたのであります。この
法律の
目的は、究極するところは、公共の安全の確保に寄與することであります。そのために、団体の活動として
暴力主義的破壞活動を行
つた団体に対し必要な規制措置を定めるとともに、かような破壞活動に対する刑罰
規定を補整することにあるのであります。
従つてこの
法案の
規定はこれを二つにわけることができるのであります。すなわち
一つは、
暴力主義的破壞活動を行
つた団体、すなわち破壞的団体に対する必要な規制措置に関する
規定であ
つて、これは行政の処分として行われるものでありまして、その法的の性格は
一つの保安処分であると
考えるのであります。
法案の第一章から第五章までがこれに関する
規定であります。二つは、かかる
暴力主義的破壞活動に関する現行刑罰
規定を補整した
規定であります。これは第六章罰則の一部がこれに当るのであります。
もとより公共の安全は、この
法案だけで確保されるものではありません。さような
意味合いにおいて、この
法案では「公共の安全の確保に寄與する」と
規定しておるわけであります。第一條では以上の御説明にとどめることといたします。
次には第二條であります。第二條は、この
法案の規制の基準を定めたものであります。基準は、破壞的団体の規制及び規制のための調査についてであります。第一項は、個々の
国民の観点から、第二項は団体の観点から、規制及び規制のための調査の基準を定め、その本来の
目的の範囲を逸脱しないように
規定いたしたものであります。
次は第三條に移ります。第三條は、第一項にこの
法案の
暴力主義的破壞活動、第二項にこの
法案の団体の定義を
規定いたしたものであります。この
暴力主義的破壞活動と団体の
観念は、この
法案の基礎
観念でありまして、これによ
つてこの
法案の性格が決定されるのであります。すなわち
法案は、団体が
暴力主義的破壞活動をし、将来さらにこれを行うおそれのある場合に、その団体に対する必要の規制措置をなすとともに、かかる破壞活動に関する現行刑罰法令を補整するものでありますから、
暴力主義的破壞活動を行
つた団体及び
暴力主義的破壞活動は、実にこの
法案の取締りの対象にほかならないのであります、
まず
暴力主義的破壞活動の
観念でありますが、注意すべきは、これは純然たる行政上の
観念でありまして、刑事法上の
観念ではありません。すなわちそれは、破壞的団体の規制という行政処分の原因となる事実であります。さて、この
暴力主義的破壞活動の
観念を定めるに当りましては、次のような諸点に考慮を拂
つたのであります、
一つは、まず今日行われ、かつ将来行われることを予想される
暴力を
手段とする破壞活動を取締るに足るものでなければならないことであります。前述のごとく
国内には、今日団体組織によ
つて暴力を
手段として、
国家社会の基本秩序を破壞し去ろうとする疑いのある恐るべき危險な活動が、広汎かつ秘密に行われておりますが、この種の活動は、おのずから広い
意味において
政治上の
目的を持つものであります。そこで
暴力主義的破壞活動の
観念の焦点は、もつぱらかような危險中の危險な
政治的破壞活動のみに集中することといたしたのであります。第二には、すべての
政治的信條が法の前に平等であることは、
憲法によ
つて保障されているところでありまするから、特定の
主義、信條等を特別に扱うというがごときこととならないように注意し、もつぱら具体的な外面的
行動をのみ基準とすることに意を拂
つたわけであります。第三には、
観念の明確を期し、擴張濫用される危險を避けるため、この
法案において新たな用語を用いることを避け、原則として現行
刑法等の
規定を援用するとともに、法令慣用語を用いることにいたしたのであります。第四には、
暴力主義的破壞活動の中に危險な言論、出版等の活動を取入れることとなるのでありますが、嚴に必要最少限度のものにとどめるように注意いたしたことであります。かような諸点に考慮を拂い、
暴力主義的破壞活動の
観念は、本條第一項に掲げられるごとく定めたのであります。これによ
つて明らかなごとく、
暴力主義的破壞活動の内容はすべて
政治上の
目的を持
つた活動であ
つて、しかも
刑法等の中において最も悪質なる罪として
規定されているものを基本といたしまして、これに所要の補整を加えたものであ
つて、その補整した部分は、一号のロ及び二号のヌの中に
規定されておるのであります。
かようにして、破壞的団体の規制という行政処分の原因たる事実となる
暴力主義的破壞活動の
観念を定めたのでありますが、かかる活動は、もとより現実には団体の役職員または構成員である個人によ
つて行われるのでありまして、その
行為の危險性から見て、その個人の刑事責任を問う必要のあることはいうまでもないところであります。しかして前述の如く
