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1952-04-21 第13回国会 衆議院 法務委員会 第38号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月二十一日(月曜日)     午後零時十五分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 北川 定務君 理事 中村 又一君    理事 田万 廣文君    鍛冶 良作君       高橋 英吉君    松木  弘君       眞鍋  勝君    龍野喜一郎君       大西 正男君    加藤  充君       田中 堯平君    猪俣 浩三君       世耕 弘一君    佐竹 晴記君  出席国務大臣         法 務 総 裁 木村篤太郎君  出席政府委員         法制意見長官  佐藤 達夫君         検     事         (検務局長)  岡原 昌男君  委員外出席者         議     員 石川金次郎君         検     事         (検務局刑事課         長)      神谷 尚男君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  公聴会開会に関する件  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約  第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案(内  閣提出第一四一号)     —————————————
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案を議題とし、質疑を続行いたします。大西正男君。
  3. 大西正男

    大西(正)委員 すでに他の委員によりましてお尋ねがあつたかもわかりませんが、まず第一に、特別法案の一條の「合衆国軍隊」ということの意味内容でございますが、民事特別法でも問題になりましたように、安保條約によつて日本及びその付近に駐留する合衆国軍隊国連軍指揮下において国連軍として行動した場合どうなるでしようか、その点をお伺いいたします。
  4. 岡原昌男

    岡原政府委員 この法案におきまして、合衆国軍隊と申したのは、第二項においてその定義を掲げた通りでございまして、つまり合衆国軍隊の性質を申したのでございまして、その行動内容といいますか、さようなものとは関係ないのでございます。この点につきましては前回の委員会においても若干触れたところでございます。
  5. 大西正男

    大西(正)委員 そういたしますと、行動関係ないのだからこれに含まれるわけではないのでありますか、前にちよつと私聞いておりませんので……。
  6. 岡原昌男

    岡原政府委員 この定義のもとに入る限り入つて来る、かようなことであります。
  7. 大西正男

    大西(正)委員 刑事特別法の基礎になる行政協定でありますが、これに類似しておる他の国際法規の例でありますが、たとえば北大西洋條約に規定されておる刑事管轄権その他の問題、それからアメリカフイリピンとの協定に基くそれ、それについてこの日米協定との相違点について一応の御説明を伺いたいと思います。
  8. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は、御承知通り大体外務省の所管になつておりますけれども、私の方といたしましても若干調べたところがございますので、簡略に説明員の方から説明させることにいたします。
  9. 神谷尚男

    神谷説明員 お尋ねの類似の協定といたしましては一九四〇年ですか、米英間の基地協定、それから一九四七年の米比間の基地協定及び一九五一年の北大西洋條協定、これらがあると思うのであります。まず今度の行政協定の十七條にも援用されております北大西洋條協定から申し上げますと、この場合には裁判権関係につきましては、軍隊を送つております米国側派遣国、それからこれを受入れております国を受入れ国と申しますならば、受入れ国派遣国との刑事裁判権の権限の関係一般的に申しまして、競合関係ということになつておると思われます。専属的に裁判権を持つのは、それぞれの国の法規にだけ処罰規定がある行為については、専属的な裁判権ということになりますが、その他の点については、競合的な裁判権ということになつておるようでございます。競合的な裁判権ということになりますと、いずれが優先するかという問題が、次に起るわけでございますが、その場合に、派遣国側で優先的に裁判権を持つておる場合といたしましては、派遣国の安全または財産に対する罪、または派遣国軍人軍属または家族の身体安全といつたものに対する罪、及び公務執行中に生じた犯罪、そういうことにつきましては、派遣国が優先的に裁判権を持ち、その他の罪については、受入れ国が優先的に裁判権を持つといつたような関係でございます。ただその場合にも、それぞれの当事国自分の方でぜひ裁判したいという申入れをした場合には、相手国が好意的に考慮をするといつたような関係に五つておるのでございます。簡單に申せば、そういうことになろうかと思います。  それから次に米比間の協定におきましては、あの場合フイリピンといたしましては、アメリカに九十九年にわたる基地貸借協定を結んでおりまして、基地というものが、言葉は悪いかもしれませんが、アメリカの領土的な作用を持つような関係になるわけでございます。その意味で属地主義的ということがいわれるわけでございますが、結局基地の中で犯された犯罪については、これはかりにフイリピン人が犯した罪であつても、合衆国側裁判権を持つ。しかし基地を一歩出た一般フイリピンの領域内においては、フイリピン側刑事裁判権を持つといつたようなことが、原則として行われておるのであります。ただその場合でも例外があるのでございまして、基地内において被害者フイリピンであるといつたような場合には、フイリピン側裁判権を持ち、また基地外におきましても、被害者アメリカ軍隊構成員であるとか、あるいはアメリカ合衆国の財産安全といつたような犯罪につきましては、これは合衆国側裁判権を持つということでございまして、属地主義的な点が原則なつておりますが、それが相当修正が行われているわけでございます。米比協定におきましては、フイリピン人アメリカ裁判権に服する場合があるということがいえるわけでございます。  それから米英間の協定につきましては、一九五〇年に大分修正があつたようでございますが、これもちよつとつまびらかにいたしておりませんが、やはり基地貸借関係がございまして、基地内において行われた特定犯罪については、合衆国側裁判権を持つ。それはイギリス人が犯した罪についても、特殊の犯罪であれば、合衆国側裁判権を持つような関係があつたと思います。但しそれは軍事裁判所裁判が行われるのではなくて、シヴイル・コート一般裁判所意味だろうと思いますが、それが特に開設されて、そこで裁判をするという関係にあるようでございます。しかしその特定犯罪と申しますと、たしか合衆国の安全に対する罪であつたように記憶しておるのでありますが、基地内で犯されたそれ以外の罪、あるいは基地外で犯された罪については、イギリス人の場合は、まつたイギリス裁判権に服する関係になる。また合衆国軍隊要員基地外犯罪を犯した場合でも、これは合衆国の安全に対する罪以外の場合は、すべてイギリス裁判権に服するといつたような関係にあつたと記憶しますが、ちよつとこの点につきましては、大体そのようだつたというところでお許し願いたいと思います。
  10. 大西正男

    大西(正)委員 あの米比協定の場合ですが、基地外アメリカ軍人が犯した犯罪については、どうなつておりますか。
  11. 神谷尚男

    神谷説明員 基地外アメリカ軍人犯罪を犯した場合におきましては、原則としてはフィリピン側裁判権に服することになつております。但し特殊の犯罪につきましては、アメリカ合衆国側裁判権を行使する、そういう関係にあると思います。
  12. 大西正男

    大西(正)委員 今の北大西洋あるいは米英、あるいは米比のこういつた協定に基いて、それらのイギリスなりフィリピンなり、あるいは北大西洋條約における受入れ国国内法については、御調査なさつたのですか、なさつたら伺いたいと思います。
  13. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点につきましては、私どもの手の及ぶ限り調査の手を伸ばしたのでございますが、遺憾ながら手に入ることができません。従いまして、この法案をつくるときの間に合いませんでした。
  14. 大西正男

    大西(正)委員 行政協定第十七條第三項によりますと、「何人も自己に対する刑事裁判権を有しない裁判所に対する裁判所侮辱、偽証文は審判妨害を行つたときは、」云々とございますが、この裁判所侮辱に対応する国内法としまして、この特別法には何か規定がございますか。
  15. 岡原昌男

    岡原政府委員 前にもちよつと申し上げたのでございますが、この行政協定第十七條三項の(e)を、いかなる形で国内法になすかについては、実は相当私どもといたしましても、悩み、かつ研究した次第でございます。その結果どうもあちら側の訴訟法の立て方、あるいは訴訟の実際のやり方、これと日本側とは大分違う面が多いようでございまして、裁判所侮辱というものが、どの程度まで広がるのか、日本裁判所法に基く程度でよいのか、あるいは偽証、審判妨害等についてもその手続がどうであるか、また実際の罰則がどうなつておるかということにつきまして、相当資料を集めてみましたけれども、各州によつて相当違つたりいたしますものでございますから、実は私どもといたしましても行政協定第十七條三項の(e)の趣旨をくみまして、これが日本側でどの程度取入れられるだろうか、また実際裁判をあちら側の裁判所がやりますについては、どのように協力しなければいけないだろうかということを実際面から研究いたして立案いたした次第であります。従いまして、前に、裁判所侮辱、いわゆるコートコンテンプトということにつきまして、あちら側の概念が非常に広い、従いまして、コートコンテンプトということで、証拠隠滅等が直接出て来るというふうにたしか御説明申し上げたのでありますが、この点はちよつと取消さしていただきます。このコートコンテンプトと申しますのは、たいへん広い概念でございますが、さような証拠隠滅というようなものを直接には律してはいないのでございます。ただこれに似たような裁判所命令をないがしろにする、審判について実質的に、形式的に、妨害的行為があつた者を処罰しておるようでございます。さようなものについて規定を設けるについては、やはり刑事裁判の実態を公正ならしめるために証拠隠滅の罪も必要であろう、かような趣旨から立案した次第でございまして、実際上の必要を考えますと、たとえばあちら側の軍要員日本人に対して危害を加えた、そういう事件が起りました際に、これをいたずらにのがれようとして証拠隠滅をはかるようなことがありますと、わが国国民権利義務の保護に全うし得ないものが出て来るだろう。つまりうその証拠を持つて来て、あの兵隊さんはやつたのじやないというようなことをそうたやすくやられたのでは、あちら側の刑事手続に協力するゆえんではない。そういうような面がございますので、これを入れた次第でございます。
  16. 大西正男

    大西(正)委員 裁判所侮辱、何と言いますか、限定された固有のそういう侮辱罪と言いますか、そういうものに対してはこれは別に規定はないわけですか。
  17. 岡原昌男

    岡原政府委員 この法案の第十五條に、出頭命令に違反して出頭しなかつた場合というふうな規定を置いた次第でございますが、これが一つ裁判所侮辱的な性格を持つたものでございます。ただこの裁判所侮辱というものが、先ほども申し上げました通り向うの観念とこちらではまるで違うものでございまして、従つて先般来裁判所侮辱制裁法案なるものが国会の御審議なつたことがございましたけれども、もしあれが通過すれば、ああいつたものが働き出すというようなことになろうかとは存じますけれども、今のところはそう大した規定はないわけでございます。
  18. 大西正男

    大西(正)委員 そうしますと、向う裁判所で、これは裁判所侮辱罪だとかりに認定をしたような場合に、しかしその場合には向う裁判はできないわけですね。しかし日本にはそういう処罰規定がない。こういう場合にどういうふうに処理されますか。
  19. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような場合には当然処罰ができない、さようなことでございます。
  20. 大西正男

    大西(正)委員 そうしますと政府の立場から言えば、協定を守らない、こういうことになるのですか。
  21. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は先ほどもちよつと申し上げました通り、両方の訴訟手続建前がまるで違つておりますので、私どもといたしましては、わが国の現在の刑事訴訟手続にかれこれ合うような範囲でこれを立法化する、さような態度をとりました関係上、かようなことになつたのでございます。なおつけ加えて申し上げますが裁判所侮辱というのは、御承知通り裁判官が起訴を待たずしてその場でやれるという手続をも含んでおりますので、さようなことも私どもといたしましては今のところただちにはやりたくない。従いまして今言つた程度の立法になつた次第であります。この点につきましてはあちら側と了解がついております。
  22. 猪俣浩三

    猪俣委員 今大西君が質問いたしました基地協定イギリス、あるいは北大西洋フィリピン、これについて御説明があつたようでありますが、第一点は、イギリスのごときは、合衆国軍隊の安全を阻害する行為だけが合衆国裁判権があるので、あとは一切裁判権がないというふうに私は記憶いたしております。そこでこの三つ前例行政協定のうち、駐留軍隊が被駐留国の国人に対しまして犯罪を犯した場合に、その被駐留国裁判権が及ばないというのはこの三つのうちにありますか、ありませんか。これが第一であります。  次に第二点は、軍人軍属家族、この家族犯罪に対して受入れ国裁判権が及ばないということが、この三つ前例協定の中にあるかないか。それをお答え願いたい。さつきの説明員説明ちよつと間違つておるところがあるのではないかと思うのですが。私今條文を持つておらないが、この北大西洋條約及びフィリピン條約についてのあなたの説明が違つておるのじやないかと思われる。ここをよくお調べになつていただきたいが、私の今お問いいたしました駐留軍受入れ国国民に対して犯罪を犯した場合に、この受入れ国裁判権がないということ、駐留軍家族がいわゆる治外法権を持つておるというようなことが三つ前例にあるかないか、それをひとつ伺います。
  23. 神谷尚男

    神谷説明員 第一の点でございますが、派遣国軍隊受入れ国国民に対して犯罪を犯したという場合に、受入れ国裁判をしないような例があるかということでございますが、その点につきましては北大西洋條約におきましては一般的に裁判権は競合しておるという関係でございます。但しその場合に、受入れ国側で優先的に裁判権を行使するという関係なつておると記憶いたしております。  第二点の家族の点でございますが、私の記憶いたしておりますところでは、家族にまで派遣国側裁判権を行使する例はないようでございます。
  24. 猪俣浩三

    猪俣委員 北大西洋條約で、あなたは競合とおつしやつたけれども、それはやはり本法案にあるように、その受入れ国裁判を放棄した場合に進駐国裁判するということになつているのじやないですか。競合してそれが優先するという建前じやないじやないか。
  25. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 今の御質疑に対して政府委員はよく御調査の上に御説明を後刻願いたいと思います。
  26. 猪俣浩三

    猪俣委員 この刑事特別法案の第六條につきまして昨日質問いたしましたが、私は用があつて途中で切りましたので、なおこの点について確かめておきたいと思います。この六條、七條は非常に言論の自由と大きな関係がありますので、もちろん法務府でも用意周到に立案されたようでありますが、なお疑義のあるところを明らかにしておきたいと思うのであります。この七條の二項の「せん動」ということについて昨日もお尋ねいたしましたが、なおそれを確認しておきたいと思いますが、この七條の三項の「せん動」という意味は、具体的に申しまして、ある新聞、あるいは雑誌、その他壁新聞のようなもののその文句内容が、これは合衆国軍隊の安全を害する用途に用いるべきものであることの言葉、たとえば法務府の説明書の中に入つておるように、合衆国軍隊仮想敵国と思われる人にこれは知らせる必要があるというような目的を明らかにすること、及び公になつておらないものを探せというような文句があること、新聞記事その他の文書の中に、そういう第六條の構成要件に当てはまるようなことが文意の中にうかがわれない場合においては、これは扇動したことにならぬのであるか。なお同じく不当の方法探知あるいは收集せりという意味言葉がやはりなければならないのであるかどうか。結局重ねて言いますが、第六條の構成要件に該当することが、その扇動したりと称される文意の中から読みとれる場合でなければ、扇動したということにならぬのであるか、それをなお御確認願いたいと思います。
  27. 岡原昌男

    岡原政府委員 第七條第二項の扇動の罪が成立するためには、今お示しのような構成要件というものが、その文意の問題については、文面の上に現われておらなければならぬ、かような趣旨でございます。但し、それが一から十まで言葉の上ではつきり出るということは必要ではないのでございますが、趣旨は出ていなければならぬ、かような趣旨でございます。
  28. 猪俣浩三

    猪俣委員 なお昭和十六年にできました国防保安法、今廃止されておりますが、その第十二條には「誘惑」及び「煽動」という言葉がある。本法にはそれが「教唆」または「せん動」となつているのでありますが、この第七條の二項の「教唆」という意味は、国防保安法の第十二條に現われました、すでに法律語となりました誘惑というような意味と同じなのか、違うのか、違うとすれば、それより範囲が広いのか、狭いのか、それをお尋ねいたします。
  29. 岡原昌男

    岡原政府委員 国防保安法の第十二條で使いました「誘惑」という言葉教唆の場合もあり得ると思いますが、どうも言葉概念がぴんと来ない、はつきりしない。何でもちよつと誘いをかければ「誘惑」というふうなことになりそうだ。実際の平易な、言葉ではわかりやすいのでございますが、法律語として使つた場合に、どうであろうかというようなことで、これは一応研究はいたしましたけれども、それとは全然別に既成概念の割にはつきりした「教唆」、「せん動」というような文字使つた次第でございます。
  30. 猪俣浩三

    猪俣委員 しからば、この七條二項の「教唆」という意味と「せん動」という意味、昨日も御説明つたようでありますが、もちろん教唆犯意を形成するというところにありましようが、扇動犯意を助長形成することがあり得ると思うのでありますが、この「教唆」または「せん動」の本質的な差異はどこにあるのでありますか。
  31. 岡原昌男

    岡原政府委員 きのうもかなり詳しく御説明申し上げたつもりではございますが、「教唆」の方は、ただいま猪俣さんからお話通り他人をしてその罪を実行する決意をさせる行為を申します。ところで、「せん動」の方は、他人に対して中正の判断を失わしめるような手段方法でということがちよつと加わつております。それから実行の決意をなさしめる点におきましては同じでございますけれども、または既存の決意を助長せしめるような勢いを有する刺激を与える、要するに、すでに犯意は起しておるけれども、一層その決意を固めるというふうな勢いを有する一つ行為を付加して、一緒にして、この「せん動」という文字が使つてある次第でございます。それが違いのおもな点でございます。
  32. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、「教唆」の方は特定した一人または多数ならざる特定した数人、「せん動」の方は不特定多数の人間を相手にするというような、人の特定及び不特定及び数には関係ない御解釈ですか。
  33. 岡原昌男

    岡原政府委員 判例一つ扇動定義を掲げました際に、不特定または多数の者に対してという言葉使つた判例がございます。ただそれが本質的なものであるかどうかということにつきまして、実は私ども研究いたしました結果はつきりいたしませんが、しかしながら大体感じといたしましては、ただいま猪俣さんからお話のように不特定または多数ということが扇動の大部分と申しますか、一つの副次的な特徴でなかろうかと存じます。この点実は判例をよく研究いたしましたけれどもわかりませんので、はつきり申し上げかねた次第でございます。
  34. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 同時に政府委員説明の中に、特定の多数人あるいは不特定人という場合に、その方法公然性を持つ場合を教唆及び扇動の区別の一つ基準にしているかどうか。この点もやはり問題であろうと思いますから、御研究の上に御意見の発表を願いたいと思います。
  35. 岡原昌男

