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1952-04-17 第13回国会 衆議院 法務委員会 第35号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月十七日(木曜日)     午前十一時三十二分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 田万 廣文君       安部 俊吾君    角田 幸吉君       松木  弘君    眞鍋  勝君       大西 正男君    加藤  充君       田中 堯平君    猪俣 浩三君       佐竹 晴記君    世耕 弘一君  出席政府委員         検事(法務府検         務局長)    岡原 昌男君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 四月十六日  戰犯者の助命、減刑等に関する陳情書  (第一三〇七号)  特別保安法制定反対に関する陳情書  (第一三〇八  号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  連合審査会開会要求に関する件  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約  第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案(内  閣提出第一四一号)     ―――――――――――――
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法案を議題といたします。  この際政府より、本案の逐条説明を聴取することにいたします。岡原政府委員
  3. 岡原昌男

    岡原政府委員 それではただいまから、刑事特別法案逐条説明をいたしたいと存じます。その前に、私どもがこの法案をつくりました際の根本的な方針ということを申し上げたいと存じます。  私どもがこの行政協定を見まして、まず第一に考えましたことは、なるべく現行の日本の法令は全部アメリカ駐留軍に及ぶ、その大きな原則のもとに、できるだけこの行政協定に基く特別法の立案の範囲を縮小する、言いかえますれば、なるべく日本の法律の適用を広範囲に原則的に認めさせようというのが、一つの方針であります。従いまして、行政協定の第十七条あるいは二十三条の関係で、いろいろと議論いたし、ほかにも立法の手当が必要じやないかと思われた事項も多々ございましたけれども、それを全部切り捨てまして、刑事の実体法規につきましても、手続法規につきましても、現行法規の大きな網をそのままかぶせるという態度をとりました。  第二の方針といたしましては、行政協定の文言をいろいろ研究してみますと、大分字句がはつきりしていない。われわれ法律的に検討いたしましてあやふやな点もございましたので、これを明確化する、そうして向うがやればこちらもやるという双務主義を貫くというふうな方針をとりました。  次に行政協定の案文を見て参りますと、どうもわれわれには納得しかねる面も若干あるというような点を二、三取上げまして、その点はこの法案によつて是正したというふうな点もございます。これはいずれ詳細に、御質疑等がありますれば、順次御説明申し上げたいと思いますが、私どもが最初この法案をつくる際の根本的方針は、以上三点でございました。これから第一条以下逐次入りたいと存じます。  御承知の通り、この法案は三章二十箇条からなつておりまして、第一章は、第一条だけの定義の規定でございます。第二章、実体的な罪の規定は、第二条から第九条までございます。第三章、十条以下第二十条までが、刑事の手続規定となつております。  第一条は、この法案に用いますいろいろな用語の定義を掲げました。いずれも日米安全保障条約あるいは行政協定に使われている言葉を、ほとんどそのまま取入れた次第でございます。  第二条は「施設又は区域を侵す罪」でございます。御承知の通り、刑法百三十条におきまして、いわゆる住居侵入邸宅侵入の規定がございますけれども、行政協定第二十三条に掲げる軍の安全々確保するためには、このほかに施設または区域内に侵入する行為というものに対して、罰則をもつて保護する必要があるのであろうというふうな観点から、この刑法第百三十条の特殊な場合といたしまして、特別の構成要件を定めた。しこうしてこの法定刑をずつと下げた規定を一つ置きました。