暴力主義的破壞活動の
観念の基本には、
刑法等の
規定を援用してありますから、その部分については、
行為者は当然に犯罪として処断されることになるのであります。しかしてこの基本
規定を補整した分については、現行刑罰法令に処罰
規定が設けられてありませんから、新たにこの
法案において、所要の処罰
規定を補整することといたしたのであります。
本條の第二項は、この
法案の団体の定義を
規定したのであります。ここで注意すべきは、この
規定に該当する限り、この
法案においては団体としてこれを取扱うものでありまして、法人格の有無や、名称のいかん等にはかかわらないことであります。
次に、第二章の説明に入ります。
第二章は、破壞的団体の規制の内容、種類、條件及び効果等を
規定しているのであります。
第四條は、破壞的団体の規制のうち、団体活動の制限処分について
規定しているのであります。この
法案において、破壞的団体の規制という行政処分を定めたのは、現下の破壞活動が団体組織を基礎として展開されている疑いが深いが、この危險を防止するには、單に個人に刑罰を科することのみをも
つては有効適切でないから、ここにこの
法案によ
つて、行政処分により破壞的団体を規制することを定めたのであります。この
法案においての破壞的団体の規制には、団体の活動の制限と団体の解散の指定との二つがあ
つて、前者が第四條に掲げられ、後者は第六條に掲げられているのであります。
本條第一項は、団体活動の制限処分の内容と條件を定めているのであります。條件は、団体の活動として
暴力主義的破壞活動を行
つた団体がここに存在しまして、その当該団体が継続または反覆して将来さらに団体の活動として
暴力主義的破壞活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由があるということであります。もとよりその処分は、そのおそれを除去するに必要かつ相当な限度を越えてはならないことにな
つております。ここで注意すべきは、明らかなおそれとは、明らかにそのような破壞活動をする可能性があるということであります。かように規制の條件は、ある団体が過去において
暴力主義的破壞活動をなし、継続または反覆して将来さらに同様な活動をなす明らかな可能性があるということであります。
第一項の各号は、団体活動の制限処分の内容を定めているのであります。これは、基本的な
考え方といたしまして、
暴力主義的破壞活動の行われる基盤を除去して、このような活動が行われないようにするということでありまして、その範囲は、各号に明確に定められてあります。また
暴力主義的破壞活動のそれぞれの内容は、第三條第一項のいずれの
行為であ
つてもさしつかえないものであります。
この処分は、あとで申し上げるごとく、公安審査
委員会の決定によ
つて行われるものでありまして、それは当該団体に対して命令されるのであります。すなわち命令を受ける主体は、役職員等ではなく、当該団体であるわけであります。
本條第二項は、第一項の処分の履行を確保するために設けた
規定であります。前述のごとく、規制処分の命令は、団体に対して行われるものであ
つて、直接その処分が当該団体の役職員または構成員を拘束するものであるかいなかについては、法理上必ずしも結論が一定していないのでありますから、特に第二項を設け、第一項の処分が効力を生じた後は、何人も、当該団体の役職員または構成員として、その処分の
趣旨に反する
行為はしてはならないと明確に
規定して、処分の履行を確保したのであります。但し、第二項但書にあるような
行為は、当然になし得るところであります。なお、ここで注意すべきは、本條第一項の処分を受けても、団体は、その活動の範囲を縮小して依然として存在を持続していることであります。
第五條は脱法
行為を禁止いたしたものであります。本條は、前條の処分の履行を確保するために、脱法
行為を禁止したものであります。禁止を受ける主体は、当該団体の役職員または構成員でありまして、その主体を団体とせず、その役職員または構成員としたのは、団体の理論が必ずしもいまだ一定されなか
つたことを考慮したのであります。
次に第六條について説明いたします。第六條は、当該団体の規制処分のうちの解散の指定を
規定したものであります。解散の指定をなし得る條件は、第四條の団体活動の制限処分の條件に加えて、その制限処分によ
つては、そのおそれを有効に除去することができないと認められる場合に限るということであります。解散は団体に対する
最後的処分でありますから、かような慎重な條件を定めたのであります。なおここで注意いたすべきは、本條第一号及び第二号に掲げる以外の
暴力主義的破壞活動は、ただそれだけではたとい将来