    岡原政府委員 承知いたしました。
  36. 猪俣浩三

    猪俣委員 それから刑法三十五條との関係でありますが、この刑法三十五條と「探知し、又は收集した」まあここに「不当な方法」ということがありますから、そこで縛られておると思うのでありますが、これは国防保安法審議の際にやはり委員会におきまして相当質疑がなされた問題でありまするがゆえに私も重ねてお尋ねしますが、今度の駐留軍の費用は半分以上日本で負担するような予算なつている。そうすると予算審議関係相当軍の編制その他について議員といたしましては知り得ることになろうと思うのであります。あるいはまた国会におきまする質疑応答研究資料として、かような駐留軍のいわゆる軍機なりと例示されておりまするような問題につきましても、研究する必要があると思うのでありますが、さようなわれわれが議員としての職責上かようなものを收集し研究するというようなことは、これはこの六條に当てはまるのであるか、当てはまらぬのであるか。
  37. 岡原昌男

    岡原政府委員 いわゆる違法性の問題だろうと存じまするが、形の上でたといこの第六條あるいは第七條に違反する場合がありましても、これに対して一般的に刑法総則違法性阻却の理論が適用されることはこれまた当然でございまして、砕いて申し上げますと、たとえばその方法が不当であつて探知收集したというふうな場合でありましても、それをさらに越すような大きな何かの違法性阻却原由が認められる限りにおいては、犯罪は成立しない、かように理解しております。
  38. 猪俣浩三

    猪俣委員 同じような趣旨でありますが、なお具体的の例としてお答え願いたいのは新聞記者であります。あるいは通信記者雑誌記者、そういう人たち自分の職業上探知、收集したというようなことが問題になりますかどうか、お聞かせを願いたい。
  39. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点につきましても、りくつはまつたく同一でございますので、この違法性阻却原由というのは、御承知通り、具体的な事案によりまして判断はたいへん困難でございまするが、抽象的には公序良俗に反するとか反しないとか、あるいは正当業務範囲内であるか、正当性範囲内であるか、あるいはないといつたようなことが基準になるのでございまして、理論的にはただいま申した通りになる次第でございます。
  40. 猪俣浩三

    猪俣委員 不当な方法探知し、收集した、しかし実際はその探知、收集した人物が勘が悪くてほんとうのことをつかんでいなかつたという場合には、これは未遂罪になりますかどうか。
  41. 岡原昌男

    岡原政府委員 行為の着手があつて、結果は結局機密はつかまなかつたということになる例だと存じますが、未遂概念が当てはまるわけでございます。
  42. 猪俣浩三

    猪俣委員 なお逆もどりするようでありますが、この「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、」これは大きなしぼりであろうと思うのでありますが、しかもこの言葉国防保安法の第八條そのままをここに使われておるようであります、そうしてこれがどうもはつきりしているようではつきりしていない。この法務府の説明書によるとそういうことがはつきりしている。昨日も私がお尋ねいたしましたように、合衆国軍隊仮想敵国なつているか、あるいは近い将来なろうとする国に通謀するというようなことがこの「用途に供する目的」と解するような説明に相なつているのでありますが、それならば私はそのようにはつきりさせた方がいいと思うのですが、これについての御意見を承りたいと思うのです。この国防保安法が当時の貴族院にかかつたときに、やはりこれが非常に問題に相なりまして、貴族院から修正案が出たのであります。その修正案の文句は、これはまあ当時は日本の国防でありますからそういう言葉を使つておるのですが、「国防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スルコトヲ知リテ外国ニ通報スル目的ヲ以テ」こういう意味に、この「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」というような文字貴族院におきまして修正しようという意見が通過しそうになつたのでありますが、時の柳川司法大臣が極力、さような正当なことで探知、收集あるいはその他のことをした場合に処罰をするのじやない、これは最も高度の作戰用兵に関する機密だけ言うのであるからというような声明をいたしまして、原案が通つた歴史的沿革があるのでも、今考えてみまするに、この「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」というのは、どうも説明を聞かないとわからないので、下つぱの、いわゆるこの法律を施行するようなおまわりさんや、わけのわからぬ検事というものが、これを非常に妙に考えて、どうも悪用できるような文句なつているのじやないか。もう少しこれを法務府の説明のように、そういう意味であるならばそういう意味を法文自体にはつきり表わした方がいいじやないか。合衆国軍隊の利益を害すべき用途に供することを知りて外国に通報する目的をもつて、こういうふうにした方があなた方の説明にぴたりと当てはまつた文句である。ただ法文はこういうことにしておいて、説明だけはそんなような説明をせられておつたのでは、下部の執行機関を誤らしむるようなことになりはせぬかというふうに考えるのでありますが、かように一体政府は修正なさる意思がありやいなや。
  43. 岡原昌男

    岡原政府委員 「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、」というのは、この言葉自体から当然ただいまお話の、何々したことを知つてということは出て参るわけでございます。と申しますのは、先般来重ねて申し上げておりまする通りわが国刑法の全体の建前が故意犯を原則といたしまして、過失につきましては特に明文を掲げない限りこれは処罰ができないということがはつきりしておりますので、かような目的をもつてということを表示いたします以上は、その内容たることを知つて、ということは当然入つて来るわけでございます。  なお「外国ニ通報スル目的ヲ以テ」という点でございまするが、この点もちよつと簡單ではございますが、前の委員会で触れました通り、單に現に敵対関係を有しあるいは近い将来に敵国関係になるべき外国のみならず、合衆国軍隊の安全を害するというふうなことは、国際関係としての戰時法的な敵対関係でなくともあり得るわけでございまするので、さような点も拾うといいますか、同じく保護しなければいかぬという趣旨から、こういう表現を使つてあるわけでございます。従つて「外国ニ通報スル目的ヲ以テ」ということにいたしまするとたいへん狭くなり過ぎまして、合衆国軍隊の安全を保護するゆえんではない、さような趣旨からかような立案にいたした次第でございます。御了承願います。
  44. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、外国に通報する目的を持たない場合において、なおかつ「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する」というものは、実例としてどんな場合がありますか。
  45. 岡原昌男

    岡原政府委員 実例と言われますと、ちよつとさような場合が今すぐにということになりますか、どうか知りませんが、たとえばどこどこ駐屯の合衆国軍隊はたいへん高性能の何かの武器を持つているそうだ、ひとつあそこを襲つてそいつをとつてやろうというふうな者が国内におつたといたします。それでそれをやるにつきまして、ひとつやはりふだんからそういうものがあるかないか、またあるとすればどこにあるか、そういうふうなことを調べておいて、いざというときにやろうではないかというふうなことを相談する場合がございます。それがさらに進んで先ほど言つた探知、收集というふうなことになつた場合には、やはりこれは保護しなければならぬ、かような趣旨でございますか。
  46. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、日本国内において何らかの者がアメリカの兵器を探知、收集することだけでも「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」ということになる、こういうふうな御解釈ですか。
  47. 岡原昌男

    岡原政府委員 いえ、そうではないのでありまして、今の例があるいはちよつと悪かつたかもしれませんが、そういうふうな軍隊を襲撃する、そうしてその武器をとつてやろう、その襲撃するという点が重点でございます。
  48. 猪俣浩三

    猪俣委員 われわれはこういう言論に対するいわゆる基本的人権を圧迫するような規定というものは最もしぼれるだけしぼる、その意味で、昨日申しましたように、現実にして最も具体的危險の存在するということによつて、公共の福祉と基本的人権の調和点というところから立案に当るべきものであつて、今どうもにわかに実例さえも考えられないようなことまで考えて、そうして法文をおつくりなさるということに対しましては、その根本態度について私どもはなはだ賛成しかねる。アメリカの最高裁判所に定立いたしましたあの公共の福祉と基本的人権の調和点ということを頭に置いておいてそうして立案に当つていただきたい。そういう意味からいたしますならば、私は「国防上ノ利益ヲ害スベキ用途ニ供スルコトヲ知りテ外国ニ通報スル目的」というふうにした方が最もこの「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」という意味に合致する言葉である。これは戰時中でありまするが、貴族院のこの修正の言葉というものが相当的確である。なぜなら、この言論の自由というごときものを取締る場合におきまして、あいまいな広くも狭くも解されるような言葉を使つておりますということは、非常に人権の侵害を引起すもとになるのでありまして、私どもはこの「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」というものはもう少し具体的にしぼることが、公共の福祉との調和点からして妥当じやないかと考えるのでありますが、今あなたの設例に何か合衆国軍隊を襲撃するものがあるかもしれぬというような、まあ想定のもとにお考えになつているということは、ちと考え過しではないかと思うのでありますが、まあそれは御意見だけ承つておきます。  次に、日本の警察予備隊が漸増せられまして、これがいわゆる行政協定によりましても合衆国軍隊と協力して国難に当る、あるいは内乱に当る、ということが規定されているのであります。また日本国が要請をいたしまして日本国内の内乱それ自体にもアメリカの兵隊が繰出すことがあり得るわけですが、これが協力関係に立つて、あるいは内乱を鎮圧し、場合によつては外敵に当るという場合におきまして、この警察予備隊の組織編制というものが、アメリカ合衆国軍隊と協力している関係においては、全体として一つの軍の機密ということになろうかとも考えられるのですが、こういう場合のことは本法には想定されているのですかおらぬのであるか。
  49. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは入らない趣旨でございます。
  50. 猪俣浩三

    猪俣委員 それからなお前にさかのぼりますが、日本裁判所裁判する場合に、アメリカ軍隊構成員に対して証人として出頭を求める場合がありますか。
  51. 岡原昌男

    岡原政府委員 こちら側の裁判所において事件を調べる際に、アメリカ軍人を証人として呼ぶ、かような事例でございますね、それはあるわけでございます。
  52. 猪俣浩三

    猪俣委員 その場合にアメリカ軍人が出頭しなかつたならどうなる。あるいは偽証したらどうなるか。
  53. 岡原昌男

    岡原政府委員 その場合には出頭違反の事実ができ、あるいは偽証の犯罪が成立して参るわけでございます。それはあちら側の裁判所で審理をする、かようなことになろうかと思います。
  54. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、根本問題は、行政協定によりまして刑事裁判の協力的なこの刑事特別法案が出現したのでありますが、アメリカ側はやはりこれに対応するような法律があるのですか、ないのですか。今言つたように、われわれ日本人に対しましては、アメリカ裁判に対して出頭の義務あるいは偽証の罪、証拠隠滅の罪というようなものが書かれておつて日本人は処罰されるのですが、アメリカ人が同じようなことをやつた場合に、それに相応する法律がアメリカにあるのですかないのですか。
  55. 岡原昌男

    岡原政府委員 当初全般の逐條説明を申し上げました際にちよつと簡單に触れたと思いますが、米国の統一軍法の中の、駐留地の国内法を守らなければいかぬ、そしてそれに違反のあつた場合には処罰されるという規定が全般的にかぶつているわけでありまして、これが働いて来るわけであります。
  56. 猪俣浩三

    猪俣委員 なお一点お聞きしたいのは、アメリカにも軍機保護法のようなものがあるようですが、これには刑罰の程度が戰時の場合と平時の場合と区別しておる。ところが本法案にはその区別が何もないのでありますが、これはどういう理由でありますか。
  57. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもがこの法定刑をその構成要件との関係において考えました際に、これをこまかくわけて戰時、平時というふうにいたしますと、第一構成の要件としてわかりにくくなるといいますか、非常に複雑な形が出て参りまして、当初に立てましたできるだけ簡素なわかりやすい規定にしようという建前がくずれますから、そこで簡單にいたしましたのと、もう一つは軍機密の探知、收集等が普通考えられますのは、立聞きとか、あるいはその辺の書類を盗み出すというふうな形が多いのじやないかと思いますが、書類をちよつと持つて来るのは窃盗に該当するのでありまして、窃盗の法定刑が懲役十年以下ということに相なりますと、どうしてもその程度のものは窃盗並に懲役十年はやむを得ないじやないか。これを戰時と平時にわけて、戰時を強めるということになりますと、平時の一般の書類を盗んだということだけで懲役十年程度やらなければならぬ。それを戰時にはさらに十五年とか二十年とかいうことにせざるを得ないのじやないか。これでは少し苛酷に失するのではないか、さようなことに考えまして、実は一本にいたした次第でございます。
  58. 猪俣浩三

    猪俣委員 いま一点。実は昨日この軍用物を損壊する罪のときに、電気の関係判例があるように言つたのでありますが、これは蓄電池などを放出してしまうという事件が具体的にあつた。しかしこれは毀棄罪に当てはまらぬ。ただ泉二博士が、これが毀棄罪に規定されないことは非常に間違いであるから、早くこれを補正しなければならぬという意見であつたのを記憶しておつたために判例があるように言つたので、記憶違いでありますから、それは訂正いたしておきます。あとは大臣に質問しますから……。
  59. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 速記をとめて、     〔速記中止〕
  60. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 速記を始めて。  それでは午前中の審議はこの程度にとどめ、午後二時から会議を開きます。  暫時休憩いたします。     午後一時十六分休憩      ————◇—————     午後二時五十一分開議
  61. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案を議題として質疑を続行いたします。猪俣浩三君。
  62. 猪俣浩三

    猪俣委員 法務総裁の所見を承りたいと存ずるのでありますが、私ども日本国憲法をもちまして、その九條によりまして世界に類例のない戰争放棄、絶対平和の理想を樹立し、それに準じまして軍機保護法、国防保安法、そういうものは一切消滅し、なお刑法におきましては八十三條ないし八十六條が削除され、軍の機密というようなことで戰々きようきようとしなければならなかつた過去を顧みまして、私どもほつと胸をなでおろしておつたのであります。しかるに今日この安全保障條約並びに行政協定を締結することによりまして、ここに行政協定に伴う刑事特別法案というようなものが出現いたしまして、その内容は戰時中の国防保安法あるいは軍機保護法をまぜ合したような法案で、私ども実に遺憾千万に存じます。しかもこの法案審議いたしておりますると必ず壁に突き当る。それは行政協定第何條にもうきめてあるからということに相なるのでありまして、行政協定によつてあるわくをはめられまして、そのわくのうちにかような特別法案ができ上り、しかもそのわくでありまする行政協定なるものは、われわれの審議を経ないものでである。政府が自由に締結したものである。行政府が自由に締結いたしましたこの協定によりましてわくをはめ、そのわく内においてこの法律案が提出せられた。私どもは実に異様な感じを持つのであります。かようにして再びまた軍機に触れるかどうかというような問題で、新聞雑誌その他われわれの演説におきましても、戰々きようきようとしなければならないようなことが起つて来る。これはまことに容易ならぬことだと思うのであります。基本的人権として樹立せられましたる言論の自由がかかる重大なる制約を受け、しかも外国の軍隊の駐留ということからかようなことが起つて来て、われわれ日本国民が縛られることに対しまして、私は実に遺憾千万に存じます。かような事態に対しまして、一体法務総裁はいかなる御所見を持つておられるか承りたいと存じます。
  63. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 お答えいたします。元来この日米安全保障條約は何のためにできたかということが理解されねばならぬと思います。要するにこの條約は世界の平和、ひいては日本の平和を維持すべき考えからつくられたのであります。日本が外国の侵略を受けた場合にどうするか。それは日本の安全と同時に世界の安全を害するものであるから、さような事態において日本国をどうして保護すべきであるか、安全ならしめるか。その根本理念からこの條約は結ばれたと考えておるのであります。しかして安全保障條約第三條によりまして、日本の安全を保障すべきいわゆる駐留軍のために規律を定めた両国間の行政協定であります。その行政協定において駐留軍の機密を守つてやることは当然なことであろうと考えるのであります。いやしくも日本の安全、ひいては世界平和のために日本に駐留すべき軍隊の機密保持ということは、当然やらなくちやならないことと考えるのであります。その意味におきまして、この刑事特別法において、その部分についての規定を制定したわけであります。日本国自体の安全のためでありまするから、決して日本の憲法には矛盾いたさないと考えております。
  64. 猪俣浩三

    猪俣委員 われわれと世界観を異にしておるのであつて、この点につきましてあなたと論争してもしかたがない。われわれはかような外国軍の駐留によりまして世界の平和が乱れると考えております。日本の安全が脅かされると考えております。それ以上に、今度は日本国民が言論の自由を制約されると考えておりまして、まことに遺憾な状態だと思うけれども、それについてあなたと論争してもしかたがないから私はやめますが、もしあなたのおつしやるような理由によりまして、合衆国軍隊の安全を保持する意味においてできたとするならば、一体世界に類例のない——これは先ほども政府委員の答弁によつてつたのですが、米比協定にも、北大西洋條約にも、米英基地協定にも全然存在せざるところの軍人軍属家族までを、この構成員の中に含めた理由はどこにあるか。これが軍の機密と関係があるわけでもなし、またさようなものに治外法権を持たせる理由は一つもない。何がゆえにこの家族までも入れたのであるか、それを承りたい。
  65. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 何がゆえに軍属家族までを入れたかという問題でありまするが、これは必ずしも例がないわけではありません。米英協定においても軍人家族軍属は入つておるのであります。しかしてこの軍属家族を入れたというのは、これは軍人に付属した一つの形態でありまして、必ずしも全部が家族を連れて来るわけではありませんが、いやしくも軍人が参りまして一つの家庭をつくるという意味においては、その一員である家族のある範囲を含ませることは当然のことかと考えております。軍属につきましても、これは一種の軍事要員でありますから、これもこの中に含ませるということも、これまた当然なことであろうと考えておるのであります。
  66. 猪俣浩三