すなわち正当な理由がなしに、合衆国軍隊の使用する施設または区域内で、立入り禁止の場所に入るとか、あるいは要求を受けてその場所から退去しないということを構成要件といたしまして、一年以下の懲役または二千円以下の罰金あるいは科料という軽い法定刑を定めました。この但書は、立入り禁止区域内でありましても、刑法百三十条にあたる場合があり得るのでありまして、つまり人の看守をする建造物等がございます。それに入つた場合には、刑法の適用がある、かような趣旨でございます。  次に第三条でございますが、第三条は「証拠を隠滅する等の罪」でございます。刑法第百四条に証拠湮滅罪の規定がございますが、これは事の性質上、日本の裁判所における事件の証拠隠滅の規定でございまして、アメリカ軍事裁判所の事件については、その適用がないわけでございます。従いまして、行政協定第十七条第三項(e)の趣旨にのつとつて、向うの裁判の公正妥当を期するために、この証拠隠滅を罰するという規定が必要になつて参るわけでございます。そこでこの構成要件その他は、大体現在の刑法第百四条とほぼ同じ文字を使いました。その法定刑も、これと並べて規定してございます。文字が若干違つておりますのは、制限漢字の関係や、あるいは新しい用語例従つただけでありまして、全部刑法の概念はそのまま適用されることになると思います。  次は第四条でございますが、この点に関しまして、実はこの法案のプリントの一部にミス・プリントがございますので、この機会に訂正させていただきたいと思います。第四条の「偽証の罪」とございますが、これは「偽証等の罪」というふうに御訂正願います。なおついでに申し上げますが、印刷物によりましては第十三条の一項の最後のところに「裁判官からするものとす。」とございますが、「するものとする。」「る」が一つ抜けておりますので、あわせて御訂正おき願いたいのでございます。それからもう一つ、これも印刷を非常に急がせた関係で、別表の第二行目でございますが、一号イの「その実施状況」とございますが、これは「の」が抜けておりまして、「実施の状況」が正確でございます。  それでは第四条に移ります。第四条も現在の刑法百六十九条ないし百七十一条に偽証、虚偽鑑定虚偽通訳の規定がございますけれども、これは先ほど申しました通りの事情で、いずれもわが国の現在の裁判所の事件のみに関する規定でございますので、合衆国軍事裁判所の事件につきましては、これと類似の規定を置く必要があるというところから、この偽証等の罪を第四条として規定した次第でございます。ここに用いております用語例はすべて刑法をそのまま引いてございます。  次は第五条でございます。「軍用物を損壊する等の罪」、合衆国軍隊軍用物を損壊する等の行為につきましても、特に規定のない限りは刑法第二百五十九条ないし二百六十一条の規定が適用されるわけでございます。しかしながら行政協定第二十三条の趣旨から考えますと、これらの規定のみでは合衆国軍隊の財産の安全及び保護の確保に十分な目的を達することができないというふうに認められますので、これらの規定のほかに特に本条を設けた次第でございます。本条の客体は「合衆国軍隊に属し、且つ、その軍用に供する兵器、彈楽、糧食、被服その他の物」かようになつております。ここに属するというのは、その所有に属するものである。あるいはそういうことがあるかないか知りませんが、合衆国軍隊において借用しているものも包含する趣旨でございます。次に「軍用に供する」という言葉は、合衆国軍隊の用に供するということで現に軍隊で使用中のものはもちろんのこと、使用中でなくとも倉庫に保管しておるもの、あるいは集積所に集積中のもの、輸送中のものも包含する趣旨でございます。しかしながら軍隊の構成員——兵隊さんが自分で日常生活のために使つているというふうな日用品等は包含しない。また合衆国軍隊の所有に属していましても、日本政府に貸興されたというふうなものもこれに包含されない、さような趣旨でございます。さらに合衆国軍隊の注文がありまして、民間工場で製造したというようなものは、たといこれが完成品でございましても、合衆国軍隊に引渡される前は、合衆国軍隊に属するものでも、また軍用に供するものでもありませんので、これから除外される趣旨でございます。行為の態様、損壊または傷害、これはいずれも刑法の概念をそのまま借用いたしました。  なおここに、関連して申し上げたいのは、軍用物の損壊でありましても、その手段方法において、放火、溢水あるいは、爆発物取締罰則等に触れる場合におきましては、これらの規定も適用されることに相なります。それらの規定の方が法定刑も高いので、そちらの方で処罰されることとなろうと思います。  