暴力主義的な活動をなす可能性があ
つても、ただちに解散の指定をなすことはできなく、さらにその団体が団体の活動として
暴力主義的破壞活動を行
つて第四條第一項の処分を受け、その上さらにこれを行う可能性がある場合にのみ解散の指定をなすことができるとしたのであります。
次に解散の指定という行政処分の性質は、一種の確認的な
行為であると
考えるのであります。通俗に
考えますれば、解散の指定は、解散という表示を当該団体に貼布するだけのことであります。
従つてそれからはいかなる効果も発生いたしません。処分の名称は解散とあ
つて、あたかも団体が解散してしまうようなふうに
考えられまするが、そうではないのでありまして、団体が解散して解消するやいなやということは、この
法律の問うところではないのであります。
次に第七條について説明いたします。第七條は、団体のためにする
行為を禁止したものであります。これは解散の指定があ
つた場合において、当財団体の役職員または構成員の職務を禁止し、義務を
規定したものであります。要するに本條は、団体が解散を指定され、処分の効力を生じた後に当該団体の役職員等は、当該団体のためにするいかなる
行為をもしてはならないことを
規定したのであります。これは解散の指定の処分のうちに含まれている効力ではなく、本條によ
つて新たに設定された禁止であるわけであります。解散が団体に対して指定されると、この條文が適用されまして、その役職員等は当該団体のためにはいかなる
行為をもしてはならないことになるのであります。しかしてこの当該団体の役職員等の範囲については、当該処分の原因とな
つた暴力主義的破壞活動が行われた日以後、当該団体の役職員または構成員であ
つたすべての者に当るわけであります。この構成員、役職員以外の者は本條の直接の受命の主体ではありません。禁止されている
行為は当該団体のためにするすべての
行為であるが、但書によ
つて処分の効力に関する訴訟または当該団体の財産もしくは事務の整理に通常されている
行為は除外されているわけであります。
解散の指定が効力を生じますと、本條の
規定によ
つて構成員等の
行為の禁止が行われますが、それ以外は団体自体が解散し、または解消するやいなやは本條の問うところではないのであります。本條により役職員等の
行為の禁止を受けた団体がそこに存在している、かように
考えているわけであります。
第八條は、脱法
行為を禁止いたしたものであります。
次に第九條について説明いたします。第九條は、解散の指定の処分が訴訟手続によ
つてその取消しまたは
変更を求めることのできないことが確定いたしましたときの団体に関する
規定であります。まず第一項は、かかる場合その解散の指定を受けた団体が法人でありますときは、その法人は解散するのであります。これはそれぞれその法人に関する各法令に
規定する解散の事由のほかに、新たに
一つの解散の事由がつけ加えられたものであります。法人の解散はそれぞれの法令が定めるところによ
つて行われるわけであります。この法人の解散と第六條の解散とは概念が違
つているのでありますから、この点は御注意をしていただきたいのであります。次に解散の指定が確定いたしました場合には、その団体はすみやかに財産の整理をして、これが終了したときはそのてんまつを公安調査庁官に届け出なければならないとしたのであります。この
法案においては、財産は
国家に没收する等の措置はとらず、当該団体の自主的な処分に一切まかせたのであります。
次には第三章について説明いたします。この第三章は、第二章に
規定する破壞的団体の規制についての手続を
規定いたしたものであります。
第十條について御説明します、本條は、破壞的団体の規制の処分は、公安調査庁長官から請求があ
つた場合にのみ行うことを
規定したものでありまして、刑事訴訟法上の訴追と同じく、不告不理の原則を明らかにしたものであります。これは規制処分を行う権限を二つにわかち、調査及び処分の請求権を公安調査庁長官に、処分の決定権を公安審査
委員会に與えて、これを分離することが権限集中の弊を除去し、民主
主義の原則に合致すると
考えたからであります。
第十一條について御説明します。本條は、公安調査庁長官が処分の請求をしようとするときは、あらかじめ当該団体の
意見弁解を聞き、有利な証拠の提出を求めなければならないのでありますが、その弁明の期日を相手方に通知する手続等を定めたものであります。通知は官報によ
つて行いまして、公示した日から七日を経過したときに通知があ
つたものとされるのであります。第三項は、通知書送付の訓示的
規定であ
つて、これを行わなければ通知が行われなか