    猪俣委員 今の法務総裁の答弁は、午前中の政府委員の答弁と食い違つておる。米英協定においても、米比協定においても、あるいは北大西洋條約においても、家族を含ましめられたという前例が世界にない。私は念を押して聞いたのです。あなたはあるようなことをおつしやるが、どこにあるか御答弁願いたい。
  67. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 米比基地協定にはありませんが、米英協定にはあるわけです。また北大西洋條約にもあると承知しております。
  68. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、午前中の政府委員の御答弁は間違いでありますか。そんなのはないはずなんだ。家族を入れてあるなんということは世界始まつて以来今度が初めてなんだ。どこにあるか。
  69. 岡原昌男

    岡原政府委員 午前中私からはその点については申し上げませんでしたけれども説明員から説明した中においてさよう聞えるような点がございました。しかしその場合も、今條文が手元にないからはつきり申し上げかねるけれども、という前提であつたと存じまするが、先ほど委員長からのお話もございまして、その後いろいろ全部研究いたしまして、ただいま総裁から申し上げた通りでございます。
  70. 加藤充

    ○加藤(充)委員 一点だけ関連上お尋ねいたします。軍人軍属の私用中の犯罪についてまでアメリカ裁判権を認めるというようなことは、どこの條約にもありません。またそれを認める合理的な、法的な同時に慣行的な手続も絶対にないということができると思うのです。それからおまけにアメリカ軍の軍人軍属家族の行つた犯罪についてもアメリカ裁判権を持つというのは、世界にまつたく類例のないものであると、私どもは私どもの調べた資料と知識に基いて断言することができると思うのであります。この点もあわせていいかげんな、でたらめな洋モク放言に近いものをやらないで、責任のある答弁を確答してもらいたい。
  71. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 北大西洋條約にははつきり書いてあるように了承しております。
  72. 猪俣浩三

    猪俣委員 しからばこれは明日でもよろしゆうございますから、こういう刑事特別法案に類するようなものは米英基地協定、あるいは北大西洋基地協定米比基地協定、この三つがあると政府委員の答弁でもありまするし、私もさように承知いたしておるのであります。しからばその外国軍隊構成員の中に家族を含ましめて、その家族基地外で犯しましたる犯罪につきましても、その受入れ国裁判権がないということは、今度の日本行政協定で初めて出現したものであるとわれわれ承知いたしておりますが、あるという御答弁でありますならば、いかなる国の協定の第何條にありますか、御指摘願いたいと存じます。
  73. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点ただいま申し上げた通りでございますので、條文ちよつと読みまして御説明申し上げたいと思います。軍隊の地位に関する北大西洋條当事国間の協定、これの第一條第一項におきまして、軍隊軍属、次に被扶養者という項目がございまして、これに「軍隊又は軍属構成員の配偶者又は生活上その構成員又は配偶者に依存しているその構成員の子をいう。」とございます。     〔「問題は裁判権の問題だ」と呼ぶ者あり〕
  74. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 裁判権の問題と、この軍人家族を包含するかどうかは別個の問題である。私は猪俣君の言うのは、そういうものを含めたものがほかにあるかどうかという問題であると思いましたので、裁判権の問題は別であります。
  75. 猪俣浩三

    猪俣委員 私が質問いたしましたのは、この合衆国構成員の中に、家族が含められ、しかもその家族がいわゆる受入れ国に対して犯罪を犯した場合に、その受入れ国がこの外国軍隊家族に対して裁判権がないという規定が、この三つ協定の中にあるであろうかという御質問を二回繰返して申しておる。その点についての御答弁を承りたいという意味なんであります。
  76. 岡原昌男

    岡原政府委員 それからそれに引続きましてただいまは定義だけを申し上げましたが、それに引続きまして、第七條に次のような規定がございます。第七條第一項「本條の規定に従うことを條件として、」これが(a)、(b)とわかれておりますが、「派遣国の軍当局は受入れ国内において、派遣国の法令によつて軍当局に与えられたすべての刑法的及び懲戒的裁判権を、派遣国の軍法の支配下にあるすべての者に対して行使する権利を有する。」同時に(b)には「受入れ国の官憲は、同国の領域内で犯し、且つ、同国の法令によつて罰することのできる犯罪に関して、軍隊又は軍属構成員及びその被扶養者に対して裁判権を有する。」この「被扶養者」が先ほど申し上げました定義と関連を持つて来るのでありますが、かような規定がございます。これと相並びまして、同第三項におきまして、「派遣国の軍当局は、左記事項に関しては、軍隊又は軍属構成員に対する司法権行使の優先権を有する。」これがさらにわかれますが、「もつぱら国家の財産又は安全に対する犯罪、あるいはもつぱら当該国の軍隊軍属の他の構成員又はその被扶養者の身体又は財産に対する犯罪、」もう一つは「公的な任務の遂行中に行われたいずれかの行為又は不作為から生ずる犯罪。」は「左記事項に関しては、軍隊又は軍属構成員に対する司法権行使の優先権を有する。」と、こうございまして、家族に対しては優先権を持つていないということに相なりますから、この競合の問題からこの家族だけは除外される、かような趣旨でございます。
  77. 猪俣浩三

    猪俣委員 ですから、その家族基地外においてその受入れ国に対して犯罪を犯したという場合において、受入れ国が全然裁判権がないという規定があるかという私の質問にどういう答えになるのですか。長つたらしい條文を読んでいる間に忘れてしまうから、あるのかないのか。
  78. 佐藤達夫

    ○佐藤(達)政府委員 総括して今までの結論を申し上げますと、こういうことになると思います。今岡原政府委員が最初に読みましたこの派遣国の軍当局が派遣国の軍法の支配下にあるすべての者に対して裁判権を行使するということを最初に読んだわけであります。その軍法の支配下にあるというすべての者という中に家族が明瞭に入つておるということをひとつのみ込んでいただきまして、それからあとの今岡原君の言われましたところは、これは派遣を受けておる国の方の優先関係においては、その点において優先関係を持つておらないということを申し上げましたので、結論は、結局この家族に対する裁判権というものを派遣国が優先的に持つているということになるわけであります。
  79. 猪俣浩三

    猪俣委員 その点について私どもの方もよく研究いたしますが、私はその家族が公用にあらざる問題について犯罪を犯したという場合においては、受入れ国裁判権を放棄せざる限り、受入国に裁判権があるものと理解しておりますが、なおそれは私も條文について研究してみたいと思うのであります。  次に私は法務総裁にこれはお願いかつ質問に相なるのでありますが、この刑事特別法の第六條、第七條、いわゆる軍機保護法あるいは国防保安法のような規定というものは、濫用をいたされますると、重大なる言論の圧迫と相なりまして、しかも何が軍機なりやというがごときことは、時の情勢の推移によりまして、執行官たる検事あるいは警察官、そういうものの解釈が非常にかわつて来る。これは戰事中におきまして、私が痛切に感じましたことでありますが、ある新聞記者が蒙古において徳王が独立の宣言をし、その独立式に関東軍の参謀長が出席したという特報を流したのであります。そうすると、これが軍機保護法違反なりとして逮捕せられまして、二年間ぶち込まれた、これは有名な新聞記者であります。で、この弁論を頼まれまして、第一審及び第二審で闘いまして、結局は一審も二審も無罪と相なりました。検事は上告を控えたのでありますが、そのときに、検事は陸軍省に数回伺いを立てた、こういうことが軍機なりやいなやと言うと、いつも陸軍省では陸軍大臣の名をもつて軍機だとたいこ判を押してやつて来る。そうして国民が縛られたのであります。そのときに、この当時の衆議院及び貴族院におきまするこの軍機保護法の特別委員会における議員政府委員との一問一答が速記録に載つてつた。それを全部私は裁判所に提出いたしましたところが、裁判官が、私にその記録の借用を申し込んで、つぶさに研究せられた結果、無罪の判決をされたという経験があります。国会における審議というものが、そうして政府委員の答弁というものが、相当私は重要だと思いまして、質問をやつているのでありますが、ただいま申しましたように、その当時の軍機ということにつきまして、相当軍部はなやかなりし時代といたしましても、衆議院、貴族院議員諸公は、非常に微に入り細をうがつて質問をやつておる。それに対しまして政府委員が懇切丁寧に答弁をいたしております。その答弁を見ますと、軍機というものは実に軍の作戰用兵に関する最高の機密だ、これ以上の最高の機密はないというものだけを取締るのだという答弁に相なつておりまして、ただいまの事例のごときはそれに当てはまらぬということで無罪に相なつたのであります。そこで今本法を見ますと、いろいろ別表に書いてある、そこでこれがどの程度までが一体軍機ということになるかというようなことは、本法では明らかになつておつりません。ただいろいろのしぼり方は相当口に出されてしぼつておるようでありますけれども、なおわれわれは安心ができない点があるのであります。そこで当委員会におきまして、政府委員が答弁をされましたような趣旨で、この六條、七條ができておるものであれば、われわれのお願いは、皆さんはここで答弁をし、法務総裁も答弁をしてさような意味じやないということでこの委員会通り、法律となつてこれが出るのでありますが、今までの事例から言いますと、一旦法律になつて出ますと、もう解釈は下級の機関がやるが、あるいはこれは来年、再来年に問題が起つて来るかもしれぬ、その際に現法務総裁がその地位にあるかどうか、これはわからぬ、そうしてみますと、下級のこういう検察、捜査の職務にある者に対しまして、当委員会政府委員の諸公が懇切に御説明なさつているような、そういう趣旨のことを徹底的に下部に了知せしめていただきたいと思うのであります。そうして人権蹂躪というようなことが起らぬようにやつていただきたいと思うのでありますが、そういうことに対しまして法務総裁はいかなる構想がおありであるか、承りたい。また現在お持ちでなければ、将来この基本的人権と公共の福祉ということの調和を眼中に置きまして、下級のはやる人たち、いわゆる下部機関の猛者連をよくあやまちなからしめるような周知の方法をおとり願いたいと思うのであります。ことに相手は外国軍隊でありまするがゆえに、そこで事を誤りますと、国交上にも非常に不利益を来すと存じますので、この法案の実地につきましては周到な用意をもつてつていただきたいと思いますが、どういう構想でおやりになるつもりであるか、それを承りたいと存じます。
  80. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 ただいまの猪俣委員の御懸念はまことにごもつともだと私は考えております。かような件につきましては十分な考慮を払いたいと考えます。要するに本委員会におきましての質疑応答は、いずれ公報をもつて公にされるでありましようけれども、検察当局に対しましてもこれらのことを周知徹底させるようにとりはからうと同時に、その意のあるところはいずれ検察会議におきましても十分説明して、万違算ないようにとりはからいたいと考えております。  なお申し上げておきますが、猪俣君はかつての検察当局のことを十分お知りでありましようが、現在の検察当局におきましては、相当進歩的な頭を持つておりまして、十分にそういう点につきましては理解はあろうものと私は考えております。従いましてかような点について十分理解をせしめれば、この法案の取扱いについても一段の注意はあるものと考えております。
  81. 猪俣浩三

    猪俣委員 法務総裁の御答弁は、どうぞそのように御留意いただきたいということを申し上げて、了承しておきます。  なおこれはこの法案とは直接関係がない事件でありますが、さればといつてまた全然関係がないとも言えない。これは人権擁護の中心でありまする法務総裁のお耳に入れておきたいと思いますのでお伺いするのであります。実はこの十七日の毎日その他の新聞の夕刊に大田区下丸子の交番襲撃というて、大きな文字で掲げておりまして、何でも交番を襲撃してピストルをとろうとしたというような事件が報ぜられております。ところがその犯人と称せられる者が日本教具株式会社那須榮という人間であると新聞に報道されておる。ところがこれはまつたくの人違いでありました。この那須という人はその会社の専務取締役であつて、警察に呼ばれも何もしていない。つかまつた人間が言うたはずもないと思うのでありますが、どういうわけか、新聞にさような名前が出ております。これはこの会社の相当の地位にある人でありますがために、営業上非常な影響を受けて、本日は全部の新聞社をまわつて、十万か二十万の広告料を出して、その事の間違いであることを全部広告をしたという事件があるのであります。しかも奇怪なることは、池上警察署が今実際の犯人を留置しているそうでありまして、そこでこの会社の人たちがこれは違うのだ、この会社の専務の那須さんではないのだ、那須さんはちやんと家にいる、この人間は違うのだと言つているにかかわらず、全然取上げない。そして訂正してもらいたいということを再三言うておるのを取上げないで、今捜査の段階だから、そんなことを取上げるわけに行かないと称しまして、この那須さんの自宅へ行つて、子女を脅迫して、家宅捜索までやつておる。これは実に念の入つた人権蹂躪だと思う。  かようなことが下部で行われておるわけでありますから、この特別法案が法律となりまして実施される場合におきまして、かようなむちやな警察官がかようなでたらめな行動をやるようになりますと、たいへんなことだと私は思うので連関してお話申したのでありますが、これは人権擁護局もあることでありまするがゆえに、法務総裁においてお取調べ願いたいと思います。まつたく人違いであつて、再三それを釈明に行つているにかかわらず、それを調べようともせず、その自宅を家宅捜索して、こういう品物を押收して来ている。その押收目録もちやんとここへ出て来ておる。実にこれは奇怪千万な話だと思う。そこで私どものところへ訴えて参つて来ているのであります。この日本教具製造株式会社は合併いたしまして、ただいまでは相当大きな一つの中央機器製作所というものになつている。この堂々たる、電話なども何本も持つております大きな工場の専務取締役で、しかも年が三十四の方、つかまつているのは、新聞で見ますと、二十歳前後なんです。年かつこうを見てもすぐわかるはずです。しかも本人はちやんと会社におるにかかわらず、家宅捜索をし、新聞にどんどんこういう記事を発表する。これは実に重大な人権蹂躪だと考えられますので、どうぞ法務総裁においてこれを調査して、当委員会に御報告願いたいと存じます。これは刑事特別法案にもある程度関係があると私は思う。かような下つばの執行官にやられましてはたまらぬので、私は先ほどからお話申し上げておるのですが、これはなお事務官の方にまで書類を出しておきまするから、これをお取調べいただきたいと存じます。私はこれをもつて終ります。
  82. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 加藤充君。
  83. 加藤充

    ○加藤(充)委員 先ほど猪俣君の質問に対する政府側の答弁がはつきりしなかつたのであります。土曜日の当委員会においても、私が申しました質問に対する答弁がないのでありますから、まずこの際明確にして、総裁の答弁を求めたいと思います。  まず一般的に治外法権と言われている問題についてであります。ある国に外国の軍隊が駐在する場合には、その軍隊の施設や区域の外では、一般に駐在国が裁判権を持つ、こういうのが国際法上の原則だと思います。ただ例外として、外国軍隊軍人軍属が公用中に犯罪を行つた場合、被害者もまた外国軍隊軍人軍属である場合、犯罪が外国軍隊や、外国の安全に関する場合、この三つの場合が例外として認められておるのです。一九四七年の軍事基地に関する米比協定、並びに一九五一年の軍隊の地位に関する北大西洋條約加盟国間の協定というようなものについても、今申し上げたような原則が貫かれておるのであります。すなわちこのたびの日米軍事協定に現われ、あるいはまた今問題になつておりますいわゆる刑事特別法案の中に盛られておりますように、軍人軍属の私用中の犯罪についてまでアメリカ裁判権を認めるというようなことは、国際條約上の、あるいは国際的な慣例もないことだし、またその合理的な事由を発見するのに苦しむわけであります。それにアメリカ軍の軍人軍属家族の行つた犯罪についてまでアメリカ裁判権を持つということは、世界にまつたく類例のないことである。これは行政協定十六條並びに十七條第四項中にいろいろなそれを緩和するような文字が使われた協定が出て参つておりますけれども、そういうような文字の使い方や、体裁があつたからとて、今申し上げたこのまことに類例のない屈辱的な治外法権を認めさせられたという本質はかわつておらないと思います。この点は政府は追つて明らかにして答弁すると言い、猪俣君もなお研究して質問するというお話でありましたけれども、今私が指摘した分は間違いのないことだと、私は私なりに確信を持つていますので、政府としてもこれが今に始まつた問題でもありませんから、そういうようなことを研究しなければわからないということなら、不見識もはなはだしいものだといわれなければならないと思います。以上のような理由で、ひとつ明確な答弁をしてほしいのであります。
  84. 佐藤達夫

    ○佐藤(達)政府委員 一応私からお答え申し上げます。御承知通りに、外国に軍隊が駐留する場合においてその軍隊はどういう特権を持つか。一口に言えば、一種の治外法権を持つということは、これは国際法の原則として何人も疑わないところであります。但しその場合に、具体的にどういう範囲程度において治外法権を持つかということは、おそらく国際法の本をごらんになつたと存じますが、各説まちまちでございまして、ある学者は散歩中にある犯罪行為をやつた場合において、当然その派遣国軍隊裁判管轄に服する、ある学者は公の行為の執行中に限るというように、名前をあげてもいいのでありますが、いろいろな議論がそこにあつて、何ら確定した原理というものがそこに発見できないことは御承知通りだろうと思います。そこで最近になつて、今の共同の安全保障というような形で、一国の軍隊が外国に長きにわたつて駐留するという事態が生じて、そういう一種の学説だけではまかない切れないというような情勢が各国に生じたわけであります。従いまして、その現在の扱いは、国際法の一般原則としては、今申しましたように、こまかいところまで確定したものではございませんから、おのおのその場合に応じて関係国が條約を結んで、その地位を條約によつて明らかにしておるというのが現実であるわけであります。しこうしてその例として今まで最近何があると言えば、今お話にありましたように米比協定あり、あるいは米英協定——米英協定と言つて一つばかりではありませんけれども、そういつたものがある。そうしてさらに北大西洋條約の関係の安全保障の協定ができておる。それはまだ効力を生じておらないわけであります。従いましてわれわれがこの協定を結ぶにつきましては、一応最近の先例というものを見なければならぬ。その先例には米比協定がある。米比協定では基地を広くとつて、その中におるフィリピン人も向う裁判にかかるというので、これはおもしろくない。何が例としてふさわしいかと言えば、一九四二年の米英協定がふさわしいということで、おそらくこの行政協定はその米英協定にならつたものであると私は見ておるわけであります。北大西洋條約は一つの理想ではありますが、これは御承知通りにまだ効力を発生しておりません。今の一種の先例というのには、まだ早いというのが実際の事柄であるわけであります。
  85. 加藤充

