○
西村(熊)
政府委員 御質問の点はまことにごもつともだと存じます。今日外国の
軍隊がいて、それから起ります裁判管轄について
規定を含んでいる
協定が数種ございます。米比基地
協定一九四七年、米英基地
協定一九四一年、その
協定の修正に関する交換公文一九五
○年、また古くては一九三六年のイギリスとエジプトの間の條約もあります。しかし私どもが主として先例として
考えましたのは、もちろん第二次世界大戰後の最近の事例でございます。何ゆえに私どもが米比基地
協定や米英基地
協定に盛られておる裁判管轄権に関する
規定を不可なりと判定いたしたかということは、これはきわめて簡單であります。これらの
協定をごらんくださいますとよくわかりますように、基地内におきましては
アメリカが地域的な管轄権を持
つておりまして、その中ではただに軍人、軍属、家族のみならず、フイリピン人も英国臣民も
第三国人も
合衆国の軍事
裁判所及び官憲の裁判管轄権に服することにな
つております。基地の外におきましても、ある特殊の條件が備わ
つている場合には、軍人、軍属、家族以外のものにも裁判管轄権が及ぶということにな
つております。こういうような裁判管轄権に関する方式を
行政協定に取入れるということは、すなわち
日本にいる
合衆国軍隊に対して属地的な管轄権を容認することになります。そういうことになりますれば、これこそ
ほんとうに
日本国民の間から国辱的である、屈辱的であるという声が沸き起るであろうと思う。私は
鍛冶委員が米比
協定、米英
協定をなぜ不可とするかということについては、ま
つたく今申し上げました理由で全然御
同感いただける点だと存じます。そうしますと残る方式は一九四二年のイギリスと
アメリカとの間にとりかわされました、イギリス本国における
合衆国軍隊の所属員に対する裁判をどうするかという点についての
協定に盛られた方式が、先例として浮んで来るわけであります。その場合は大体今度の
行政協定のように属人的の裁判管轄権にな
つております。米英の属人的裁判管轄権に関しまする
協定は、第二次世界大戰が終了してから六箇月まで効力を持つことにな
つております。
合衆国国務省の
説明によりますれば、対日
平和條約が
発効してから六箇月たてば一九四二年の米英
協定は効力を失する、こういうことにな
つているわけであります。そうしてこの米英
協定の属人主義の
原則が、現にイギリスのみならず北大西洋條約諸国と
アメリカとの間の裁判管轄権に関する問題の取扱いの標準にな
つている、こういう
説明であります。
従つて先刻申し上げましたように、
アメリカの
考え方としては、北大西洋條約国十一箇国と
アメリカとの間に斬新的な方式が適用されることになれば、同様に
日本にもそれを切りかえる、こういう約束がありますので、また問題は先刻申し上げた
通りに返りますが、
合衆国の立場としては
日本の立場を了とするけれども、いわゆる北大西洋諸條約との
関係が、北大西洋
協定の斬新的な方式に切りかわるまでの過渡的な措置として、北大西洋諸條約と同様な方式を採用してもらいたい、こういうことに
なつたわけであります。むろんそれに対して
日本側としては、最後まで、北大西洋
協定の方式を今とることの絶対に必要であるということを各方面から
説明はいたしましたけれども、要はそこになりますと
ほんとうの立場と立場の相違になりますので、互譲の精神から、
日本側としては暫定方式であるこの方式をとるについて、
日本が一番関心を持
つている点はどこかという点をつかまえて、その点に対する保障をしつかりもら
つて、そして受諾したようなわけであります。保障は二点であります。
一つは北大西洋條約
協定が
発効したら切りかえられるという保障。第二の保障は、
日本人が過去八箇年間の経験から見て一番不満に思
つているのは何かと言えば、
占領軍将兵の行為によ
つて、しかもその行為の被害者が純粋に
日本人だけだし、
日本の財産だけである場合に、確実な処罰が付されていないということにあると
考えた次第でありますので、それでこの十七條の第四項にありますように、そういう犯罪を
アメリカは必ず裁判し処罰いたします、その
意思があります。またその能力がありますということを明確に約束をいたしてもらうと同時に、私どもとしましては、解説にも書いておきましたが、能力があると言われるけれども、
ほんとうに
アメリカの
法制上、それでは
日本の
法律に違反した
アメリカの軍人、軍属、家族をすべて処罰する
法律的能力がありますかどうかということを問いただしましたところが、
向うの方では一九五〇年の
合衆国軍事統一裁判法というものの百三十四條を出しまして
——そこに包括的な
規定があるわけでありますが、
合衆国軍隊が外国に駐屯する場合に駐在国の
法令に違反するような行為をした場合は、それを犯罪としてまたは軍規律違反としていかなる場合にも処罰することができるという、全体を漏れなく救う
規定がありますので、その
規定によ
つて、たとえば
道路交通規則に違反したGIさんといえども、
日本から通報がありないし
アメリカの方で発見したならば、必ずこれは処罰いたしますし、処罰する能力もこの
通りありますという
説明を聞きまして、そこまでの
二つの保障があるならば現在の過渡期間は、不満足といえどもこの暫定的な
法律でや
つて行
つてもらおうか、こういう判断をいたした次第であります。十分御期待に沿い得なか
つた点は感じておりますが、普通に言われるほど先例に違反しているものでもございませんし、また罪あれば必ず罰ありという
原則がくずれることもなかろうかと
考えている次第であります。