つたとなるものではないのであります。しかし住所または居所が知れておりますときには、第三項によりまして通知をここに届けなければならないわけであります。
第十二條について説明いたします。本條は、前條第一項の通知を受けた団体が、事件について代理人を選任することができるのであります。その代理人は弁護士を初め何人であ
つてもよろしいのであります。代理人の選任は、公安調査庁長官に届け出ることは要件ではありません。
第十三條について御説明します。本條は、第十一條第一項の通知を受けた団体において公安調査庁の審理官に事実及び証拠につき
意見を述べ、有利な証拠を提出できる
規定であります。団体側でこれをなし得る者は、その役職員、構成員及び代理人を通じて五人以内といたしました。五人以内といたしましたのは、この程度において十分弁解を盡し得るものと
考えたからであります。なおそれらの者の身分については、それぞれそれが真実であることを審理官に立証して確認されなければならないのであります。何となれば、真実であることが適法な審理手続の要件であるからであります。
審理官は、公安調査庁長官によ
つて公安調査庁の職員の中から指定されるのであります。数については
法案は制限しておりませんが、審理について必要な人員を指定することができます。
第十四條について説明いたします。本條は、審理の傍聴に関する
規定であります。審理官の審理は完全な公開にするかまたは制限的な公開にするか議論のわかれるところでありましたが、審理の対象となる事柄にかんがみ、本條に
規定する程度の傍聴を認めるにとどめることが妥当であると
考えたのであります。
本條により審理を傍聴し得る者は、当該団体により選任せられた当該団体の立会人五人と一般の新聞記者等であります。これらの者はもちろん身分を証明することを要するのであります。また新聞記者等については、必要によ
つては傍聴券等によ
つて制限することもさしつかえないと
考えるのであります。
本條第四項は、退去を命令することができる
規定であります。これは実力による退去の強制ではなくて、退去の命令をすることに関する
規定であります。
次には第十五條について説明いたします。本條は、証拠の取調べについての基準を定めたものであります。
立法例としては民事訴訟法第二百五十九條があり、しかもこの事件が裁判所に提訴された場合には、原則として民事訴訟法により審判されるのでありますから、この
規定を置いたのであります。しかしもとよりその不必要と認めることにはすべて合理性がなければならなく、審理官はこの
規定によ
つて相手方の
権利を不当に制限するようなことがあ
つてはならないのでありまして、このことは本條但書に
規定いたした次第であります。
次には第十六條について御説明いたします。十六條は、弁明の期日における調書に関する
規定でありまして、審理官は必ず調書を作成して、相手方の
意見、弁明をそれに記載しなければならないのであります。
次には第十七條について説明いたします。本條は、審理官は当該団体から請求があ
つたときは、調書及び取調べた証拠書類の謄本各一通をこれに交付しなければならないことといたしました。かかる
規定を設けましたのは、当該団体の弁解、
意見の陳述に十分な保障を與えるためであります。当該団体は、すべて公安調査庁に收集された証拠について單に提示を受けるのみならず、その謄本交付を受けて検討し、弁解をすることができるのであります。これらの交付は一通にとどめ、無料といたしました。
次には第十八條について御説明します。本條は審理官による取調べが当該団体に影響するところが多いから、もし審理の結果規制処分の請求をしないと決定しましたときは、その旨を当該団体に通知するとともに、官報に公示することとしたのであります。官報に公示することとしたのは、第十一條の審理の通知がさきに官報で行われたからであります。次に第十九條について御説明します。本條は規制処分の請求の方式を
規定したものであります。第一項の請求の原因たる事実とは、第四條第一項及び第六條の
規定するごとく、当該団体が過去において行
つた暴力主義的破壞活動と、将来行う可能性がある
暴力主義的破壞活動の両者を含んでいるわけであります。請求は第四條第一項または第六條の処分を請求することを明記するのであります。第六條は解散の指定のただ
一つだから明瞭でありますが、第四條第一項の処分は三つの種類があります。しかしそのいずれの処分を請求するのであるかを具体的に記載することは、この
法案は要件としておりません。ただ第四條第一項の処分を求めるだけであります。規則においては公安調査庁長官は、処分請求書にいかなる具体的処分をなすを相当と思料するかを記載することといたしたいと存じておりますが、公安審査
委員会は、この公安調査庁長官の
意見に拘束されず、自由
独立の判断によ