    ○加藤(充)委員 米英協定を出されましたが、米英協定にも私が指摘したようなことはない。本法案従つてその基礎になつた日米行政協定なるものは、世界の各国、各民族がいまだ経験したことのないほどの屈辱的な一大例外を認めたものだ、こう考えます。今米英協定を出されたけれども米英協定にも、繰返して言うまでもありませんが、軍人軍属家族まで広汎なこの裁判権を認めたり、あるいはまた使用中の者についても裁判権を認めたりしたようなことはありません。しかしこれはいろいろ議論を重ねておつてもしかたがないので、その指摘だけにとどめますが、次にこれは土曜日やりました質問を繰返すことになるのですが、お許しを願いたいと思います。  今日平和を求めている人々、あるいは国々はどのくらいの数字になつているかと言えば、先般国連総会で五大国は戰争手段に訴えないで、紛争事件を処理して行くという建前で五大国平和條約を結ぶ、こういうことが問題になりました。そのときに賛成した国は十一箇国、それから国連米加入国でその国の政府が五大国平和條約に賛成した国は九箇国、この人口は総計五億四千九十五万人であります。従つて政府が平和條約に賛成した国の数は二十箇国である。今申し上げた国連加盟の国と非加盟の国とを合せた人口は八億四千九十万人に達する。それから国連で棄権した国は十三箇国で、その人口は五億九千三百万、従つて政府が五大国平和條約を拒否しなかつた国の人口は、すべてで十四億三千三百八十五万になつておりますし、そのほかに政府が平和條約に反対した国で、その国民が平和條約に賛成の署名をやつた数が、数え方にもよりますけれども、四千二百万人ございます。さすれば世界で約十五億の人口が五大国平和條約を支持し、戰争に反対して平和を求めておるということ、こういう状態の国際情勢の確認と、その立場に立つて、戰争が平和を処罰するということは断じて許されないと思う。予防戰争ということはこれは拒否しなければならないと思いまするが、その点について政府は予防戰争というようなことを肯定するのかどうか。これはあとに続く質疑の前提として明らかにしておきたいと思います。
  86. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 政府は予防戰争などということは考えておりません。戰争というものはこれから絶対に地球上から消滅すべきことをこいねがつておるのであります。従いまてわれわれといたしましてはどこまでも世界の平和を祈願すると同時に、日本の平和をも祈願する。かりに不幸にして日本が地から侵入を受けたような場合は、これは御承知通り日本の現在としてはこれを守るべき何らの力を持つていないのでありますから、ただ駐留軍によつてこれを防止させるということのみにとどまる。いやしくも予防戰争などということは毛頭考えていないのであります。
  87. 加藤充

    ○加藤(充)委員 これは猪俣委員も先ほど質問いたしましたが、日本は平和憲法を持つておるのであります。戰争のために努力するというような事柄は不当であり、さらにましてや婦女子あるいは老人というような戰争に関係のないほんとうの平和な人々を大量的に殺戮する原爆兵器、あるいは細菌兵器の製作あるいは使用というようなことを公然と許すことに賛成したり、あるいはまたそれに便宜を供与したりするというようなことは、これは人間本来の私は性格に基く犯罪であると思います。そうしてこの犯罪は一時一ときの時の政府の方針や何かで、あるいは一時の国の状況というようなもので、あまりにも人間的な、また同時に世界の国際協定に当然取上げられて協定の成立しておる問題、こういう問題を処罰したりすることは断じてできないものだと思いますが、この点はどうですか。
  88. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 ただいまの御質問は私よく理解できないのでありますが、日本では原爆を持つとか、そういうことは考えていないのであります。
  89. 加藤充

    ○加藤(充)委員 明らかに外国に軍事基地を提供し、国の生産力を上げて、戰時動員的な態勢を整える。それからまた人的にもその戰争の再軍備をやるというようなことは、明らかにこれは憲法違反であると私は思うのであります。それで論議していても洋モク答弁が出て来るのでいたし方ないと思いまするが、政府はこの本法案の提案の理由の中にも、あるいは法案の解読書の中にも、侵略に対する防衛ということを言つています。ところが日本は中国を侵略いたしますときに、決して侵略ということは言わなかつた。中国に保護を与えているのだと言いました。中国の時の政府は、それに対してその通りだと言つておりました。またそういうふうなことを言ういわゆる傀儡政権というものを無理して立てました。しかしながら中国の人民大衆というものは明らかな侵略だということを考え、これに抵抗を示しておつたのであります。従いましてその政権、売国的な考えを持つておりました政府というものが打倒されました後の中国の人民の判断は、明らかに侵略に対する独立である、こういうような解釈とその行動をしております。その例はエジプトとイギリスとの間にも現に行われている。前に條約を結んだ政府は、エジプトに対するイギリスの保護である。軍事力を持つた御丁寧な保護である、こういうような解釈をとり、そうしてそれに基いて行動をして来たのです。ところが現在のエジプトの多数の国民は、これは保護でも何でもない、まして武力でそれをやるというようなことは、侵略もはなはだしいものである、エジプトはエジプト人に取返さなければならないということで行動をしておることは、御承知通りであります。従いまして、あなた方は侵略の危險に対してアメリカ軍隊が防衛してくれるというのであるけれども、いま少し侵略とは何だという問題を実質的に考えてみる必要があるのではないか、この点をひとつ最後に確かめておきます。
  90. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 われわれは、侵略とは外国から不法な攻撃を受けた場合をいうのでありまして、そのために日本を防衛することが駐留軍の任務であろうと考えております。そして日本に駐留させるということは、決してアメリカをして日本を植民地化するわけでもなし、また日本自分の属国にさせるわけでもなし、日本は御承知通り今月の二十八日をもつてりつぱな独立国となつて、世界対等の一つの国となるのであります。ただただ日本が外国から侵略を受けた場合に、これをみずから守るべき力がないから、やむを得ず駐留軍の力にたよるほかないのであります。駐留軍日本にとどまつたからといつて日本の独立が侵され、また将来何らかの干渉を受くべきものでないと確信しておる次第であります。
  91. 加藤充

    ○加藤(充)委員 あなたは解釈だの希望だの、いろいろとりまぜて言われておりますが、あなたが列せられておる吉田政府は、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う幾多の立法を本国会に提案をしております。その提案されている法案内容を見れば、あなたの論議やあなたの希望が、あなたの言つている結論を合理づける、権威あらしめることには一つなつておらぬということは、各種の法案内容において具体的に暴露されているのであります。従いましてこの点については、一般的な侵略とは何ぞや、独立が回復されるとか、独立を失うじやないかとかいうことは、私はここではもういたしません。あなたがやめる以外に手はないのです。  そこで最後に刑法の問題と原則的な点についてお尋ねをいたします。第七條の問題でありますが、これは刑法原則の中には、教唆犯あるいは幇助罪というようなものの規定がありまして、それはあくまで共犯、独立犯論じやなしに、従属の立場、原則を明らかにしたものであります。しかるに本法案の第七條におきましては、それを独立犯として取扱つておるのであります。従いまして、そういう取扱いをいたしました結果というものは、二重に処罰をされるというような不届きな結果になつて参ります。これは明らかに刑法の大原則の大改悪であり、刑法の修正であり、刑法の新しい立法の問題であると私は理解せざるを得ないのでありまするが、こういうような特別法案の第七條で、現在日本が持つております——学説じやございません、刑法原則というものを蹂躪することができるのかどうか、してさしつかえないとお考えになつておるのかどうか、これは法務総裁として重要なことに関連があると思うので、確答をお願いしたいと思います。
  92. 岡原昌男

    岡原政府委員 事がこまかい点に相なりますので、私から申し上げます。刑法におきまして、一つ行為をいかなる條文に当てはめるかという問題につきましては、御承知通り一つ犯罪について二重の処罰を受けるということはあり得ないのでございます。なるほど、一つ行為がある條文にも触れ、他の條文にも触れるということはございまして、これは單に独立犯のためのみならず、一般刑事訴訟原則に従いましてこれはあり得るのでございます。たとえば、学説上いわゆる法條競合として、吸收的な関係に立つもの、択一的な関係に立つもの、あるいは特別的な関係に立つもの、あるいは前後の関係に立つもの、こういうような法條競合の場合がございますが、同時に刑法第五十四條でいわゆる想像的競合罪として一所為数法に当る場合もございます。それはいずれも刑法既成概念で今までに認められたところでございます。
  93. 加藤充

    ○加藤(充)委員 これはこまかい問題ではなくて、刑法原則の問題です。あなたは、一般的に想像的競合として二罪がどうだ、こうだということがあり得ると言いますけれども、それは一般的にはあり得ましよう。しかし第七條のこういうような処罰規定もちまして初めて、想像的競合とやら何とかで一つ行為が二罪になるというような場合が、この第七條によつて創造され、創設されたというようなことが出て来るのであります。その点についての答弁がない。
  94. 岡原昌男

    岡原政府委員 この法案七條第三項におきまして、その点を解決いたしてあるつもりでございますが、一つ教唆の事実がありました場合に、この教唆を受けた者が、犯罪教唆通りに実行したという場合にどういうことに相なるかという問題が生じますので、その場合に、おそらくただいまの加藤さんの御質問によりますと、その教唆という犯罪と、それからその教唆に基いて、本犯があることを実行した、そのもう一回の教唆の事実、この二重の処罰という意味ではないかと私想像いたしますが、さようなことは理論上絶対に起り得ないところでございます。つまり行為としては一つでございます。
  95. 加藤充

    ○加藤(充)委員 これは処罰規定において三項がどうだ、こうだという問題ではなくして、原則的な問題なんであつて、今の答弁はそれを回避していると私は理解いたします。こういう問題でも事務当局が説明に当るのですから、責任者がそこにおつても何にもならないから、木村さんはもう私はお払い箱にしてもよいと思います。
  96. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 田万廣文君。
  97. 田万廣文

    ○田万委員 総裁がお見えになつておりますから、一点だけお尋ねいたします。それは先ほど猪俣委員からも、この法案国会を通過いたしまして法律として世に出た場合に、適用を受ける側の国民の方で、非常に迷惑をこうむる危險性が多分にあるのではないかというお話がございました。この点について私はお尋ねしたい。先ほど猪俣君からも具体的に人権侵害といいますか、そういう話が出ました。私もやはりこの法律が出た時分に相当適用が広げられまして——というのは、実際一番最初にこの法案にタツチして行くのは警察だと思う。警察官の頭で解釈の限界が非常に広がつて来ますと、ひつぱらぬでもいい者をひつぱつて来る。ひつぱつて来た体裁上、そういう警察官は少いと思いますけれども、起訴して行くというような面に持つて行く可能性が多いと思う。私がお尋ねしたいのは、法務総裁としてはおそらく現在の警察はすべて民主的に非常にスムーズに動いておると思つておられると思うのですが、先ほど猪俣君がお話なさつたような事案を私も一つつております。それを参考までに申し上げて御意見を承りたいと思います。香川県で起きた事件でありますが、夏の夜家内が子供を二人残して殺された。主人は寝ておつて知らなかつた。ところが夫婦げんかをよくやつていたので、警察も主人が殺したものとして検挙して調べた結果、本人がやつた、初めは否認しておつたが、だんだん調べて行くと本人がやつたと言う。それで検事も起訴した。私はいろいろ調べてみると、どうもやつておらぬので、検事に申しましたら、検事は本人がやつたと言うのだから起訴したと言う。ところが裁判の途中においておれがやつたのだという真犯人が三人飛び出して来た。若い青年です。それで警察の方としましても非常にあわてて、検察庁へも連絡をとつて、これは結局は無罪になつた。そういう事案を一つ私は手元に持つておるのです。  ここでお願いしたいのは、警察で自分はやつておらないと否認しておりながら、しかも結論においてやつたという答えが出て来たについては、常識的にいつてそこに無理がなければならないと私は思う。現にやつておらない者がやつたと言うことはないはずなんです。しかも初めは否認しておつたのにやつたと言うのは、そのプロセスにおいて無理があつたと考えられるし、また本人に聞いて無理があるという事実を私は確認しておるのですが、おそらく警察官が裁判所に出て来た場合に、法廷で拷問あるいは強制というような事実があつたかなかつたかということを裁判長は聞くに違いない。その際に拷問あるいは強制によつて無実の人間をその事実があるように調書をつくりましたと言う警察官は、おそらく気違いでない限りはないだろうと思う。これに反対の場合を考えたときに、ほんとうに強制あるいは拷問によつて取調べを受けて、心にもない自白をしたという者に対する保護はどうして与えられるか、そのことまでも考えて行かなければ、ほんとうの人権の尊重とか人権の保護ということはあり得ないと思う。これは一つの地方的な問題ですけれども、どうも私どもの最近見るところでは、法務総裁並びに法務府の諸君のお考えと違つた事態が、左にも寄つておるのですが、うんと右にも振つておると思う。右に振つておる場合に、非常に警察が強力な権限を持つて、罰せぬでもいい無事の大衆を罰しておるという危險性が今日多いのではないかと思うがゆえに、その衝の一番トツプに立つて指揮せられておる法務総裁として、人権の擁護を——われわれも口にし総裁も叫んでおるその立場から言つて、無事の者が一人も罰せられないということが法の精神であるとすれば、こういう法律が出て来た場合に、罰せられぬという保証はできないのであつて、罪のない者が罪ありとせられることに対する保護は相当むつかしい問題ですけれども、今までにお考えになつていらつしやると思いますので、その御意見の一端でも伺いたいと思います。要は今申し上げたように、痛められて心にもない自白をした者、しかも警察の取調べは——証人があればともかく、警察官以外の人はおらないのでありますから、そういう点についての御見解を聞かしていただきたいと思います。
  98. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 田万君の御質問といい、猪俣君の御質問といい、まことに私は時宜を得たごもつともな御質問であると考えております。われわれといたしましては、少くとも警察官がいわゆる国民に愛さるべき警察官でなくてはならぬ一方において、凶悪なる犯罪に対しては敢然として闘う勇士でなければならぬ。ここの兼ね合いがなかなかむずかしいのであります。ことにこの刑事特別法案の実施につきましては、きわめて細心の注意を要するものとわれわれは考えておるのであります。従いまして幸いこれが諸君の御審議によりまして通過したあかつきにおきましてはこの法案趣旨を曲げられたり、あるいはこれを執行するについていやしくも人権蹂躪のあとのないような万全のとりはからいをいたしたいと考えております。ことに警察官の教養の問題でありますが、これはなかなか早急にできませんが、だんだんよくなりつつあると私は考えております。一段とここに努力いたしまして、こういう法案の取扱いについては万違算のないようにいたしたいと考えております。なお万一不都合な点がありましたならば、どうぞ忌憚なく私にお申出を願いたいと思います。
  99. 田万廣文

    ○田万委員 簡單に申し上げますが、総裁のお気持はよくわかります。ところが私の御質問申し上げた趣旨は、今申し上げた具体的な事実に対しての回答がいただきたいこと、というのは取調官がおり、被疑者がおる。警察官がいかに暴行をして被疑者が痛められても——実際問題としては言えるけれども、法廷において証拠調べをやる際、証人として警察官が出て来た場合に、私がやつたと言う人間はないと思う。ここに問題がある。だからそういうことがないように、ほんとうに無実の者を一人でも勾留し。あるいは検束するというようなことがないようにするために、また結果的に正しい者を正しく守るためにいかなるお考えを持つていらつしやるかということ、たとえば今私の考えなり、申したことは、実現することはむずかしいかもしれませんが、第三者に立ち会わせる、そういうふうな制度でもやつていただかなければ、ますます警察官は見えざるところにおいて、自分の勢力範囲において間違つたことをやる危險性が出て来るのではないか。そういう危險性を防止するために法務総裁はどういうお考えを持つておられますか。今すぐ御答弁しにくいかもしれませんが……。
  100. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 その点につきましてはよく考えまして、また田万君と別の機会において大いに話し合いたいと思います。
  101. 加藤充

    ○加藤(充)委員 田万君の関連質問に対して、その意図はないというふうなことを言うが、刑事訴訟法の改正などというものを出して来ておるところに、その答弁がでたらめであり、うそだということをはつきりさせておると思う。そういうことをぬけぬけと言つておる木村さんを相手にしても始まりませんから、時間の関係もありますので、條文の逐條的な解釈について事務当局と質疑をかわして明確にしたいと思います。重複を避けて要点だけを申します。  合衆国軍隊の機密云々ということが第六條に規定されておりますことは、提案理由の説明ないしは條文の解説をしたときに明らかにされた点なのでありますが、別表に掲げるというようなことを言つて、しかも機密というものを厳重に制限してしぼり上げることに努力したというような体裁をとつておりますけれども、別表の一から三までを見ましても、結局機密というあらゆる機密が網羅されてこれに含まれる、こういうことになる。逆から言えばあらゆる機密らしい機密というものを一網打盡にひつとらえて防衛するために、別表というものをまことしやかに掲げたのである。言葉をかえて言うならば、別表というものをまことしやかに掲げても、結局合衆国軍隊の機密というものは機密なんで、これは旧日本の軍機保護法その他のものと実質においてはかわりはないと思うのであります。その点についてまずただしたいのです。
  102. 岡原昌男