次は第六条でございます。この六条、七条、八条の三箇条は、合衆国軍隊の機密を侵す罪でございます。合衆国軍隊の機密についてその保護のための立法措置を講ずる必要のありますることは、行政協定第二十三条の示すところでございます。ただ、これをいかなる形で規定するかという問題になりますると、事の性質上、実に困難かつ微妙な諸点を含んでおります。すなわちこれによつて保護せらるべき合衆国軍隊の利益、これによつて取締らるべき日本国民の立場、この二つをいかに調節勘案してこの妥当を期するかということが、問題の主要点でございます。そこで私どもといたしましては、まず保護の対象たるべき合衆国軍隊の機密というものの意義、種類及び範囲、これを法律上明記することに努めました。戰前の軍機保護法におきましては、この種類、範囲等は命令に委任する建前をとつておりました。法律には規定がございませんでした。すなわち軍機保護法施行規則におきまして、相当詳しい、こまかい規定を置いたのでございます。ところでわれわれといたしましては、合衆国の軍隊に現にいかなる機密があるものやら全然存じませんし、そう詳細に何から何までかかるというふうな規定をすることはできませんし、そこで別表に掲げたような割合に簡單な表現でございますけれども、その諸項目にとどめた次第でございます。なお軍機保護法時代におきましては、軍において公表したもの、あるいは官報または法規に公表されたものというようなものだけを除外しておりましたけれども、特にそれを公になつていないものという表現を使いまして、機密の範囲の妥当を期した次第でございます。この点は後ほどまた御説明申し上げたいと存じます。  今は機密の対象の点を申し上げましたが、次は機密の保護に関する犯罪構成要件、行為の態様につきましても、嚴に失しないような合理的な配意を用いたのでございます。そうしてその保護に必要な最小限度の規定を置いた次第でございます。すなわち行為の主たる態様といたしましては、合衆国軍隊の機密の探知、收集及び漏洩、さようにいたしまして、しかもこれらの行為が一定の目的または方法をもつてする場合のみ処分されるというふうな建前をとりました。漏洩につきましても、すべての機密をその対象に置くのではなくて、通常不当な方法によらなければ探知收集できないような機密というふうに限定いたしました。かつ故意犯のみに限定いたしまして、元の軍機保護法におけるがごとき過失漏洩といつたようなものは全部削除いたしました。なおこのほか、元の軍機保護法には特殊の目的をもつてする場合の加重規定あるいは業務上の処罰規定等もございましたけれども、それらも全部これを排除いたしました。なおこれらの探知、收集及び漏洩の各行為につきましては、未遂、陰謀、教唆、扇動を処罰する規定を設けたのでございますが、その趣旨とするところは、機密の保護というものは、その性質上あくまでも機密が外部に漏れることを防ごうというのでありまして、一日漏れたものは、これは何とも方法がない、しようがない。そこでこれの漏れるような行為を事前段階において防止しようというのが、この趣旨でございます。この探知、收集または漏洩の未遂、陰謀、教唆、扇動という形で罰するのは、軍機保護法の時代と若干その趣を異にいたしまして、前はたとえば探知、收集等のための結社の組織等も罰せられておつたのでございますが、さような点はこれを除外し、陰謀というふうな行為形態にいたしましたし、また前の軍機保護法時代の行為の態様あるいは機密の種類、範囲が非常に広かつた関係上、いろいろ教唆につきましても広い面が出ておつたのでございますが、われわれといたしましては、その前段階において、行為の態様あるいは機密の種類、範囲を限定いたしました関係上、その未遂、陰謀、教唆等につきましても、おのずから狭まつて来た、かように解しておるのでございます。  次に法定刑につきましても妥当を期したという点にも特に重点を置きました。刑の最高限は、いかなる場合におきましても十年の懲役にとどめまして、かつその最低限を設けなかつたのでございます。この点は刑の最高を死刑、無期まで参りました旧軍機保護法並びにある犯罪態様によりましては最低限を設けた元の立法とは全然趣を異にする次第でございます。  次にこの法案におきまして一つの危惧を持たれましたのは、この機密保護の条文と憲法の保障する言論の自由との関係でございます。特にこの法案第六条第二項の機密漏洩の罪についての言論出版界の一つの考え方から申しますると、何か不用意に言つたことがすぐこの条文にひつかかつて、うつかりしたことが言えない、書けないということになるのじやないかというふうな心配があつたようでございます。