つて各号の処分を選択し得るのであります。これは
委員会の判断の
独立性を保障したものであります。本條において重要な
規定は、その第三項であります。これによ
つて公安調査庁長官が、請求の原因たる事実を証すべき証拠として
委員会に提出し得るものは、すべて当該団体に
意見を述べる機会が與えられたものでなければならないのであります。
人権の擁護上かかる
規定を設けたのであります。
第二十條は、処分の請求の通知及び
意見書等に関する
規定であります。本條は、当該団体の
権利を擁護する上において、慎重な考慮を拂
つた規定であります。すなわち公安調査庁長官は当該団体の規制処分を
委員会に請求いたしますときは、その請求の内容を当該団体に通知しなければならないのであります。刑事訴訟法第二百七十一條にも起訴状の謄本を被告人に送付する
規定がありますが、これになら
つたのであります。当該団体はこの通知を見てさらに自己に対する処分の請求の内容について検討をなし、十四日以内に
意見書を独自に公安審査
委員会に提出することができるのであります。かようにして審理の手続上当該団体の
権利の擁護に遺憾なきを期した次第であります。
次は第二十一條につき説明いたします。本條は公安審査
委員会の決定について
規定いたしたものであります。この
規定によ
つて明らかなように、
委員会の決定は直接の聽問によらず、もつぱら書面の審理によ
つて行われるのであります。かような
建前といたしましたのは、次のような理由からであります。すなわちすでに前に申し上げたごとく、公安調査庁において十分の審理を盡すのほか、当該団体の
権利の擁護については慎重な措置がとられておりますから、この上重ねて公安審査
委員会のごとき小規模の
委員会において審理を直接行うのは、
人権擁護の上からもそれまでのことを重ねる要がないと
考えられるのみならず、かつまた不適当でもあり、また事案は迅速に処理しなければならないというようなことから見て、このような措置が妥当と
考えたからであります。
委員会は直接の聴聞の権限はございませんが、もとより処分請求書、
意見書等について、公安調査庁長官または当該団体の釈明を求めるものと
考えております。本條の第二項は注意すべき
規定でありまして、すなわちこの
規定により公安審査
委員会は公安調査庁長官から、第六第の処分の請求を受けた場合に、第四條第一項の処分を相当と思料するときは、この処分をする権限がありますが、その
反対に第四條第一項の処分の請求を受けた場合は、第六條の処分はすることができないのであります。これは
委員会の決定の
独立性と、団体の
権利の擁護との調和をはか
つた規定であります。要するに請求以上に不利益には処分しないということであります。
第二十二條は、決定の方式を
規定したものであります。
第二十三條は、
委員会の通知及び公示のことを
規定したものであります。
第二十四條は決定の効力の発生時期等について
規定いたしたものであります。本條の第一項は決定の効力の発生の時期を定めているのであります。処分の決定は前條により官報で公示されたときに効力を生ずるのであります。結局官報に公示された日から効力が生じたものと解するのであります。第二項及び第三項はこの決定に対する行政訴訟に関する
規定であります。第二項はま
つたく念のための
規定であります。第三項は行事件訴訟特例法の例外的
規定であります。これはこの種の事件に関する訴訟の促進をはか
つたものであります。この第三項の裁判所とは、それぞれ審級の裁判所を
意味しているのであります。全部の裁判所を通じての百日という
意味ではありません。この種の
規定は公職選挙法第二百十三條にもあるのであります。第二十五條は、公安審査
委員会の手続の細則に関する
規定であります。
次は第四章について説明します。本章は公安調査官の調査について
規定いたしたものであります。公安調査庁の職員についかなる調査権限を認めるかは、理論と実際の二つの面から重要な問題として提起されて来たのであります。結局この
法案においては、公安調査庁の職員には強制調査権を認めないことといたしました。
従つて公安調査官はすべて任意の
方法によ
つて調査をするのであります。かようなことといたしましたのは、次の理由からであります。すなわち理論的には団体規制のため十分な証拠を收集する必要上、公安調査庁の職員に強制調査権を與えなければならないとすることも
考えられますが、
暴力主義的破壞活動は、一面においてこれを行
つた者の犯罪
行為として、刑事訴訟法の強制捜査の対象となるわけであります。刑事訴訟法のほかにさらにいま
一つこのような強制調査権を設定するといたしますれば、一般に著しい危惧を與えることが
考えられるとともに、またこの
法案が強制調査権を持