    岡原政府委員 別表に掲げましたる事項は前回御説明の際に申し上げました通り、元陸海軍の軍機保護法の施行規則におきましては、きわめて広汎かつ微細にわたりまして何でもかんでも漏れなく掲げたというふうな形になつておりまするが、アメリカ軍隊の実際の機密がどの程度に一体あるものかどうかということについてのわれわれの知識があまりありませんでしたので、大体最も重要な機密であると思われる点のみを拾い上げてこの別表として掲げた次第でございます。なおその各事項についての用語の御説明は前回いたしました通りでございます。
  103. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そうは言うのです。しかし別表の第一の冒頭の五文字を読んでごらんなさい。「防衛の方針」、これは一体何です。しかも解説書によると「防衛の方針若くは計画の内容又はその実施の状況」というくだりに「「防衛の方針又は計画の内容」とは、合衆国軍隊が防衛のためにとるべき手段方法の基本方針やこれに基く作戰計画の内容をいう、それは完成したものばかりでなく、策定中のものをも含む意である。」という解説がついておるのであります。こうなつて来ると、何が何だかさつぱりわからない。範囲なしに、みんな米軍の機密は米軍の機密なりでやられてしまうと思うのですが、防衛の方針というものは、形をなさないものまでが防衛の方針であるという解説がなされている。従つて政府は正直に何が何だかさつぱりわからないなりに、この解読をしておる。だから解説書の十五ページあたりを見ると、それは「全然公になつていない機密を取り上げるようなことは考えられないのではないかと思う。」それから中略いたしますが、「場合が多いであろうし」云々。「外れることが多いと思う。」適用する方が多いと思う、多いと解されるでいいかもしれませんが、これでかぶされる方は、思つたんだけれどもつたんだということでは、とんでもないことであります。しかもそのことは端的に次の解読書の十七ページのところに出て来ておる。あなた方がこれはおせつかいにも、アメリカの軍の機密である、客観的に常識的にそう考えた、しかしながら「合衆国軍隊において機密として取り扱う意思のないことを明らかにした事項は事柄の性質上当然合衆国軍隊の機密の範疇から除外されるものと解している。」これはこの解釈をそのまますればその通りに聞きとれるのでありますが、これを裏から判断しますと、逆に言つて、そんな機密じやないと思つて解釈される、はずされると思つたものでも、それが作戰想定中のものである、あるいは策定中のものである、だからそれは機密なんだといわれれば、他人の腹を探るによしない。結局向うの認定で日本裁判所等の判断はめでたくはずされてしまつて、それも機密だということに取扱われはしないか。こういうことがあなた方の書いた解説書の中にはつきり出ておるのであります。しかも形のきまつていない策定中のものまでが機密ということになつては、断じて私は許すことはできないと思う。国政の方針やその審議というものは、碁、将棋の問題で恐縮ですが、後手をさしておつては話にはならぬのである。それではだめなんだ、あすからではおそ過ぎるくらいなものである。百年の大計を立てなければならないのであります。策定中の機密というようなものが問題になつて来ますると、これは国政の論議、国会の論議までがこれは機密事項に触るる云々ということで口をふさがれて参ると思うのであります。こういうような一例を指摘しましたように、別表を掲げたというようなまことしやかな体裁をとつているけれども、その中身は結局旧軍機保護法と同じように漠然として広大無辺なものであり、その危險はこの説明ではまつたく安心ができないということになると思うのであります。
  104. 岡原昌男

    岡原政府委員 機密の認識につきまして、うつかりするとみなひつかかるじやないかというような御心配ごもつともでございまするが、私どもが考えており、またこれは刑法一般適用の原則から参るところによりますると、この別表に掲げた事項に当るということと、同時にそれが公になつていないということの認識が、この機密が初めて出て参るわけであります。     〔委員長退席、北川委員長代理着席〕 ただ先ほどお話にもありました通り、私どもの解説といたしましては、事の性質上いかにもこの事項について、形式上はたとい公になつていないというようなことでありましても、きわめてこまかい事項で事の性質上機密として保護に当らないというものが性質上あり得るわけでありますが、さようなものはもちろん性質上除外されて来るから入らない。かようなことに解するわけであります。なお策定中のものまでこれを含むのは広汎に過ぎはしないかという御質問でございますけれども、今策定中の機密というようなお言葉があつたようでありまするが、さようじやないので、策定中の方針ですが、つまりその一つの方針を目下策定中である。それが確定的な案になりませんでも、大体の方針の方向はわかつて来たということになりますと、これはやはり機密として保護をする必要があるのではないか。これが本條の解読として策定中のものとしるした趣旨であります。
  105. 加藤充

    ○加藤(充)委員 六條の一項に「不当な方法で」という表現が用いられ、二項の方では「通常不当な方法によらなければ」云々というようになつているのですが一項と二項でこういう区別をした理由はどうなのか。  もう一つついでにやつておきますが、あなたが言われたそのほかの構成要件がある。それがみな充足されなければだめだというのでしようが、私は先ほどの別表に掲げてある事態が何ら掲げるに値しないものであるということを、ごまかしたということを指摘しましたが、さらに公になつていないもの、今指摘した「通常不当な方法によらなければ」云々というようなこの事態は、その対象が不明確であるばかりじやない、この規定の仕方も不明確なのであります。しかも、六條の一項については、これは破壞活動防止法にもそういうふうな文言が使われております。それはどれかというと、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」というのであります。この目的を持つか持たぬかということ自体は心理的なものの判断でありまして、外形に現われないものを外部から認定せざるを得ないのであります。さすれば私は指摘せざるを得ないのでありまするが、この法案では、過失犯を処罰しない、一切が故意犯を処罰する、こういうところで救済があるのだというふうな御説明もありました。しかし未必の故意というものがあります。これは過失と紙一重であります。しかも旧日本の軍機保護法を適用し、罪のない者、平和な人々に残虐な処罰をやつた裁判所——それから再三解説書の中にも現われておりまするし、当委員会政府側の答弁にも現われておりまするが、日本の安全を防衛してくださるアメリカ軍隊であるという解釈を持つておりますると、戰時中の右の経験と相まちまして、一切の過失がいわゆる未必の故意で、お前、こうじやなかつたか、それをこういうことをやつたのは、お前の落度じやないか、注意しておれば当然そういうことはやらずに済んだじやないか、大体守つてくださるという根性が足らないから、そんなことをうかうかするのだというようなことになつてしまいますと、すべての過失が未必の故意ということになつて、広汎に処罰の対象になつて来るわけです。しかもそれが未必の故意であるかどうかということを判定する場合におきましては、いわゆる「安全を害すべき用途に供する目的」であつたかどうかということが問題になつて参りますからして、この意図の問題をとらえます。それで結局は、米軍の駐留を日本の独立のため、平和と自由のために好まない、こういうような言動を持ち、そういつた思想を持つた者、これが破壞活動防止法の彈圧の対象にもなりましようし、同時に軍機保護法によつて一切の言動がこの点から押えられて来て、そういう思想を持つた者、あるいはそういうふうな考え方を持つと疑われる者は、安全を害すべき用途に供する目的を持つたというので、一切が未必の故意として処罰されて行くという危險が、学問的にも理論的にも実際的にも出て参ると思うのであります。従いましてこの法案は、その目的を要件にしておるといいながら、それはきわめて危險なものであり、思想の彈圧をやるおそれが十分にあるばかりでなく、それをやるための立法であるとすら考えられるので、その点をひとり明確にしてほしい。
  106. 岡原昌男

    岡原政府委員 最初にお尋ねの「不当な方法」という文字と、それから六條二項の「通常不当な方法によらなければ」云々という文字の使いわけでありますが、この点は一昨日かなり詳しく申し上げた通り、六條一項の「不当な方法で」と申しまするのは、探知または收集の行為に対する方法規定したものでございます。それから六條二項の「通常不当な方法によらなければ探知し、又は收集することができないようなもの」というのは、機密を限定したものでございます。つまりそれだけの違いが出て参るわけでございます。  なお第六條のうち、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」という点が、ともすると過失と同じような未必的な行為として処罰されるのではないかという御心配でございまするが、理論的には、ただいま加藤さんのおつしやる通り、過失はこれを罰しないが、未必的故意というものもあり得るということに相なろうかと思います。但し實際問題として、目的罪となります以上は、いわゆる刑法上何かの目的でという明文があります場合に、これがいかなる程度の認識力を必要とするかという点についての判例、これまた区々にわかれておるようでございますが、少くともかような形で明文で「目的をもつて」というふうな文字を使いました場合においては、そういうふうなことを希望してということに解釈されるのが一般でございましようから、さような場合に、これは未必的だというふうな、非常に広汎な、あるいはあいまいな、今御心配になるようなことで処罰をするということはあり得ないのじやないかと私は考えております。
  107. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 関連して。第六條の「合衆国軍隊の機密」というのは、括弧の中で、「合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないものをいう。」という説明をしてあります。ところで「機密」というからには、これは今までの通念というよりも、ほとんど法律的なもう確定的な概念だとも言えると思いますが、最高の作戰用兵に関することを「機密」というふうに一般に解せられておるわけです。ところがこの括弧の中の説明を見ますと、「別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書」云々となつている。しかも別表を開いてみると、ほとんどすべてがひつかかるようになつております。そして最後に「公になつていないものをいう」というように縛つてありますが、これならば公になつていないもので別表に掲げるものはもう何もかもが入る。それは機密ではなしに秘密ではあるかもしれない。秘密ではあるかもしれないが、機密ではないはずです。機密というのは別表に掲げるようなものをいうのではないと思うのですが、その点と、それからおそらく米国の立法には、秘密と機密とはちやんと区別をして、処罰の対象になるのは機密だけではないかと思うが、その点どうなつておりますか。
  108. 岡原昌男

    岡原政府委員 機密という言葉で表現すべきか、あるいは秘密ということで表現すべきかということについては、若干研究いたしましたけれども、特に今までこの程度のものはぜひ機密でなければいかぬという明確なけじめもないように思います。そこで私どもといたしましては、内容がこの括弧の中に含まれておるようなもの、すなわち「別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないもの」これを機密という言葉をもつて表現したのでございますから、この点特に深い意味はないのでございます。なおアメリカの実際の例といたしまして、機密的なものと秘密的なものとを区別しておつて、機密だけを処罰するのではないかというご質問でございますが、いろいろ向う側の立法例その他も見てはみましたが、実は向う構成要件がある面非常に広くこまかく出ておりまして、ちよつと私どもにわかりかねるので、実情を聞いてみましたところ、なるほどお話通り秘密にはいろいろ段階があるそうでございます。たとえば第一の機密がストリクトリー・シークレツト、第二番目はちよつと忘れましたが、第三番目がコンフイデンシヤル・インフオーメーシヨン——何と訳したらいい、のですか、とにかく情報程度のものまで入る……。
  109. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 最後のやつ……。
  110. 岡原昌男

    岡原政府委員 はい。そういうふうな段階はあるそうであります。これをわが国の実際の法文に当てはめてみましで、情報程度のものは懲役何年あるいは最高機密のものは懲役何年というふうに区別いたしましても、日本国民としてはそれこそ何のことやらちつともわからぬということに相なるだろうと思いますので、簡單に、先ほど猪俣さんの御質問にお答えいたしました通りの考え方で、法定刑一本に定めた次第でございます。
  111. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 この「公になつていないものをいう。」というふうに縛つてあるから、しかも別表を見ると何もかにもみなひつかかる仕組みになつておりますので、もうこれはさつき言われた機密のうちでも一番やさしいすなわちインフオーメーシヨン、情報に至るまでみなこれはひつかかることになつている仕組みであります。ところが実際はアメリカじやそんなものは罰しておらぬように私どもは聞いておりますがね。すなわち秘密に類するものは問題外にしているというふうに聞いておりますが、その辺はどうなんですか。これ以上に厳罰をもつてアメリカ軍の安全とやらを保護する必要はないですよ、日本人は。アメリカはそこまでやつておらない。
  112. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点に関しまするアメリカの実際の裁判例と申しますか、あるいは統計等につきましては、これが手に入らなかつたのでございますが、法定刑は先ほど申しました三つについて区別していないようでございます。取扱いとしてただ一応三つにわけているということのようでございます。
  113. 加藤充

    ○加藤(充)委員 先ほどの「用途に供する目的」というようなものは強く希望するということ、こういうふうなものにならなければ目的を持つたと言われないと、こう言うのですが、しかし現在独立と平和と自由というふうなものを強く要望し、せめても講和條約の発効後これが実現されやしないかということで淡く期待をかけている国民が相当多いのではないかと思うのです。一般に今申し上げましたような民族的な感情を持つ者、従つてそれを確保するために米軍の駐留軍あるいは占領軍のすみやかなる撤退、即時撤退というふうなことを事実上希望している者は、日本国民の中に相当多いし、またますます多くなつて来るのではないか。決してこれはいやがらせでも何でもありませんが、先ほど来指摘しているように、安全保障條約第三條に基く諸立法というようなものが各方面にその姿をほんとうに現わして参りました場合には、おそらく国民の大多数というものは強く日米安全保障條約あるいは日米行政協定というふうなものに反撥をする。その撤回破棄を求める気持というものは、国民的な感情とまで言い得るようなことが、当然予想されて参ります。そうすると、先ほどの答弁によれば、強く希望する目的をもつてというような場合においては、これは当然これにかかる、そうして先ほど来未必の故意のくんだりで、いろいろ私どもの危惧あるいはこの條文文字の配列の中に隠された意図を明らかにしましたけれども、結局そういうことになつて来ると、日本人の口にこの法律で手を当てて、刑罰をもつて日本人の口をとざしてしまう、こういうような結果になるのではないか、こう思うのであります。これはほかの委員の方も質問をしたと思うから私はその点については触れませんが、新聞記者の方々やあるいは一般に報道の仕事に携つている者、こういうものでも、そのニュースをどうして入れたというようなことになると、これを不当なる方法によつてということで彈圧する。あるいは記事の出し方についても、ほかの新聞はそれを出さない、お前だけこういう記事を出している、こういうようなことになれば、この第七條のいろいろな「せん動」問題とも関連があり、同時に第六條のこの規定の適用からいつても、そういうことまできわめて大きな制限を受けて来る。まことに口もきけない、耳も開いておくわけにいかない。目もとじておかなければいけないというようなまことに恐ろしい状態が、この第六條、第七條によつて現出されるのではないか。そうして繰返して言うようですが、そういうことによつて日本人の愛国心、愛国の言動というものを押えつけてしまう意図がこの中に隠されているし、またそういうことは決して考えておらないということになつても、この適用から見ればそういう結果になることは明らかだと思うのであります。     〔北川委員長代理退席、委員長着席〕  それでお尋ねいたしますが、たとえば満洲、朝鮮の最近の細菌戰のニュースを新聞雑誌が報道する、取上げるという場合、そういう報道があるけれども、実はこれは一方的な宣伝であるというようなことを前書きをもつてこれを報道しないと、これはさつき言つたように目的を持ち、あるいは不当な方法探知したもの云々ということになつて、それをさらに一般に漏らしたというようなことになつて参ると思うのですが、これはちようどアメリカのマツカラン法に、登録団体というものが新聞やラジオを利用するときは、私は共産党ないしは共産主義団体として登録中の者でありますというようなことをまずその冒頭に言わなければ、ラジオ等の使用が許されないということになつて参ると思うのですが、これでは明らかにアメリカの大本営の下請的なニュース報道でなければ取上げない、旧日本の戰争中のあの大本営発表の下請機関になり終つちやつたあの報道陣営、報道機能というものが、今度あらためてアメリカの大本営のニュースの下請報道機関ということになつてしまうと思うのであります。それを避けようと思えば、この宣伝はうそである、たとえば大阪あたりの国際新聞が平壌の放送を登録いたします場合においては、一々平壌は何とかの傀儡政権であります。こういうようなことを言つている。それはそれでいいが、それでは李承晩政権はアメリカの傀儡政権であるということを言われているのでありまして、そういうことを書かないでも、平壌は一方の傀儡政権であるということだけを書かされるということになれば、ほんとうの真実を伝える報道の自由というものが、政治的なものでゆがめられて来てしまうということになる。こういうことになると思うのですがどうですか。  それからもう一つは、第七條の「せん動した」云々であります。これは先日のあなたの言葉によれば、共産党の壁新聞だろう、こういうものを押えるつもりだ、これにかかるのだということを言つた。これは正直なところ、ねらいはそうだと思う。しかしそれはねらいがそうだというところで明らかにこれは不当である。というのは、これは言論や思想の自由を制限するばかりでなく、学者の研究や報告というようなもの、出版というようなものを「せん動」ということで押える意図があるので、共産党の壁新聞だけがねらいじやないと思う。というのは、たとえてみればアメリカ軍隊は戰争をやる気で来ているのです。しかるに平和を強く主張し、あるいはまた戰争は野蛮な人殺しであるという考え方を持つている人々が、戰争というものはいわゆる死のマーチヤントと言われるような米国や日本の軍事資本家というようなものの一部の利益になるにすぎない、しかも日本が今度の戰争にいいかげんに加担するようなことになり、巻き込まれたということになれば、勝つても負けてもえらい被害を受けるのは日本の国土であり、日本人だ、大体戰争というものは資本主義社会経済に随伴する現象である、資本主義社会経済というものがなくなりさえすれば不景気戰争というような惨忍なやり方をしなくても済むのだということを経済的に政治的に研究する。そしてそれを著作として出版する、あるいはそのことを講演するということになると、そういうことがみなの耳に聞え、みなの目に触れるような状態になるのは当然なのですが、そうすればそういう行動があつてもなくても、扇動したという名目でそれらの連中が結局この法條につかまえられて行く。こういうようなことになると、東大のあの警官侵入事件、思想の調査や尾行や張込みを学者などにやつたという意図、同時にまた特調が公安調査官というようなものに拡充されて行く意図というものは、この法案とまつたく一体になつて、繰返して言うようであるが、日本人の言論の自由、思想の自由研究の自由というものが全部これできかなくなつてしまうと思うのだが、そういうことになるこのような法案を出すということ、立案するということは憲法に違反する不届きな行為じやないか、この点について見解を明らかにしていただきたい。
  114. 岡原昌男