しかしながら、先ほどから申し上げました通り、合衆国の軍隊が真に機密として嚴守しているものというものは、たやすく一般の取材活動の対象にはなつて来ないというふうに私どもは考えております。この点はいろいろ調べてみたのでございますけれども、どうも合衆国軍隊におきまして真に機密とするようなものは、とうていわれわれが日常生活において、あるいはちよつとやそつとのことで目に触れたり耳に聞えたりするようなものではなさそうでございます。従つてこれらのものがそうたやすく新聞あるいは雑誌等に発表したためにひつかかるというふうなことはまず第一あり得ない。しかも最も常識ありとされている新聞、言論界がその常識をもつて行動する限りにおいてはこの規定に触れるようなことはないと私どもは確信しておる次第でございます。それではそれを具体的にどういうふうな用意がしてあるかということを申しますと、まず先ほどちよつと触れました通り、公になつているものをこの機密から除外してございます。従つてその事由のいかんを問わず、一旦公刊物に掲載されたものはその掲載されたときには、何か特殊な犯罪が成立するかもしれませんけれども、一旦掲載されたら、それを孫引きと申しますか、他に転載するというふうなことは、この法条の禁ずるところではないのであります。つまり機密の範囲には入らないのでございます。たとえば原子爆彈の性能あるいはジエツト機の威力、新兵器の話などがいろいろ新聞に掲載される例がございますが、大体さようなものはアメリカの新聞、雑誌あるいはその他に出所があるものと私どもは考えておりますので、それらの事項をこちらで取上げましても、そんなものは一切機密に入らない、さように私どもは考えております。すなわち漏洩の点につきましては、機密の全部が対象になるのではありませんで、通常不当な方法によらなければ探知し、または收集することができないような機密、これに限定しております。すなわち普通一般の人には容易に知り得ないような機密、いわゆる高度の機密というものがこれに当るものと存じます。すなわち不当な方法を用いなくても知り得る事項というふうなことは、もちろん漏洩罪の対象にはならないのでございます。しかもこの漏洩罪の成立するには、その機密が通常不当の方法によらなければ探知または收集することができないようなものであるということを認識することが必要でございます。これは刑法の大原則から当然なことでございますので、いわゆる過失犯を処罰するということが明記されていない限りは、その機密の内容についての認識が必要である行為が必要であるということが当然でございますので、ちよつとやそつとでひつかかるというようなことはないものと私どもは考えております。  最後に合衆国軍隊の機密で、それが外部に漏れるならば合衆国軍隊の安全にさしさわりを生ずるような性質のものは、たとい新聞雑誌などとしても報道を差控えるのが日本の安全を保障するための駐留軍に対する日本人としての心づかいであろう、従いまして言論の自由の保障もそこにはある限界があるであろうというようなことは十分考えられますが、言論界が良識をもつて判断する限りにおきましては、このような良識ある判断に基いてやつた行動までこの法が干渉する趣旨ではないことを繰返して申し上げたいと存じます。そこでこれらの詳細の点について若干補充いたします。  最初に合衆国軍隊の機密という概念でございますが、これは「合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないもの」ということになつております。すなわち別表に掲げる事項あるいはそれに関する文書、図画、物件としまして、先ほど申した通り、公になつていないもの、そのような要件を必要といたします。もちろんこの事項に合致しましても、向うの方でこれは機密ではないというふうに申しますものは、機密の範囲から除外されることは当然でございます。別表の説明は後ほどに讓りまして、別表に掲げる事項及びこれらの事項にかかる文書、図画、物件の意義を申し上げます。「別表に掲げる事項」というのは、別表各項目に掲げられております事項についての事実及び情報を申します。文書と申しますのは文字またはこれにかわるべき符号をもつて一定の事項を表示した物件であります。図画というのは形象を表示した物件で、写真とか映画のフイルム等でございます。物件とはあらゆる有体物をいう、かように定義しております。  次に「公になつていないもの」、これは合衆国軍隊の公にしたものというのとは違うのでございまして、旧軍機保護法のもとにおきまして、同法施行規則第一条第二項においては、軍事上秘密を要する事項又は図書、物件として指定されたものであつても、法規若しくは官報において公示されたもの又は陸軍において公表したものは除く、というふうに規定しておりましたけれども、これとは全然その趣旨を異にしております。