つために不必要のおそれを與えることを避けたわけでございます。
二十六條について説明いたします。本條は公安調査官の任意の調査権について一般的に
規定したものであります。公安調査官は公安調査庁長官によ
つて公安調査庁の職員の中から任命され、この
法案の定める調査等の事務に従事するものであります。
第二十七條は公安調査官が証拠を收集する必要上
関係機関の持つ書類及び証拠物の閲覧を求めることを
規定したのであります。この範囲を検察官と司法警察員とにとどめたのであります。
第二十八條は警察と公安調査廳との情報または資料の交換を
規定したものであります。この交換は双方の義務として
規定されているのであります。
第二十九條は公安調査官の捜査などにおける立会いについて
規定したのであります。公安調査官は、司法警察員が
暴力主義的破壞活動からなる罪に関して行う押收、捜索、検証に立ち会に得ると
規定したのであります。この
規定の
趣旨は、公安調査官は破壞的団体の規制に必要なる証拠を收集いたさなければなりません。これについては証拠收集の現場の実見をなすことは証拠の価値判断上きわめて必要なことであります。そのため強制調査権のない公安調査官にこの
規定を設けたもので、立ち会い得るのは司法警察員がなす押收、捜索、検証だけでありまして、またそれは文字
通り立ち会い得るということだけでありまして、押收、捜索等の
実施をなし得ないものであります。
次は第三十條であります。本條は公安調査官のなす物件の領置に関する
規定であります。
第三十一條は、公安調査官のなす物件の保管に関する
規定であります。
第三十二條は、領置した物件の還付に関する
規定であります。
第三十三條は、公安調査官の証票の呈示に関するつ
規定であります。
第五章、第三十四條について説明します。本條を設けた理由は次の
通りであります。すでに述べた
通り、公安審査
委員会の処分の決定は官報で公示されるのであります。この公示に対応し、
委員会の決定が裁判所で取消されましたときは、そのことを官報で公示することは、団体の名誉保持上当然のことであるからであります。
第三十五條は、団体規制の状況は、毎年一回
国会へ報告することを
規定したものであります。事柄の重要性にかんがみ、国権の最高機関たる
国会に報告し、必要ある場合に行う
国会の国政の調査に資するものであ
つて、事後ではありますが、かかる措置によ
つて公正な運用をはかるのであります。
第三十六條は、公安調査庁に関するこの
法案実施の細則に関する
規定であります。
次は第六章、罰則について御説明します。本章の罰則の中には、二つの種類があるのであります。
一つは、
暴力主義的破壞活動に関する刑罰
規定を補整したものであ
つて、第三十七條から第四十條までがこれは当ります。他は、この
法律に基く処分または命令の履行を確保するために、その違反に対し所要の罰則を設けたものであ
つて、第四十一條から第四十三條までがこれに当るのであります。
第三十七條から第四十條までの
規定は、
刑法等の現行刑事法令との重複を避ける方針のものとに、必要最小限度の罰則を設けたものであります。その
意味において、これらの現定、現行法等の刑事法令の特別法たる性格を持
つておるものであります。
第三十七條は、第三條第一項第一号ロの
規定の
暴力主義的破壞活動にかかわる
行為であ
つて、特別の構成要件はなく、純粋に
刑法の
規定の擴充になるわけであります。
第三十八條は第三條第一項第二号ヌの
規定の一部の
暴力主義的破壞活動にかかる
行為であ
つて、
刑法等の
規定に「
政治上の
目的のため」という特別な要件を加えたのであります。放火、激発物破裂、殺人、強盗等の罪には、
刑法においてすでにその予備の罪が二年以下の懲役によ
つて処罰されておりますが、本條においてはこれらを五年以下としたのであります。
政治上の
目的を持つこれらの
行為に刑を加重したのであります。それは公共の安全に危險性が多いと
考えられるからであります。
第三十九條は、第三條第一項第二号ヌの
規定の一部の
暴力主義的破壞活動にかかる
行為であ
つて、刑罰は他の各條と比較し、この程度をも
つて相当と
考えたのであります。
第四十條は、この
法案においては教唆を
独立罪としておりますから、
刑法の教唆の
規定との調整をはか
つたものであります。すなわちこの
法案の教唆と
刑法総則の教唆の
規定が適用される場合には、重い刑をも
つて処断されることといたしたのであります。
第四十一條から第四十三條までは、この
法案の
規定による命令または処分の義務違反に関する罰則を定めたものであります。
附則は、この
法律の施行期日、
関係法令の整理等を
規定いたしたものであります。
以上で逐條の御説明を終ることにします。