    岡原政府委員 第一点の、北京放送あるいは平壌放送等において、たとえば細菌戰術なるものについての放送があつた、これをこちらで引用いたしましてこれに論評を加えたということは、この前にも御説明申し上げた通り、その方法のいかんを問わずすでに放送によつて公にされたる事項でありますので、機密の問題は起きて来ないのであります。しかもこれに対する批判、判断というものは機密の探知、收集あるいは漏洩のいずれにも当りません。御心配のようなことは全然起り得ないのでございます。  なお第二段目の、学者の論文において資本主義末期の症状として戰争は必然のものである、これは資本主義社会経済そのものを改めなければ相ならぬといつたようなことを述べるということは、まつたく学者の論文でございまして、これはただちに機密とは何らの関係を持つて来ないのでございます。従つてこの六條、七條等の違反の問題も生じない、かように御了承願いたいのであります。
  115. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そう考えているというようなことを言つてみたところで始まらないから、私は第一章、第二章についての質疑はこれで打切つて、第三章の手続の問題に移りたいと思う。  第十條以下に、日本の機関あるいはその当局がアメリカ軍隊の承認を受け、あるいは嘱託した場合に限つて施設または区域内の逮捕、捜索等ができるということがあります。結局裏から言えば、向うさんの承認や嘱託、応諾がなければ何もできないということになるのですが、承認をすべき義務、嘱認に応ずべき義務というようなものがアメリカの法律の中に明確にうたわれておるのかどうか、その点を伺いたい。
  116. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政協定第十七條第三項の(b)によりますると、「合衆国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設又は区域内において、専属的逮捕権を有する。」というようにまずなつております。そこでこれではたいへん不便ではないかというので、法文の上に、ある場合においては合衆国軍隊の権限ある者の承認を受ければ、こちらの官憲が入つてつて逮捕等もできる、また場合によつて向うに嘱託してこれを行う、かように規定した次第であります。しからばこの施設または区域の権限ある者がこれを断つた場合はどうするかという御心配でありますが、これは同じく第十七條三項の(e)に基きまして相互の協力義務が規定されてございます。そしてこの趣旨をさらに敷衍いたすために具体的にあちらと交渉いたしたのでございますが、向うとしてはたいへんこの趣旨を了承しまして、具体的に、しかも相当こちらの有利にとりきめができておる次第であります。
  117. 加藤充

    ○加藤(充)委員 先般の南千住の富士銀行の白書ギヤング事件のときに、日本人の被告人は取急いで日本の公判に付せられたのであります。ああいう共犯の事件になりますと、主犯あるいは従犯あるいは共犯数名の間のやつた行為の判定の問題で、証人としても当然にほかの外国人が出て来なければ、やつたことは悪いのですが、日本人は不当な重い処罰を受ける危險があることは、裁判の実例をいろいろ知つておる者には当然予想されるのであります。ところがあのときにピストルを撃つたり、金をわしづかみにして逃げた連中は船に乗つてつてしまつた日本裁判所は急いで公判にかけておるのに、裁判所に出て来る余地がなかつた、ひつぱつて来る方法がなかつたというようなことでは、いかに行政協定の第何條やらに、相互に尊重する義務があるとか、お互いの義務を確認するとか言つたところで、へのつつぱりがなつておらないと思うのですが、その点はどうですか。
  118. 岡原昌男

    岡原政府委員 あの事件の加害者のうちの外国人の二名はフランス人でございまして、フランス人に対しての軍事裁判日本国内にはないので、たしかハノイだつたと思いますが、その軍事基地の軍法会議にかけるために向うに連行する、さよそなことであつたそうであります。そこでその二人はいずれも日本人の共犯者に対して事件の証人的な立場に立ちます関係上、その二人が先にいなくなつて、あとの日本側裁判に支障を来しては困るという見地から、日本側裁判を取急いでやつたというように承知しております。
  119. 加藤充

    ○加藤(充)委員 これは小さいことだけれども、小さいことでは済まされないのですが、急いでやつたのに向うは帰つてしまつておらない。フランス人だと言うけれども、私どもはフンスの軍人がああいう役目で日本におるということをあまり聞かないのです。だけれども、フランス人であろうと何であろうと、アメリカの軍服を着ていたということは、巷間言われておるのでありまして、とにかくそういうやり口になつたのでは、ただ尊重すると言つたところで何もならない。こつち側だけこの安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案で立法しても向うの手でその国内立法をしてもらわなければ——するのが当然でありましようが、してくれなければ対等でも、和解でも、信頼でもありはしない。あまりに屈辱的なものであると思われるから今の例をあげたのですが、どうもそれ以上の答弁がないのは残念。  それから十二條全般についてお尋ねいたしますが、これも大体何でもないような表現と文字の配列を持つておりますけれども、私は重大だと思うのです。たとえてみれば、日本裁判所日本人に逮捕状を出すということについては、相当の理がなければ出してはならないのであります。濫発をしたらいけないのです。ところが十二條の一項を見れば、向うから引渡しの通知があつて受取れということになつたときに、その判断も何もなしに、ただ逮捕状を示してというのですから、引渡しを受けに推参しなければならないということになる。これでは逮捕状の濫発の危險が含まれております。  第二項には、逮捕状を準備する時間の余裕がなかつたときには、逮捕状なしに素手で行つてアメリカ軍がひつとらえて日本に引渡した者を受取れと書いてあるのであります。こうなつてみると、引渡しの通知のあつた場合にはすぐに引渡しを受けに行かなければならないということになりまするから、たいがいは逮捕状なしに受渡してもらつて来るということになつて来ます。これは日本人の逮捕状の発行の手続から言うときわめて重大なことであつて、米軍が介在するからといつて、断じてその点がおろそかになつてはならないと思う。  また第三項に行きますと。これはまた重大であります。米軍から日本側に引渡しがあつた場合、その引渡し命令を受けて、そして逮捕状を出す理由がなかつた場合には釈放しなければならない、こう規定されておるのであります。ところがこの候文は、あとに書かれておりまする「日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件についての協力」、それから「日本国の法令による罪に係る事件についての捜査」というようなところと関連して重大だと思うのであります。というのは、アメリカ軍の逮捕抑留というようなものについては、刑事訴訟法の適用がはずされておるのであります。従つて逮捕抑留の期間の制限はありません。また逮捕された直後に弁護人というようなものと連絡をとつて、弁護人をつけるという手続もはずされております。しかも逮捕の理由を示されるというような事柄も、逮捕状の発付もないのでありますから、何の理由でひつぱられて行つたのかわからない。何日ほうり込まれているのかわからない。家族との連絡も、刑事訴訟法の適用がはずされれば、連絡をするのにも向うのおはからいにまかせなければならないということになつて参る。なるほど規定によりますれば、日本官憲に引渡されたときから勾留期間の起算が始まり、また抑留中の期間については、もし無罪釈放というようなことになれば、刑事補償法の適用を受けるというようなことになつておりますが、こういうような規定と関連しまして、当然日本人であるならば日本裁判所においてすら逮捕勾留できないような事案の当事者が、あるいはまた逮捕勾留されてから刑事訴訟法の今指摘したような保護を受ける、これは憲法の基本人権の保障と関連して重大な点であります。そういうような保障がなくして、無期限に勾留を米軍によつてされるというようなことはこの法案規定しておるとすれば、これはゆゆしい重大事であると思う。現在でもCICやCIDから被疑を受け、取調べを受けた者は、刑事訴訟法の適用からはずされておりますから、無期限というのはなんですが、何十日間勾留されても文句のつけどころがございません。これは結局講和発効でおめでたいと言つておる間に、こういう刑事特別法が出て、米軍の権限が広大無辺に増大されるということになれば、日本人の人権上ゆゆしき重大事であると思うのであります。
  120. 岡原昌男

    岡原政府委員 まず第十二條の第一項についての御疑問でございまするが、これはその第四項に書いてありまする通り刑事訴訟法第百九十九條による被疑者の逮捕の規定が全部準用されて来るわけでございます。従いまして逮捕状に記載する要件といつたようなものも、全部そのまま参るのでございまして、逮捕状の記載要件等については全部そのままを適用される、かように御了承を願いたいと思います。  次に第十二條第二項におきまして、逮捕状を持たずに引渡しを受けて来るのはひどいではないかというお話でございまするが、これは現行刑事訴訟法二百十條の緊急逮捕の場合とその要件を同じういたしております。さような場合に早くこちら側で引取つて、こちら側の刑事訴訟法手続にのつけてやる。これがその趣旨でございます。  それから第三項に関しましての御質問は、ちよつとのみ込めなかつたのでございまするが、あちら側の官憲において日本人が十日も二十日も抑留されるということは想像し得ざるところでございまして、ただ第三項の規定する趣旨は、つまり一項または二項でこちら側が逮捕する場合以外にはすぐに釈放する。それだけの趣旨でございます。
  121. 加藤充

    ○加藤(充)委員 大体緊急逮捕の場合にこれを使うのだというようなこと自体が、これはひどいやり方です。今でも緊急逮捕状というものを濫発されて、緊急逮捕にあらざるものが逮捕勾留され、理由のない者が緊急逮捕ということで権利の濫用を受け、人権の蹂躪をされている事例は枚挙にいとまがない。これは日本弁護士会あたりでも重大問題として取上げておる理由なのであります。その問題を、ほかにりくつがないから、理由があつてもなくても逮捕状を出す。これを緊急逮捕で引取りに行くというような、ばかげたことをやられたのではたまらない。  それからもう一つ、これは第十七條にもありますけれども合衆国軍隊からの意思表示の形式というようなものについては、どういうふうに了解するのであるか、往々にしてとんでもない軍人が、軍を代表するというようなことで、その命令が即軍の命令ということになつて来て、何でもない、ひどい逮捕が行われておる事例は、あげるに苦しいことはないのであります。この軍隊からの意思表示の要請、または命令等の意思表示の形式というものは、その点と関連して厳重に明らかにされる必要があると思います。
  122. 岡原昌男

    岡原政府委員 御質問の点は、まことにごもつともでございまして、ともすると何でもない事件について、あるいは自分に特殊な利害関係のある事件について、下士官あるいはその他が、かつてに書類の取寄せをするというふうな場合も心配されますので、さような場合には、こちら側の官憲において十分向う側の趣旨を立証させ、また書面をもつて明らかにさせるということが妥当だと思いますので、この点はそのような線で十分打合せをいたしたいと思つております。  なお先ほどお話の緊急逮捕の点でございますが、この点は私どもの考えといたしましては、ある施設または区域のすぐそばに警察がありまして、裁判所、検察庁が非常に離れておる。さような場合には、軍の方から警察にこういう者が逮捕されておるという連絡があつて、今度は警察が裁判所に逮捕状をもらいに行き、裁判所から逮捕状が出て、またもどつて来て、その身柄をもらいに行くということになりますと、時間的に相当延びて、不当にその間被疑者に迷惑をかけるということがあろうかと思いまして、その事件の報告が、ここの十二條の第二項に書いてある程度事件であり、理由がある場合においては、緊急逮捕の例による、かような考え方でございます。
  123. 加藤充

    ○加藤(充)委員 十七條には「引き渡すことがきる。」というのですが、これは関係記録、証拠物等をまるまる向うに渡してしまうことなんですか。
  124. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは事件によつておそらく取扱いが違つて来ると思います。たとえば、偽造紙幣の事件といつたような、紙幣がたくさんあつて、二つ、三つ証拠物を向うにやつても、かけがえがある場合には、それをそのままやる場合などもございましようし、これはかけがえのない、たつた一つ証拠であつて向うで変造されるといいますか、形がかわつたりしてはたいへんだというものは、写真をとるなり、写しをとつてやる、かようなことになろうかと思います。
  125. 加藤充

    ○加藤(充)委員 米軍の申出あるいは要請というものは、その手続なり、形式なりが厳重でなければならないということを考え、その点の質疑をしたのですが、どうもはつきりしなかつた。これはよくあることなんです。電話の要請も申入れも、これは有効に適法なものだということで、ずいぶんうやむやのうちにいろいろな被害が起きておるのであります。その点が明確にされないのは残念ですし、また不当だと思うのですが、こういうような申出、要請というものがあつた場合においては、日本側では必ず聞かなければならないのであるかどうか。施設並びに区域内に日本の官憲が逮捕すべき者がおつたといたしましても、あるいは捜査すべきものがあつたといたしましても、あるいは家族の財産というようなものがあつた場合においても、直接手を触れることができない。向うに嘱託するか、向うに恐る恐る伺つて、承諾があつて初めて手を出せるのであります。従いまして、この向うの承諾義務、応諾義務というものが、明確に向う国内法で明らかにされなければ、どうも片手落ちだと思うのですが、それはさておきまして、向うの申出、要請というものは、こちらで拒絶することはできるのか、できないのか。
  126. 岡原昌男

    岡原政府委員 ここに「引き渡すことができる。」と書きましたのは、そういうことができるということで、その事件内容あるいは向う側で要求して来る趣旨等が不当であれば、こちら側としては、これを拒否できる。かように私どもは考え、その趣旨をそれぞれの関係方面に配るつもりでございます。  なお、先ほど御質問の、怪しげなところから嘱託が来て困る場合があるのじやないかという心配につきましては大体のところは、権限ある軍の者から憲兵司令官の方に正式に手続をし、憲兵司令官からこちらの方に要請をいたす、かような正式な手続になることにおそらくなるだろうと存じます。
  127. 加藤充

    ○加藤(充)委員 十八條以下で、アメリカ軍に日本の検察官または司法警察員が協力をする場合であります。する場合というよりも、させられる場合であります。司法警察職員が日本人等を逮捕することができるということがあつたり、あるいは外人を逮捕することができるようなことになつておりますが、普通刑事訴訟法で、司法警察職員というふうな者が、いろいろ逮捕や捜索などをやることができるのでしようか。
  128. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは全部できることになつております。
  129. 加藤充

    ○加藤(充)委員 前後いたしますが、アメリカ軍事裁判所に出て行く証人の問題です。その宣誓並びに証言の範囲というものは、日本刑事訴訟法規定と、アメリカ軍事裁判所規定との違いがあるのか、ないのか。
  130. 岡原昌男

    岡原政府委員 宣誓の形は大分違つておるようでございまして、簡單でございますから一応読み上げますと、米国の統一軍法第四十二條に「法務官、全通訳及び、普通及び特別軍法会議における構成員、すなわち裁判官、補佐裁判官、弁護人、補佐弁護人及び報告者は、被告人の面前において、各々その職務を忠実に盡すべきことの宣誓若しくは誓約をしなければならない。」「軍法会議において、すべての証人は、宣誓又は誓約をさせた上、尋問しなければならない。」さようにございまして、なおこの手続といたしましては、軍法会議の公判における宣誓手続として、合衆国軍法会議提要の第百十二項に、大分こまかい規定なつておりますが、規定がございます。先ほど宣誓または誓約ということを申し上げたが、これは宣誓の方がオース、それから誓約の方はアフアーメーシヨンという言葉を使つております。クリスチヤンの場合には宣誓、それからそれ以外の宗教のものについては誓約、さような取扱いのようでございます。
  131. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そうすると刑事訴訟法の、今質疑したような点についての広狭の範囲というようなことはどうなりますか。
  132. 岡原昌男

    岡原政府委員 それはすべて向う側の軍法会議訴訟法によるところとなるわけでございます。
  133. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そうしたら軍法会議にひつぱり出された場合、そこでは日本人の証言拒否あるいは証言拒否のなし得る範囲というようなものがはずされてしまうことになるのでしようか。
  134. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体の建前がただいま申し上げた通りこちらの方と手続が全然違つて参りますので、手続自体として全部向うに持つて行く、かようなことに相なります。従いましてこの宣誓の方式並びに証言拒絶のなし得る範囲といつたようなものがまた違つて来ると思います。そこで私どもが考えましたのは、さように向う裁判所のしきたりになれる、また場合によつては通訳等の問題もあるだろうし、日本人が向う側に証人に出た場合に、いろいろおどおどして証言がうまく行かないというふうな場合もあろうかと考えまして、証言拒否の場合に罰金をもつて臨まずに、行政罰であるところの過料で行く、かような考えであります。
  135. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そうすると証人として出る出ないということは非常に問題でありまして、いやしくも証人として名ざされて、呼出しを受けた、こうなつて来ましたら証言の正当な拒否権もなければ、その証言を拒絶する適法な範囲というものもはずされて、何でもかんでもしやべらねばならぬということになつて参ります。そうなつて参りますと、現在占領下において米軍の権限のある者が尋問をした場合に、尋問に答えなかつたということで軍事裁判にかけられておる者もあるのでありまして、こうなつて参りますと刑事特別法に切りかえられましても、結局無制限に証人として呼び出され得ると言つては言い過ぎかもしれませんけれども、証人として呼び出すという形になれば、相当広い範囲に拡大される余地がある。しかもまた呼び出されましても証言拒否もなければ、宣誓を拒否することもできないということになれば、結局陳述を拒否した者は占領中において軍事裁判にかけられたと同じようなことになつて、法廷にそれが移されたというだけで、実体はわからないことなりはしないか、私はその点がどうも不安でならないし、そういうふうな日本刑事訴訟法範囲を逸脱した義務の強要を日本人に押しつけるということは、憲法、刑事訴訟法の点から見ても、そして証言の拒否というような問題については人道上から来た問題もありますので、そういうものがはずされるということになりますれば、人道上から言つてもゆゆしいことになりはしないか、こういう考えを持つものであります。その点の答弁がどうも私の危惧を解消するような答弁でなかつたことは残念だと思うし、そういう性格を持つた法案は非常な問題の法案だと思います。  それで十八條の二項ですが、これも私はひどいことになると思う。たとえてみますと、これが悪用されますと、ある一人の逃走者がおとりとして出て来る、米軍がこれを追つている、どこか路地の中に逃げ込む、外から見れば特定の家の中に入り込んだと考えられる相当な理由がある、あるいは明らかであるというような状態が出て参ります。その場合はたいがい急速を要するのですから裁判官の許可を得るひまはないと思う。そうしますと裁判官の家宅捜索、あるいは逮捕状なしに普通の日本人の家屋に踏み込んで行つて捜索等を行う。そして日本官憲がそのおとりの人間をつかまえた場合においても、その人間に対する一切の審問権がありませんで、逮捕したらただちに向うに引渡さなければならないのであります。この引渡しについても日本官憲が逮捕した場合の刑事訴訟法規定がはずされておりまして、何が何だかわからないなりに、日本人の家庭の生活、あるいは私生活が不測の抜打ち的な被害を受けることになりはしないか。そしてまた同時に使用中の軍人軍属、その家族、さらには随伴者というような者までが向うの専属的な裁判権に属し、いわゆる十八條に規定されるような取扱いを向う軍隊から受けるというような場合になりますと、向うの都合で日本人が非常な被害を受けるし、またあつかましく、いわゆるグレート・カンスピラシーというのですが、「大陰謀」というアメリカ人が書いた本によれば、明らかに反共工作部隊というようなものがいろいろ陰に陽にあるのであります。こういうふうな規定がそのために適用されますと、たいへんな被害を受けると私どもは思うのであります。なおこの点と関連しまして行政協定の十七條第三項の(b)の問題、日本裁判権に服する者が向うの施設区域内に犯罪を犯して逃げ込んでしまつた日本の官憲はこれをつかまえたりする場合にその承諾を得、あるいは嘱託をしてからでなければ逮捕できない。そうしてまた向うが逮捕した者はこちらが引渡しの要請をしなければ引渡さぬでもよろしいというような体裁になつております。私は先ほどあげた一点と、今の点との理由から、このような規定はきわめて謀略的なものに使われ、こういう規定があるために、三鷹事件、松川事件、下山事件というようなものは、結局日本の官憲がつかまえられないところに原因があつても、それに対してはどうにもならない。このために日本の治安が外国人によつて乱されるということがありはしないか。この規定の運用によつては、あるということを指摘しなければいかぬのですが、これなども日本人の基本人権を侵害する憲法違反の規定であり、刑事手続法をここまではずして来るのははずし過ぎだと思うのですが、どうでしよう。
  136. 岡原昌男