公になつているというのは、要するにそのなつた事由のいかんを問わず、何らかの径路または方法で不特定多数人にそれが知らされた以上は、公になつているということであります。  次は探知、收集の概念でございます。探知というのは無形的な事項すなわち事実または情報を知ろうとする意思をもつて進んで探り知るという行為でございます。従いましてこの進んで積極的に探り知るということを要件といたしまして、たとえば軍の施設に公用または私用であるいは正規の就労のために入つて、たまたま見聞したあるいは人の話しているのが自然に聞えて来た、頼まないのに向うがしやべつてくれたというふうなのは、これに入らぬという趣旨でございます。收集というのは有形的な文書、図画または物件を、集める意思で進んで集めとる行為でありまして、その文書、図画または物件を自己の所持に移すことを必要とするのでございます。單に机の上にある書類を盗み見て来るというのは、探知の方に入つて来るわけでございます。  次に探知、收集の罪は特殊な目的または方法をもつてする場合のみに当るのでございます。すなわち合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて——合衆国の安全というのは軍隊の裝備、財産等や、あるいは同軍隊の人員の生命、身体等、人的物的の構成要素の安全を申します。すなわち一国の軍隊にとりましては、その機密が現に敵対関係にあるかあるいは近い将来に敵対関係を生ずる客観的可能性のある外国その他のものに知られるということは、その安全にとつて危險なことといわなければならないので、この合衆国の軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつてする場合には、この機密の探知、收集罪が成立する、かように規定した次第でございます。先ほどから何度も申します通り、旧軍機保護法第二条第二項に「公ニスル目的ヲ以テ」という用語例を用いたのがございますが、これよりは当然狭いのでございます。  次に「不当な方法で」というのは、社会通念に照しまして妥当とは認められないような方法ですることを申します。たとえば機密の存すると思われるような立入り禁止の施設または区域に入つて行く、あるいは施設または区域に入ることは許されたけれども、さらに近づいてはならぬような特殊の部屋に入つて盗み聞きをする、あるいは欺罔手段を用いる、誘惑をする、あるいは脅迫するというふうな不正不当な方法でやる場合は、これに該当するわけでございます。しかしながらたとえば合衆国軍隊飛行基地の近所に参りまして、飛行機の台数や型などを見たり聞いたりするというふうなことは、それ自身この問題にはなつて来ないのでございます。  次に機密漏洩罪でございますけれども、これには通常不当な方法によらなければ探知または收集することができないような機密というふうに限定してございます。その趣旨とするところは、合衆国軍隊の機密のうちでありましても、その性質、内容、存在の態様または存在の場所等にかんがみまして、通常一般人を標準として考えて、それは不当な方法を用いなくとも知りまたは集め得るようなものは、これから除外するという趣旨でございます。さらにこれを逆に言いますと、通常の一般人を標準として考えた場合に、特に不当な方法を用いない限り、知つたり集めたりすることができないような種類、性質、内容または態様の機密のみを漏洩罪の対象としようとするものであります。たとえば駅頭や飛行基地の近所、その他通常の一般人が立入りを禁止されていないような場所において、通常見聞し得るような事項は、たといそれが別表に掲げる合衆国軍隊の機密に属する行為でありましても、これを他人に漏らす行為は処罰されることはないのであります。しかしたとえば、たまたま合衆国軍隊の要員が自発的にその機密たる事項を話し、もしくは見せてくれたといつたような場合でありましても、さような機密事項が通常の場合には不当な方法でなければ知り得ないというようなものであるときは、これを漏らせば本項の罪に該当する、さような趣旨でございます。これに旧軍機保護法におきまして、漏洩のあらゆる場合を処罰するというのとは、全然その趣を異にいたしまして、かような点からこれにしぼりをかけてあるわけでございます。他人に漏らすというのは、自己以外の者に機密事項を口頭で告知しもしくは文書、図画、電信等によつて伝達する、あるいは機密事項にかかる文書、図画もしくは物件をそのまま交付するというようなことを申します。