    岡原政府委員 この第八條の第二項におきまして、合衆国軍隊側から逮捕の要請があつたという場合は、大体において犯人が指定され、その者についてかような場所におるということを疑うに足りる相当な理由があるということが要件になつておるのでございます。従いましてさような場合におきましては、たとえば刑事訴訟法の第二百二十條等におきましては、現行犯のように犯人が非常にはつきりしておるという場合において、人の住居または人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶内については自由に入つて被疑者の捜索ができるといつたような、その他たくさん書いてありますが、この二百十條の精神からいつても、これはまことにやむを得ないことであろう。しかしながら、さように申しましても、前回申し上げました通り、これはひとの国の事件である。それでこちら側の家宅に入つて来られるのはたいへん迷惑だというので、裁判官の許可というここに掲げた次第であります。しかしながらもしもそれが追跡しておつて、もうすでに現行犯的である、あるいは準現行犯的である。しかもその場所に入つたことがきわめて明瞭であるというふうな場合に、玄関先から中をのぞいて、あとは手をこまねいて許可状のおりるまで待つというのもどうかと思うのです。さようなきわめて明白な場合は、その許可を得ることを要しないと書いたのが、この第十八條第二項の趣旨でございます一  なお行政協定第十七條第三項(b)におきまして、日本人が施設または区域内で発見された場合には、わざわざ要請をしなければいかぬというのはどうかというふうなお話でございまするが、これは実際問題として、御指摘の通り何か変なものなのでございます。そこで実はいろいろこの実体を分析研究いたしました結果、これには二つの場合があるだろう。一つはこちらが追いかけて行つて向うの施設、区域内に飛び込んで行つた。これを追跡してつかまえる場合はどうか。一つはこちら側で知らぬうちに、向う側で、こちらの犯人を頼んでおいたところが見つかつたといつて知らせが来たような場合、この二つがあるだろうと思います。そこで実際のさような必要から、まず後段の二度目に申し上げた方の点については、この法案の第十二條行政協定七條第三項(b)による引渡しの通知があつた場合の手続規定いたしました。なおこちら側が犯人をおつかけて行つて施設、区域のすぐそばまで行つた犯人が中へ飛び込んだ場合はどうするか。この場合はこちら側からその犯人を追跡して行つてよろしい。つまりさような場合には向う側はいやおうなしに承認を与えるというふうな実際の打合せに相なつておりますから、実際の取扱いとしては、さような不均衡と申しますか、不都合といいますか、そういうことは起らないと考えます。
  137. 加藤充

    ○加藤(充)委員 こういうような規定が、先ほどあげました二点に関連して、反共陰謀のために有利な人間の犯罪が政治的に防衛されて、日本の官憲は日本の治安を確保するためにどうにもならないというようなことになりはしないのか。これは外国の領事館などに逃げ込んだ者云々というような形、先ほどあげました「大陰謀」というような著書の中には、いろいろこれなんかの——この條文の適用などがきわめて有利に運用される危險を私どもは感ずるからであります。こういうことは国内治安のためにもかえつて不安の原因になりはしないかということを指摘せざるを得ないからの質疑であります。  十九條の「協力の要請を受けたとき」、その協力の要請というものにはいろいろな種類のものがありましよう。これは嘱託を受けたときではないのであります。こういう要請も、結局理由によつては拒否ができるのかどうか。先ほどの質疑の中にもその点に触れたことがあつて、たしか答弁があつたと思うのです。しかし私はここであらためて言いたいのは、参考人を取調べるという問題であります。こういうふうなものに対して十九條の四項は、その取調べを拒んだりあるいは妨げたり忌避した者は一万円以下の、これは罰金ではありません。過料になつている。日本刑事訴訟法では、参考人の供述、取調べというようなことにこれほど強い制裁を持つた規定が私はなかつたように思うのです。これはひどいと思うのですが、どうです。
  138. 岡原昌男

    岡原政府委員 第十九條第一項におきまして、あちら側から話がありました場合に、あるいは参考人を調べ、実況見分をし、あるいは書類その他の物の所有者、所持者等からその物の提出を求める。この規定は、先ほどあげました行政協定第十七條第三項(e)にその根拠を置くものでございます。御承知通り十八條、十九條は、日本国の法令による罪にかかる事件以外の刑事事件、つまり早く言いますと日本国法令違反でない、あちら側の刑事事件でございますので、ただちに日本刑事訴訟法が働いて来ない。さような関係からこれに特別規定を設けた次第でございます。この違反について、第四項において一万円以下の過料に処するというのが重いのではないかというふうなお話でございますが、わが国の現在の法制の全般的な建前といたしまして、たとえば独禁法第九十四條等によりますると、ある一つ行為を命じまして、その検査を拒み妨げ、または忌避した者というふうな場合は六月以下の懲役または一万円以下の罰金に処するというふうな規定がございます。なおその他行政関係調査といいますか、あるいは物の提出といいますか、さような行政命令処分に対して拒み、妨げ、または忌避した者に対する制裁に刑事罰を加えました規定が、若干ございます。この一万円以下の過料に処するといたしましたのは、やはり事がアメリカ刑事事件に対する公正な処分の担保というので、若干われわれの刑事訴訟法の行き方とは違つた面があるであろうし、またそれらの供述の内容といいますか、物の提出についての趣旨の行き違い、その他もあり得ることであろうから、これをただちに刑事罰たる罰金をもつて臨むのは苛酷に失するのではないか。さような趣旨から過料にいたした次第であります。なおあたりまえの話でございますが、先ほど申した通り、あちら側の事件でありまして、日本刑事訴訟法がそのまま乗つて来ない関係上、実況見分とか、参考人とか、あるいは物の提出というふうな言葉を使いまして、証人尋問とか、あるいは検証とか捜索、押收という字句は使わなかつた次第であります。
  139. 加藤充

    ○加藤(充)委員 あなたは独禁法の例をひつぱつて来ているのでありますが、独禁法というようなものは、国内立法の理由その他がいかにつけられておつたとしても、明らかにこれはポ政令に基く占領法規であります。そういうようなものに特別の制裁があるのはわかりますが、こういう問題の場合においても、独禁法にあるからその制裁規定をこれにも使つたものだというようなことでは、占領政策をそのまま引込んだことになりはしないか。どうも占領ボケをして、講和発効後だというのに、口では日本人が日本人らしい取扱いを受けるのだと言いながら、受けないのがあたりまえだという根性が、いつの間にかあなた方の中に残つておりはしないか。そこでとんでもない卑屈なやり方で、日本人としては明らかに拒否しなければならないことを、それをあたりまえとして、サンキューとまでは言わなくても、オーケーで受取つて来るということがなされてはたいへんなんです。日本の官僚はそういう性格を持つている。軍が天下をとつたときには軍にこび、あるいは政党が天下をとつたときには政党にこび、その中で自分たちの陣営の勢力を巧みに温存して来た。これは明らかにバチルスのような影響と結果を日本に与えた存在だということを、今のときにはつきり知るべきだと思う。また元にもどりますが、アメリカ軍人軍属あるいはその家族、あるいはアメリカ一般日本の民事、刑事裁判所の証人としての呼出しにどうしても応召する義務づけというものがありますか。
  140. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は全部日本刑事訴訟法が働いて来るわけであります。
  141. 加藤充

    ○加藤(充)委員 日本刑事訴訟法アメリカ人に働くというのには、何かアメリカ国内法の立法が必要であり、法的措置がなければならないように思うのですが、その点はどうですか。
  142. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は前々お答えいたしました通り、單に行政協定の十六條にその趣旨が見えるのみならず、先ほど読みました統一軍法の百三十四條に書いてある通りであります。全部そのまま乗つて来るわけであります。
  143. 加藤充

    ○加藤(充)委員 アメリカの統一軍法とか何とかは私どもはよくわかりませんが、一般アメリカ人はどうですか。アメリカ軍の刑法に覊束されますか。
  144. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は行政協定十六條をまつまでもなく、——まつまでもなくと言うと少し言い過ぎですが、十六條の趣旨にのつとりまして、日本の法令がこちらの在留民に適用がある、これが原則でございます。そうしてその例外的なものだけが抜き出してあるのでございまして、そのことは一番最初にこの法案をつくつたときの根本方針と申しますかものの考え方と申しますか、さような点において述べた通りでございます。
  145. 加藤充

    ○加藤(充)委員 証人にあらざる参考人に供述の義務というものがあつてはならないと私は思う。  それからもう一つこの際お尋ねしますが、アメリカのCID、CIC等々は検事あるいは警察官の取調べに対しても、よく宣誓をしろということで、いかめしいタイプで打つた宣誓文らしきものを読み上げるのが事例だそうです。そうするとアメリカでは、裁判所でなくても、警察官や検事の代理みたいな者が参考人や被疑者に宣誓義務を命ずることができて、それに違反した場合は偽証その他の処罰を受けることになるのですか。
  146. 岡原昌男

    岡原政府委員 実際の取扱いがどういうふうになつておるか、詳しくは存じませんけれども、この法案の第十五條に関する限りは、合衆国軍事裁判所においてなしたということが要件に相なつております。  それから証人以外の参考人まで調べるのはいかがなものかという十九條に関するお尋ねでございますが、これは先ほどちよつと敷衍して申し上げた通り日本の法令違反の事件ではないので、これを別な言葉で表わした、かような趣旨でございます。
  147. 加藤充

    ○加藤(充)委員 行政協定にきめられておるからといつたところで、あくまで参考人に制裁をつけて供述を強制するというようなことは、ごたごた言うまでもなく、述べるべからざる立場にある者、関係にある者、こういう者に無理やりに供述をさせることになると思う。参考人なんかになればとんでもない。あなたも参考人としてお尋ねします。あなたにも聞きますということで無制限になつて、証人の拡大よりも拡大されて来る危險があるのでありまして、私は知りませんということから、あるいはまたそこにおどかしの宣誓だなどというものを読み上げさせられて署名なんかさせられると、そういう事柄から日本人としては許しがたい、日本人に対する人権の侵害がなされる。行政協定アメリカと吉田政府が結んだものかしりませんが、それを国内でやつて行くときには、国内の憲法、刑事訴訟法等の原則を、行政協定にあるからといつて当然に踏みにじることは断じてできないのであります。行政協定というものは超憲法的な効力を持つものだ。そして占領中に行政協定を取結ばせられて、それと同じようなことを国内立法に移しかえて行くのだ。無理なようでもそうしなければまとまりがつかないということは、まことに日本人として恥ずべき行為である、こう思います。証人にあらざる参考人として、だれでもかれでも呼出しを受けたり調べられたりすることについて今日義務を負わせたり、あるいは不出頭の者に対しては制裁をするということになれば、これは單に人権云々という身体だけの問題、あるいは陳述というような狭い問題だけにとどまらず、生活一般にも関係する重大なことなのです。こういうようなことを規定する義務というものは、安保條約の中にも行政協定の中にも何ら明確にされておらない。やらないでもよいことをここまで拡張するという魂胆は、まつたく唾棄すべき態度であると私は思うのです。
  148. 岡原昌男

    岡原政府委員 かような規定を置く形式的な理由は、先ほども申し上げました通り行政協定第十七條の三項の(e)によるのでございますが、その実質的な理由につきましては、加藤さんはこの條文にあたる事件は米軍の内部だけの事件のようにお考えのようでありますが、さような場合のみならず向う裁判権に属する者が向う側の法令違反を犯した場合も含むのであります。すなわち向う側の法令違反ということになると、やはり実質的には悪いことに違いないのであります。その悪いことをしたということにつきましては、直接間接にわが国民が被害を受けあるいは迷惑をこうむるというようなこともあろうかと存じます。さような事件向う側の裁判所にかかつた場合に、その事件について知つておる日本人がたくさんおる、それについて調べてこれを明らかにするということはきわめて必要なことであるのであります。これを放任いたしますと結局参考人もはつきりしないということで事件はうやむやになり、向うのさような人間がのほほんとのがれて来るというようなことになりますので、そこでかような規定を置いたわけであります。(「刑事訴訟法も同じだ」と呼ぶ者あり)なおこれは刑事訴訟法と同じでありまして、刑事訴訟法においても、証人というものの立場は、御承知のようにその事件審判のためにぜひともなければならぬというものをいろいろ手配をして調べるのでありまして、その場合に参考人につきましてはやはり証人としての資格においてこれを調べる、かようなことに相なるわけであります。参考人と証人と区別しましたのは、先ほどから何度も申し上げた通り、ただちにこれを証人として刑事訴訟法一般規定をかぶせることができないからで、さようなことに御了承願います。  それから何でもかんでも十人も二十人も関係のない者まで調べるのかというお話でありますが、これは先ほど第十八條と関連して申し上げました通り、「求めることができる。」ということは、同時に向う側から話のありました際に、これを受取つて検察官または司法警察員においてその必要ありやなしやを適宜判断することができるわけであります。そんなつまらないやつを調べたつてしようがないじやないかというような場合には、その判断においてそれを適当に裁くことができるものと考えます。従いましてただいま御心配のような点はすべてないものと考えております。
  149. 加藤充

    ○加藤(充)委員 私は今の点が問題だと思いますが、属人主義というものによつて日本人が米国軍要員によつて被害を受けたというような場合に、結局日本人は手がつけられないというようなことをこんなもので承諾させられるから、それで冒頭に申し上げましたように軍人軍属その家族の治外法権といいますか、裁判権向うにとられたり、あるいはまたそれらの者の私用の行動にまで、基地外行動にまで、その裁判権日本が行うことができないというような、まつたく世界に比類のない屈辱的なものをやつた結果なのであります。それをさらに上塗りしてやろうというのだから、その根性たるやまつたく私はお話にならないと思う。というのは日本人が被害を受けた、それで日本人を調べねばならぬ、しかしその加害者はアメリカ裁判権に属するというような場合であるならば、日本の検察当局が刑事訴訟法の運営によつて十分な取締りをしたらいいのだ、またしなければならぬと思います。この十八條や十九條の規定をまつまでもないことであると思うのであります。この十八條以下の規定というものは、アメリカの都合もしくはアメリカの便宜のために日本の官憲がその下請をさせられるということが、大体の規定趣旨であり内容だと私は理解します。その場合に向うの要請を受けて初めてその取調べをやつたり、あるいは取調べてやつたことが初めて向うに採用されるというようなことがあつたのでは、結局において日本人の利益というものは十八條以下のものでは保障されない。しかも先ほど来言つたように、参考人は参考人、証人は証人として日本刑事手続従つてやればいいので、アメリカの利益、都合のために参考人まで強制的に調べられる、そして初めて日本人の人的あるいは物的な損害がこれでカバーされるのだというような御説明では説明にならないと思うのですが、この点明確に答えていただきたいと思います。
  150. 岡原昌男

    岡原政府委員 加藤さんのお立場からの御議論まことにごもつともでございますが、もしさようなことから、これをわが国刑事訴訟法に乗つけてやろうといたしますと、わが国刑事訴訟法日本国内法令の違反を前提とする刑事訴訟法でございますので、まず第一に刑事訴訟法が動いて来ないという点が一つございます。かりにこれを何らかの方法で、特別な法規でも求めて動かしたといたしましても、今度はそれによつて刑を科すべき実体法規がないわけでございます。加藤さんの御議論を発展させて行きますと、アメリカの実体法規日本国内法で動かせるというふうな結果に相なると思うのでございますが、さようなことでないようにこの十八條、十九條を置いた次第でございます。
  151. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 この際お諮りいたします。  石川金次郎君より本案について委員外発言を求められておりますが、これを許可するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  152. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議がなければこれを許します。石川金次郎君。
  153. 石川金次郎

    石川金次郎君 非常にお疲れのところお気の毒でありますが、わずか二、三分の間質問させていただきます。  第六條の二項の読み方でありますが、今までの御説明を聞いておりますと、第二項の「合衆国軍隊の機密で、通常不当な方法によらなければ探知し、又は收集することができないようなものを他人に漏らした者も、前項と同様とする」つまりこの事実を知つて告げた者、こういうことになるようでありますが、これで間違いはないでありましようか。
  154. 岡原昌男