なおこれらにつきまして未遂、陰謀、教唆、扇動等を処罰しております趣旨は、先ほども申した通り、機密保護の本質があくまでも機密の外部に漏れることを未然に防止するということにありますので、その行為の既遂前の段階における行為の防止をはかつた趣旨でございます。それらの未遂、陰謀、教唆、扇動等は、いずれも今までの概念通りの用語でございます。  第八条は、自首減免に関する規定でございます。特に問題はありません。  第九条は制服を不当に着用する罪でございまして、合衆国軍隊構成員の制服を着用する行為は、軽犯罪法第一条第十五号に似たような規定がございますけれども、これではまかなえないというところから、それに似たような規定を置いた。要するにみだりに合衆国軍隊構成員の制服を着用するということ自体、その信用を失墜させる原因であるのみならず、とかく他の不正手段の原因にもなるのでございます。そこでこれらを取締る趣旨から軽犯罪法に似た軽い拘留、科料の罰を加えまして、この条文を置いた次第でございます。  第三章の刑事手続につきましては、全文十一箇条ございますが、まず十条は、施設または区域内におきまして逮捕、勾引または勾留状の執行その他人身を拘束する処分をする場合の特殊規定でございます。この点は行政協定第十七条三項(b)の前段にその根拠があるのでございますが、これによりますと、「合衆国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設又は区域内において、専属的逮捕権を有する。」というふうに相なつております。従いまして、日本の官憲は向うに入れないような趣旨になつております。そこで私どもといたしましては、さような施設または区域内にこちらから犯人が逃げ込んだというような場合等に、こちらの警察官が追いかけて入る必要が非常にあるのではないか。そこでさような場合においては、合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けてみずから行うこともでき、また場合によつては、合衆国軍隊の権限ある者に嘱託してこれを行うというふうに二本建にいたしたものであります。そのいずれをやるかはその逮捕等に当る者の選択的な自由でありまして、その事情に応じてどちらか都合のよい方をとればよろしい、かような趣旨であります。  第十一条は、施設または区域外で逮捕された合衆国軍隊要員の引渡しの規定でございます。本条は行政協定第十七条第三項(a)の前段に基く規定でありまして、合衆国軍隊の使用する施設または区域外において刑事訴訟法の規定によつて逮捕される者について、それが合衆国軍隊要員であることが確認された場合に向う側に引渡してやる、その規定であります。ここに特に「確認したとき」という文字を使つてございますのは、よく向う側の身分を偽り、あるいはにせの証明書を持つているというふうなことでうまく逃げられる場合があり得るというので「確認」という言葉を用いました。次に「刑事訴訟法の規定にかかわらず」と申しますのは、刑事訴訟法第二百三条ないし二百五条に規定されてあります時間制限をはずした趣旨であります。すなわち、この規定にかかわらずただちにあちら側に引渡す、かような趣旨でございます。  第十二条は、合衆国軍隊によつて逮捕された者をこちら側で受取る場合の規定でございます。これは行政協定第十七条三項の(b)及び(c)によつて、引渡しの通知があつた場合、こちら側が身柄を受取りに行くときの手続でございます。その場合には一般の逮捕状をもらつて行つてその者の引渡しを受けるという原則を第一項に規定し、第二項は急速を要して逮捕状を求めるいとまがない場合の手続、第三項は大した事件ではない、あるいは身柄の留置は必要でない、逮捕の人間を受取つたらすぐに釈放してもよいという場合もあるので、それを規定した次第であります。第四項は、向う側で被疑者を逮捕いたしまして若干時間を経過した後にこちらが引渡しを受けるという場合もときにはあり得るかと思いまして、その場合の時間の起算の問題が出て参りますので但書を置きまして、刑事訴訟法「第二百三条、第二百四条及び第二百五条第三項に規定する時間は、引渡があつた時から起算する。」という規定を置いたのであります。なおこれに関連しまして、そういうことはめつたにないと思いますが、向う側の手に一日あるいはそれ以上抑留されるという場合がなきを保しがたい、そういうことはおそらくないだろうという実際の打合せでございますが、さような場合の一つの手がかりといたしまして、この法案の第二十条に、さような場合には刑事補償法の適用について、合衆国当局による、抑留拘禁を刑事補償の対象にする、かような規定を置きました。  次は第十三条でございます。これは行政協定第十七条第三項の(g)に基く規定でありまして、施設または区域内の差押え、捜索あるいは検証等についての規定でございます。これも行政協定の原文によりますと、「日本国の当局は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域内にある者若しくは財産について又は所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について捜索又は差押を行う権利を有しない。」かような規定になつておりますけれども、それでは不便であるというので、これを法文において若干訂正してある次第でございます。つまり第十条の場合と同じように、向うの権限ある者の承認を受ければ、こちらでみずから行つてもよろしい。場合によつては、向うにやつてもらうことが便宜であれば、嘱託して向うにやつてもらうというふうな規定であります。  第十四条は、「日本国の法令による罪に係る事件についての捜査」の規定であります。つまり念のための規定でありますけれども、日本法令違反の事件については、検察官、検察事務官または司法警察職員は、全般的に捜査の権限があるということの規定でありまして、その第二項におきましては、「前項の捜査に関しては、裁判所又は裁判官は、令状の発付その他刑事訴訟に関する法令に定める権限を行使することができる。」という規定を補充的に置いたわけでございます。     〔委員長退席、田嶋(好)委員長代理着席〕  第十五条は「証人の出頭等の義務」でございます。すなわち合衆国軍事裁判所の嘱託によりまして、裁判官から合衆国軍事裁判所に証人として出頭すべきことを命ぜられ、または合衆国軍事裁判所において、正式の手続によつて宣誓もしくは証言を求められた者は、これに応ずる義務がある。この規定は、行政協定第十七条第三項の(e)に基くものでありまして、裁判に対する協力の形を表わしたものでございます。これに対しましては、わが国の刑事訴訟法等に類似の場合に過料、それから罰金の規定がございますけれども、この合衆国軍事裁判所の手続等につきましては、わが国民はまだ十分なれないものがあるだろう、従つてこれをただちに刑事罰で臨むのは苛酷に失する場合があるだろう、従つてこれを特に過料すなわち行政罰に形を整えた次第でございます。  次に第十六条でございますが、これは証人がどうしても出て行かない場合の勾引についての規定でございます。この場合には、正当な事由がないにもかかわらず、前条一項の規定による出頭命令に応じない証人について、合衆国軍事裁判所から、どうしてもこの証人が出なければ事犯の眞相がわからないから、ぜひ調べたいという場合に、裁判官から勾引状を発して向うに出てもらうというふうな規定でございます。二項、三項以下は、それらの手続をこまかく規定したものでございます。  第十七条は、合衆国軍事裁判所または合衆国軍隊の当局から、刑事事件審判または捜査のために必要あるものとして申出があつた場合には、裁判所検察官あるいは司法検察員は、現に保管しておる書類または証拠物を向うに見せてやる、あるいは謄写をつくつてやる、あるいは一時貸與するというふうなことができることを規定したものでございます。  次に第十八条並びに第十九条は、いずれも「日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件についての協力」簡單に申し上げますと、日本の法令違反でない事件についての刑事の協力についての規定でございます。すなわち第十八条は、合衆国の軍隊要員をこちらでつかまえてくれというふうに、向うから要請がありました場合には、これは日本の刑事訴訟法ではまかなえないのでございます。なぜかと申しますと、刑事訴訟法は、日本国法令違反の事件を処理するための刑事訴訟法でございます。あちら側だけの罪についての、たとえば兵隊が逃亡したというような罪、あるいは向うの何か行政違反があつたというふうな罪につきましては、わが国としては刑事訴訟法ではまかなえないので、その場合の特殊な手続、いわば準司法的な、あるいは行政的な手続をこういうふうに規定したのでございます。その逮捕の規定が第十八条でございます。  なお第十九条は、やはり同じような事件につきまして、こちら側で参考人を調べてやる、あるいは実況見分をしてやる、あるいはそれらの証拠品その他の物を持つておる者に対して提出命令を出すという規定でございます。