    岡原政府委員 刑法一般の理論に従いまして、その通りになるわけでございます。
  155. 石川金次郎

    石川金次郎君 その事実を知つて他人に漏らした者と明確にお書きにならなかつた理由は……。
  156. 岡原昌男

    岡原政府委員 わが国刑法原則といたしまして、構成要件について一一知つておるということを掲げずして、全部故意犯が原則である、もしも過失を罰する場合においては、特に過失の罰則規定を必要とする、これが建前でございます。書かなければ全部知つておることが必要となる。これはほかの條件すべてに通ずる原則でございます。この点につきましては、けさほど来数回各委員にお答えした通りでございます。
  157. 石川金次郎

    石川金次郎君 暴行傷害の場合は、これがどうなつて参りましようか。暴行のありました結果、傷害の発生した場合は、認識がどうなつて参りますか。
  158. 岡原昌男

    岡原政府委員 それはいわゆる結果犯の場合の問題でございましようが、一般刑法の暴行の二百八條並びに傷害二百四條との関係におきましては、いわゆる結果犯として暴行の事実があつた場合には、それに通常因果関係の存する程度において結果が発生したものについてもこれを有責とするという原則従つて解釈いたしておるようでございます。それはこれとは直接関係ございませんが、そういうふうなことでございます。
  159. 石川金次郎

    石川金次郎君 第二章の刑罰法規は結局認識がなければ犯罪を構成しない、こういうことになりますね。
  160. 岡原昌男

    岡原政府委員 すべて刑法原則を一歩も逸脱しておらないつもりでございます。
  161. 石川金次郎

    石川金次郎君 そこで軍機になるのでありますが、別表に書いてあります「軍用通信の内容」これも軍機となつております。そこでこの軍用通信の内容を知つてこれを告げた、こうなつた場合、軍用通信であるという事実は知つておるのだけれども、その内容自体が軍機に属するものであるかどうかということの認識がなかつた場合は、これはもとより犯罪を構成しないということになりますか。
  162. 岡原昌男

    岡原政府委員 ちよつと観念的にはそういうこともあり得るかと思いまするが、実際問題といたしましては、軍用通信であるということは、やはり内容がわかりませんと、ただ封筒だけではわかりませんので、おそらくその内容と相照し合せて初めて問題ができて来るのじやないか、こう思います。
  163. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 その点は、軍用通信という該当事実の認識で足るのか、軍用通信であるという価値判断に対する認識を要するかという問題になると思いますが、この点は政府委員はいかに解釈されるか。
  164. 岡原昌男

    岡原政府委員 もちろん軍用通信の内容自体についての認識がなければならないかようなことでございます。
  165. 石川金次郎

    石川金次郎君 かりに、軍用通信であるとしても、それを認識しておつても、その内容自体に向つてこれが軍機に属するものであるという認識がなければ処罰を受けない、こういうことになりますね。
  166. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍用通信の内容、つまり電報の中にこうこうこういうことが書いてあるというその内容自体の認識が必要である、かような趣旨でございます。
  167. 石川金次郎

    石川金次郎君 軍用通信の内容が軍機であるという認識がなかつた場合は、犯罪構成要件を欠くことになりますか。
  168. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍用通信の内容についての認識はあるけれども、それが軍機に当るかどうかという点についての認識を欠く場合というふうなお話でございますが、それはある場合においては、いわゆる違法の認識の問題が生じましようし、ある場合においては、内容自体についての事実の錯誤の問題が出て来るのではないかと思います。これは具体的に事件が起つてみないとわかりませんが、実際の問題としては、御承知通り非常にむずかしい問題でございますけれども、大体理論的にはさように区別されると思います。
  169. 石川金次郎

    石川金次郎君 どうもこの点はそういうところが非常に不安だろうと思いますので、それでお聞きするのです。刑法原則は、私は学者ではないからわかりませんが、報道したり話したりしたときに、一定事に対する認識が必要で、その原則は今の六條二項にもとるのだということで安心をしたのですが、この六條二項をこのまま読んで参りますと、これは通信不当な方法によらずんば探知しまたは收集することができないものということは、認識があるなしにかかわらずいかにも処罰されるように読めるのですが、あなたの方の、刑法原則とする事実の認識がなければ大丈夫だ、この認識を必要とするという御説明で、そうひつかかることはないと私たちは安心をしたのです。ところがそうなつて参りますと、軍用通信であるという認識があつても、その内容自体は軍用通信でないと思つてつたならば、やはり犯罪構成要件は備わらないことになりはしないかと思いますので、書いておかぬと、ずいぶん困難な点が出て来るのではないかと思うのですが、その点をお聞きしたい。
  170. 岡原昌男

    岡原政府委員 内容をもつて軍機にあらざるものと認識がはつきりした場合においては、もちろん罪にならぬわけでございます。
  171. 石川金次郎

    石川金次郎君 だんだんはつきりして参りまして非常に愉快であります。  次に、別表の二に「編制又は裝備に関する事項」とあります。「編制若しくは裝備に関する計画の内容」は、編制、裝備、そういう認識があつたといたしましても、計画の内容ではないのだ、内容というような軍機に属するものではないのだ、こうなつた場合も、やはり犯罪構成要件を欠くことになると思いますが、この点はどうでしようか。
  172. 岡原昌男

    岡原政府委員 計画の内容自体についての認識があれば、それは「編成又は裝備に関する事項」として別表に掲げる事項に当つて来るわけでございます。もちろんお書きになるとかならないとかいう議論を別にいたしまして、さようなことになつて参るわけであります。
  173. 石川金次郎

    石川金次郎君 計画の内容ではないのだ、そういうものではないのだということ、つまり認識がなかつた場合は、これはやはり犯罪構成要件を欠く、こう承知してよろしいですか。
  174. 岡原昌男

    岡原政府委員 お話のような場合には、大体これを欠くということになろうかと存じます。
  175. 石川金次郎

    石川金次郎君 そうしますと結局普通に言う、ここに書いてある事実そのものは認識しておつても、その内容が反しないということになると、大体その構成要件にならないのだ、これを欠くのだ、こういうように狭めて行つて考えてよろしゆうございますか。
  176. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような趣旨の御質問でございますと、いわゆる違法の認識という問題と若干ひつかかりが出て来るかと思います。ちよつとつけ加えますが、これは理論の問題でございます。実際の問題といたしましては、さような何もかも加味するということには相ならぬと思いますので、ただいまのような趣旨の案件については問題になるまいと存じます。
  177. 石川金次郎

    石川金次郎君 大分明らかになつて参りまして狭まつたようであります。これは第六條の二項に関連してのことでありますが、七條であります。陰謀、教唆扇動を罰することに書いてあります。ところで陰謀がありました場合も扇動がありました場合も教唆がありました場合も、アメリカ軍の安全には何の損害も与えていない、何の危險も生じていない、実害がない、しかしあなたの御説明では、これは他に漏らして行く危險があるのだからこれを処罰する、こう言つておる。非常に忠実に書かれておるようでありますが、まず第一番にお聞しておきたいのは、日本の軍機保護法にはこういう規定があつたかなかつたか。
  178. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点につきましては、当委員会委員各位にお配りしてあると思いますが、軍機保護法の規定とこの法案規定との対照表がございます。それによりますと、今度の法案の全体の建前がすこぶる簡素なものになつておりまして、前の軍機保護法におきましては業務上の秘密の漏洩または過失による漏洩、あるいは特殊目的によつてなす場合の罪の加重、あるいは軍事上の秘密の探知、收集、漏泄を目的とする団体の組織もしくはその団体の指導者たる任務に従事した場合の規定、その他きわめて微に入り細をうがつた規定がございまして、その第十六條におきまして予備、陰謀、誘惑扇動というふうな規定、第十七條において、やはり誘惑または扇動というふうな規定が置いてあるのでございます。
  179. 石川金次郎

    石川金次郎君 今のは何條ですか。
  180. 岡原昌男

    岡原政府委員 第十七條におきましては第六條、第八條第二項、第九條第二項、第十條または第十一條、第十二條第二項ないし第四項、または第十三條第二項の罪の誘惑または扇動というふうなことになつております。なお第十六條の方は第二條ないし第五條の罪の予備または陰謀、これが三箇月以上七年以下の懲役になつております、第二條ないし第五條の罪の誘惑または扇動、これも三箇月以上七年以下、かようになつております。
  181. 石川金次郎

    石川金次郎君 次にお聞きしたいのは、保護法の十七條規定でありますが、ここに「煽動シタル者ハ一年以下」といつておりますが今度の刑はどうなつておりましようか。
  182. 岡原昌男

    岡原政府委員 第十七條に対する関係は、今度は規定を置きませんでした。
  183. 石川金次郎

    石川金次郎君 扇動という文字はありませんか。
  184. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は先ほど二度目に読みました十六條の関係でございまして、三箇月以上七年以下、今度の規定は五年以下、さように区別されてあります。
  185. 石川金次郎

    石川金次郎君 大体において刑法では、教唆犯は実害が発生しない間は処罰しないという原則があります。これを「教唆」「せん動」という文字を持つて参りました理由がどこにあるのでございましようか。
  186. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は一昨日、今朝続けて詳細申し上げた次第でございますが、軍機というものは漏洩が実際に行われる以前においてとめるのでなければこれを保護することができない。一旦外に漏れた以上は何とも方法がない。従つてこれを保護するためには、その事前段階においてこれを食いとめなければいかぬ。そこでただいま御指摘のように陰謀、教唆扇動といつたような事前段階を手当すると同時に、なお八條におきましてさような探知、收集といつたようなものにつきまして違反がありましても、自首した場合にはその自首者は当然実際自分のやつたことについての償いをするということを含んでおりましようから、実害を生ぜずして首服して来るだろう。さような場合の減軽または免除の規定を置いて、これでうらはら統一させた次第でございます。
  187. 石川金次郎

    石川金次郎君 そうすると、教唆、陰謀はある種の刑事犯でありますが、教唆扇動というものは、軍機保護の性質からのみわいて来るのだという法務府の御見解でありますか。
  188. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは單に軍機ということに関するのみならず、広くある種の犯罪を事前段階において食いとめようという場合の規定でございます。
  189. 石川金次郎

    石川金次郎君 そういたしますと、少し心配になつて参ります。ある種の犯罪の事前段階となりますと、どの犯罪でも事前段階に押え得れば押えた方がよろしいのであります。そうすると刑法犯罪そのものを、やはり事前に押えるという目的で拡張せられる御計画でもありますか。
  190. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は御承知刑法理論における主観主義並びに客観主義との関連において、世界の学界において大分争われておる点でございます。それが單に実害の点から考えられる場合もございますし、本人の主観的な意思、要件そういつたものから事が論ぜられる場合もございます。そのいずれにいたしましても、現在の私どもの考えといたしましては、そのいずれに走るも妥当ではない。この調和をどの点に求めるかということになりますと、たしか刑法の仮案の中にも教唆の特別罪の規定があつたかと思いますが、ある種の重大なる事犯についてのみその事犯の重大性なるゆえをもつて、その事前段階において食いとめる必要性が非常に強い場合もあろうかと思いますし、同時にそれが本人の悪性の非常に強いところを示すという意味において、これを事前段階で処罰する、さような考え方もあろうかと存じます。現在の法律体系におきまして、この扇動というふうな形で事を律しておりますのは、たとえば公職選挙法の第二百三十四條、食糧緊急措置令の第十一條、あるいはそそのかし、あおるという言葉を使つておりますが、引揚者の秩序保持に関する政令、公共企業体労働関係法、爆発物取締罰則、これは御承知のように明治十七年の太政官布告で、少し古いものであります。それから国家公務員法、地方公務員法、そういうような前例もございます。
  191. 石川金次郎

    石川金次郎君 強唆、扇動というようなことを処罰しなければならない、そういう犯罪だんだんにふえてくるとお思いになつているのでしようか。
  192. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは実際の法規をつくる場合に、その法規がどういうふうなことを目当にするかということで違つて来るのであろうかと存じまするが、これは多くなるものやら少くなるものやらわかりませんが、少くなることを希望しておる次第であります。
  193. 石川金次郎

    石川金次郎君 法務府のお考えとしては、主観的刑法理論によつてこのような扇動であるとか、教唆であるとかいうことの処罰の対象をどんどん広げて行くというお考え、そうしなければ犯罪防衛ができないというお考えを持つているのでしようか。
  194. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど詳しく申しました通り、單に主観的刑法理論からのみならず、その実害の面からする客観的刑法理論からも、そういうような意見は成り立ち得るのでございます。
  195. 石川金次郎

    石川金次郎君 この点はあとにまわしまして、この法案の中に「不当な方法」あるいは「正当」という文字をよく使つておられるのでありますが、これはどのようなことか、御見解をこの場合示していただきたいのであります。
  196. 岡原昌男

    岡原政府委員 違法というのは、法律違反でございます。不当というのは妥当ならざるという趣旨でございます。
  197. 石川金次郎

    石川金次郎君 この妥当ならざるということを決定いたします標準として、健全な社会常識ということをおつしやつたように伺つておりますが、そこで疑問を持ちますのは、世の中が過渡期になつて参りますと、考え方がいろいろ出て来るのであります。たとえば今まで世の中が静穏で、きわめてよく動いておりますときには、健全な社会常識というものはありますが、今のよう混乱しました形におきましては、健全な社会常識というものはどこにあるのか。この点に対してはどうお考えでしようか。
  198. 岡原昌男

    岡原政府委員 いわゆる妥当性とか公序良俗とか、あるいは違法性阻却とかいう問題につきましては、これは判断がきわめて困難なのでございます。抽象的にはただいま言つたような言葉とか、あるいは通常の常識ある者がみな考えられるであろうというような言葉で表現いたしまするが、それを実際に当てはめる場合に、苦労することは、今までの学説、判例が詳細に示しておる通りでございます。判断は結局理論上裁判所の問題となるかと思います。
  199. 石川金次郎

    石川金次郎君 そこで裁判所判断にまかせた場合に、裁判所は非常に苦労するだろうと思うのです。また裁判官の中にも人生観とか社会観とか、物の見方の違つた方もあります。そういう場合にこういう困難な解釈をまかせずして、別な言葉があつたら使うことはいいと思いますが、御見解はどうでしようか。
  200. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような妥当性とか、違法性阻却の原因とかいう問題につきましては、従来裁判所刑法三十五條以降の適用につきまして相当頭を使つておりますので、現在の裁判所において十分それについての判断がつく、かように考えておりまするし、またさようなことを判断するにつきましては、やはり検察庁がこれに協力し、これに必要な資料というものはできるだけ協力して出す、かようなことが妥当であろう。また裁判所の審理の際にはやはり弁護士側でもそれに応ずる諸般の証拠を出して、かれこれいろいろ判断をして、一つの妥当な線が引かれる、これが実際の取扱いだろうと思います。
  201. 石川金次郎

    石川金次郎君 もう一つお伺いしておきますが、本件の解説書によりますと、第二條に、「本條に該当する場合に軽犯罪法第一條第三十二号の適用のないことはもちろんである。」とあります。いかにもそうでありますが、「適用のないことはもちろんである。」という理由はどこから来るか。
  202. 岡原昌男

    岡原政府委員 形式的にはこの法が特別法であるという点でございます。実質的には、この軽犯罪法の規定しておるところは、そのあとの方に田畑の例があげてございますが、その保護法益のきわめて軽微なものというふうなものが規定されております。しかるに本法案の第二條におきましては、大体行政協定第二十三條に基きまする軍の安全法規一つの形でございまするので、さような立入り禁止の中に何か非常に大事なものがあるということが前提でありまするので、区別した次第でございます。
  203. 石川金次郎

    石川金次郎君 軽犯罪法によつてもこれは縛りはしなかつたのでしようか。
  204. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま申したような理由で、それでは保護の全きを期し得ないということから、区別しておるような次第でございます。
  205. 石川金次郎

    石川金次郎君 全きを期し得ないとごらんになつた理由をお聞きいたします。
  206. 岡原昌男

    岡原政府委員 繰返して申し上げますれば、保護の法益が、片一方は田畑の非常に軽微なもので、法定刑が拘留または科料に相なつております。それではまつたく動かぬも同様の規定だろうと思いまして、そこで刑法百三十條ともにらみ合せ、その法定刑を三分の一といたしました一年以下の懲役またはその他ということに規定したわけでございます。
  207. 石川金次郎

    石川金次郎君 しかし軍施設内に入つて別の刑事犯を犯しますと、ただちに刑罰が来るのであります。單に区域の中に入つたということは、軽犯罪法にまかしてもよかつたのではないか。このように重く処罰しなければならぬということは、これはどうもあなたのお考え方にあるのであります。法益が重要だとおつしやればそれまででありますが、重い刑罰を持つて来ぬでも、ある法律をもつてその法益を守れるなら、その方がかえつてみなのためになるのではないか。
  208. 岡原昌男

    岡原政府委員 刑法百三十條におきまして、邸宅侵入が処罰せられるのと同じことでございます。
  209. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 他に御質疑はありませんか——なければ、質疑はこれをもつて終局いたしました。本案に対する討論及び採決は、明日の午前十時半より本委員会を開会して、行うことといたします。さよう御承知願います。     —————————————
  210. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 次に公聽会開会に関する件についてお諮りいたします。  破壞活動防止法案、公安調査庁設置法案及び公安審査委員会設置法案は、いずれも去る十七日本委員会に付託になつたのでありますが、これら三案はきわめて重要な法案でありますので、広く各界の意見を聽取するため公聽会を開きたいと存じます。公聽会を開くためには、衆議院規則第七十七條によりまして、あらかじめ議長の承認を得なければなりませんので、その旨議長に申し出たいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  211. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認め、さように決定いたします。  なお議長の承認があれば、開会することとし、開会日時の決定、公述人の選定、その他所要の手続等につきましては、各委員の御意見を十分伺つた上で処置いたしたいと存じます。これにつきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議はございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  212. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なければさようにとりはからいます。  本日はこれをもつて散会いたします。     午後六時十一分散会