これにはやはり協力し、その確保をはかるために、やはり先ほどと同じような趣旨で、一万円以下の過科というのを第四項で定めてあるのでございます。  最後に、別表について簡單につけ加えて申し上げます。別表一の「防衛に関する事項」とございますのは、安全保障条約第一条にいう、「外野からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄與するため」の手段方法を総称するのでございます。「防衛の方針若しくは計画の内容又はその実施状況」とありますのは、合衆国軍隊が防衛のためにとるべき手段方法の基本方針、あるいはこれに基く作戰計画の内容を申します。もちろんその完成したもののみならず、現に策定中のものをも含めてございます。「実施の状況」というのは、それらの方針計画が順次実施に移される程度、方法、内容等を申します。「部隊の隷属系統、部隊数、部隊の兵員数又は部隊の裝備」、これは大体読んで字のごとくでありますが、裝備というのは、各部隊に整備されている物的の戰鬪力及び対自然力——寒、暑あるいは風雨等に対するもの、わかりやすく言いますと、兵器、被服等の配当のことを申します。  次に「部隊の任務、配備又は行動」、これはある部隊に命令によつて付與された任務で、通常、目的、行動の時期、地域等について定められるものと思います。次に部隊の配備は、この任務を付與された部隊の、その任務遂行のための、ある地域における有形の態勢を申します。部隊の行動は、一切の行動、すなわち移動等も含むという趣旨でございます。  次に「部隊の使用する軍事施設の位置、構成、設備、性能又は強度」、これもまた字の通りでございますけれども、たとえば例を軍用飛行場にとつてみますと、構成というのは飛行場の種類とか滑走地区の地積、地形あるいは滑走路の数、幅員、方向、鋪裝の状況等をいいます。また設備というのは、離着陸の漂識その他指揮所、通信所、格納庫、器材庫その他の設備の状況を申します性能、強度は、大体それらの飛行場の面積、形状あるいは飛行場の価値能力等を申します。  次に「部隊の使用する艦船、航空機、兵器、彈楽その他の軍需品の種類又は数量」、これは読んで字の通りであります。  次は「編制又は裝備に関する事項、」この編制というのは、全体としての合衆国軍隊の組織の意味であります。軍隊の区分、各單位部隊の成立ち、配置それから各機関の組織等をさします、裝備とは、全体としての合衆国軍隊に整備されている物的の戰闘力及び対自然力と申します。「編制若しくは裝備に関する計画の内容、又はその実施の状況」、これは先ほど計画の内容または実施の状況について申し上げた通りであります。「編制又は裝備の現況」、これは現在どのような状況にあるか。次の構造、性能等も先ほど申し上げました。  最後に「運輸又は通信に関する事項」が三つございますが、「軍事輸送の計画の内容又はその実施の状況」、これは合衆国軍隊の要員や貨物の軍事目的をもつてする移動のための輸送の計画を申します。「軍用通信の内容」と申しますのは、無線、有線を問わず、合衆国軍隊が発受する軍用通信の内容を申します。「軍用暗号」と申しますのは、通常秘密事項の通信に用いられる暗号自体を申すのでございます。  以上簡單ではございましたけれども、逐条説明を申し上げた次第でございます。なお詳細は御質疑によりまして、順次お答えいたしたいと存じます。
  4. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員長代理 これにて逐条説明は終りました。  この際お諮りいたします。本案の解読書が法務府より、資料として皆さんのお手元に配付されております。これを会議録にとどめておきたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員長代理 御異議なければ、そのようにとりはからいます。     —————————————
  6. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員長代理 この際お諮りいたします。日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法案について、建設委員会に連合審査会の開会を申入れたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員長代理 御異議なければ、さよう決定いたします。  次会は明日十時半から開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後零時三十五分散会